| 猫サーカスさんの登録情報 | |
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| 平均点:6.17点 | 書評数:437件 |
| No.117 | 7点 | そしてミランダを殺す ピーター・スワンソン |
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(2018/07/13 15:12登録) 先の読めない展開で読ませるサスペンス。妻ミランダの浮気を知って彼女に殺意を抱くテッドと、彼に助力を申し出る謎の美女リリー。2人が計画を進める様子と並行して、リリーの秘められた過去が語られる。殺人を犯す人物の造形と、巧妙な叙述で読者を引っ張っていく。物語のところどころに仕掛けが施され、最後の1ページまで読者を翻弄する。緻密に組み立てられた、殺しと欺瞞の物語。惑わされる快楽を満喫できる。 |
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| No.116 | 6点 | 深海のアトム 服部真澄 |
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(2018/07/13 15:12登録) 深海、洞窟、坑道といった知られざる世界が豊かなイメージとともに鮮烈に描かれている。そこで繰り広げられる冒険活劇は読んでいて興奮せずにはおれないほど、サスペンスにあふれている。さらには海洋資源、原発、放射性廃棄物の処理といった分野の最新のトピックスを絡めたスリリングな物語が、これでもかというほどに展開していく。作者ならではの綿密な取材力とスケールの大きな構成力に支えられている。そこには、ある種の閉塞した現代日本における希望が提示されている |
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| No.115 | 7点 | 酸っぱいブドウ/はりねずみ ザカリーヤー・ターミル |
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(2018/07/02 14:30登録) 内戦によって亡くなった人は40万人超、1100万人以上が国内外で避難生活を送っている状況下にあるシリア。そこで暮らす人々の日常の一端をうかがい知ることができる短編集。59もの話を収めた「酸っぱいブドウ」の主な舞台は架空の街で、住民たちの無情だったり不条理だったり悲惨だったりするエピソードが、時にユーモラスですらある乾いた筆致で綴られていく。登場人物の多くは善人ではなく、幸運をもたらすのは往々にして悪事。でも、それはシリアという国の現実を風刺的に描くための作者の仕掛け。これは、”反語”と読むべき掌編集。併録の中編「はりねずみ」で描かれているのは、男の子の目を通した中流家庭の日々。妖精や木の声が聞こえる耳を持つ少年の語り口がマジカルな好編。 |
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| No.114 | 7点 | 誰でもない ファン・ジョンウン |
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(2018/07/02 14:30登録) 韓国だけにとどまらない、日本人にとっても覚えのある社会的な欺瞞や理不尽、個人的な喪失感や悲しみを、説明や感情を極力抑えた、タイトな文体で描いた8編が収められている。他の”誰でもない”人々の、彼らにとっておざなりにできない思いが、読んでいるわたしの固有性と交差することで、読者それぞれに異なる読後感をもたらす。粗筋紹介では真意や真価が伝えられない。読んでみなければわからない。そんな特別な語り口を持った驚くべき作品集。 |
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| No.113 | 5点 | 死せる獣 殺人捜査課シモンスン ロデ&セーアン・ハマ |
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(2018/06/23 10:45登録) 5人の男たちが体育館でむごたらしく殺害されているシーンで幕を開ける。休暇中だったシモンスン警部補が捜査の指揮をとりはじめるが、まもなく5人が小児性愛者だったことが判明。その証拠となる胸がむかつくような動画がメールで新聞社に送られ、世論は一転して犯人擁護に傾く。シモンスンは世論の圧力と戦いながら、あくまで犯人を捕まえるために奮闘する。刑事たちの地道な捜査ぶりばかりか、彼らの人間関係や個人的な悩みまでがきめ細かく描かれ、さらに新聞社と警察との駆け引きまでが加わって重層的にストーリーが展開していくのが、この作品の魅力でしょう。とりわけ娘との関係に苦慮するシモンスンの姿は、人間くさくて共感を覚えた。重いテーマの扱い方も巧みで、作者の提示した結末にいろいろと考えさせられた。 |
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| No.112 | 7点 | 女たちの審判 紺野仲右ヱ門 |
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(2018/06/23 10:45登録) 拘置所に収監された死刑囚をめぐった刑務官、裁判官、恋人や肉親らが翻弄されていくサスペンス。作者は、法務省矯正局の心理研究職だった夫と元刑務官の妻(紺野信吾、紺野真美子)で、2人が作り上げた世界は驚くほど緊密で、経験者しか知り得ない迫真の手触りがあり、死刑囚を抱え、執行する拘置所の内部をこれほどリアルに描いた小説は稀有でしょう。 |
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| No.111 | 5点 | 女王はかえらない 降田天 |
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(2018/06/12 20:00登録) まずはこの作者について、降田天とは女性二人の作家のユニット名(萩野瑛・鮎川颯)であり、プロット担当の萩野瑛さんが、小説のあらすじとキャラクターを考え、執筆担当の鮎川颯さんが、小説を書くというスタイルだそうです。第13回「このミステリーがすごい」大賞受賞作で、小学4年の教室を舞台にした学園ミステリ。教室の女王と転校生との権力争奪を複数のどんでん返しを通して描いている。読後に細部を確認したくなるほど計算されていて合作の強みを発揮している。 |
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| No.110 | 6点 | 広域指定 安東能明 |
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(2018/06/12 20:00登録) いかに女性を登場させて活躍の場を与えるのかが、男くさい警察小説で重視されるようになってきたが、この作品も要所で引き締めるのが女性たち。意外性に満ちたプロットと柴崎の冷静沈着な行動もいいけれど、印象的なのは、頼りない高野巡査が前作「伴連れ」から一段と成長して信念の聞き込みをして証拠をおさえ、女署長坂元が要所で的確な判断をするところ。事件解決の後、犯人と向かい合い動機を深く探る過程も実に読ませる。 |
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| No.109 | 6点 | 最悪のはじまりは、 塔山郁 |
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(2018/06/01 20:07登録) ギャンブル依存症の男が自ら「最悪」の状況へと堕ちていく姿を追った犯罪小説。沢崎聡は、資格をとって会社に就職することを夢見ながらも、パチンコ店に入り浸る毎日。ある時、店で知り合った中年男、天野からある計画を持ち掛けられる。借金を抱える人妻の情報をもとに、資産家の老婦人の家へ忍び込み、大金を盗むというものだった。だが沢崎のまえには、さらなる転落の罠が待ち構えていた。定職に就けず、恋人にはふられ、精神的に弱っていたからこそ、沢崎はギャンブルに入れ込んでいったのだろう。追い込まれていく主人公の苦悩と混乱は全く他人ごとではない。また本作では意外性のある展開もさることながら、人の弱さにつけこむ「悪」がさまざまな形で描かれている。一種のホラーとも読める現代のサスペンス。 |
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| No.108 | 5点 | 悪徳小説家 ザーシャ・アランゴ |
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(2018/06/01 20:07登録) 重大な秘密を妻と共有するベストセラー作家のヘンリー。ある日、愛人関係にあった編集者に妊娠を告げられ、自らの身を守るために悪に手を染める。だが、帰宅した彼を待っていたのは・・・。ヘンリーは保身のために嘘を組み立て、そこから真実が生まれる。真実と嘘が混じり合い、その境目が溶けあう。ヘンリーの体現する悪が、危険な輝きを見せる。不穏な魅力を備えた物語。 |
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| No.107 | 6点 | 贖い主 顔なき暗殺者 ジョー・ネスボ |
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(2018/05/21 18:49登録) オスロ警察の刑事ハリーの活躍を描くシリーズの第6作。クリスマスシーズンの街頭コンサートで射殺事件が起き、ハリーがクロアチアから来た暗殺者を追う。入念な犯罪計画と、その先にある意外な真相に驚かされる。ハリーを含む3人の人物の行動を描く序盤の叙述も、場面転換の手法が凝っていて印象深い。演出も構成も工夫の凝らされたミステリ。 |
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| No.106 | 7点 | 水底の棘 川瀬七緒 |
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(2018/05/21 18:49登録) 遺体に付着していたウジや微生物を調べ、得られた情報をもとに、多面的な推理を働かせ、徹底的に調査をすることで事件の核心に迫る。この過程が緻密で論理的に描かれており、独特のダイナズムを感じさせる。さらに川べりで菜園にいそしむ老婆や、彫師の老人など、個性の強い人物が次々に登場し、ユーモラスな場面をはさみつつ展開するストーリーは痛快極まりない。 |
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| No.105 | 6点 | アトロシティー 前川裕 |
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(2018/05/11 19:46登録) 凶悪で悪質な事件はいつの時代も起きている。だが、なかには集団で行う振り込め詐欺のように、手口がますます巧妙に変化しているものも少なくない。この作品は、そうした現代的な犯罪を重層的に扱ったスリラー。本作を読んでいると、まるで自分が事件の渦中に飛び込み深刻なトラブルに巻き込まれているかのような、独特の生々しさを感じる。とくに極悪非道な連中の態度や言動の描き方が真に迫っており、こうした凶悪犯罪をためらわず行う者たちの存在感に圧倒されてしまった。ホラー小説のような激しい戦慄を含む、犯罪サスペンス。 |
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| No.104 | 7点 | 瘢痕 トマス・エンゲル |
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(2018/05/11 19:45登録) 事件記者のヘニングは火事で愛する一人息子を失い、離婚し、さらに自分も顔に醜い瘢痕が残った。2年間の休職ののち、復帰したヘニングの初仕事は女子大生が片手を切り落とされ、石打ちによって惨殺された事件だった。持ち前の鋭い勘と情報網を駆使して、ヘニングは真相を探り出そうと奔走する。切れのいい調査ぶりと、過去を克服しようとするヘニングの苦闘ぶりが読みどころでしょう。さらなる闘いを暗示させる不穏な結末に次作の期待が高まった。 |
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| No.103 | 5点 | 絶望の歌を唄え 堂場瞬一 |
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(2018/05/02 23:22登録) この作品は、日本で将来起きるであろうテロ問題を見据えている。東京・神保町で爆弾を積んだトラックが店舗に突っ込む事件が起き、数日後、イスラム過激派組織「聖戦の兵士」によって犯行声明が出される。喫茶店を経営する元刑事の安宅が調査をはじめると、10年前に消息を絶ったジャーナリストが浮上してくる。日本社会に警鐘を鳴らす大掛かりな謀略小説としてではなく、日常生活を脅かすサスペンス小説としてテロ行為を捉えているのが新鮮。しかも男同士の友情と断絶というチャンドラーの古典「ロング・グッドバイ」の設定を借り、なおかつ1970年代のロック音楽(あふれるほど出てくる)の批評小説としての側面も盛り込んで興趣を高めている。 |
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| No.102 | 7点 | 死者は語らずとも フィリップ・カー |
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(2018/05/02 23:22登録) ナチスとその後の時代を生きる探偵を描いたシリーズの第6作。年代的には第1作よりも前、ナチス政権成立から間もない1934年の物語。ベルリンの五輪会場建設にまつわる不正をきっかけに、舞台は海を越えキューバにまで広がる。読み進むにつれて、ナチズムだけでなく新たなテーマが浮上する。野心に満ちた内容を、様式美あふれるハードな語り口で描き出している。 |
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| No.101 | 5点 | 破壊者の翼 似鳥鶏 |
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(2018/04/23 20:03登録) 若い世代を中心にファンを集める作家の刑事シリーズ第五弾。今回の相手は正体不明のドローン使い「鷹の王」。ドローンを使った誘拐事件に始まり、搭載したボウガンで通行人を狙うなど「鷹の王」は手足のように巧みにドローンを操り次々事件を仕掛けてくる。果たして「鷹の王」は何者なのか、真の目的は何か。正体がつかめない中、少しずつ捜査が進むにつれ、犯人の行動も大胆に。ついに東京中が巻き込まれる危機が訪れる・・・。ドジッ娘メガネ美少女警部の海月千波とお守り役の設楽恭介刑事のコミカルなやり取りは健在。シリーズの見せ場である海月警部の名推理、設楽刑事のアクションシーンも。スラスラと読みやすい文章で、読書に慣れぬ中高生にお薦めのサスペンスミステリ。 |
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| No.100 | 5点 | チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦 キリル・ボンフィリオリ |
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(2018/04/23 20:03登録) 画商の主人公とその用心棒が奇妙な騒ぎに首を突っ込むシリーズの第一作。映画化に伴いシリーズがまとめて邦訳されたらしい。脱線と不謹慎なジョークが積み重なって、ついでに死体も積み重なって、どうやって収拾するんだと戸惑っているうちに着地する。決して万人向けではないが、悪ふざけが嫌いでなければ、至福のひと時を味わえると思います。 |
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| No.99 | 6点 | 黒い睡蓮 ミシェル・ビュッシ |
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(2018/04/13 19:36登録) 舞台は、仏ノルマンディー地方のジベルニー村。印象派の画家クロード・モネが死ぬまで過ごし、睡蓮を描き続けた家と庭は、現在でも保存され、観光スポットになっている。この村で眼科医が殺され、警部が部下を連れて捜査にやってくるが、決定的な証拠がみつからないまま、別の殺人がほのめかされ、警部自身も命を狙われる・・・。このへんはミステリのお約束みたいものだけど、謎の中心にモネを据えたところが面白い。そのうえミステリとしても出来が良く、後半に差し掛かって何となく全体像が見えてきたかと思ったら、ルール違反ぎりぎり(ルール違反かな?)の予想外の展開に、びっくりさせられる。そして最後の最後にひとひねりが見事に決まっている。「モネが決して使おうとしなかった色」として「黒」をタイトルに入れ、さらに謎と絡めているところも憎い。 |
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| No.98 | 5点 | 夏の雷音 堂場瞬一 |
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(2018/04/13 19:36登録) 楽器店から消えた1憶2千万円のエレキギターを、大学法学部の准教授が追求する物語。作者は、警察小説の名手であるが、本作はライトミステリで、ビンテージ業界やオークションの世界の内情などがあらわになる。でも、この小説の魅力は、神保町のミステリである点。東京・神保町を探索し、食べ歩きの楽しさを満喫させてくれる。軽妙であるがツボを心得ている。 |
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