メインテーマは殺人 ダニエル・ホーソーンシリーズ |
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作家 | アンソニー・ホロヴィッツ |
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出版日 | 2019年09月 |
平均点 | 6.70点 |
書評数 | 10人 |
No.10 | 6点 | ミステリ初心者 | |
(2023/04/19 20:11登録) ネタバレをしております。 前にカササギ殺人事件を読んだことがあり、評判も良さそうなのでこちらを買いました! 今回は、作者が作者役ででているというユニークさがありました。エラリー・クリーンも、法月綸太郎も、有栖川有栖も、二階堂黎人も、作者名=探偵役やワトスン役なのですが、小説用に用意された架空のキャラクターでした。しかし、メインテーマは殺人では、アンソニー・ホロヴィッツがアンソニー・ホロヴィッツとして出てくるようですw この作品に出てくる映画や小説の話も、一部本当のことっぽいですねw もちろん、おそらくホーソーンや事件については架空でしょうがw 一方で、アンソニー・ホロヴィッツ自身の話や、己を語らないホーソーンなど、少し読みづらさを感じてしまいました;; 犯人当てについてだけ言えば、不要と思えるシーンも多くありました。スピルバーグと仕事ができるチャンスをホーソーンによってぶち壊されたアンソニー・ホロヴィッツには笑いましたがw 推理小説部分について。 非常に細かくて丁寧な伏線とミスリードでした。ダイアナが自身の葬儀のために葬儀屋に行ってからすぐ殺され、過去に起こした交通事故との関連を調べる流れになりますが、ダイアナ自体が大きなミスリードと化しておりますねw しっかりと探偵役ホーソーンも事故が原因ではないと示唆しておりますが。 動機面で、ダイアナはダミアンを殺すためだけに殺された…という、Bを殺したいがためにAを殺す…といった展開は数作読んだことがありましたが、またもや引っかかってしまいましたw 難癖点を挙げるとすれば、ややミスリード過剰であり、犯人を示唆するいくつもの伏線があるものの犯人を一人に断定するような強力な証拠に欠けると思います。また、この本ならではの個性がもう少し欲しかったところです。葬儀のためという動機は他にもありましたしね。 総じて、作者自身が出演する珍しい展開が面白く、また丁寧に伏線とミスリードが張られた本格推理小説と思いました。利点や難点も、どこかアガサ・クリスティーに近いようなw このクオリティならば、他の作者の本も買っていきたいです。 |
No.9 | 7点 | E-BANKER | |
(2022/08/21 14:28登録) 近年の翻訳ミステリーでは稀にみるヒットとなった「カササギ殺人事件」。それに気をよくしたのか、つぎつぎと発表される作者の作品なのだが・・・(まぁ当然だよね) 元刑事のホーソーンと作者自身(ホロヴィッツ)がコンビを組む本格ミステリー。2017年の発表。 ~自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は殺害された。彼女は、自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし=ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知り合った元刑事ホーソーンから、この奇妙な事件を調査する自分を本にしないかと誘われる・・・。自らをワトスン役に配した謎解きの魅力全開の犯人当てミステリー~ まさか、こんな正調な本格ミステリーとは・・・ これが読後の感想。いまや、特殊設定下でしか書けなくなったのかと思わせる我が国の「本格ミステリー事情」なのだが、かのミステリー発祥の地では、特殊設定に頼らない「ミステリー黄金期」を思わせる作品。 まずはこのことに驚かされた。 ギミックとしては、正直なところたいしたことはない。昔ながらの手法の焼き直しというか、味付けを変えたという程度には思える。 特に、動機&背景として重要と思われる過去の事件を目くらましに使う手法。これなんて、クリスティの十八番的やり方だし、これがものの見事に嵌っている。(伏線が微妙だし、後出しじゃないかと言われるとそういう気もするけど) なので、「大技」=Bestという読者にとっては、やや物足りなく感じられるかもしれない。 個人的には一人称形式というところで、何かしらの仕掛けがあるのか?という目線で読んでいたただけに、そこのところではちょっと残念だったかな。「カササギ」のような作中作を大胆に使ったものを先に読んでいたための期待感なのだが、本作の志向はそんなところではなかったのだろう。 探偵役となるホーソーンの造形についても、いかにも「謎」を含んでいそうな書きっぷり。この辺りは続編での「含み」を持たせたのかもしれないし、いかにも楽しみな感じだ。 全体としては、この「正調さ」に好印象&高評価。 もちろん、密室やら双子やら、嵐の山荘といった「コテコテ」の本格も大好物なのだが、そればっかりだとどうしても「胃もたれ」するので、こういう作品も折に触れ接しておかないと、健康的にも良くない! そんなことを思った次第・・・ |
No.8 | 8点 | 麝香福郎 | |
(2022/06/24 21:21登録) 本書は、まさしく犯人当てミステリのルールに則った、しかも極めてフェアな謎解きの魅力が全開の一作となっている。 物語は、資産家の老婦人が自分の葬儀の一切合切を手配したその夜、何者かによって絞殺されるという事件から始まる。もしかして彼女は、自分が殺されることを知っていたのか?それとも。 派手さには欠けるかもしれないが、何とも奇妙で強烈な謎である。加えて物語の語り手でもある「わたし」は、作者自身という趣向が凝らされている。現実社会での作者の仕事ぶりや生活が、ほとんどそのまま描かれているのだ。 そこへある日、刑事ドラマの脚本を書いている時に知り合った元刑事(架空の存在)で、現実はロンドン警視庁の顧問をしている人物が訪れる。彼曰く、実はいま不思議な事件を捜査している。ついてはその事件を担当している自分を取材して、本にしないかというのである。要するに自分はホームズ役をやるから、お前はワトソン役になれとの提案だった。 かくして二人は事件の謎に迫っていくのだが、事の真相と犯人が明らかになった瞬間の驚きというか、見事にしてやられた悔しさと爽やかさは半端ではなかった。 |
No.7 | 8点 | Tetchy | |
(2021/08/09 00:29登録) 2018年の海外ミステリランキングを総なめにした『カササギ殺人事件』はフロックではなかったことを証明したのが本書である。本書もまた2019年の海外ミステリランキングで4冠を達成した(因みに『カササギ殺人事件』は7冠)。 本書の最たる特徴は作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が登場することだ。しかもカメオ出演などではない。作者と同姓同名の探偵などでもない。ホロヴィッツが作者自身として登場するのだ。従って読んでいるうちに奇妙な感覚に囚われていく。 果たしてこれはドキュメントなのかフィクションなのか、と。 スティーヴン・スピルバーグがプロデューサーとなり、ピーター・ジャクソンが監督で『タンタンの冒険2』の企画が進行しており、ホロヴィッツがその脚本家に抜擢されて打合せしたりする。 しかもその打合せの場にホーソーンが乱入して、ホロヴィッツを被害者の葬儀に駆り出す。 このように作家自身が登場し、更に自身が手掛けたドラマのアドバイザーの元刑事と共に事件を追う本書はそんな現実とも創作とも判断の着かない世界の狭間を行ったり来たりするような感じで物語は進んでいく。これが読者に実話なのかもと錯覚を引き起こさせるのだ。 特に作者が死体を目の当たりにするシーンなどは実にリアルだ。例えば殺されたばかりの死体が死後硬直が進むにつれて声帯も硬直し出して呻き声のような音を発するといった描写は実に生々しいし、実際に見てきたかのような迫真性がある。 従って本書の探偵役を務める元ロンドン警視庁の刑事で今は顧問をしているダニエル・ホーソーンも実在しているのか、もしくは作者による創作なのか、終始曖昧なままで進む。 何しろホーソーンと知り合ったのはホロヴィッツが脚本を手掛けたドラマ『インジャスティス』のアドバイザーになった時だ。このドラマは実在するため、ホーソーンも果たして実在するのか? そしてこのホーソーンは一言で云うならば、マイペースなイヤなヤツだ。正直云って自ら進んで関わり合いたいと思わない人物だ。ホーソーンと共に行動する主人公の作家ホロヴィッツの心の動きが面白い。 そしてホロヴィッツはこう考えることにする。この決して人好きのしない元刑事の為人を観察して理解しようと。つまり探偵自身を探偵することを決意するのだ。 私は『カササギ殺人事件』を「ミステリ小説をミステリするミステリ小説」と評したが、やはりその観点は間違っていなかったとこの一文を読んだ時に確信した。 ホロヴィッツはミステリそのものに興味を持っているのだ。つまりミステリ自身が持つ謎を。だからこそそれ自身について探偵するのだ。『カササギ殺人事件』がミステリ小説そのものに対してであるのに対し、本書は探偵役そのものに対して。 後半からはとにかく伏線回収の応酬だ。 ホーソーンに救出されて入院しているホロヴィッツの許を訪れたホーソーンが語る事件解決に至るまでの彼の推理で作者が周到に犯人を示唆する伏線と手掛かりを散りばめていたことが明らかになる。 この回収は『カササギ殺人事件』でも見られたが、毎度のことながら、よくもまあここまでと感心させられるし、読者が伏線・手掛かりと気付かないほどそれらはさりげなく物語に記述されているのが解る。 特に感心したのは10年前のクーパー夫人の轢き逃げ事故の判事を務めたナイジェル・ウェストン弁護士の家が法科に遭った原因が作者にあるとホーソーンが云った理由がただの腹いせではなくて、彼が犯人のコーンウォリスに10年前の事故についても調べていると語ったことが起因していたことだ。それを聞いたコーンウォリスがホーソーンたちをミスリードするために犯したのだった。 他にもクーパー夫人のショートメッセージのスペル自動修正機能のために誤った情報が息子ダミアンに伝わり、しかもそれが偶然にも轢き逃げ事件の被害者を仄めかしてしまった件などは本格ミステリのケレン味を感じさせ、感嘆させられた。 またダイアナ・クーパーが自分の葬儀の手配を自ら行った理由が度重なるトラブルに厭気が差して自殺しようと思っていたことやコーンウォリスの葬儀屋の息子として生まれたことの苦悩など、登場人物の陰影などもしっかり描き込まれており、余韻を残す。 私が本書を読み終わった時、正直年間ランキング2年連続1位獲得するほどの作品とは思わなかった。 確かに上に書いたように最後に畳み掛けるように明かされる伏線回収の美しさは海外ミステリ作家には珍しいほど本格ミステリの端正さを感じさせるし、ホーソーンとホロヴィッツが苦手意識を持ちながらも時に親近感を持ちながらやり取りし、事件解決に向けて関係者を渡り歩く様など昔ながらのホームズ&ワトソンコンビのような妙味もある。 しかしこのホームズシリーズの手法に則った本書だが作者自身が語り手を務めることに対して何か仕掛けがあるのではないかと思っていただけに、案外すんなりと物語が閉じられたことになんだか肩透かしを食らったような感覚を覚えてしまったのだ。 先にも書いたが本書は作者本人がワトソン役を務め、探偵を探偵するミステリである。つまりダニエル・ホーソーンとは一体何者なのかを明かすミステリでもある。 しかしそれだけでは何ともこの小説が年間ランキング1位を獲るだけのインパクトには欠ける。なぜ本書が斯くも賞賛を持って迎えられたのか? それはやはり日本の書評家たちが自分たちの住まう世界の話が好きだからではないか。 『カササギ殺人事件』も英国のミステリ作家の世界を描いた作品である。実在の人物まで出演して物語に関わってくるし、そして何よりもクリスティ作品の良きオマージュとも云えるアティカス・ピュントシリーズ最終作が丸々1冊入っていること、そしてそれ自体が物語のトリックにもなっている事など実に精緻を極めた作品だった。 本書は英国ミステリ作家ホロヴィッツ自身が語り手を務めることで英国ミステリ文壇の内輪話や作家の創作方法や心情について生々しいまでに吐露されている。こういう作家稼業の内輪ネタが日本の書評家には堪らなく面白いのだろう。それが本書が称賛を以て迎えられた大きな理由ではないだろうか。 私がその中で一番印象に残っているのは2つ。 まずはホロヴィッツが本書を自身の一人称叙述にしてしまったことを後悔していると述べている件だ。本書でホロヴィッツは犯人に薬を盛られて全身麻痺になり、メスを突き立てられて殺されそうになるが、私はどうせ助かるものだとあまりスリルを感じなかった。なぜなら作者自身が述べているようにこれは作者の一人称叙述なので彼が助かっているからこそこの物語を我々が読めることを知っているからだ。 あとは最後の件だ。彼は自分がホーソーンが妻を利用して彼の本を書くことを仕組まれた事に気付いて彼に本など書かないと捨て台詞を吐いて後にするが、他人に自分のことを書かれるのは我慢がならないとして結局書いたのが本書であると結ばれる。この辺のメタな感覚が一ミステリ読者として面白く感じた。 しかし本書の一番の魅力はやはりこの一言に尽きるだろう。 この話、どこまで本当なの? ホロヴィッツがこの質問をされた時、恐らくはニヤリと笑ってこう答えるのではないだろうか? 「それはみなさんの想像にお任せします。なんせ本書の『メインテーマは殺人』なのですから」 |
No.6 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2020/06/07 22:51登録) 元刑事ホーソーンと作家ホロヴィッツのコンビが楽しい。ホーソーンがいい味を出しています。ホーソーンは得体の知れない人物なのですが、万一読書をするならダン・ブラウンか?などは個人的には大受けでした。小説の本筋はいいのですが(8点くらい)、鰊をぶら下げ遠回りし過ぎた感じがしますので6点どまりとしました。なお、シリーズ化されているようです。楽しみです。 |
No.5 | 6点 | ボナンザ | |
(2020/05/28 21:50登録) 中々の本格もの。グーグルやウィキペディア、SNS炎上といったことを取り上げて現代感を出しているのは意図的なんですかね。 |
No.4 | 6点 | HORNET | |
(2020/02/11 15:48登録) 葬儀社に、自分の葬儀の依頼に来た老婦人が、その日の午後に殺された。偶然とは思えないこの事件の捜査に携わることになったホーソーンは、刑事をクビになりながらも請われて捜査に参加している男。そのホーソーンが、主人公のもとにやってきて言った。「この俺の捜査を本に書いて欲しい」― インパクトのある物語のスタートから事件はさらに展開し、主人公とホーソーンは順次捜査を進めていく。登場からイヤな奴っぽかったホーソーンだが、その卓越した捜査能力と、時折主人公に見せる素の顔で少しずつ印象は変わっていく。とはいえあくまで中心に「謎解き」が据えられており、ミステリとして十分魅力もある。 「カササギ殺人事件」のような驚天動地の仕掛けはないが、その分読み易いとも言え、結論として平均的に面白いと思える出来だった。 |
No.3 | 6点 | ひなめ | |
(2019/12/27 21:26登録) タイトルにある通り、早い段階で殺人事件は起こるものの、物語は別の事件(ひき逃げ事故)を主軸に突き進んでいくので、タイトルとのギャップを感じ盛り上がりいまひとつでした。 終盤(20章あたり)で主軸がガラッと切り替わり、予想だにしない方向から殺人事件と結び付け巻き返してきましたが、全体的には本格ミステリ度は低くかったです。正直、これが本ミス1位?といった読後感でした。ミスディレクションは上手いので、アガサ・クリスティ好きにはハマるかと思います。 |
No.2 | 7点 | makomako | |
(2019/10/31 07:57登録) カササギ殺人事件ではちょっとびっくりする展開にすっかり騙されてしまったのですが、本作品はそこまでではなかった。もちろん犯人当てなどは全く無理でしたけどね。 話の途中でいろいろな映画や舞台の有名人が出てきたり、お話の雰囲気がいかにもシャーロックホームズ風だったり(作者はシャーロックホームズの新作シリーズを書いているから当然かもしれません。)、興味が尽きないところですが、いかんせん探偵のホーソーンが感じが悪い。変人や発達障害風の空気が読めない探偵は本格物でよくあるのですが、感じの悪い(わざと感じ悪くしている)探偵はあまり多くはない。 どうしてこんな感じ悪くしなければいけないのかなあ。多少でもよいからもう少し感じよくしてくれたらよかったのに。 全体的には読みやすくしっかりとした作品で十分楽しめましたが、探偵の魅力の点で多少減点です。 |
No.1 | 7点 | nukkam | |
(2019/10/18 21:03登録) (ネタバレなしです) 私にとってこの作者のイメージはコナン・ドイル財団やイアン・フレミング財団から公認されたシャーロック・ホームズ新シリーズやジェイムズ・ボンド新シリーズの書き手であったので、一流のパロディー作家ではあるのでしょうけど現代ミステリのトップランナーと評価されていることには微妙に抵抗感があったのですが「カササギ殺人事件」(2016年)と2017年発表の本書を読んでマイ評価もうなぎ上り(笑)、優れた本格派推理小説の書き手として今後の活躍を大いに期待です。元刑事のダニエル・ホーソーンをホームズ役、作者自身(トニー)をワトソン役に配していますが自分の捜査に口を挟ませまいとするホーソーンとそれに反発して何とかホーソーンを見返そうとするトニーのぎくしゃくしたコンビ描写が新鮮です。作者自身を作中に登場させたとなるとファイロ・ヴァンスシリーズを書いたヴァン・ダインを思い出しますが、黒子よりも影の薄かったヴァン・ダインとは天と地ほどの大差です。作品個性では「カササギ殺人事件」に軍配が上がりますがあのひねり過ぎ気味のプロット構成は好き嫌いが分かれそうですので、王道的な本格派の本書の方を気に入る読者も少なくないでしょう(私もその一人)。犯人の正体が判明する場面の劇的効果も秀逸ですし、その後に続く謎解き手掛かりを丁寧に説明しながらの推理もよくできてます。 |