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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.67点 書評数:190件

プロフィール| 書評

No.90 7点 虚栄の肖像
北森鴻
(2022/04/13 13:32登録)
「深淵のガランス」に続く、天才的な絵画修復師五月恭壱(さつききょういち)を主人公とする第二作。
主人公のキャラも、絵画修復や絵画取引、贋作問題といったほの暗い世界観も大変に魅力的。

中編三篇の構成だが、それぞれにプロットの工夫があって変化はついている。
それでも同工異曲に見えてしまうのは、登場人物が重なるためだろう。主人公とその相棒はいいが、周辺人物や仕事の依頼人まで同じでは世界が拡がらない。
謎の中国人富豪や大物政治家などはごくたまに登場させてこそ効果的だったと思うが・・・

作者が若くして亡くなったのは残念。ダークで独特の輝きを放つ世界をもっと見せてほしかったなあ。


No.89 5点 おまえさん
宮部みゆき
(2022/04/12 09:58登録)
作家の個性は失敗作にもよくあらわれる。宮部みゆきは筆がよく走る。湧いて出るような表現は心に刺さる名文にもなるが、時にはあふれかえって過剰になる。この作品ではすべてが過剰である。

過剰その1.   
長い!ひたすら長い!シリーズ第一作「ぼんくら」が上下合わせて600ページ余り。一方この「おまえさん」はなんと上下合わせて1200ページ。しかも前作のような連作短編+長編ではなく、まんま長編。
とくに、弓之介によるエルキュール・ポワロばりの謎解きシーンや終盤の捕り物場面が冗長で興をそぐ。ここはキリっと引き締まった緊迫感が欲しいのに。
過剰その2.  
作者は男の顔の美醜にフェティッシュな興味でもあるのだろうか。言及があまりにも過剰で辟易する。弓之介の美しさに関しては「ひいきの引き倒し」レベル。一方、若手の同心間島信之輔の醜さについてはイジりすぎ。生真面目なキャラはさわやかなのだから無骨な青年くらいでいいではないか。
過剰その3.  
キャラが増えすぎた。間島信之輔と傷の太刀筋を見抜いた本宮源右衛門はいいとしても、弓之介の兄淳三郎は中途半端。キャラは魅力的だが行動は大店の三男坊としては不自然。

さて、ストーリーだが、一見関連のない三人が同じ太刀筋で殺される。調べてみるとそのうち二人には過去に関連が・・・
ミステリーとしてはなかなか魅力的なプロットだが途中であまりにも都合のいい告白が飛び出して・・・ 

とはいうものの人情噺としては十分に楽しめる。なんといってもキャラは立っているし筆は滑らかだ。

スピンオフでいいから、代替わりした美形同心井筒弓之介の活躍を書いてくれないかな。くれぐれも短編で。



No.88 8点 深淵のガランス
北森鴻
(2022/04/09 11:14登録)
表題作のみの評価

天才的な絵画修復師を主人公にしたサスペンス3編。美術や絵画修復の蘊蓄がたっぷりで独特の世界観が楽しい。(興味があれば)
画商たちによる怪しげな絵画取引や贋作問題などは松本清張の作品を思い起こさせる。
主人公のキャラや物言いはハードボイルド風でいささか非日常的だが、濃い設定のためか不自然にはならない。
お気に入りは表題作「深淵のガランス」、辛口のエンディングが効いた上質のサスペンス。サスペンスに村山槐多が出てくるなんて世の中も変わったものだ。「血色夢」はハードボイルド風味、「凍月」は薄味だが読後感すっきり。

それにしてもこれだけの知識、作者もお勉強大変だろうなあ


No.87 8点 けものみち
松本清張
(2022/04/07 15:00登録)
数十年ぶりに再読した。
重厚なクライムノベルで謎解き要素はあまりない。
善人は一人もいないから何が起きても安心して楽しめる。

「社会派」の代表作だが、知られる通りこの「社会派」という区分は清張人気の高まりに伴ってあとから作られたもの。だから清張自身はそんなことは意識せず、単に人間社会の生々しい実態をモチーフにしてリアリティを出そうとしたのだろう。一方、清張以降の作家は既存の「社会派」なるレッテルを否応なく意識しながら書くことになる。そのため時にはプロパガンダのような異形の社会派ミステリーが出てきたりする。私はカードローンをモチーフにした有名ミステリーの巻末に、多重債務者救済窓口が案内されているような実態に非常に違和感を覚える。

海外作品には存在しない「本格」「社会派」などという区分けはそろそろやめたほうが日本のミステリー界のためにもいいと思うのだが。

起伏に富んだストーリーなので何回かドラマ化されている。民子は池内淳子も名取裕子もアリだが、小滝は一流ホテルの支配人で、洗練されたエゴイストというなら池部良しかないだろう。髭を生やした山崎努や佐藤浩市ではマンマ悪党だよ。
近年のドラマは昭和の匂いがないからノーコメント。


No.86 6点 日暮らし
宮部みゆき
(2022/04/06 08:36登録)
短編四作と長編「日暮らし」+ エピローグの構成。
「ぼんくら」の続編で、登場人物も話もつながっているので順に読むほうがいい。

短編はミステリー風味の人情噺として楽しめる。
表題作「日暮らし」は「ぼんくら」のメインテーマである湊屋の因縁話の続編。重要人物が殺されて湊屋の深い闇が明らかになるかと思いきや、意外な犯人というよりは唐突な犯人で肩透かし。
捕物シーンもドラマチックにはならずお祭り騒ぎのようで興をそぐ。

ミステリーではなく起伏のある人情噺として読む分には楽しい。筆は滑らかだし人物のキャラは立っている。
弓之助は出来すぎだが、あざといほどのお利口ぶりがかえって井筒平四郎の大人の知恵の深さを引き立てている。
今回印象に残るキャラは、無口な同心佐伯錠之介と機微をわきまえながらも情に厚いお徳
反対にがっかりキャラは湊屋総右衛門。闇を抱えたラスボスかと思いきや、勿体つけても所詮は身から出たサビに振り回される色好みオヤジだった。


No.85 6点 きたきた捕物帖
宮部みゆき
(2022/04/04 22:20登録)
宮部みゆき最新の時代物ミステリー4編。
定評の「初ものがたり」などに比べるとミステリー風味も文章も軽く薄味である。

薄味その1.主人公がまだ若くプロの十手持ちではないため、社会のダークサイドに切り込むにはどうしても迫力不足。そのため謎解きもいささか締まりのないものになる。

薄味その2.宮部の人気作には心に刺さる言い回しがいくつかあるものだが、この作品には見当たらない。文章は読みやすくなめらかではあるが。
例えば「・・・こうした封印話は、こっちがいくら蓋をしようと思っても、蓋のほうから開きたがることがある。蓋は蓋の身で、長く口をつぐんできたことに疲れているのだろう。」( ばんば憑き「お文の影」)。古い秘密が漏れてしまうたとえとして見事な表現で、これだけでも作品を読んだ価値がある。
一冊の中で二、三か所はこれくらいの表現にめぐり合いたいものだ。

シリーズ化されるようなので、北一の成長とともに迫力が増すことを期待する。
なお、帯の「謎の稲荷寿司屋の正体が明らかに⁉」は誇大広告。すでに推測していること以上のものはない。




No.84 8点 八つ墓村
横溝正史
(2022/04/01 08:45登録)
横溝作品は数多く映画化されていて、おどろおどろしいビジュアルが記憶に残るが、原作にはホラー要素はあまりない。骨格は本格ミステリーだ。

この作品も、有名な懐中電灯の鬼姿で殺しまくるのは導入部の因縁話で、本編では粛々と毒殺が進む。
そのわりに前半やや盛り上がりに欠けるのは読者側に情報が少ないためだろう。どう興奮していいかわからないのだ。
殺しの手掛かりやダミーの容疑者などがもっと提示されていればいいのだが。

文体は読みやすいし、キャラはしっかりと造形されている。特に横溝にしては珍しく女性三人が魅力的。
金田一が、殺人メモに便乗した犯人のミスを指摘するところなど、ミステリー的感興をそそるディテールもある。
ただ、モーレツなスピードで次々殺されていく割に手掛かりは少なく、金田一は最後まで脳天気だから、まあ謎解きミステリーというよりはサービス満点のエンタメスリラーと見るのが正解だろう。
その視点からするとなかなかの名作。


No.83 9点 ぼんくら
宮部みゆき
(2022/03/29 16:16登録)
ミステリーの読書歴は長いが自分の好みを認識したのはわりあい最近のこと。
それまであまり手を付けなかった「本格、新本格」の有名作を読んでほとんど楽しめなかったことに我ながら驚いた。ロジックやトリックは精緻でも文章は平板、キャラ造形は浅くてげんなりさせられるものが多かった。
逆に言うと起伏のあるストーリーを練達の文体と深い人物造形で読めれば、別に犯罪なんか起こらなくてもいいなーと思ってしまうのだ。

ネタバレします。



この作品はまさにそれ。周辺部分で殺人は起きるが、大仕掛けの謎そのものは結果的に犯罪には結びつかない。
短編と見せかけて、次第にそれらが関連し謎が深まっていく構成は見事。
よくこなれた文体も楽しい。ときに興が乗って書きすぎるのはこの作家の癖だが。
人物の造形もいい。大人たちは心の綾がしみじみとするし、子供たちはかわいい。弓之助とおでこの異能ぶりは結構シュールなのだが妙になじんでしまう。

そうはいってもせっかくこれだけの謎を仕掛けたんだから、その根底にダークな犯罪が存在してほしかったとは思う。湊屋総右衛門はもっと心に深い闇を抱えた人物でもいい。

他の作品でも見かけたが、作者は夕暮れを「彼誰時(かわたれどき)」としているが今は明け方に限るのでは? 江戸の話だからいいか・・・


No.82 7点 犬神家の一族
横溝正史
(2022/03/26 15:21登録)
タイトに引き締まった「獄門島」とは対照的。とはいっても骨格は意外にちゃんとしている。

すべての始まりは遺言状。翻訳物を含め、これほど精緻で悪意に満ちた遺言状はないだろう。それを引き金に息つくひまもなく事件が起こる。

ご都合主義?そんなことは横溝自身が作品中で述べている。「すべてが偶然であった。なにもかもが偶然の集積であった。」(角川文庫P.384)・・・
細かいことは気にせずサービス満点の横溝ワールドを楽しむ作品である。

ネタバレ注意




この作品、過去に数多く映画、ドラマ化されている。もっとも存在感のある犯人役は、妖怪感が半端ない超美女京マチ子と大仏顔の高峰三枝子だろう。やはり超然としたところがないとね。栗原小巻や富司純子ではあまりにも普通の悪女でものたりない。
当主の犬神佐兵衛は少年時代BLというからには平幹二朗一択だろうね。


No.81 10点 忌名の如き贄るもの
三津田信三
(2022/03/24 14:39登録)
シンプルなプロット、逆説に満ちた禍々しい動機、意外過ぎる犯人。世評高い「首無の如き祟るもの」をしのぐオールタイム級の名作だろう。

少しネタバレします。



本格ミステリーであったはずが、最後の一行でホラーのロジックが通ってしまい、それにあわせて冒頭第三章までの怪異体験がきれいに回収されるという構造は見事。
あえての難は殺人手法と凶器の隠滅に偶然性が残ること。ここが確実で強烈なものであったら文句なしだった。
ところで「先輩」の二度目の結婚はなぜ可能になったのだろう。事情が判明した今回は母親は猛反対したはず。本筋と関係無いようだが、この意識がすべての発端だから何らかの補足は欲しいところ。

初期の作品に比べて文体は格段に読みやすい。なお、民俗学の蘊蓄はいささか詳しすぎて読み飛ばしたが、ここは好きずき。周辺キャラのドタバタはもうやめたらどうだろう。せっかくの世界観を損なっているように思えるのだが。

文庫化にあたっては例によって地図をつけてほしい。


No.80 7点 本所深川ふしぎ草紙
宮部みゆき
(2022/03/23 10:49登録)
七話通して回向院の茂七親分が登場する、ミステリー風味の人情噺。
一話一話の密度はとても高いがミステリー要素は薄いのでこの評点。

お気に入りは第一話「片葉の芦」。しっかりとしたミステリーの骨格で、「情け」の本質を問う味わい深い話。ただしフードロスのくだりはどうも抵抗がある。まして江戸時代ならなおさらだろう。

同じく茂七親分の出る次作短編集「初ものがたり」と合わせて読むと楽しい。


No.79 7点 初ものがたり
宮部みゆき
(2022/03/23 09:59登録)
六話すべて回向院の茂七親分が活躍する連作短編集。
茂七とその手下の権三や糸吉のキャラが立っている。
時にワトソン役を演じる謎の屋台の親父もなかなかの存在感。最後まで素性が分からないのもいい。

いずれも人情噺の絡むショートミステリーだが、合わせて味わうべきは、新年の藪入りから翌年のしだれ桜まで巡る季節の風物やおいしそうな食べ物の描写だろう。


No.78 7点 山魔の如き嗤うもの
三津田信三
(2022/03/21 11:39登録)
前作に比べて文章は格段に読みやすくなっている。
ネタバレします。




数多い目撃証言が、語る人物によってあいまいだったり恣意的だったりするのは当然で、それを裏読みしながら謎を解くのがミステリーの醍醐味だから問題はない。ただ冒頭に置かれた刀城言耶の「はじめに」にアンフェアぎりぎりの記述があるのはあまりにセコいミスリードで好ましくない。

まずは一家消失の大トリックが痛快。これにもダミーの解釈がつくのは楽しい。
一方、真犯人については、お約束の反転そのものは意外性があっていいが、動機が「金鉱狙い」から「個人的仕返し」へと卑小になってしまうのは残念。何より犯行の幇助者(消極的な共犯)を必要とすることで、ミステリーとして弱くなってしまう。

登場人物のキャラ立ちや、メタ部分を含めた反転の衝撃度は前作「首無の如き祟るもの」ほどではないが、読み応えのある長編です。


No.77 8点 幻色江戸ごよみ
宮部みゆき
(2022/03/15 12:58登録)
表題通り、季節を感じさせる12話からなるノンシリーズ短編集。
ホラーありサスペンスあり、それぞれ30ページほどの短い尺の中に読み応えのある宮部ワールドが構成されている。全体にやや辛口なのがいい。

中でもお気に入りは「だるま猫」と「神無月」。前者は捻りのないのがいっそ痛快なほどストレートなホラー。
後者は犯罪者とそれを追う者がカットバック(交互)で叙述されるサスペンス。緻密な描写がじわじわと緊張感を盛り上げる。あえて落とさないエンディングも実に粋。


No.76 7点 あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続
宮部みゆき
(2022/03/15 09:01登録)
シリーズ第5巻。収められた5話のほとんどが100ページを超える中編なのでボリュームたっぷり。
今回はおちかを取り巻く人間模様が重要になる。第4話の二つの話をきっかけに、おちかは結婚を決意する。似合いの相手だが、もっと前振りがあってもよかった。
百物語の聞き手を引き継ぐ富次郎は粋で優しい男だが、おちかほどの屈託は抱えていないため少し頼りない。おそらく回を重ねるうちに深みを増すのだろう。

それにしても、おちかを想いながら死んだ松太郎をどこかで魂鎮めしておく必要があったのでは?きっと重厚な一話になったはずなのに残念。事始の「家鳴り」だけではいささか中途半端。

第5話「金目の猫」は三島屋の長男伊一郎が弟を相手に語るシンプルな怪異譚。聞き手富次郎の予行演習にもなっている。伊一郎の長男らしいキリっとしたキャラが秀逸。


No.75 6点 薔薇忌
皆川博子
(2022/03/10 08:40登録)
舞踏、歌舞伎、大衆演劇など舞台芸術、芸能を設定とした七編からなる幻想短編集。
どれも魅力的なモチーフ、道具立てなのだが、「死」がいささか濫用されている。
死は言うまでもなく人生の最大事で、これを持ち出せば話はドラマチックになるのだが、安易に用いると幻想小説といえどもプロットが歪みかねない。

お気に入りは「化粧坂」。大衆演劇の猥雑さと少年の潔癖さがコントラストをなして面白い。ここでの「死」は自然。


No.74 8点 三鬼 三島屋変調百物語四之続
宮部みゆき
(2022/03/09 07:57登録)
それぞれが100ページを優に超える中編四話。怖い話、悲しい話の中に愉快な話も取り混ぜて、読み応えは十分。
第四話「おくらさま」ではおちかの身辺にもいろいろ変化があって、そろそろ「黒白の間」を卒業する気配も漂う。

お気に入りは「食客ひだる神」。いつも腹を空かせている「ひだる神」に憑かれてしまった総菜屋の話。この神様、食いしん坊なだけではなくなかなかグルメで、総菜の出来を豆粒で評価してくれる(ミシュランか!!)。おかげで弁当は大ヒット。店は大繁盛だが、やがてたたりが・・・
そのたたり、ロジックが通っているような通っていないような・・・そもそも憑神に重量なんてあるのかな。

それにしても、江戸前の豪華な弁当のおいしそうなこと。作者が楽しみながら書いていることがよくわかる。
ホラーを読んでよだれが出るとは思わなかった。
どこかで発売してくれないかな。宮部みゆき監修「季節の百物語弁当」


No.73 7点 ばんば憑き
宮部みゆき
(2022/03/08 08:05登録)
表題作を含め六編からなるホラー時代物短編集(角川文庫「お文の影」は同内容)。辛口で引き締まった「あやし」や構成美の「三島屋変調百物語」とは一味違うユルさがある。
登場人物、特に子供のキャラが立っていて楽しい。「あんじゅう」と同じキャラも登場するが話のつながりはないので読んでいなくても大丈夫。
お気に入りは第六話「野槌の墓」。よろず頼みごとを引き受ける無役の御家人が主人公。
七歳の娘からいきなり「父さまは、よく化ける猫はお嫌いですか」と問われて面食らう冒頭からして可笑しい。このオープニングは数多い宮部作品の中でもまさに絶品。女の姿で頼みごとを持ち込んだ「よく化ける猫」とのやり取りも妙に脱力していて笑えるし、その「お礼」も心に滲みる。
収まりのいいホラー人情噺。



No.72 8点 開かせていただき光栄です
皆川博子
(2022/03/06 17:41登録)
時は18世紀後半。場所がフランスなら「べルサイユのばら」の時代だが、こちらはロンドン。ほとんどの人はイメージがわかないだろうが心配はいらない。綿密な考証といきいきとした描写で、読者を当時の猥雑なロンドンに連れて行ってくれる。
舞台は外科医の解剖教室。おどろおどろしい設定だが、怪異や幻想は出てこない。乾いたユーモアに彩られた本格ミステリーである。ただしょっぱなから死体や解剖シーンがゴロゴロ出てくるから苦手な人はご注意を。
登場人物は多いがそれぞれにキャラがたっている。辛口の青春小説としての趣もあり、特に主要人物二名のドライでダークな心象は心に残る。
作者が好きというクリスティアナ・ブランドばりに、二転三転する真相開示もダイナミック。
クラレンスのエピローグは余計だと思うが続編への布石かな。

それにしても作者、これの発表当時は80歳過ぎ。そのあと続編「アルモニカ・ディアボリカ」、さらに昨年90歳を過ぎて続々編「インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー」を発表されている。この現実のほうが大いなるミステリー。


No.71 7点 あんじゅう 三島屋変調百物語事続
宮部みゆき
(2022/03/02 10:47登録)
連作の第二巻。四編からなる怪異譚の後に三島屋おちかの身辺に起きる事件を描いて登場人物のリアリティを増している。
お気に入りは「逃げ水」。日照りの憑神「お旱(ひでり)さん」に憑かれてしまった少年の話。身の回りの水を涸らしてしまうので嫌われた少年が、それなら水に不自由しない船頭になろうと決心するのが可笑しい。怖くない怪異譚。

表題作「あんじゅう」はあたたかく切ないお話。ただ、きっかけとなる直太朗の身の上話とのつながりが悪く冗長。あんじゅうの話だけにしたほうがまとまりがよかったと思うが・・・

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