| 人並由真さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.36点 | 書評数:2324件 |
| No.2324 | 5点 | 悪魔の系図 島田一男 |
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(2026/04/24 22:03登録) (ネタバレなし) 弁護士・南郷次郎はその夜、バーで引っ掛けた若い女性と、相手のアパートで情事に及ぼうとする。南郷は酔いつぶれた女のバッグの手帖から当人の住所と氏名を知り、さあ始めようとするが、相手の腕に常習らしい麻薬注射の痕があるのに気づき、深入りを避けて退去した。その翌日、なじみの板津部長刑事が南郷の事務所を来訪。昨夜の女・若月二美が麻薬の過剰注射で死亡し、現場に南郷の名刺があったことから事情を尋ねにきたのだという。二美の死の状況に相応の違和感を抱く南郷は独自の調査を始めるが、まもなく彼は二美の三つ子の姉妹である一美と三美そしてその母親が大地主となる若月家と、その周辺での石油採掘権をめぐる騒動に巻き込まれていった。そしてそんな彼の前には、死体の山が築かれていく。 wiki(必ずしも当てにならんが)によると、南郷次郎ものの第5長編。3年前に読んだ『冥土の顔役』の次の事件で、1958年に「面白倶楽部」に連載し、同年に光文社から刊行らしい。 古書市のワゴンで220円で買った桃源社版(1979年)で読んだが、挿し絵が入っていてなんか得した気分になる。 内容は、南郷、何回オンナとヤルんだ、何人、人が死ぬんだ、という感じの通俗ハードボイルドミステリで、南郷を主役にカーター・ブラウン化するとこーなるのだ、という感じ。 悪役も「おれって男は、女を裸にするのが大好きなのさ……」「女は、裸にすりゃ、たいていの泥を吐くものさ」などの名セリフ・珍セリフの続出で、ケタケタ笑う。 肝心のミステリ要素は、とにかく作者が人死にのイベントを起こして物語の弛緩を防ぐような作劇で、ある意味では読者サービスを忘れていないともいえるが……まあ。 真犯人は意外ではあるが、一方でこのひと、本当に前半の方の事件に関わってるの? というか作者、前半の伏線や出来事を忘れてない? と思える話の結構で、うん。まあそういう作品。 ちなみにシリーズ内では影の薄かった南郷の奥さんだが、読者の知らないうちに本作の3年前に死別しているらしい。また本作ではヤリまくる南郷だが、おなじみ金丸京子女史には<本命はキミだ>風にジャブを打ち込んで(からかいのニュアンスもあるかも知れないが)、金丸京子の方もそれに冷静に応じながらも、まんざらではない対応なのが可愛い。 まあミステリとしての評点はこんなもんですが、昭和の時代臭をふくめて妙な楽しみどころはないでもない一冊。 |
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| No.2323 | 6点 | 二度殺せるなら リンダ・ハワード |
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(2026/04/20 12:10登録) (ネタバレなし) その年の8月。ニューオーリンズの路地で、かつてベトナムで一流スナイパーだった50歳代の男性デクスター・ウィットロウが殺害される。デクスターに13年前に母もろとも半ば捨てられたような娘カレン・ウィットロウは現在オハイオ州で29歳の看護婦となり、つい3週間前に最愛の唯一の家族だった母ジャネットを失ったばかりだった。生き別れの父が殺害された知らせをニューオーリンズの30代の刑事マーク・チャスティンから受けたカレンは現地に向かうが、そこで成り行きからマークと惹かれ合うようになる。だがそんなカレンの周辺に、亡き父の生前の秘密にからんで怪しい事件が続発し始めた。 1998年のアメリカ作品。だいぶ以前から気になり、本も何冊か古書で購入していたリンダ・ハワードだが、実作は本作が初読みのハズである。 父が娘に遺した? らしいマクガフィン(終盤までその実態は未詳)をめぐってある謀略が進行。一方でその状況が主人公のカレンとマーク以外の別の主要人物にも影響を与えていく。 カメラの切り替わりはやや多いが、文章が平明で読みやすい上に登場人物の交通整理はしっかりされている(かな……)なので、さしたる混乱はない。 おおざっぱにまとめるなら女性主人公カレンと彼女と恋仲になる青年刑事マークとの濃厚なセックス描写も含めたロマンス・サスペンスで、良い意味でまあ、これはこれで……という一冊。 大半の人には半ばミエミエ中尾ミエではあろうが、いったい、その父デクスターが秘匿し、悪人連中が追う秘密とは何なのか? という謎のフックと真相が判明した際のサプライズもある。評点は実質5.8くらいだけれど、まあいろんな思いを込めてこの数字。 なおサイドストーリー的に、あれ、このキャラ、こんなにも設定を作っておいてこれだけ? という印象の某・登場人物が出て来るが、本作の物語世界はその当該キャラを男性主人公にして、別作品『青い瞳の狼』に続くらしい。そっちもいつか縁があったら、読んでみよう。 |
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| No.2322 | 6点 | 溺れる女 笹沢左保 |
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(2026/04/19 12:09登録) (ネタバレなし) 昭和40年代前半に雑誌掲載(それも小説専門誌ではなく、女性誌や若者向け雑誌が大半)された11本の短編を集成した光文社文庫オリジナルの短編集。なかにはミステリとは言い難いものも入っているが、全編が男と女の関係を主題とする作品群である。総ページ数が260ページちょっと。それを11篇で割ると平均して一本の長さが20ページ強と楽に読めて、作品によってはそこそこの手ごたえもある(まあ、そこまでの評価に見合う作品は、あんまり数は多くないのだけれど)。 広義でいえば『六本木心中』の系譜の作品ばかりではあり、その意味では作者の持ち味のひとつは確かに感じられる。 スレッサー風の仕上がりの「霧の夜」が割とミステリっぽいが、切なさで読み手の心にフックをかけようとする「望郷の夜」「夕映えは死んだ」「夜は明けない」などが良い意味で本書のスタンダード。「別れのテクニック」は実践論的なエンターテインメントとでもいうべきか。 これはこれで価値のある一冊であった。 |
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| No.2321 | 6点 | 狂った信号 佐野洋 |
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(2026/04/18 16:11登録) (ネタバレなし) 明光自動車教習所の30歳の教官で好色な小笠甚一は、無職の28歳と自称する受講生の美女・山際睦子に誘われて情事に及ぼうとするが、その直後に殺される。やがて都内周辺で小笠の事件と接点があるらしい? 殺人事件が続き、捜査本部はその相関性の真実と真犯人を追うが、なかなか糸口が見いだせなかった。だがそして……。 序盤で事件の構造をほぼ割っておく? ような半倒叙系の謎解き作品なので、これはさらにひとひねり、ふたひねりあるのだろうと期待して読み進める。結果、どうだったかはもちろんここでは書かないが、ホワイダニットを謎解きの軸とするには、ちょっとテーブルの上にカードの表を晒しすぎではあろう。 とはいえガチでそこで勝負すると、かなり物足りない作品なので、読者との駆け引きとして、ある程度物語の底を割っておいたのは、送り手側の正しい配慮だともいえるのだが……。 悪く言えば曲のない長編だが、よくいえばベクトルの定まった作劇を前提に、警察側の捜査の丁寧で執拗な叙述で読ませた作品。 佐野洋にしては、モブキャラの何人かに属性の書き込みがやや多めで、そんなところにもプロットやギミックよりも語り口で作品の値打ちを高めたかった気配が透けて見える。 最後のメッセージ性は、まあ、うん。佳作の下~中。 EQ風の遊び心を感じさせる、各章の見出しはなかなかよろしい。 |
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| No.2320 | 6点 | その朝お前は何を見たか 笹沢左保 |
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(2026/03/18 08:40登録) (ネタバレなし) 4年前まで「東洋航空」のジェット機操縦者だったがさる事情から退職し、今は「国内運輸」でトラック運転手の業務に励む35歳の三井田久志。彼はアパートの隣人である27歳の美人・結城淳子とその母ユキエの応援を受けながら、ただひとりの家族である6歳の息子・友彦を養育していた。そんなある日、神戸の女子大生・藤宮陽子の誘拐事件がマスコミの話題となるが、ラジオから流れてきた一般公開された誘拐犯人のひとりらしい女性の声を聴いて親子は驚く。その特徴のある声は、2年前に夫と友彦を置いて蒸発した三井田の妻・沙織のものだった!? 笹沢左保の著作200冊発刊記念として、81年5月に書き下ろし刊行された長編ミステリ。 夜中の仕事が一区切りしたので朝までに何か一冊読みたい気分で、本作の徳間文庫・新装版を手に取った。 タイトルの響きが魅力的で、最初はそれだけ目にして60年代半ばあたりの初期作かと思ったが、実際には前述のとおりそうではない。題名の意味は最後の1ページでわかる(特にミステリ的なネタバレではない)。 家出した妻(実質・元妻)が重大事件の犯人だと息子が哀れだと思い、改めてキーパーソンである沙織の蒸発の軌跡を洗い直す主人公・三井田の物語で、途中で登場するちょっと面白い作中ポジションの助演キャラの活躍もふくめて、筋運びは快調。例によってリーダビリティはすこぶる高い。ポッキリ2時間で読み終えられる。 記念作だけあって(?)さすがにエロは控えめだが、読者視点での推理要素はほぼ皆無。三井田の動向に応じて与えられる情報を読み手が共有するタイプの作品だが、終盤に一応の大きなサプライズは用意されている。ただまあ笹沢の手癖で、読みなれている読者ならなんとなく察しがついてしまうかも。 ただそれでもラストをやや強引にも、剛球のヒューマンドラマにもっていく作者の職人ぶりはさすがで、その辺のスピリットは私立探偵小説でも捜査小説でもないんだけれど、かなりハードボイルドの趣が濃い。クライマックスの展開と言うか描写もいい感じに王道。 受け手がこの設定や導入部から何を期待するか、によってかなり評価が違うかも、という気もするが、個人的には良い意味で笹沢作品らしい妙味が味わえた。佳作。 |
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| No.2319 | 8点 | A先生の名推理 津島誠司 |
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(2026/03/17 06:44登録) (ネタバレなし) 本サイトにほぼ日参するようになって、およそ10年。そんななかでサイト内の未知の作品のレビューを散策するうちに、なんとなく気になった&心に引っかかった何冊かのミステリのうちの一冊が、コレだった。それが7~8年前。 古書価が少し高めなので、どっかのブックオフか古書店の100円棚で出会えればいいなと思いつつ気が付いてみたら、あっというまに2025~26年。 そんなタイミングで2025年の新刊『コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く』(笛吹太郎)を読むと、同作の作中の登場人物間のミステリ談義とさらに本編外の作者の注釈で、この作品『A先生』が実に面白そうに語られていた。じゃあ、そろそろ……と一念発起して近所の図書館から借りてきた(そこの蔵書にあることは知っていたが、できればなぜかこの本は購入して読みたい気持ちが強めだった)。 で、読み始めると、ケレン味満点の怪事件の謎が出るわ出るわ、で予想以上に楽しい。 私の場合、謎解きの解法に関しても実はどれもそんなに不満はなく、各編が良い意味でナナメ下の急角度で、A先生の説明に襟首を掴まれて<現実の世界>へと引き戻される感じ。 「夜光怪人」も「山頂」の消える小屋の謎も、「ニュータウン」のホワットダニットも、「浜辺」と海での連続怪事件も、どれもこれもヒジョ~にワクワクした(「物体X」がちょっとだけ他より落ちるが、これも悪くはない)。 ベスト編は「浜辺」イチオシ。とんでもない悪夢のようなビジュアルと、その真相の落差。これこそ新本格の妙味のひとつである。 さらに巻末のノンシリーズ編。これもまた、実にいい感じに肝を冷やしてくれて、何とも言えない感興のなかで一冊を最後まで読み終えられた。そのラストの一本が、なんか戦前の「新青年」か戦後初期の「宝石」の、グルーミーかつシンプルで切れ味の良い秀作パズラーに触れた気分。 この作者はこの一冊だけ残して(ほかに短編が少しあるようだけど)、ミステリ史からこのまま消えてしまうのかなあ。惜しいなあ。本当に惜しい。もう一、二冊くらい、5~10年単位で著書を出してくれないかなあ。 |
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| No.2318 | 7点 | 世界でいちばん透きとおった物語2 杉井光 |
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(2026/03/15 01:02登録) (ネタバレなし) 前作より良かった、という人が意外に多いのでは? と実に勝手に観測するが、当方もそのひとり。 前作の大仕掛けにあまり価値を見出せない(ねぎらいの念は抱く)自分としては、今回の作品のミステリ的な構造、そしてその向こうにあるメッセージ性に素直に感情が溶け込めた。 今さら繰り返すのはしつこいのを百も承知で言うが、こんな(中略)作品を書ける人が、どうしてあんなくだらない事をしたんだろうなあ。いや、ああいう過ちをしてしまった実作者だからこそ、こういう作品を本気になって? 書いたのか?? つくづく、人間はおもしろい、と思った。 |
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| No.2317 | 7点 | 鍵かけた扉のかげで アーネスト・M・ポート |
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(2026/03/14 23:22登録) (ネタバレなし) 1913年8月のニューヨーク。73歳の退役軍人ジョージ・カリントン・コンフォード少佐が、自宅の屋敷で刺殺される。少佐は若い頃の蛮行的な武勲の反動でかつて手に掛けた者の係累から復讐されることを病的に恐れ、屋敷の中でも自室の周辺に敷居を設けるほどだった。「僕」こと28歳のインターンでベルビュー病院の緊急医フレデリック・ホームズ・ブレイクリーは当初からたまたまこの殺人事件に関わるが、少佐と同居する22歳の美人の姪でそして伯父殺しの容疑者となったミルドレッドに恋してしまった。なんとか事件の真相を暴いてミルドレッドの潔白を証明したいフレデリックに、彼の悪友で同僚の好漢コステロは、NY56丁目に療養所を構える老齢の精神病理学者でそして知る人ぞ知るアマチュア名探偵であるサディウス・ベンティロン博士の存在を教えた。 1919年に雑誌連載され、1923年に書籍化されたアメリカ作品。長編3本、中短編30本に及ぶ精神病理学者の老探偵ベンティロン博士シリーズの第一弾。 巻末の訳者の解説によると全作品が未訳で、本作が完全に初紹介の作品らしい。 おなじみの新世代? の訳者(&クラシックパズラー探求家)白石肇が発掘翻訳した作品ということで、それだけで信頼して購入した。 密室……というにはいささか甘いロケーションの殺人現場ながら、20世紀初頭当時のニューヨークの大都会の御屋敷で起きた殺人、という外連味が楽しく、訳文も快調でリーダビリティも高い。 ミステリ史的には、けっこう恋愛要素を詰め込んだ筋運びが当時は毀誉褒貶を呼んだらしいが、個人的にはフリーマンの『赤い拇指紋』みたいな感触のメロドラマ性の強い謎解きミステリという味わいでなかなか楽しめた。 しかし本作のいちばんの望外の楽しみどころは、偏屈医者にして老探偵ベンティロン博士のズバリ水戸光圀的なカッコ良さ。わがままを言って待合室にたむろする有閑患者は邪険にする一方、本当に必要と思える病人には手を差し伸べるプロフェッショナルぶりとか、相手の器量や実績も知らずに舐めてくる相手を眼光で威圧する描写とか、実にステキ。いやわかりやすい大衆小説的にカッコイイ爺ちゃんヒーロー探偵なんだろうけど、その剛球ぶりにホレボレしました(そのくせ、死別した愛妻にいまも純愛を抱いているらしいというさりげないメンタリティの叙述にも泣ける)。 最後の事件解明への軌跡も踏まえて、なんか久々に良い意味で<まったく未知の、名探偵らしい名探偵キャラクター>に出会えた気分であった。 ミステリとしての謎解きは、正直やや緩めかつ直線的でサプライズも薄く、その辺は弱いといえば弱いんだけれど、一世紀以上前の黄金時代前夜の旧作ミステリとしてみるなら、私的には十分に楽しめた一冊。まー、ほかの方がどう思うかは知らんが、個人的には本シリーズの未訳の短編のなかからよさげのものを十本くらいセレクトして、短編集でも翻訳刊行してくれればウレシイ。 ガチな謎解きパズラーとしてはともかく、トータルとしては十分に楽しめた一冊であった。 |
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| No.2316 | 7点 | 完全不在証明 クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ |
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(2026/03/09 21:36登録) (ネタバレなし) ロンドンから16マイル離れたグレート・ヘイク周辺にある町フェアビュー・エステート。そこの大地主オーヴァチェア卿が先祖から受け継いだ小塔型の御屋敷。そのガレージである夜、火事が生じて中から死体が見つかる。状況から、死の商人として名を馳せた40歳台半ばの実業家アントニー(トニー)・マリンズが、何者かに殺された? と捜査陣や土地の者の間に疑念が生じた。捜査が進むなかで複数の容疑者が浮かび上がるが、彼らにはみな確固たるアリバイがあった。 1934年の英国作品。 おなじみのミステリ研究同人誌「Re-ClaM」の別冊として鳴り物入りで刊行されたが、最初の通販を買い逃し、仕方がないので昨年の歳末に、都内のミステリ専門古書店「盛林堂」に初めて足を運んだ(もう何年も通販は利用してるが、直に行くのは今回が初めて)。 おかげで無事に店内にあった残部を買えたが、そうしたら今年になってから発行元がAmazon経由で本書の一般販売を開始。ちょっとフクザツな気分だが、まあ、いいか、である(ごく個人的な意味合いで、同店に赴いた意味はそれはそれであった)。 三門氏の長編作品の翻訳は実は今回初めて読んだが、セミプロとしては達者に思える一方、同じセンテンスの中にまったく同一の修辞をつっこむなど、読む日本語としてもうちょっとこなれさせられるのにな、という箇所も散見し、ほんの少しだけ引っかかった。 章の分割はこまめでその分、場面展開や筋運びはスピーディ。それでも地道な捜査のくだりは中盤までちょっとだけかったるかったが、後半になると話の流れにギアが入る感じでなかなか面白くなる。キーパーソンはアントニーのずっと年下の美人妻パトリシアだが、彼女を軸にした人間関係の綾が見えてくるあたりから、各登場人物が怪し気に思え始める。だがそれが表面通りのことか否か? そのほぐれ具合が読みどころ……かもしれない?! 最後のサプライズはたしかに大技で、ミステリとしてそこで終らずに犯人像というかホワイダニットについての掘り下げがあるのも良い。英国の某作家の系列、という感触もあるが、ここではネタバレを警戒して、その想起した作家の名前は出さないでおく。前半、実はかなり大胆な仕掛けをしていたのにもニヤリ。 フツーになかなか面白い、黄金期クラシックパズラー。いろんな意味で時代色はあるが、そこもまた味。大騒ぎしなくてもいいけれど、こういうものを発掘紹介・翻訳刊行してくれた三門氏にはあらためて感謝。 |
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| No.2315 | 7点 | 狼少年ABC 梓崎優 |
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(2026/03/04 04:09登録) (ネタバレなし) 割と読みやすい、口当たりの良い作品ばかり4本という中短編集。 だが最初の二本は悪くはない……とは思いつつ、一年のなかで読んだあまたの国産短編ミステリの大海の中に埋没してしまう感じ。 正直、三週間くらい前から一編ずつ間を置いて読んだが、3本目までは、ひとつ読んでも「面白い、次の読もう」というリビドーがほとんど生じなかった(汗)。さらに言うなら、もう自分は最初の二編の細部も真相も、頭から薄れかけている。結局、その辺は私にとってはあまり響かなかった、ということだろう。 とはいえ「狼少年ABC」の真相というか、劇中での解釈は割とスキだ。 (一方で、そんなことリアルにあるのか、フィクションのリアルならギリギリか……という部分もあるのだが。) で、最後の「スプリング・ハズ・カム」である。 本サイトのsophiaさんの激賞がなんか頭にひっかかりながら読み始め、それでも序盤~前半からの淡白っぽい筋立て(というか作劇&話術)に読む側もいつのまにかトーンダウンしていったが………………(中略)。さすがにこの一本は、数年たっても忘れないだろう、というか忘れたくない。 (黄金期欧米の某巨匠作家のあの中編や、少年時代に読んでショックを受けたあの海外短編を思い出した。) ラストの余韻までふくめて、これ一本に8~9点。あとの3本は6点。 平均して、本全体で、この評点。 わがままな私の採点だと、そーなる。 |
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| No.2314 | 6点 | 袋小路 ジョルジュ・シムノン |
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(2026/02/28 05:36登録) (ネタバレなし) 南フランスのカンヌから少し離れた港町ゴルフ=ジュアン。そこでは老富豪パブリエの妻で40代後半のジャンヌが、年頃の娘エレーヌとともに夫と離れて暮らしていた。放蕩の気があるジャンヌは持ち船のヨット「エレクトラ号」の「船長」こと船乗りの白系ロシア人ウラディミールを年下の愛人にしており、そのウラディミールはともにロシア革命から逃げてきた若者「ブリニ」の兄貴分だった。だが美男で温厚なブリニと若き令嬢エレーヌの親しげな関係に、嫉妬めいた感情を覚えたウラディミールは。 巻末の瀬名先生の詳細な解説によると、1936年春季に執筆されて同年秋に雑誌連載され、1938年に刊行された長編。 物語の縦軸は、男性主人公ウラディミールと中年ヒロインのジャンヌ、そして準メインキャラクターといえるブリニとエレーヌたちの交互の関係性の弛緩と緊張。さらにジャンヌが夫から任されたか贈られたかしたらしい屋敷に集う、有閑的な男女や使用人たちの群像描写でページが埋まっていく。 後半の山場以前に、ドラマ的な大きな転調ポイントは散在するが、登場人物たちの息遣いになじめないとややかったるい。 逆に言うと怠い、と思いかけるその直前のタイミングで、話の随所に起伏があり、そういう意味ではさすがシムノン、なかなか食えない作劇ではある。 で、瀬名先生、最後の1行に至るまで、帯でもベタボメだが、個人的には何を言いたい、書きたいかはわかるつもりだけど……という程度の感慨。 詳しいことを言うと小説の最終的な方向性のネタバレになりかねないので言葉を選びたいし、具体的な感想も控えるが、良くも悪くもグレアム・グリーンぽい文芸味を、あるパートでひしひしと感じる。いや直接、信仰などの類は出てこないが、それでも人間の(中略)という主題はグリーンあたりの諸作との共通項ではあろう。 くだんの瀬名先生が実際にそのようみたいだけれど、ハマる人にはハマるかもしれないと思える作品。ただし個人的には、作品が訴えたいことはなんとなく見えるようでありながら(?)、さほどシンクロできるわけでもないない。こういう流れだったら、こうなるだろうなあ……というのが、悪い意味で腑に落ちるからかも知れない。佳作以上の一本だとは思うけれど。 登場人物では、後半に出て来る若い看護婦のブランシュが妙にくっきりした存在感があって印象に残った。 |
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| No.2313 | 7点 | こちら幻想探偵社 清水義範 |
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(2026/02/28 05:04登録) (ネタバレなし) 「おれ」こと乾三四郎はかつて国体を目指す体操選手だったが、足の負傷から断念。大学を出た現在は正業に就かず、特撮テレビ番組『宇宙捜査官ギャレット』のスーツアクターのバイト業務をこなしていた。そんな三四郎に大学時代の悪友・真下昇がともに私立探偵事務所を開こうと誘いを掛ける。だが三四郎は、人はいいが世間知らずな御曹司・真下の思い浮かべる探偵稼業とは、あくまでフィクションの中の名探偵の模倣だと二の足を踏む。そんな三四郎の前に、遠宇宙の美少女プリンセス・ ライララが出現。彼女を狙う暗殺者のエイリアンを成り行きから撃退した三四郎はそのままライララの世話を見る事になり、彼女に自分の従姉妹の矢田知代という素性と偽名を名乗らせる。ライララ=知代の救助の際に、やはり成り行きからスーツアクターの仕事を失った三四郎。そんな彼に真下はなおも探偵稼業を勧誘するが、三四郎は真下の求める名探偵ごっこでは生活ができない、と警戒した。だがそんな状況を横から眺め、さらに地球の文明を独自の歩幅で解析した知代は宇宙の超科学を用いて、真下の探偵事務所に奇妙なミステリ事件の依頼が集中し、三四郎と真下、そして自分が探偵稼業で十分に生活ができる特異点を設けた。だがそのミステリとは推理能力を必要とする謎解きのミステリではなく、オカルトやスーパーナチュラルな怪異の方のミステリであった。 SF、オカルトありの世界観での連作ミステリで、なんでそういう状況になったかの理屈付け(上のあらすじ参照)がなかなか振るってる(笑)。 シリーズものの名探偵を増産していたツヅキはこの趣向を認めて、どう思ったろうか。もしかしたら、後進にオモシロイアイデアを思いつかれて悔しがったのでは? とも夢想する(まあ現時点では、あくまで勝手な想像だけどね)。 シリーズ1冊目の本書には、設定編の第1話を含めて4編のエピソードを収録。第1話の段階で出オチっぽい流れになるかな? とも思ったが、2話以降も前述のツヅキのトラブルコンサルタントもの(片岡直次郎シリーズ)とかのSFミステリ版……というよりは、SF範疇の解法もアリの連作ミステリ事件帖として、なかなか楽しめる。ホワットダニット、ホワイダニットと各編の謎の散らばせ具合もなかなかゆかしい。 本書の読了後、シリーズ2冊目も、すでにネットで古書を購入(注文)してしまった。 なお元版は1984年のソノラマ文庫で出たジュブナイルだったようだが、評者は1999年の新装版(ソノラマ文庫NEXT版)で読了。 ちなみにテレビで新作の意宇宙刑事ギャバンが復活したこの時期にこれを読んだのはあくまで偶然だが、どっかで何かの因果が働いてるのかもしれん(笑)。まー、不可知のことなので、考えてもアレなのだが。 |
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| No.2312 | 8点 | 真犯人はこの列車のなかにいる ベンジャミン・スティーヴンソン |
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(2026/02/21 06:13登録) (ネタバレなし) 「ぼく」こと新進ミステリ作家アーネスト(アーニー)・カニンガムは「オーストラリア推理作家協会ブックフェスティバル50周年記念プログラム」の催事に参加し、同伴の恋人とともにイベント会場であるオーストラリア縦断の豪華列車「ザ・ガン」に乗車。3泊4日の日程の中で、錚々たる作家たちそのほかと対面した。なかでも最大の花形作家は、人気ミステリ「モーパント刑事」シリーズの作者として高名なヘンリー・マクダヴィッシュだが、作家、編集者、ファンたちが一堂に会する車内には、各自の思惑がひしめいていた。やがて車内で殺人事件が起きるが。 前作も結構面白かったが、今回はそれに輪をかけて楽しかった! 序盤からメタ的な記述を含めて外連味たっぷり、サービス精神豊富な趣向に加えて、多すぎも少なすぎもしない登場人物各キャラの交通整理が行き届き、謎解きミステリとしても、起伏に富んだストーリーテリングのエンターテインメントとしても非常に楽しめる。 (特に全体の3分の2辺りでの、イベントに流れ込むお話の作り方とか。) あ、あと出版界の業界ドラマ的なネタの豊富さの面でもあれこれオモシロイな。 で、真犯人はアーネストの謎解き完遂前に気が付いてしまったが、これは逆説的に探偵役の推理の明快さの裏返し。登場人物の頭数を無駄にせず、使いこなした作劇(と事件の構築ぶり)の冴え、そして名探偵の見せ場のハイテンションぶりにシビれる。 (その上でかなり強烈な、真犯人のキャラクターで動機であった。) 全体として、出来のいい時の中期~後期のクリスティーみたいな仕上がりで、お話の面白さとミステリとしての結晶度が実に良い感じで融合している。 9点に近いこの点数で。 シリーズ3冊目の邦訳を、慌てずゆっくりじっくりと心待ちにしよう。 |
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| No.2311 | 6点 | 私の大好きな探偵―仁木兄妹の事件簿 仁木悦子 |
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(2026/02/17 17:02登録) (ネタバレなし) 仁木作品は『冷えきった街』を頂点に『枯葉色の街で』などの長編も好き。さらにそこそこの数の長編や短編をつまみ食いで読んではいるが、考えてみると看板役の探偵? である仁木兄妹のシリーズは、これまで大系的に楽しんでいるわけではなかった(……)。 というわけで例によってブックオフの100~200円棚で、本書の美本が目についたので買ってきて、現状の評者がの2025年度のSRのベスト投票用の新刊を精読する合間に、就寝前などに読んでいた。 しかし仁木兄妹といえば、昭和の国産ミステリ史上ではそれなり以上に高名な方の名探偵キャラクターだと思うが、その主役編の書籍未収録短編(『みどりの香炉』)が、本書刊行の2009年まで発掘されずに残っていた、というのはかなりのロマンである。 昭和のあの探偵とか、かの名探偵も、まだどっかに知られざる短編とかが眠っていたらいいなあ、と心から思う。 収録順で後の方に成るほど小説的・ミステリ的完成度が増すというtider-tigerさんのご意見は、まったく同感。ただし巻頭の『みどりの香炉』がダメというわけではなく、E-BANKERさんのおっしゃるような作者の持ち味(私的に言うならどこか良い意味で湿った詩情)はこの作品からも感じられて、悪くはない。 地方ロケーションの舞台設定の妙味とミステリ的なトリッキィさの融和では『赤い痕』が良い。ただしお話の完成度では、やはり巻末の『ただ一つの物語り』がベスト。 tider-tigerさんのおっしゃる、あえてミステリマニアに勧めるまでもない、という主旨のご意見には苦笑しつつ、まあそうですね、と思うものの、一方でタマにはこんなのもいかがですか? とあまたのミステリファンの袖をちょっとだけ引っ張ってみたい気もする、そんな短編集。 7点はあげられないが、その手前の6点の上限ということで。巻末の戸川センセの解説はちょっとネタバレがあるのはなんだが、愛情がこもった筆致でステキ。 ちなみにこの短編集、同じ一冊の本ながら作品単位で後の方の文字の級数が小さくなり、字組も密度感が増している。巻頭の『みどりの香炉』はジュブナイルだし、さらに作者の創作者としての成熟の深化を表すため、あえてそういう演出で行なった編集・製版だとしたら、ちょっと洒落ている。まあ実際のところはどうか知りませんが(笑)。 |
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| No.2310 | 6点 | コージーボーイズ、あるいは四度ドアを開く 笛吹太郎 |
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(2026/02/14 07:45登録) (ネタバレなし) 一冊目は未読でこちらから読んだけれど、特に大事はないですな? 「ブラックウィドワーズクラブ」の本家取りもの、その現行作品として水準以上の出来だろうし、各編のおまけにつくミステリトリヴィアについての話題トークも楽しい。 中身の方は「居酒屋の謎」の回が、文字で読む限り、そんなことって、あるのかなあ、という感じ。あとはそれぞれフツーに楽しめた(一部、感心はするが感嘆や感銘に至らず、というのもあったが)。 劇中劇の密室事件のネタは、なるほどこういう使い方ならオッケーだね。 それなりに楽しい一冊だったが、7点はちょっとキビシイということで、この点数で。 |
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| No.2309 | 8点 | その血は瞳に映らない 天祢涼 |
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(2026/02/14 06:30登録) (ネタバレなし) いやー! ……メチャクチャ面白かった! 数年単位で<最高傑作>を地味に更新し続ける作者だが、もしかしたらこれが自分にとっての現時点での著者の著作のベストワン! になるかもしれない。 メインキャラから脇役まで、話に絡む登場人物の造形が総じて出来がよく、記号的な役割の人物もどこか印象に残るキャラクターになっている(気弱で上司の命令を聞かなければならないサラリーマン社員だが、決して悪人ではない編集長とか)。そこがまずよろしい。 でまぁ、終盤の(以下略)。これはアレでないの、海外ミステリ黄金時代の(中略)ではないの! 雑多な人間模様を見つめてその上で、ちゃんと謎解きミステリとしての仕掛けとサプライズにこだわりながら、同時に、主題として作者が小説の形で言いたいメッセージ性もしっかとそこにある。 というより、中盤までは<ミステリとしてはまずはともかく、小説として面白い>だったのが、最後の最後でその枠を突き破った破壊力にシビれた。 優秀作。 9点に近い、この点数で。 |
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| No.2308 | 8点 | 魔法使いが多すぎる 名探偵倶楽部の童心 紺野天龍 |
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(2026/02/11 06:15登録) (ネタバレなし) 2019(2020?)年。「僕」こと東雲大学の薬学部2年生で、校内の先輩かつ「東雲の名探偵」金剛寺煌(こんごうじ きら)が創設した<名探偵倶楽部>の一員である瀬々良木白兎(せせらぎ はくと)は、ある夜公園で二人の若き女性魔法使いが対決する図を目撃する。その魔法使いの片方で母校の在学生でもある美女・聖川麻鈴から事情を聞いた瀬々良木は、後輩の美少女・そして名探偵の来栖志希とともに、10年前のクリスマスの時期に起きた「白ひげ殺人事件」の真実に立ち入っていくが、事態は思わぬ展開を繰り返していく。 2年半ぶりの<名探偵倶楽部シリーズ>第二弾。 前作『神薙虚無最後の事件』が相応の反響を呼んだのに、今回は本サイトでも誰も読みませんね? まあそういう自分も刊行後ほぼ1年目にしてようやく読了だけど(笑・汗)。 で、結論から言うと、とても楽しめた。 ケレン味満点で、しかも(中略)が続出する作劇パターンは昨年の某話題作(そっちは評者はまだ未読だけど)と趣向が似ちゃったらしいものの、それでもそのテーゼをひとつひとつ覆していく美少女名探偵・来栖さんが今回もカッコイイ。 まとめ方は良くも悪くも王道の新本格だな~というところもあるものの、謎解きミステリとしての完成度の向こうにある、作品全体が抱える某・主題が、個人的にはとても心地よい(逆に言うと今後のシリーズの方向性に、もしかしたら、とにもかくにも読者への予断を授けてしまうかもしれないけれど)。 あー、某キャラの去就についてちょっと大雑把なのがやや気になったけれど(一応は21世紀の話なので)、まあいいか。 9点に近いこの評点で。昨年の国産作品・現状でのマイベスト1……はちょっと辛いけれど、個人的には上位3~5位には入れておきたい。 シリーズ次作も楽しみにしておこう。 |
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| No.2307 | 7点 | 嘘つきたちへ 小倉千明 |
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(2026/02/10 05:40登録) (ネタバレなし) 表題作で、新設された短編ミステリの新人賞を受賞。それをハシラにあとの4編のノンシリーズ編を書き下ろし、一冊になる分量ということで(?)、最初の著作として刊行。 こういうパターンもかなり珍しいんじゃないかと思う。いや創元は現在もミステリ掲載誌(「紙魚の手帖」)があるんだから。それとも抱えている作家が多すぎて、新人作家に割く紙幅の余裕がそんなにないのか? ①このラジオは終わらせない ……いきなり、こってりした話。本書の方向性を読者に明示するという意味では、最初に読ませる作品としては的確かも。 ②ミステリ好きな男 ……「おそ松くん」の某エピソードの元ネタにもなった、かの名作海外短編へのオマージュ編。というか、後半のヒネリ具合は、海外の某単発ミステリドラマだな。 ③赤い糸を暴く ……オチは素朴ながら、話の見せ方で得点した一編。これも国産の某・名作短編を意識してるとは思う。 ④保健室のホームズ ……個人的には、一番良かった。読後感が、エリンの某短編を思い出してしみじみ(え?)。 ⑤噓つきたちへ ……最後の最後まで引っ張るトリッキィさで、なるほど出来はいい。特定の作品とかではなく、なんか佐野洋あたりの切れ味のいい短編を思わせる。 ④と⑤で稼いで、この評点。 |
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| No.2306 | 7点 | 美しい探偵に必要な殺人 藤石波矢 |
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(2026/02/09 04:58登録) (ネタバレなし) 「俺」こと、高校生・田坂眞人の前に現れた美貌の教育実習生・刀根美聖(とね みさと)。やがて彼女は、自分の病死した伯父・加茂肇(はじめ)の事務所を引き継ぎ、私立探偵稼業を始めた。刀根に初対面の時から心惹かれ、自主的に彼女の助手となった田坂はその後12年の間に警察に奉職し、ひそかに彼女に複数の事件の捜査情報を非公式に提供し続ける。そして先日、焼死したのはかつての田坂の母校の恩師であり、田坂と刀根が宿敵の巨悪として追い続けた男であった。田坂と刀根は電話で、彼らが出会ってから現在までの十数年の間に生じた複数の事件の話題を語り合う。 できれば帯もAmazonの内容紹介も見ないで、いきなり中味を読み進めて欲しい。 主人公二人の出会いの時からのいくつかの事件が順々に語られる連作短編集っぽい形式だが、中味は実際には書き下ろしの長編ミステリ。真髄に触れるには確実に全一冊、最後まで読み通す必要がある。 大枠の仕掛けはなんとなく読める部分もあるが、わかりやすい説明で語られる各事件の謎解き、さらに練りこまれた、一部の事件の意外な構造など、確かによく出来ている部分も多い(かたや、そううまく行くかな、と思える箇所が皆無ではないのだが)。 ネタバレを警戒しながら言葉を選んであえて不満を言えば、主人公コンビとは別のキーパーソンの動きがやや甘い、と思える事。(中略)のために、ああいうことやそういうことをしようとは思わなかったのだろうか? と少し疑問が生じた。 それでもミステリとしてのパワフルなどんでん返しに乗っかる形である種の文芸性と独特の情感があり、それら全部を総合した作品として結構惹かれる。 着想と勢いで書いたような部分と、計算されたいくつかの細部。その相乗でなかなか面白かった。タイトルの意味は……まあ、ねえ。 |
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| No.2305 | 5点 | 退職刑事6 都筑道夫 |
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(2026/02/07 18:59登録) (ネタバレなし) ブックオフの100円棚で見つけた、元版の徳間文庫版(文庫オリジナル)で読了。つまり評者が手に取った文庫の通巻表示は「6」でなく「5」である。ややこしい。 『新・必殺仕事人』は仕事人シリーズパート2だが、『新ハングマン』はハングマンシリーズパート3。なんかその辺を思い出してしまう。 本シリーズはリアルタイムで2冊目までは読んだ記憶があるが、3冊目はどうだったか心もとない。4冊目と5冊目はたぶん確実に読んでない。つまみぐいでこの最終巻を、例によって就寝前とか病院での待ち時間とかに少しずつ読んだ。 推理も何もなく、直感で一応はつじつまの合う? 話をヒネリ出すだけ、というのはこのシリーズの途中……あるいは晩年のツヅキ作品の多くへの悪口だが、今回は当初からそんなもんだろと思って読み始めたので、あまり腹も立たない。というか、なんか今となってはこのマイペース? な作劇がちょっと懐かしくもある。 ウワサの「拳銃と毒薬」は(中略)オチで、そのぶっとび具合そのものよりも、老境の、もはや国産ミステリ界での第一線にいるとはいえなくなった当時のツヅキが、なんか世の中(本邦ミステリ文壇)に爪痕のひとつももうひとつ遺しておこうと願いながらこんなのを書いた? という感じで微笑ましい。 個人的に割と面白かったのは、最後の2つ前の「針のない時計」。しかしこれ、出題に回答がない(一応説明はあるのだが、う~ん)ヘンな話だね。いや、正にソノ辺こそが後年のツヅキ作品か。あと(中略)投げるな。 あとがきを読むと5年かけて、このシリーズ6冊目の全9編を執筆。まだ書こうと思ってたらしいが、単行本未収録、あるいは他のシリーズとあわせて補遺的な短編集とかあるのかしらん。ちょっとだけ思い付きで、気になった。 |
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