斎藤警部さんの登録情報 | |
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平均点:6.69点 | 書評数:1304件 |
No.504 | 7点 | 夜は千の鈴を鳴らす 島田荘司 |
(2016/02/25 01:40登録) 美人社長とその秘書青年との間に閨房にて取り交わされた会話(私を殺して財産を手に入れてみなさい 云々)なるケレン味上等、疑惑タップリの初期設定がギラギラと付き纏う、こりゃあ魅惑の滑り出しだ、快調に飛ばせよ! と期待しながら読み始めよう。。 早速美人社長は疑惑屍体となり発見、青年秘書が本命容疑者となり。。 声のダイイング・メッセージ「ナチ云々」の正体は あぁ、そうでしたか。。。っておもむろにタバコに点火する程度でしたけど、複眼視点を要求するアリバイトリックは切れ味剛健でなかなかの味わい。過去からの因縁ストーリーも瑕疵少なく重厚にはまっています。 社会派ぶってみたアリバイ崩し本格推理、構成の妙も有り、まずは快作と言えましょう。 鮎哲ファンの方は是非ご一読を。(アッチの作品の方は敢えてノータッチ) |
No.503 | 4点 | 他殺の効用 内田康夫 |
(2016/02/24 18:28登録) 数年前、初めてのヤスオ・ウチダとして手に取った短篇集なるも、タイトルに惹かれる表題作からちょっと結末(どんでん返し?)にやり場のない押しの弱さを感じ、他の作品もなかなかにピシッと来ず。。 やっぱ量産売上族では京太郎先生がいいですわ、私は。トラベルなやつとか、いつか他のも試してみますがね。 でも基本アイディアは悪くないですよ、記憶にも残ります、表題作。 折角こういうの書くんなら、もう二捻り欲しいね。 他殺の効用 /乗せなかった乗客 /透明な鏡 /ナイスショットは永遠に /愛するあまり |
No.502 | 7点 | 誤認逮捕 夏樹静子 |
(2016/02/24 12:27登録) バカな男、バカな女、馬鹿と悧巧の廻り舞台、切れこそ甘いが妙に沁みる反転劇の数々。 手首が囁く /郷愁の罪 /誰知らぬ殺意 /誤認逮捕 /風花の女 /高速道路の唸り /山陽新幹線殺人事件 (講談社文庫) 警官達が立ち代り活躍するが、連作の警察小説として読めば、男子における青臭さの女子におけるそれ(赤臭さ?)を少し感じる。 が、それもまた良い窯変の彩りだ。 「手首が囁く」 街のごみ置き場でマニキュアの付いた切断手首が見つかる。。一人の女子大生が行方不明になっている。。最初のジャブからいきなり捻りますねえ。期待も高まります。 「郷愁の罪」 嘱託殺人とも見える、貧しい身なりの初老男子による不審点多き突発事件、その隠された輪郭とは。。犯人の施した“ある事”の哀しき動機が、何ともはや! 「誰知らぬ殺意」 結婚を前にし不倫を清算しようとした女は、将来の夫との旅先にて、理由を付けて情夫と落ち合うが。。 こりゃなかなか凄い話だな。ただならぬ反転絵図もグッと来るね。 「誤認逮捕」 これは粗筋いわんとこ。作者の企画押しは強いものの、妙に温かく映像の残る、味わいある表題作。枠組みは如何にも世知辛い昭和後期の本格推理で、別に人情がどうとかじゃないんですけどね、、どうしてこんなに心に訴えるんだろう。 やっぱりね、小粒ながらオャッと思うような反転がそこかしこに埋まってるんですよ。読み捨てには出来ない、愉しい愉しい短篇集です。使ってるトリックもチャチャッとしたもんが多いんだけど、軽人間ドラマや何やと上手に組み合わせて、推理ドラマを立体的に浮かび上がらせて見せるのが本当に上手でね。 「風花の女」 男は、因縁浅からぬ女と思わぬ再会。夜の街に少しばかり付き合うと、奇しくもその女にとって、とある殺人事件のアリバイを成立させる結果となっていた。。 トリックは浅いが、忘れ難い結末、深みのある仕上がりだ。 これが連城ミキティだったらもっとギョッとする真相を用意するのだろうけど、夏樹さん流儀のこれくらいの抑制も素敵だぜ。 「高速道路の唸り」 ぱっと見チャラ目の時事風俗モンかと油断するや、中盤手前より暗雲の胸騒ぎ。『黒いトランク』さえ連想射程内に引き込む、底深いアリバイ操作、黒光りしそうな隠蔽真相への予感と期待はなかなかの手ごわさだ。 高速道路の”キセル”と来たか。。ここにまた、見えない対称性のマジックだな。 エーテル。。そっちの意味では久しぶりに聞いたぜ。 「山陽新幹線殺人事件」 京村西太郎さん長篇みたいな題名。氏ほどの冒頭掴み力は望めないが、その代わり、やはり氏とは逆に徐々に盛り上げてくれるし、出来は良い。これもね、トリック核心だけ見たら子供だましもいいとこ(推理クイズによくあった!)だけどさ、仕上げにいい深みがあってね、なかなかのものなんですよ。 さて、中に一つ、長篇の尺に伸ばしたらより光るんでないかとも思える“際どい叙述”の作品あり。それも叙述一点頼みでなく、叙述以上に大きなもう一つの反転が叙述の上に覆いかぶさるという不思議な構造の物語(←何回ジョジュツって言ってんだ)。 その作品単体なら8点かしらね。上手く長篇に仕立て直せば9点も見えよう。 |
No.501 | 7点 | 続813 モーリス・ルブラン |
(2016/02/24 00:13登録) 真犯人の正体暴露にゃァ予想を上回ってハラハラさせられたなァ。。 '813'の秘密ァ、大いなる肩透かしだった。 正・続合わせると、うん、6点上々だね。 |
No.500 | 5点 | 813 モーリス・ルブラン |
(2016/02/23 23:58登録) この本はジュブナイル版で読まず、いい大人になってから初読したはず。(と書いた後で思い出したが、小学生のころ目を通したがよく分からず斜め読みで終わったんじゃなかったか) 真犯人の目星は早々に付いた。それだけで緊張を強いられた! そいつの正体が暴かれるであろう結末ばかりが楽しみで楽しみで。。 怪盗紳士リュペァ~ンの冒険譚はサラサラっとかっ喰らい読みサ。 |
No.499 | 7点 | 成吉思汗の秘密 高木彬光 |
(2016/02/22 14:43登録) 一般的な本格ミステリ同様、無理筋の想像を大いに含み、舞台を大過去の広領域に求めた面白妄想本。 この探偵役を療養中の神津氏に任せた微妙な滑稽さがミソ、かも。 (作者が大真面目に説いてるらしいのは、心配だよ。そのスリルもまた良しだ。) 同一人説を支持す・せずに関わらず、広い視野で歴史興味に訴える部分も大きく、決して馬鹿な本ではないのですよ。 |
No.498 | 9点 | カラスの親指 道尾秀介 |
(2016/02/22 13:06登録) こいつ、コンドームとコンゲームを掛けやがったな? ありがとう最高だった。本当はこれだけで済ませたい。 と、50ページも進まないうちに予感痛感させられちゃった。言葉で追い付けないほどの感銘の渦巻きとみずみずしい水しぶきをありがとう。ジワジワ来る言葉遊び(中級篇)も気持ちがいいよ。ごく稀に現れるシャラくさいナニも許せるよ。 それにしてもチャントシ(田原俊彦)と桑田佳祐師匠は半昔程度の年の差だったんだね。世界でも二本の指に入る馬鹿で優しい「お住まいはどちらなんですか?」をお見舞いしてくれてありがとう。Ex X hideをリメンバーさせてくれる哀しいエピソードもありやがってよこのやろう。 ほんの冒頭でちょっとした叙述ジャブ、ありゃやられたね、と思うとナックアウト級の最終反転にホットライン直結しそうな大伏線に見えて見えて仕方の無い魅惑のワーヅが超序盤からちらほらキラキラ、こらたまらんワ、絶対面白い、こいつ最高だ、ってか何なんだこの、長丁場になりそうな明らさまな伏線独白の複利雪だるま堆積はよ、おいおい伏線の伏線かと目を円くしちゃう複伏線もどき(??)まで出てきたじゃねえか、んで~そうして、あン? 数多の伏線たちは何かあるごとに瞠目の機敏さで次々と回収されて行くわけですね。サイムセイリヤってカタカナでカカレタらサイゼリヤとマチガエルヒキガエルじゃねえか馬鹿野郎。指のやつ 試しちゃったよ ダチの結婚披露宴のアレ以来だったよ 考えちゃったよ。。 あゝ 清張に読ませたかったなあ。もし眼が老衰してたら俺が朗読してやる、畜生。 読書として騙されるとしたら、反転にやられるとしたら、何処にその芽が、立脚点があると睨めばいいのか分からないまま物語の刺激的濁流に翻弄されっぱなし、だから最後にあそこまでヤラレたに違いない。いやあぁァあ泣けた、怒った、、 笑みがこぼれてなおさら泣けた。 【ここよりネタバレ】 詐欺師と劇団員(さらに言えば詐欺成功に伴った潤沢な財源)って設定でもって、あり得なさを全クリアしてまう(島荘某作の「○○が好きだから」を思い出す)心温かいズルさには負けた。作者の文書力構成力あってこそ成り立つどんでん返しなんだろう。更にもう一回転喰らわせて(実は武沢が。。。 とか)頭の中を嫌ァ~な真っ白にまではさせない引き際も立派。 数ある伏線の中で、アラレちゃんの件だけは流石に瞬殺で違和感炸裂だったけどサ、どういうわけだかうやむやに納得させられちまってた。筆力だよねえ。 強いてナニをあげつらえば、デブ青年が更に大きな秘密を抱えてたわけじゃなかったのか。。ってとこくらいさ。 【ネタバレここまで】 本当は本当、嘘は嘘ってことだよな 下品なブランド、明るい連城め。 しかし本当にまいったなあ、いやァね、そんくらい巨大なナニで〆るんだろうなってのは感じてたってか、事実上知ってたけどさ、そうなんだけどさ。やばいよベイビイ、父が亡くなる前に読んで欲しいよ。もし眼がダメになってたら俺が朗読してやるから。 ところで本作、なんだか妙に「あまちゃん」に似たストーリー起伏フレイヴァーを感じるなあと思って読んでたら、能年玲奈つながりだったとはな(映画の方ですが)。もしかして、本作でのパフォーマンスが「あまちゃん」抜擢へと繋がっていたのかしら。クドカン的にミステリーってのはどうなのかしら。 しかし本サイトでは10点未出、9点がやっと4人目でしたか。甘ェなあ俺も。 |
No.497 | 7点 | 婦人科選手 佐野洋 |
(2016/02/18 11:29登録) タッチは軽くとも、しっかりした筋骨を感じる信頼の短篇集。 ある証拠 /噂の夫婦 /蛇の卵 /婦人科選手 /五十三分の一 /馬券を拾う女 /チタマゴチブサ /違法駐車 /陽の当る椅子 (講談社文庫) 表題作。。ミステリの骨格は初めから見え透くようだが、、物語は最後にまさかの深みを突き付け。。 五十三分の一。。なる若き日の行き過ぎた過ち談らしき話も、最終コーナー前から予想外に濃ゅい方向へ。。でもオチはちょっと安易。”マジック”を期待していたからね。 馬券を買う女 。。日常の謎のような滑り出しから犯罪露呈へという佐野洋得意の枠組み。この話、実は骨格が日常の謎、そこに犯罪ストーリーをごってりコーティングした形だろうか。落語のオチのようなエンディングと言い、味付け濃い目の小噺のよう。そういや氏は実際’ちょいエロ日常の謎’短篇、よく書いてたよなあ。 ちょっとした機転のアリバイトリック、だけどちょぃと危ないサイコ小噺の。。違法駐車 色事擦れした鮎哲みたいな恐喝小噺。。陽の当たる椅子 なんかやたら’小噺’って使っちゃったけど、実際後半はそんな触感のストーリーが目立つ。浅いんじゃないよ、切れ味と引き際の問題だよ。上に記さなかった各作も悪くないよ。軽エロSFもあるぞ(笑)。 |
No.496 | 7点 | ひとたび人を殺さば ルース・レンデル |
(2016/02/17 12:09登録) 重い腰上げ初めてのレンデルはまさかのユモーォミェストゥォリ、とうっかり油断していたら。。。 貧しい一角に住む若い娘が殺され、墓地で発見された事件。 終盤近く、警部と老婆の語らい、やり取りが凄くいい、心に温かく残ります。 ところが、そこから思慮有る〆までの限られたページ間にまさかの連続反転が襲う!!物語の大方を占めるユーモア微風地帯から打って変わり、暗く湿った真相の投射舞台へ。。。。 さて‘この角度’からの犯人意外性だから、ジャンルはやはり警察小説。HB(Hardboiled)ともHKK(Honkaku)とも違う。あはは、何なんだろねえ、されどジャンル分けの機微ってか。 前述の老婆とやり取りの所まで堂々の6点候補だったけど、やっぱり最後のドラマチックな決め技にやられてね、1点upしましたよ。 真犯人、最後の台詞は泣けたねえ。(鈍いもんで最初その意味に思い当たらず、後から読み返してハッとしたわけですが) ところで、ブラックベリー・ポンチョとは何だ!? |
No.495 | 7点 | 轢き逃げ 佐野洋 |
(2016/02/16 13:13登録) 力も入った事だろう、稀代の短篇名手が二部構成の大長編を完遂。愛人を伴っての轢き逃げ事件を巡り、第一部は犯人側視点で犯罪隠匿のサスペンス、第二部は被害者側視点で犯罪暴露の謎解き。ところが、犯人側と被害者側、それぞれ一枚岩で単純に追われる者と追う者の立場とだけは言えないものになっており。。 登場人物割と多く、人間関係何気に錯綜。 言ってみりゃ堂々の社会派本格ミステリ。社会派要素はどちらかと言うと物語の核心より表層寄りに位置しているが、作品の快い緊張感をキープするには不可欠な助演級スパイスだ。 さてこの力作、必ずしも作者のベスト・オヴ・ベスト級にならなかった(ように私には思える)のは、紙面に余裕がありどうしても幾ばくかの構造の緩みが生じてしまった所為かしら。昔はいざ知らず今や本作が「佐野洋の代表作と言えば何を措いてもコレ!」的な存在になっていないのは、短篇巧者の称号を掲げる作者にとってイメージが混濁せずラッキーなのかも。余計なこと言い過ぎましたが、かなりよく出来た面白い小説ですよ。昭和ミステリ好きなら必読クラスでしょうね。 |
No.494 | 6点 | 発信人は死者 西村京太郎 |
(2016/02/16 12:28登録) 先の大戦で撃沈された艦船からのSOSを定期受信せり!! まさかオカルト小説の筈は無いよなと京さんを信頼しつつ、往時の海軍将校謎の死も絡み臨場感たっぷりの南洋冒険譚を堪能し終わると。。そこには意外性の薄い結末が待っていた。だが決して詰まらなくない。本作はやはり、謎と因縁多めの冒険小説と思って行くのがイカした読み方でしょう。海洋期京太郎なら「消えたタンカー」等に較べて確かに謎・冒険の双方からの圧倒的迫力を誇ると言った風情ではないが、かと言って熱心なファン向けの小粒作品とは言えません、まだ広く読まれて然るべきと思います。(でもやっぱ「タンカー」を先にトライして欲しいなあ、その余韻のうちに本作に来るとすごくいいよ) |
No.493 | 6点 | 予告殺人 アガサ・クリスティー |
(2016/02/15 15:48登録) 幸いこれは相性の良いクリスティ。犯人”だけ”は瞬殺で見えてしまったけど、それでも充分に楽しい”追い詰め読み”が出来ました。言い間違えの伏線はちょっと際どいモンだったスけど、動機、事件の背景は最後まで上手に隠蔽されましたねえ。連続殺人の中に一つ、その動機を単純に「●●じ」と呼ぶのが憚られる微妙な経緯のものがありますね、記憶に残ります。 (以下音楽ネタ) それにしても主要登場人物の「ブラックロック」なる姓はバッドブレインズあたりを連想させずにはいられませんでした。ROCKじゃなくてLOCKだけど。あと、その人のファーストネーム「レティシア」が井上鑑の凄く好きだった同名曲を思い出させずにいらりょうか。。(ほんとはそっちの方は旧いフランス映画『冒険者たち』のヒロインから取ってます) |
No.492 | 3点 | メソポタミヤの殺人 アガサ・クリスティー |
(2016/02/15 15:07登録) どうしてなんだろうなあ、ホントウにおもしろくなかった。作者が色々面白いこと繰り出して来るのは感じ取れるんだけど、ビニールシートの向こう側で空回りってとこでね。エキゾティックな舞台設定の妙だとかも、おかしなほど心に入り込んで来ない。 どうしてこう、クリスティさんとは作品によって相性良し悪しの格差がすさまじく不安定に大きいのか、本当に謎だ。他人様にはどうでもいい事でございますが。(とは言え平均点下げちゃってごめんなさい) |
No.491 | 5点 | 5分間ミステリー ケン・ウェバー |
(2016/02/13 02:31登録) 多くの日本語書評で指摘される通り、純粋な推理や知恵比べと言うより雑学知識(それも北米での)が決め手となる問題が多く、あまり国際的でないというか北米人向けというか、少なくとも普通の日本人にとっては肩透かしの連続かも。それでも何だかワクワクするんだなあ、こういう短い文章問題がいっぱい並んでるのって。そんな中で貴重なピュア・ミステリー・クイズとして胸に残るのが、いちばん最初の"耳が不自由なふりをする老女"の一篇。なんだか妙にドラマチックでね、どきどきしちゃうの。老女の嘘を見破る一点がまた、絶妙に際どい所でねぇ~。佐村河内さんはこれ読んだ事あるかなあ。 |
No.490 | 10点 | アブナー伯父の事件簿 M・D・ポースト |
(2016/02/12 16:13登録) 我が新約聖書。 ミステリと文学との、更にはキリスト教との清らなる三位一体。 (実はもう一つ、法の精神も分かちがたく結束している。更には民主主義精神も少しく。) 天の使い/悪魔の道具/私刑/地の掟/不可抗力/ナボテの葡萄園/海賊の宝物/養女/藁人形/偶然の恩恵/悪魔の足跡/アベルの血/闇夜の光/〈ヒルハウス〉の謎 (創元推理文庫) ‘戻り川心中’(連城三紀彦)に脈流する恋愛要素を神の愛に置き換えたような、敬虔さと、大胆にトリッキーな趣向(ドキリとする様な反転も多い)と、土台のしっかりした質実な文学性とを兼ね備えた、しかも読みやすい、奇蹟の様な短篇作品集です。ただ、恋愛にも当然ダークサイドがある様に、本作にも全能の神が支配していながらも起きてしまう人間界(開拓時代の米国東部)ダークサイドでの罪深い出来事が、どこまでも真摯で敬虔な口調で語られる。ブラウン神父の様に挑戦的ユーモアを前面に出さず、飽くまで穏やかに静かな空気を保ち続ける分、知的な愉しさを上回って心が揺さぶられる場面も多い。 なんて書いときながら評者はキリスト教徒でもユダヤ教徒でも全共闘でもキョードー東京でもまして京都の恋(渚ゆう子)でもないんですけどね。 それでも、私にとっては何物にも代え難い、命の水のような一冊です。(一冊と言えば、ハヤカワの方まだ読んでなかった!) |
No.489 | 5点 | 星降り山荘の殺人 倉知淳 |
(2016/02/12 12:21登録) 野暮ったく稚拙な割に読みやすい文章、おかげで嫌な思いをせずサクサク行けてラッキー。 おお、この解決編ロジック構築は’オランダ靴’に萌えない様な私でもなかなかイケるぞ。アリバイの必要性を消した(!!)犯人、その企図に探偵は気付いたってが!! しかし、いつまでたっても驚愕の叙述トリックらしき痕跡が見つからないぞ。あの一点を除いては・・ と緊張のラストに向けて待機していたらユルユルのどんでん返しに椅子からずり落ち。。 振り返ってみれば、「ワトソン」の方は疑って読み返してもみたのだが、そこで安心してアッチの方まできっちり目視点検すべき労を省いてしまったのだな。。たぶん作者もそこは計算に入れているだろう。それもあってあのギミック・オマージュを。。 だけどこの作品、犯人特定のロジックには(強引で綻びも多そうにしろ)かなりの労力を割いている割に、肝心の(?)叙述トリックの方が、苦労してな過ぎって言うか、いやもちろん苦労したしないは関係無く結果面白ければいいんだけど、流石に(文字通り?)紙ペラ一枚で済ますには無理があったと言うか、中心アイディアの閃きにしろ執筆実務にしろ相当に浅いものを感じ取ってしまって、期待ほどに堪能する事は出来ませんでしたねえ、残念。 spam-musubiさんの書かれている 十角館の動機も十分に唐突かつ陳腐なんですけどね、 それを気にさせないエネルギーがあるかどうかの差というか。 にも同感至極です。 でもまぁね「この人が犯人だったら嫌だなあ。でも(普通だったら有力容疑者リスト入り確定だけど)この小説の場合それは無いか。。」とうっかり油断させてくれた手腕は見事。あまり低い点は付けられませんよ。 【ネタバレ】 あの「付箋」が実は作家女史のメモで。。という叙述トリックなのかと途中から疑いましたが(伏線も堂々とあったし)、違いましたね。って事は、やはりあれは楽しいギミック引用兼叙述トリック上の手段兼ミスディレクションの一環でもあったのか。。 【ネタバレここまで】 「弁護側」やら「十角館」やら「交叉点」やら諸作と並べて“叙述トリックの代表”に数えるのは個人的に大いなる抵抗がありますが、読みやすいし(これで読みにくかったら罵倒対象だ)、軽い読み物として悪くはないと思います。 だけど最後の、豹変した真犯人の目を疑う悪態ぶり、あれぁ気持ち悪かったなあ。。会話文はおろか地の文の領域さえ超えて作者本人視点の鬱憤奔出させてる様にしか見えなくて。。作者の人格疑っちゃったよ。ある種の人たちへの偏見を助長しやしないかともちょっと心配。 |
No.488 | 6点 | 御手洗潔の挨拶 島田荘司 |
(2016/02/10 12:18登録) その昔はじめて「あぁ、これがしまそうバカトリックですか」とのけぞった『疾走する死者』。何らかの心理トリックだと思い込み読んでたもんで、あのまさかのアレにはショックを受けましたよ。 御手洗が『数字錠』で見せる優しさとハッタリかまし(○○日掛かる云々)の噛み合せの妙は綺麗です。何ともやるせない哀しみが敷きつめられてもいるし。 他の二作も小粒感ありありながら良い出来。 でもやっぱ、しまそうの真髄は長篇だよな。(その真髄が『数字錠』にかなり沁み込んでいるとは思う) |
No.487 | 5点 | 宛先不明 鮎川哲也 |
(2016/02/09 18:06登録) こりゃちょっと浅過ぎるでしょう、長篇ミステリとして。長めの短篇に凝縮すりゃあ良かったのに。表題と内容の繋がらなさっぷりも残念。(短篇集の題名が「宛先不明」だったら魅力的だし、その中に本作をギュッと縮めたのが入ってたら素敵だ。) ファンなので、読んでて詰まらなくはありませんでしたがね。ファンなので、読んでよかったとは思うけれど、ファンなので、人には薦めない。 |
No.486 | 7点 | 風の証言 鮎川哲也 |
(2016/02/09 17:57登録) 鮎川さんの短篇には「わるい風」「にくい風」と言った風の系譜がありますがね、こちらは長篇の風です。 トリックもストーリーも小ぶりですけどね、ファンにとっては安定した良さがありますよ。 社会派の塩をちょぃと嘗めてみたような趣向もまあ、気安いお遊びでね、奇抜さ派手さの無い地道なアリバイ崩しがいいんですよ。 わたしゃ悪魔の様に大胆なアリバイトリックも堪らないけど、人間らしく細やかで優しい(?)それも愛おしいからね。まあそういうのが読みたい人向けでしょうね。 |
No.485 | 7点 | 溺死人 イーデン・フィルポッツ |
(2016/02/09 16:12登録) 何たる凄み、終わりの一文。 この結末、更に一ひっくり返しを求める人には肩透かしかも知れない。私にはこの終わりが衝撃だ。 今の不穏な時代背景あればこそ、かも知れない。 それにしても演説に満ちている。熟考を良しとする進歩的保守派のそれだろうか。語り手と友人の会話文に、地の文(作者の主張)としか見えない所が多過ぎて笑う! 知的でリーダビリティの高い 要点とユーモアだけの饒舌は本当に素敵だ!まるでディベート中継を浴び聴いているような、激しくも論理と感性に忠実な陳述の応酬よ! かと思うと‘朝日には冷笑的な傾向があり云々’なんてチャンドラーもどきの警句や皮肉、それらをすり抜けると、癒しの心地よい水圧が充満だ。 ラスプーチン暗殺が数年前の出来事って!! 第二次世界大戦の不可避を1931年に語る!! さて犯罪物語は、発見された溺死人が誰か、という当初の大前提が呆気にとられるほど早い段階で軽やかにひっくり返る。嗚呼。 何気なく容疑者のラインナップが豊かなのは愉しきこと。そして真犯人の立ち位置の意外なこと(十戒だか何かに触れている?)。何なら被害者の扱われ方も驚きの大胆さだ。 登場人物表にも出てこないウィルソン夫人の何たる深い癒しよ。。。。 やはりこの作品は、フィルポッツの饒舌な優しさを思い切り浴びるためにあるのだと思います。そして、気持ちよく浴びるためにはやはり適量の本格ミステリ興味が必要。 1931年の作品に”LSD”が登場したのはびっくらこきました。 しかし「ベートーヴェン・スミス」って!! 世界のどこかのミステリサイトで誰かがこっそりハンドル名にしている事を期待します。 ところで「デキシニン」ってちょっと「ロキソニン」とか「ブロバリン」の仲間の、薬の名前みたいですよね。 だけど語り手の医師がね、どことなく胡散臭い所あるんだよね。それがまた人間らしい味でね。 |