パメルさんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:658件 |
No.178 | 6点 | 楽園のカンヴァス 原田マハ |
(2017/11/01 01:14登録) 幻想的な画風と鮮やかな色彩で知られる素朴派の画家、アンリ・ルソーをめぐる極上の美術サスペンス。 大原美術館で監視員をする織絵は、ある時学芸課に呼び出された。日本で大規模なルソー展が企画されており、ニューヨーク美術館のチーフ・キュレーターであるブラウンが、代表作「夢」の貸し出し交渉人として織絵を指名してきたという。 物語は1983年にさかのぼり、スイスの大邸宅で繰り広げられた、風変わりな競い合いの一週間をたどる。ある大富豪がブラウンと織絵に対し、ルソーの「夢」とほぼ同じ構図やタッチを持つ作品「夢を見た」の真贋を判定せよと命じ、手掛かりとなる謎の古書を手渡したのだ。 本作は、単に幻の名画をめぐる鑑定対決にとどまらず、ルソーが「日曜画家」だった頃から晩年に至るまで、ピカソをはじめ彼らを取り巻く人々の物語が挿入されており、重層的な仕掛けがほどこされている。章が移るごとに意外な真実が明らかになるなど巧みな構成に舌を巻くばかりか、登場人物たちが抱くルソーへの思いも熱く伝わってくる。驚きと愛に満ちたミステリ。 |
No.177 | 6点 | さらわれたい女 歌野晶午 |
(2017/10/26 01:33登録) 便利屋の主人公は、夫の愛を確かめるためだと狂言誘拐を依頼され、思わぬ方向に巻き込まれていくストーリー。犯人と便利屋の駆け引きには、惹きつけらるし二転三転する展開で飽きさせない。またリーダビリティーが高くスラスラ読める。伝言ダイヤル・ダイヤルQ2・転送サービス・自動車電話など当時としては最新の通信手段の小物の使い方も上手い。 ただ、犯人の計画のある部分があまりにも杜撰な点と、結末が予測出来てしまう点が残念。 |
No.176 | 7点 | そして誰もいなくなる 今邑彩 |
(2017/10/20 01:01登録) クリスティの名作「そして誰もいなくなった」をモチーフにした学園ミステリ。 見立て殺人にこだわりながらも、意表を突く展開に意外な真相、そしてどんでん返しも用意されている。 変な言い方だが、「そして誰もいなくなった」の内容を記憶している人ほど、作者の巧みなミスディレクションの罠に嵌ることが出来て楽しめると思う。 テンポも良くリーダビリティが高いため、ミステリ初心者におすすめしたい作品。 |
No.175 | 6点 | ユリゴコロ 沼田まほかる |
(2017/10/14 01:08登録) ホラーやサスペンスのジャンルには、声色や体温といったものさえ伝わってくるように、人間の姿を生々しく描く作家がいる。読み手は、登場人物の隠された本性ばかりか、魂の奥底まで暴かれているような気持になり、知らず知らずおののいてしまう。そんな作家の一人がこの人だと思う。 主人公の亮介は、ある時父の書斎で奇妙なノートを見つけ、そこに書かれていた文章を読んで驚く。これを書いたのは一体誰なのか。まずは「ユリゴコロ」と呼ぶ得体の知れない思いを抱え、幼い頃から犯行を繰り返してきたと告白が小説内小説のように記されていく。これがとても具体的で真に迫っている。 内なる声に身をまかせ、落ちるところまで落ちていくかのようなおぞましい殺人者の半生がそこにある。やがて、亮介の両親に関する過去が次第に明らかになっていくとともに、亮介の恋人が失踪した事件と絡み、物語は大きく転調する。 秘められた家族の謎が明らかになるとき、驚愕せずにはおれない胸をえぐるような凄味をたたえた作品。 |
No.174 | 6点 | 鳴風荘事件 綾辻行人 |
(2017/10/08 01:05登録) なぜ犯人は被害者の髪を切ったのか?そして持ち物を多数持ち去ったのか?と謎多き殺人事件を解決に導く伏線の回収が見事。 また明日香井兄弟と深雪の会話は前作同様可愛らしくて楽しい。 「殺人方程式」から6年経ってやっと発表された作品で、あとがきに構想に四苦八苦していたと書かれていた割には、ストーリー、トリックともに落ちる印象。 |
No.173 | 6点 | 火刑都市 島田荘司 |
(2017/10/03 01:05登録) 密室状態での放火はどのように行われたのか?連続して発生する放火事件の犯人の意図は?そして現場に残された張り紙の意味は?と謎が多く楽しめる。 そして江戸から東京へと近代化が進み失われてしまったものを作者なりに警鐘を鳴らしている感じが伺える点からも本格派と社会派が融合しているミステリ。 この作品のポイントは犯人の動機だと思うが、犯人にその動機を抱かせた背景は共感出来る部分もあるが納得は出来ない。 またこの作者にしては、登場人物のキャラクター・ストーリー・トリックともに地味なため、その点を期待していると肩透かしを食らうと思います。 |
No.172 | 6点 | 黒龍荘の惨劇 岡田秀文 |
(2017/09/27 01:19登録) 探偵の月輪龍太郎と友人の杉山潤之助が難事件に挑む時代ミステリの第二弾。 元首相の山縣有朋の金庫番ともいわれる漆原安之丞に脅迫状が届き、その数日後、漆原が首を切られた死体となって発見される。 やがて事件は連続殺人事件に発展し、被害者は漆原の故郷に伝わるわらべ唄に見立てられ、首や手足を切断されるなど、物語は本格ミステリの王道ともいえる道具立てを使いながら進む。 本当に解決するのかと思わせる終盤まで殺人が続き、月輪は16もの疑問点に頭を悩ませる。 事件が複雑怪奇なだけに、たった一つのカギで謎が一気に解ける最終章には圧倒的カタルシスがあり満足。 驚くべきどんでん返しから浮かび上がるのは法律やモラルなど歯牙にもかけない怪物の存在。この怪物は、現代とも共通する虚無を象徴しているので背筋がゾッとする。 ただプロットに関しては他作品での既読感があるのが残念。 |
No.171 | 6点 | 妖婦の宿 高木彬光 |
(2017/09/21 01:06登録) 四編からなる短編集だが「妖婦の宿」の出来が抜きんでている 被害者が殺される前に人形が殺されるという設定といえばこの作者の「人形はなぜ殺される」が有名ですが、この作品では違った意味で人形が重要な鍵を握っている 犯人を一人に絞る緻密なロジック、心理的盲点を巧妙に突く仕掛けがお見事 密室殺人を扱った短編では必ずと言っていいほど取り上げられるのも納得 ただし他の三編を合わせての総合評価となるとこの点数になってしまう |
No.170 | 5点 | コンピュータの熱い罠 岡嶋二人 |
(2017/09/15 13:11登録) まだパソコンもあまり普及していなかった時代に書かれたとは思えないほど、コンピュータや情報に関わる事件の先見性に驚かされる。 ただ彼らの良さが発揮されているかといえば疑問が残る。 トリックなど謎解きの面白さは味わえないし、サスペンスのジャンルにしては肝心の緊迫感が足りない。 ストーリーの構成も冒頭部分では引き込まれるが、起伏が少なく淡々と進行するため、展開力に不満が残る。 真犯人に意外性はあるが、推理する余地は無いし登場人物が少ないこともあり、ピンとくる人も多いでしょう。 |
No.169 | 6点 | 消失! 中西智明 |
(2017/09/10 01:06登録) 今現在の採点が2点から10点と幅広い評価を受けている作品 好き嫌いがはっきりする作品だとは思うが、個人的には絶賛するほどではないと思う反面、酷評するほどでもないといった感想 違和感はあると思いながらも、不可解な消失と事件の真相は看破できなかったのも事実 再読すると所々に散りばめられた伏線や、巧みなミスディレクションが使われているのがわかる 一種の叙述トリックだと思うが、単なる叙述トリックにおさまらない鮮やかさに驚かされる |
No.168 | 5点 | 死体を買う男 歌野晶午 |
(2017/09/04 01:15登録) 松の木で首を吊って自殺している人物を発見するが自殺に疑問を抱いていた江戸川乱歩と萩原朔太郎が真相を追及していくという探偵小説「白骨鬼」の内容が現実の世界の事件に繋がっていくという構成 乱歩風の文体で描かれ江戸川乱歩・萩原朔太郎の推理合戦は楽しませてくれたがミステリとしての驚きは残念ながら小さい |
No.167 | 8点 | 造花の蜜 連城三紀彦 |
(2017/08/29 01:01登録) 嘘なのか?真実なのか?敵なのか?味方なのか? 複雑な人間関係が露になる中犯人は身代金を減額してきたりして意味がわからなくなってくる 犯人の真の目的は何か?この犯罪の裏に隠されたものは何か?と先の読めない展開に読み進めていっても頭の中はクエッションだらけになる また大胆かつ緻密な劇場型犯罪にアッと驚かされるしどんでん返しの連続で翻弄される快感が残る 最後の最後まで気の抜けない展開に楽しめました |
No.166 | 4点 | 親しい友人たち 山川方夫 |
(2017/08/23 01:08登録) 「三田文学」の編集に携わり自作5編が芥川賞の候補作となるなど純文学に大きな足跡を残した作者のショートショート集 早世の天才の才気を示す傑作選と紹介されているが星新一氏のような切れ味鋭い作品は少ないためそれを期待していると肩透かしを食らうことになるでしょう 全体的な出来からするとこの点数だがSFありホラーありとジャンルも多岐にわたっている 奇妙な味わいを楽しめる作品や人生の根本的な在り方を探求する哲学的な作品 そして独特な感性が光る作品があり埋もれてしまうには勿体ない作品集と言えるでしょう |
No.165 | 7点 | 殺人方程式 綾辻行人 |
(2017/08/17 13:15登録) 犯人は何のために死体の首と腕を切断したのかという謎の理由に必然性があり説得力もある また大掛かりな物理的トリックも実現性に関し身体の部位の重さまで慎重に調べられ図で示しながら論理的に解説されている点が好印象 またなぜ死体を移動させなくてはならなかったのかのホワイダニットや意外性のある犯人の正体のフーダニットも十分に楽しめる 何といっても一番驚いたのはこのサイトでの平均点の低さです |
No.164 | 6点 | 盲目の鴉 土屋隆夫 |
(2017/08/09 01:13登録) 長編では「妻に捧げる犯罪」から8年ぶりに発表された作品・・・あまりにも間をあけすぎでしょう(寡作にも程があるが好きな作家の一人なので許します) 田中英光・大手拓次など文学者たちの詩を紹介しながら文学的ロマンと謎解きの面白さを巧みに融合している 行方不明事件と不可解な殺人事件の二つを結ぶ鴉の謎が興味をそそられる 男?女?怨恨?憎悪?復讐?と動機ははっきりしないし犯人像さえも浮かんでこない展開で楽しませてくれる ただ毒殺トリックは成功するとは思う反面たわいもないトリックだったのが残念(期待しすぎた) |
No.163 | 6点 | ノッキンオン・ロックドドア 青崎有吾 |
(2017/08/03 13:33登録) 七編からなる短編集 「不可能」担当と「不可解」担当の二人が主人公でそれぞれ得意分野を活かし補い合いながら真相に迫り事件を解決していく それは無いだろうという部分もあるがそれ以外はトリックのアイデアには唸らされるし新しさを感じる 特に「髪の短くなった死体」はどうしてこのような状況が生まれたかを現場に残された手掛かりから再現してみせ犯人を特定するところなどパズラーの傑作といえるでしょう このシリーズは続くようなので次回作も非常に楽しみだ |
No.162 | 7点 | 満願 米澤穂信 |
(2017/07/29 01:04登録) 切りつけてきた男を交番勤務の巡査が射殺した事件の真相に迫る「夜警」 いわくつきの温泉宿で拾った遺書の謎を解く「死人宿」など一作ごとに舞台や設定は異なるがいずれも奇妙で不可解な出来事とその真相を解くロジックが丁寧に書き込まれた六つの短編が収録されている 表題作「満願」は周到な伏線がしかれたうえで驚きの真相が最後に明かされる 「柘榴」・「万灯」は生身の人間が持つ心理をしっかり描きつつ思いも寄らない展開を用意している 個人的には「関守」が一番好みだが全体的に上質で読み応えのある作品が揃った一冊 |
No.161 | 6点 | 夜歩く 横溝正史 |
(2017/07/24 13:24登録) 旧家で発生する連続首無し殺人事件に複雑な血縁関係と男女関係が入り乱れ真相をなかなか掴ませてもらえない その登場人物も夢遊病者・酒乱で刀を振り回す老人・淫蕩な未亡人・佝僂(「くる」せむしの意)など個性派揃いで申し分ない またケレン味に満ちた道具立ても揃っておりワクワクさせてくれる要素が満載 そして誰もが開けられるはずのない金庫に保管していた刀が凶器として使われていたという不可解さに惹きつけられる ただ死亡推定時刻の解釈には不満が残るし佝僂に関しては身体的差別用語を文字面だけ残し読み方も意味も記述していないのは不親切に感じる |
No.160 | 5点 | イニシエーションラブ 乾くるみ |
(2017/07/18 13:49登録) 1980年代後半の静岡と東京を舞台に若い男女の恋愛を描く作品。 「クリスマスイブのシティーホテル」「ソフトスーツ」「男女七人夏物語」・・・と当時の世相を思い起こさせるキーワードが散りばめられ携帯電話が無い時代状況が恋が始まるじれったさやもどかしさを加速する 若さゆえのまっすぐさ・愚かさ・残酷さもストレートに描き引き込まれる 「これは伏線か?」と思う部分はあるが「次はどうなるんだ?」とページをめくるうちに疑問は薄れてしまう 読んでいる最中は素直でほろ苦い恋愛小説にしか思えない 最後の数行に差し掛かるまでは・・・ それにしてもあれだけ「必ず2回読みたくなる」と煽られ気をつけて読んだのにまんまと術中にはまってしまった 「再読のお供に」と題された解説・80年代の風俗を紹介した用語集もしゃれている ただ上手く騙された感はあるがミステリとしてはどうかと思う |
No.159 | 5点 | アムステルダム運河殺人事件 松本清張 |
(2017/07/13 23:43登録) 1969年の中編2編を収録 表題作は実際に起きた事件をもとに作者が再構成し推理を加えた作品 被害者は行方不明の被害者なのかと前半はドキュメンタリー調に事件を紹介している 後半になると主人公と医者の二人組で現地で迷宮入り事件を再調査していく展開 「死体が首と手首を切断されたのは何故か」の意表を突く真相には驚かされる ただ作品の性質上仕方がないといえば仕方ないのだが盛り上がりに欠ける点は残念 セント・アンドリュースの事件はアリバイ工作には鮎川哲也氏の前例あるトリックと江戸川乱歩氏ばりのトリックが融合している |