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ミステリの祭典

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パメルさんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:657件

プロフィール| 書評

No.297 8点 生還者
下村敦史
(2020/08/09 09:36登録)
世界第3位の標高を誇るカンチェンジェンガに登っていた日本人4名の遺体が回収された。増田直志の兄、謙一もその中の一人だった。その後、奇跡的に相次いで2人の生還者が見つかる。しかし、2人の言い分は全く違っていた。また、直志は兄の遺品であるザイルに不審を抱く。
人間の持つ主観により、真実が見えにくくなる。何が事実で、何が虚構か、最後まで目が離せない。迫力満点の雪山の描写に加え、謎が謎を呼ぶ展開や二転三転していくミステリの面白さに加え、兄と弟の確執、ある人物のトラウマ、「生還の罪」に取りつかれた者たちが辿る闇を描き切った人物造形が錯綜するプロットを支えている。
伏線が見事に回収され、全ての謎が明らかになった時、山への真摯な思いも浮かび上がり、晴れ渡った景色を山から見下ろすような爽快な気分になった。ミステリとしても人間ドラマとしても満足な出来。
余談ですが、寒い時期に読む場合、防寒対策を万全にしておかないと凍えてしまうかもしれません。


No.296 7点 medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼
(2020/08/02 08:38登録)
本ミス1位、このミス1位、本屋大賞にもノミネート、帯の「すべてが伏線」という惹句に綾辻行人氏、有栖川有栖氏も絶賛、そして何よりこのサイトでの評価がとても高いということで、文庫化まで待つことは出来ませんでした。
推理作家として難事件を解決してきた香月史郎と死者の言葉を伝えることが出来る霊媒師の城塚翡翠が力を合わせて事件に立ち向かう。設定にSF的趣向があり、ラノベ風な雰囲気があるので読者を選ぶかもしれない。
香月史郎と城塚翡翠が事件を解決するたびに、インタールードという幕間のようなシーンが差し挟まれる構成になっている。キャラクターが苦手で、あまり楽しめないなと読み進めていたが、最終話でそれまでのストーリーの印象が見事なまでにひっくり返るような衝撃的な真相が待っていた。ヒロインのキャラクターだけでなく、各話の事件の解決に至る推理までもが鮮やかに違うものに変化するというのには驚かされた。


No.295 5点 密閉教室
法月綸太郎
(2020/07/27 09:40登録)
作者のデビュー作。シリーズ探偵である作者と同姓同名の法月綸太郎は登場しない。
ある朝、女生徒が学校に来ると、教室でクラスメートが倒れており死亡が確認された。さらに、あるはずの机と椅子が全て消失していた。不可解な状況の謎を、ロジカルに解明していく本格推理小説であり、青春小説でもある。
自殺なのか他殺なのか、密室の謎、机と椅子の消失と提示された謎は魅力的。真相を突き止めるために、ミステリマニアのクラスメイトが推理していく。中盤までは、オーソドックスな推理小説を読んでいる感じで進むが、終盤になると作者らしい?捻くれた展開になり楽しい。
真相が明らかになった時、現実的ではないとは思いながらも、納得できる部分もあり、まずまずといったところ。
ただ、無駄な描写が多く、文章がぎこちない。プロットも洗練されていないので、点数はこの程度か。


No.294 6点 シャドウ
道尾秀介
(2020/07/20 10:12登録)
ふたつの家族を巡る心理的な葛藤の物語。人物関係は、一見単純で分かり易いが、底流にすさまじいものがある。物語は、それぞれの人物の視点から語り進められて行く。リアルな人物造形、奇をてらわないストーリー展開など、万人向けの作品に仕上がっている。特に派手な事件が起きるわけではないが、日常の中に正体不明の異物が紛れ込んできたような、何とも形容しがたい気味の悪い緊迫感が心地良い。
サイコ・サスペンスの体裁をとりながら、それらが結末への伏線となり全体像が一気に浮かび上がる。二転三転するプロット、無駄のない構成と文章に強く惹きつけられた。子供があまりにも悲惨な目に合うのが辛いが、主人公の成長とラストに随分と救われた。
ただ、仕掛けに前例があり、先が読めてしまった点とこじんまりとまとまりすぎている点が不満。


No.293 6点 往復書簡
湊かなえ
(2020/07/14 09:54登録)
本書は雑誌に連載した2編と、書き下ろし1編を収録。過去の事故や事件の真相を、本のタイトル通り、当時を知る人物たちがつづった書簡の往復によって炙り出していく連作ミステリ。
「十年後の卒業文集」は、部活仲間の結婚式を機に再会したかつての同級生同士が、行方が分からなくなっている千秋という女の子の話題を巡り文通を始める。千秋はある事故で顔に大怪我を負ったのだが、その原因などについて手紙を交わすうちに、当時、そして今、お互いにどんな気持ちを抱いているのかが浮かび上がる。そこには単純に青春時代の友情物語と美しく括れない、妬みや羨望が渦巻いていて恐ろしい。終盤、作者らしいからくりがあるのも読みどころ。近しい人とのコミュニケーションは、携帯電話やパソコンのメールが主流となり、手紙を書く機会は減ってきている。だが、本書では手紙という通信手段を使うことで、人物同士の微妙な距離感や、普段あまり顔を合わせないからこそ書ける赤裸々な感情を、生々しく描き出すことに成功している。
一度ポストに入れたらもう後戻りできない。受け取った後、メールのように消去できない。本書の主人公は人の心を映し出す手紙そのものといえるかもしれない。


No.292 5点 クドリャフカの順番
米澤穂信
(2020/07/06 19:20登録)
古典部シリーズ第三弾。
ストーリーは、前作・前々作で予告されていた文化祭の前夜から始まる。古典部は文化祭で販売する文集「氷菓」を刷りすぎてしまった(予定の7倍)という問題を抱えていた。普通のやり方では、売れ残り赤字は免れない。さあどうするか。
3日のうちにこの不可能を可能にすべく、4人のメンバーはそれぞれ行動を起こす。「氷菓」を売り捌くことが出来るのかというミッション・インポッシブル的な話に、次々と行われる各行事が絡んできて抱腹絶倒の展開に。
古典部メンバー4人の視点を次々と変えながらスピーディーに進んでいき心地よい。そして一見、関係なさそうな事件が、やがて「クドリャフカの順番」の謎へと繋がっていく。
多くの伏線が結実して迎えるフィナーレは、ほろ苦く感動的。ただ青春小説としては面白いが、ミステリ的には、やはり弱いか。


No.291 7点 遥かなりわが愛を
笹沢左保
(2020/07/01 10:06登録)
冒頭からとても奇妙。四国在住の女性から警察署に電話が入り、〇〇の旅館に高野という男がいる、その男から脅迫まがいの電話が掛かってくるので、警察の方から注意してほしいという用件だった。
電話は大宮、中之条、直江津、水沢、一関、仙台、福島、米沢と連続している。しかし犯罪らしきことは起きない。高野とは何者か、女性が警察に連絡する意味は何なのか。謎は深まり惹きつけられる。
犯人が挑戦状を叩きつけ、鉄壁のアリバイを持ち(証人は警部)、殺人のモチーフに歴史ミステリの趣向があり(高野長英登場)、動機に究極の愛の哀しさがある。
ロマン溢れる独特の叙情性と歴史ミステリが加味された本格ミステリ。高野長英に詳しい方は、さらに楽しめる作品。タイトルは秀逸、読後感も爽やか。


No.290 7点 第三の時効
横山秀夫
(2020/06/26 19:34登録)
一班、二班、三班とチームが3つあり、事件によって担当する班が違う。そして仲が非常に悪い。それぞれの班長もロジカルでクールな朽木、謀略型の楠見、天才的な閃きを持つ村瀬と個性的。班ごとの権力争いに加え、班内での出世争いなどの軋轢もあり、凶悪事件に対処すると同時に内部対立もあるということで、常にストレスを抱えている。
「沈黙のアリバイ」で朽木の読みの深さに唸り、「第三の時効」で楠見の冷血さとシャープさに慄然とし、「密室の抜け穴」で村瀬の深慮遠謀に茫然となる。
それぞれのストーリー展開も凝っており、先が読めないし、どんでん返しがあり、濃厚な人間ドラマがある。警察組織内部の葛藤もあり、それらが渾然一体となって進んでいく。作者が読者をどこへ連れて行こうとしているのか最後までわからない。プロットの巧妙さには驚かされた。


No.289 6点 三毛猫ホームズの騎士道
赤川次郎
(2020/06/22 19:03登録)
舞台はドイツ・ロマンティック街道沿いにある古城。そこは中世さながらに秘密の抜け道や武器、拷問用具らが残る陰鬱な雰囲気。
冴えない片山刑事に、三毛猫ホームズが意外性に富んだ推理結果をどう受け止めさせるのかなど、ユーモラスなタッチで描かれているが、超自然やファンタジーではなく、犯人探しの興味で引きずり込む本格推理小説になっている。
典型的なクローズド・サークルもので、その設定を遺憾なく発揮し意外な真相まで引っ張っていく。謎の女性の歌声あり、密室トリックあり(なかなかの出来)、ある人物の意外な正体も効いている。
厳密にいうとアンフェアな部分もある。ラストの一行は、作者は単なるオチとして書いたのかもしれないが、ミステリにおけるCC物のある種の馬鹿馬鹿しさを批判しているように思える。


No.288 7点 黒地の絵
松本清張
(2020/06/14 10:30登録)
9編からなる短編集。新潮文庫版で読了。9編全て標準作以上で凡作はないという印象。その中から、3編の感想を。
「装飾評伝」岸田劉生をある程度モデルにしたという作者の言葉があるが、小説の主眼は、天才に圧倒された人間の畏怖と嫉妬が憎悪と復讐の念に変わるさまを描く点にある。陰湿な復讐それ自体を生の目的とせざるを得なくなった人間の姿が彷彿する。
「真贋の森」鑑定能力のない権威の実態を世間に晒す企みがどうなるかが読みどころ。犯罪者の語りで成るために謎解きの興味はないが、描写は陰影深く、動機にも迫力がある。真贋とは物に対する以前に、人間に対するものだという主題が底に響いている傑作。中野好夫氏は、この作品を日本美術界の閉鎖的アカデミズムに対する鋭い風刺の挑戦を試みたものと述べている。
「空白の意匠」弱い立場にある地方新聞の律儀な広告部長を主人公とし、決して彼自身の手落ちではない偶発的な、しかし新聞社には致命的なミスによって、彼の懸命な努力、奮闘にもかかわらず、哀れな結末に追い込まれていく過程が読ませる。結末も鮮やか。


No.287 6点 陰獣
江戸川乱歩
(2020/06/08 09:20登録)
春陽堂文庫版で読了。表題作を含む4編からなる短編集。 陰獣/盗難/踊る一寸法師/覆面の舞踏者
その中で、表題作の感想を。密室で繰り広げられる夫婦の秘め事という、完全にプライベートの領域に属する秘密が、赤の他人から送られてくる脅迫状に事細かに記されているというおぞましさを倒錯的なエロティシズムと共に描き出している。
作中に登場する大江春泥の作品のタイトルは「屋根裏の遊戯」「B坂の殺人」「パノラマ国」など、乱歩作品をもじったもの。乱歩の本名が平井太郎というのはよく知られており、それをもじるかのように大江の本名は平田一郎となっている。
このように「作中の私=作者の乱歩」ではなく「大江=乱歩」という印象を読者に与えるのだが、これ自体がトリックになっている。
だが、これについては、乱歩自身は全く意識していなかったと語っている。二転三転する真相には驚くが、さらに最後の数行で、驚かされる。もっとも、この数行については発表当時から賛否両論あったらしいが。


No.286 6点 王とサーカス
米澤穂信
(2020/06/01 10:44登録)
2001年にネパールで実際に起きた事件を題材に、事実を知ることと、それを伝えることの意義と疑問を真摯に問いかけている作品。
フリーライターの太刀洗万智がネパールで巻き込まれた王族殺人事件。ジャーナリストの血が騒ぐ太刀洗に情報と提供をしてくれた軍人の殺人事件。この二つの事件、どう関係があるのか。誰が味方で誰が敵なのか。正しさとはとても曖昧といえる。だから人は壁にぶつかるたびに考える。なにが正解なのかを。
真実を求めるためのジャーナリズムが時には誰かを傷つけることになっても、それは正しいことなのか。主人公が突き付けられる疑問や苦悩に読み応えがあり、深く考えさせられながらもスピード感があり心地よい。


No.285 6点 火のないところに煙は
芦沢央
(2020/05/25 20:37登録)
物語に招かれるように、奥へ奥へと入り込んでいく。一歩一歩その歩みを進める度に、積み重ねっていく恐怖。
物語が進むにつれ、引っ掛かりを覚える箇所がいたるところに見えてくる。気にはなるが、それらを凝視することが、明らかにすることが怖い。物語の向こう側を覗き見るようなそれらの行為が堪らなく怖い。
何とも言えない居心地の悪さ、ざわつき、そして意外な結末の謎解き。ロジックにより、怪異を明らかにすると、さらなる事実が明かされることで、ロジックが怪異を補強してしまうという構成は実に巧妙。


No.284 7点 ミレイの囚人
土屋隆夫
(2020/05/18 19:11登録)
寡作作家として有名な作者だが、作家人生は長い。この作品は80歳を超えてからだが、年齢を感じさせない筆力で驚かされる。
導入部の人気作家監禁といえば、スティーヴン・キングの「ミザリー」を頭に浮かべる方が多いと思いますが、「ミザリー」はホラー、こちらは本格推理の色合いが濃い。
本格推理と心理サスペンスを融合した野心作で、推理作家・江葉の監禁事件と新進推理作家の死亡事件がどう繋がっていくのかが読みどころ。
トリック自体はシンプルだが、ミスディレクションが巧妙なため、気付くことは難しい。また複雑なプロットを構成する手腕は見事で、真相が明らかになった時の衝撃度は高い。ホワイダニットには少し引っ掛かりますが...。


No.283 7点 不穏な眠り
若竹七海
(2020/05/11 20:15登録)
私立探偵葉村晶シリーズで4編からなる短編集。
収録されているのは、刑務所から出所されたばかりの女性の拉致騒動に巻き込まれる「水沫隠れの日々」、家に帰ってこない警備員捜しが殺人事件へと発展する「新春のラビリンス」、古本の時刻表の行方を追う「逃げ出した時刻表」、死亡した女性の周辺をを調べる表題作の「不穏な眠り」の4作。
いずれもハードボイルドらしいスピーディーな語り口、皮肉な比喩、ユーモラスな軽口、屈折した会話が読ませるし、作者らしい凝りに凝ったプロットも素晴らしい。
特にプロットの点では予想外の事実を次々と明らかにしていく「不穏な眠り」がいい。葉村晶はパートタイムの古本屋の店員であり、古本ミステリとしての味わいも濃いが、それは二転三転する「逃げ出した時刻表」にあらわれている。葉村晶シリーズのエッセンスが詰まった短編集といえる。


No.282 6点 殺意の設計
西村京太郎
(2020/05/04 09:25登録)
前半は麻里子の視点、後半は矢部警部補の視点で展開していくが、前半の浮気に悩む人妻のストーリーが絶妙な効果をあげている。後半にはいると、それまでの出来事が別の解釈により、鮮やかに反転し驚かされる。
大きなトリックはありませんが、死の瞬間の些細な矛盾点、妻の肖像画に関するトリッキーな仕掛け、毒薬の購入の小技など、地味で渋いトリックを次から次へと繰り出してくる手際の巧さはさすが。
叙述上のある仕掛けもありますが、これは察しやすいと思う。なお肖像画に関する真相には、その時のある人物の心情を察して泣ける。


No.281 5点 オーダーメイド殺人クラブ
辻村深月
(2020/04/27 10:12登録)
主人公は中学二年生の小林アン。クラス内ヒエラルキーの女子上位グループに属し、勉強も部活も頑張っているリア充型の女子。そんな彼女だが、実は同じ年頃の子が起こした自殺や殺人や事件に関する記事を読んでは、自分は遅れているんじゃないかと焦っている。
読みながら不健全と感じる人が多いと思います。自分もそうでした。ただ、経験不足から視野狭窄に陥りやすく、それ故に些細なことが重大な事に思えたり、すぐ傷ついたり、自信のなさが攻撃性に転じたり、そんな十代の「あるある」がリアルに描かれており惹きつけられる。
最後に見せてくれる光景には心が震えた。ただ、これはミステリとはいえないですね。ミステリ要素を期待して読むと肩透かしを食らうと思います。ちょっと異質な青春小説という感じ。


No.280 5点 深泥丘奇談・続
綾辻行人
(2020/04/20 10:52登録)
10編の怪談をオムニバス形式で収める短編集。08年刊行「深泥丘奇談」同様に舞台は著者が生まれ育ち、現在も住む京都がモデルの架空の町。
各編それぞれ独立した物語で、主人公は作家を思わせる「長年の間、本格推理小説の創作を主な生業としてきた」人物。「紅叡山」の麓に妻と暮らし、時に散歩中に遭遇した怪奇現象を、時に過去のおぞましい記憶が呼び起こす恐怖を描く。
名も知れぬ神社の境内で誰もいないはずなのに「がらん」「がらん」と鈴の音が鳴る不気味な体験を描く「鈴」。外見はおおむね人間そっくりだが、異様な構造をしている怪しい生き物のバラバラ死体が発見される残酷な事件を描く「切断」...。
どれも作家の暮らす現象の世界をふと異形のものたちが入り込み、人間たちを翻弄する。日常に浸透してくる不穏な気配と怪談なのにどこか呑気な筆致が醸し出す滑稽味が同居する作品。


No.279 8点 臨場
横山秀夫
(2020/04/13 11:05登録)
新聞記者や検視官、刑事、婦警など異なる視線で描かれた八編からなる短編集。
この八編の謎を浮かび上がらせるのは、終身検視官と呼ばれる、捜査一課調査官、倉石義男。彼はその眼力の鋭さで、不可解な死体の謎を次々と暴く。その間の倉石は、上司にも態度や物言いを変えず、我を貫く姿勢はなかなかのもので、魅力的に映る。
倉石が暴くのは、不可思議な死の謎だけではない。死と生は連動している。死の謎を暴くことは、生のある局面に触れることでもある。そして、一つ一つの小説が、人の生の重さを見事に描き出している。
「事件」を間に挟んで描かれる人間関係は、緊張感に包まれながらも、どこか温かい。無念な死を逆転させて、爽やかな生に深い意味を与える倉石はカッコ良さをも感じさせる。


No.278 6点 Iの悲劇
米澤穂信
(2020/04/06 08:59登録)
限界集落と化した場所が各地で増えている。なにも衰退した地方ばかりとは限らず、都市周辺でも起きているという。この作品は、そんな誰もいなくなった集落を復活させようと、ある地方の職員が奮闘する物語。
南はかま市の市役所に勤める万願寺は、市長肝入りのプロジェクトチーム「甦り課」の一員として、山あいの小さな集落である蓑石に新しい定住者を募り、その支援と推進を続けていた。
新たに集まったのは、癖の強い個性的な人たち。それだけに住民同士の人間関係がこじれがちとなり、さまざまな摩擦がもとで小さなトラブルが生まれ、謎を含む事件へと発展していく。しかも容易に原因は分からず、解決が難しい。
個性的な移住民の登場はもちろんのこと、共同体の中で次々に起こる不可解な事件が興味深く、加えて地方の行政や役人の日常の描写がリアルなため、ドラマの展開から目が離せない。
さらに物語の中には、いくつもの伏線があり、最後で、すべての事件の背後に隠されていた意外なたくらみが明かされる。
結末を受け、いったいどうすることが真の正解なのかと考えさせられた。

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