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ミステリの祭典

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パメルさんの登録情報
平均点:6.13点 書評数:623件

プロフィール| 書評

No.263 7点 儚い羊たちの祝宴
米澤穂信
(2019/12/28 17:31登録)
「ラスト一行」にこだわり抜いた連作集だという。
冒頭の「身内に不幸がありまして」は、ある「お嬢さま」の身の回りを世話するために孤児院から引き取られた女性の手記から始まり、屋敷一面を血の海にした惨劇とその後が語られていく・・・。
前半の軸になっているのは、部屋につくられた「秘密の書棚」や横溝正史、泉鏡花といった作家名、「バベルの会」という読書クラブなど、少女の小説趣味にまつわる話。ミステリ読書の興趣をそそる設定や怪奇なエピソードにあふれており、それが小説にふくらみとたくらみを与えている。他の収録短編も、館にとらわれた者、まだ雪の深い早春の山荘、名家の娘と、クラシカルな探偵小説でおなじみの舞台と展開に事欠かない。
しかし正直なところ、最後の衝撃については落語のサギ程度で終わっている。あらかじめ「ラスト一行」がすごいと強調されると、つい裏読みしながら読むので逆効果と感じた。それでも意表をつく展開は十分に面白く、異端の文芸たるミステリの怪しい魅力を堪能できる粒のそろった連作集といえる。


No.262 5点 ロシア幽霊軍艦事件
島田荘司
(2019/12/23 17:03登録)
作者らしいスケールの大きな不可能興味で始まり、その後歴史ロマンへと展開していく異色の作品。芦ノ湖に軍艦が出現という、ありえないはずなのに実際に軍艦と中から降りてくるロシア軍人を見た目撃者がいる。そして翌日には、軍艦が跡形もなく消えてしまう謎が残る。
一方で、日本人の老人が、あるアメリカ人の女性へ「ベルリンでは本当にすまないことをした」と伝言する。この伝言の裏に隠された悲劇と壮大なロマン、これが徐々に明らかになっていく過程が本書の醍醐味といえるでしょう。
歴史ロマンの題材とは皇女アナスタシアにまつわるミステリで、本書ではロマノフ家に関する記述が多く出てくるが、その部分は史実に忠実に書かれているらしい。
構成も工夫されており、御手洗が謎解きをした後に、ロシアから日本、日本からベルリンへという過去の壮大なドラマの再現パートがやってくる。あまりにも数奇な人生を送った男女の運命的なドラマとして、ひしひしと胸に迫ってくる怒涛のようなクライマックスであり、重厚極まりない読後感と言っていいと思う。
ただ、エピローグで80ページ以上あるという事に関しては、冗長に感じてしまったし、ミステリ的にもかなり薄味という点は不満が残る。


No.261 6点 罪の轍
奥田英朗
(2019/12/13 01:21登録)
東京オリンピックを翌年に控えた昭和39年。北海道の礼文島に暮らす青年が、ある犯罪の末に島から逃亡する。彼はサロベツで無人の林野庁詰め所から作業服と腕章を盗み出した。その一ヶ月後、東京の南千住で殺人事件が起きる。捜査する刑事の耳に怪しい男の情報が入ってきた。捜査本部はその男を捜そうとするが、隣接する浅草署管内で小学生男児の誘拐事件が発生する。
まず驚かされるのは昭和30年代の描写。団地ブームに夜行列車、警察に抵抗する活動家たち、山谷の猥雑な空気。米屋でプラッシーを買うというくだりは、思わず「懐かしい!」と声が出た。そういう風俗だけではない。本書で描かれる誘拐事件は、その年に実際に起きた「吉展ちゃん誘拐事件」を下敷きにしている。犯人像や動機、被害者の環境や年齢は変えているが、警察の捜査の手順はほぼ当時のまま再現されている。
電話やテレビが一般家庭にようやく普及し始めた頃で、通信と技術の発達により、犯罪と捜査と報道のあり方が大きく変わり、その混乱が巧みに描かれている。その様子が、ネットが普及した現代の混乱によく似ていることに驚く。社会の転換期を描いた本書は、同じオリンピック前年の今にふさわしい。
作者お得意の群像劇形式で描かれ、犯人が抱える悲しい過去と壮絶な孤独に胸を痛め、それを追う刑事たちの執念の捜査には手に汗を握る。犯人と刑事の心の交流には、一行ごとに熱いものがこみ上げた。
ただ、犯罪小説であり、警察小説でもある本書だが、犯人と警察との駆け引き、知恵比べということで楽しむ事は難しい。そういう点を期待していると、肩透かしを食らうかもしれません。個人的には、脇役の人物に魅力を感じたので、その人物を主人公にしたら、もっと面白かったのにと思ってしまいました。


No.260 8点 銅婚式
佐野洋
(2019/12/04 01:06登録)
「週刊朝日」と「宝石」共催の企画に投じたデビュー作「銅婚式」が入選した。その「銅婚式」を含む8編からなる短編集。
さすが短編の名手と言われるだけあり、どの作品も一定の水準に達しており、粒ぞろいといってよいと思う。(短編の数はトータルで千編を超すというから驚き)
卓抜した着想と整然とした構成、精緻に張り巡らされたフェアな伏線、揺れ動く心理の丁寧な描写力、ひねりの効いたプロットに意外性の演出、軽快なストーリー展開にほどよいリアリズムと全体的に完成度が高い。
ただ、大掛かりな物理トリックや、怪奇的・幻想的な味付けは一切排除されているので、どちらかと言えば地味ではある。


No.259 6点 図書館の殺人
青崎有吾
(2019/11/27 18:58登録)
探偵役のキャラが前2作に比べて薄まっているという事で読んでみた。(このようなキャラはどうも苦手で・・・)
平成のエラリー・クイーンと呼ばれている作者は、このシリーズで「密室」「アリバイ崩し」とテーマを決めて発表してきた。今回のテーマは「ダイイングメッセージ」。ダイイングメッセージもので、解読がそのまま犯人の指摘につながる例は、あまり見たことがない。その点で本書は成功していると思う。
探偵役の推理も実にロジカル。怪しいと思われる人物を何人も配置しながら、ちょっとした手掛かりから犯人を絞り込んでいく展開はとてもスリリングで好印象。
不満な点は、ミステリとは関係のない余計な会話が多いことと、犯人の動機に納得がいかないところ。犯人と被害者の関係を考えれば、あまりにも現実離れしている。その分、意外性には成功しているのだが・・・。


No.258 6点 死神の精度
伊坂幸太郎
(2019/10/21 11:00登録)
死神が主人公の6編からなる連作短編集。
この死神は、近々死ぬことになっている人間に近づき、観察して最終的に死なせるかどうかを判断するのが仕事という設定。人間の死には全く関心がないため、かなりクールな印象がある。(この点は好みが分かれるでしょう)
ハードボイルド風味、嵐の山荘風味、恋愛小説風味、ロードノベル風味、人情噺風味と多彩ではあるが、謎と人間ドラマが結びついたストーリーという点が共通している。
リーダビリティーが高く、時にコミカルに、時に感動的に描かれ、軽く洒落た作風。この作者の持ち味なんでしょう。
最後の一編に、さりげなく驚く仕掛けがあるとともに、ストーリーの世界を拡大するような作用があり、それがとても心地良く読後感が非常に良い。
オシャレなミステリ、エンターテインメント性の高い作品を求めている人にはお薦め。濃密なストーリーが好きな方には、物足りなさを感じるかもしれません。
同じファンタジーならば、東野圭吾氏の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の方をお薦めします。


No.257 5点 インサート・コイン(ズ)
詠坂雄二
(2019/10/12 01:36登録)
懐かしのビデオゲームの世界を題材にした連作ミステリ。
第一話は、フリーライターの柵馬がゲーム雑誌の特集企画で「スーパーマリオブラザーズ」におけるキノコの移動に着目したことから始まるストーリー。山へ動くキノコを探しに行き、そこで奇妙な出来事に遭遇。その謎を柵馬にとって憧れの先輩ライターである流川が見事に解いてみせる。
第二話で扱われているのは「ぷよぷよ」。さらにインベーダー、ドラクエなど懐かしのゲームを題材にしつつ、柵馬、流川、そして作者の詠坂自身も作中に登場する。
ひたすらゲームに没頭した青春が語られるだけでなく、メタな視点を生かしたり、巧みな伏線が置かれていたりとミステリの仕掛けも見事。なにより大人になった今もなお、人生をゲームに捧げ続けている者たちのさまざまな思いがひしひしと伝わる連作集。ファミコン世代ならずとも共感を楽しめるでしょう。
これらのゲームに詳しい方は、より楽しめると思いますが、詳しくなくても、ある程度の知識があれば「日常の謎」?のミステリとして楽しめると思います。ちなみに私は、ゲーム音痴です。


No.256 4点 隠花の飾り
松本清張
(2019/09/30 01:35登録)
11編からなる短編集。三十枚という制約の中で書いたそうで、ただ三十枚でも百枚にも当てはまる内容のものをと志して書いたという意欲作。無駄を極力削ぎ落とし、内容を濃密にしようという心意気は、素晴らしいと思う。
「百円硬貨」は、プロットが引き締まり、簡潔でクールな前半の叙述と臨場感たっぷりの終盤の緻密な叙述の対比が鮮やか。
ただ、いわゆる不倫ものが多いが、作者お得意のドロドロとした愛憎劇というのは、影を潜めどうもあっさりとしている。晩年に書かれたそうだが、年を取ってそのような感性も鈍ってしまったのかなと感じた。また、全体としてアイデアも切れ味も不足という感は否めない。ミステリとしては弱いので、変わった味わいの小説として読むのが良いのかも知れない。


No.255 6点 死のある風景
鮎川哲也
(2019/09/22 01:12登録)
序盤に提示される魅力的な謎、複数のトリックが絡み合い効果を発揮している巧妙なミスディレクション、難攻不落に思える鉄壁のアリバイ、思いがけない糸口から鮮やかに崩していく推理過程など、本格ミステリとしての魅力に溢れている。3つの事件が、それぞれどのように絡むのかといったプロットの妙も加わり、ワクワクさせてくれる要素は多い。
ただ、アリバイ崩しにかなりの分量が割かれているので、冗長に感じてしまった。(仕組まれたアリバイ工作の有効性が高いので、アリバイ崩しが好きな方は、読み応えがあり楽しめると思います。)また、鬼貫警部シリーズですが、登場するのは第十二章の一章のみ、しかも真相の解説は別人が行うため、シリーズのファンにとっては物足りなさを感じるかもしれません。


No.254 6点 むかしむかしあるところに、死体がありました。
青柳碧人
(2019/09/13 02:40登録)
タイトルや表紙のイラストから見れば分かるように、昔話をミステリに書き換えた挑戦作で、何とも緻密に作られている。
「一寸法師」、「花咲か爺さん」、「鶴の恩返し」、「浦島太郎」、「桃太郎」と誰もが知っている昔話を、少しだけ捻りを加えただけの軽いミステリに終わらせるのではなく、本格的に仕上げているから驚く。「一寸法師の不在証明」は、殺人が行われた時に鬼の腹の中にいた一寸法師のアリバイを崩す話だし、「花咲か死者伝言」は、殺された花咲か爺さんのダイイングメッセージを犬が推理する話、「つるの倒叙がえし」は、鶴が巻き込まれた殺人事件を犯人側から書いていく倒叙スタイルで、「密室竜宮城」では浦島太郎が竜宮城で起きた密室殺人を解き明かし、「絶海の鬼ケ島」では桃太郎伝説とクリスティの「そして誰もいなくなった」を融合させているからたまらない。
昔話を徹底的に戯画化していてブラックユーモアが効いている。また、昔話ならではの小道具がトリックに使われたり、巧緻な仕掛けに意表をつく展開と楽しい作品が多い。その中でも、犯人と動機の解明が鍵となるフーダニット&ホワイダニットとして面白い「花咲か死者伝言」がベスト。


No.253 8点 首無の如き祟るもの
三津田信三
(2019/09/07 10:31登録)
ここに参加させていただく以前に読んでいたのだが、大まかには覚えていたものの、細部は忘れていたので再読してみた。
女性のような顔立ちの男性、男装をした女性、そして同姓愛疑惑、それらが真実なのか?虚実なのか?そこに跡継ぎ争い問題、因習、祟りなどがホラー的な怪しい雰囲気で複雑に絡んできて、惹きつけられる。真相もどんでん返しを繰り返し、最後の最後まで分からないように工夫がされており、飽きさせないし衝撃度も高い。これぞ、本格とホラーの融合された作品といえる。
「首の無い死体」という今までのパターンに新機軸を打ち出した作例といわれており、トリックに目新しさは無いものの、緻密なプロットによって組み立てられた仕掛けは素晴らしい。事件を巡る多くの謎が、一つの事実に気付くと全てが解明するという構成も巧妙。伏線を一つ一つ確認すると考え抜かれているのがわかる。(これも再読の良さだと思う)ただ、プロットに凝りすぎてある真相に無理がある点は残念。


No.252 6点 黒い家
貴志祐介
(2019/08/30 01:10登録)
第四回ホラー小説大賞受賞作。
作者自身の生命保険会社に勤めていた時代の経験をいかしており、リアルさが際立っている。前半の保険業界に関する蘊蓄も興味深く読むことが出来ました。
ホラーといっても霊的な類は一切出てこない。生身の人間の恐ろしさと狂気を描いており、キャラクター造形も巧みで、読んでいてゾクゾクさせられる。中盤以降のスピード感あふれる展開も素晴らしく、インパクトの強いホラー作品に仕上げているといっていいと思う。
ただ、後半のある場面で、そこはまず警察に通報するのが最優先なのでは?と行動に違和感を覚えたり、警察自体もあまりにも無能なため、それまで楽しく読めていたのに、一気にトーンダウンしてしまった。


No.251 6点 インシテミル
米澤穂信
(2019/08/20 01:27登録)
常識外れの高額時給につられて、正体不明の施設の地下に一週間隔離され観察されるというアルバイトに応募した12人が、次々と死んでいく中を何とか生き延びようとするストーリーで、「バトルロワイアル」に似た設定を本格で行えばこうなるのかなと思う作品。
ボーナスとペナルティーで参加者を煽るルールに、古典名作にちなんだ武器が挑発的な解説と共に配給され、一人づつ死んでいく展開で、参加者それぞれが疑心暗鬼になっていく心理状態が丁寧に描かれ惹きつけられる。
一つ一つの凶器や殺しのシチュエーションにミステリー的な趣向が凝らされている点は好印象。
もともと「機構」の観察下で進行する実験というメタフィクション的な構造がある。証拠を偽造するメタ犯人に、探偵役を煽動する犯人という「操り」構造があって真相は最後の最後まで見えてこない。
「クローズド・サークル」「操りテーマ」「叙述トリック」「語呂合わせ」を露悪的に極端化したような作品。


No.250 5点 鎌倉XYZの悲劇
梶龍雄
(2019/08/10 01:07登録)
ふらりと立ち寄ったブックオフで、新書版のこの作品を発見し、思わず手に取った。裏を見ると、108円のラベルシールが貼ってある。前にも書いたけど、この作者の作品は、やたらと高い価格で取引されているらしい。スマホで確認するとヤフオクでは出品されていなかったが、アマゾンでは2905円で出品されていた。(本当にこんな価格で買う人いるのかと疑問だったが)とりあえず買うことにした。
殺されて天国に来た被害者が、自分の死の真相を探るべく、天国から遠隔操作によって下界の探偵を使って捜査するというSF的な設定。設定的にはとても好み。ただ、序盤から海外の某有名作品のネタバレがあり、あまり感心しない。ストーリーは、そこそこ面白いのだが、トリックは既読感があり成功する可能性は高いかもしれないが、ちゃちで面白みがない。フーダニットとしては、意外性があり驚かされる(少し反則気味かな?)が泡坂妻夫氏の某作品の二番煎じといえるところが残念。


No.249 4点 びっくり館の殺人
綾辻行人
(2019/08/02 10:26登録)
ジュブナイル作品で館シリーズ第7作。
子供向けという事もあり、文字はやたらと大きいし、行間は広いし、漢字にはすべて仮名がふってあり、逆に読みづらい。(笑)(単行本で読みました)
一人称による騙しのトリック、密室殺人、異常心理を扱ったホラーテイスト、謎解きの遊び心と作者らしさにあふれている。
ただ、この作品のメイントリックは「●●を●●と思わせる」ことですが、想像できてしまう方も多いのではないでしょうか。また、深刻な児童虐待の問題を扱っているので、子供向けとしては、とてもお薦めできない。
ラストに関しても、不気味な含みを持たせた感じで「今後どうなるのかは、読者の皆さん、それぞれ想像してみてください」的な終わり方で、賛否両論あると思うが、個人的には好みでは無い。


No.248 6点 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?
詠坂雄二
(2019/07/25 01:12登録)
副題のとおり、ホワイダニットに徹底的にこだわった作品で、ルポルタージュのように描かれている。
稀にみる殺人鬼という強烈なキャラクターに、スリリングなストーリー展開、周到な伏線に緻密なプロット、壮大なミスディレクションに最後の一行での衝撃的なサプライズとミステリとしての醍醐味を味わえる作品といえる。
個人的には行き過ぎたグロテスクな描写は苦手なのですが、生々しいところとサラリと流しているところが、バランスよく感じたため、それほど気にはならなかった。
不満に感じる点としては、多くの人間を殺したのかについては、一応の説明はあるが、詳しく語られてはいないため、佐藤誠の人物像と一致せず、すっきりしないところ。


No.247 7点 天使が消えていく
夏樹静子
(2019/07/17 10:43登録)
第15回江戸川乱歩賞、森村誠一氏の代表作「高層の死角」と最後まで争った作者のデビュー作。デビュー作とは思えない完成度で、個人的にはこちらの方が好み。
2つの視点から交互に描かれ、関係の無さそうな一連の事件が、少しずつ一つに繋がっていくところが読みどころ。家庭問題や女性が抱える社会問題を事件の背景とし、女性ならではの視点での、心理トリックも巧妙。真相には、なかなか辿り着けないストーリー展開で飽きさせないし、最後にはどんでん返しも用意されている。驚きの中に感動も与えてくれる作品。


No.246 5点 毒を売る女
島田荘司
(2019/07/08 15:28登録)
8編からなる短編集(ショートショートを含む)。
サスペンス中心の作品集だが、ホラー風味、社会派、SF、シュールなものなどバラエティーに富んでいる。ただ、面白いと思ったのは「糸ノコとジグザグ」ぐらい。深夜のラジオ放送に送られてきた謎のメッセージをリスナーと共に、解明していく。タイムリミットサスペンス要素があり、緊張感も伝わってくるし、オチも洒落ていて良い感じ。「渇いた都市」に関しては、松本清張氏が描いたならば、もっとドロドロした愛憎劇に仕上げたと思うので、その点物足りなさを感じてしまった。
これまで7作品しか読んでいない自分が言うのもなんですが、この作者の良さは魅力的な登場人物に、読者を惹きつける雰囲気とストーリーそして、誰もが思いつかないような壮大なトリックだと思っています。トリックに関しては、非現実的なトリックが多いため、あまり好みでは無いですが、雰囲気作りやストーリーの面白さには、毎回驚かされます。その点、この作品は作者の良さがあまり出ていない気がしました。やはり、島田荘司氏には本格ものを書いてほしいし、長編向きだと思いました。


No.245 7点 魔眼の匣の殺人
今村昌弘
(2019/06/26 18:50登録)
いきなり余談ですが、前作の「屍人荘の殺人」映画化決定おめでとうございます。小説が面白かったら、映画も面白いとは限りませんが見てみたいなと思っています。
クローズドサークルを舞台に、本格ミステリにオカルト要素を組み込んでいる。この配合が、とても良いバランスに思える。
予言に囚われた者たちの殺人劇を解き明かしていく探偵役の剣崎。ロジックがアクロバティックすぎる気もするが、張り巡らされた伏線で一応納得。最後にひねりをきかせ、事件の奥底を掘り下げるのも良い。
前作に比べると、インパクトに欠けるしラジオドラマ的な部分もあるが、ロジックは一段と緻密を極め、本格としての味わいは濃い。フーダニットとしては、前作を上回るのではないだろうか。
ラノベ調な会話など苦手な部分はあるが、この作者は設定のアイデアが抜群に優れているので、しばらく追っていこうと思う。


No.244 5点 早朝始発の殺風景
青崎有吾
(2019/06/20 01:27登録)
いわゆる日常の謎を解き明かす短編集。
始発の電車で高校生の男女が始発に乗り込む理由を探り合う表題作、女子高生3人がファミレスで学園祭用のTシャツのデザインを決めながら、ある秘密に思い至る「メロンソーダ・ファクトリー」、高校の卒業式を欠席したクラスメートの家で嘘を見抜く「三月四日、午後二時半の密室」など5編のほかに関係者たちのその後を描くエピローグがついている。
青春は「気まずさでできた密室なんだ。狭くてどこにも逃げ場のない密室」という言葉が出てくるけれど、まさに5編とも、青春の密室の中で気まずい思いを抱きながら相手が隠していることを解き明かしていく。
観察・発見・論理が緻密で、それが単にミステリとしての謎解きに終わるのではなく、人物たち(ひいては読者)の生きている世界の鼓動を改めて伝える仕掛けになっている。
優しく温かで、何とも言えない余韻があり、後味がとてもいい。
ただ、謎自体が小粒すぎてミステリとして物足りないし、青春小説としても・・・。ミステリ小説としても、青春小説としても中途半端な感じは否めない。

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