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ミステリの祭典

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斎藤警部さんの登録情報
平均点:6.69点 書評数:1304件

プロフィール| 書評

No.944 6点 松本清張あらかると
評論・エッセイ
(2020/03/29 11:51登録)
“私たち編集者には、女性に関するなまな感じは絶対見せようとはされなかったですね。きれいごとですまされました”  鼎談篇より

エッセイ調の巻末解説集(+上記鼎談)。その昔阿刀田氏自身が編んだ「松本清張小説セレクション(全36巻)」に書いたもの。評論のSOWには遠くとも、丁寧な語りの積み上げに清張愛がひしひしと。 読んでない作が読みたくなる。
この類の書だから仕方無いが、ときおり妖怪ネタバラシも出没するだでに、注意。  


No.943 6点 隠花の飾り
松本清張
(2020/03/26 19:14登録)
足袋/愛犬/北の火箭/見送って/誤訳/百円硬貨/お手玉/記念に/箱根初詣で/再春/遺墨  (新潮文庫)

日陰に生きる女たちのショートストーリーズ。その割にちょっと薄味。読みやすい。軽くても印象の良い、人間関係ミステリ/サスペンス作品集。 しかしまあ、清張にしては畳み掛ける迫力に欠けるなあ、とは思う。 それはそれでいい。

中では異色かも知らん「見送って」の万感迫るブライトエンディング(... )は心に残ります。


No.942 8点 戌神はなにを見たか
鮎川哲也
(2020/03/24 12:56登録)
強めのユーモア、ほど良い旅情、不穏なもの言い、乱歩の縁。 ミステリ分泌の薄いもたせの弛緩帯は無く、冒頭から終結までみっちり詰まった良質の子持ちニシン。ストーリー、趣向、各種ネタに探偵小説蘊蓄の詰め込み感、前半に打ち込まれた古い芸能や男色の要素が後半とんと忘れられるバランス悪さなどは可惜斬れ味を鈍らせているが、もっさりしながらも豪華な主菜副菜勢揃いっ振りはやり過ぎ幕の内駅弁みたいで嬉しい。詰めの甘さは露骨でも大いに許せてしまう作家力。メタ方面に滑り気味の、質実ながらユーモラスな筆致も流石は信頼のブランド。いっけん安易げな際どい所で奇抜さ孕む、念の入ったアリバイトリックに、凝った構えの容疑者絞り。 ところで「一万冊サイン」の件、伏線としては扱われ方が微妙だな。。


No.941 8点 暗闇の薔薇
クリスチアナ・ブランド
(2020/03/19 12:14登録)
夜中、尾行車から逃れようと風雨の中を飛ばすヒロイン。最悪のタイミングで目の前に大木が倒伏。万事休すと思われたが、倒れた大木の逆側にも一台の車が立ち往生。ヒロインはその車を運転する男に「車を交換してそれぞれの目的地まで行き、後でも一度交換しましょう」と、連絡先ともども持ちかける。よく見ると偶然にも男の車は自分の車と全く同じ型!。。無事家にたどり着いたヒロインは翌日、自宅に止めておいた「男の車」バックシートに女の屍体を発見。女は、昨夜ヒロインが映画館の発券所で会話を交わしたばかりの昔馴染みだった。ヒロインがその映画を観に行ったのには切実な理由が。。。。そして「男」の正体が。。。。

時系列が前後する、心理状態はコロコロ変わる、後半より謎めいたフラッシュバックが頻発。この不親切さには大いに幻惑されましょう、相手はかのクリスチアナ師匠です。微妙に後から色んなことが明かされる。物語が混乱しているのか、読者側だけ混乱してんのか、まるで謎の叙述トリックが、見えないどちらかの方向に突き刺さっているかの様な不信感、このへんは大いに味わいましょう。

スケールの巨大な(国家レベルの、、)尾行。 優しい(?)ボヘミアンたち、、それはヒロインの「親友」として生き残った者たち、、うち一人はゲイの同居人、、何人かは嘗てヒロインも属した映画界で関わった者たち、、の織り成す違和感、違和感、こりゃたまらん。でも好きな関係性だ。何となくスーパーオーガニズムを思い出す。フレンド族殺人事件もちょっとだけ思い出す。 “その組合せと計算は無限だった“って、ほんまかいな。。 “おしっこ”。。。。 創元推理文庫の惹句にある通り型破りの一作、師匠最後のミステリ長篇。 エンディングが色々じんわり過ぎます。。。。 久々登場のチャールズワース警視正がいながら(地位に見合ってない!)、生意気な若い部下もいながら、まさかの。。。。 それとやっぱり、クリスチアナ師匠ならではの明るいブラックユーモアが横溢。これがたまらんのです。

本作は、鍵を握る屍体移動トリック故「黒いトランク」に擬えられる事があるようですが、それはちょっと、どうですかねえ。。


No.940 7点 貴族探偵
麻耶雄嵩
(2020/03/12 12:25登録)
ウィーンの森の物語   8点
■■ミスの更なる■■を暴く、素晴らしく甘美なロジックの響きを無駄なくスッキリと! ロジッカーでないわたしもこれには大萌え。 さり気ないようで重大な叙述ギミックも最高に効いている。 刑事なんとかへのオマージュみたいな決定的シーンも好きだ。

トリッチ・トラッチ・ポルカ   7点
面白く読めるが、猟奇的(!)真相も、何ソレ?的なラストシーンも、ちょっと無理があったかな。屍体切り刻みの理由にはなかなか凄いものがありました。ところでこのメイントリック、もしかして英国古典名作「なんとかのかんとか」へのオマージュか?

こうもり   8点強
これは読み返す!パンダ鍋?! 地の文、とは何か。。人は地の文●●人の主観を嗅ぎ付けてしまう、ってが。あと、中篇とは何か、的な。このナニをうまうまと成就させるには長篇でも短篇でも短パンでもまた難からずや!? アレを余裕で二度も見せ付けて、伏線というか大ヒントも何気にバッチリ。喧伝される「逆●●トリック」とは何と魅力的なワードか。。決して親切設計ではなく一発理解は難しいかも知れないが、これは許せる。更に事件真相そのものがもー~っとディープで相乗効果上げまくり上等だったら。。とも夢見てしまうが。。でもこの‘語りたくなる’吸引力はイニシエーションなんとかを彷彿とさせますね。鮎川さん存命だったら絶賛してたんじゃないかな。最後のアレは、反転てよりダメ押しの落ちか。
某サイトで「原作に忠実に映像化するとしたら?」の試案が図付きで詳述されており、なかなか興味深いです。実際のドラマではまあ色々あきらめて、その代わりなかなかの新趣向を出して来たらしいですね(私は観てません、いつか観たい)。 ま、俺なら斉藤の役をやりたいね笑
さて、これ言うと●●神経敏感な人にはネタバレっぽいですが、麻耶さんひょっとして、今はなき「笑っていいとも!」のオープニングからパーーンとインスパイアされてたりして。本作の逆●●トリック。

加速度円舞曲(ワルツ)   5点
これは、、尻すぼみでつまんなくなっちゃったな(加速てより減速)。とは言え順を追ってロジックで追い詰める所(たしかに加速してる)はなかなか良いが、、あまりに見え見えの「◯◯」がダミーだか麻耶さんらしく新趣の逆手掛かりかと思ったら、まさかのそのまんま。。。。(ですよね??) でも物語の風景は何故だか心に残る。不思議なもの。

春の声  8点強
ゲーム性、企画性過剰なようでいて、この不思議な味わい深さは、やはり”裏の裏の”主役、貴族探偵氏の造形の味わい深さに因るのだろう。あっちかこっちか、どっちか系の大技で締めるだろうが、どっちだろうかとソワソワしちゃうスリルも良し。反転趣向が二段構えで、ワンクッションと本チャン真相と両方存在するのも趣がある。しっかし、あのバカバカしいエピソードがまさかの致命的大伏線に化けるとはな。。ラストシーン、というか最後の台詞は本当に美しい。(この題名で、それまでと異なる物語舞台だし..) それってきっとそういう意味ですよね。。


各作の題名はヨハン・シュトラウス二世の代表曲から取られているようですが、捻ってサニー・ボーイ・ウィリアムスン二世の曲名通しで「乞食探偵」短篇集やってくれないかな誰か。ちょっと無理がありますか。


No.939 7点 幻の百万石
南條範夫
(2020/03/09 18:30登録)
「幻の百万石」
まだまだ戦国の江戸初期BLスパイスリラー。歴史の大中小要素が絶妙に絡み合い、中心をしなやかなミステリ興味が吹き抜けて行きます。

「逆心の証拠」
これも大きく分けてスパイ物。歴史ミステリならではの(前提知識込み)瞬殺収束エンドが面白い。

「惨たり笠松城」
連続殺人、に殺人未遂、の後の完遂、が入り混じってちょっと複雑なフーダニット、かと思いきや、、ロジックで何する類の本格ミステリではない、それは別に良いが、ストレートな推理小説をやろうとして消化不良に果てたような気配も少し。時代物ならではの凄まじいエンディングと、無惨な詩情を放つ構成の妙(!)が記憶に残る。

迷い無くミステリ範疇に入れられるのは、わたくし基準で上記三作かと思いますが、南條氏独特の残酷味滾る切迫力で、どの作もミステリ愛好者との相性はよろしいかと。(実は一作だけ、小説というより歴史の教材に近い叙述のがありますが、、わたくし的にはそれも面白し)

戦国末期~江戸期の歴史乃至時代七篇。 実は明治もチラリと顔を出す(タイトルで見当付くかも知れません)。
幻の百万石/太閤の養子/悲願二百六十年/最後に笑う禿鼠/逆心の証拠/眼(まなこ)を突く剣士/惨たり笠松城  (旺文社文庫)


No.938 7点 ウォリス家の殺人
D・M・ディヴァイン
(2020/03/05 20:21登録)
「 『違う方だった』 ってさ。 『そう言えば、分かるから』 って 」

地味な導入展開と文章。本格なりのおとなしいサスペンス。だがこれは他ならぬディヴァインなんだから、と心理の担保がはたらく。うむ、やはり小説味と本格ミステリの薫りがする。絞り過ぎず拡げ過ぎずの容疑者配置も魅惑の源泉。指紋の機微はまずまず(「災厄の紳士」ほどのインパクトは無いが)。 真犯人、そこにいたのか。。。 露骨でないが故に無意識を揺さぶるミスディレクションが本当に良く効いている。 エンディングはなかなか沁みる。 日本人なら10人に7人は「ノリスケの殺人」と聞き違えるので、電話注文の際は注意を。 しかし、クリケットの時間と来たか。。。                   


【↓ ネタバレ】


またしても。。「私」が犯人ではないかとうっすら疑惑を抱かせられた。。 上手いなあ、ディヴァイン。


No.937 7点 ダイイング・アイ
東野圭吾
(2020/02/27 18:30登録)
糸屋の娘じゃあるまいし。。。。 主人公の記憶の失わせ方が絶妙。。おかげで読者にとって謎に被さる謎が次々と奔出! 一方で、すぐにカタが付いたり解明出来たよな気にさせられたりする案件も続々。 筋立てはどんどん曲がりくねるのに混乱無く、頼もしき剛速球感、面白いです!! それにしてもホラーだか何だかにしか思えない事象がいつまで経ってもおさまらないのだが、はて。。。。 そう来るのか。。。。。。 だけど終結のドタバタで違和感が急襲。ここさえピシと決めてたら8点級だよなー 惜しいー  んで交通問題から派生した社会派ミステリ(?)とも見えるし、それはダミーの騙し絵とも見える。 某登場人物(名脇役)がまさかの被害者になってたのは違和感じたんだけど、、やっぱ交通事故で殺されるより意志ある殺人者に殺されるほうが怖い、って事を匂わせたかったのかも??  でも結局、ホラーとは謂わずともサイコ的なもやもやの切れ端が微妙に残ったかなあ、、本格ミステリ/本格サスペンスだと思って読んじゃうと。

発刊当時 『今度の東野圭吾は、悪いぞ!』 ってキャッチコピーが意味ありげに踊ってた本ですよね。 悪い、のか。。。。。


No.936 6点 少女
連城三紀彦
(2020/02/20 19:40登録)
熱い闇 5点
官能ホラーファンタジー in 現実世界。反転の肝暴露がタイミングは性急、スピードは緩慢で、連城らしいピリッとした魅力には欠ける。半端に文学づいた佐野洋がエロ短篇を書いたみたい。(佐野先輩、大好きです) 連城基準なら4点弱

少女 6点
小澤陽子が登場!w 所々クソキモいのはともかく、無実証明の為の興味深いねじくれ現象やら、味のありそうな社会派暗闇をも絶妙にチラつかせつつ、、 軽く一点突破のその、その反転でカタ付けたってか。。小せえよ。。 で刑事の最後の台詞、この世の性差別の肝を凝縮した論点のレトリックで、胸糞悪いこと無双の響きあり、最高の締めだ。 連城基準で5点強

ひと夏の肌 6点
まさかの      。。。。でも良かったです。 ただ、去年のアレの動機が明かされずじまいなのは、どうなのか。 でも、この手の      としては、そこはっきりさせるよりもこういう方が味わい深いかな。

盗まれた情事 7点
羊頭狗肉、の疑いを俊足の落とし前で晴らす最後の数頁。連城としてはまあまあ。

金色の髪 8点
この反転のキレにはやられたわ。。熱さもコクも奥行きもさほど無いが、とにかく驚いた(全体的に緩い本なんで油断してたからかも?)。 でなんともおフレンチ。

全体通してエロさ爆発、変態度は表題作除いて低め、文学とミステリの味は連城にしちゃあ幾分落ちる、そんな短篇集。


No.935 6点 あなたは誰?
ヘレン・マクロイ
(2020/02/18 18:10登録)
“こんな面白い人が殺されるはずがない”

騙し絵だよねえ。謎の脅迫電話に始まる心理学応用サスペンス。某ネタの嚆矢と言われる作だそうですな。その上でフーダニットともう一つフーズ■■■■の趣向が見事に共存共栄。或る主要人物についてのアレがアンフェアでないの? とも思ったけど、流石のプロット構築力に丸め込まれちゃいましたねえ。。 甘いばかりじゃないようでやっぱり甘~いエンドも良し(めちゃ印象に残るわけじゃないが)。 あと、原題より邦題の方が格段に味わい深いですよね、その理由はここでは詳しく言えないわけですが。。原題いっそ”Who’s Calling ?”より”Who Are You ?”が良かったんでないかと。 安易な考えかも知らんが。


【伏字ネタバレ】

●ー●ーが実はすんげ悪い奴だったら面白かったのに。またはいい奴だけど犯人とか。


No.934 7点 あした天気にしておくれ
岡嶋二人
(2020/02/13 12:30登録)

“私の不安はそこにある”

画期的身代金強奪トリックさえ呑み込む構成の妙で大いに読ませる煌めきの一篇。 複雑な取り込まれの渦に、予想を呑み込む加速のやばさ、わずか2ページ足らずの隙間に。。そんなシビレる核心の一幕を経、大トリックが明かされてもまだ積み残される、違和感と謎と人間ドラマ。 “あの人”が真犯人なら、ミステリ的に最高に素敵だなと(実人生だったら最低だが!)妄想しながら読み進めたところ。。。。 いっけんドライな行動描写の中に考え落ちならぬ考え情感が溢れる(ハードボイルド文体とは微妙に違う)、そんなシーンによく出くわす。 そして今から動き出すラストシーンも、気持ちが深い。。。  「そうしましょう。牧場にそうするように言っておきます。」 ← この哀しきユーモア、哀しいのに噴き出したw で、何故このタイトルなのかという疑問はおいといて、バランスちょっと悪いとこもあるけど、この創作パッションは見逃せません。

講談社文庫、ミスタ・ヨー・サノの巻末解説、いいねえ。特に最後の四行。“そして、この有名な方法は、さらに、競馬の外の社会で頻繁に行われていることからの応用だろうと思います”という一文も拡がりがあって素敵。




【最後はネタバレ(メイントリックについて)】


本作の身代金トリック、昔どっかで読んだ奇想麻雀漫画のネタを彷彿とさせます。点数計算を、その日に実際打って和了った手の占有率(誰かが和了る毎に変動する!)で倍率配分したらどうなるか、みたいなの。 たとえば早い段階で四暗刻単騎行っちゃったら。。



No.933 8点 他人の顔
安部公房
(2020/02/09 21:09登録)
ガチガチの純文学たる本作にも「読者への挑戦」は挟み込まれています。 「手記ノート」の中に追記や訳注やらが頻繁に挿入される魅惑の物語構造。そう、本作は。。。。一般に『化学研究所の液体酸素爆発事故によって顔面に蛭の群れのような醜い火傷を負い「顔」を失った男が、精巧な「仮面」を作ってかぶり、自己回復のため妻を誘惑する物語』などと紹介されますが、実際は、そのような一連の行動をまとめた「手記ノート」で一切を「妻」に暴露しようと、逢引き場所のアパートにやって来る「妻」を隠れて待つ「夫」の話であり、ただそれだけではなく。。。。

“それがぼくの生涯の履歴として、正式に登録されるのだと思うと、やはり慎重にならざるを得なかったわけである”

確かに構造的にミステリと呼べない事もなく、サスペンスの雰囲気も割と漂っておりますが、多岐に渉る論説に満ちた噛み応えある文学作品として味ヮうのがむしろ面白い事でしょう。ボワロー&ナルスジャックみたい、なんて思う人もいるかも知れませんが。。(本当か?) 時代小説不滅論など興味深い考察もちらほら色々。

んでこの話がさ、古くなってないんだよ。怖いねぇ。。。


No.932 4点 マリオネット症候群
乾くるみ
(2020/02/07 12:00登録)
"腑に落ちる、とか、胸のつかえが取れる、とかって言い回しがあるけど、ちょうどそんな感じで。"

一人四役趣向の特殊設定ファンタジー応用篇か?(それも、中では地味な「証人」にスポットライトを!?)なんて思ってみたりしました。 それにしてもラストはまさかの 、、、、 角田喜久雄「発狂」のマッドエンドを彷彿とさせてくれました。 いやあ気持ち悪い!(悪い意味で)


No.931 7点 ノエル: -a story of stories-
道尾秀介
(2020/02/05 12:00登録)
にぎっては出しのホヮットダニット反転やら叙述トリック連発やらまるで短篇連作の如くに惜し気なく奔出。でも本作は短篇的パートに分かれた長篇。後に進むほど『童話部分』の良さと意味合いが押し寄せて来る。ストーリーそのものが臨界面で連関すると言うより、ストーリーに登場する人物たちの人生が点で連関する、同じ連作短篇的長篇でもワンクッション含んだ感覚。てか、だからこそ連作短篇ではなく長篇の体裁なのか? それにしては叙述の小技が光り過ぎな気も若干するが、いいさ。 最後に近づくにつれ、ストーリーの織り成すハーモニーのあまりの美しさに、ペンタトニックスが髭男の勢いでカバーしてくれないかと思ってみたりもする(あのバンドとこの作者は雰囲気似てる気が)。まあエピローグは出自的に、「三題噺」をまとめたようでもありますが…その効果は大きい。 ところで、第一話の微妙に不吉なエンディングって、もしかして回収せず?(おいらの読み落としか?)


No.930 6点 その灯を消すな
島田一男
(2020/01/30 12:00登録)
「南郷さん、魚が仲よくするときは、どんな風に挨拶するんでしょう?」 
「よし、わかった。おしっこをして寝たまえ。」

流石に、口のきき方の分かった島田一男だ。佳き旅情もたっぷりだ。 シネラマ見物、「爽快ですわよ!」 金丸京子役にゃア芳根京子がぴったりだ。 光文社文庫巻末解説の大内茂男、いいねえ。

“ホヤのくすぶった石油ランプが、そんな状況を、薄暗く照らしていた。”

南郷弁護士昔なじみの平家村で展開する連続殺人事件。題名に込められた意味をくどくど説きゃしないアッケ無さもシマイチらしいコイネスぶりだが。。。さてこっからネタバレ風な言いぐさになりますが、意外性とは共存出来ない類の大動機で締めるのかと、思いきや!! しかしその大落ち、質量併せてもうチョィたっぷり味わせてくれたらなア。。反転後が短過ぎるやなア。。と恨みにも思います。

ところで、光文社文庫表紙の女性はLiLiCoさんでしょうか?


No.929 7点 ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!
深水黎一郎
(2020/01/28 13:00登録)
「本当に最後までやるつもりなのか?」

ナイストライ! 文章も悪くない。  【【 こっからしばらく、パラグラフ内はネタバレ気味です 】】  主人公が書いているという連載新聞小説の内容がさっぱり紹介されない、妙だなあと思っていたら。。 yoshiさん仰った通り、本当に新聞小説として発表されてたら、ちょいとエグかったかも知れませんね。でもこのトリック、「あの鐘を鳴らすのはあなた、あの議員を当選させたのはわたし」的な、かなりの民主主義スピリットを感じさせますね。それと「いやいや、そもそもこの人とっくに死んでたんだから」って思っちゃうのを回避出来てるかどうか、どうなんでしょうか。 要は「読者」ってのがどこに位置してるのか、物語の中にいるのか外にいるのかってとこですか。


「最後のトリック」というと、いにしへの学研ジュニアチャンピオンコース『名探偵登場』で、ロバート・アーサー「51番目の密室」をあまりに猟奇的なイラスト付き推理クイズに仕立て上げたやつの題名が「最後のトリック」だったのを思い出します。(物語の中に登場するキーワードがそれですね)


ところで常々思ってるんですけど「読者が犯人」って、アレとアレ、つまり「●●が『●●●』」って設定と、よくある「●●●●」ネタを組み合わせたら出来ちゃうんじゃないの? って。(実際書くのは大変でしょうけど) 違うのかしら??


No.928 7点 真赤な子犬
日影丈吉
(2020/01/23 18:00登録)
「ちかごろの探偵小説では、こういう人を犯人にするのは流行りません。」

或る女性登場人物の性質が象徴するような、奔放な形態の中でクールな諧謔をふりまき散らすコンパクト長篇。まあ安易に平たく言えばおフレンチ。 始まってしばらくは、読者だけに真相(?!)が明かされる歯がゆいサスペンス加速で魅せる。これは果たして見た目通りのサスペンスなのか、それともまさかの本格なのか。。って読者の気持ちを上手に弄んでくれます。 ’いもしない’犯人話?!? いつも二人セットでいるという先入観で!?!? まさかの探偵当て趣向も絶妙にフレンチな斜め前感。 クリスティ魂を凌がんとする真犯人意外性と、それすら上回らんとする動機の意外性!!そして意外極まる瞬発性!! だが、’もう一つの方’のホヮィは、、、たまらんのよ、この念押しの晒し方が。

「だが、殺すほどの必要もないのに殺すというと、たとえば、どんな場合ですかね?」

“雪上の足跡”トリックもなかなかどうして面白いぞよ。。(ちょっと笑うヴィジュアル含め) いっけんポップにふわふわしてるだけみたいな表題も、実は事件の核心部に位置しまくりだ。。。。 でもな、お洒落過ぎるのが悪いってのは無いだろが、何処かに不思議なお手軽さがあるのよね。もうちょいだけ業の深さで息も止めてくれたら、ミニマム8点でしたね。 そいや本作、女性登場人物率が異様に低いのに、何故か全体的にフェミニンな雰囲気横溢なんですよね。。。。或る気取り屋が「ノンサンス云々」と言う所に「ナンセンス云々」で言い返すくだり、笑いました。

「さいわい第二の事件があるので、これは二項方程式を解く時のように考えてみたら、いかがですかな?」


短い各章の表題がなかなか唆るので、晒しておきます。

A 危険な贈物
B 凝りに凝った呆気ない死
C 国務大臣秘書の異常な体験
D 死の利用価値
E 読者だけが知っている
F 本格物の退屈な部分
G 美食学的な死の前後
H お化け犬
I 家の中の山登り
J 推理の道標は曲がっていた
K 高雅な死と卑俗な蘇生
L 時の人は静かに寝てもいられない
M 手に負えぬ人々
N 推理の表と裏
O のんきな影武者
P 小犬の咀嚼力の問題
Q 探偵小説ファンは推理が上手
R 眼のよるところに玉
S 雪の上の死体とビヤ樽
T ダブル犯人説
U 二つの事件はどこでつながっているか?
V 緋色の研究(スタディ・イン・スカーレット)
W 人間的関係
X 綜合と集約
Y 殺人心理学
Z 結局どうなる?

↑ こう並べてみると、今時のJ-ROCKバンドの曲名一覧みたい、若干。


「放心の犯罪?」


No.927 8点 十日間の不思議
エラリイ・クイーン
(2020/01/21 23:32登録)
「ぼくはとっておいたのです・・・・・・ぼくの最も輝かしい”成功”の記念品としてです。」

『エラリイ・クイーンなる著名作家が世に存在する』という事実(と虚構の不可分関係)を前提とした、なかなかにメタ風味薫る勝負作。 探偵が間抜けなひと時を過ごしたからこそ醸造された、深い旨味。 第一部と、第二部。。 たまらなく切実なセルフパロディ。いや、よく考えたらその視点すらメタじゃないですか! 何気な文学味もジャストフィットの良さがある。 ある重要登場人物が語った通り、計画には弾力性、これだね。 後続への影響特大の一作ですね。 んで鮎さん、なにアァタいちゃもん言ってんの 笑。


【【 ここから重大なネタバレ含みます よろしくお願いいたします 】】

犯人隠匿技に脂乗りまくりのクリスティだったら、あの真犯人にはしなかったろうかな。。 これでもし真犯人がまさかの「弟」だったら10点スムゥーズスティーラーだったかな。 クリスチアナお婆さんがハヤカワ文庫の登場人物一覧に登場しないのは、謎の人物の正体をぎりぎりまで明かさないためか?だがそのお蔭で、犯人ではありえない人の位置付けになっちゃってる。出来たら彼女も最後近くまで疑っていたかった。。 ラストシークエンスではパールジャムの某アルバムが頭の中を流れ始めた。何故なら。。


No.926 7点 囲碁殺人事件
竹本健治
(2020/01/16 12:00登録)
首斬り顛末のなかなかにナウい背景には膝を打ちます。 犯人像はあまりキラキラしてない(?!)、だが渋味はある。身の振り方のダイナミクスも含めて興味深い人物(ほんとはアレなわけだが、ネタバレになるから言えません)。 フーズホームズ、フーズワトソン、ワトソンにも第一と第二があるのかな、このへんの真探偵当て趣向もなかなかいい。 物語のほぼ真ん中で、前のめり過ぎるフーダニット仮説立ての煌めきが一瞬パチリ、まさか、まさかと迷路中心の妄想は羽ばたくのでありました。 『珍瓏』に込められたメッセージは頭クラクラしたな(いい意味で)。 うん、うまい構成だ。 或る二十余文字に傍点をふらない心意気だか冷徹さだかも目を惹いた。 エピローグ、まさかのグローバル展開には驚いたww アンバランスと無理は有るが、基礎の厚い面白さと不思議な狂気のスライスカットインで読ませる佳品。 「けっこう僕なんかもそうじゃないかと思うんですが」って 笑

講談社文庫併録  チェス殺人事件   
おぃおぃまさかの。。。。 その意気を買い、単独で6点かな。 本全体の採点に影響無し。


No.925 5点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2020/01/12 11:00登録)
犯人当てと銘打ってるのは、半分冗談半分本気ってとこでしょうか。
風桜青紫さんのおっしゃる、冒頭二作に対する下記のコメント:
> (前略)トリックを納得させるにゃこれ以上の方法はなかろう(笑)
> (前略)確かにこの形式じゃなきゃ種明かしできないし、犯人当てを組み立てる手法のひとつとして十分あり
本当にその通りで、企画の主旨も確信犯的にくっきりしており、そのくせ比較的つまらない、驚けないという(特に冒頭表題作)。


どんどん橋、落ちた  2点
つまらんw でも本作だけ読んで投げちゃったら損するぞー。 まーこういう構成だからこそ( 中 略 )、という工夫は買います。コレ長篇でやったら伝説のバカミスになりますかね。

ぼうぼう森、燃えた  5点
「どんどん」を踏まえての「ぼうぼう」。いっけん似たようだが、わたし的にはこっちがずっとまし。コレ長篇でやったらどうなっちゃってますかね。あ、いや、だから短篇集の冒頭二作なわけか。

フェラーリは見ていた  6点
中では異色作、しっかり短篇ミステリらしい。私もたまにカラオケする憂歌団の唄を二人で口ずさむシーンがエエ。●●トリックは前二作よりささやかなものだが、その効果がよりきれいに出ていると思う。

伊園家の崩壊  6点
あの二人が既に故人!という先制攻撃にやられた。外郭は悪乗りパロディだが中身はガチガチの本格ですね。まさかの●●トリック無しだったのは。。意外でしたw

意外な犯人  8点
逆”小説ならではのトリック”!! トリック原理はまあアレかも知れないが、こういう構成というか叙述ギミックの中で来られると。。。 エンディングは、味わい深いのに蛇足感だだ漏れという、珍事に!


全体的にせせこましいというか、豪快さに欠けるというか、疲れてそうというか、綾パンらしい覇気が見えないと言いましょうか。 パロディにしては生煮えってか、じゅうぶん一筋縄で行っちゃってるでしょ(一作?除いて)。 でもこの楽屋落ちスピリットは愛おしい。 さいきん犬の名前と言えばやたらショコラとかタケマルってのが多い理由もよおく分かりました(嘘)。 しかし、人間が描けていないな!!(笑)

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