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ミステリの祭典

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火神被殺

作家 松本清張
出版日1973年01月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 5点 ALFA
(2024/12/28 09:56登録)
さすがに昭和ミステリーの巨人、作品数も膨大なんだろう。これも未読だった。
5編からなる短編集。
ネタバレします。


楽しめたのは「奇妙な被告」。シンプルな一事不再理ものだが展開がスリリング。
表題作「火神被殺」はトリックは面白いが、長々と解説される古代史が本筋の犯罪には関係なくてガッカリ。蘊蓄がプロットによく馴染んだ「陸行水行」や「万葉翡翠」に及ばない。
「神の里事件」は新興宗教の闇を描いて、さては「神々の乱心」の下絵かと期待したが結局は卑小な殺人でガッカリ。
それぞれに他の名作や大作と共通のモチーフが見られて、清張ファンなら楽しめる。

No.3 6点 蟷螂の斧
(2024/12/23 07:31登録)
①火神被殺 7点 昭和41年、出雲湯村温泉の山林でバラバラの白骨死体が発見された。腰部の骨がなく、そこに麦が生えていた。古事記になぞらえたものなのか?…DNA鑑定のない時代、妹の証言
②奇妙な被告 7点 金貸しの老人が殺害され、犯人はあっけなく逮捕された。凶器のことも素直に自白したが…裁判では無罪を主張
③葡萄草文様の刺繍 7点 海外でテーブルクロスを購入し、愛人にプレゼント。愛人が殺され、テーブルクロスだけが無くなっていた…妻には内緒のはずが
④神の里事件 5点 「宝物殿」内で見学者が殺害された。案内人は逃げ出したが森の中で殺害されてしまう。犯人は目撃されていない…教祖は槍が空を飛んだという
⑤恩誼の紐 4点 子供の頃、祖母が女中をしている家へ泊まることがあった。ある日、金のない父親が現れ、中の様子を窺っていた…祖母の言葉「お前を守ってやるけんのう」、子供の視点である「潜在光景」「天城越え」には遠く及ばず残念。

No.2 7点 クリスティ再読
(2024/12/06 10:30登録)
ヘンに党派的になって清張否定論をいう方もいるようだが、評者に言わせれば清張って結構なトリックメーカーであり、ロマンあふれるエンタメの書き手として、ミステリ界の巨人であることを否定するのはどうかと思うんだ。

と言いたくなるのは表題作の「火神被殺」って、清張らしいリアルなトリックとミスディレクションが炸裂した好編だと思うからだ。今のDNA鑑定になると問題もあるけども、ごく最近までは本作の秀逸なトリックはしっかりと通用し、それをオオツゲヒメの「食品起源説話」を巧妙に使ったミスディレクションで導いて、古代ロマンとトリッキーなミステリ、そして清張の出世作「或る『小倉日記』伝」で取り上げたような「ハンデを抱えた不遇な天才」を描いた秀作短編となったと思う。「清張ってどんな作家?」を理解するのなら、評者は一番に勧めたいくらいの短編。

続いて実話であっても不思議じゃないくらいのリアリティがある裁判モノの「奇妙な被告」。クリスティの「スタイルズ荘」でのアイデアをより徹底して扱うとこうなる、というのが面白い。
「葡萄唐草文様の刺繍」ならば、夫婦の感情の機微を浮気を隠す夫の心理から、殺人事件と絡めて描き出す。夫の疑心からの行動が回りまわって真犯人への因果応報となる皮肉。
「神の里事件」は忘れ去られたような田舎の神道系の新興宗教で起きた殺人を描いているけど、これはちょっと失敗作かな。ウンチク部分は興味深いが、殺人事件との絡め方がもう一つか。
「恩誼の絆」は「天城越え」と似た感じの、子供視点での事件を描いて、さらに大人になった後での「繰り返し」のような事件を扱う。昭和の庶民の生活という面で、評者はとても懐かしい。祖母の使っていた針山を思い出す。

名作目白押しの好短編集。ミステリマニアほど読むべき作品集だと思う。
(あと「火神被殺」だけど「火の路」で扱うゾロアスター教日本伝来説の萌芽みたいな話を取り上げている。古代史造詣は深いからねえ。こうしてみると「Dの複合」がいかに中途半端だったか、というのが悔やまれる)

No.1 6点 kanamori
(2012/03/27 20:28登録)
バラエティに富んだ5編収録の短編集。
表題作「火神被殺」は、古代史の論考と現代の殺人を結びつけた「陸行水行」や「万葉翡翠」などに連なる作品。古事記と出雲風土記をネタに、神による神殺しのエピソードに見立てた死体状況が絶妙のミスディレクションになっている。
「奇妙な被告」は裁判モノ。”自白の任意性”を逆手に取ったトリックは現代でも十分あり得るものだと思う。
「神の里事件」は神道系の新興宗教教団内の二重殺人事件。凶器の隠蔽や人物に関するトリックなど、かなり本格ミステリしてますが、播磨風土記などのウンチクを読むのが少々キツイ。
そのほか、私小説風の物語からクライムミステリに変わる「恩誼の紐」の暗さが、道尾秀介の最近の作品を連想させる内容でした。

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