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ミステリの祭典

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小原庄助さんの登録情報
平均点:6.64点 書評数:267件

プロフィール| 書評

No.27 5点 スパイ学校の新任教官
スーザン・イーリア・マクニール
(2017/08/25 10:24登録)
第二次世界大戦を背景に、英国のスパイになったヒロインが活躍するシリーズの第4作。
日本の真珠湾攻撃をめぐる各国の駆け引き、そしてヒロインが遭遇する、英国内のある極秘計画が主題となる。
責任ある地位に就いた者が強いられる過酷な決断。
ヒロインの冒険という単一のストーリーでは描きえなかったものを、より複合的な視点から描いた作品。
地味ではあるが、極秘計画を探るヒロインの活躍をはじめ、読ませる場面は多い。
今回の変化球を経て、シリーズはどのように続くのか、今後も楽しみ。


No.26 6点 フェイスレス
黒井卓司
(2017/08/22 10:32登録)
パラレルワールドと殺人アリの物語。
世界はある時から枝分かれしたけれど、それを知るのは米国の権力者たち。
ネバダ核実験場の「チューブ」を通じて米国ともうひとつの米国が秘密裏に交流しているうちに、アルゼンチンアリが別の世界で交配し、恐るべき殺人アリとなって誕生する。
その設定に日本人男女3人の愛憎を絡めてドラマを深めていく。
パラレルワールドがある一点でつながっているのがミソで、当然もうひとつの現実がつきつけられて、人は夢の実現への思いと欲望にさいなまれ、知らず知らずのうちに悪意が形成されていく。
予断を許さない展開と、皮肉で残酷な、それでも愛を信じようとする者たちの姿が印象深い。


No.25 8点 凍氷
ジェイムズ・トンプソン
(2017/08/19 10:28登録)
フィンランドを舞台にした警察ミステリのシリーズ2作目。
富豪の妻の惨殺死体が愛人の部屋で発見され、遺体には激しい拷問の痕跡があった。
捜査を始めたカリ・ヴァーラ警部は、戦時中のフィンランドで起きたユダヤ人虐殺に関する調査も並行して担当することに。
しかし、どちらの事件にも政府の上層部から圧力がかかり、警察組織と真実のあいだで板ばさみになり、カリは苦しい立場に陥る。
「俺」というストイックで重苦しい語り口が、読む者の心に哀切に迫ってくる。
しぶとく謎に食いついていくカリの仕事ぶりにも引き込まれるし、事件の決着のつけ方もうまい。
個人的な深い悩みを抱えたカリの姿も丹念に描かれ、物語に奥行きを与えている。
おまけに米国とフィンランドの比較文化論のような記述もあって興味深い。
そして結末も衝撃的だ。


No.24 6点 ペテロの葬列
宮部みゆき
(2017/08/16 10:30登録)
生きている限り、絶え間なく選択をしなくてはならない。
間違うことは誰にでもある。深い悔恨を長く引きずることもある。
作者はこの作品で「間違いに気づいた人は、その後どう生きるか」を描いている。
平凡な暮らし、ささやかな幸せを望んでいた善良な人物を「悪」がむしばんでいく。
作者は淡々と、しかし正確に悪の正体をつづり、それが周囲にありふれていることに気づかせてくれる。
そして正しく歩むのが困難で、なんとも恐ろしい世の中に生きていることを見事に描いている。


No.23 6点 裏切りの晩餐
オレン・スタインハウアー
(2017/08/13 09:57登録)
テロ事件の真相をめぐる駆け引きを描いたスパイ小説で物語の大部分は、あるレストランのテーブルで展開する。
CIAを去ったシーリアは元恋人のヘンリーと再会し、レストランで食事を共にする。
席上の話題は、かつて2人が関わったハイジャック事件へ。
CIAから犯人に情報が洩れ、大惨事へとつながった真相をめぐり、2人の会話は息詰まる駆け引きを見せる。
2人の視点での語りが交互に現れ、それぞれが抱く複雑な思いが、そしてたくらみが徐々に浮かび上がる。
ディナーの席で繰り広げられる心理戦。
イスラム過激派のテロを背景に、諜報の世界に生きる人々の張り詰めた心情が描かれており、意外な結末に驚かされる。


No.22 6点 亡者のゲーム
ダニエル・シルヴァ
(2017/08/10 10:26登録)
名画の盗難を入り口に、政治と社会の裏面を見せてくれるスパイ小説。
密売の陰で動く大金と、それに群がる権力者の欲望。
盗まれた名画の行方を追うミステリは、やがて国家権力者の資産をめぐる謀略のゲームへと姿を変える。
名画をめぐるたくらみが国際的謀略へと転じ、頭脳を駆使した騙しあいが連続する。
ゲームの果てに1枚の名画へと収束する物語は、知性を刺激するだけでなく、心にも深い余韻を残す。


No.21 7点 暗手
馳星周
(2017/08/07 10:21登録)
サッカー賭博の裏側を描いたノワール小説。
イタリアのセリエAで活躍する日本人ゴールキーパーを女性絡みで抱き込み、八百長試合をさせようとする男たちが暗闘を繰り広げる犯罪劇。
主人公はヨーロッパの黒社会で暗手とよばれている男で、ギャングの抗争に巻き込まれ、嘘に嘘を重ねて、次々と殺人を犯す事になるのだが、作者は何と、絶望と狂気と孤独を高らかにうたいあげている。
言葉を何度も繰り返し、リズムを刻み、脚韻をふみ、詩の高みへともっていく。
読者は熱い感情に身を焦がし、サスペンスに息をのみ、血まみれの物語のドライブ感に打ち震えることになるでしょう。
本書は「不夜城」「鎮魂歌」に続く第3作「夜光虫」の続編であるが、単独でも十分に楽しめる。
高揚感に富む文体はとてつもなく魅力的。


No.20 6点 誰かが見ている
宮西真冬
(2017/08/04 10:17登録)
一作家一ジャンルというほど個性的なミステリ作品を世に送り出しているのが、メフィスト賞である。
昨年受賞作はなかったが、今年はこの作品が受賞。
受賞者OBの辻村深月に惹かれて応募したというが、なるほど女性たちの思いをしかと見据えていて、読み応えがある。
毒に満ちた本音がささやかれ、ママ友から排除され、家庭でも夫と子供にいとわれる女たちの衝突は、人間の嫌な部分を掘り下げるイヤミス的展開をたどり、実に息苦しい。
だが、中盤に意外な真実を明らかにして驚きを与え、緊張感を高め、最後は感動的な夫婦・親子小説に着地するから目頭が熱くなる。
人物像もプロットもテーマも良く、辻村深月なみの書き手になるかも。


No.19 7点 コードネーム・ヴェリティ
エリザベス・ウェイン
(2017/07/31 10:14登録)
敵地に潜入した工作員の物語-ただし、典型的なスパイ小説や冒険小説とはだいぶ趣向の異なる作品。
時は第二次世界大戦中で、フランスに潜入した英国工作員の女性が捕らえられ、親衛隊将校は、彼女に英国の情報を書くことを強要する。
その手記には、ある思惑が隠されていた・・・。
本書は2部構成で、第1部は捕らえられたスパイの手記、第2部はまた異なる視点からの物語がつづられる。
叙述に仕掛けを凝らした超絶技巧のサプライズとは若干毛色が異なるけれど、ああ、そういうことだったのか-とすべてがつながっていく過程に、ミステリとしての快楽を堪能できる。
物語の根幹に関わるため詳述できないのが残念だが、驚きを感動に変えてみせる物語の構築も実に巧妙。


No.18 6点 インフェルノ
ダン・ブラウン
(2017/07/28 10:32登録)
宗教象徴学の教授ラングドンが事件に巻き込まれながら歴史上のミステリや不可解な暗号に挑むシリーズ。
見知らぬ病室で目を覚ましたラングドンは、なぜ頭部に傷を負ったのか思い出せない。そこへ拳銃を持った女による突然の襲撃があり、一緒にいた女性医師とともに脱出。
やがて、次々と教授らに襲いかかる事件を解く鍵が、中世期末からルネサンス期のイタリアの詩人ダンテの代表作「神曲」の「地獄篇(インフェルノ)」にあることが判明する。
後半では、地球規模で増大する人口問題も重要なテーマに。
良く練られた物語だと感じさせられる一方で、ダンテの神曲と現代の謎との絡み方に多少の弱さを感じたのも事実。


No.17 6点 ユートピア
湊かなえ
(2017/07/23 11:01登録)
海辺の町で出会い、ボランティア基金「クララの翼」を設立した3人の女性の葛藤に過去の殺人事件を絡めている。
変な言い方になるが、悪意が潤滑油となって抑圧していた欲望が解き放たれてドラマが加速し、対立が激化していく。
心理小説的な側面が強く、女性たちの居場所探し、理想郷を求める感情のねじれ具合を丁寧に捉えている。
菜々子と光稀の娘たちの絆の強さが、秘められた事件の真相を露にする終盤の展開がなかなか面白い。


No.16 7点 ヴェサリウスの秘密
ジョルディ・ヨブレギャット
(2017/07/20 09:56登録)
引き算でシンプルにまとめた小説もあれば、足し算で豪華に仕上げた小説もある。
この作品は足し算の力で圧倒している。
19世紀末、万国博覧会開催を控えたバルセロナが舞台。
主人公はダニエル記者と医学生の3人。
それぞれに苦難と秘密を抱えて、それぞれの物語が重なり合って大きなうねりを生み出している。
16世紀の医師の著書に隠された驚くべき秘密、バルセロナの地下空間での冒険など、物語を彩る要素も豊富。
分厚いけれども一気に読ませる波乱と驚きに満ちた作品。


No.15 6点 地下道の鳩
ジョン・ル・カレ
(2017/07/16 08:47登録)
スパイ小説の巨匠による回顧録。
世界各地での取材時のエピソード。映画監督、俳優、政治家といった人々との出会い。英国諜報機関に在籍中の思い出。小説の登場人物のモデルになった人々。創作についての考え。それぞれ独立した38章に、さまざまな秘密が記されている。
ル・カレの小説には、記憶に残る小さなエピソードがいくつも散りばめられているが、それは本書も同じ。
時には短編小説のような味わいもあり、ファンにはもちろん、重厚なイメージゆえにル・カレを敬遠していた方にもおすすめしたい。


No.14 6点 三銃士の息子
カミ
(2017/07/13 09:58登録)
抱腹絶倒のフランス作品。
主人公が「三銃士」のダルタニャン・アトス・ポルトスの全員を父とする(この設定も荒唐無稽だが)三銃士の息子。
この主人公が、美しい娘のために悪い公爵への報復を果たそうとスペインに行く道中が描かれる。
ユーモアたっぷりの描写とダジャレの連発とはいえ、この三銃士の息子はなかなか機知に富み、事件を鮮やかな手さばきで解決するばかりか、最後にはほろりともさせてくれる。 
作者自身のイラストも楽しいし、原文にないダジャレを創作してしまった翻訳も素晴らしい。
憂鬱を吹き飛ばすのにうってつけの作品。


No.13 8点 IT
スティーヴン・キング
(2017/07/10 09:40登録)
デリーという架空の街を舞台にしたこの物語は、1958年と1985年の二つの時間を自在に行き来する。
登場するのは七人の少年と少女。
彼らの子供時代と成人後のストーリーを交錯させながら、デリーという街のある「災厄」が描かれていく。
ピエロ、吸血鬼、ゾンビ、宇宙人、そして巨大な蜘蛛。
ありとあらゆる恐怖のシンボルと同時に描かれるのは、この世界にある現実の恐怖。
子供たちのモンスターとの闘いは、社会的暴力との闘いでもある。
そういう意味でもこの作品は、極めて優れた「社会学小説」と言える。


No.12 7点 バン、バン!はい死んだ
ミュリエル・スパーク
(2017/07/07 09:10登録)
異彩を放つ粒よりの短編集。
「双子」では美しい双子を持つ夫婦と独身女性の交流がつづられ、人間の負の側面がじっくり味わえる。
どのエピソードも日常にありそうなことなのでいっそう怖い。
乾いた語り口が滴るような悪意を際立たせている。
「ポートベロー・ロード」「遺言執行者」はユーモアを漂わせながらも、あざけるような筆致に毒がたっぷり。
どの作品も後味は悪いが、妙に心に食い込んでくる。
そこが作者の魅力と言える。


No.11 5点 デビル・イン・ヘブン
河合莞爾
(2017/07/04 10:10登録)
近未来の東京を舞台とした警察サスペンス。
日本ではいま実際にカジノ法案を成立させようという動きが活発になっているが、本作はそんな現実を生々しく物語に取り込みつつ、未来の東京の姿を大胆なフィクションに仕立てている。
青い目をした伝説のギャンブラー、「黒い天使」のカード、巨大なタワー、「死神」の登場など、けれん味たっぷりの設定を前面に押し出している。
しかし同時に事件の背後にあるたくらみを知ると、どこか虚構とは思えない恐ろしさが感じられる。


No.10 7点 三秒間の死角
アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム
(2017/07/01 10:37登録)
警察の潜入捜査官パウラは麻薬シンジケートをつぶすため、囚人を装い刑務所で活動することになる。
危険な潜入捜査の緊迫感が、作品全体にピーンと張りつめており、舞台が刑務所に移るとさらに強まり、ページをめくる手が止まらなくなる。
非情で利己的な政府首脳と比して、孤独なパウラの計画がいっそう鮮やかに感じられ、喝采を送りたくなる。
見事に構成された冒険小説。


No.9 6点 暗殺者の鎮魂
マーク・グリーニー
(2017/06/28 09:58登録)
逃亡中のグレイマンは偶然、昔の恩人の死を知り、墓参りに向かう。
だが、そこで恩人の子供を宿す夫人を含む家族を救うため、麻薬カルテルと戦うことに。
今回のグレイマンは組織のためではなく、個人的な恩義のために奮闘する。
前2作よりグレイマンの人間的な面が強調されているが、超人ぶりは相変わらず。
絶体絶命の状況を卓越した能力で次々と切り抜けていく姿は痛快そのもの。
その策略が荒唐無稽ではなく論理的なのも、このシリーズの魅力でしょう。


No.8 7点 彼らは廃馬を撃つ
ホレス・マッコイ
(2017/06/25 10:18登録)
不況のさなかの1930年代、夢を求めてハリウッドにやってきた男女が、過酷なマラソン・ダンスに挑む。
狙うは賞金と、映画関係者の目にとまること。
競技では何組もの男女が踊り続け、競技中に起こるさまざまな事件が、そして男女の心情が描かれる、
狂騒の中で、スポットライトを浴びることなく消える男女を描いた小説。
殺す者と殺される者でありながら、2人の間に憎悪はない。
題名と呼応する最後のセリフが、居場所を見つけられなかった者の悲しみと絶望を浮かび上がらせる。
夢を見ることと、その冷酷な結末が長く胸に残る。

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