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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.744 8点 赤い指
東野圭吾
(2017/09/20 01:21登録)
加賀刑事、斬れること。偽装工作の諸要素を瞬殺で打ちのめし続ける様子はほどんどユーモラスな域の容赦無さ。それにしても気になる、嗚呼タイトル気になる気になる,, 現物(赤い指)が最初に顔出して直後からは長い潜伏の恫喝が突き上げた。。。その言葉の意味は最後に大化けを果たす。サブプロットいちばんの泣かせ所をも大いに巻き込む立体交差で。

心に残るラストシークエンス、最高のラストシーン。このラストは加賀刑事が「昔から優秀で(正確には’勉強もよく出来て’だったか)」ってのが(シリーズモノとは言え)伏線になってたのか? と思えばちょっとクスッと来る。それすら愛おしい。

終結近くまでは、書き込みは緩いけど構成の巧みさが光る準社会派ミステリ7点相当(6.6くらい)と憶測を働かせたが、最終コーナー一気に本格の本性を現した所で、その熱気にやられて8点(7.8超)にジャンプアップ。その本格魂こそ人間ドラマ感動構築の中心に位置するというのが素晴らしい。 本作、複数の大きな社会問題を、巧みに倒叙パズラーの枠組みで弾けさせた、倒叙応用篇の成功作と思います。


No.743 4点 赤い箱
レックス・スタウト
(2017/09/16 08:06登録)
ユーモアなかなか。ドタバタ退屈。真相いまいち。スリルとサスペンス、ありません。 「赤い箱」に纏わるイキサツがさんざ仄めかされた挙句、それですか。。。(最後、小道具としての使われ方はちょっとびっくりだけど) 主役コンビを中心とする掛け合いに、眼の醒めるロジックだとか、斬れる物証だとか、心理探偵専門ならそれなりの心理トリックなんかが絡められたら相乗効果で興味津々の一作にもなりそうだが、そういうのも無いんで、ミステリ部分に限ればただただ古臭いばかりに思えてしまいます。 ただ、やっぱりユーモアは良いね。


No.742 5点 アメリカ探偵作家クラブが選んだミステリBEST100
事典・ガイド
(2017/09/14 01:19登録)
1995年の本。内容詳細については蟷螂の斧さんの書評を御参照いただきたく存じます。
ミステリ総合人気投票トップ100に日本ではプレゼンスの低いトニイ・ヒラーマンがやたらランクインしてるのを見、そうかこれは米国だ、全世界じゃないんだと納得しちゃったりなんかして。

後半、サブジャンル別の実作家エッセイ、これが良い。ハードボイルド篇(スー・グラフトン)と犯罪小説篇(リチャード・コンドン)は、憂愁の犯罪大国アメリカならではのその癒しの効用を高らかに謳い上げる(前者の方は、加えて黄金時代~現代のその役割の変遷を見事に言い当てる)。ユーモアミステリ篇(グレゴリー・マクドナルド)の深く詩的な洞察もおなかに沁みた。

ランキングの話に戻ると、アガサ・ドロシー・ナイオの英国三人娘がやたら幅を利かせているのも印象的でした。(ふた昔以上も前とは言え)現代の米国なのに。


No.741 6点 まどろみ消去
森博嗣
(2017/09/10 10:55登録)
偽幻想、重度おふざけ、お愉しみ。 まるでミズスマシのような気分で読めました。わたしは好きです。 この作家さんについては、難しい学術用語で言うと「逆仮性近親憎悪」みたいな気持ちを抱いているせいか、仮に純粋ミステリの味は薄くともかえってスイスイ引き摺られペラペラ読んでしまうんです。 優しさと、 。。。
ところで、個別にコメントしておきたいのが幾作かございます。 順不同で題名は伏せますが、下記の通り。

某作 9点
これはアツい! 「安易な叙述トリック」のパロディを、ずっしり重みある対抗案で打ち返してやったような快音が響く。好きだ。

某作    1点弱
いちばん普通のミステリなんだろが、真相もオチも詰まらな過ぎ! あれ、オチってのは特に無いんだっけ?? 忘れちゃったよもう。どうでもいいや。だけど思わず噴き出すワンセンテンス有り。そこだけ最高。

某作   7点
本作のおふざけ炸裂はかなりの好感触。ミステリ部分もふざけとるが、ま特には。

某作   5点弱
ゆるゆるながらもやさしいオチ。

某作 8点強
同心円の余韻に頭をまかせ。。。。。。素敵だ。

シリアスなテーマで貫かれていたり、素のままっぽいキャンパス描写だったり、企画性の高いユーモアだったり、実験的フォルムだったり、いつもの感じだったり、そんなアンバランスこそ本作を読む嬉しさの象徴。喩えて言えば個人的にキンクスのアルバム「フェイス・トゥ・フェイス」のような一冊です。

ところでどうでもいい事ですがこの作家さんの場合、人名で「モリオ」って書かれてもほんとは「モリオー(盛り王)」なんじゃないかって疑ってしまいますよね。


No.740 7点 トリック・ゲーム
事典・ガイド
(2017/09/08 01:05登録)
国内外著名ミステリネタバレのイメージが強い本書ですが、実はオリジナル推理クイズ(これがなかなか凝ってて難しい)も結構収録されています。 点描による美しくもちょっと不気味な挿絵の効果も相俟って、なんとも言えず鮮烈な、独特な、眩しい印象を残す一冊。 私は好きだ。


No.739 8点 ハサミ男
殊能将之
(2017/09/06 23:26登録)
こいつオカシイ、医師もオカシイ。死にたいシリアルキラーと警察側のカットバック(●●●●●●)。ところが警察が捜査してるのはシリキの真似した模倣犯の事件。シリキも警察とは別箇に模倣犯を追いつつ自殺トライアルも死力を尽くして律儀に繰り返す。それを冷笑する医師「お前は死ねない」。経緯あって模倣犯事件の容疑でシリキに目を付け始める警察(●●●●)。じっくり読んでる筈なのにハイスピードでページが進んで悔しいこと悔しいこと。お、カットバックご両方の接点が遂に来た、と思ったらあれ、クロスしたまま離れて行っちゃってるじゃん(X型)?! いや、そう見せてやっぱり違うのか(Y型)!?

●●●●●●●●●●が結構長い、しかも意図的に●●●●●●●●●●どっちの●●●●●●●●●●なる●●●●●●●●●●「死の接吻」●●●●●●。

●●●●●●●、マスコミ●●●●●●●●●●●●●●●●設定●●●●●●、アンフェア●●●●●●●●●。

それにしても、こりゃ●●●●●●●●●面白そう(おっとネタバレか?)。
それと、いい文章だね。 云い難い品格を感じます。 タイトルがXTCの曲に引っ掛けてあるのは良かった。アンディ・パート●ッ●が「ノッてるかーい?」とか言ってンのは(わざと書いてンだろうが)引っくり返って大笑いです。

余計な●●●●●●●●●●●●●●、まっとうなサイコキラー警察小説で通したら完璧作になったのに(評価や評判の高低は別として)、と思わぬことも無かったですが、やはりこの●●●●あってこその闇の突出、ひいては作品の突出ですよね。

一人●●●二人●●●上手に●●●●●(片方だけ●●●●●●●●●●●●巧妙)、これぞミス●●●●●●●魂! って感じにキメてくれたのも光ってます。●●●●●や●●●●●●を髣髴とさせますよ。
 
しかし最後まで●●●●●●●●●●●●●●●●●●なんて。。こりゃ本作をうっかり「●●モノ」とカテゴライズしちゃう人もいるかも知れませんな(●)。


No.738 5点 殺人博士からの挑戦状 ~完全犯罪のトリックを見破る~
事典・ガイド
(2017/09/05 00:09登録)
題名は推理クイズ本っぽいけど違います。ミステリとは切っても切れない縁である様々な「殺人手段」について幅広~~く雑学風にまとめた一冊。電気だのトリカブトだの●●の××だの。。 飽くまで殺し方の「素材」を並べたもので、その使い方に工夫を凝らしたトリックのネタバレ本ではありません(稀にトリックの域まで踏み込むが)。文章もちょっと面白く「邪魔な亭主を葬りたいなら」だの「アンタの女房もこれでイチコロ」だの耳元で読者に語りかけて来る、何ともユーザー・フレンドリーな本。実践派のあなたにお薦めです。 


No.737 8点 社会部長
島田一男
(2017/09/02 19:01登録)
いつも気ッ風のいい手練れの文章で愉しませてくれる島田一男先生ですが、本短篇集のキレキレっぷりはまた格別!! 余ッ程α波が頭ん中スクランブル交差点を駈け巡ってたんでしょうナ! おなじみ有楽町は「東京日報」社会部の赤鉛筆使い、北崎部長がまた最高に良い! クシャクシャのハンチング、遊軍記者の亀田(亀チャン)もまた最高! 他に桐さん何さん、警察側とか、動きのいい脇役にチョイ役、いィ~っぱい出て来て活躍します。

社会部長(表題作)
解決はどうッて事も無いが、事件はちょッと面白い。要するに羊頭狗肉ってワケだが、何しろシマイチ先生の会話文も地の文も快調に飛ばし過ぎてるモンだから文句など付けられン。昭和の音楽業界の裏で起きた連続殺人。まァでも薄味ミステリだからネ、それでも7点。

三つの仮面
事件解決に直結したラストシーンが堪らなく沁みるんだ。。。。解決そのものは平々凡々、事件はまずまず興味深し。つまりは羊頭狗肉最後にまた羊ってナもん。またもや会話に文章最高。戦後の混乱を引き摺る昭和の失踪事件。親子の情の物語上級篇。やるじゃねえか、アプレの娘。。8点。

泥濘の町
泣けました。もうこれだけでネタバレです。都下の腐敗した街で起きた新聞記者殺し。8点強。

女殺陣師
稽古で使う竹光が真剣に掏り替わって人が死ぬ。ところがこの剣劇団、斬るシーン以外は普段から真剣でチャンバラやり合ってたってんで話がチト面倒。これも解決自体は平凡なもんだが、心に残るエンディング。刃傷からんだ人情話。7点。

三行広告
珍妙な新聞広告はもう出オチのネタバレに見えチャった。。果たしてその通りだったが解決の糸口はなかなか肌理(キメ)細か。某ホームズ譚の応用篇かな。緩さがB級ぽィが悪ヵない。 7点チョィ。

幻の男
某著名作とは関わり無し。自分は狂ってるかも知れない、狂ってないなら命が危ない、と精神科で不思議な陳述をした男が、殺された。魅力ある謎はまずまずの反転解決を見る。でもやっぱり会話文が最高、結末の驚きを上回っちゃってまさァね。7点強。

特ダネ売り
隻腕の彫刻家が持ち込む奇妙な事件ネタ。入れっぱなしって。。歯って、そっちか。。。よろしく⚫️⚫️すべし。。スッと消え行く寂寞のエンディング。こりゃァ独特の味。 8点弱。

アリバイ売ります
河内桃子。。最後の最後で急に話が大きくなった。隠しの巧いブラウン神父直系欺瞞+α。シマイチ流の複雑系タマシイがやっと炸裂してくれたってナ。ショートパス決まり過ぎのラスト数十文字、たまらンね! 8点強!


No.736 6点 水の柩
道尾秀介
(2017/08/31 12:27登録)
いつやるんだ!? いつなんだ?! 本当にやったのか! 叙述トリックか(笑)!? って気になるんですよ「あの事」が!! いやァ引き込まれますよねえ。。それであの、めくるめく混乱を抱いた、輝いて尺たっぷりのフィナーレね、心に残ります。 まあ、ミステリの手法を借りた普通小説って体ではありますが、、だけどその割には、イジメの件にしても過去の或る事件にしても或る家庭の暗さにしてもその描写にはミステリ的な「割り切ったアッサリ感」というか記号っぽさが目に付く、っつうか「うわぁ酷い、ここまで酷いともはや文学的!!」と胸を突かれる様な感動に至らず、中途半端ながらやっぱミステリ範疇なのかなあ、、かと言ってイヤミス的に嫌ャ~~ァな波動が押し寄せるのでもない。ついでに言やァ主人公父親の苦悩なんかも、もっともっと掘り下げられるのに。。 なーんてね、でも面白く、(特にフィナーレは)爽やかに読みましたよ。やっぱり「あの二人」のあのハイライトシーンが素晴らしいね。


No.735 7点 雪盲
ラグナル・ヨナソン
(2017/08/30 12:33登録)
♪ あれからニシンは 何処へ行ったやら。。 金融破綻後のアイスランド、人口千人ちょっとの海沿いの街。名士である老作家は劇団主幹。公演を直前に控えたある日、階段から転げ落ち死亡。。。。

文庫帯の惹句『アイスランド、ヤバい!』はなかなか唆る。実際読んでみると良い意味で普通に共感出来るほのぼのした味わいが強い。しかし巧みな複雑構成(事件は一つ二つじゃない!)と斬れの良い叙述操作で読者牽引力はハイエンド。そして人間関係の描写がヴィヴィッド。主人公刑事アリ=ソウルは人口十二万の大都会レイキャビクからの新参者だ。まあ、序盤~中盤に強く引き込まれる割に、結末がちょっとなあ。。意外性も(ミステリ的な)深みも、惜しい所で肩透かしからの空回り。それでも読んで愉しかったんだよ。

かの国と言えば、やはり白夜の温泉でシガー・ロスを流しながら朝まで読書、みたいなステレオタイプのイメージに引き摺られますが、少なくとも「世界で最も読書する国民」というのは事実であるらしきニュアンス、文章の端々からそれとなく伝わるのは素敵です。

日本の残暑厳しき折こそ、冷ンゃりした冬季アイスランド・ミステリがよくハマる。あなたも、如何です?


No.734 9点 宵待草夜情
連城三紀彦
(2017/08/26 18:22登録)
能師の妻
女子でありながら能楽の卓越した伎倆を持つ義母と、その弟子である義息、明治中期、飛んで昭和高度成長期。 戦慄のニ重底ホヮイダニット「何故、屍体の一部を隠したのか」はもう一つの事件の常軌を逸したハゥダニットと相即不離で悪夢を誘う。 8点

野辺の露
義姉と私と義姉の息子、大正初期から昭和戦中。まるでエロスを纏ったブラウン神父のような、或いはブラウン神父の濡れ場を覗くようなw手紙形式反転劇。非対称の切実な叫び声に打たれる。 8点。

表題作
死期を想う元画家の男と、カフェ女給、大正中期の三日間。真相ちょっと説明過多とも見えるが、いえ何、そこは伏線回収の醍醐味と抒情炸裂の交叉点ですから。確かに事件解決としては不思議な緩みを抱える一点突破。しかしミステリ小説の全体は、連城ならではの泣ける逆フーダニット。しかし伏線の一つに「活動写真」か。。序盤の男女の会話がチャラくてびっくりしたwがしかし、そこから後の文章は水際立って美しい。8点。

花虐の賦
劇団主幹と、病夫を抱えた看板女優、大正末期。 「賦」とは叙情を廃し事物の客観的列挙で情緒を醸しだすハードボイルド的漢詩文体のこと。 力点と作用点の距離が長い大トリックに引き摺られます。中トリックでは、まさかの数学パズル的要素を、隠された情念物語に美しく絡めていたのに驚きます。語り手の存在が最後くっきりと力を増して浮かび上がるのも素敵。 先生。。 9点。

未完の正装
女と、男と、女の亡夫と。。終戦直後、少し飛んで高度成長期。唖然とするほど豊富なミステリ要素が濃縮された短い物語を構成するのは流麗過ぎず剛健な文体。ミステリの側があまりに強烈で小説サイドが押され気味、連城らしくない。。なんて贅沢な文句も出てしまいそう。いやいや本作のただ事でなく夥しい各レベル各種トリックの有機的噛み合わせはカー「三つの棺」を髣髴とさせかねません。だけど本作も一番外枠の大トリックはブラウン神父直系ですね。そして一本筋の通った文学的テーマの存在が作品を引き締めています。なんとまあ豊潤な。10点超え。

いやはや、連城短篇の濃密さ、精妙さは喩えようがありません。


No.733 6点 緊急役員会
佐野洋
(2017/08/25 01:04登録)
破綻 /蛇の群れ /広い藪 /狼の巣 /武士の情 /白い蝙蝠 /震える肩 /緊急役員会 /誇り高い女
(集英社文庫)

社会派というより、いい意味で会社派(労組絡み多し)の、されど地味ならずいい具合にザワザワ派手目の短篇集。中でも出色は、いにしへの労組スパイ問題を俎上に、ミステリ興味もたっぷりと正面突破で取り組んだ表題作。その直後、デザートの様に置かれたビター・スウィート・ショート・ショートはまるで日本式クリスチアナ・ブランドの味わい。「武士の情」の見え透いチゃァいるが何とも微妙にいやらしい真相構造も忘れ難し(実生活で応用上等。。)。総じて他の作品群にもう一押しのサムシング・エルスがきらめいていたら7点行ってた。惜しい。


No.732 7点 入れ換った血
佐野洋
(2017/08/25 00:42登録)
医学ミステリに微かなお色気で六品。結末で突然にイヤミス毒が染み渡る表題作、犯罪動機の意外な重さに圧倒される「メスの怒り」を始め、読み易くもずっしり来る充実の作品が並ぶ。「棘のある肌」エンディングの(現在の出版コードではかなり際どかろう)悲痛な叫びもアンフォゲッタブル。。。

入れ換わった血/狂女の微笑/棘のある肌/満月様顔貌/メスの怒り/毛皮の家
(講談社文庫)


No.731 7点 共犯捜査
堂場瞬一
(2017/08/23 06:32登録)
舞台は博多。直球勝負で資産家の孫娘を狙った王道誘拐事件。ところがそこへ喰い込む様に、謎だらけの、町工場貧乏暇無し社長の息子誘拐事件が発生。後者の事件を爆発的不自然さでタレ込んだのが水商売を渡り歩く初老のチンピラ退職警官! 物語序盤、主人公(若手刑事)の尾行車に追い立てられる様に埠頭から博多港へダイヴで溺死した犯人一味らしき男。。この一件を責められ苦境に立つ主人公がのたうち回るリベンジを中心に据えた、魅力たっぷりこってりの警察小説。分厚い中盤の読み応えは相当の吸着力。こりゃ面白い!! 所々主人公の甘さが鼻につく場面もあるが、こんだけ小説が良ければ大いに許容の内。不規則げな折々に挿入される’黒幕らしき者’の独白も推進力あることあること。 最後は本格技の斜めヒネリどんでん返しで、、なのに何故かアッサリと(本格色を前面に出し過ぎないための配慮か?)明日を見つめながら。。 終結。 ところで、明かされる真相は某有名ハードボイルド作家の作風を連想させるかもね。。なんちゃって。余計なこと言いました。 7点でもかなり上の方。


No.730 4点 遺骨
アーロン・エルキンズ
(2017/08/21 06:48登録)
抑制あるユーモアと彩りある会話で優雅に引き伸ばされた推理クイズの様、なのは現在に起きた殺人事件解決のほう。ではメインディッシュらしき(?)十年前の事件真相のほうは。。ユーモアに加えて少しはミステリ要素の深みもあったかな。まず愉しく読めるんですけどね、最後に、アレっ、と軽い肩透かし。 どちらにせよ、もっと意外性が欲しかった。
終わり近く(真相暴露前)、結局やる事になった野外パーティシーンのキラキラ明るい導入部が素敵です。


No.729 7点 アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎
(2017/08/20 08:04登録)
両手いっぱいの伏線が律儀に回収される割には、いくつも贅沢げに並走する社会派要素がミステリ的に未検討で残されたまま。生煮えのオクラやら噛み砕けない魚の骨が混じったごった煮スープの様な”詰め残し”が感じられる。最後の●●●●暴露時にゃ中町○「○○の殺意」のそれに似た肩透かしがちょぃと。が、別に不満はありません。青春だから。。(結局□□と▼▼は一度も会っていないのか!)
ところで、「そこ」で流れ続けるディランの曲として選ばれたのが’Like A Rolling Stone ’ってのが泣かせます。 自分としては二次候補として’Going, Going, Gone’も挙げておきたいぜ?

ミステリとして面白いと思うのは・・・・・・・ここからネタバレと思う・・・・・・・叙述騙し絵のターゲットが、奥まで探ってみると実は「主人公」だった、という所ですか。 その主人公(???)が独白する「自分の生活の中では自分が主役だと思っていても云々」って台詞が物語の枠内で、その枠を打ち破らんとまでに反響する仕組みですよね。 さて本当の主役は、もしやまさかボブ゙・ディランなのか?なんて思っちゃったりもしました。
最後に、無意識に感じたネタバレ度強の違和感は「河崎ってそこまで美男子なんだっけか?」


No.728 7点 空白の殺意
中町信
(2017/08/19 08:43登録)
薄さが旨い、霞のような後味...と思えば拈(ひね)りの内出血で〆。 夏の純米酒なら、最後のワンセンテンスは無いが良いが、本作は酒ではなく長篇ミステリ小説であるから、これくらい僅かなエグ味を残されるのも悪くない。 ゴールでもラストパスでもなく憎いスルーで決めてくれた感触。うむ、こりゃ作者会心の笑みも納得の綺麗な立ち去り姿。 おっと、結末だけでなく、微かにイヤミスの薫り漂う序盤から、趣きあるアリバイトリックに翻弄色濃厚な人間関係を廻って興味津々の中盤~終盤へと、ちょいとトボケた顔して、読者牽引の連投持続は抜群なモノがあるのでございます。 

折りしも高校野球の絡む物語ですが、今やってる夏のじゃなく春のセンバツ(しかも秋の地区大会)。野球シーンはテレビ映像でチョコっとしか出て来ません。(生前の作者は大のジャイアンツファンとのこと)

ところで、英題’THE HOLLOW FUGUE(空虚なるフーガ)’は穿ち過ぎ。そんな嫌らしさで本作は勝負してませんよね。


No.727 7点 わが名はレッド
シェイマス・スミス
(2017/08/17 03:28登録)
舞台は北アイルランド。 しこりと疑問を引き摺りながら、悠然と締め付けに掛かる悪夢のホヮットダニット、そしてさり気ないホヮイダニットの収斂っぷりが本作の肝。 日韓W杯の2002年に”「史上最悪」の暗黒小説”と評された作品。 赤子の頃に自分と双子の弟をハメた(地獄の孤児院に棄てた)自らの親族達に遠大計画(二十年!!)の残虐な復讐を遂行せんとする頭脳明晰の主人公レッドは、計画の途上で遭遇したサイコ殺人鬼ピカソにちょいと妨害され、逆に利用し、遂には。。。その渦中でうねる様に翻弄され続けるのはやはり孤児院出身、実の親を突き止めんとするルシール。彼女は最終的にレッドの犯す兇悪殺人罪の全てを覆い被せられる予定だが。。。。短い各章毎にレッド、ピカソ、ルシールと語り手が切り替わり物語は堂々進行。暗黒の残虐描写は期待し過ぎないほうが良い。世評的イメージを裏切り、純粋にミステリ(新本格?)としてガッツリ愉しめる一作。 7.48惜しくも7点!


No.726 8点 虚無への供物
中井英夫
(2017/08/04 08:17登録)
“歩くとオルガンめいて鳴る階段”!!!

こりゃゆぅっくぅり味わって読みたくなるね、冒頭の猥雑シーンからしてまァ。。

亂步さんは第二章までの応募原稿を読み、そこで完結と勘違いした上で本作を絶賛したそうだが、むかし私も映画「キルビル」を観た時、二部完結の第一部と知らず、何て凄い、独特過ぎる、感動の嵐を残すバッサリした終り方なんだ。。!! と誠に感じ入ったものでした。 亂步さんもオイラと同じような事してたんだなァ。。 ってが

「犯行時、犯人がドアだったもの。」 ← 何なんですか、これ

本作、再設計の途上で気がふれた「毒チョコ」のようでもありますが。。 言われるほど奇書とも見えんが、奇想は感じましたよ。 ラストシーンの味わい深さと言ったら。。
そして、いい題名だよね。。。。。

オリジナル装丁が武満徹(世界的作曲家)というのも何だか流石の逸話力です。

第三章滑り出しのミステリ興味刷新スプラッシュ浴びせっぷりはなかなか!!

表の謎はナンだカ地味ダナ。奥に在るのかもしれない方の謎だか何だかは、思わせぶりだが。。
後半より露骨になる叙述の揺らぎ。 ”第一条”の機微に絡め取られる叙述操作の妙かよアハハ 。。。
この、後半の後半の後半を追い詰めるに連れまるで等比級数トルネードの様に抉り締め付ける叙述力の加速度見せ付けの、それも何故か何処かゆぅったりとした。。 そうです、バン、ババンバンババンバババン、と擬似銃声の音が鳴り出したものです、終結近くの或る部分に進んだその瞬間!

終章「57」の表題は、日本の某歴史的ミステリ名作に何らかのインスピレーションを与えているのかも知れません。。?

最後のほう、「人間との約束」。。 これに匹敵するもう一つのキーワード、何だっけナ忘れた。。。 その後も王冠から零れ落ちる宝石たちのように素晴らしく印象深いワード、フレーズ群をあちこちで散見しました。 じっとり汗ばみましたよ。。。。 まず満足。天晴の一作ですね。

ソウルファンとしては、アリ・オリ・ウッドソンを思い綴らずにはいない名の重要登場人物に逢えたのも嬉しい誤算。

そういや昔のHMMで「初めて読んだミステリは悪友に借りた『虚無への供物』、一晩で読破」って大学生がインタビューに応えてたのを思い出しました。色んな意味で初めてには不適の一冊と思いますが。


No.725 7点 架空通貨
池井戸潤
(2017/07/28 04:22登録)
ライアルが経済の領海を渡ったかの様な冒険ミステリ。表題からてっきり電子系の考察レポートを想像したら、全く違いました。泥臭い地方都市クローズドのお話。かと思えば。。ヒ、ヒ、ヒ、、
ラストスパートほど近く、物語のごく早い段階で登場したチョイ役コンビの存在感がまるで円弧を描くように生きていたのは泣けました。君たちは虹だ! その直後に現れたまさかの●●屋アゲィンも最高のワケ知り合いの手!
立体的によくうねる展開、謎もスリルもガッツリ持続で愉しませてくれるエンタテインメント良書です。 終結部だけちょっとチンマリまとまっちゃった感はある。。が、某重要人物の「その後」に何とも渋い含みを持たせて終るなど、そう単純な○善○悪でもない。 あと、余計な萌えに走らないのは良かった。
旧いR&Bファンにはアーニー・ケイドーを思い出さずにいられない名前の池井戸さん。本サイトでは意外と評が少ないのね。

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