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ミステリの祭典

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無罪 INNOCENT
キンドル郡サーガ

作家 スコット・トゥロー
出版日2012年09月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 7点 小原庄助
(2017/08/28 10:31登録)
1987年のベストセラー「推定無罪」の続編。
法廷で追訴する検察官は「推定無罪」で彼を起訴し、裁判に敗れ、証拠の扱いが不適切だったとして処分されたモルトだった。
今度こそ敵を仕留めようと、前作に劣らぬ迫力満点の法廷ドラマを繰り広げる。
法廷シーンに劣らず読ませるのは、数人の視点から語られる人生模様。
信義を貫くためにはどうしたらいいのか、愛する者をいかにして守るか、己の弱さをいかに克服するか。全員があがき、悩み、傷つくさまが赤裸々に描かれていく。
ラストで明かされるサビッチの決断と生き方が心にしみた。

No.2 7点 Tetchy
(2015/06/06 01:00登録)
トゥローの作品は一貫して架空の都市キンドル郡を舞台にリーガル・サスペンス作品を紡いできた。従ってシリーズの登場人物たちはそれぞれの作品に顔を出し、関連性があった。しかし本書のように再び同じ主人公が危難に陥る作品は初めてだ。本書はトゥローのデビュー作『推定無罪』の正真正銘の続編である。

首席判事まで上り詰め、最高裁の判事候補になろうとする男がなぜこうも女性問題で身を滅ぼそうとするのか。しかも21年前と違い、彼は60歳。21年前の39歳ならば、まああり得る話だが、もはや還暦の域に達した男が陥るスキャンダルではないだろう。サビッチはとことん女性にだらしないダメ男ぶりを今回も発揮する。

男の女の恋情の機微。親と子が同じ一人の女性を愛する。偶然が招いたとはいえ、それがまた男と女の色恋沙汰の滑稽なところだ。ロー・スクールを卒業して法律に携わる高潔な職業に就く者たちでも、こと恋愛に限ってはただの男と女に過ぎない。いや寧ろ人を裁くという重圧とそれに掛かる膨大な資料と証言を相手に裁判に向けて下調べをしなければならない過酷な職業による我々の想像以上のストレスによってそれを発散するために愚かだと思いながらも愛欲に溺れ、浮世の辛さを忘れたがっているのかもしれない。本書の面白さはミステリの妙味よりもそんなどうしようもない衝動に駆られる高等階級の人間たちのおかしさにあるのだろう。

人はそれぞれ秘密を持つ。それは家族であっても同じだ。そして事件が起き、裁判という場が開かれ、四方八方から捜査のメスが入っても決して知られてはならない秘密は暴かれることはない。なぜならもはや裁判が真相を証明して正義を見せる場ではなく、一番納得のいくストーリーを仕上げて正義と見せる場となっているからだ。だから物事は常に歪められて解釈される。ラスティ・サビッチ、バーバラ・サビッチ、ナット・サビッチ、アンナ・ヴォスティック、トミー・モルト、ジム・ブランド、サンディ・スターン。彼ら彼女らが知ったことは決して真実ではない。ただ彼らが演じた裁判ではラスティ・サビッチが無罪であったことだけだ。彼ら彼女らは何を知り、また何を知らずに生きていくのか。そしてそれらは今後知る機会があるのか。恐らくそれぞれが墓場で持っていかねばならないことだろう。だがそれでも我々はいくつになっても愚かなことをしてしまう。そしてそれこそが人生なのだ。

No.1 7点 kanamori
(2012/10/24 18:03登録)
リーガルサスペンスの名作「推定無罪」のまさかの続編。前作の真相には触れずに物語が展開されていますが、ラスティ・サビッチ再登場ということ自体がある意味ネタバレかも。
被告人サビッチ、弁護人サンディ・スターン、検察側トミー・モルトという配役や、事件の背景にサビッチの愛人関係がある点など、前作の相似形のようなプロットながら、前回の悲劇から20年以上経っているので、各人環境の変化があり単純なリターン・マッチになっていません。また、サビッチの視点だけでなく関係者の多視点で語られることもあって、前作の様な鬱々とした重苦しい雰囲気が軽減されているように感じました。
本書も、屈折した人間ドラマと、予測不可能などんでん返しというミステリ趣向とが巧く融合した読み応え十分な作品だと思います。

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