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ミステリの祭典

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半席
徒目付(かちめつけ)・片岡直人

作家 青山文平
出版日2016年05月
平均点7.00点
書評数4人

No.4 6点 ことは
(2024/01/03 15:00登録)
よくできている。時事の風俗描写と思われるものが伏線になったり、シリーズを通して登場するキャラの使い方もとてもよい。
ただ、短くて、事件の説明から、即、解決で、あっけない感じはある。また、動機の解明が中心で、その部分は納得感はあるものの、ミステリ的な反転/意外性は大きくない。似た作風として、泡坂妻夫の作品を思い浮かべたが、そちらのほうが反転に大きな意外性ある。
私の好みのど真ん中ではないので、あまり点数は高くないが、これが好みの人もいるに違いない。

No.3 8点 ALFA
(2023/11/15 08:55登録)
すべてホワイダニットというユニークな時代物連作短編集。主人公は20代の徒目付、片岡直人。下級とはいえ幕臣である。旗本への出世を目指してはいるが「爺殺し」と揶揄される青臭く誠実な人物像がいい。
ホワイダニットを探ることで必然的に犯人や被害者の心に深く分け入ることになる。というわけでこの話、頼まれ御用を通して成長していく直人の物語と読むこともできる。

どの話も直人が仮説をたて、犯人が自白するパターンで、読者が謎解きをする余地はあまりない。
お気に入りは「見抜く者」。「己よりも強い相手ならば、心おきなく剣が振るえる。」逆説的な動機が面白い。
表題作「半席」は89歳にしてなお現役にしがみつく老醜を描いて深いが、もはやミステリの枠を超えているのでは・・・

端正な楷書のような文体も好ましい。

No.2 7点 ぷちレコード
(2023/11/06 22:23登録)
この小説はホワイダニットの要素を強く押し出した連作短編集で、主人公は徒目付の片岡直人。彼の仕事内容は腑に落ちない事件を検め、事件を起こした人間が隠している真の動機を探ること。
表題作の「半席」は、八十九歳の重役・矢野作左衛門が釣りの最中に死んだ。関与が疑われているのは義理の息子である信二郎。果たして信二郎は事件に噛んでいるのか。
被害者である矢野作左衛門が最後に語り、事件を引き起こすきっかけとなった言葉を見た瞬間、身体に震えが走る。

No.1 7点 HORNET
(2017/12/16 15:47登録)
 江戸時代、幕府のお膝元で徒目付を務める片岡直人は、この役職を踏み台として旗本の勘定へと駆け上がることをめざしていた。というのも、片岡の家は直人の父、直十郎が御目見以上まで務めたのだが一役のみで、家として「旗本」と認められるためには、少なくとも二つのお役目に就かなくてはならないからだ。父親が一役だけ御目見以上を務めた状態の直人は、一代御目見「半席」であり、直人が勘定に上がることで晴れて旗本となることができる。そのためにも、お上の覚えをよくするべく、横道にはそれずに日々の任務に邁進する必要があった。
 しかし、上役の組頭・内藤雅之は、そんな直人にしばしば「頼まれ御用」の話をもってくる。「頼まれ御用」とは、見知った筋から個人的に依頼を受ける裏仕事で、速やかな昇進を目指す直人にとっては顧みる必要のない案件である。だが、そこには表の仕事にない「人臭さ」が漂い、内藤の人柄と共に、少しずつその魅力に惹きつけられていく直人がいた。
 物語は、内藤が持ち込んでくる「頼まれ御用」を受け、真相を解き明かす短編集。依頼は主に江戸界隈で起きた刃傷沙汰の「わけ」を探ること。罪を犯した者もはっきりし、本人もそれを認めているが、「なぜ」そのことが起きたのわからないままの事件について、被害者も含めた関係者がそれを知りたいと依頼をしてくるのだ。いわゆる、江戸を舞台としたホワイダニットの短編集である。

 息子のために立身出世を旨としている直人の心を、飄然と頼まれ御用を引き受け、人々の心の綾を解きほぐす組頭・内藤の在り様が乱す。いわゆるグルメの内藤は、直人と話すときはいつも行きつけの居酒屋で酒肴を共にするのだが、その料理に関する描写、薀蓄も話に彩を添えていて面白い。
 解明される事件の動機は、時代の価値観があってこそのものであり、時代物のミステリとして非常に興味深い作品だった。

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