ボンボンさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.51点 | 書評数:185件 |
No.125 | 8点 | 香菜里屋を知っていますか 北森鴻 |
(2017/06/17 17:39登録) 『終幕の風景』のラストは、もう本当に堪らない。終わってしまった。 自分の生活の中に香菜里屋があったような、それを失ってしまったような感じ。解説の中島駆氏が「リアリティが魅力」とおっしゃるとおり、このシリーズ独特の感覚だ。 各話で描かれる人々の旅立ちは、確かな前進としての別れであるというのに、こんなに悲しいのは、やはり北森鴻氏がもういない、ということをいちいち思い出してしまうからだ。 しかし、そういったことを抜きにしても、本作はシリーズ中最高の出来だろう。絶好調だ。ミステリとしては特に、老バーマンの洒落た幕引きを描く『ラストマティーニ』が良かった。 |
No.124 | 6点 | 共犯マジック 北森鴻 |
(2017/06/10 16:26登録) (ネタバレ気味) 蜘蛛の巣のような共犯関係がすごい。いや、それよりも、戦後昭和史の犯罪部門、全部自分がやりましたという勢いの大胆さがすごい。あまりにやり過ぎで、笑ってしまうほど。レディ・ジョーカー級の超大作な原材料で、文庫で約270ページしかない短編集を創るというのもまた個性的。復讐とか報いとか、八つ当たりみたいなのも含め、暗い感情しか出てこないので、読後に残るものが少ないかな。しかし、徹底して全ネタをつなげきった構成力には拍手を。 |
No.123 | 8点 | 幻想運河 有栖川有栖 |
(2017/06/04 13:44登録) 巧い。これは寓話的に描かれた社会派なのだろうか。なんて恐ろしい。ひどく哀しい物語だ。この若い人たちは、なんでここまで自壊してしまったのか。哲学を語り、芸術を楽しんで、自由に暮らしているように見えるのに、いやに乾いた感じの不安感や人恋しさのようなものが全編を覆っている。オウム真理教の事件の影響を受けていると作者があとがきに書いているが、なるほどなあ。 さて、ミステリとしては、出だしから終わりまで、誰と誰が誰をどうしてしまうのか、色々な組み合わせを考えながら追いかける面白さがまず一つ。 そして、バラバラ殺人の本質とは何かについて、考えさせられた。これは目から鱗。 作中作については、暗示的な効果を出すのが役割なのかと思いきや、本編とそれほど関係せず。(バラバラ殺人関連のせっかくの発想を、本筋と全く関係なくてもいいから無駄なく使いたかったのかな。)しかし、わざと拙く綴った昭和の幻想怪奇小説的な魅力たっぷりで、嫌いじゃない。 新しい文庫の表紙も「肉色の薔薇」。薔薇、薔薇とバラバラ殺人て、ダジャレってことでいいの・・・? |
No.122 | 5点 | 螢坂 北森鴻 |
(2017/05/28 17:25登録) この作者特有の凝り過ぎ、ひねり過ぎが目立つが、雰囲気作りが巧いので、しんみりと落ち着いて読める。しかし、『双貌』は、やり過ぎではないか。作中作と外枠のバランスが極端で、一読で構成がつかめないほど分かりにくい。どの話も面白いのだが、謎を持っている人たちの言動がやたら遠まわしで、普通そうはしないだろうということばかりするからしっくり共感できない。それでも、レギュラーメンバーがお馴染みのノリを見せてくれると安心してスラスラ読めてしまうのだが。 ああ、次でシリーズ完結だ。どんなふうに終わってしまうのか。今からもう寂しくなっている。 |
No.121 | 7点 | ミステリ国の人々 評論・エッセイ |
(2017/05/24 22:26登録) 有栖川有栖氏が、2016年の丸一年間、毎週日曜日に日本経済新聞に連載したエッセイをまとめた1冊。いかにも推理小説の作品世界のキャラクターといえる52人を取り上げ、それを鍵に「『これから読みたい人』と『浴びるほど読んできた人』の両方」を楽しませるミステリガイドに仕上げている。 例えば、高木彬光の名探偵、神津恭介の相棒「松下研三」や泡坂妻夫の亜愛一郎シリーズに登場する「三角形の顔をした老婦人」などを軽快に面白おかしく紹介しながら、ミステリを縦横斜めから解説し、上手に読み方指南をしてくれる、というすぐれものだ。 おまけに、有栖川氏がミステリ小僧だった頃、子供時代の読書の思い出なども織り込まれていて、ほほえましい。 1回1回がごく短く、一見、スラスラ簡単に書かれているように思える。しかし、実際これを書き上げるには、どれだけの準備作業が必要だろうと考えると、その仕事への熱意に頭が下がる。 |
No.120 | 7点 | 症例A 多島斗志之 |
(2017/05/13 17:24登録) 作者は、精神医学について、随分勉強されたのだろう。何のために治療するのか、目指すべきところはどこなのか、その真髄にまで迫っている。 面白いのが、精神医学の話だけで十分いけるのに、これまた唐突にディープな博物館の学芸員の世界を持ってきて、もう一筋の物語として伴走させるところ。この全く関係ない二つの専門世界でそれぞれ謎を追っていくと、当然その二つは繋がってくるのだが、それがなかなかに突拍子もなくて、言ってしまえばこの話の組み合わせである必然性が全く無い。そこが不思議な面白味になっている。 |
No.119 | 7点 | メイン・ディッシュ 北森鴻 |
(2017/05/06 10:13登録) ずるいとか、それはおかしいとか、四の五の言わせない、自信に満ちて力強い連作の進行。構成がとにかく面白い。 これはやはり、迷探偵の役どころである劇作家・小杉隆一の破壊力によるところが大きい。彼の脳内には、材料も正解も既にあるのに、真の探偵ミケさんに整理してもらわないと、実は自分が判っているという自覚すらない、ってところが最高だ。混沌の中から、「見えた」という瞬間が来る感じ。ギャグマンガのノリそのものの人物だが、ジタバタ空回りしたり、顔に死相が出るほど苦しんだりしながらも、ぎりぎりでなんとか皆を魅了する作品を生み出していく姿は、作家という人たちの日々そのものなんだろうと思う。 と、ちょっと話が本作の本筋から逸れたが、とにかく連作短編ミステリの妙技にぐるぐる引っ張りまわされ、楽しい時間をいただいた。 |
No.118 | 5点 | ローマ帽子の秘密 エラリイ・クイーン |
(2017/05/01 22:49登録) へえー、これがあの有名なエラリー・クイーンか(作中人物としての)、とまるで修学旅行の中学生のような心境で読んだ。 面白くないわけではないが、淡々と読みこなす作業を終え、理解した、という平坦な読書になってしまって呆然。期待し過ぎたか。まあ、エラリー・クイーンの幕開けの一作として取りあえずよしとしよう。 (いやいやしかし、いい年の息子にべったり甘々なクイーン警視の有様をどう受け取ったらよいものか、最後まで分からなかったな。) 飯城勇三氏の解説で、推理には外せない重要な情報を含む一文が、訳し方如何で役に立たなくなってしまう例を具体に知り、改めて翻訳物のミステリの難しさを感じた。 ※角川文庫(訳:越前敏弥・青木創) |
No.117 | 5点 | ビブリア古書堂の事件手帖7 三上延 |
(2017/03/15 23:13登録) 前作から随分待たされたが、綺麗に出来上がっており、作者が勉強をして懸命に書き上げたのがわかる。大変読み易く、ただ、その分軽い。 本編最終巻である今回のテーマは、シェイクスピアだ。それを意識してか、またまた悪者が舞台の登場人物のように大袈裟に悪そうにしている。そこが薄さの原因なのではないかと思う。 それでも、古書交換会(古書業者の競りのようなもの)は盛り上がるし、秘密の解答も古書の薀蓄が良く活かされていて納得だった。 アニメと実写で映画化とのことだが、まあやっぱりそうなりますよねえ、という感想。素材がやけに高尚なのに、人物が妙に子どもっぽいというアンバランスさが腑に落ちず、良いのか悪いのか、なんだかもうよく分からない。 |
No.116 | 5点 | 桜宵 北森鴻 |
(2017/03/04 22:13登録) ビアバー香菜里屋の連作短編第2弾。前作よりスッキリとまとまった連作らしさが出て、世界観が落ち着いた印象だ。名探偵役のマスターの工藤が言うとおり「歪んでいる」人たちがちょっとあり得ないことをやらかすのだが、あくまでも「日常の謎」の中からはみ出すつもりはないらしい。通報しなくていいのか、と思わないでもないが、徹底的に一般人で通す態度がいっそいさぎよい。 この作品の重要ポイントである工藤の出す料理や酒類の素晴らしさは、それを賞味し、ほーっと緊張を解く客の五感のレポートにより表現される。時々、謎の究明に緊張して温かいうちに折角の料理をいただかない人がいると、そっちが気になってしまう。もったいない。 |
No.115 | 6点 | メビウス・レター 北森鴻 |
(2017/03/01 20:45登録) 評価の高い「メイン・ディッシュ」を読もうとして、間違って「メビウス・レター」を買い、そのことに気付かないまま読んでしまった。「メ」と「・」しか合っていない。 がしかし、それほど悪くなかった。なかなかに頑張った力作だろう。 それほど長い作品でもないのに、とにかくトリックがモリモリに盛り込まれている。登場人物達も、5チームぐらい編成されていて、その対戦がとても上手に組まれているので感心するのだが、ちょっと複雑すぎるか。 ただ、もっと削ぎ落とせば良くなるのかといえば、そうでもない。ここまで過密に作り込まれていると、もうどこも外せないし、成立しなくなるのかもしれない。 青春のもの悲しさに気を取られるが、よく考えると殺し合いがすごい。おかしな人、または悪い人がどんどん殺し合った結果、「わからない、なにもわからない」に至って終わる救いの無さ。反則じみた設定のオンパレードだが、それに酔ったようにマヒして読むのが正解かもしれない。素面で「なにこれ、あり得ない」と思ってしまうとひとつも楽しめない。 |
No.114 | 6点 | 赤い月、廃駅の上に 有栖川有栖 |
(2017/02/24 23:31登録) 鉄道と怪談話。関係なさそうでいて、実は相性ピッタリではないだろうか。駅や踏切は小説でも現実でも事件や事故の舞台になるし、列車は人生にも喩えられ、銀河鉄道の夜のようにあの世につながるイメージもあるし。通勤通学の日常がふと狂う怖さや遠い旅先での不安感等々。 しかし、この短編集では、そんな素人考えを軽く飛び越えた、相当に奇抜なお話も楽しめる。 この著者は、一つのお題を定めた短編集を作るのが本当に巧いと思う。 |
No.113 | 5点 | 競作 五十円玉二十枚の謎 アンソロジー(出版社編) |
(2017/02/23 21:38登録) 若竹七海氏が実体験した事実であって、真相は永遠に失われてしまっている日常の謎に対して、プロ・アマ13人が競作で回答編をひねり出すという、前代未聞のアンソロジー。 皆さんも名前を挙げている、のちの倉知淳氏の猫丸先輩と有栖川氏の学生アリスがやはり読み心地がいい。 しかし全般に一般公募作のほうが、50円玉の謎そのものに対して真向挑戦し、それなりに頑張った答えを出せているようだ。プロの作家は、さすがに技巧に優れているけれど、膨らませた周辺の話題のほうがグイグイ幅を取り、肝心の50円玉が脇に寄せられがち。いや、メインテーマをそっと配置するところがプロの巧さなのかな。 |
No.112 | 8点 | 狩人の悪夢 有栖川有栖 |
(2017/02/10 23:19登録) これはすごい、お見事。純度100%の有栖川有栖ではないか。前作「鍵の掛かった男」が物語重視のずっしりした作品だったのに対し、本作はまどろっこしいほどの火村的推理、背理法やら消去法やら、犯人との緊迫の対決が際立つ。私には、本格とかミステリの技法について語る知識はないが、古式に則った美しい推理小説なのだと思う。 これまでの火村シリーズの長編のような、印象的な舞台設定や動きの大きな展開はない。ミステリとして、特に珍しくない材料で出来ているのだが、そのことによって一層推理の凄みが増して見える。勝負に出た、という感じだ。 ただ、せっかくだから、もう少し「悪夢」を使い込んでほしかった。アリスのまあまあ嫌な感じの夢もとても良かったが、メインテーマのナイトメア感が足りないかな。 といっても、当たり前だが、読ませる巧さは変わりなく、本筋以外のところも相変わらず面白いので、これから読む方には、その点安心して楽しんでいただきたい。 |
No.111 | 5点 | 花の下にて春死なむ 北森鴻 |
(2017/01/28 17:32登録) 哀愁漂う大人の、ささやかな人生を切り取る短編集。ビアバーのマスターが、カウンターの中で客の話を聞いて様々な謎を推理するのが基本だ。 謎のネタを提供する常連客達は、結構な事件に直面したり、実際に探索に出かけたりもするが、解決編は、ビアバーで交わされる会話の中で終始するので、別にコトの真相が確認されるわけではない。あくまでも、こんな解釈もあるのでは、と人生を見つめ直す感じ。 見事なまでにフワッとした中途半端さで、一般人の域を決して踏み越えないのだ。大がかりな殺人系を含む、謎解きをメインにした作品でありながら、そこがなんとも新鮮だった。 ひねり過ぎがあったり、短い話の中に詰め込んだ複数の筋を強引につなげたりと、ぎこちない部分もあるが、全体に渋い雰囲気で読ませるので気にはならない。 自分としては、あまり共感するような事件はなかったが、全編を通し、客がマスターの人柄に頼り、癒されていく様子に心和んだ。 ああ、そんなことより、とにもかくにも、今すぐ冷えたビールが飲みたいな。 |
No.110 | 7点 | アルモニカ・ディアボリカ 皆川博子 |
(2017/01/18 19:51登録) 前作「開かせていただき光栄です」は、がっちりと完成した素晴らしい作品だが、なんと、あの中で見えていなかったこんなにも分厚い物語が裏側に存在していたのか。「アルモニカ・ディアボリカ」は、「開かせて~」の続編となっているが、単純な続きではなく、前作に至る過去の話も交錯して深みを増している。 そして、前作の犯人の行く末にも、さらに確かな決着がつくので、実はここまで読んで一区切りと言えるのかもしれない。 提示される謎も魅力的だし、事件解明の探索も面白いし、幾重にも複雑に交差する登場人物の人生も巧妙に描かれている。ただ、謎解きが痛快な「開かせて~」に比べ、事件自体の悲惨さのほうに重心が傾いているので、読後にあまりミステリ感が残らない。 とにかく、ナイジェルの手記には圧倒され、胸がつぶれた。克明で静かな筆致の陰に悲鳴が聞こえ、慟哭が響くような告白。 日本では、杉田玄白が「ターヘル・アナトミア」を訳して「解体新書」を刊行した頃の話だ。英国にもスコットランドヤードはなく、ホームズもいない。はるか昔の歴史の暗闇を見せる作品。 |
No.109 | 5点 | とり残されて 宮部みゆき |
(2017/01/04 23:23登録) 霊や死者にまつわる短編7つだが、各話工夫されているので、純粋な幽霊話は一つ二つのみ。謎めいていて、意外な展開が待っている。一見、宮部みゆきの心和む人情モノかと思わせて、実は黒く辛い話ばかりだ。 最終話の『たった一人で』などは、相当ぶっ飛んでいて、少し演劇の台本じみた読み心地。一つ選ぶとすると『おたすけぶち』が眉間にしわが寄るような結末で面白かった。 現在の宮部みゆきに比べると、まだまだ若いというか、挑戦的な意気込みはあるが、時代風俗的に微妙に中途半端な古臭さを感じてしまう。それは仕方ないか。 <再読> 20数年前に読んだはず。しかし、表題作『とり残されて』の設定以外、ほとんど覚えていなかった・・・。 |
No.108 | 9点 | 開かせていただき光栄です 皆川博子 |
(2016/12/13 23:03登録) 嘘、嘘、嘘、そして嘘、さらに嘘。事実に嘘を織り混ぜて幾重にも重ね、何回情報を更新すればいいのか。戻って読み返すと、実に細かいところまで事実描写と供述がしっかり一部違っている。途中で、「ああ、読めたぞ」とニヤリとしても無駄。まだまだ何度も転々とするから。 失礼ながら、80歳を超えたおばあさまが、本当にこんなに緻密な本格ミステリをポンポン書いてしまうのか。驚愕するしかない。 18世紀ロンドンの解剖教室というだけで、重くて無理、と思った方もそう言わず読んで欲しい。ドリフのコント的なおふざけと(あくまでもウッチャンではない)、スイスイと軽い読み心地が気持ち良く、青春小説と言ってもいい元気さがある。それでいて、歴史的事実や実在の人物が丁寧に書き込まれており、さらに登場人物の書き分けも巧みで、本当に充実した内容になっている。 とはいってもやはり、18世紀の英国の風俗や解剖学等々の世界を受け入れられないと成立しないつくりになっているので、好き嫌いが分かれるのかもしれない。まあ、とにかく私にとっては、どストライクだったが。 |
No.107 | 7点 | 幽霊刑事 有栖川有栖 |
(2016/12/04 14:44登録) 登場人物がみんな怪しく何かしらを隠し持っているのに加え、途中、大小の別事件が絡んできて盛り上がり続けるという、たっぷりした長編だが、基本的に軽めの雰囲気で、一気読みできる。 最も切なく素敵であるべき恋人とのシーンが霞むほど、相棒との息が合ったり合わなかったりのやり取りのほうが面白く、恋愛よりお笑いが勝っている感じ。厳しく絶望的な設定を、どこまでも間抜けな呑気さを通して読ませていくのが巧い。 幽霊なのにというか、幽霊だからこそ何一つできない幽霊刑事が、本当にふらふらするだけで、結局ちっとも捜査なんてできないところが妙に現実的で哀れ。 また、効果的に挟まれる幻想シーンの詩的な表現が有栖川氏らしくて好きだ。こういうところは、論理の人とされる著者の密かな得意技だと思っている。 余談だが自分は最後の最後まで誰も信用できなさ過ぎて、まだまだ何か捻りがあるのではないかとページを捲っていたら、真相に十分心落ち着く前にラストを迎えてしまった。そのせいで、しんみりと終わりを堪能できなかったのが残念。ゆっくり読み直そうかと思う。 |
No.106 | 9点 | あやし~怪~ 宮部みゆき |
(2016/11/27 23:32登録) 鬼になってしまった人、或いは何食わぬ顔で人の間にいるモノを垣間見る九つの噺。密やかに、早口の小声で語られるような雰囲気を持った時代物の短編集だ。 最後の2話に政五郎親分が登場するので、宮部さんの本所深川の世界では、回向院の茂七親分の次の世代、『ぼんくら』シリーズのあたりのお話になる。 同じ怪談奇談の短編(連作含め)でも、宮部さんの最近の作である『三島屋変調百物語』シリーズだと一話一話がかなり壮大な展開になるが、比べて、初期の『本所深川ふしぎ草子』から本作くらいまでは、小さく引き締まった作風。そのなかでも研ぎ澄まされた緊張感と怪異度では、本作が頂点ではないかと思う。 怖ろしいものが直撃してしまうと惨劇になるが、遠目にぽつりと視えたり、すれ違いざまに自分だけ気付いてしまったり、というのも相当怖い。そんなときは・・・・。 「やっぱり、知らん顔しておくのがいいんじゃねえかな」(最終話『蜆塚』より) ※再読 |