青い車さんの登録情報 | |
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平均点:6.93点 | 書評数:483件 |
No.43 | 8点 | 暗い宿 有栖川有栖 |
(2016/01/29 16:50登録) 突出した傑作こそないですが、作者の技巧を感じる粒ぞろいの短篇集です。以下、各編について一言ずつ。 ①『暗い宿』 ありそうでなかったネタを、人間の心理と絡めて上手く処理しているなかなかの佳作。 ②『ホテル・ラフレシア』 作中の推理劇の答はまあまあの面白さですが、旅先の華やかな雰囲気が魅力的で、程よく苦い余韻も好きです。 ③『異形の客』 火村が犯人に放つ糾弾の言葉が印象的で個人的ベスト。 ④『201号室の災厄』 人を喰ったような異色作で、短い作品ならではのキレがあります。 |
No.42 | 7点 | プレーグ・コートの殺人 カーター・ディクスン |
(2016/01/29 00:01登録) かなり読みにくかったところ以外は非常によくできた作品だと思います。密室状況を特殊な殺害方法と複合させたトリックはさすがの完成度です。ただし、負け惜しみになりますが足跡のない密室の解答としてこの真相はちょっとずるいような…。僕が読み落としているだけかもしれませんが、読者に対し不親切な記述であるように思えます。それでも、カーのトリック・メイカーぶりがよくわかる佳作であることは変わらないのでこの点数は堅いです。 |
No.41 | 7点 | 赤後家の殺人 カーター・ディクスン |
(2016/01/28 23:50登録) 細部は忘れていて、メインの毒殺トリックを評価の対象としますが、これが実によくできていてシンプルながらユニークです。H・M卿シリーズの中では出色といっていいでしょう。作品の雰囲気もオカルト趣味な彩りという作者の持ち味が存分に発揮されていて高水準です。でも、最初に述べたとおり物語の細部は失念しており、本作に限らず僕にとってカーの作品はトリックのイメージだけは鮮烈に覚えていても動機などは記憶に残らないものが多く、最悪の場合誰が犯人だったのかすら忘れてしまうものさえあります。アガサやクイーンならそんなことはまずないのですが、そのあたりで僕のカーへの思い入れは他の大家たちに比べて一枚劣ります。 |
No.40 | 6点 | 痾 麻耶雄嵩 |
(2016/01/28 23:30登録) 『夏と冬の奏鳴曲』で災難に遭った如月烏有のその後を描いた作品で、前作を読んだ人なら要チェックです。しかし、本作では彼はなんと放火魔になってしまいます。精神の不安定さが伝わってくるような語り口で、悲劇的で救いのないオチかと思いきや最後の最後に思いもよらない結末を見せ、続篇を読まないではいられなくなります。ミステリー的には、〇りトリックに説得力が乏しいのがやや残念です。 |
No.39 | 5点 | 夏と冬の奏鳴曲 麻耶雄嵩 |
(2016/01/28 23:15登録) これでもかと謎を大放出した結果、そのほとんどがぶっ飛んだ解決をしているか、投げっぱなしになっているかという前代未聞な超の付く問題作。頭の中が?で埋め尽くされる幕切れでした。メルカトル鮎が突然登場して意味ありげなことを言うもののその意味も不明なままです。ネット上の考察を見ても完全に納得できるものはありませんでした。まあ、他の人が真似しようにも真似できない芸当ですし、まだ若くしてこれだけエッジの利いた作品を書いてしまう麻耶さんは天才ならぬ鬼才といったところでしょうか。 |
No.38 | 8点 | Zの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2016/01/28 20:39登録) 先の二作の評価が高いあまり、まるで凡作であるかのような扱いを受けてしまう不遇な作品。確かに中盤での利き腕の推理はこじつけめいていて厳密さに欠けるという弱さがありますが、論理的な解決を信条とするクイーンの技は随所に見受けられます。犯人も前二作ほどではないにせよなかなか意外で、それまで精彩を欠いていたレーン氏もクライマックスでは怒涛のロジックを見せてくれます。新キャラクター、ペイシェンスの冒険も魅力的です。あくまで他の代表作と比べたら、というだけであって単体で見ると十分に魅力的なパズラーに仕上がっていると思います。 余談ですが、本作のプロットはまず国名シリーズ用のものとして作り始めたそうで、邦題では『ドイツ監獄の謎』となるはずだったという説があるそうです。つまり原題では『The German Prison Mystery』といったところでしょうか? |
No.37 | 9点 | グリーン家殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2016/01/28 19:55登録) 館ものというのは今やかなり古風なガジェットですが、その礎の本作はミステリ好きなら必ず通るべき道でしょう。トリックやロジックの弱さは否めませんが、グリーン家の面々が次々と殺されていくサスペンスの構築は現在でも光るものがあり、『僧正』と並び模倣が多く生まれたその偉大さは誰にも否定できない筈です。最大の弱点は現代の読者からは犯人が見え見えなところですが、この「意外な犯人」のパターンも本作が確立したものであることを考慮したら9点は堅いと思います。 |
No.36 | 7点 | カナリヤ殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2016/01/28 19:35登録) 現代の読者の目で見たら、トリックは古びていて確かに物足りないものでしょう。ポーカーのプレイ・スタイルから犯人を推理するなど、前作以上に恣意的で危なっかしく思えます。ですが、僕はその古臭さも含めかなり気に入っている作品です。密室やアリバイ・トリックの古さも作品世界にクラシカルな味を付けるファクターといえると思います。ヴァンスのシニカルな言葉で締める結末も印象的です。『グリーン家』『僧正』と比べてあまり読まれない作品ではありますが、アメリカの本格黄金時代の雰囲気を味わいたい、という人には是非おすすめしたい佳品。 |
No.35 | 7点 | ベンスン殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2016/01/28 19:16登録) デビュー作というだけあって、ファイロ・ヴァンスの鼻持ちならないキャラクター、衒学趣味といったヴァン・ダイン作品の基礎となる要素がふんだんに詰め込まれています。心理的探偵法の有用性は怪しいところもありますが、表面的なアリバイがいかに証拠として薄弱であるかを証明してみせるクライマックス近くの実験は実に鮮やかです。その他、マーカムの地道で着実な捜査をこき下ろしつつも、なんだかんだで親友関係を続けているヴァンスも微笑ましいです。ヴァンスのことをよく思っていなかったヒース部長刑事が彼に尊敬の念を抱くきっかけの事件でもあります。ミステリーとして評価しない人も多いですが、アメリカを舞台とした名探偵の冒険として読めば、こんなに面白いものはありません。 |
No.34 | 8点 | 亜愛一郎の転倒 泡坂妻夫 |
(2016/01/28 18:57登録) 『意外な遺骸』が個人的ベスト。童謡になぞらえた事件のちょっとした不自然さに着目し、意表を突いた真相を導き出します。回文をテーマにしたところも言葉遊びを得意とする作者らしい稚気が感じられ、楽しいです。『病人に刃物』も良作。まさに逆転の発想が綺麗に決まっています。この二作だけなら9点を付けたいのですが、残念ながら出来にムラがある短篇集でもあります。『ねじれた帽子』『争う四巨頭』あたりは、シリーズらしい独特な推理のキレが感じられず、真相も地味です。全体のアベレージは『狼狽』の方が上と判断します。 |
No.33 | 7点 | 誰彼 法月綸太郎 |
(2016/01/28 18:41登録) 『密閉教室』『雪密室』より格段に読みごたえが増しています。アイディア満載の内容で読者へのアピール力は前二作と比べずっと上がっており、終盤のくどいほどに二転三転(いや、四転五転か?)する真相に読む目を休ませることができませんでした。ただ、そのひねりが結果として面白い着地をしたかというとちょっと疑問でもあります。中には真相がどうでもよくなってしまった読者もいるかもしれません。そこが引っかかったので7点にとどめます。 ところで、ラスト・シーンが『オランダ靴の謎』を思い出させるのですが、わざとでしょうか? |
No.32 | 5点 | 雪密室 法月綸太郎 |
(2016/01/28 18:24登録) この作品でもまだ作者は成長過程にあるといえると思います。トリックもストーリーも突出した部分はなく、生真面目でかっちりした造りではあるものの新味に欠けます。あと、やはりこのプロローグの小細工は蛇足でしょう。 実質的に法月警視を主人公に据えた最初で最後の作品であり、彼の心理描写はファンなら間違いなく楽しめる内容ではあります。家族というテーマや(あまり驚けはしなかったものの)終盤のどんでん返しは後の『一の悲劇』を思わせるところがあり、少なくとも読んで損はないと保証します。 |
No.31 | 9点 | 孤島パズル 有栖川有栖 |
(2016/01/27 23:08登録) 前作から大きく飛躍を見せた力作で、自転車という移動手段に関してのロジックは切れ味抜群です。一方青春小説的な要素も色濃くなり、純粋に読み物としてパワーアップしている印象。マリアがペイシェンス・サムを「女装したエラリー・クイーン」呼ばわりするところや、江神部長の「密室トリックより密室が好き」という言葉など、登場人物のミステリー談義もまた楽しいです。動機の線から辿ると犯人の見当が容易についてしまうところが惜しいですが、登場人物を魅力的に書き分けるスキルも確実に上がっており作者の本領が十二分に発揮されています。 |
No.30 | 7点 | 水車館の殺人 綾辻行人 |
(2016/01/27 22:40登録) トリックはかなり易しめな親切設計。犯人もおおよそ見当がつく人が多そうです。とはいえ物語の構築はしっかりしていて、十角館ほどではないにしても手堅く面白い作品に仕上がっています。何よりラストシーンが印象的です。改訂版についている有栖川有栖さんのふたつの解説も興味深く、同年代作家どうしの思い入れを感じます。難を挙げるとしたら、舞台が「水車」館である必然性が弱かったところでしょうか。 |
No.29 | 10点 | そして誰もいなくなった アガサ・クリスティー |
(2016/01/27 22:25登録) サスペンスフルな展開、巧みな心理描写、最後に明かされる強烈な犯人像のインパクト、すべてが一流です。クリスティーが華麗なプロット作りに秀でていることを示した最高の例だと思います。たとえトリックが古びてもこのスピード感あるストーリーの構築は永久に推理小説のお手本となるものでしょう。 |
No.28 | 10点 | Yの悲劇 エラリイ・クイーン |
(2016/01/27 19:50登録) 『X』で推理の美しさを極めたクイーンが、論理性と怪奇性をミックスしたことでひとつのピークを刻んだ名作。毒入りの梨、床に落ちたパウダー、凶器のマンドリン、そしてバニラの匂いと、奇妙なことづくめの事件の手掛かりはどれも秀逸で、推理により恐怖が増幅するという特異な構造の小説です。犯人の設定は今ではさほど意外ではないようですが、その動機の異常さと事件の構図には類例が見当たりません。『X』と『Y』どちらも傑作ですが、この二作が同じ年に書かれたというのはまさに偉業と言って差し支えないでしょう。 |
No.27 | 8点 | 重力ピエロ 伊坂幸太郎 |
(2016/01/27 19:11登録) 子気味良い文章でテンポよく読めるので、テーマの割りに重たさを感じさせません。泉と春、父親の三人の絆が嫌味でなく上手に描写されており、家族とはどういうものかについて考えさせられる名作だと思います。ただしミステリーとして意外な結末かと訊かれたらちょっと違いますね。というより、僕はこれをミステリーと認識して読まなかったので、このサイトに載っていることがそもそも驚きでした。 |
No.26 | 7点 | 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉 |
(2016/01/27 18:52登録) 爆発的にヒットし作者が一躍売れっ子になった短篇集ですが、コアなミステリー・ファンの中には薄味と批判する人もいたようです。しかし僕は擁護したい派です。軽いタッチでシリアスさがまるでないのが叩かれる理由のひとつだったようですが、僕は陰気なだけの作品をもてはやす風潮には反対なのでそこはむしろ長所と捉えます。難易度が低い、という批判も的外れと言いたいです。簡単に解けるからレベルが低いというのは短絡的で、小学生にでもわかる本格を描いた作者の仕事はむしろ評価すべきと思います。ゆるいギャグの中にちゃんとわかりやすい伏線を張る技術はむしろ並みの作家さんより優れており、特に『綺麗な薔薇には殺意がございます』は死体を移動させた理由とその手段を導き出す推理がシンプルかつロジカルな良作です。とにかく、これから読むという人には素直におススメしたいです。 |
No.25 | 4点 | 地獄の奇術師 二階堂黎人 |
(2016/01/27 18:26登録) 厳しい意見になりますが「グレードの落ちた高木彬光」みたいな印象。トリックに創意が乏しいだけでなく、犯人のあからさまさ、道具立ての借り物感、描写の無駄なグロテスクさなど全体に粗が目立ちます。デビュー作なので多少の欠点はおおらかに見るべきなのでしょうが、二階堂さんは大作が多いのでなかなか手が出せないでいて評価を改める機会がまだありません。聞くところによると古風な筆致が持ち味の人らしいので手を出しても二の足を踏みそうで怖い…。 |
No.24 | 9点 | 人形はなぜ殺される 高木彬光 |
(2016/01/27 18:10登録) 人形の首盗みという不気味な序章から始まり、本当にギロチンによる首切り殺人が発生するというショッキングな展開で読む者を引きつけます。そこからエンジンがかかり、第二、第三の殺人で加速する物語には書かれた時代を思わせないスピード感を覚えました。極めつけは犯人逮捕の瞬間の劇的な演出で、まさに読者サービスの塊。また、人形をアリバイトリックに利用するアイデアをはじめ、随所で怪奇性と論理性を両立させ得て、高木彬光作品の中でもかなりの完成度を誇っています。引きつった笑い方をする腰の曲がった男が出てくるところなど古臭さも感じますが、そこはご愛嬌です。 |