home

ミステリの祭典

login
名探偵ジャパンさんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:370件

プロフィール| 書評

No.150 6点 青銅ドラゴンの密室
安萬純一
(2017/04/02 19:26登録)
島荘、二階堂黎人監修の本格ミステリシリーズということもあってか、いかにもこの二人が好きそうな作品です。
往年の島荘を彷彿とさせる大掛かりで大胆なトリックに、最後、ちょっとした仕掛けを施し、懐かしさの中に現代的な趣向を混ぜ合わせた作品に仕上がっています。
メイントリックについては、まあ、あれをひとりでやるのは(特に犯行後、装置に対して行う施工は)時間的にも無理だろうとは思いますが、そこのところも含めての「古き、良き(いや、全面的に肯定はできませんが)本格ミステリ」という味わいを持っています。


No.149 7点 虚無への供物
中井英夫
(2017/03/30 22:08登録)
「三大奇書」の一角を占めているという世評が、良くも悪くもフィルターになっている気がしました。良く言えば、「奇書というほど変ではない」ですし、悪く言うなら「奇書というには普通のミステリ」
とはいえ、本書の初出が1964年であるという歴史的価値を考えれば、現在感じる「普通」は、当時の読者の目には衝撃的に映ったことも想像できます。
三大奇書という看板、仰々しいタイトル、講談社文庫で上下巻というボリューム。それらから勝手に身構えてしまい、いったいどんな話が始まるんだ? とおっかなびっくりページを捲っていったのですが、読み進めるうちにごく普通のミステリということがわかり、拍子抜けとともに安心もしてしまった私は、やっぱり「普通」のミステリファンなんだなと思い直しました。


No.148 5点 蜜柑花子の栄光
市川哲也
(2017/03/20 19:41登録)
「名探偵の証明」シリーズ完結編。
限られた時間内に四つの事件を解決しなければ人質が殺される。というタイムサスペンス要素を盛り込んでいます。
「えっ? この分量(ハードカバーで約300ページ)で事件を四つ?」
の不安通り、各事件はどれもかなりの小振りさ。解決に至る道筋も何だか掛け足で、全体的に「4クールの予定が視聴率不振で3クールに短縮されたアニメ」みたいな忙しなさを感じました。
事件ひとつひとつを取ってみても、犯行もバクチなら、それを暴くほうの手段もバクチと、犯罪者側も探偵側もかなり荒っぽい力業が目立ちます。
本シリーズのテーマはそこ(ミステリ部分の本格さ)じゃない。とわかってはいるものの、「本格」(しかも、堂々の鮎川哲也賞受賞シリーズだ)を謳うのであれば、そこは力を入れてほしかったです。

このシリーズを読んできて思うのは、この作者、本格ミステリには向いてないんじゃないかな? ということです。一人称の軽快な語り口や、今風なキャラクターには引かれるものがあるので、ライトノベルに転向したらいいものが書けるのではないでしょうか。


No.147 7点 片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知淳
(2017/03/05 22:09登録)
ドルリー・レーンオマージュの片桐大三郎。本家同様、耳が聞こえないというハンデを、こちらは会話の内容を助手がタイプし、その文面が大三郎の持ち歩くタブレットに表示されるというテクノロジーでカバー。現代ならではの設定で面白いです。
明らかに三船敏郎がモデルの大三郎。運転手付きの(耳が聞こえないので当たり前ですが)高級外車に乗り、満員電車に乗った経験などない浮世離れした国民的大スター。引退後の道楽で始めた素人探偵ですが、卑劣な犯罪者を一喝し、残された遺族に温かい励ましの言葉をかけるなど、人情派な一面も見せ、気持ちの良いキャラクターに造形されています。

三章までは今流行りの一視点三人称の文体なのですが、最終章になって突然完全な一人称に変わります。「これは何かある」と怪しい匂いを感じはしたのですが、見事に騙されました。


No.146 7点 猫は聖夜に推理する-猫探偵正太郎の冒険 2-
柴田よしき
(2017/03/05 21:56登録)
前作から、人間視点のサスペンス編がちょっとパワーアップ、というか、ドロドロしてきています。猫視点のミステリ編のほのぼの感と、いいコントラストにはなっているのですが。
このシリーズの魅力は、相変わらず正太郎がかわいすぎるということに尽きます。同居人(飼い主ともいう)の肩に前脚と顎を乗せて一緒に買い物に出掛け、知り合いの犬猫と会話するところなど悶絶します(会話は近所で起きている犯罪についてのことで、決してかわいい内容ではないのだけれど)。


No.145 4点 迷宮 Labyrinth
倉阪鬼一郎
(2017/02/14 13:03登録)
「ホラー、ファンタジーだと思ったらミステリだった」と、その逆では、前者ほうが圧倒的に評価されます。というよりも、後者(ミステリだと思ったらホラー)を読まされた読者は、ほとんど例外なく「ふざけるな」と文句を言いたくなるのではないでしょうか。
ミステリの皮を被った何か別のもの。「ミステリの威を借るホラー」とでもいいましょうか。こういう試みは今後、業界全体で排除していかないと、読者の信用を失う一方だと思うのデス。


No.144 7点 猫探偵正太郎の冒険 1 -猫は密室でジャンプする-
柴田よしき
(2017/02/09 13:16登録)
猫や犬といったペットが飼い主(人間)の言葉を解する世界。売れないミステリ作家の飼い猫「正太郎」は、同居人(飼い主)の周囲で起こる怪事件を、猫ならではの視点で解決していく。
とは言っても、全てが猫視点で描かれているわけではありません。人間視点の話は、一風変わったサスペンス調。猫視点の話は、オーソドックスな本格、という形態を取っています。特に猫視点での話が面白く、内容自体は使い古されたトリックの羅列なのですが、猫や動物同士の会話や猫としてのものの見方を入れてくることで、ひときわ違った楽しさが生まれてきます。ありふれた素材でも、やりようによってはまだまだ面白くできるという好例でしょう。

飼い主のことを「同居人」とあくまで対等な表現をするなど、クールな正太郎がかわいすぎます。ですが、愛猫を失った少女の涙に打たれて犯人検挙を誓うなど、その行動はハードボイルドヒーローそのもの。

私自身が猫好きなため、甘めの点数となってしまったかもしれませんが、同じような猫好きの方にはきっと満足していただける作品と思います。


No.143 7点 イニシエーションラブ
乾くるみ
(2017/02/08 13:07登録)
「さあ、騙されるぞ」と意気込んで(?)何も考えずに読み進めたため、最後の二行を目にした瞬間は「お前、誰だよー?」と、驚きよりも戸惑いに支配されてしまいました。
その後、冷静になって「騙しの概要」は理解したものの、詳細な構造を求めて解説サイトへ。
いや、凄かったです。ここまで来ると、小説という形を借りたパズルです。
作品の舞台となっているのは、1980年代。現代を舞台にしては、このトリックは成立しません。「A面・B面」という構造が通用し、SNSなど当然ないため、他人の行動を知るには、実際に会うか、固定電話での会話のみ。その固定電話も、ナンバーディスプレイでもなければ(この時代、すでにあったでしょうか。そうであっても、主人公がサービスに入っていなかっただけでしょう)発信者を知ることも出来ない。こういった本作のトリックを成立させるために必要なものが全てそろっていたのが80年代後半。ミステリ的意味のある舞台年代設定。見事でした。


No.142 8点 夜歩く
横溝正史
(2017/01/23 12:25登録)
「らしからぬ」と言っては失礼ですが、意外なくらい「技巧」に走った一作と映りました。現代の作家が書いてもおかしくありません。
「あのトリック」を使う理由を、作中できちんと示しているというのも好感が持てます(ある一定のところまで、読者が読んでいたものが「事実をもとにした小説(作中作)」であるということを明かさないのは、フェアかそうでないか、意見が分かれるところでしょうけれど)。
「絶対に取り出せなかったはずの凶器」「一回りした首切りの論理」と、メイントリックの他にも見所は満載。
犯人が金田一のことを「ナメきっている」のも、読み終えてから思い返すと痛快です。


No.141 6点 名探偵はもういない
霧舎巧
(2017/01/20 18:56登録)
「どんな鍵でも絶対に開けられる能力を持つ人物」とか、ちょっと前の私なら、「ふざけんなよ」とあまりに都合のよい設定のキャラクターに憤っていたかもしれませんが、今はそんなことはありません。「特殊設定」のひとつと思ってしまえばよいのです。前もってそのことが明かされているのでフェアですし。
それよりも本作の問題点は、皆さん書かれている通り、「読前に上がりすぎるハードル」です。〈登場人物表が空欄で読者が書き込め〉〈あとがきはいいけれど、読者への挑戦は前もって見るな(あまり見る人はいないでしょうけれど)〉
「い、いったい何が始まるというんだ……?」
天高くそびえ立つハードルを前に、期待(と一抹の不安)は否応なく高まります。

読了した結果言いたいことは、「そのハードルいらなかっただろぉ!」
おかしなことさえしなければ、技巧を凝らしたなかなかの秀作という印象で終わっていたかもしれません。ある程度本格ミステリ、というか「あのキャラクター」を知っていることが前提で読ませる点は気になりましたが。(こういう「え? 常識でしょ? 〈あの人〉を知らないで本格読んでんの(笑)」みたいなスタンスは新規ファンを拒絶し、ジャンルの先細りを加速するだけだと思うのです)

普通に100メートル走を走ればいいところ、わざわざコース上にハードルを置いた作者のチャレンジ精神は、しかし、讃えられてもよいのではないでしょうか。


No.140 7点 シャドウ
道尾秀介
(2017/01/19 09:39登録)
伏線とミスリードを巧みにばらまいた秀逸なサスペンスです。
読者を誤認と勘違いの海に叩き込む作者の手腕は非常に秀逸で、まるで詐欺師のようです(褒めてる)。
メインキャラクターの子供が、小学生にしては確かにあまりにしっかりしすぎていると思いはしますが、ここで変にリアルな小学生っぽく描いてしまうとストーリーの流れに支障が出てしまうため、作者は分かっていながらこうしたのでしょう。
私は、サスペンスは作者の「騙しの技量」を素直に楽しむジャンルだと思っていますので、優れた構成の作品であれば、リアリティの問題は十分カバーできると考えており、本作はそれを達していると思います。
この手のサスペンスにありがちな、インパクトだけを狙ったような陰惨なバッドエンドや、「読者に委ねる」という名の投げっぱなしに逃げず、すっきりとしたハッピーエンドに着地させたことも好印象でした。


No.139 5点 カラット探偵事務所の事件簿①
乾くるみ
(2017/01/17 15:20登録)
「日常の謎」で「暗号もの」という、私が苦手とする二大要素がタッグを組んだ短編が二編も掲載されており、「ううむ」と思いました。(じゃあ読むなよ。と言われそうですが)
最後に明かされる「謎」も、それが明かされることによって作品の見方がガラリと変わるといった(歌野晶午の「葉桜の季節に~」のような)こともなく、後付け感が否めません。
やっぱり私は「日常の謎」が苦手だと再認識しただけに終わりましたが、こういった「やさしいミステリ」(謎解きの難易度という意味ではなく、作風として)の需要は確実にあり、その範疇でいえば本作は間違いなく良作でしょう。好みの問題です。


No.138 7点 幻惑密室
西澤保彦
(2017/01/16 22:45登録)
「超能力」に規定を与えてロジカルに扱い、本格ミステリのガジェットの一部に取り込んだ意欲作です。今でこそ目新しくもなく思えますが、初出版の1998年としは出色な設定だったのではないでしょうか。
超能力を使って何が出来るのか、何が出来ないのか。をはっきりさせているため、超能力といえど、「便利な道具」扱いとして本格ミステリの推理に組み込むことに成功しています。
死体移動のトリック(真相)が、この作品ならではの理由で面白かったです。
本作に関わらず、このシリーズには登場人物のジェンダー感に関わる心証描写が多く、初読当時は「何これ?」と戸惑ったものでしたが、「小説家森奈津子の華麗なる事件簿」(実業之日本社文庫)のあとがきを読んだあとですと、何か思うものがあります。

この「チョーモンインシリーズ」完結していないのですね(2017年1月現在)。シリーズの刊行が途絶えたことで私もすっかり追いかけるのを忘れていました。(シリーズおなじみのかわいいイラストを描かれていた水玉螢之丞さんは2014年に逝去していますね)
ラストに関わる伏線を仕込んだ話なども書いており、それらから、かなり陰惨な結末が待っているような雰囲気だったのですが、シリーズのどれかのあとがきで「必ずハッピーエンドになります」と作者が約束していたはずです。シリーズ最後の「ソフトタッチ・オペレーション」が刊行されたのがもう10年前の2006年ですね。ここまで期間が空いたら完結は絶望的でしょう。魅力的なキャラクターぞろいのシリーズのため残念に思います。


No.137 5点 空想探偵と密室メイカー
天祢涼
(2017/01/16 17:35登録)
蟷螂の斧さんの指摘のように、視点の問題で混乱しました。視点人物がころころ変わるのはいいのですが、視点人物の一人称かのような記述なのに、地の文でその視点人物の名前が出てくる(その一瞬だけ三人称のような記述になる)ことに馴染めませんでした。(素人が書いたネット小説ではなく、プロの編集の目を通しているはずの商業小説で使われていることから、これは確立された手法なのでしょう。私の感性が時代に追いついていないだけです)
メインの密室トリックは多重解決なのですが、フェイクトリックの「それはないでしょ感」と残りページ数から、「これはフェイクだな」とあっさり分かってしまいます。
犯行動機も、ここまでくると「本格ミステリ」ではなく「サイコスリラー」の領域で、斬新ではありますが、ここでも私は馴染めませんでした。
ミステリの名探偵を呼び出す(幻視する)という「仮面ライダーディケイド」みたいな能力が面白く、この線をもっと推して欲しかったです。せっかくタイトルに「空想探偵」と入っているのですから。


No.136 7点 煙か土か食い物
舞城王太郎
(2017/01/12 22:25登録)
いきなり「匣にみっしりと詰まった」ような改行なしの数ページが続きます。一人称で語られる軽快な文体もこれでは疾走できず、「渋滞に巻き込まれたスポーツカー」のようです。が、徐々に渋滞は緩和していきフルスロットル。気が付く頃には引き込まれ、「ひとっ走り付き合えよ」状態になりました。
他の多くの方の書評にあるように、ミステリとしての面白みはなく、本サイトの分類が「その他」になっていることも頷けます。
読む前は「どんだけ尖った作品なんだろう」と怖々読み始めたのですが、最後は家族愛、医は仁道、みたいなテーマが浮き彫りにされ、拍子抜けというか意外に思いました。本当はやさしい優等生が、ナメられないように不良ぶっている。という印象でしょうか。タイトルの意味も「なるほど」と思わされます。


No.135 7点 闇に香る嘘
下村敦史
(2017/01/11 13:38登録)
テーマ性のある骨太の社会派。私が苦手としているジャンルという評判もあり、なかなか手が出なかったのですが、機会があって読んでみました。
上記の言に間違いはないのですが、そのテーマと取り扱った舞台が、後半の本格ミステリ的展開にぴたりと嵌り、このトリックを使うために必要なものだったのかと(もしかしたら、このテーマと舞台に見合うトリックをあとから考え出たと、順番が逆なのかもしれませんが)納得しました。
最初のとっつきは悪いのですが、一旦読み始めたらノンストップでした。真相が明かされたときの最後の反転(まさに反転!)にも唸らされ、考えさせられます。


No.134 5点 本格ミステリ館焼失
早見江堂
(2017/01/07 19:42登録)
これ、途中の枠で囲まれているところ(200ページ近く)は、探偵役の人物が「ずっと喋っていた」ってことでしょう? 凄すぎ。黙って聞いていた依頼人も凄すぎ。
『本格ミステリ館焼失』まさに、「本格ミステリ? トリックとか考えるの面倒くせぇー!」と頭に来た作者が、途中まで考えていた「本格ミステリ作品」のプロットを焼き尽くしてしまったかのような投げやり感がありました。
「まさか!」と思ってみたら、やはり本作もメフィスト賞出身……


No.133 7点 暗黒館の殺人
綾辻行人
(2017/01/07 19:33登録)
ようやく再読しました。
改めて文庫本四冊を机に積み上げてみて、「やっぱりやめようかな」という思いが一瞬頭をよぎりましたが、「ええい、ままよ」と一巻を手にとってページをめくりました。
程よく(?)内容を忘れていたおかげで、流し読みしてもよいところと、「あっ、ここは詳しく読んでおこう」という箇所を敏感に嗅ぎ分け、再読にも関わらず思いのほか楽しんで読めました。
解説でも同じようなことが書かれていましたが、本作は小説という形をとった、「主人公(中也くん)視点のテキストアドベンチャーゲーム」のようなものです。ゲームでも二回目のプレイでは、「テキスト早送り」を駆使しますから。

ミステリとしては、犯人の犯行動機が面白かったです。サイコが入っていて、本格としてはちょっとギリギリな気がしますが、異様な動機をミステリ的材料と考えると、犯人が双子を殺そうとする理由が特に好みです。犯人にとっては、殺害動機が論理的に生まれています。そりゃ、殺したく(殺してあげたく)なるよね。
「館シリーズ」おなじみの「抜け穴問題」もあります。「二つの抜け穴の存在。どちらも知っていたのは誰か?」回答が出かかっていたところに、また問題を混乱させる双子の秘密。彼女たちは文句なく本作のMVPでしょう。

再読を前にしても圧倒される分量でしたが、結局読み続けさせてしまうのは、綾辻の間違いのない筆力あってのものでしょう。改めて偉大さを感じ入りました。


No.132 6点 星読島に星は流れた
久住四季
(2016/12/26 10:50登録)
「トリックスターズ」の作者、一般作品も書いていたのですね。
隕石とそれにまつわる蘊蓄をトリックに絡ませ、他にはない意外な動機とそれにまつわる殺人事件を完成させました。舞台の根本に関わる設定を偶然やオカルトに落とし込まず、犯人の思惑に直結させたのは見事だったのではないでしょうか。

ただ、まだライトノベルの癖が抜けていないのでしょうか。主人公が「妻と娘を亡くした三十半ばの男」にどうしても見えません。誰に対してもタメ口で無愛想。でも周囲の美女、美少女にはモテモテ。そしてそれを「やれやれ」と鬱陶しそうにする。高校二年生のラノベ主人公以外の何ものでもありません。「未成年がタバコを吸ってはいけませんよ」と注意したくなります。


No.131 8点 りら荘事件
鮎川哲也
(2016/12/09 12:13登録)
次々に殺人が起き、どんどん容疑者が少なくなっていく展開は、「これ、どう始末をつけるんだ?」と読者が心配するレベル。
山荘が舞台とはいえ、外部から頻繁に人が出入りし、警察も捜査を行えるという、ゆるい館。
舞台が整うまでは、ちょっと今の感性ではついていけない学生たちのあれやこれやで退屈に感じますが、ひとたび事件が起きたらもう、ジェットコースターです。
登場人物が多いですが、覚える暇もなく、いや、覚える必要のないくらいにどんどん死んでいくので問題ないです。この作品のキャラクターは、死に方とトランプの絵柄で覚えましょう。
そして最後に名探偵星影龍三が暴き出す、「もう、とにかくやばくなったら殺せ」主義で重ね尽くされた連続殺人の真相は、驚きと納得の連続です。これだけミステリが氾濫した現代に読んでも「これはやるなあ」と思うのですから、本作が初刊行された当初に読んだ読者は、さぞ驚いたのではないでしょうか。
歴史的価値だけじゃない。現代にも十分通用する、早すぎた本格の傑作です。

370中の書評を表示しています 221 - 240