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ミステリの祭典

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ミステリ初心者さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:388件

プロフィール| 書評

No.308 5点 九尾の猫
エラリイ・クイーン
(2022/05/13 19:12登録)
ネタバレをしております。

 正直に言うと、かなり相性の悪い本でした。
 まず、非常に退屈で読みづらい文章でした。興味がそそられず、ページが進むのも遅かったです。500ページ近くありますが、250ページぐらいに収めてほしいぐらいです(笑)。
 主人公エラリー・クイーンがあることで自嘲的というか、自己卑下がしつこくて、煩わしかったです(涙)。

 推理小説的要素は、もっとガッカリなものでした。
 読みづらい文章を我慢して読んでいて、ラストのどんでん返しがコレ…? 国名シリーズのようなロジカルな要素もなく、不可能犯罪もなく、意外な犯人がいるかと思えばミステリ好き100人中98人が予想するような犯人…。この作品の良いところがわかりません。アガサ・クリスティーならミスリードに使うような犯人で、さらにどんでん返しがあるでしょうね(笑)。

 エラリー・クイーンの作品ということで期待値が上がりすぎてしまったようです。ただ、最後のエラリーを激励?する博士のセリフは良かったです。


No.307 6点 密室の鎮魂歌
岸田るり子
(2022/04/29 19:26登録)
ネタバレをしております。

 タイトルにある通り、密室ものです。3つの密室が登場し、豪華(?)です。
 物語は、基本的には麻美が主人公の文章で進みます。ちょっと自己肯定感の少なめなキャラクターで、いろいろな苦悩が書かれており、すこし読みづらさも感じました。麻美の心情が良く書かれているかと思いきや、高木のや一条の死体に対するリアクションは淡泊な印象をもちました(私だけかもしれませんが)。
 また、真相が明かされると、殺人者たちの汚い部分が細かく書かれております(笑)。

 推理小説的な要素について。
 密室が3つ。あとは、意外な犯人とその真相。5年前の事件と、現在の2つの事件では全員犯人が違うという複雑な物語でした。

 密室について。
 3つの密室がありましたが、最初の1つは拍子抜けするというか、あまりにも古典的というか、古典的過ぎてわからなかったぐらいです(笑)。
 2つ目の密室が最も凝っていて、私もわからなかったですし、面白くも感じました。密室の外から死体を動かすのは前例がありますが、キャスター付きの椅子を利用するのは盲点でした。ただ、小説のように成功するかはちょっと疑問ですね。
 3つ目の密室は、頭パープリンな私には理解できませんでした(笑)。どうやったんですかコレ? 解説が無いようなのですが?

 総じて、ストーリーや殺人者が殺人を犯すに至るまでを細かく書かれていて、かつその伏線もよく張られていたと思います。タイトルに密室とつけるにはやや力不足な密室という感じは否めませんが、邪道ではない密室なので好感が持てました。


No.306 7点 魍魎の匣
京極夏彦
(2022/04/23 00:38登録)
ネタバレをしております。

 純粋な本格推理小説というよりかは、広義でのミステリーです。ホラーとして読んだ方が楽しめると思います。
 戦後の雰囲気、妖怪や宗教や占い霊能力の話、カナコ殺人未遂事件にバラバラ殺人事件、カナコ消失、木場の恋(?)、久保の狂気…長さに見合った、濃厚な作品でした。京極堂のいう通り、推理小説的には一本の事件でもなく一人の犯人でもありません。しかし、それぞれの要素がうまく物語に絡んでおり、よくまとまった印象なのは素晴らしいです。
 また、個人的には、姑獲鳥の夏にくらべて読み易さが向上した印象があります。これは原因がよくわかりませんが、姑獲鳥の夏は鬱ぎみの関口による主観文章が大半であり、すこし暗かったように思えましたが、それに対し今作は鳥口や榎木津など明るくて面白いキャラクターの出番も多かったせいかもしれません。

 推理小説的要素について。
 大きなトリックや論理的犯人当てはありません。カナコの消失トリックも、さんざん伏線があったので、発想自体は気づきました。ただ、あそこまで大幅に取り除かれていたとはまったく予想できませんでしたが…(涙)。
 消失トリック自体よりも、美馬坂のしていたこと自体がおぞましく感じられ(そう感じること自体が間違っているかもしれませんが)、ホラーの感じが強いです。久保の狂気や、手術をして箱に入ったときの主観文章は、どこか乱歩の有名作品と同じような気持ち悪さを感じてしまいました。カナコのこともあり、後味が悪い作品ではありますね(涙)。

 そういえば、雨宮はどうなったのでしょうね…?

 総じて、推理小説的要素に関しては薄いですが、ホラーとしてみた場合は厚みがある作品でした。トリック自体よりも、それを利用した物語の組み立てが素晴らしく、姑獲鳥の夏よりもさらにオリジナリティも感じました。
 ホラー作品は推理小説的技術の評価がしづらいので、話の面白さや個性で点を上下させようと思いますが、なかなか良かったので7点としました。


No.305 6点 あなたは嘘を見抜けない
菅原和也
(2022/04/02 18:42登録)
ネタバレをしております。

 二人の視点を交互に繰り返して物語が進みます。孤島の廃墟に出かけた恋人を失って、恋人は本当に事故で亡くなったのか、殺されたのかを調べる青年高辻。一方、映画を製作するために孤島の廃墟に出かけたグループの一人の青年亮太です。
 恋人を失った青年は、突発的に殺人してしまう描写があります。ちょっと衝撃的ですが、それ以降はクローズドサークルも相まって、非常に読みやすい本です。読了まですぐでした。

 推理小説的部分について。
 孤島に出かけたメンバーがハンドルネームで呼び合います。こうなると、やはり、高辻が追う孤島の事件と亮太が体験している事件は別物と考えますよね(笑)。ただ、あまり深く考えずに読んだせいで、私は本のトリックである"高辻から見て過去の事件と思いきや、未来の事件"という時間の認識をずらす叙述トリック的仕掛けを見破れませんでした。わたしは嘘を見抜くべきだった(笑)。よくよく考えれば、ヒントも結構あったかと思います。
 また、それとは別に、亮太が体験する密室殺人事件が起こります。少なくとも、私は前例を見たことがない密室だったため、この点では満足しました! ただ、死体に痕跡は残らないものですかね…? そうでなくても、やや知識がいる謎となっているのはマイナスですね。ミキが○っさくと呟いたのは、吉作落としですね! 蔦かなにかをロープにして崖を降りるのですが、蔦の収縮がおこってロープが短くなり、崖に取り残れる恐怖の話ですね…(涙)。

 総じて、テンポがよく読みやすい本であり、最近よくある叙述トリック1本の小説とは違って密室殺人も用意してある良い本でした。ただ、叙述トリックも密室の謎も、佳作にはもうひと踏ん張り欲しかったところでした(笑)。


No.304 7点 妖魔の森の家
ジョン・ディクスン・カー
(2022/03/31 23:22登録)
ネタバレをしております。

・妖魔の森の家
 短めですが、推理小説に必要なものがつまっており、大変質が高かったです。
 カーらしいミスリードとどんでん返しが楽しめますね。犯人の行動がやや手際が良すぎたり、本当にばれずにできるのか?という疑問はありますが、それでも良い作品でした。
 ラストのHM卿のセリフは、すこしだけホラー感もありましたね。

・軽率だった野盗
 殺人現場が不可解で面白いです。犯人にとって不幸な偶然が重なっているものの、合理的な解決だとおもいました。

・ある密室
 結局、犯人の意図しない密室であり、やや知識が必要であり、被害者が嘘を言ってしまっている(勘違いだが)のがマイナスでした。

・赤いカツラが手がかり
 これも非常に不可解な状況で、狂気的な感じもありました。
 偶然に偶然が重なっており、推理は難しいですが、意外な犯人もあって面白かったです。

・第三の銃弾
 全推理小説を見ても、これほど不可解な状況はめったにみられません(笑)。しかし、不可解であればあるほど、やはり解決に無理が生じますね。
 容疑者の男の証言が嘘であれば、なるほど謎は解けますが、読者にとっては謎を謎のままにしてほしかったところですね(笑)。
 共犯者の存在も少し残念でした。

 総じて、全体的に、冒頭から面白い不可解な状況を楽しめる中短編集でした。カーらしく、その解決は偶然や証言者の嘘などが多く、推理は難しいものになりますが、短編ならばそれほどこだわらなくてもよいかな?と思いました。


No.303 6点 ドッペルゲンガー宮「あかずの扉」研究会流氷館へ
霧舎巧
(2022/03/14 00:41登録)
ネタバレをしています。また、アガサ・クリスティーのそして誰もいなくなったのネタも割れてしまう可能性があります。

 非常に凝った作品です。
 あかずの扉メンバーはキャラクターが立っていて、清涼感?があります。そのメンバーが事件に巻き込まれることになります。あかずの扉メンバーの一人がクローズドサークルと化した館に行くことになりますが、ほとんどが主人公二本松カケルの視点で書かれているので、クローズドサークル内の情報が電話でのやり取りとクローズドサークルでの事件が起こっている館とそっくりな館になります(主人公の方でも死体があるので、無関係ではないが)。
 また、かなりの文量が犯人の犯行に至るまでの説明に費やされており、犯人の背景をよく知りたい、こだわりたい人には最適です。
 メンバーに何かしらの恋愛要素があり、それでいて爽やかな印象があるのもよかったです。

 推理小説の部分について。
 クローズドサークル内の文章が乏しく、クローズドサークルならではのサスペンス感は楽しめません。しかし、テンポはそれほど悪くなく、非常に丁寧に書かれていたため、個人的には悪くなかったです。
 そして誰もいなくなったを読んだ読者に向けた(?)であろうミスリードもよかったです。
 大掛かりな館の仕掛けがありましたが、それもうまくストーリーに落とし込んでいると思います。
 一方で、ちりばめられた謎の多さと、その解決の細かさから、非常に難易度が高くなってしまっています。後動のような推理ができた読者は何人いたのでしょうか(私が頭パープリンということもありますが)。犯人当てとして読んだならば、どこまで読んだらいいかわからず、やはり読者への挑戦状が欲しいところでした。

 総じて、読みやすい文章と本格愛を感じる、佳作な推理小説でした。細かい謎が多すぎて、私は解こうと思えないような戦意喪失感を味わってしまいましたが、頭の良い人ならば合うかもしれません。


No.302 6点 忌名の如き贄るもの
三津田信三
(2022/02/24 18:42登録)
ネタバレをしています。

 待ちに待った刀城言耶シリーズ新作長編です!
 相変わらず戦後の時代と民俗学の合わさった良い雰囲気です。ただ、今回はいろいろな難しい用語が多く、刀城言耶シリーズにしては意外なほどページが進まず、読了まですこし時間がかかりました。特に、場所を表す言葉がおおく、位置関係を頭の中で想像するのが大変でした。そのため、地図が欲しかったところです。

 推理小説的要素について。
 解決編前まで読み、既読の方からヒントをもらいながらあれこれ妄想しつつ推理しました。ヒントがなければとても真相にたどり着けないような、ものすごい数の伏線とミスリードでしたね(笑)。それを存分に活かした意外な犯人は、シリーズ屈指とも言えます。
 今作一番の良い点といえば、犯人のその意外な動機です。なぜ市糸郎はころされたのか? 葬式がしたかったからだとは、なかなかに狂っていますね。それを推理するためには、尼耳家が村八分にあっていることを理解しなければならないのですが、ここには読者・探偵共に与えられていない情報が隠されていましたね。すこしだけ叙述トリックのような香りのする仕掛けですね。
 村八分・葬式といった、本シリーズと相性の良い要素を、動機に絡めたところが、本作で一番気に入っております。

 以下、難癖部分。
 トリックは遠隔殺人。ヒントは出ておりましたが、尼耳家の人間がほぼ全員アリバイがないため、推理は難しいものになるでしょう(笑)。このトリック、遠隔殺人系で超有名作品にほぼ同様のものがあり、オリジナリティーという点では評価できません。凶器の処理について滝を利用するアイディアは見事でしたが、有名作品には他にも遠隔殺人があり厚みでは全く敵っていません。
 また、これは本シリーズでもお決まりのパターンですが、証言者がかなり信頼できません。今回は視力が悪いとのことなので、ある程度は予想した居ましたが。証言者がミスリードにしかならないのは、カーも一緒ですね(笑)。

 総じて。
 アリバイトリックや論理的な犯人当てを期待すると、すこし期待外れな感じがあります。刀城言耶シリーズは多重解決が売りの一つでもありますので、論理的な犯人当てができないことを許容するとしても、犯人のトリックが小粒すぎるのはいただけません。
 しかし、ガチガチの本格推理小説ではない、一冊の本としてみるならば、非常に面白い本であることは確かです。私はアリバイトリックと犯人当てが好きなので点数は低めですが、良い作品なことは確かです。


No.301 7点 双蛇密室
早坂吝
(2022/02/11 23:16登録)
ネタバレをしております。

 明るい作風、読みやすさ、高い本格度が楽しめるシリーズです。今回もまたそうでした。かなり速く読了しました。また、シリーズすべてに言えることですが、一見ギャグやエロなど不要に思える要素も、最終的に推理小説として組み込まれており、技量が高いと思います。

 タイトルの通り、テーマは蛇と密室。2つの大きな密室事件が起こります。
 1つはビルからビルへ飛ぶトビヘビを使ったアクロバティックな密室です。が、これはあまり好みではありません(笑)。犯人が狙い通りに犯行を行った密室であり、よりフェアではあるのですが、ややバカミスな香りもします(笑)。
 もう1つ、足跡とプレハブ小屋の二重の密室がメインだと思います。もっと詳しく書くと、黒太郎はいかにして死んだのか?という問題がメインです。そんな可能性があったとは…全く予想していない展開に度肝を抜かれました。とはいえ、ヒントはちりばめられていました。推理ではなくメタ的な考えではありますが、この作者の書く小説に妊婦・アナフィラキシーショックが登場するならば、もっとよく考えるべきでした…。唯一、難癖をつけるならば、偶然の要素が非常に多く、犯人の狙い通りではなかった密室殺人だったことですね(それもヒントがありますが)。

 総じて、今回も読みやすく、また思考の盲点を突くようなどんでん返しが見られ、満足しました。途中、多重解決のような、らいちの偽解決がありますが、ちゃんとその否定を論理的にできる点はポイントが高いです。


No.300 7点 マスグレイヴ館の島
柄刀一
(2022/02/07 17:02登録)
ネタバレをしております。

 ページ数が多く厚いですが、内容も非常に濃厚な本でした。シャーロックホームズの物語の矛盾点と考察の話だったり、宝探し的話だったり、犯人の足跡がない殺人、島での不可解な死体…。
 実は、私はシャーロックホームズを読んだことが無いので、あまりよくわからなかったのですが(笑)。ちょっと杜撰な書かれ方をしているようですが、あえて矛盾点がないような館の構造を考える話はなかなか面白かったです。
 また、主人公格の一人、慶子の一人称?文章の"あなた"と読者を名指ししているかのような表現や、読者ではなく慶子への挑戦状など、ひと手間加えられた要素もありました。

 推理小説部分について。
 大きく分けて2つあると思います。1つは孤島の不可解な死体3人。もう一つは岬館における足跡のない殺人。
 孤島の死体については、非常にダイナミックなことが行われております。結末は、泡坂作品を思わせましたね(笑)。館ものとしては満足なのですが、ややヒント不足というか、知識が必要な気がしたりして、個人的にはいまいちでした。私は、ちょっと前に、水を使った推理小説を読んだため、解決編前の水門の話が出たときは嫌な予感がしました(笑)。論理的なことは全く分からなかったですが、おおむね想像通りでした(笑)
 岬館の足跡のない殺人について。私はページ数の多さから、読み返して考察することを怠ったのですが、この殺人については考察するべきだったかもしれません。この小説のなかでは一番良い殺人でした。足跡のない問題を存分に楽しむことができ、またそれができた人間はひとりであり、そして意外でもあります。事件の全体像を把握することにもつながります。素晴らしい出来でした。

 総じて、雰囲気・ダイナミックな館ものらしい事件・論理的に解けるアリバイトリック・アクセントにわずかな叙述トリック的な仕掛け・爽やかなラストと、高い水準でバランスが取れていた作品でした。ホームズを知らない私にとっては、序盤もう少し短くなると良いのですが、ホームズファンの人にとってはまた良い点になるのでしょうね。
 6点か7点かで悩みましたが、甘めの7点にしてみました。


No.299 6点 兄の殺人者
D・M・ディヴァイン
(2022/01/23 09:50登録)
ネタバレをしています。

 この作者の推理小説は3冊程度読んだ経験があり、どれも端正な本格でした。なので、高評価作品を買いました(笑)。

 この作品もよくできていました。
 殺された兄の殺人者の究明、兄の恐喝者としての過去への疑問、知り合いの女性の無実の証明などを目的とした主人公の話です。
 兄の過去と犯人の動機探し・アリバイ検証など、淡々と事件を追っていくだけではありません。彼と別居している妻や、その父、主人公の兄の妻など、いろいろな人間模様もあり、ストーリーもしっかりしていて、読者を飽きさせない工夫が凝らされています。とはいっても、私は少し読むのに苦労しましが(笑)。
 ほのかな恋愛要素もあり、主人公にとって救いのあるラストなのもいいですね。

 推理小説部分について。
 アリバイトリック・意外な犯人とドンデン返しが楽しめる作品です。
 犯人の過去が明かされたとき、今まで疑問があったことや、伏線が一気に回収されるところは、流石アガサ・クリスティーが褒める作品だけありました。

 難癖部分について。
 意外な犯人系ではあるのですが、それほど読者を騙すのに成功しているとは思えません。推理小説を読む人ならば、ストーリー前~中盤に浮上する怪しい人物は犯人ではないと察するのですが、私もそうでした(笑)。ファーガソンが犯人ではないのなら、真犯人の目星はなんとなくついてしまいます。ファーガソンの娘だったとはわかりませんでしたが(笑)。しかし、これはフェアさゆえのことかもしれません。
 あと、アリバイトリック自体は、それほど独創性のあるものではありません。この点ではややガッカリ感はありました…。

 総じて。
 丁寧に書かれている推理小説です。ただ、7~8点をつける作品よりかは、もう少しとがった部分が欲しいです。


No.298 6点 五覚堂の殺人~Burning Ship~
周木律
(2022/01/14 01:27登録)
ネタバレをしています。

 変人っぽい数学者の十和田、十和田に連続殺人事件の問題を提供する(?)神、十和田に振り回されがちな警察宮司、その妹百合子と、前作までにメインキャラクターがそろった感じがあります。
 前作に比べ、十和田のウザい変人感がやや薄まった印象があり、さらに読みやすく読了までに時間がかかりませんでした。
 シリーズを通して、館に仕掛けがあり、ダイナミックな密室トリックが楽しめます! さらに今回は連続殺人であり、密室が2つあり、前作よりもさらにボリュームが上がっております。
 また、密室の仕掛けが明かされた後、それを条件に組み込んだ端正な犯人当てがあったのはよかったです。私は盲目の登場人物がいることを全く予想できませんでしたが、仮にそれが推理できなくても犯人にたどり着き得るという点が素晴らしいですね。

 難癖点。
 登場人物があっさり死んでしまい、クローズドサークルながらあまり緊張感はありませんでした。途中で十和田と神がビデオを見て考察するページが多かったため、事件の渦中にいる人物の心情を書くページが削られたためだと思います。読みやすさとテンポはよかったですが、ここだけ残念です。
 スポンジを使った密室や、館自体が大きく動く仕掛けの密室は、全く推理できませんでした。ただ、あれは本当にうまくいくのでしょうか? また、うまくいったとしても、それを推理するのは、知識がいるのではないでしょうか(私が頭パープリンなだけでしょうか?)。私にはあまり魅力を感じませんでした…が、館ものとしては、満足です(笑)

 総じて、読みやすさ・館ものとクローズドサークルの雰囲気・密室・犯人当てと、バランスがよい作品であり、ここまで3作読んだ中ではベストです。


No.297 6点 オーデュボンの祈り
伊坂幸太郎
(2022/01/08 00:39登録)
ネタバレをしています。

 これは私が読んだことのないジャンルの本です。ミステリ的ではないので、評価が難しいです。
 ファンタジーのような、SFのような、童話のような…。ただ、物語全体的に、なんとなく寂しいような雰囲気があり、好みを言えば、もうすこし物語の起伏が欲しかったかもしれません。
 読後感は爽やかで、非常に良いものでした。また、文章に癖がなく、すいすい読むことができました。

 不満点はあまりないのですが、静香のサックスを聴いた島民の様子が見たかった!


No.296 7点 安達ヶ原の鬼密室
歌野晶午
(2021/12/27 19:21登録)
ネタバレをしています。

 歌野さんの作品は、一貫して文章が読みやすいです。この本も、読了までにさほど時間がかかりませんでした。
 1つの長編の扱いかと思いますが、4つの事件(物語)に共通のトリック?が用いられており、1つ解けると大体が芋づる式に解けてゆきます(笑)。連作短編(中編)の趣がありました。

 推理小説的要素について。

 絵本風のナノレンジャーの話から始まります。この話は、最後の最後で種明かしされますが、それまでに3つの事件が解決さえれたあとなので、ナノレンジャー自体は伏線として使われている気がします。
 ところで、髭のおにいさんは、どうやって井戸から水を出すのでしょうかね? サイフォンの原理?は、たしかより低い位置にしか水を運べませんよね? ポンプなどを使うのでしょうかね。

 次に、メキシコ海岸の切り裂き魔の事件が始まります。タイトルとあまりにかけ離れた場面設定に面食らいました(笑)。
 これも最後らへんに解決編があります。実は、まったくわかりませんでした(笑)。アメリカのハリケーンは、それほどまでに強力なのですね。
 アメリカでは台風に人名をつけることを利用した叙述トリックが使われております。面白い試みですが、この話全体的には、ちょっと長すぎた印象があります。

 158ページまでいくと、安達ケ原の鬼密室がはじまります。
 戦中の日本の時代の物語であり、主人公が少年で、奇妙な館の奇妙な老婆がいて、少年が鬼を何度か目撃し、現地の子供は鬼の唄を歌い、老婆が客を殺す伝説?があり、アメリカ兵が迷い込んできたり…。非常にいろいろな妄想を掻き立てられる要素が多く存在し、わくわくしながら読みました。雰囲気が三津田信三さんの刀城言耶シリーズのようで最高でした。
 密室殺人事件が起こった際に、私は中庭がプール化することに気づいたのですが、伏線は多かったため、フェアだからだと思います。河瀬が気づかないのはちょっと疑問ですが、河瀬は鬼や霊魂の存在を強く信じているからですかね。
 ただ、細かい部分では不満があります。事故死が多いんですよね…。個人的には、殺意を持った犯人がトリックを使って殺人するほうが好きです。
 途中、現代の話になり、そこでまた一つ事件が起こります。その解決で全体の"水によって運ばれる"という要素がばらされているので、細かい部分以外では実質の解決編といえるかもしれません。それ以外にはあまり印象に残りませんでした(笑)。

 総じて、なかなか凝っている、良い作品だと思いました。安達ケ原の鬼密室パートが特によかったです。館もの・密室もの・パニックホラーとしても悪くなかったと思いました。
 蛇足ですが、この作品で年間50冊読破達成しました(多分)!! 私は読むのが遅いうえ、筋トレ熱が上がってきているので、過去2年よりきつかったです(笑)。


No.295 7点 モルグ街の殺人・黄金虫 -ポー短編集Ⅱ ミステリ編-
エドガー・アラン・ポー
(2021/12/17 00:38登録)
ネタバレをしております。

 ミステリ好きを自称するなら読んでおかねばならないとおもい、購入しました(笑)。解釈が難しい話もありましたが、レベルの高い短編集だと思いました。

・モルグ街の殺人
 ミステリを好んで読んでいると、一度はネタバレされてしまう超有名作品ですね。世界最古のミステリとする説もあるそうですが、最古とは思えないほどの驚きの展開で、むしろ現代にこそありそうなネタですね!

・盗まれた手紙
 これも有名作品ですね。ただ、やっぱり警部は本当に見つけられないのかなと疑問に思ってしまいます(笑)

・群衆の人
 解釈が難しい話でした。RPGゲームで、重要なNPCだと思いきや、モブだった時のような感じでしょうか(笑)。この人は孤独恐怖症なのでしょうか?

・おまえが犯人だ
 さすがに展開は読めましたが、ラストは衝撃の追い詰め方でしたね。精密検査などが無い時代?なのか、自白でないといけなかったのでしょうかね。

・ホップフロッグ
 トリペッタにワインをかけられた瞬間、すさまじい怒り?で歯ぎしりをして、その怒りを抑え込み、王様を殺す仮面舞踏会のネタを提供する姿が、どことなくクールに思えます(?)。道化師というところがいいですね。
破滅的なエンドかと思いきや、逃げおおせたのですね(笑)。

・黄金虫
 意味ありげな不気味な虫、黄金虫が重要か…と思いきや、それを包む紙が重要とは(笑)。暗号物は読んでいてすごいなと思う反面、自分には解けるわけがないと謎を放棄してしまいます(笑)。

 amazonなどの評価を見ると、どうやら訳が良くないみたいですね…そういえば、なんだか意味がつかみづらいこともありました(笑)。


No.294 6点 スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ
森川智喜
(2021/12/10 01:15登録)
ネタバレをしています。

 本格ミステリ大賞作品ということで、期待しながら買いました(笑)。
 非常に明るい作風で、どちらかというとライトノベル的なノリもあります。テンポもよく、鏡のおかげでママエが推理放棄して速攻で解決します(笑)。テンポについては良い面と悪い面があると思うのですが(笑)。

 推理小説部分について。
 1話目の教師の話はマジックなのでアレですが、自転車を盗まれた少女の話はなかなかに面白かったです。意図的にではないにしろ、友人と一緒にいたことを話から省いてしまって、読者とママエとイングラムすべて情報が足りていない叙述トリックのような(そうじゃないような(笑))感じがしました。私は、 運動嫌いなのにスポーツショップに行くのが少しだけ引っ掛かりましたが、体育で使うなにかを買うのだろう…とスルーしてしまいました(笑)。それが悔しかったです。
 中盤から、頭のいい本物の探偵である、三途川と緋山が加わって頭脳戦が繰り広げられます。依頼人夫人の危機だったとはいえ、ママエがまた答えだけ聞いた論理性のないことを言ってしまい、窮地になります(笑)。
 終盤にはいると、后があらわれ、敵側に鏡を使った攻撃が始まります。三途川は頭の良さを自負しているだけあり、鏡の使い方が天才的です。誰の声でも偽装できるし、強力な爆弾にもなるとは思いつきませんでした。

 不満点。
 あまり読者に解き明かそうとはさせてない本です(笑)。どこか、頭のいい登場人物の推理バトルをながめているだけの感覚に陥ります(笑)。面白かったから良いのですが…。三途川の犯行をあらかじめ読者に提供し、それがなぜ成功しなかったかを推理する倒叙形式なら楽しめましたが、結局は三途川の作戦が失敗したのは運が無かったから(緋山が偶然ママエのところにくる・あほな后がべらべらしゃべる・偶然覚醒が間に合った緋山が鏡を壊す)であり、ミスが無いと倒叙形式も論理的には楽しめませんね。

 皆さんの書評やアマゾンレビューを拝見したところ、三途川が殺人計画を鏡に聞けばよいという意見がありました。なるほど!その通りですね(笑)。小説にはなりませんが、なぜか私は思いつきませんでした(笑)。しかし、鏡によるシュミレートは100%ただしい未来を映すわけでないですし、三途川がミスしたわけではありませんしね。鏡の指示通りであっても失敗する確率もあるわけです(ある…よな…?)


No.293 7点 陰獣
江戸川乱歩
(2021/12/04 01:20登録)
ネタバレをしています。また、私の読んだ本には短編の蟲も入っていたので、そちらのネタバレもしています。

 乱歩のなかでも、かなり高評価作品だったので、期待して読みました。期待通りの素晴らしい作品だと思います。
 異常な平田と大江春泥の手紙の恐怖にはじまり、少しずつ被害者小山田六郎や静子の異常性が明らかになっていき、私こと寒川も異常になっていき、登場人物の多くがどこかしらおかしさがありました。ラストもあえて真相は謎にしておくことでホラー感が増しております。罪悪感系ホラーみもありますね。
 推理小説としては、読者に様々な妄想をさせるようなミスリードや、静子=大江春泥説への伏線があり、丁寧に作られています。登場人物の少なさから、静子=大江春泥説を思いつく読者は多いでしょうが、それでも楽しめると思います。
 総じて、ミステリホラーの教科書のような作品だと思いました。

 次に、同時収録されていた蟲についてです。
 こちらはミステリ味の少ない、どちらかといえばホラーです。私はそれほど乱歩をよく知っているわけではありませんが、蟲のほうが私の中の乱歩が書くイメージでした(笑)。
 主人公・柾木はただ静かに暮らしたい、厭人癖があったけど善良な人物だったのに、恋によって徐々に狂ってストーカーと化していくのがなんとも恐ろしいです。殺人を犯してから、死体をどうにか腐らせないように苦心する描写にぞっとします。
 私は、柾木が死体いじりをしだしたときに、「そうか、死体が腐ってウジ虫が沸くエンドだな!タイトルの蟲はウジ虫のことだったんだ!」と思っていましたが、まったくそんなことはありませんでした(笑)。wikiによると、死体を腐らせる微生物のようです。


No.292 6点 白銀荘の殺人鬼
愛川晶
(2021/11/28 19:15登録)
ネタバレをしています。

 シリーズ初作のKillerXは読了しております。軽く調べてみますと、この白銀荘~を最初に読むのがいいと書かれていたので、今回は本作を購入しました。
 文章は本格度が高く、かなり読みやすかったです。読了までに時間がかかりませんでした。
 主人公格の人物が三重人格であり、ほぼストーリーの主観の文が美奈子という女性の人格です。美奈子による倒叙形式のミステリのような感じでした。さらに、美奈子が意識を失い、他の人格に支配されているときは読者からは何が行われているのかがわからず、美奈子の人格が再び起こった時にはまた新たな殺人が起こっています。美奈子は殺人者でもあり、他の人格が起こした殺人を推理するものでもあるという、非常に奇妙な状況が個性的です。
 文章の相性が良かったのか、すいすいよめたのですが、若干不快な描写がありました。

 推理小説部分について。
 黒岩が露骨に女性っぽいし、最後まで生き残っている。晴代の人格が現れている?ときには主観の美奈子は認知できない。こうなると、推理小説のお約束そして、美奈子が殺した描写がない部分は黒岩が殺人を犯している…というところはまあ予想しました(笑)。ただ、黒岩の性別詐称の推理小説的な狙いと、カオリンの首無し死体の意味、そして序盤の弁護士岩室とその部下の存在がいまいち私の中でつながってこなくて、真相を当てる事ができませんでした(涙)。


 難癖点。
・一人二役系にもかかわらず、カオリンと黒岩どちらも見ている人物がいます。主人公もいれて2人でしょうか? 大幅な変装をしていないと思うし、黒岩の行動が成功するとは思えません。
・美奈子の人格が消えるとき、都合よく黒岩が殺人を犯すというタイミングができすぎている。これは、ドンデン返しを構成するうえでは仕方ないことですが。
・真相を当てられてない私で恐縮なのですが、本作全体的に個性的な部分が足りてはないと思います。たしかに三重人格が主人公というのは面白い趣向でしたが、黒岩の性別詐称と二人一役は珍しくありませんね。

 ちょっとわからないことなのですが、結局灯油を抜いたり、死体を掘り起こしたりしていたのは晴代なのでしょうか? 最後の文章からは、案外順一の人格も現われていて、メモを書いていたようですが…殺人鬼が二人という文は、いろいろ察していたのでしょうか?


No.291 5点 そしてミランダを殺す
ピーター・スワンソン
(2021/11/22 20:09登録)
ネタバレをしています。

 4人程度の主観の人物の文章からなる、倒叙形式のようなミステリです。個人的には非常に非常に読みづらく、申し訳ないですが退屈でした。
 はじめは、妻の浮気を目撃したテッドが、偶然であった女性と殺人計画をする話でした。ここまではなかなか面白みがある展開だったのですが、その後は大きなイベントが起きず、平坦な物語が続きます。私は、こういう2時間ドラマ的で本格度が低い作品の大抵は叙述トリックドンデン返し系統と思い込んでおり、本来なら注意深く文章を読み、伏線とミスリードを予想する必要があると思っているのですが、あまりの文章との相性の悪さに、斜め読みをしてしまいました…。まあ、それほど大きな伏線もなかった気がしますので逆に良かったです(涙)。
 200pもの退屈さに耐えると、テッドがやっと殺されて物語が大きく動きます。ここでやっと面白くなってきたのですが、頭がよさそうなミランダが考えた?計画は杜撰で面白くないし、そのミランダもすぐに死んでしまいました…リリーとの頭脳戦の展開ならわくわくしたのですが(笑)。
 リリーと警察のキンボールが主観の物語になってから、また退屈な文章になっていき、最後の驚きの展開を期待して、気合で読んでいきました(笑)。ラストは2点程度面白い展開もありましたが、買ったときについてきた帯に書かれた文章の"最低でも3回の驚愕を保証!"はあまりにも大げさに書かれ過ぎています。

 総じて、キャラクターたちの心情や背景を楽しめる人にはお勧めかもしれませんが、本格推理小説好きからしたらあまり良いところごない…という感想です。ファンの方には申し訳ないのですが、前評判から期待値を上げ過ぎた私も悪かったかもしれません。


No.290 5点 双孔堂の殺人~Double Torus~
周木律
(2021/11/10 17:07登録)
ネタバレをしています。

 癖の強い数学者、十和田が探偵の館系のシリーズです。前作がなかなか面白かったので買いました(笑)。
 今回もクローズドサークル…ではあるのですが、事件が起こるのは1度で、2人いっぺんに殺されています。途中、鳥居が失踪する事件も起きますが、どちらかというとクローズドサークルのわくわく感は薄いです。
 探偵である十和田が自白し、逮捕されるという衝撃の展開で、文章の主人公格は警察である宮司になります。十和田は安楽椅子探偵なのですが、意味の分からない(笑)難しい数学の話をして宮司をイライラさせています。そういう変人感をだせるのは安楽椅子探偵で正解だと思います。
 私には難しすぎる数学の話?が多いですが、それ以外は読みやすい文章であり、読了まで時間はかかりませんでした。

 推理小説部分について。
 館ものらしい大規模な仕掛けは、館ものが好きな読者にとっては垂涎です。これは本当に気が付かれないのかな…?という疑問は残りますが(笑)。宮司のエレベータに乗った時の描写は怪しいので、いろいろ考察しましたが、真相を当てる事ができませんでした(笑)。

 全体的には、本格推理小説のツボを押さえた作品であり、安心感があります。しかし、館もの特有の謎としては小粒であり(当てられなかったから恐縮ですが)、長くて難しい数学の話をのぞいてしまえば、短編~中編ぐらいに収まりそうな内容の薄さを感じました。佳作にはもう一歩足りない印象です。


No.289 6点 アルモニカ・ディアボリカ
皆川博子
(2021/11/02 20:04登録)
ネタバレをしています。また、前作のネタバレにもなってしまっています。

 前作からの続編となっています。ただ、過去の話も多いのです。

 前作よりもすこし読みづらさを感じました。
 登場人物が結構多いです(笑)。現在の事件、エスターの過去事件とアルモニカ・ディアボリカについて、ナイジェルの過去についてと、大きく3つあります。共通している登場人物も多いですが、人物の総数自体も多く、読むのに苦労します。
 また、前作の登場人物だったナイジェルが死んでしまったことで、ダニエル先生やその元弟子たちが少し暗い感じになってしまい、またナイジェルとエスターの過去の話もやや悲惨で、読み進めるのに苦労しました。

 推理小説部分はというと、それほど本格色は強くなく、ミステリというよりかはミステリ的要素を含む小説のような感じです。過去話と現在の登場人物の認識をずらすことは珍しくないです。前作もそう独創的なトリックというわけではなかったのですが、物語の舞台設定とトリックがマッチしていて素晴らしかったです。しかし、本作はナイジェルの過去話が主になっているような印象で、前作より本格色はおとなしめになったと思います。

 総じて、読みやすさやキャラクターが活き活きとしていた感じも、推理小説としても、前作よりやや落ちてしまったと感じました。

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