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ミステリの祭典

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夜よりほかに聴くものもなし

作家 山田風太郎
出版日1967年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 メルカトル
(2020/12/20 22:32登録)
「証言」「精神安定剤」「法の番人」「必要悪」「無関係」「黒幕」「一枚の木の葉」「ある組織」「敵討ち」「安楽死」と犯罪者の心理、人間考察十話。これらの何ともやりきれない事件に遭遇する老八坂刑事は、犯罪者のやむにやまれぬ事情を十分理解しながら「それでも」職務上犯人に手錠をかけなければならない。人間のエゴイズム、国家権力や価値体系からはじき出された人間のはかない抵抗と復讐、権力末端の人間の悲哀が…。
『BOOK』データベースより。

最初に書いておきたいのは光文社から出ている『夜よりほかに聴くものなし サスペンス篇』は本書にプラスして12の短編が収録されており、そちらのほうが断然お得感があります。私はそれを事前に知らず買ってしまったのでちょっぴり後悔しています。

序盤は好調で読むごとに、事件の裏に隠された意外な事実や動機が明らかになっていく趣向に、やはり風太郎は面白いと思いました。連作短編集で八坂刑事が探偵役となって最後には決め台詞で幕を閉じるお約束になっています。しかし、終盤に近づくに従って、次第にその奇想の勢いが半減していく感があり残念に思います。
流石に年代を感じさせる差別用語の連打には鼻白むものがありましたが、文体は現代的で違和感はありません。しかしその年代ならではの動機などもあり、興味深く読むことはできました。人間の根源的な部分まで深層心理を掘り下げて、なるほどと肯ける面もあれば、そんな馬鹿なと思う面もあり、微妙な読後感でしたね。それでも全体としては平均的にまずまずの出来(風太郎としては)と思います。

No.1 7点 斎藤警部
(2017/12/12 23:05登録)
※短篇集単体です。光文社文庫「傑作選サスペンス篇」の方ではなく。

証言/精神安定剤/法の番人/必要悪/無関係/黒幕/一枚の木の葉/ある組織/敵討ち/安楽死

もしもドストエフスキーが(文章を短く纏める訓練をして)短篇ミステリ集を書いていたら、みたいな、人生思想犯の話がいっぱい。題名から薫って来るうらわびしさやブルージーな苦味は意外と薄く、犯行に至る背景はやるせなさってよりギラギラした狂気をより強く感じる。そこへ来て最後の(地の文含めてちょっと長い)決まり文句に何度も出て来られると不謹慎にも笑っちゃう。だんだんギャグに見えて来て。。

さて本作、重い主題を扱う割にはとても読みやすいブツですね。一篇一篇が短く、結末到着がちょっと早過ぎ、アッサリし過ぎの感さえあります。また光文社の文庫全集では「サスペンス篇」の表題にもなっている本作ですが、さほどサスペンで勝負というガラでもありません。本作の良さは、もう少し柔らかく悩ましいところにあります。

余分なツイスト無しでストレートな動機解明で締める、ようでいて、その動機の肝の所が実は読者が安易に憶測してしまうものより更に一押し、心の内側に釘の頭をねじ伏せた、より切実濃厚なものだった。。という風太郎らしい人間派力炸裂の作品が並びます。より表層近い所に大きなツイストをかませた本格ミステリ押しの作品もいくつかあります。一篇だけ、絵に描いたような本格興味のトリック解明で攻める作品があります。でも結末の動機大暴露はどれもこれも統一感有りの人間派シュプレヒコール慟哭劇。 各話のタイトル並びがデコボコ感満載(あるものは出落ちネタバレ、あるものは仄めかし、あるものは現象)なのは美しさを損ないますが、それはまあよかろう。

読んでる間は意外と軽い感じがしたもんですがね、後からじわじわ浸み込んで来るのですわ、これが。

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