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ミステリの祭典

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人並由真さんの登録情報
平均点:6.35点 書評数:2257件

プロフィール| 書評

No.277 5点 皇帝と拳銃と
倉知淳
(2018/02/09 12:56登録)
 連作倒叙中編集としてはまあ手堅い作りかと。とはいえ第1話の犯人なんか(フィクションの中での)実際の現場でそういう見落としをするかなあ、という気もしたが。
 ちなみに連作ものとしてはムニャムニャ・・・。倉知先生、次回は読者の誰もが警戒してきますよ。きっと。


No.276 5点 逆転裁判 時間旅行者の逆転
円居挽
(2018/02/09 12:52登録)
 原作ゲームのシリーズもしたことないし、少し前にやっていたTVアニメ版も未見だが、謎解き部分の面白そうな設定に興味を惹かれて手に取った。
 SFガジェットを謎解きミステリに真っ向から取り込みながら、その趣向そのものを一種のミスディレクションにしていく展開は悪くないんだけれど、最後の真相解明の部分は舌っ足らずではぐらかされた感じもする。


No.275 5点 フォールアウト
サラ・パレツキー
(2018/02/09 12:44登録)
 終盤、かなり大がかりな過去の事件の真相が見えてくるあたりはさすがのダイナミズムだが、とにかく長い! 登場人物が多い!!
 お話の流れは中期以降のロス・マク風の<親の因果が子に報い>ドラマに、巨匠パレッキーが人生の晩年にアメリカ文化に対するルサンチマンを吐き出しておこう、みたいな思いがからみあった感じで、錯綜しっぱなし。
 実に平易な訳文とおのれの内面を全部語るヴィクのキャラの敷居の低さもあって本文そのもののリーダビリティは高いが、それでも国産の新本格作品3~4冊分を読むエネルギーをこの1冊に使った。
 ともあれ読み終わったあとは、最後まで読破した達成感もふくめて、そこそこ悪くない気分でもある。


No.274 6点 死者はふたたび
アメリア・レイノルズ・ロング
(2018/02/09 12:33登録)
 (正統ハードボイルドなどの一部をふくむ)私立探偵小説には思いのほかパズラーの興味を乗せやすいという一部ミステリ評論家の見識どおり、謎解きと行動派私立探偵ものの要素ががっぷり組んだ佳作~秀作であった。その意味でとても端正な一作。
 ちなみに、結局、この主人公はレギュラー探偵にならなかったみたいだけど、その辺は特に際立った個性がないから仕方がないか。なんかこのシンプルなキャラクターに独特の魅力は感じるんだけどね。
 ただし警察には協力しすぎ。ここまで警察側と友好的な(一応はハードボイルド風の)私立探偵キャラクターは初めて見た。まあその分、話はサクサク進んでいいんだけど。


No.273 7点 聖エセルドレダ女学院の殺人
ジュリー・ベリー
(2018/02/09 12:27登録)
 ヒッチコックの映画版『ハリーの災難』みたいな、ちょっとだけシニカルながらも上質なスラプスティック・ミステリコメディであった。
 もうこの主人公の少女たちが同じ場に揃う続編はありえないだろうけど、年長のひとりと一番年少の二人だけでも再登場させた新作がぜひ読んでみたい。


No.272 7点 13・67
陳浩基
(2018/02/09 12:23登録)
 世評の通り、実に読み応えのある連作短編形式の長編だった。
 ミステリについての多様なセンスを自家薬籠のものとしている作者の器量には感服。最後の話はちょっとずるいんでないかいと思いつつ、ラストまで、してやったりという感じで幕を引いた送り手の手際に笑み。


No.271 5点 雪と毒杯
エリス・ピーターズ
(2018/02/09 12:19登録)
 犯人に関しては、フェアプレイに務めて丁寧すぎる叙述が仇となり、これしか無いでしょうという感じですぐにわかる。恋愛模様のからんだ人間ドラマの部分は、なんか昭和30年代の手塚漫画の単発中編(少女もの)を読んでいるような感じであった。
 全体としては嫌いじゃないけれど、後半~終盤のまとめ方がやや乱暴に思えてこの評点。


No.270 5点 過去からの声
マーゴット・ベネット
(2018/02/09 12:13登録)
『飛ばなかった男』から60年ぶりのこの作家の翻訳刊行。実にロマンである。

 その『飛ばなかった男』の感触から、今回もいかにも旧クライムクラブ風というかのちの日本の新本格的な内容を予期したが、実際の中身はずいぶんと違ったものだった。
 主人公であるヒロインの彼氏が殺人現場に関わった(犯人ではないらしい?)。
 じゃあ素直に警察に届けるか、いや、ちょっとの小細工でより良い結果を得られるのではないか・・・というグレーゾーンの状況の中、徐々にややこしい立場になっていく主人公の図はなかなか説得力があり、その辺は面白かった。ちょっとウールリッチ風の趣もある、ラブ・サスペンスである。
 ただまあベネットの未訳作品の残りがこのレベルなら、もうあえて紹介しなくってもいいんじゃないかとも思えたけれど。


No.269 6点 崩れる脳を抱きしめて
知念実希人
(2018/01/10 12:09登録)
 ミステリ版『半分の月がのぼる空』。そつなく書けている。主人公の窮地からの逆転劇もお話作りとしてうまい。

 ・・・だけのハズだったのに、最後にページを閉じるとき、眼が潤んでいた。何でだろ。


No.268 6点 透明人間の異常な愛情
天祢涼
(2018/01/09 12:44登録)
 悪い意味でどんどんキャラクターものになっている感のあるシリーズ。
 当初から××機能を使っている透明人間という設定を読者に明かしておいて、その上で謎の怪人の正体を探る趣向はミステリ的にアリだとは思うが、その上でどう読んでいっても想定を大きく外れない解決が少し食い足りない。
 とはいえミスディレクションをイケイケで繰り出してくる作者の手際は、やはり好ましいんだけどね。

 個人的にはこの「タイガ」版路線の美夜シリーズにさっさと決着をつけて、当初の『キョウカンカク』的な単発ものに戻してほしい。


No.267 5点 S&S探偵事務所 最終兵器は女王様
福田和代
(2018/01/09 12:16登録)
 ミステリとしては薄味だが、キャラクターものの連作としてはそこそこ楽しめた。本作の前日譚となる長編は未読だけどね。
 読んでいる間はITの知識が増えたように思える。


No.266 7点 マツリカ・マトリョシカ
相沢沙呼
(2018/01/09 12:11登録)
 以前から気になりながらも全く手つかずだった相沢作品でマツリカ・シリーズだが、初めて読んでみたこの一冊はえらく歯応えがあり、そして面白かった。
 血なまぐささ皆無の日常の謎を契機にした多重推理が連なっていく趣向、そして最後に名探偵が綿々と語るロジックの切れ味と多重感。

 巨×のあたりのロジックなど、それはどうよ、それでもやる人はやるんじゃないの、という思いもしないでもないが、その辺の受け手のツッコミを刺激するのですら、きっとこの作品の芸であろう。まちがいなく2017年の最大の収穫のひとつ。


No.265 6点 痴漢冤罪
新堂冬樹
(2018/01/09 12:00登録)
 それぞれ過去に心に傷を負いながら、悪党として生きることを選択した二人の男の闘い。
 新堂作品はあまり読んでないんだけど、これは良い意味で、一回も視聴をやめられない深夜23時枠のよく出来た連続テレビドラマを観るようで実に面白かった。
 後半の脇役の使い方が一部ストーリーの駒的になっているあたりとか、ラストが少し弱いのはナンだが、それでも十分に読み応えある一冊。


No.264 6点 がらくた少女と人喰い煙突
矢樹純
(2018/01/09 11:54登録)
 がらくた集め少女に比べてもうひとりの主人公のキャラクターはいまいち生かしきれなかった印象だが、死体の首が喪失した真相に関しては、前代未聞の奇想であろう。
(もし前例があったらすみません~笑~)
 
 それにしてもこれは確かに、今風の筆致で綴った横溝作品だよね。横溝ファンの人は「ああ」と通じるものがあるでしょう。


No.263 6点 紅城奇譚
鳥飼否宇
(2018/01/09 11:46登録)
 戦国時代の一つの城郭の隆盛期からその破滅までの挿話を、謎解きミステリ連作の形で綴った外連味ゆたかな一冊。
 なかにはちょっと薄味なものもあるが、奇想かつトリッキィな趣向の連発は最後まで楽しめた。


No.262 7点 カミカゼの邦
神野オキナ
(2018/01/09 11:42登録)
 小説としての熱量は、全盛期の西村寿行を思わせる感じで最強だった。
 沖縄を主題にした作者のルサンチマンは間違いなく受け手を選ぶだろうが、それも良い。きわどさの中にあまり深入りしたくないという弱気な思いを抱かせながらも、こちらの心をしっかりと捉えたそんな一冊。


No.261 5点 陽気な死体は、ぼくの知らない空を見ていた
田中静人
(2018/01/09 11:36登録)
 ヒロインふたりの凄絶な関係は、これがフィクションでありドラマであっても、もう少し何とかなったはずでしょう、という印象です。書き手が登場人物いじめに酔っている感じで、どうもすんなり受け入れられなかった。
 最後のホワイダニットの真相はそれなり以上に鮮烈だけど、一方で幽霊ドラマを並列して綴ったために、物語の焦点がぼけた気もする。

 ただ筆力はある新人作家さんだとは思うので、次作もまた読むかもしれない。


No.260 5点 帝都大捜査網
岡田秀文
(2018/01/09 11:31登録)
 大筋のホワットダニット(何が、どういう事件が起きているのか)の方はまあ面白かったものの、もうひとつの大仕掛けの方は必要だったのか? という印象。はっきり言ってこの長編で、この作品で、この事件でやる必然性は、頗る希薄だよね。
 途中で違和感を覚えながらも、別にことさらそんなヘンなことする意味もないだろと思っていたら、最後に・・・。
 もちろん、この仕掛けで、あまたある現行国産ミステリの中で、とにもかくにも作品の印象を強めたという一点の意味ならば、まさに作者の思惑通りですが。
(まあ、この考えを突き詰めていくと、ミステリ史上、名作と呼ばれているいくつかの作品にも咎が行くんだろうな。そうなったらそうなったで、アレなんだけど。) 


No.259 6点 少女は夜を綴らない
逸木裕
(2018/01/09 11:21登録)
 今回も前作に負けない力作だとは思う。サブキャラクター(悪役のオヤジや、特売マニアを自称する下級生の女子ほか)もよく描き込んでいる。
 とはいえ本作の場合、ミステリの妙味が青春小説としての側面にもうひとつ拮抗しえなかった印象が残る。いやミステリとしての工夫はしてあるんだけど、そのパーツの座りがいまひとつこなれてない感じというか。
 他の作者の他の作品だったら、ミステリとしては薄味でも良い小説、泣ける青春小説だったら高い評価をしたいものはいくらでもあるんだけどな。なんでなんだろ。


No.258 5点 鉄道探偵団 まぼろしの踊り子号
倉阪鬼一郎
(2018/01/09 11:15登録)
 連作中編集。倉阪作品はそんなに読んでいないのだけど、新シリーズらしい。
 一部、ミステリとしては成立していないんじゃないの?(謎解きをかなり専門的な分野での知識に負うという意味で)といった感触の話などもあった。
 が、未知のジャンル(筆者にとって)で楽しそうにトリヴィアを興ずるキャラクターたちの語らいは悪くない。
 個人的には最後の一編が、ホワイダニットの謎としても市井の人間ドラマとしても印象に残る。

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