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平均点:6.50点 | 書評数:162件 |
No.82 | 7点 | しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 泡坂妻夫 |
(2014/03/20 19:50登録) 巷で話題の「しあわせの書」。泡坂氏によって仕掛けられた「あるトリック」が見事だった。この手の遊び心はミステリファンでなくとも楽しめる。 次元の違うメイントリックはさておき、書評を見てみると本筋の内容はあまり面白くないという意見が多いようだが、私はその点も満足している。この設定でこれだけの内容をかける作家は、泡坂氏をおいてほかにいないだろう。確かに展開が歪なところもあるが、クライマックスは事件の真相に驚かされっぱなしだった。(ところで、最重要人物だと予想していた桂葉華聖が、途中ほとんど登場しなかったのは残念。) 一つ残念だったのことは、「妖術」で登場人物たちの動きにあった滑らかさが失われてしまったことか。やはり、ヨギガンジーは短編向きの探偵だ。 |
No.81 | 7点 | 招かれざる客たちのビュッフェ クリスチアナ・ブランド |
(2014/03/18 10:35登録) 有名な「ジェミニー・クリケット事件」やコックリル警部ものを収録した豪華短編集。どれも本格とブラックユーモアの独特な味わいがあった。 コックリル警部が登場する四編は、どれもクライマックスのどんでん返しが効いている。中でも「事件のあとに」と「婚姻飛翔」は本格ミステリの楽しさがあって気に入った。 不可解な状況での密室殺人を描く「ジェミニー・クリケット事件」は、謎解きの醍醐味が味わえるものの期待ほどではなかった。ブラックユーモアは中途半端であったうえ、密室トリックは使い古された手だ。確かによく出来ていて名作ではあるのだが、もう一撃欲しいところではある。個人的には「スコットランドの姪」のような作品の方が好きだ。こちらは袋小路で起こる盗難事件という設定を、最大限活かした結末になっている。 ブラックユーモアものでは「この家に祝福あれ」が良かった。ある夫婦に、子供を産むための納屋を貸した老婆が妄想に走っていく怪奇性。それに現実という一撃が加えられ、ブラックすぎる結末に至る。傑作と呼ぶにふさわしい作品だ。 |
No.80 | 7点 | ハサミ男 殊能将之 |
(2014/03/07 17:48登録) まず、本作は予備知識なしで読むのがベストであり、これから予備知識なしで読みたい方は感想なんて見ないことをお勧めする。 (ネタバレはなし)シリアルキラーが自らの模倣犯を追うという本作だが、そのトリックのうちいくつかはすぐに気付いてしまった。この手法も発表以降十年ほどでかなり模倣されている。しかし、「ハサミ男」の破壊力はすさまじく、最後まで飽きさせなかった。作者の伏線を確認しながら読める、というのもあるがそれだけではない。もっと大きな企てがあちこちで進行していたのだ。そして、再読してみると……文章に秘められた深い闇がみえてしまう。 主人公である「ハサミ男」、皮肉屋で引用癖のある「医師」、どこか読者の目を引く堀之内、事件に翻弄される磯部…人物の関係図がよく出来ている。ちょくちょく出てくる薀蓄は冗長に感じる人も多いだろうが、一応これも重要な点。少なくとも、本作においてはこれにも目を通しておくべきである。 読み終えてみると、やはりこれはサイコサスペンスだな、と思った。結局、ハサミ男の総てが分かったとは言えない。内容が荒削りではあるが、強烈な印象が残った。 (追記)映画「ハサミ男」の方も見てみたが、原作を愚弄している。映像化でトリックを成り立たせるために内容まで改変し、もはや修復不可能の域にまで破壊してしまった。演出も失敗といっていい。やはり紙の本でしか成り立たない設定だ。 |
No.79 | 3点 | 山手線探偵2 七尾与史 |
(2014/03/06 22:33登録) やまたんシリーズ第二作。相変わらず山手線を舞台に霧村、シホ、ミキミキの三人が謎解きに奔走する。今回は初恋の想い人捜しから、スリーピングマーダーを解決。 今回は冗長だった印象。第一、伏線の一つもない無駄話が多すぎる。時代考証無視の「学童疎開」回想シーンはまだしも、ミキミキの執事シーンもメイドカフェのくだりも関係ないじゃないか!果たして「やまたんの偽物」の話も演出になったかどうか…。そして、真相も予想はつく。あれだけ思わせぶりに伏線を振りまいていれば、わかるはずだ。 さらには、山手線沿線薀蓄と本編が完全に分離し、次回作ではどうなることやら。というより3が出たとしても読むかどうかわからない。本作最大の功労者は見事にボケを連発したボギー少年だろう。そして、著者の地元愛に感服。 |
No.78 | 4点 | 山手線探偵 七尾与史 |
(2014/03/06 22:18登録) 山手線を事務所にする探偵の霧村雨、小学生助手の道山シホ、自称ミステリ作家のミキミキこと三木幹夫の三人が難事件に挑むシリーズ第一作。通称「やまたん」。 山手線で起こった痴漢冤罪から始まり、過去に起こったある事件の真相を暴いていくストーリー。一見「日常の謎」のような雰囲気ではあるが、人もちゃんと死ぬ。ただ、ミステリとしての意外性を追求してはいけない作品。伏線回収は著者の持ち味が出てよかったが…登場人物たちのボケはそれなりに笑えたから良しとしよう。 ところで、真相が案外ブラックなのはどうなんだろうか。 |
No.77 | 6点 | ヨギ ガンジーの妖術 泡坂妻夫 |
(2014/03/05 17:27登録) 近頃話題の「ヨギ ガンジー」シリーズ最初の短編集。謎のヨガ使い、ヨギ ガンジーが妖術と奇術を使ってインチキ超能力を見破っていく。ネタとしては地味だが中々笑える。 トリックがよく出来ているのは「帰りた銀杏」や「蘭と幽霊」。奇術のネタが元となっているため、真相は肩すかしだったりするがそれにしても完成度は高い。ちょっとした伏線、怪奇性の提示、そしてガンジーの解決。ヨガ探偵の個性が光る。 また、心理トリックを使った「釈尊と悪魔」などは「亜愛一郎」的な部分があって、本作の趣旨から外れている気もするが名作には違いない。 他にも、ガンジーらしさが堪能できる「ヨギ ガンジーの予言」などミステリとしてはそれほどではないにしろ、構成やストーリーの上手さ、さらには泡坂的ユーモアが目立つ連作短編集だ。早速、未読の「しあわせの書」を読まねば。 |
No.76 | 6点 | スペイン岬の秘密 エラリイ・クイーン |
(2014/03/05 17:09登録) 全裸で発見された男の死体を巡る、国名シリーズ第九作にして本国での最終巻。 本作の見どころは何といってもエラリーの「全裸講義」だろう。被害者はなぜ全裸であったのか?この部分が本作の鍵である。しかし、真相を導くこの論理にも疑問点があるように思う。ネタバレは避けるつもりだが、これ以上の論理は本格ミステリにとっての限界なのだろうか。 また、中盤の展開の必然性がつかめない。というより、あれが真相ならもっと序盤に解決するべきだったのでは?その点がいささか冗長である。ミステリとしてはもう一工夫欲しいところではあった。 一方、特徴的な登場人物たちの活躍が面白い。鋭い観察力を持つティラーや老齢のマクリン判事、さらには手ごわい悪役等々。ストーリーとしては結構面白かった。 |
No.75 | 8点 | 樽 F・W・クロフツ |
(2014/03/05 16:37登録) 古典的名作として名高い本作。そのアリバイ崩しや、事件経過は「タルい」ともいわれるが、個人的には最後まで飽きずに読めてよかった。ついこの前に創元で新訳が出たが、早川の方で読了。 ロンドンで発見された樽詰めの死体を巡り、二人の刑事が捜査を行う第一部、第二部は捜査の繰り返しではあるが、その展開が読者を惹きつける。(バーンリー警部とルファルジュ警部はよく似ているように思うが、これは著者の書き分けが足りないのかそういう設定なのか。)一方、第三部では新たな探偵が登場して有力容疑者から犯人を導き出す。手がかりの配置や、犯人のよく出来た計画には脱帽させられた。 ただ、ミステリとしては少し残念な点もある。アリバイトリックはそこまで革新的なものでもないし、結末の意外性もない。長々と読ませられた割にこれで終わり?という思いにもなる。この手の犯罪は、結局見破られてしまうわけだ。 純粋に面白いミステリとは言えないが、名作であることは間違いがないし、マニア必読の書であることもまた事実だろう。 |
No.74 | 7点 | ギリシャ棺の秘密 エラリイ・クイーン |
(2014/02/18 19:11登録) 美術商ゲオルグ・ハルキスの棺から発見された死体を巡って、若きエラリー・クイーンと真犯人が一騎打ちするシリーズ第四作。 読んでみるとやはり長い。本作の特性上やむを得ないのだが、それにしてもエラリーの引用癖が全開で、冗長な部分がある。せめて、伏線にでもなっていれば…。そして、装飾過剰な点が本作の特徴であるのもまた事実である。 一方で、「ローマ」「フランス」「オランダ」を経て最終形態に達した論理は気合が入っている。捜査と推理の掛け合いが見事で、この点は引き込まれる。また、本作は一見、複雑で異色に思えるが、読み終わって全体を見渡してみると実に単純である。エラリーの最初の事件にふさわしい作品だといえる。 ストーリーの点では、冒頭の遺言書紛失と死体発見のあたりが一番面白く感じられたが、その部分の真相は大したことなかったため少し残念。途中で出てくるダ・ヴィンチの絵に関しては、先日「協会の壁の裏側に、未発見の絵があるらしい」というニュースを耳にして、作中での解説もあって余計混乱してしまった。それにしても、エラリーの「あれ」は徹底しすぎ。 |
No.73 | 6点 | ベンスン殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2014/02/15 10:36登録) 記念すべきヴァン・ダインと名探偵ファイロ・ヴァンスのデビュー作。「物的証拠」の否定と心理による真相究明や、本編とは何の関係もない薀蓄が独創的。 事件自体が地味な割に、文章が長ったらしく二転三転するため、読むのには時間がかかった。しかし、ペダントリーもこの程度ならまだいい方で、(個人的には)それなりに楽しめる。 犯人の特定は登場人物の描写に妙な偏りがなく、それなりに良かった。多重解決に近いくらいに、容疑者の検証と否定を繰り返すストーリーだけにその真相はスッキリしないが、一応伏線は回収したか。 全体的には黄金期の本格らしい作風で、ミステリとしては小粒ながらそれなりに面白かった。ヴァンスのセリフ(どうやらあのしゃべり方は天然らしいが…)にも、なかなか考えさせられるところがあり手を抜かずにつくられている。ところで、本来ワトソン役のはずの「S・S・ヴァン・ダイン」本人の描写がほとんどなく、その場にいないように錯覚してしまう点は気になる。 |
No.72 | 6点 | 『クロック城』殺人事件 北山猛邦 |
(2014/02/09 14:06登録) 過去、現在、未来を指し示す三つの大時計を有する「クロック城」で行われる不可能殺人と世界の終幕を描く。メフィスト賞受賞作。 世界の終わりという設定や、人面樹、壁に浮き出た顔などの毒々しい設定はそれなりの効果があったように思える。実に著者らしい世界観で、デビュー作においてもその個性が良く出ている。しかし、その設定がストーリーにつながらず、蛇足となっているのは残念。消化不良は命取りとなる。 そして本題の、不可能殺人。ノベルス版で袋とじにされたメイントリックは、「衝撃」とまではいかないがオリジナリティがあって良かった。また、首切りのホワイも傑作。ただ、ここまで来ると内容の複雑さにトリックが埋もれてしまうように思う。 また、結末にも疑問が残る。解決編以降はストーリーの展開が混沌として、明快な結末といえるかどうか微妙。北山作品の特徴でもあるがこの部分は好き嫌いが分かれるだろう。ただし、本格ミステリとしてはかなり気合が入っている。 ところで、通常時計の「4」の文字は「Ⅳ」ではなく「Ⅰ」を四つ並べた「IIII」ではないだろうか。 |
No.71 | 7点 | 火刑法廷 ジョン・ディクスン・カー |
(2014/02/07 17:53登録) カーの最高傑作として名高い「火刑法廷」。女毒殺魔のブランヴィリエ伯爵夫人をテーマに、不可能犯罪と怪奇的な結末を描いている。 着想は素晴らしい。全体像のつかめない恐怖に困惑する主人公の心境の変化や、極めて現実的、かつ冷酷な警察の捜査。それにしても、自分の結婚相手の過去の犯罪を疑っていくミステリは比較的多い。個人的にはクリスティの某作品が好きだが…。 肝心の二つの消失トリックは、目立ったものではなくその論理的な解決を楽しむべきだと思う。この点に関しては「不可能が可能になる」ことが醍醐味だからだ。しかし、肩すかしを感じないでもない。 そして結末。どんでん返しというよりは、純粋な演出だととらえた。それに本格としては詰めが甘い気もする。傑作であることに間違いは何のだが、読者である自分がこの本の謎に飲み込まれてしまうような奇妙な読後感だ。 結論は、本作からカーに入るべきではない、という事。作品自身の灰汁が強すぎる。そういう自分も「三つの棺」から入ったのは失敗だった気がしている。 |
No.70 | 7点 | エジプト十字架の秘密 エラリイ・クイーン |
(2014/02/03 13:08登録) 首を切断され、磔にされた死体を巡ってエラリーが奔走する国名シリーズ第五作。シリーズ最高傑作として人気も高い。 本作の売りは、何といってもアメリカを縦横無尽に飛び回るエラリーと犯人の頭脳戦。ただし、連続殺人がテーマとなるため捜査パートが長くアクションが必ずしもメインではない。一方、肝心の論理は小粒ながら見事で、満足感があった。登場人物もそこそこ多いが、それぞれの書き分けが上手くて面白い。エジプト古代宗教の狂信者や怪しげなイギリス人夫婦、医者に富豪に教授など。ストーリーに勢いがある。 「エジプト十字架の秘密」とは何か?この疑問も(今となっては有名すぎるパターンとなってしまったが)論理的な結論が出されている。それだけに、あの一行の印象は強い。 残念だったのはダミーの証拠が散乱していて、あらゆる伏線が回収される快感が味わえなかったこと。確かに、一応あれやこれも必要な要素ではあったのだが…。 |
No.69 | 6点 | ボーン・コレクター ジェフリー・ディーヴァー |
(2014/01/28 19:33登録) リンカーン・ライムのシリーズ第一作。ニューヨークを舞台に謎に包まれた猟奇殺人鬼を追う。しかし、証拠の分析を抜擢されたリンカーン・ライムは四肢麻痺で寝たきりの状態なのだった。 内容は殺人事件と鑑識捜査、ライムによる証拠検証の繰り返しといっていい。「ボーン・コレクター」との心理戦やサックス巡査のアクションがサスペンスとしての見どころだが、一方で見事に伏線を回収した結末も見事である。 証拠の分類は専門的な分野で、中々地味だがそこは意外にも飽きずに読むことが出来た。なかなか細部までこだわって描写されている。 欠点は、ところどころにイベントを発生させて読者を飽きさせないようにしているものの、上巻の中盤以降はマンネリ化している点。また、結末に大きな工夫がない点も残念である。従って、ストーリーの目新しさはさほどなかった。 他にもいくつか腑に落ちない点はあるが、全体としては面白かったので、満足している。本作以降の作品も読んでいきたい。 |
No.68 | 6点 | ダンガンロンパ霧切2 北山猛邦 |
(2014/01/26 13:04登録) シリーズ第二巻。廃墟となったノーマンズ・ホテルに集められた霧切たちは、次なる黒の挑戦、「探偵オークション」に挑む。 ページ数も前作の二倍ほどになり、登場人物も増加、いよいよ本格的になってきた。本作は作中で描かれる「探偵オークション」とホテルで発生した殺人の二つが見どころ。さらには登場人物たちそれぞれの思惑もあり、かなり複雑化している。メイントリックではストレートな物理トリックが使われ、ファンとしても期待通りだった。 しかし、本来綿密にたてられているはずの犯行計画が思いのほか杜撰であり、結末も少し強引なものになっている。まさしくこれが三巻への伏線だと考えられるのだが、果たして今後、「探偵図書館」と「犯罪被害者救済委員会」はどうなるのだろうか。また、ストーリーの特性上、特殊ルールが膨大で面倒である。やはり、詳しい評価をするには三巻を待つほかない。 |
No.67 | 6点 | 完全犯罪に猫は何匹必要か? 東川篤哉 |
(2014/01/23 19:29登録) 招き猫に三毛猫と、猫ネタを中心にいかがわしい殺人の犯人を追う烏賊川市シリーズ三作目。相変わらず独創的な作品だ。 メイントリック自体はあれだけ伏線がはられていたのと、作者の書き方に慣れてきたために大体わかった。ところで、どうでもいいことだが、そのトリックの前例は、鵜飼が指摘したやつより有名なのがあるだろ…。そのほかの特徴は、相変わらずの伏線とボケをシャッフルした文章で、味噌汁の謎などはその境地。でもこれは気に入らなかった。いくらなんでも安直ではないか。 最後の方に出てくる三毛猫のネタは知っていたのでさほど驚きはなかった。複雑にしている割に単純な話である。結局猫を主題にしたことに、必然性はあったのだろうか。内容は面白いけれど、標準レベル。 |
No.66 | 7点 | 殺人交叉点 フレッド・カサック |
(2014/01/23 19:23登録) 中編「殺人交叉点」と「連鎖反応」を収録。 表題作は「最後の一撃」が見事に決まる名作だった。原書ではフランス語の形容なども含めてさらに緻密な伏線が仕組まれているらしいが、日本語でも十分楽しめる。何より心理作戦がうまい。フェアな本格ではないがサスペンスとして大満足。壮絶なラストは一見の価値あり。ところでタイトルの真意は何だろう。あと、作中の大学生のグループは動機の温床すぎる気がした。 「連鎖反応」も皮肉なブラックジョークが利いていて、伏線回収がうまい。まさに「連鎖」。謎の語り手が友人の殺人計画について読者にかたりかけてくる異色さが何とも言えない。あえて疑問を言うとするならば、観光協会の組織像だろう。縦のつながりが強すぎて、横のつながりが弱いように思う。どっちにしろ現代の複雑化した会社組織では起こりえないはずだ。 ところで、両編ともソメ警部なる人物が登場したが、いったい彼は何者だろうか。イマイチ人物がつかめなかった。 |
No.65 | 8点 | 毒入りチョコレート事件 アントニイ・バークリー |
(2014/01/18 18:24登録) 「犯罪研究会」の6人の会員たちが実際に起こった「毒入りチョコレート事件」の推理対決を行う≪理論的推理小説≫。なんといっても目玉は各々の会員たちの白熱した推理討論だが、自分は推理自体よりそのキャラクターに興味をひかれた。様々な社会地位の(作家がやたらと多いことは否めないが…)個性的な登場人物たちが繰り広げる、珍妙な推理や議論は社会の縮図といっても過言ではない。 また、意味深長なラストも含めて、野次馬精神丸出しの「ミステリ」に対する皮肉が見える。犯人の設定もしかり。この流れがアンチ・ミステリ的な展開を生み出したのかと思うと面白い。 推理の点は、証拠が読者に正しく提示されていないうえ、各々が数多くの証拠を無視しているために評価しづらい。一応事件には決着がついたように理解したが、合点がいかないところもいくつか。ただ、中々重量感があってミステリ好きならそれなりに楽しめると思う。(ところで、この作品の前に書かれた姉妹篇の「偶然の審判」は読んだことがあるはずだが、ほとんど忘れてしまった。残念。) |
No.64 | 5点 | シャム双子の秘密 エラリイ・クイーン |
(2014/01/16 19:18登録) 国名シリーズでは珍しい、山火事で脱出不可能になった山荘での事件。冒頭からその雰囲気は良く出ていて、どこか「Yの悲劇」を思わせるが、推理の方はもっぱらダイイングメッセージで物的証拠の組み合わせなどはない。ただ、この手のミステリで、ここまでき壮絶な終わり方は珍しいんじゃないだろうか。さすがに「骸骨」はひどいだろ、と思ったり。そこが気にいった。 しかし、論理が中途半端でいくつか不満も残った。詳しくは下に。 以下ネタバレ気味。 多重解決のような構成をとっているうえ、物的証拠がほとんどないなら、最終的にエラリーが出した答えが正しいとは一概に言えないのでは?伏線も少なかったし、少し物足りない。それにトランプにあれだけしっかりと指紋が残っているなら対処のしようもあると思うのだが…。 自分の好きなクイーンらしさが出ていないような気がしてならない。評価は好き嫌いで大きく分かれるはずだ。 |
No.63 | 7点 | フランス白粉の秘密 エラリイ・クイーン |
(2014/01/13 13:03登録) 「国名シリーズ」二作目。デパートを舞台に不可解な事件をエラリー・クイーンが捜査する。犯人や事件に関しての意外性はそれほどでもないが、あらゆる物的証拠から犯人像を絞り込んでいくクイーンらしさがでている。 しかし、50ページにわたる解決編はいささか強引な個所や詭弁が数多く見られ完成度が低い。地味な警察の捜査でも犯人がつかめそうで、エラリーが「手がかりはこんなところにあったのか!」と豪語した割に、「フランス白粉」の論理が大したことなかったのはがっかり。物語としても、全編が手がかりになっていて起伏がない。 それでも、作中で本人たちが「ヤマ勘」だと認めているし、初期クイーンの犯人当てとしては楽しめるので満足。エラリウス・ビブリオフィルスが活躍する珍しい機会でもある。 |