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ミステリの祭典

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誤認逮捕

作家 夏樹静子
出版日1975年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 斎藤警部
(2016/02/24 12:27登録)
バカな男、バカな女、馬鹿と悧巧の廻り舞台、切れこそ甘いが妙に沁みる反転劇の数々。

手首が囁く /郷愁の罪 /誰知らぬ殺意 /誤認逮捕 /風花の女 /高速道路の唸り /山陽新幹線殺人事件
(講談社文庫)

警官達が立ち代り活躍するが、連作の警察小説として読めば、男子における青臭さの女子におけるそれ(赤臭さ?)を少し感じる。 が、それもまた良い窯変の彩りだ。

「手首が囁く」 街のごみ置き場でマニキュアの付いた切断手首が見つかる。。一人の女子大生が行方不明になっている。。最初のジャブからいきなり捻りますねえ。期待も高まります。
「郷愁の罪」 嘱託殺人とも見える、貧しい身なりの初老男子による不審点多き突発事件、その隠された輪郭とは。。犯人の施した“ある事”の哀しき動機が、何ともはや!
「誰知らぬ殺意」 結婚を前にし不倫を清算しようとした女は、将来の夫との旅先にて、理由を付けて情夫と落ち合うが。。 こりゃなかなか凄い話だな。ただならぬ反転絵図もグッと来るね。
「誤認逮捕」 これは粗筋いわんとこ。作者の企画押しは強いものの、妙に温かく映像の残る、味わいある表題作。枠組みは如何にも世知辛い昭和後期の本格推理で、別に人情がどうとかじゃないんですけどね、、どうしてこんなに心に訴えるんだろう。

やっぱりね、小粒ながらオャッと思うような反転がそこかしこに埋まってるんですよ。読み捨てには出来ない、愉しい愉しい短篇集です。使ってるトリックもチャチャッとしたもんが多いんだけど、軽人間ドラマや何やと上手に組み合わせて、推理ドラマを立体的に浮かび上がらせて見せるのが本当に上手でね。

「風花の女」 男は、因縁浅からぬ女と思わぬ再会。夜の街に少しばかり付き合うと、奇しくもその女にとって、とある殺人事件のアリバイを成立させる結果となっていた。。 トリックは浅いが、忘れ難い結末、深みのある仕上がりだ。 これが連城ミキティだったらもっとギョッとする真相を用意するのだろうけど、夏樹さん流儀のこれくらいの抑制も素敵だぜ。
「高速道路の唸り」  ぱっと見チャラ目の時事風俗モンかと油断するや、中盤手前より暗雲の胸騒ぎ。『黒いトランク』さえ連想射程内に引き込む、底深いアリバイ操作、黒光りしそうな隠蔽真相への予感と期待はなかなかの手ごわさだ。 高速道路の”キセル”と来たか。。ここにまた、見えない対称性のマジックだな。 エーテル。。そっちの意味では久しぶりに聞いたぜ。
「山陽新幹線殺人事件」 京村西太郎さん長篇みたいな題名。氏ほどの冒頭掴み力は望めないが、その代わり、やはり氏とは逆に徐々に盛り上げてくれるし、出来は良い。これもね、トリック核心だけ見たら子供だましもいいとこ(推理クイズによくあった!)だけどさ、仕上げにいい深みがあってね、なかなかのものなんですよ。

さて、中に一つ、長篇の尺に伸ばしたらより光るんでないかとも思える“際どい叙述”の作品あり。それも叙述一点頼みでなく、叙述以上に大きなもう一つの反転が叙述の上に覆いかぶさるという不思議な構造の物語(←何回ジョジュツって言ってんだ)。 その作品単体なら8点かしらね。上手く長篇に仕立て直せば9点も見えよう。

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