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ミステリの祭典

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猫サーカスさんの登録情報
平均点:6.18点 書評数:429件

プロフィール| 書評

No.109 6点 最悪のはじまりは、
塔山郁
(2018/06/01 20:07登録)
ギャンブル依存症の男が自ら「最悪」の状況へと堕ちていく姿を追った犯罪小説。沢崎聡は、資格をとって会社に就職することを夢見ながらも、パチンコ店に入り浸る毎日。ある時、店で知り合った中年男、天野からある計画を持ち掛けられる。借金を抱える人妻の情報をもとに、資産家の老婦人の家へ忍び込み、大金を盗むというものだった。だが沢崎のまえには、さらなる転落の罠が待ち構えていた。定職に就けず、恋人にはふられ、精神的に弱っていたからこそ、沢崎はギャンブルに入れ込んでいったのだろう。追い込まれていく主人公の苦悩と混乱は全く他人ごとではない。また本作では意外性のある展開もさることながら、人の弱さにつけこむ「悪」がさまざまな形で描かれている。一種のホラーとも読める現代のサスペンス。


No.108 5点 悪徳小説家
ザーシャ・アランゴ
(2018/06/01 20:07登録)
重大な秘密を妻と共有するベストセラー作家のヘンリー。ある日、愛人関係にあった編集者に妊娠を告げられ、自らの身を守るために悪に手を染める。だが、帰宅した彼を待っていたのは・・・。ヘンリーは保身のために嘘を組み立て、そこから真実が生まれる。真実と嘘が混じり合い、その境目が溶けあう。ヘンリーの体現する悪が、危険な輝きを見せる。不穏な魅力を備えた物語。


No.107 6点 贖い主 顔なき暗殺者
ジョー・ネスボ
(2018/05/21 18:49登録)
オスロ警察の刑事ハリーの活躍を描くシリーズの第6作。クリスマスシーズンの街頭コンサートで射殺事件が起き、ハリーがクロアチアから来た暗殺者を追う。入念な犯罪計画と、その先にある意外な真相に驚かされる。ハリーを含む3人の人物の行動を描く序盤の叙述も、場面転換の手法が凝っていて印象深い。演出も構成も工夫の凝らされたミステリ。


No.106 7点 水底の棘
川瀬七緒
(2018/05/21 18:49登録)
遺体に付着していたウジや微生物を調べ、得られた情報をもとに、多面的な推理を働かせ、徹底的に調査をすることで事件の核心に迫る。この過程が緻密で論理的に描かれており、独特のダイナズムを感じさせる。さらに川べりで菜園にいそしむ老婆や、彫師の老人など、個性の強い人物が次々に登場し、ユーモラスな場面をはさみつつ展開するストーリーは痛快極まりない。


No.105 6点 アトロシティー
前川裕
(2018/05/11 19:46登録)
凶悪で悪質な事件はいつの時代も起きている。だが、なかには集団で行う振り込め詐欺のように、手口がますます巧妙に変化しているものも少なくない。この作品は、そうした現代的な犯罪を重層的に扱ったスリラー。本作を読んでいると、まるで自分が事件の渦中に飛び込み深刻なトラブルに巻き込まれているかのような、独特の生々しさを感じる。とくに極悪非道な連中の態度や言動の描き方が真に迫っており、こうした凶悪犯罪をためらわず行う者たちの存在感に圧倒されてしまった。ホラー小説のような激しい戦慄を含む、犯罪サスペンス。


No.104 7点 瘢痕
トマス・エンゲル
(2018/05/11 19:45登録)
事件記者のヘニングは火事で愛する一人息子を失い、離婚し、さらに自分も顔に醜い瘢痕が残った。2年間の休職ののち、復帰したヘニングの初仕事は女子大生が片手を切り落とされ、石打ちによって惨殺された事件だった。持ち前の鋭い勘と情報網を駆使して、ヘニングは真相を探り出そうと奔走する。切れのいい調査ぶりと、過去を克服しようとするヘニングの苦闘ぶりが読みどころでしょう。さらなる闘いを暗示させる不穏な結末に次作の期待が高まった。


No.103 5点 絶望の歌を唄え
堂場瞬一
(2018/05/02 23:22登録)
この作品は、日本で将来起きるであろうテロ問題を見据えている。東京・神保町で爆弾を積んだトラックが店舗に突っ込む事件が起き、数日後、イスラム過激派組織「聖戦の兵士」によって犯行声明が出される。喫茶店を経営する元刑事の安宅が調査をはじめると、10年前に消息を絶ったジャーナリストが浮上してくる。日本社会に警鐘を鳴らす大掛かりな謀略小説としてではなく、日常生活を脅かすサスペンス小説としてテロ行為を捉えているのが新鮮。しかも男同士の友情と断絶というチャンドラーの古典「ロング・グッドバイ」の設定を借り、なおかつ1970年代のロック音楽(あふれるほど出てくる)の批評小説としての側面も盛り込んで興趣を高めている。


No.102 7点 死者は語らずとも
フィリップ・カー
(2018/05/02 23:22登録)
ナチスとその後の時代を生きる探偵を描いたシリーズの第6作。年代的には第1作よりも前、ナチス政権成立から間もない1934年の物語。ベルリンの五輪会場建設にまつわる不正をきっかけに、舞台は海を越えキューバにまで広がる。読み進むにつれて、ナチズムだけでなく新たなテーマが浮上する。野心に満ちた内容を、様式美あふれるハードな語り口で描き出している。


No.101 5点 破壊者の翼
似鳥鶏
(2018/04/23 20:03登録)
若い世代を中心にファンを集める作家の刑事シリーズ第五弾。今回の相手は正体不明のドローン使い「鷹の王」。ドローンを使った誘拐事件に始まり、搭載したボウガンで通行人を狙うなど「鷹の王」は手足のように巧みにドローンを操り次々事件を仕掛けてくる。果たして「鷹の王」は何者なのか、真の目的は何か。正体がつかめない中、少しずつ捜査が進むにつれ、犯人の行動も大胆に。ついに東京中が巻き込まれる危機が訪れる・・・。ドジッ娘メガネ美少女警部の海月千波とお守り役の設楽恭介刑事のコミカルなやり取りは健在。シリーズの見せ場である海月警部の名推理、設楽刑事のアクションシーンも。スラスラと読みやすい文章で、読書に慣れぬ中高生にお薦めのサスペンスミステリ。


No.100 5点 チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦
キリル・ボンフィリオリ
(2018/04/23 20:03登録)
画商の主人公とその用心棒が奇妙な騒ぎに首を突っ込むシリーズの第一作。映画化に伴いシリーズがまとめて邦訳されたらしい。脱線と不謹慎なジョークが積み重なって、ついでに死体も積み重なって、どうやって収拾するんだと戸惑っているうちに着地する。決して万人向けではないが、悪ふざけが嫌いでなければ、至福のひと時を味わえると思います。


No.99 6点 黒い睡蓮
ミシェル・ビュッシ
(2018/04/13 19:36登録)
舞台は、仏ノルマンディー地方のジベルニー村。印象派の画家クロード・モネが死ぬまで過ごし、睡蓮を描き続けた家と庭は、現在でも保存され、観光スポットになっている。この村で眼科医が殺され、警部が部下を連れて捜査にやってくるが、決定的な証拠がみつからないまま、別の殺人がほのめかされ、警部自身も命を狙われる・・・。このへんはミステリのお約束みたいものだけど、謎の中心にモネを据えたところが面白い。そのうえミステリとしても出来が良く、後半に差し掛かって何となく全体像が見えてきたかと思ったら、ルール違反ぎりぎり(ルール違反かな?)の予想外の展開に、びっくりさせられる。そして最後の最後にひとひねりが見事に決まっている。「モネが決して使おうとしなかった色」として「黒」をタイトルに入れ、さらに謎と絡めているところも憎い。


No.98 5点 夏の雷音
堂場瞬一
(2018/04/13 19:36登録)
楽器店から消えた1憶2千万円のエレキギターを、大学法学部の准教授が追求する物語。作者は、警察小説の名手であるが、本作はライトミステリで、ビンテージ業界やオークションの世界の内情などがあらわになる。でも、この小説の魅力は、神保町のミステリである点。東京・神保町を探索し、食べ歩きの楽しさを満喫させてくれる。軽妙であるがツボを心得ている。


No.97 6点 氷の秒針
大門剛明
(2018/04/05 19:15登録)
2010年4月27日、殺人事件など凶悪犯罪の公訴時効を廃止、延長する法律が成立し、即日施工された。この作品は、この時効廃止にまつわる事件を扱っている。時計修理技能士として働く原村俊介は、15年前の5月に起きた殺人事件で妻を失っていた。いまだ事件は解決していないが、時効寸前の2010年4月に法が成立、この先も犯人を追えることとなった。その一方、近くの松本市で起きた「社長一家惨殺事件」の犯人が、同年2月の時効を過ぎてから自首したものの、後日何者かに殺される。警察は、社長一家でただ一人生き残った長女の薫に疑いの目を向けた。時効廃止の法成立をめぐり、わずか3カ月の違いで明暗をわけることになった二つの事件。それぞれの遺族である俊介と薫の人生が交錯していく。時効をテーマにした単なる犯罪ものに終わっていない。時計とその修理にまつわる幾つものエピソードを効果的に扱っており、家族をめぐるドラマとしても見事に描けている。


No.96 5点 美しい家
新野剛志
(2018/04/05 19:15登録)
いくつもの人捜しの物語が重なり、その背景にあった意外な事実が、次第に明らかになる。ある種の探偵小説のように、尋ね歩きまわることで、隠されていた過去が現実とつながっていく。こうした構成が見事。また「家族」を持たない者たちをめぐる本作は、現代の歪んだ一面を映し出している一方で、どこかやりきれない悲しさを覚えずにおれない。望んでいた幸福を得られず、どこまでもさまよう者たちの孤独な姿が浮かび上がってくる。


No.95 7点 ミレニアム5 復讐の炎を吐く女
ダヴィド・ラーゲルクランツ
(2018/03/27 18:52登録)
ミレニアムシリーズ第5作。もともとの作者スティーグ・ラーソンの急死を経て、シリーズを引き継いだ新しい作者の2作目。前作で人命を救ったリスベット。だが、その行動が法に触れたため、2カ月の懲役刑を受けることに。収容された女子刑務所では、ある囚人が看守をも恫喝して支配下に置いていた。リスベットは彼女と対決する・・・。一冊ごとに趣向を変えてみせる本シリーズだが、今回は監獄もののサスペンスとして幕を開ける。囚人という制約の中で展開する物語には、やがてリスベット自身の過去に関わる謎、さらなる殺人事件が絡み合う。複雑にしてスピーディーな展開は健在。シリーズを通じて培われた主人公の魅力を、生かしきった一作。


No.94 5点 限界捜査
安東能明
(2018/03/27 18:52登録)
小1少女が行方不明となる場面で幕を開ける。そして失踪は誘拐事件へと転じたばかりか、恐ろしい悲劇へと向かっていく。警察捜査を本格的に描いた本作。一冊の本の中に、多くのテーマを含んでいる。その最大のものは<わが子に対する親の行いと巨大団地が生み出した犯罪>という側面。人が抱くさまざまな欲望の歪んだ形がそこにある。やりきれない悲惨な事件の裏表を描いた警察小説。


No.93 6点 確信犯
大門剛明
(2018/03/19 19:19登録)
司法界の格差問題をテーマに、ミステリアスな事件を見事に描きあげている。広島で起きた、ある殺人事件に対し、無罪判決が下された。ところが14年後にその元被告が「犯人は自分だ」と告白し、その直後、事件を担当していた裁判長が殺されてしまった。はたして被害者の息子による「確信犯」的凶行なのか。裁判に関わった二人の判事や容疑者の恋人など、多視点で展開していく本作は、単なる犯人捜しで終わらず、人間ドラマの妙でぐいぐいと読ませていく。それぞれの複雑な思いが交錯したまま、新たな事件が巻き起こっていくからだ。そのほか、法廷内だけではなく、広島の野球スタジアムが舞台だったり、司法改革の問題に切り込んでいたりするなど、物語に広がりや深みが感じられる。最後に待ち受けているのは驚愕の真実で、巧みな仕掛けに驚かされた。


No.92 6点 アルファベット・ハウス
ユッシ・エーズラ・オールスン
(2018/03/19 19:19登録)
第二次世界大戦の英軍機パイロットがたどる数奇な運命の物語。ドイツ上空で撃墜された二人は親衛隊将校になりすますが、搬送された先は虐待が横行する精神病院。一人はどうにか脱走し、28年後再び現地を訪れる。陰惨な場面も多い過酷な物語だが、常に精神的な緊張に満ちた、息苦しくも興奮に満ちた小説に仕上がっている。


No.91 6点 怪笑小説
東野圭吾
(2018/03/13 20:54登録)
ブラックな味わいの物語を集めた短編集。どの作品も構成が秀逸で、グイグイ入り込んでいくと、シュールで見事なオチが用意されている。例えば、混雑する電車の乗客たちの心の声が延々とつづられる「うっせき電車」。赤裸々で容赦ない本音の数々にうなずいたり、苦笑したり、面白おかしく読み進めると、最後の数行で唖然とさせられ、苦い後味の中に読者を引きずり込む。小気味良い演出で、しかも不思議と温かい気持ちになれる作品集。


No.90 5点 ブラックボックス
フランシスコ・ナルラ
(2018/03/13 20:53登録)
作りは荒っぽいけれど、驚くべき大風呂敷を広げてみせる。フライト先で衝撃的に殺人を続ける旅客機パイロットの物語、そしてスペインの礼拝堂の秘密を探る超常現象研究家の物語。この二つを並行して描きながら、さらにパリや中米での猟奇的な事件を絡めて、最後に巨大な図式を浮き上がらせている。

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