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ミステリの祭典

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ALFAさんの登録情報
平均点:6.62点 書評数:200件

プロフィール| 書評

No.120 8点 双頭の悪魔
有栖川有栖
(2023/07/08 14:30登録)
冒頭からクリスティの「春にして君を離れ」を思わせるマリアの内省的な叙述が続く。200ページあたりまで異変は起こらず冗長にも感じられる。しかしこれは読者を熟成させるのに必要な長さなのだろう。
やがて事態は動き始める。川の向こうとこちらでそれぞれに。
テンポは速からず遅からず、あちらこちらに張り巡らされている伏線を探りながら読み進めることとなる。
精緻なロジックを堪能できる新本格の大作。
しかし残念ながら・・・



以下ネタバレ
唯一にして最大の問題はXを仲介者とするxx殺人であること。両犯人ともにXが仲介者ではなく当の契約相手であると信じている。しかしこれはXの属性を考えるとまずあり得ない。
動機(Xにとっての)の脆弱さも減点要素。


No.119 7点 生霊の如き重るもの
三津田信三
(2023/06/26 09:30登録)
「魔偶」「密室」を含め刀城言耶シリーズの短編はどれもホラー風味のミステリーとして気軽に楽しめる。ただこれはという傑作には行き当たらなかった。この作者の世界観で刃のように鋭い短編を読みたいものだ。

中編「顔無」はなかなかの読みごたえだが、この真相は無理がある。これはむしろダミーの捨て解として使った上で、ある想定外の人物を犯人にしたら面白いと思うが・・・


No.118 5点 ヨモツイクサ
知念実希人
(2023/06/25 13:48登録)
洗練されたプロット、なめらかな文体。とてもよくできた正真正銘のバイオホラー。
これ以上は何も書けない。
相性のいい読者なら満点間違いなしだが、私にはどうにも馴染まなかった。


No.117 7点 密室の如き籠るもの
三津田信三
(2023/06/20 10:07登録)
短編三作はホラー風味に合理的な解決をつけるお馴染みのパターンだが、なかでは「迷家」が楽しめる。行商の風俗描写も時代感が味わえて面白い。

長編ともいえる表題作は重厚。精緻な伏線とその回収がダミー解決のために使われるとは何とも贅沢というべきかもったいないというべきか。
先妻の変死や開かずの箱などのおどろおどろしいトピックが回収されないままというのが何とも残尿感に・・・


No.116 7点 魔偶の如き齎すもの
三津田信三
(2023/06/15 08:48登録)
シリーズ長編ほどのねっとりとした重厚感や緻密さはないけど、ホラー風味の謎解きが楽しめる。ただ、本格視点で読むと少し物足りないかも・・・
横溝や清張を思わせる独特の昭和感もよく出ている。
その昭和感についてイチャモンをひとつ。「敗戦」「敗戦後」というワードはあの時代にそぐわない。『終戦』、そして敗戦後でも終戦後でもなくただの『戦後』こそがあの時代の固有名詞なのだ。


No.115 3点 十角館の殺人
綾辻行人
(2023/03/09 08:46登録)
「まだミステリの読書量が少ない頃に読んでいたら、それなりに楽しめただろう。」しかし私の場合、そんな時期はこの作品が世に出るはるか以前なので、この仮定法過去完了は事実上意味をなさない。
スレッカラシになってからの初読ではアラが目立って楽しむどころではない。
以下ネタバレします。



アラその1.設定が「そして誰もいなくなった」と同じであるだけならまだしも、犯人のトリックがアガサ・クリスティの別の有名作と「同じ」であること。ミステリのメイン要素である設定とトリックが同じ大家からの引用となると、これはもうオマージュや本歌取りでは済まされない。

アラその2.動機とその背景が後に出版される自身の有名作と「同じ」であること。複数の人物による悪ふざけが一人の死を招き、ある人物がそれに復讐するというパターン。

アラその3.クローズドサークルの中と外でそれぞれの話が展開されるという構成が上に述べた作品と「同じ」であること。

アラその4.小瓶の中の手紙という使い古されたネタ。真相開示の後に登場するのだから劇的な効果はないしエピローグとしても蛇足。

舞台設定、トリック、動機とその背景、構成といったミステリとしての要素のほぼすべてが過去の有名作の使いまわし、もしくは後に自身の作品で使いまわすミステリ作法をどう評価できるのだろう。
人物の造形や情景の描写が深ければまだそれなりに小説として楽しめたのだろうが、パズルミステリに肉付けをした程度ではそれも無理。

あえて誉めどころを探すとすれば、例の一文の置き方。まことに効果的ではある。
なお、新本格のムーブメントを起こした歴史的意義はここでは評価の対象外とした。


No.114 7点 黒真珠 恋愛推理レアコレクション
連城三紀彦
(2023/03/07 08:37登録)
数か月前に出たばかりの、連城最後の新刊と銘打たれた単行本未発表の拾遺集。短編6編とショートショート8編。どれも連城らしいというか連城しか発想できないような作品ばかり。

お気に入りは恋愛ミステリ「黒真珠」と、ミステリ風味の「ひとつ蘭」。
「黒真珠」は真相が明かされると、それまでのセリフの一つ一つが一瞬にして色合いを変える、連城お得意の反転もの。
「ひとつ蘭」はあるきっかけでOLから旅館の若女将に転身した女の「恋愛根性ものミステリ風味」。昭和の人気ドラマ「細腕繁盛記」を連想する。と思ったら、掲載時の副題が「新・細うで繁盛記」だった。長編のような読みごたえ。
続く「紙の別れ」はその7年後を描く続編で面白い趣向だが、まあ余計かな。

ところで短編とショートショートでは小説作法が違うことに気づいた。
いい短編は起承転結あるいは起承結が手際よくまとまっているのに対し、いいショートショートは起承転としてあとは余韻となっているように思う。短歌と俳句の違いみたいなもんか。

ショートショートではあえてオチらしきもののない「花のない葉」が面白い。
どれも連城ファンなら読んで損はない。


No.113 5点 小さな異邦人
連城三紀彦
(2023/03/04 17:36登録)
表題作を含む8編の短編集。

どれも連城らしい短編だが、本画ではなく習作を見るような感じがする。
着想に比べて話の展開がいまいち切れ味に欠ける。
中でも表題作はとても面白いアイデアなのだが、プロットが説明的になってしまっているのが残念。

いつもの流麗な文体と大胆な構成で読みたかったなあ・・・


No.112 2点 草原からの使者
浅田次郎
(2023/03/03 08:41登録)
わざわざ登録をして酷評というのもいかがなものかとは思うが、シリーズ第2弾なので、つられて読む人のために書評。

前作とは雲泥の差。あちらはミステリー風味の人情噺として楽しめたが、こちらはその風味もない。
この作者の俗っぽさが裏目に出ている。エスタブリッシュメントにはリアリティーがないし、下ネタはユーモラスというよりただ下品。暇潰しにもならないが、よほどヒマならまあ表題作くらいか。


No.111 7点 沙高樓綺譚
浅田次郎
(2023/02/25 07:56登録)
都心の高層ビルに設けた謎めいたサロンで語られる、百物語形式の奇譚5編。
あえて分類すればミステリ1編、スリラー2編、ホラー1編、倒叙クライム1編となるが、いずれも「~ 風味」とつけたほうがふさわしい。

お気に入りはヤクザの大親分が語る「雨の夜の刺客」。大出世のきっかけになったチンピラ時代の出入りを語る倒叙クライムだが、人情噺として読ませる。
泣かせの浅田として知られるが、ここでもたった一つのセリフで涙腺を不意打ちするワナが二か所仕掛けられている。
他には刀剣の真贋を主題にしたミステリ風味「小鍛冶」。真贋物は清張が得意だが、もう少しドライな持ち味で面白い。
もう1編、「立花新兵衛只今罷越候」。撮影のたびに現れる侍姿のエキストラ・・・ 暗くないホラー。

以上3篇は高得点だが他の2編がピンとこないのでこの得点。読んで損はない楽しい短編集。


No.110 7点 白夜行
東野圭吾
(2023/02/23 08:19登録)
事件発生からエンディングまで、約20年の歳月をたどる重厚なクライムノベル。
(以下ネタバレします)



動機や犯人二人の関係性などの謎解き要素もあるが、本質は「けものみち」や「火車」に通じる犯罪小説だろう。
あまり得意ではない心理描写を省き、たとえと出来事だけで二人の関係を暗示するのがいい。

老刑事の迫力とくたびれ加減がいい味を出している。終盤、かつては容疑者の一人だった居酒屋の女将との会話の中から、事件の輪郭が浮かび上がってくるのが印象的。

エピソードが多すぎてそれぞれが必ずしも着地していないこと。トイレットペーパーの買いだめなど、各時代のトピックが多すぎてわざとらしいことを減点してこの評価。


No.109 7点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2023/02/17 08:41登録)
ロジックが美しく、テンポもよく、多くの登場人物もよく整理されている。パズルミステリの完成形といえる。
ただし、ミステリのもう一つの楽しみである人間ドラマとしては薄味。名探偵が妙に浮き上がっているのに、対になる犯人はショボイ。ここはやはり存在感のある名犯人が欲しいところ。


No.108 5点 ミス・オイスター・ブラウンの犯罪
ピーター・ラヴゼイ
(2023/01/29 13:57登録)
表題作を含む18編からなる、著者の第二短編集。

バラエティに富んだ第一短編集「煙草屋の密室」や切れ味のいい第三短編集「服用量に注意のこと」に比べると、同工異曲が目に付く。
状況説明に続くひねったエンディングというパターンなのだが、ひねりがいまいちでヌルい感じ。
唯一のお気に入りは「床屋」。これは「切れ味」いい。


No.107 4点 方舟
夕木春央
(2023/01/28 13:57登録)
ロジックの美しいミステリ。

本格ミステリと見せかけたサスペンスが本質か。
いかにもなクローズドサークル、しかもタイムリミット付き。いかにもな殺しの手口。いかにもな探偵。そして明かされるいかにもな動機・・・

こうして作者は我々の思考を本格ミステリのフレームにはめておいて、衝撃のエンディングをかます。
明かされた真の動機はシンプルかつ根源的なもの。犯人は途中はっきりと口にしている。
犯人の最後の告白も、状況を考えるとエグイ。衝撃度は強いがその分後味も悪い。

最大の減点要素は登場人物が記号的であること。その割に最後の大技には強烈な「情」が絡んでいること。全体が豊潤な物語性に支えられていれば申し分なかったが、すべてはラストの大ネタのための長い前振りとなってしまった。
それでもなかなか読み応えのある作品です。


No.106 7点 Xの悲劇
エラリイ・クイーン
(2023/01/26 18:50登録)
半世紀ぶりに再読。
初読のときと同様に精緻なロジックを楽しめたが、新たな印象も…

印象その1 路面電車やフェリーなど、ニューヨークの街の雰囲気が活写されていて楽しい。以前はプロットを追うのに必死でそんな雰囲気を味わう余裕はなかったのだろう。

印象その2 さっそうとした名探偵だったはずのドルリー・レーンが、今回はすっかりもったいぶった嫌味なジジイになってしまった。いやこれはもちろん当方が変わったのであって、おそらくは年齢的同類嫌悪なんだろうな。とにかくあまりお近づきにはなりたくない人物像になった。ハムレット荘もなんだかキッチュで芝居の書割みたいな印象に。生き生きとした街の雰囲気とはアンマッチ。

印象その3 スレッカラシ読者となった今では、ロジックの精緻さだけでは満足できない。名探偵ならぬ名犯人が欲しいところだが、この犯人では物足りない。明かされた段階では、「ダレやそれ?」的。過去の因縁話が明かされてもリアルタイムでの犯人の存在感は薄すぎ。因縁話そのものもホームズ以来使い倒されてすっかり手垢がついてしまっているし。

とまあ、むしろ当方の経年変化を実感する再読となった。50年前なら10点満点にしたところだが。


No.105 7点 鏡は横にひび割れて
アガサ・クリスティー
(2023/01/25 11:04登録)
二つの側面を持つ作品である。以下ネタバレ気味です・・・

一面はホワイ&フーダニットの謎解きミステリ、もう一面は女優マリーナ・グレッグの悲劇。
そして厄介なことに前者より後者のほうが圧倒的に素晴らしい。
マリーナは中盤まで登場しないが、周辺の人物たちへの尋問によって彼女の半生が浮び上がる。クリスティお得意の手法。
一方ミステリとしてはシンプルな構造である。メインの殺人は序盤に起こる。あとは尋問が続き中盤は冗長。終盤の事件は口封じに過ぎないと推測がつく。これはむしろ短編向きのプロットかもしれない。

ミステリ部分をうんと軽くしたら、ウェストマコット名義の名作になったのではないだろうか。


No.104 7点 服用量に注意のこと
ピーター・ラヴゼイ
(2023/01/24 09:28登録)
著者の第三短編集。魅力的な「服用量に注意のこと」は短編集としてのタイトルで、この表題作があるわけではない。
「暇つぶしになる」というのはミステリの場合決して悪口にはならないと思うが、ここにある短編はおおむね良質の暇つぶしになる。

そんな中、暇つぶしを超えて衝撃の読後感を持つ作品は「空軍仲間」。
海外短編ミステリの最高峰はクリスティの「検察側の証人」とブランドの「ジェミニー・クリケット事件」だろう。どちらも最後数行の破壊力は強烈だ、
「空軍仲間」はこの二作にも引けを取らない出来。本格謎解きと叙述トリックが仕掛けられていて前者が巧みに後者をカムフラージュしている。
最後の二ページで鮮やかな背負い投げをくらわされた上に衝撃のエンディングが待っているこの一編は10点満点。

余談だがこの作品、原題はネタの伏線になっているが邦題はある種レッドへリング(目くらまし)になっているのが面白い、


No.103 7点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2023/01/22 09:37登録)
結構突っ込みどころのある作品だが今なお本格ミステリの名作として風格を保っているのはなぜか・・・     
以下ネタバレしますよ




その一 「加齢による能力の枯渇と若き才能への嫉妬」というとても現代的かつ普遍的な主題であること。
その二 並外れた才能と、紙一重の狂気とをあわせ持った犯人のキャラ立てが面白いこと。
その三 ただようゴシックホラーの雰囲気と本格ミステリとしてのエンディングがよくマッチしていること。

余談だけどニューヨークってピカピカの現代都市のイメージだけど結構「ゴシック」な場がある。フリックコレクション(美術館)のような豪壮な館などがあって、ここに出てくる二つの邸宅もイメージしやすい。
もちろんマザーグースの見立てもその雰囲気づくりに役立っているし、「僧正(BISHOP)」なるワードも何やら中世めいていて効果的。

余談を重ねると、見立て殺人の「効果」なるものがよく書評のネタになる。たしか横溝のところでも評者同士が派手にケンカされていたと記憶するが、当方にはこれが不思議でならない。現実の事件に「見立て」がないのでもわかるように、この効果はあくまでもメタな部分つまり読者への効果として考えないと意味がない。要は大きな矛盾さえなければ雰囲気作りに効果があれば十分なのだ、くらいに割り切るべきでは?

余談ついでに、この時代の名探偵たちってけっこう神の代理で犯人を裁くよね。クイーンしかり、クリスティしかり。
これって現代コードではやはりNGじゃないかなあ。痛快だけど。


No.102 7点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2023/01/21 14:19登録)
数十年ぶりに再読。すっかり忘れていて楽しめるかと思ったけど、けっこう覚えていて残念!

シンプルなプロット、整理された登場人物、小粒だがキレのいいトリック。まさに優等生のような本格ミステリー。
ただ十代の頃とは違い、スレッカラシ読者の今となってはもう少しコクというかアクというか個性、さらに言えば独特の世界観が欲しくなる。ここではカーの個性は強く出ていない。

そういう意味では、同じ動機とトリックからなるクリスティの某作品のほうが好みではある。
どちらも名探偵と名犯人が登場するが、あちらにはさらに名被害者と濃い人間ドラマがあるぶん楽しい。


No.101 6点 親指のうずき
アガサ・クリスティー
(2023/01/20 11:38登録)
いわくありげな題名よし、曖昧模糊としたストーリーよし、衝撃のエンディングよし。
しかしどうしてタペンスにするかなあ。明朗快活なキャラがチグハグ。
ノンシリーズにして、ほの昏いトーンで徹底すれば傑作サイコスリラーになっただろうに。

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