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ミステリの祭典

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名探偵ジャパンさんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.270 7点 家守
歌野晶午
(2019/05/13 16:51登録)
一話目の「人形師の家で」を、なかなかいい心地で読んでいたところ、ラストの人形トリックで、「えー」となりました。あの状況に追い込まれても、ああするかなぁ? トリックのために人間を動かす、大山誠一郎イズムを感じました。
続く「家守」と「埴生の宿」は、完全な島荘イズムが込められていますね。特に「埴生の宿」の、あの豪快な仕掛け。島田荘司が書いたと言われても私は信じますよ。
残る「鄙」と「転居先不明」も、ついでに無理矢理他者の作風に当てはめると、正史イズムと乱歩イズムになるでしょうか。

以上五編。作者の引き出しの広さを再確認させる、好中編集でした。


No.269 5点 僕と『彼女』の首なし死体
白石かおる
(2019/05/09 22:21登録)
痛たたっ!
本作は、私がこれまで読んできた中で最も「イタい」ミステリでした。
文庫版の解説にもありましたが、本作に対する評価は、(作者と同名である)主人公を好きになれるかどうか、その一点に集約されていると言っていいでしょう。私は好きになれませんでした。
主人公が生首を人目に付く場所に放置するという行動のホワイダニットは、なかなか情緒的な理由によるもので、なるほどと思いましたが、その目的を達するためならば、「いや、もっと合法的なやり方があるだろ」と突っ込まざるを得ません。こんなに恐ろしいことをやってのけても、以降普通に社会生活を送っている主人公は、サイコなのだろうと思います。しかも最後、主人公は自分のやったことを全て真犯人におっかぶせて、何の罪にも問われず無罪放免になります。
序盤を読んで、「あ、こいつ(主人公)のことは好きになれないな」と感じた方は、そこで読むのをやめたほうが精神衛生上よいかと思います(笑)


No.268 8点 半落ち
横山秀夫
(2019/05/06 22:37登録)
最近は「社会派」と銘打ってはいても、本格ミステリ的な仕掛けが施されていたりするような凝った作品もありますが、「社会派原理主義」的な見方をすれば、それらはむしろ「邪道」といえるのではないでしょうか。それに対して本作の割り切り方は見事です。これぞ「ザ・社会派」です。
読み始めこそ、正直(作者が記者時代の知識を生かしたのでしょうが)「法曹界あるある」的なネタ(?)を延々と読ませられ、「勉強するために読んでるんじゃないんだよ」と辟易しかけましたが、すぐに慣れました。
物語の最大にして唯一の謎である「どうして犯人は『半落ち』を貫いているのか?」に対する解答ですが、これが実に素晴らしい。「本格ミステリは、お化け屋敷で人間が描けていない」へのカウンターとして生み落とされたのが「社会派」なら、社会派は「普通の住宅に血の通った人間を住まわせる」責務があります。本作はそれに見事に答えたと言えるのではないでしょうか。

後に、この「オチ」に関する論争がきっかけで、作者が直木賞と決別宣言をしたという話を知りました。作家として実に見事な言動だと思います。残念なのは、喧嘩をふっかけた側が、作者が突きつけた反論に対してだんまりを決め込んだということです。いやしくも作家という職業で飯を食っているなら、ここは受けて立って、さらなる論争に発展させるのが普通でしょう。物理的な喧嘩は絶対にいけませんが、ペンを使った喧嘩は、文壇においてはむしろ推奨されるところのはずです。情けない。


No.267 5点 フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人
佐藤友哉
(2019/05/06 22:14登録)
ページのそこかしこから「若さ」がほとばしっていまして、変な感想ですが、何だか微笑ましく思ってしまいました。(文庫版の「あとがき」とか、作者にとっては黒歴史的な微笑ましさ)メフィスト賞と聞いて納得です。
当たり前のように普通に超能力とかオカルトが出てきたりして面食らいましたが、「これはミステリでなく、オタクの青春小説なんだ」と理解できれば、こういった要素はあったほうがターゲット層の読者には喜ばれる(昔の作品なので「喜ばれた」かな)でしょう。
あらゆる問題を置き去りにして唐突に終わったのですが、続編があるのですね。いずれ読んでみようと思います。


No.266 6点 凍える島
近藤史恵
(2019/05/06 22:02登録)
作品に直接関係はないのですが、読み始めてまず、文体や登場人物の設定に、90年代トレンディドラマの匂いをぷんぷん感じ取りました。「コーヒー」を「コオヒイ」と表記するなど、長音を使わないカタカナ語の使い方も相まって、実に独特な世界を表現していたのではないでしょうか。(さすがに「モォタァボォト」は笑いましたが。「コーヒー」は「コオヒイ」で長音部分は大文字なのに、どうして「モーターボート」になると同じ長音部が小文字表記になるのか? 作者のこだわりが謎です)

この、ひらひらした世界観を言い訳にして、ミステリ部分も感覚的なもので流されて(誤魔化されて)しまうのかな? と危惧していたのですが、なかなかどうして、ロジカルな解決を見せてくれました。鮎川哲也賞受賞作の面目躍如といったところでしょうか。


No.265 7点 魔眼の匣の殺人
今村昌弘
(2019/05/02 18:21登録)
他の評者の方も書いていらっしゃる通り、本作を執筆、発表するにあたり、作者は相当のプレッシャーを受けていたと思います。結果、上梓された本作は、受け続けていたプレッシャーを、そのまま同等の反作用として力に変えたかのような、見事な出来栄えを見せたかと思います。前作の受賞、評判はフロックではなく、間違いのない実力によるものだと世間に知らしめました。

ただ、前作よりも1点評点を落としたのは、二作目ということで前作ほどのインパクトがなかった、という理由もありますが、扱われているテーマが「予言」という、人知を超えた能力であったということもあります。
予言ですよ、予言。これはもう、前作のあれとは違い、科学技術や理屈でどうこう説明が付けられる領域をはるかに突破してしまっています。「予言」の存在を認めてしまったら、ほかの超能力の存在を一切否定できなくなるのでは?
例えば瞬間移動とか、時間停止とか、そんな能力者が出てきたら、アリバイも密室トリックもありません。そういった物理的に作用する能力でなくとも、他人にニセの記憶を植え付けるとか、人の心を読むとか、そんな超能力を持った人間が、この作品世界に存在する可能性が否定できません。
「この作品世界に予言はあるけど、瞬間移動はない」「この世界には予言以外の超能力はない」誰がそれを宣言、証明できるのでしょう。予言があって瞬間移動がない理由が見当たりません。それを証明するのは作中レベルからは不可能で、作者が作品外のメタレベルから「予言以外の超能力はないよ」と宣言するしかないでしょう。

超能力の存在が肯定されてしまった以上、今後このシリーズでは推理を行うにあたって、他のあらゆる超能力の存在を考慮しなければならなくなりました。大きな足かせになってしまわないか心配です。


No.264 7点 鵺の鳴く夜が明けるまで
door
(2019/04/18 22:41登録)
これは思わぬ掘り出し物でした。
まず、本格ミステリというジャンルが徹底して無視されているウェブ小説界隈で、これを見つけて書籍化に持って行った編集者に敬意を表します。
惜しむらくは、COMiCOブックス? という超ドマイナーなレーベルで発売されてしまったことです。大元は双葉社らしいですが、このレーベルを置いている書店を私は見たことがありません。(本書も、このサイトのレビューを読んで読みたくなり、近くの書店に注文して、問屋に在庫が一冊だけ残っていたものを取り寄せてもらって入手しました)

読んでみて、作者はかなりのミステリマニアと睨みましたが、ミステリ初見の読者への配慮をしすぎた感があり、作中で扱われるミステリ要素と登場キャラクターの造形や文体がミスマッチを引き起こしているように思えます。もっと、ガチガチのミステリファン御用達のレーベルで出せて、それなりの文体で書かれていたら、歴史は変わっていたかもしれません。
作者が本作を書いた時点で現役の大学生だったというのも頼もしいです。若干、トリックに対して「イキってる」感がありますが、若いので許されるでしょう(笑)
こういうものをKADOKAWAなどの超メジャーレーベルで出して、推してもらえれば、本邦ミステリ界の未来は一層明るくなると思うのですが。


No.263 7点 太陽黒点
山田風太郎
(2019/04/14 17:35登録)
凄いものを読んだ、という満足感に満たされました。
序盤(というか、ラスト直前まで)の展開は「何だこれ?」と思いながら読んでいましたが、各章冒頭に提示される「死刑執行・○か月前」という踊り文句を見るたびに「ああ、これはミステリで間違いないんだ」と気を取り直し、「信じてるぞ山風」と思いながら読み続けました(笑)。
とはいえ、その「ラスト」に至るまでの話も、決してつまらないというわけではなく、筆力にぐいぐい引かれて読んでしまった、というのが正直なところです。

確かに、計画の成功性、動機、被害者の選定など、ミステリとして万人を納得させられるものではないかもしれませんが、「あの時代」を生きた作家にしか書けない圧倒的な力を持った作品であるということは疑いないでしょう。


No.262 5点 異セカイ系
名倉編
(2019/04/12 17:05登録)
5点付けていますが、これは(まぁ楽しめた)というよりも、(まぁよく分からなかった)という意味だと理解して下さい。
はい、よく分かりません。正直、途中(主に異世界パートを)何度も斜め読みで済ませました。そういったわけなので、内容については、私は評価してよい立場にないとは思います。作中にも出てきた、ネット小説に慣れ親しんでいる若い世代の読者からしたら、「どうしてこの面白さが理解できないんだ? これだから老害は」と言われてしまうかもしれません。
しかしながら、こんな私ですが、悪いことや無為なことが書かれているわけではないことは、まぁ分かりました。メルカトルさんの書評にもある通り、本作のテーマは「愛」なのでしょう。作者はこの小説を通して、「愛」に溢れた「やさしい世界」を作りたいと願っているのだと思います。
ただ、その伝え方が、どストレートすぎます。ストーリーに上手く溶け込ませるとか、それとなくほのめかすとか、読んだ後に思ってみて「ああ、そういうことだったんだな」と思い返して分かるとか、そういったオブラートに包むことを一切していません。「愛」という棍棒でもって読者を思い切り殴りつけてきます、この作品(作者)は。異セカイの中心で愛を叫んでいます。まぁ歪曲にしすぎて伝わらないよりは、よほどいいのだとは思いますが。

ちょっと前にレビューした『NO推理 NO探偵』は、まだ理解できたうえで「何だこれは?」と思ったものですが、本作は理解できないうえで「何だこれは?」と言うしかありません。
メフィスト賞、どこへ行こうとしているのか。『すべてがFになる』とか『ハサミ男』とかを受賞させたことは、現在のメフィスト賞からしたら「黒歴史」なのではないでしょうか。


No.261 7点 聖母
秋吉理香子
(2019/03/31 23:38登録)
ネタバレがあります!



ミステリとしての仕掛けの効果は抜群で、加えて「母親」のドラマとしても読み応えのある内容でした。
ただ、ある人物について、書き方からしてもう「これ、性別を誤認させようとしているな」というのがバレバレで、終盤になって、実はそれも仕掛けの一部だった、といのが明らかになるにはなるのですが、「親子の関係」とか、読者が論理的な推理で真相に到達する要素が全くない仕掛けがメインのため(「本格」でなく「サスペンス」だから、ありです)これは最初から明かしても良かったのではないかという気はします。気になって、かえって話への集中が削がれるきらいはありました。

最後、何だか「いい話」みたいに締め括っていましたけれど、二名の男児を猟奇殺害した件は不問に終わっていますね。いわゆる「イヤミス」だから、これで正解なのかな?『聖母』というタイトルも皮肉を利かせる意味でつけたのでしょうね。


No.260 6点 傍聞き(かたえぎき)
長岡弘樹
(2019/03/31 23:24登録)
収録作品はどれも良くできており読みやすく、謎の提示と解決も面白いです。
ただ、他のレビュアーの方も書かれていますが、「謎」を生み出すために登場人物に不自然な言動を取らせているな、と感じるところはあります。特に第一話の「迷走」とか、「携帯電話を耳から離さない」理由は、きちんと説明したって一向に構わないし、立場上そうするべきなのではないでしょうか。しかも、この方法、作中に書かれているように事実行われていることなら、作者のオリジナルのネタということにはならないのでは?
とはいえ、文句を付けるとすればそのくらいで、全体としては非常に高水準な短編集であることに疑いはありません。


No.259 5点 極限推理コロシアム
矢野龍王
(2019/03/24 22:13登録)
一頃大流行した「デスゲームもの」の一種ですね。いかにも「メフィスト」っぽい。
閉ざされた空間で殺人事件が起こり、その犯人を名指しできなければ死、というお約束に加え、本作は「夏」と「冬」二つの館の対決という要素も含んでいます。ただこれは明らかに蛇足な(もしくは当時の作者の技量では持て余す)ギミックで、物語が「夏の館」にいる主人公だけの視点で進むため、「冬の館」の提示する情報の正否を全く判定出来ないというもどかしさを孕みます。
「だったらこちらもニセの情報を流そうぜ」となるのは必然で、本気でこの情報心理戦を描こうとしたら、紙幅がいくらあっても全然足りないでしょう(読むほうの頭の整理も全然追いつかなくなるでしょう)
結果最後、主人公による解決が結構棚ぼた的なラッキーにあやかったものなってしまうのは仕方がありません。


No.258 7点 慟哭
貫井徳郎
(2019/03/24 22:00登録)
作者は本作がデビュー作だとか。新人離れした文章と構成も、作者ののちの活躍を見れば納得出来ます。
恐ろしいことに、本作は鮎川哲也賞応募作で、受賞を逃したのだというではありませんか。昔は凄かったのですね(今が悪いというわけではありませんが。時代の流れというのもありますし)

ヒントも多く記述されているため、ミステリずれした読者ならば、結構早い段階で「仕掛け」を看破してしまうでしょう。ですが、途中で「仕掛け」を見破ったのだとしても、事件と主人公の行く末を見届けたいという思いが読者を突き動かすため、興が削がれるということはありません。
加えて本作は、ある意味「ラスト一行の衝撃」ものでもあります。「えー?」と思わず心の中で叫んでしまいました。


No.257 3点 絶望系
谷川流
(2019/03/21 16:13登録)
メルカトルさんの書評を読んで、びっくりしました。
なぜなら、私もつい最近、本書をブックオフで100円で購入したからです!
「敗北を知りたがっている最凶死刑囚」のようなシンクロニシティを感じたため、「積ん読本棚」の「しばらく読まないでいい」の段にしまっていたものを急遽引っ張り出し、予定を繰り上げて読み始めました。

まず最初に言っておきたいのは、こういう作品に「ミステリ」という惹句を付けて売り出すべきではないということです。私が入手した新潮文庫NEX版には、裏表紙にこう書かれています「"封印"された奇書。圧巻の暗黒ミステリ」と。
どういった理由で"封印"されたのか理由は分かりませんが、たぶん、つまらないからなのではないでしょうか。そして、この手の惹句が躍る作品として当然のように(?)ミステリ要素は非常に希薄です。

では、ライトノベルとしては面白いのか? と問われると、私はライトノベルをほとんど読まないので判断できませんが、一言だけ感想を述べさせていただくと、こういったものを読む層が実に好みそうな、「悪人は冷静で賢く、善人は感情的で馬鹿」を地でいくクライマックスはひどいです。本作の初刊行は平成十七年。こういった主題が(オタクたちの間で)もてはやされた時期だったのでしょうか(今もあまり変わってない?)
作者としては、本作は完全な黒歴史なのではないでしょうか。"封印"したままのほうがよかったかもしれません。


No.256 7点 お前の彼女は二階で茹で死に
白井智之
(2019/03/04 22:17登録)
白井智之作品は初めて読んだのですが……何だか凄いですね(笑)。
読み始めたすぐは、「ああー、これ系かー」と、ちょっとげんなりしかけたのですが、さにあらず。「見た目はゲテモノ、中身は本格」な意外な傑作でした。

~以下、ストーリーのネタバレ的なものがあります~


最後、何だかいい話に落ち着きかけて雲行きが怪しくなり、「おいおい。それはないだろ」と危惧したのですが、きっちり「後始末」をしてくれました。ですが、もう一人の主人公も殺すべきだったのではないでしょうか。最後にいいことをしたとはいえ、それ以前に彼も悪逆なことをしていて、復讐対象者以外の人間を殺したりもしていますからね。こちらを殺してあちらを許すという、さすがこんなぶっ飛んだ作品を書く作者は、倫理観も常人の理解の及ばない領域に突入しているのでしょうか。


No.255 6点 扉は閉ざされたまま
石持浅海
(2019/03/04 11:47登録)
純粋にミステリとしては結構楽しめました。
倒叙ものの緊張感は十分ですし、「ああ、それやっちゃったなぁ~」という、ミスに気がついたときの犯人との一体感(?)もうまく表現されていました。文章も読みやすく、すんなり頭に入ってきます。

~ここからネタバレがあります~


ただ、多くの評者の方が問題視しているように、私も犯人の動機には「?」となりました。
いざ、その段になったら病院に、「こいつ、危ない病気を持ってるかもしれませんよ」と被害者の行いを暴露するとともに、申告すればよかったのではないでしょうか。
もうひとつの不満点は、これも多くの評者の方の意見に同意なのですが、ラストの犯人の処遇ですね。「大義があってイケメンであれば殺人は肯定される」というメッセージなのかと思ってしまいます。
ラストに犯人が逃げ延びるというミステリは他にもありますが、その多くが、狡猾な犯人の頭脳に誰も追いつけなかったという、ある種犯人のアンチヒーロー的な魅力に支えられて成り立っているのに対し、本作はずさんな犯行を探偵に見破られたうえで、お目こぼしをもらっているのですから、そういった犯人側の魅力も一切ありません。ラノベの主人公みたいな探偵も含め、不快なバカップルという印象だけでした。


No.254 5点 プリズン・トリック
遠藤武文
(2019/03/01 22:59登録)
冒頭の交通刑務所のくだりが長く退屈で、ようやくそれが終わり事件が発生したかと思うと、視点人物がころころ変わっていき、読み難いったらありません。何度も「もういいや」と投げかけました。最後、そうする必要があったことは、まあ分かるのですが、それにしても視点になる人物が多すぎます。作者が初めて書いた小説だということを差っ引いても、これはひどいと思います。本作は公募作品なのですが、下読みはよくこれを我慢して読み切ったねと褒めてあげたいです。
とはいえ、全てが収斂していくラストは、なかなか良かったのではないでしょうか。我慢して読み切った努力が報われた感じです。
救われない終わり方なのですが、やっとこの本を読む作業から解放されるという安堵があったため、「まあ、どうでもいいや」と思ってしまい、それほど嫌悪感はありませんでした(笑)。作者はそこまで計算して、わざと読み難い文章を書いたのかもしれません。恐るべき策士ですね(多分違う)。


No.253 3点 オーパーツ 死を招く至宝
蒼井碧
(2019/02/05 23:37登録)
本作は、第16回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作なのですが(どうして先に書評を書いたお三方、誰もこれについて触れないの? 笑)、ちょっと、久しぶりに凄いものを読んでしまったという感想です。
これはいったい、どういった層に向けて書かれた(受賞させた)ものなのか。本気で「宝島社、大丈夫なのか?」と心配してしまう出来です。

「いまどき『名探偵コナン』でもこれはないやろ、工藤」と言いたくなる(ある意味)驚愕の物理トリックの数々。
全部にいちいち突っ込むのも疲れるので、ひとつだけ。
最終章のあれ、最大のもので、幅1メートル×奥行50センチ×高さ10メートル(!)これをいくつも立てられるものなら立ててみてほしい。地面が完全な水平を保ち、かつ、0.5m2(1m×0.5m=0.5m2)程度の面積で、最大10トン(1m×0.5m×10m×2(石の比重)=10トン)もの荷重に耐えられる地盤強度の確保も必須です。何とか頑張って立てられたとしても、そよ風が吹いただけで倒れます。しかも、それが連続であんな状態になっても、いくら睡眠薬を飲まされたとはいえ、まったく目を覚まさないとは。音だけでなく振動もとんでもないことになりますよ。しかもテキストや図解では、ただ倒れただけ、みたいな感じでしたが、材質が石なのであれば破壊や破断は免れないでしょう。作者は一度、ビルを解体している工事現場でも見に行ったらいいです。さらには、これらを立てるのに、フォークリフトを使ったとありますが、クレーンの間違いでは? フォークリフトって、荷揚げや荷下ろしに使うあれですよ。フォークリフトでこの仕事をするのは無理でしょう。
選考委員は誰もこういったことに突っ込まなかったのでしょうか? 私が狭量なだけなのでしょうか?

ひとつ擁護(?)するなら、作者は悪くありません。まだ若いようですし、文章はプロレベルには全然(sophiaさんの書評にもある通り、本当に情景が浮かびにくいです)ですが、これから十分上達する余地はあるでしょう。今回はとんでもない方向に弾が飛んでいってしまいましたが、「本格を書く」という狙いも伝わりました。悪いのは、こういった無垢(上記のトリックが実現可能と考えているだけで、このうえなく無垢です)な若者をたぶらかす大人です(選考委員も無垢なのか?)。
直近に中山七里の『作家刑事毒島』を読んでいただけに、本作の作者の行く末が本気で心配になります。


No.252 6点 首無館の殺人
月原渉
(2019/02/05 08:30登録)
確かにメルカトルさんが書いていらっしゃるように、事件の内容やスケールに比してテンポがよすぎるきらいがあります。ミステリは長ければいいというわけでは決してありませんが(逆に「その程度の事件でだらだらと長すぎだよ」感じる作品もありますので)、この作品で起きる事件の規模でしたら、もっとそれなりの重厚さ、じっくりと読ませる展開を用いるべきだったように思います。何だかダイジェストみたいな印象でした。
探偵の喋る、分かったんだか分からないんだか分からない(笑)煙幕みたいな逆説論議よりも、雰囲気作りにページを割くべきだったように思います。

そしてもうひとつ気になったのは、この手の作品でしたら館の見取り図は入れるべきではないでしょうか。そう複雑な構造でもないため、すぐに頭に思い描くことは可能ですが、それでも見取り図のあるなしでは、雰囲気が全然違ってきます。私は見取り図がないことを不審に思い、何かしらの大がかりな物理的トリックが仕掛けられているのかと思っていました。
とはいえ、メイントリックと、それを補完するある詐称が最後に見事に繋がり気持ちよく決まっていて、本格としては申し分ない出来映えでしょう。それだけに惜しい作品に映りました。


No.251 8点 作家刑事毒島
中山七里
(2019/02/03 14:27登録)
タイトルが表すとおり、全編「毒」にまみれた作品です。
作家志望の素人、編集者、新人作家、読者(ネットの書評サイトに酷評を投稿している人含む 笑)から、実写化を手掛けるテレビ局プロデューサー、脚本家まで、ありとあらゆる「文芸」に関わる人たちをことごとく斬り、読む人をも汚染していく毒です、この本は(笑)
これと同じものをそこらの作家が書いたら、「何だこれ」となるところですが、超人作家、中山七里が書くことで俄然、異常な迫力と具体的な説得力を得ることとなります。
この本を読めば、中山七里に限らず、コンスタントに作品を出し続けている職業作家たちが、いかに常人離れした怪物であるかが分かります。

正直、ミステリとしての部分だけを取り出すと特に見るべきものはありませんが(ミステリになっていない話もありますし)、描かれた出版業界の内幕があまりに面白すぎるので、この点数を献上せざるをえません。

あと、この本によれば、プロ作家はこういった書評サイトなど見ないそうです。ちょっと安心しました(笑)

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