斎藤警部さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.69点 | 書評数:1305件 |
No.265 | 8点 | 冷たい密室と博士たち 森博嗣 |
(2015/08/26 12:24登録) カーの「三つの棺」に挑む様な気概を感じる、複雑で腑に落ちる密室の真相には胸を打たれます。 やはり胸を打つ動機、一連の事件の背景にも納得。 「全F」が密室トリックに於いて「三つの棺」の壁を内側から突き破った悪魔的作品だとすると、こちらの方は同じく「三つの棺」を外側から飛び越えようとして越えられなかったが、それなりに際どい高さまで迫った人間臭い作品ではないかと思えます。 「全F」が見せた強力無比な衝撃は無いけれど、読了してみると物語の厚みと読み応えは充分。 ただ「萌絵」をどうしても「もええ」と読んでしまい、TRICKの秋葉刑事を連想してしまう。 結果、彼女のルックスとして俳優の池田鉄洋氏的なものを思い浮かべてしまう癖だけは、これから是非なんとかしたい。 (服部さんの件は、詰めが甘いと感じる。) |
No.264 | 5点 | ブロの二重の死 クロード・アヴリーヌ |
(2015/08/26 11:38登録) 高校の頃、初めて聞く名前でしたが、いわくありげな惹句に釣られて手にしたものです。 ブロ氏なる敏腕刑事が自宅にて銃撃による瀕死の状態で発見されます。 ところが、そのすぐ隣にどう見ても同一人物、もう一人のブロ刑事が。。 という魅力的な謎を解き明かす物語ですが。。 どうも結末が、びっくりさせてくれないという肩透かし。 ですがお話の途上はそれなりに面白かった記憶があります。だからこその肩透かし。 この衝撃の死後デビューで人気を博してしまったブロ刑事は、続いて書かれたブロ・シリーズで生前の活躍を見せてくれる事になったという次第。 nukkamさんも書かれていらっしゃる「U路線の定期乗客」を読んでみたい気がします。何しろそこそこ安く売ってる創元推理文庫の古本(ちょっとプレミア付き)を近所で見つけたもので。まだ売れてなければ。。 |
No.263 | 7点 | 文豪の探偵小説 アンソロジー(国内編集者) |
(2015/08/25 18:28登録) 熟達の旧き良き薫る文章で書かれた探偵小説はまた格別の味。 論理を主眼とするものから犯罪心理に焦点を当てたものまで、探偵小説(≒推理小説)の名の下の幅広いスペクトルに軸足を掛けた愉しい短篇がいっぱい。 中でも心惹かれる佐藤春夫「オカアサン」は、夜店で買ったオウムが元の飼い主一家の物真似を聞かせる話。新しい主人はこのオウムの喋る多種多様な人々の幸せな発言内容と、もう一つの重大な事実、すなわち元の家で相当可愛がられたと思しきオウムが何故かその家から手放されたという事、これらを手掛かりに一つの推論を導き出す。その推論が実に泣けるわけです。 芥川龍之介「報恩記」の、極めて特殊な事情下にある人間関係の濃密さ、激烈さにも強く心打たれるものがある。 他の作品群も、超の付く有名作からオプスキュアな拾いものまで質の高さと読み応えは流石の文芸人達だ。 谷崎潤一郎「途上」 佐藤春夫「オカアサン」 泉鏡花「外科室」 三島由紀夫「復讐」 芥川龍之介「報恩記」 川端康成「死体紹介人」 太宰治「犯人」 志賀直哉「氾の犯罪」 森鴎外「高瀬舟」 (集英社文庫) |
No.262 | 6点 | 密室航路 夏樹静子 |
(2015/08/21 16:24登録) カッパ・ノベルス背の肩書きが「推理小説」ではなく、わざわざ「交通推理小説」と極めて異例。 客船や航空機等、何らかの交通機関を舞台にしているのは各篇に共通だが、何故わざわざそんな風に銘打ったのか不思議。消費者の目を引くための作戦か? さて短篇たちの中身は。。 旅情、いや旅行の感覚を損なわない程度にミステリ濃度や社会性もまずまず、と言ったところ。 爆発的興味こそ無いものの、悪くない手堅さの小品が並びます。 密室航路 /逃亡者 /バンクーバーの樹林から /結婚しない /90便緊急待避せよ (カッパ・ノベルス) |
No.261 | 7点 | 霧氷 夏樹静子 |
(2015/08/21 13:43登録) ある女は、夫の出張不在中、ノイローゼから幼子を窒息死させてしまう。 別のある女は、お腹の子の父親が行方知れずとなり、やがて遺体となって発見される。 不幸な二人の女が遭遇したのは、霧氷きらめく雪の雲仙。 やがて嬰児殺しの裁判が始まり、二つの死を結ぶ鍵の存在が露わにされる。。 社会派要素の問題提起が、最後は本格の流儀に吊り出しを喰らった形の様ではあるが 哀しくも美しい力作長篇である事にはまず変わり無し。 |
No.260 | 10点 | 下り”はつかり”―鮎川哲也短編傑作集〈2〉 鮎川哲也 |
(2015/08/20 16:44登録) 地虫/赤い密室/碑文谷事件/達也が嗤う/絵のない絵本/誰の屍体か/他殺にしてくれ/金魚の寝言/暗い河/下り”はつかり”/死が二人を別つまで。。 題名を羅列しただけで溜め息が出る珠玉のアンソロジー。第二弾も全く緩み無し。(創元推理文庫) 同じく創元の鮎川初期短編精髄集でも、「宝石」に掲載された本格推理のみで構成された第一巻「五つの時計」に較べると多少のバラエティ感有り。 しかし全体通しての感触は、どちらも質実剛健ながら遊び心充分、トボケた味適量という、程近いもの。 そういや鬼貫も星影も出て来ないノンシリーズ物が多いんだな、第二弾のこっちは。 代表中の代表作「達也」「赤密」(星影)も爆発してますが最後の「死が..」の、意外で異様な真相には唸(うな)らされます、魘(うな)されます。 「碑文谷」の佇まいも素晴らしいね。 他にも哀しきファンタジー、怖い童話、ハードボイルドもどき(?)、言うまでも無くアリバイ粉砕劇数々と、体幹のしっかりした名作群が押し合い圧(へ)し合いしながらミステリ・ファン達の来訪を待っています。 巻末には再び有栖川有栖氏/北村薫氏/山口雅也氏の鼎談。相変わらず熱い! |
No.259 | 7点 | 背徳のメス 黒岩重吾 |
(2015/08/20 11:09登録) 事故に見せかけて「俺」をガス中毒死させようとした奴は誰だ。。 被害者イコール探偵、そしてガスという構図は一歩間違えたらツソデレラの罠を思わせなくもないですが。。 小説の興味はそこだけでもないんだな、これが。 あべのハルカスのあの字も無い、遥か昔の昭和のど真ん中、大阪は”あいりん地区”こと釜ヶ崎にて吹き溜りの医療を施すキリスト教系の古い病院。 宿と食事が目当ての入院患者で溢れ、爛れた陰部の売春婦、喧嘩で刺されたチンピラが出入りする陰鬱で慌しい環境。ある日、経緯あって大病院から流れて来た傲岸な医科長が、若い売春婦の堕胎にしくじり死なせてしまい、その情夫(ヒモ)であるやくざ者から脅しを受け始める。 手術の助手を務めたノンキャリア医師、陰性な女たらしの「俺」の証言によっては、社会的生命も揺れ動く立場となった医科長だが。。 「俺」と関係のある看護婦、あった看護婦、ありようの無い看護婦、不能の夫を抱える魅力的な薬剤師、未来があったり無かったりの医師達、温厚でいかにもキリスト教徒らしく慈悲深げな院長。。 社会派ミステリになりそうなポテンシャルを覗かせつつ、敢えて踏みとどまったようなサスペンス風本格推理、そんな作品でしょうか。 怪しい人物は何人も出て来るし、本格ミステリ的に”光る”ポイントもいくつか読者の眼前に投げ出され、犯人当て、真相当ての興味が充満しています。 惜しむらくは、せっかく読者に晒して見せた「俺」の過去をもっと掘り下げても良かったのに。。と思えるのと、それから「スボン」の手掛かりがちょっとね。。犯人がそれについて言及するくだりでは若干”カックン”となりましたかしら。 当時の風俗ネタで見ると、昭和30年代の不良達が”三十代の大人には理解出来ない”ファンキー・ジャズで踊り狂う、ってのが最高にシビれたね。 EDMでもアシッド・ジャズでもジュリアナテクノでもニュージャックスウィングでもテケテケサーフィンでもない、ファンキー・ジャズでっせ、旦那! |
No.258 | 8点 | 細い赤い糸 飛鳥高 |
(2015/08/19 09:31登録) ミッシング・リンク社会派。 物語の終結近くになっても依然謎感は強く、冷え冷えとしたサスペンスの横溢度はかなりのもの。 一連の事件の背景はまず納得の行くものでさほどの驚きはありませんが、その重みはなかなかに感動的。 古典名作と呼ばれて然るべきでしょう。 |
No.257 | 4点 | 退職刑事1 都筑道夫 |
(2015/08/19 09:19登録) こういう、推理小説の形態を取りながらパズルの追及ばかり前面に出すのはどうも好みに合わない。 読んでて気分がカサカサ乾いて来る。 が、作者の稚気は素敵です。 何故か「2」にも手を出したくなっちゃう。何故だ。 |
No.256 | 5点 | 能面殺人事件 高木彬光 |
(2015/08/19 09:00登録) 題名も魅力的、「私」とは別に「高木彬光」が登場するという思わせぶりな叙述に期待が高まるってなぁもんですがぁ、、しゅうっと尻すぼみな真相だったかな。 確かに意外は意外なんですけどね。。 若い頃祖父のカッパノベルスで読んで、年月を経て光文社文庫で再読したんだけど、「う~~ん」な感じは変わらなかった。 ただ、決して詰まらないわけではない。物語の途上は面白い。 |
No.255 | 8点 | 崩れる 佐野洋 |
(2015/08/19 00:38登録) かの「銅婚式」にも通じる手触り。 佐野氏の技倆と矜持がぎっしり詰め込まれた傑作撰。 ある自殺 /崩れる /慰藉料 /人脳培養事件 /検事の罠 /透明な暗殺 /誘った人 /善意の報い /駐車禁止 (講談社文庫) |
No.254 | 7点 | 同名異人の四人が死んだ 佐野洋 |
(2015/08/19 00:30登録) 同じ名前の四人の人達(四人の亀取二郎とか)が死ぬんじゃないですよ。作中に登場する、連続殺人事件を扱った推理小説の四人の被害者と同姓同名の四人が次々に亡くなるんですよ。どうです、そっちの方が面白そうでしょう? うん、実際面白いんですよ。きれいに脂の乗った時期の佐野洋だからね、好きな人にはたまりません。詳しい中身は憶えていませんよ。 |
No.253 | 6点 | トンネルに消えた・・・ 西村京太郎 |
(2015/08/18 23:50登録) ダークトーンで小味な短篇集。 鉄道以外の京太郎サスペンスが(or も)大好きと言うあなたにだけ、こっそりとお薦めします。 彼らしい、手堅くも活きのいいストーリーがいっぱい。 トンネルに消えた・・・ /殺しの慰謝料 /見事な被害者 /タレントの城 /落し穴(一億二千万の殺意)/死の代役 /ヌード協定 /闇の中の祭典 (廣済堂文庫) |
No.252 | 5点 | 消えた巨人軍 西村京太郎 |
(2015/08/18 22:47登録) タンカー始め色んなものを消した京太郎さんですが、この野球チーム消失物語はちょいと大味。 V9黄金期ジャイアンツ選手達の描写にリアリティがまるで無いのはご愛嬌! 国民的人気集団をあんまりシリアスなプロットやトリックに巻き込んじゃ問題があったんですかね。巨人ファン向けのちょっとしたノヴェルティみたいな位置付けか。 探偵役は左文字進。 |
No.251 | 6点 | ミステリアス学園 鯨統一郎 |
(2015/08/17 18:54登録) (ネタバレ的) 作中作中 .. のギミックはこういう主旨の本だから見え見えでも構わないとして、最後に明かされる「意外な犯人」の宇宙的というか虚数的というか、川崎フロンターレの悪者キャラ「わるん太くん(まだフロンターレのファンになってない人、つまりわるい人、を象徴)」はまさかこの小説にインスパイアされて創られたんじゃないか。。 他の本でもしょっちゅう思う事だけど、この小説をもし東野圭吾が書いたら、どうなるかな? |
No.250 | 6点 | 邪馬台国はどこですか? 鯨統一郎 |
(2015/08/17 18:42登録) 多重解決のお遊びを、歴史なる非日常の謎を題材に、三番館もどきのバーで展開。 色んなインスピレーションの素として読むのが正解か。 悪くないぜ。 |
No.249 | 10点 | 弁護側の証人 小泉喜美子 |
(2015/08/17 10:12登録) 【徐々にネタバレ度が強くなりますので、未読の方は適当な所を見極めて引き返すか、最初から読まないかでお願い致します】 私の様な鈍い人には、一瞬では分からず、時間をもらってやっと分かったつもりでいると、、「いや、何? .. ああ、そういう事!!」と更に一段深い所の真相に気付いてしまうという、誠に罪深い企みに貫かれた古典名作。 読了後「かなり面白かったけど、結末は言われるほど驚かなかったな、まぁ7点でしょう」くらいに思いましたが、ある事に気付いて「いやいや8点は行くでしょう」と思い直し、やがってもっと大きな企みに思い当たり「馬鹿な、こりゃ9点相当じゃないか!」と心を入れ替えるまで優に%&!$分以上(恥ずかしくて書けません)掛かった私は何たる粗忽者だった事か。 物語自体がミステリとして十二分に面白いし、叙述トリックの仕掛けがその物語を根底から引っくり返してしまうのでなく、半分だけドンデン返し、物語側ではなく読者側にだけドンデン返しを喰らわす感覚がニクいです。 いえ物語の側にも大きな反転があるのですが、実はそれが先に書いた「もう一段深い真相」なんだけど、そっちの方を気付かせない方便で読者の側だけにもう一つの欺瞞を巧みに施すというね。。 何と言うか、一口に叙述トリックと言っても本当に幅広く奥深い可能性があるんだなぁというか、誰か作品内で「叙述講義」でもおっ始めてくれないかなぁ、というか。ぃややっぱりそれはやめなさい、というか。 今にして思えば、何気ない第1章の書き出しこそ、プロローグでのちょっとした不自然さの巧みな目くらましになっていたんだなあ。。 あれが無かったら鈍い私でさえ気付いていたかも。 やられたよ。 間抜けな話で恐縮ですがね、「第十一章 証人」のね、特に出だしあたりは"違和感"がテーマなんだな、って思ってたんですよ、最後の反転に導くためのね。 そしたら、よく考えてみたら"反転"そのものじゃないか、ってね。 最後まで読んでからもっかい考えて、やっと気付いたって言う。 そっかー、「序章」にちょいとした伏線がいくつも張られていたんだよなあ、無意識に違和感で記憶しちゃってたじゃないか、嗚呼それなのに。。 社会派要素が充分に織り込まれているのも良い感じですね。 叙述と社会派の融合がこんな太古の昔に既に実を結んでいただなんて! それと、全体に渡ってどこか爽やかな雰囲気が保たれているのも素晴らしい。読後感もすぅっと気分の良いものですし。 最後までエダ乃至「わたし」への疑いをキープせずにいられなかった私は本当にウブなおバカさんだよ、って思います。 作者の企みはそんな皮相なレベルとは全く違う所にあったんです。 「殺人交叉点」は物語のあまりの音圧に圧死終わり、「葉桜」は「いえ、二度読みまでしなくとも充分に分かりました」と納得終わり、「イニシエーションなんとか」は「おお! 後で二度読みしようっと!」と仮置き終わり、しましたが、本作はどれとも違った。 直ぐに偶数章だけ(第0章=プロローグを含み)パラパラっと読み直してしまいましたよ。 叙述トリックと分かって読んだからこそ「なのに、やられた!」の衝撃は強かった、という側面も大きいです。 叙述擦れを自覚する人にも、未読でしたら是非、勇んで読んでいただきたい。 済みません、題名『弁護側の証人』に込められた意味が分かるまで更に数日掛かってしまった。。 参った! やっぱり10点にします。 それにしてもどえらくフェミニンな推理小説。 |
No.248 | 10点 | 時計館の殺人 綾辻行人 |
(2015/08/14 20:00登録) 胸がいっぱいです。。。。 私の求めてやまなかった、、、「容疑者X」でさえそこには届いていない、、、『悪魔のアリバイ・トリック』はこの館でとうとう発見されました。 早い段階から多くの伏線が大胆に投げ出されますし、色々勘付く人も多いとは思います。。 (これよりネタバレ度、弱より徐々に強) どう見ても推理小説的にいちばん怪しいのはあの人、という自然に湧く疑惑は序の口もいい所。 この小説の神髄である悪魔的(デモーニッシュ)にして壮大なアリバイトリックを、全ての重要点を正しく押さえて看破する事は極めて困難でしょう。 特に、実は、それが既に亡くなっている某人物の凄まじく強靭な意志で構築された「ある仕掛け」を、生きている某人物が全く別の(しかし過去は繋がっている)強い意志に基づく全く別の意図で利用して云々、、更にその仕掛けを知る人物達は云々、、という背景事情までまるっと窺い知る洞察はなかなか出来ないわざと言えましょう。 さて肝となる時計のトリックですが。。 私はずっと「不定時法」(の応用)を想定していました(時計薀蓄のミスディレクションに引っ掛かったのか?)。 眞犯人が、正午や真夜中にこだわって細工を施していたような気がしたので。。こりゃ思い込みによる誤読だな、きっと。 実は時計たちは、天上的に狂っていると言えるまさかの理由で、不定時法とはまったく異なる、悪魔の様な動きを強いられていたのですね。。。。そしてそれに乗っかって悪魔的アリバイ・トリックを構築し、最後まで貫徹して逃げ切ろうとした本事件の眞犯人。 その犯罪動機もまた、既に亡い某人物が時計たちに狂った動きを強いた動機と同様、我が子への強力無比な愛がその根底にはあった。 さて、不定時法と見当違いはあったものの、時計の動きにこそ巨大な秘密が隠されていると踏んだ私は 「ならばきっと、巻末近くの方に『対照表』の様なリストが印刷されている筈だ!」 と信じ込み、ハラハラドキドキしつつも(うっかり文字を読んでしまわないよう気を遣いながら)パラパラと後半の頁をめくってみたのでした。。 すると、、果たしてうっすら見えた、明らかに何かを掘り起して白日に晒すが為の『対照表』が!! この発見の瞬間の異様な感動を私は忘れられません。 実際に結末まで読み進めると、やはりやはりそれは、ある時間と、また別のある時間の『対照表』でした。 しかしながらその一方は私が思っていた、毎日いちいち落とし前が付いて何度もやり直す「不定時法」ではなく、遥か無限の彼方に向かって人智を超えた収束なのか拡散なのか、あるいは人間らしい悲劇的な超級巨大破綻をイメージ喚起せずにはおかない、悪魔のアリバイ・トリックと呼ぶに相応しい、究極のギミックと言える何物かの核心なのでした。。。。 |
No.247 | 5点 | 日時計 クリストファー・ランドン |
(2015/08/14 18:00登録) 妙にcozyな味のある、旧き良き誘拐サスペンス。 意外な結末とかは、無いね。 いや、サスペンスってほどサスペンスも無いね。 と言ってハードボイルドなわきゃ無いし。。 バカ法廷でも恋愛叙述でも冷戦スパイでもない、日時計という自然の力をそのまま使った素朴な道具に想像を絶する驚天動地の仕掛けを施した悪魔のアリバイ・トリック物でもある筈がなく。。 そうだ、やっぱり miniさんの仰った「軽冒険小説」という呼称がとてもしっくり来ると思います。 主人公の男がなんだか自分っぽくて共感出来た、と記憶している。 かなり前の話だけど。 |
No.246 | 8点 | 三角館の恐怖 江戸川乱歩 |
(2015/08/14 12:16登録) 「フー」と「ホヮイ」がここまで興味深く、しかも論理的、と言うよりむしろ数学的に直結している本格ミステリも珍しいのではなかろうか。 目次にある通り正しく『異様な動機』です。 遺産相続の絡むお話ながら、世評が「動機が凄い」「動機が独特」とあまり言い立てるので、読中「これはもしや。。」とある事に気付き、世評そのものから逆算(文字通り「逆算」、なんて書くとネタばれくさいか)して、評者にはたいへん稀な事ながらきっちりとロジックだけで(逆に勘というものが働けない)犯人と動機を言い当てました。(当時の人だったら、懸賞応募したかったなァ。。) 普段さっぱりロジック萌えしない評者ですが、この小説の中でロジックくんが果たしている役割のスリリングな決定力には最後までハラハラさせられました。脱帽です。 乱歩さんの原作でないって事実は、とりあえず気にしないって事で(?)。 それ以上に気にならないのが、エレベーター内の密室(&アリバイ)トリックね、アレはもう本当にどうでもいいw いや、もちろんあのシーンがあるからこその暗くおぞましい雰囲気、サスペンス、小説の成り立ちなんですけどね。(ってか実はホヮイダニットくさく見せないためのミスディクションなのかあの密室殺人は?) |