ALFAさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.67点 | 書評数:190件 |
No.150 | 8点 | 江戸染まぬ 青山文平 |
(2023/11/23 08:19登録) 作者の端正な語り口が気に入って選んだ2冊目の短編集。 中でもお気に入りは表題作「江戸染まぬ」。じわりと滲みるサスペンス風味から一気に捻りの効いたクライマックスへの構成が見事。 「日和山」「台」もいい。片や活劇、片や人情喜劇からいきなり歴史が顔を覗かせてのエンディングというのが痛快。 このサイト的にマッチするのは表題作のみだが、楽しめたので1点オマケ。 |
No.149 | 8点 | 半席 青山文平 |
(2023/11/15 08:55登録) すべてホワイダニットというユニークな時代物連作短編集。主人公は20代の徒目付、片岡直人。下級とはいえ幕臣である。旗本への出世を目指してはいるが「爺殺し」と揶揄される青臭く誠実な人物像がいい。 ホワイダニットを探ることで必然的に犯人や被害者の心に深く分け入ることになる。というわけでこの話、頼まれ御用を通して成長していく直人の物語と読むこともできる。 どの話も直人が仮説をたて、犯人が自白するパターンで、読者が謎解きをする余地はあまりない。 お気に入りは「見抜く者」。「己よりも強い相手ならば、心おきなく剣が振るえる。」逆説的な動機が面白い。 表題作「半席」は89歳にしてなお現役にしがみつく老醜を描いて深いが、もはやミステリの枠を超えているのでは・・・ 端正な楷書のような文体も好ましい。 |
No.148 | 6点 | 殺人鬼(角川文庫版) 横溝正史 |
(2023/10/17 06:47登録) 横溝の雰囲気を軽く楽しむにはいい。 表題作はスリラーテイスト。 一方「百日紅の下にて」は本格味。典型的な過去の犯罪もので、こちらの方が出来はいい。 |
No.147 | 6点 | 陰陽師 龍笛ノ巻 夢枕獏 |
(2023/10/13 11:17登録) このシリーズ、晴明と博雅が主役とすると酒は重要な脇役になる。 書き出しはたいてい晴明の屋敷。二人が季節の風情を愛でながら飲んでいる。 肴は鮎であったり、焼いたキノコに味噌を添えたものであったり・・・読んでる方が思わず飲みたくなる。 二人とも酒飲みのお手本のような品格ある飲み方である。 ひとしきり飲むと、「ゆこう」「ゆこう」そういうことになった。・・・ここは徹底したワンパターン。 この巻のお気に入りは「飛仙」。中途半端な通力しか持たぬ仙人が引き起こしたトラブルを晴明が後始末してやる話。 ことが収まって、晴明に酒をごちそうになった仙人が、バルーンのように浮き上がって帰って行くシーンはなんともいえず可笑しい。「こういう生き方も、淋しいながら、そこそこには楽しゅうござりまするぞ・・・」 |
No.146 | 7点 | 陰陽師 飛天ノ巻 夢枕獏 |
(2023/10/07 09:33登録) あとがきに作者は「ぼくの好きな、晴明と博雅の話の、二巻目である。」と記している。 この二人のホームズ、ワトソン関係はたしかにシリーズを通しての大いなる魅力。ツンデレキャラの晴明はまさにホームズ、一方の博雅はワトソンより存在感がある。武士とされているがこれは鎌倉以降のいわゆる侍ではない。平安貴族の武官という意味で、官位も晴明より上。太刀と笛の名手で、ピュアな人柄が晴明といいコンビになる。 二人の関係はかなり濃い。 「おれは晴明が好きなんだ。たとえ、おまえが、妖物であってもだよ。だから、おまえに刃なんか向けたくはない・・・俺に正体を明かすときにはだな、ゆっくりと、驚かさないようにやってもらいたいんだよ。そうしてくれるんなら、おれは、大丈夫さ。」(第一巻) 晴明が、冗談まじりに博雅を驚かせたときのセリフである。ブロマンスなどと言ってしまってはかえって趣を損ねるだろう。 この巻でのお気に入りは、可愛い怪異「天邪鬼」と、よく知られた逸話を織り込んだ「鬼小町」。7話からなる連作短編集。 |
No.145 | 8点 | 陰陽師 夢枕獏 |
(2023/09/26 09:23登録) ドラマ、アニメ、さらにはフィギュアスケートでも知られた作品だが、原作は初めて。 一種のファンタジーかと思っていたらなんと本格の謎解きだった。6話からなる連作短編で、安倍晴明がホームズ、太刀と笛の名手である源博雅がワトソン役。 たいていは博雅が、酒の肴を手土産に謎を持ち込んでくる。 まずは庭の風情を愛でながらの静かな酒宴。各話ごとに移り変わる季節の情景描写がいい。 謎を話題にひとしきり飲んでから、では「ゆこう」「ゆこう」と出掛けていく。このワンパターンも心地いい。 お気に入りは「鬼のみちゆき」。ホラーのロジックが見事に通っている。 ところで分類がホラーではなく歴史ミステリで登録されていて不思議に思ったが、闇が身近に存在したこの時代を思えば深く納得。 長く続く作品なのでゆっくり楽しもうか・・・ |
No.144 | 5点 | 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件 白井智之 |
(2023/09/07 15:08登録) ミステリーの謎解きは現実のロジックに則ってほしい。 この世に存在しない特殊設定を持ち出して謎解きをするなら、それはミステリーを離れた一種のパズラーノベル。 そのつもりで読めば楽しめるかもしれない。 |
No.143 | 6点 | 動機 横山秀夫 |
(2023/09/05 08:22登録) 切れ味鋭い「第三の時効」は連城を思わせたが、この「動機」は清張風味。 重く暑苦しい人物造形はまさに昭和。携帯電話が出てこなければ清張短編に紛れても違和感はない。 読み応えはやはり表題作「動機」と「逆転の夏」。 |
No.142 | 6点 | 臨場 横山秀夫 |
(2023/09/02 08:43登録) 終身検視官の異名を持つ倉石調査官を主人公にした8編の短編集。一般人には縁のない検死の世界を覗けて面白い。 複雑なプロットで読ませる「真夜中の調書」、丁寧な伏線が埋め込んである「赤い名刺」などが本格味。 殺伐としたモチーフが続くなか、各編ともに人情の隠し味が仕掛けてある。ベタだが「餞」の人情味も捨てがたい。 |
No.141 | 8点 | 第三の時効 横山秀夫 |
(2023/08/29 08:47登録) 6編からなる警察ミステリー。 以前親族にちょっとした事故があって警察署に出向いた時、対応してくれた部署が「強行班」と聞いてギョっとしたが、そうか強行班は刑事の花形部署なんだ。そうするとあの時お目にかかった背筋の伸びたお兄さんは花形刑事だったのか。 この作品、三つの強行班長のキャラが立っていて面白い。それぞれを主役にした三篇がやはりいい。どれも読者が推理する余地はあまりなく、作者のドラマティックなネタ割りを楽しむ作品だろう。中でも表題作「第三の時効」と「沈黙のアリバイ」が読みごたえある。 連城の短編とも比較されるが、あちらがカミソリならこっちは出刃包丁の切れ味。血と汗の匂いがする。乾いた文体もよく似合う。 |
No.140 | 7点 | 返事はいらない 宮部みゆき |
(2023/08/23 08:36登録) 日常の謎から殺人事件まで6話からなる短編集。いずれも社会派風味。 この社会派風味の頃合いがちょうどいい。 カードローンをモチーフにした「裏切らないで」は、欲望の虚像都市「東京」の罠に嵌まった女性を主人公にした秀作。シンプルなミステリーだが、声高に社会派を振りかざした有名長編より味わい深い。逆トリックによるドライなエンディングは清張を思わせる お気に入りは表題作「返事はいらない」と読後感のいい「ドルシネアにようこそ」。 |
No.139 | 7点 | 桜ほうさら 宮部みゆき |
(2023/08/22 10:35登録) タイトルのイメージ通りほんのり優しいサイドストーリーを読み進めていくうちに、やがてダークな真相が明らかになってエンディングへ。とても読みごたえがある。 犯人(敵役)の人物造形や意外性は申し分ないのだが、唯一残念なのはその行動というか話への出し入れが何だかギクシャクしていること。真相開示がスムースでドラマチックな構成になっていたら、時代ミステリーの代表作になっていただろう。 |
No.138 | 6点 | 青瓜不動 三島屋変調百物語九之続 宮部みゆき |
(2023/08/12 08:40登録) 今回の四話はいずれもお伽噺風のホラーファンタジー。 お気に入りは「針雨の里」。 人ならぬもののコミュニティと人里との交流や、産物の流通までストリーに組み込んだ、いわば社会派ホラーファンタジー。妙なリアリティがあって面白い。 タイトルが微妙な伏線にもなっていて、謎解きの味わいもある。 それにしても聞き手の小旦那富次郎もこれで4集目となる。先代のおちかは第5集でバトンタッチしたのだからそろそろ富次郎も同じパターンで続けるのは難しいのでは? どうする宮部❗ |
No.137 | 6点 | よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続 宮部みゆき |
(2023/08/09 10:06登録) 百物語が初期の緻密なホラーから次第におとぎ話風ホラーファンタジーへと変わってきている。そのため、作中リアルの三島屋を舞台とする人情話と百物語との繋がりが悪くなってしまった。 今回は三島屋の富次郎、伊一郎やおちかの話が盛りだくさんで、その点はシリーズファンとしては楽しめるのだが・・・ |
No.136 | 6点 | 黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続 宮部みゆき |
(2023/08/06 15:10登録) 聞き手がおちかから三島屋の次男富次郎にバトンタッチ。 お気に入りは第三話「同行二人」。ひねりのないストレートな人情ホラーだがロジックが通っている上に、語り手にも怪異にも妙に共感できる。 表題作は「そして誰もいなくなり」そうな閉ざされた屋敷もの。とても面白い趣向だが、いかんせん長すぎる。330ページでほとんど長編。この半分でいい。 まだ聞き手としては頼りない富次郎だが、周辺エピソードも盛りだくさんでシリーズ物の楽しさが味わえる。 |
No.135 | 5点 | 赫衣の闇 三津田信三 |
(2023/08/03 14:58登録) 第二章まではプロローグ。終戦直後の闇市を描いて読みごたえがある。 その数年後を描く第三章からが本編。 ミステリーとホラーのハイブリッドが作者の真骨頂だが、この作品では肝心のミステリー部分が継ぎはぎで弱い。 シリーズ第一作のような重厚な本格謎解きが欲しかった。この動機と時代背景なら深い作品になり得たのに残念。 同年に出版された別作品は、ミステリーとホラーを見事に融合させた傑作である。そちらのシリーズの探偵らしき若者がチラッと登場するのは面白い。 |
No.134 | 5点 | 魂手形 三島屋変調百物語七之続 宮部みゆき |
(2023/08/03 07:54登録) 宮部みゆき安定の百物語。シリーズファンなら安心して楽しめる。 ただ、三十四話までくるとどうしても同工異曲は免れない。 構成の変化や、聞き手である富次郎の周辺エピソードで盛り上げたいところだが、おちかほど屈託を抱えていないため深みがでない。 第二話、父親そっくりに見えていた三兄弟が、実はそれぞれ似ても似つかない顔だったというのは、ホラーのロジックとして面白い。 |
No.133 | 7点 | Iの悲劇 米澤穂信 |
(2023/08/02 08:06登録) 「限界」を超えて無人になってしまった集落の再生を図る南はかま市。 そこに移住してきたIターン組に起こる事件をテーマにした6+1編の連作短編集(風)。各章とも多少シリアスな日常の謎。 なるほどそれで表題が「Iの悲劇」か、シャレてるけどちょっと大げさな、と思っていたら最終章でひっくり返された。 ここをイヤミス風反転ととるか、重量級の社会派への変身ととるか。 私は後者。その方が面白い。人形浄瑠璃のガブ(姫がいきなり鬼になる)みたい。 ボンクラ課長が時折り見せる強面が気にはなっていたんだ・・・ |
No.132 | 9点 | 木挽町のあだ討ち 永井紗耶子 |
(2023/08/01 11:47登録) 掛け値なしに面白い。 ミステリーとしてはオーソドックスなプロット。クリスティの「5匹の子豚」のような構成美。 語り口は宮部みゆきにも似ているがさらに薄口で滑らか。とても読みやすい。 委細は人並由真さんの丁寧な書評に尽くされているのでそちらを・・・ |
No.131 | 7点 | 炎に絵を 陳舜臣 |
(2023/07/30 16:41登録) 初めは穏やかにゆっくり、中盤少しずつ加速して終盤は怒涛の真相開示。 めでたしめでたしとはならない不穏な結末がいい。タイトルも象徴的。 文体はさすがにスムースで読みやすい。ただ、清張や宮部みゆきのような語り口で読ませるタイプではないから地味な印象は否めない。 (少しネタバレ) たいていのご都合主義には目をつぶることにしているが、そもそも主人公の神戸転勤は偶然だよね。そして同姓?あと、悪徳会計士の始末もつけといてほしかったなあ。でないと本当に富豪になれたかどうかわからないでしょ? |