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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.303 6点 グラスホッパー
伊坂幸太郎
(2016/11/27 22:25登録)
 殺し屋たちの物語でありながら、期待したほどの刺激的な展開はないけれども、伊坂流の登場人物の造形や軽妙なやりとりはやはり面白いです。もっとも普通に近い人間である鈴木もなかなかに魅力的ではありましたが。騒動に巻き込まれるうち、まさに跳ねるバッタのように生き直す決意をする彼の姿は実に良かった。


No.302 7点 星読島に星は流れた
久住四季
(2016/11/27 22:10登録)
 島という舞台装置が、心地よく詩的な雰囲気を創り上げており自分の好みとよく合致します。隕石の落下やその捜索が謎解きと結びつく無駄のなさもまた良しです。特に音の処理や、地に足の着いた可能性潰しの手際に感心しました。作者はライトノベル出身とのことですが、軽く読めるのに適度に推理の醍醐味も味あわえる、バランスのいいものを書いてくれる人だと実感しました。次回作を強く望みます。


No.301 5点 人形は遠足で推理する
我孫子武丸
(2016/11/23 22:10登録)
 幼稚園の遠足に向かう道中でバスジャック犯に遭遇し、彼に降りかかった殺人容疑を晴らそうと一緒に推理する、というトリッキーなプロット。バスを舞台にしたドタバタ劇のような描写は楽しいのですが、いかんせん事件の内容が長篇を支えるには弱く、さらに解決にも既視感があります。推理のプロセスにもっと読み応えがあれば面白くなっただけに残念でした。


No.300 6点 人形はこたつで推理する
我孫子武丸
(2016/11/23 21:55登録)
 腹話術師が人形を通して名探偵ぶりを発揮する連作。ただの奇抜なキャラクターものに終わらず、様々な切り口の事件を推理してみせる内容は意外にも骨太です。個人的ベストは『人形はテントで推理する』で、短いながらも密室殺人の新機軸と言えると思います。被害者の見た夢から事件を紐解く話もユニークです。


No.299 7点 日曜の夜は出たくない
倉知淳
(2016/11/23 21:39登録)
 作者が意図してバラバラな内容にしたということで、一冊で多くの味が楽しめる、悪く言えば統一感のない短篇集になっています(猫丸先輩の自由奔放な言動は共通ですが)。不可能興味、感動路線、猟奇的なもの、など色々ありますが、中でも表題作が地味ながら心に残りました。他の可能性がいくらでも挙げられるのに疑心暗鬼に陥ってしまう、という意味では誰にでも起こりうる事件といえます。『生首幽霊』のリアリティはともかくとしても本格らしい謎解きも好ましいです。ただ、巻末のメッセージはヒントが弱くて気付ける人はまずいないでしょう。


No.298 5点 わるい風
鮎川哲也
(2016/11/23 18:51登録)
 鬼貫警部は好きなキャラクターですが、意外と鬼貫シリーズは彼の出番が遅く少なめな作品が多いことに最近気づきました。この本は東京創元社から出た傑作集のような幅の広さがなく、犯行を描いた後最後の方で鬼貫が登場、矛盾と証拠を突きつけて終わりというようなパターンが多いです。加えてその証拠の面白みがいまひとつなことも手伝って、印象に残りにくい短篇集になってしまっています。


No.297 7点 fの魔弾
柄刀一
(2016/11/23 18:41登録)
 あまり肌に合わなかった『ゴーレムの檻』を先に読んでいたせいで、柄刀一作品は若干敬遠していたのですが、これは素直に楽しめました。てっきり突然異世界にトリップするような話ばかり書いているのかと思い込んでいました。
 提示される事件は今の感覚で見ても十分求心力がありますし、あの海外の傑作に類似したヴァリエーションの犯行方法も、細部を疎かにせず、上手にアレンジしています。そして犯人を逮捕した後、さらに奥にある真相を解明するくだりも感動的でした。爽やかな読後感も手伝ってかなりお気に入りの部類に入ります。


No.296 6点 魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?
東川篤哉
(2016/11/20 00:25登録)
 倒叙スタイルと聞くとコロンボ、古畑、最近でいうと福家警部補などが挙げられますが、それらと比べると本作はちょっと物足りません。じわじわとした状況証拠の積み重ね、それに伴う犯人との対決感、そして意外な決め手によるカタルシス、そういったものを期待していた身としてはややがっかり。むしろコロンボのようなスタイルの倒叙の方が少ないし、そもそも対決の緊張感など東川さんの作風とは相性が悪いのは知っていますが。
 ワン・アイディア頼みの作品が多いですが、三話目ではいわゆる逆トリックが痛快で、評価できるポイントだと思います。あと、四話目の小さなアイテムからアリバイが崩れる発想はなかなか悪くありません。


No.295 7点 人間の証明
森村誠一
(2016/11/19 23:59登録)
 このサイトではさほど高得点でなく、そもそも書評自体が少ないのもわからないではありません。推理小説らしさがきわめて希薄なのがその原因のひとつでしょう。しかしプロットは傑作の名に恥じない出来で、親子の問題やスラム街の描写などもうまく織り交ぜています。特に、棟居刑事が被害者への情でなく加害者への憎悪を原動力にするに至った残酷な経験が印象的です。読みにくいという社会派への偏った先入観を払拭してくれた作品で、初めての作者の本がこれだったのは幸運でした。


No.294 4点 天城一の密室犯罪学教程
天城一
(2016/11/15 16:49登録)
 小さな抜け穴から工作する密室、機械的な密室、殺人のように見えた自殺だった密室、内出血密室、時間を錯覚させることによる密室、内部から持ち出すか外部から持ち込むかのいわゆる逆密室……。密室の構成方法を大系別に分け、その例を論文形式の説明と小説の実例で紹介している本です。論文のパートはなかなか興味深く、作者の深い教養を感じます。その一方、小説の方はあくまでトリックのパターンを教えるに留まっており、プロットが大同小異ですぐに忘れてしまいそうなものが多いです。短いわりにテンポよく読めないのも気になりました。ただ、『高天原の犯罪』は見えない人パターンの新機軸と言え、唸らされました。


No.293 6点 木製の王子
麻耶雄嵩
(2016/11/14 18:16登録)
 如月烏有が出てくる最後の作品と聞いていましたが、彼の出番はわりと少なく、精々近況報告ぐらいの役割です。動機の異様さで全体を支えるダイナミックさはいかにも麻耶さんらしいところです。細かすぎる分刻みのアリバイは追いかけるのを断念してしまうほど凝りすぎなうえに現実的には無理が目立ちますが、そこも異常な論理で補強しているのは評価すべきポイントだと思います。種を明かされればこれだけ詳細な図と説明が必要だったか、疑問にも感じますが。


No.292 7点 銃とチョコレート
乙一
(2016/11/14 17:58登録)
 初の乙一作品。軽妙かつ捻りの利いた展開で後半に向かうほど面白さが増していきます。宝捜しや怪盗と名探偵など、子供心をかきたてるお決まりの材料を、こちらの期待をいい意味で裏切って楽しませてくれるのが粋です。小学生が大人の仲間入りができたと感じるのではと思うほど、少年向けでありながらかなりの完成度でした。不満を挙げるとするなら普通なら漢字であるところのひらがな表記が多く、却って読みづらかったところです。


No.291 5点 シンデレラの罠
セバスチアン・ジャプリゾ
(2016/11/14 17:45登録)
 リドル・ストーリーとして有名な作品ですが、とりわけ読みにくいと思っていたフランスの翻訳ものにも関わらず軽い文体であっという間に読むことができました。最初から最後までハラハラには事欠かず、かなりよくできたプロットだったという記憶があります。しかし、そもそもこの手の形式の面白さがわからないので、読後のすっきり感がないのはむしろマイナスポイントでした。


No.290 4点 騙し絵
マルセル・F・ラントーム
(2016/11/14 17:37登録)
 図書館で作者情報などの予備知識いっさいなしで借りました。やたら大がかりで破天荒なトリックが登場しますが、個人的にはあまりハマらず。ただ、これだけ昔にこんな突き抜けて大袈裟なミステリーが存在したことが面白い発見でした。いわゆるバカミスの雛型とでも言うべきでしょうか。


No.289 5点 モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編-
エドガー・アラン・ポー
(2016/11/14 17:27登録)
 高校時代に「推理ものを読むならポーぐらい押さえてなきゃダメだろう」という、よくわからない義務感から一応目を通しました。あともうひとつ、『黒猫/アッシャー家の崩壊』も読みましたが、おそらくその面白さ(あるいは歴史的意義)を半分も理解できなかった思い出があります。今になって書評を投稿したのは、ゴシック小説ならともかく、ミステリーの祖とされる本書ならまだ僕にも批評する資格があると思ったからです。
 モルグ~の方は密室殺人の祖でありながらその解決の型破りさが良くも悪くも意外でした。先駆者からしてここまで突飛なアイディアを使っているとは。良いポイントはとにかくその意外性で、ネタバレなしで初心者が読んだならまず間違いなく見抜けないでしょう。悪いポイントはうまく説明できないのがもどかしいですが、密室の看板を掲げるには(別にポーが唱えた訳ではないですが)その密室が実は脆弱だった点です。
 黄金虫は冒険小説的な趣もある作品で、世界初の暗号を使った小説として偉大です。あの江戸川乱歩も『二銭銅貨』をこれをお手本にして書いています。ただし、モルグ~にしてもこれにしてもまだ読者参加型の小説という概念がないため、伏線やミスリードの面白さはもちろんありません。
 どちらも今の水準で見るとやっぱり古びているのですが、ポーのむしろ評価すべきは僕にはあまりわからなかったゴシック篇の方かもしれません。


No.288 8点 奇面館の殺人
綾辻行人
(2016/11/09 15:09登録)
 2012年にもなってなお綾辻さんがこれだけ直球の推理小説を書いたことに驚きました。しかも叙述トリックにはほとんど頼らずに。当初の予定よりずっと枚数が増えたということもあって事件が一件のみにしては長いと言えば長いですが、捜査のパートがひたすら懐かしい本格の雰囲気に満ちています。そして、大団円に向けての怒涛のロジックには凄まじい熱量を感じました。絶対にさらなるどんでん返しがあるはず、と身構えていたのにまったくそれがなかったのはちょっと拍子抜けでしたが、本作はそれが丁度いいといえば丁度よくもあります。


No.287 4点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2016/11/09 14:59登録)
 手厳しい意見ですが、あまりに遊びが過ぎて、かつワンパターンな作品集だと思います。反則スレスレの技を奔放に使って「読者の誰が犯人だろうか」と考えて読む楽しみを奪っているように思えてなりません。しかも、それが何発も続くので些かくどくも感じます。いちばん推理小説の王道に近いのは『伊園家の崩壊』ですが、パロディに毒が強すぎて完全に引いてしまいました。総じて綾辻さんの本来の実力には遠く及ばない出来です。


No.286 7点 暗闇の薔薇
クリスチアナ・ブランド
(2016/11/09 14:50登録)
 他の方々も書かれていますが、後半のサスペンスフルさが素晴らしいです。つまり裏を返せば中盤まではやや退屈なのも否めません。しかし、ヒロインのサリーを始めとした登場人物の描き方はさすがブランド、文句なしです。
 トリック自体はシンプルですが、不可解な状況が最後一気にほぐれていく様は読み応え抜群でした。ミステリーの女王アガサ・クリスティーも犯人以外の人物たちの思惑が交錯し事件の謎を深める手法をしばしば使いましたが、本作もその手法をうまく採っていると思います。そして中でも、「なぜ被害者は後部座席にいたのか」がわかった瞬間が快感でした。


No.285 8点 カマラとアマラの丘
初野晴
(2016/11/09 14:35登録)
 どの短篇も何かしら心に残るポイントがありますが、安直に感動路線を狙っていないところが上手いです。人間の温かみもあれば残酷なところもある、そういったところを余すことなく書いています。それもただ上辺を撫でるだけでなく核心を突いており、特に、そういう意味では三、四話目が印象的でした。おそらく相当下調べした上で書いたであろう知識にも感心しました。あと、なんと言っても最終話の締めくくり方に尽きます。


No.284 6点 帝王死す
エラリイ・クイーン
(2016/11/09 14:24登録)
 やはり、クイーンはどの時代でもパズルとしてのミステリーに拘りを持っていたことがわかります。今回も不可能犯罪のテイストを取り入れつつ、あくまで論理的な思考でエラリーは真相を解き明かします。伏線のそつない張り方と、終盤でのそれらの回収は相変わらず見事です。マイナスなのは、島という舞台装置を持て余し気味に感じること、事件が起きるまでの起伏に乏しい展開、そして(あくまで相対的にですが)初期ほどの推理のキレが見られないことです。

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