いいちこさんの登録情報 | |
---|---|
平均点:5.67点 | 書評数:541件 |
No.41 | 8点 | 双頭の悪魔 有栖川有栖 |
(2012/01/12 20:13登録) 毎度のことながらトリックの意外性・衝撃度はない。 しかしフェアに散りばめられた多数の小さな伏線から組み上げられたロジックの精巧さ、緻密さには美しささえ覚える。 両岸で同時発生する事件を並行して叙述するスタイルと、試行錯誤を重ねながら展開される推理でストーリーに引き込んでいく。 瑕疵を指摘するとしたら、第三の殺人で犯人が犯した致命的なミステイクと強引過ぎる江神の推理だが、裏を返せばそれだけか。 本格ミステリの王道を行く傑作と評価 |
No.40 | 7点 | 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉 |
(2012/01/09 10:46登録) 本作への酷評はこのレベルの作品には飽き足らないミステリマニアと、ドラマ(脚本・キャスティング・演出とも酷すぎた)から入った層によるものと思われる。 確かに満腹感は味わえないものの、シンプルでもプロットは完全に「本格」で水準以上のデキにある。 主要キャラクターの設定もありきたりだがユーモアあふれる筆致で楽しませてくれる。 コストパフォーマンスだけは大いに疑問だがミステリ入門書としては良質な作品 |
No.39 | 7点 | 犬神家の一族 横溝正史 |
(2012/01/09 10:27登録) 複雑な血縁関係とそれが織り成す人間模様、次から次へと提示される新しい謎で読者をグイグイ引き込んでいく。 プロットとストーリーテリングは最高級の部類。 しかし真犯人は意外性に欠け、犯行経緯はご都合主義的な偶然が多く無理を感じてしまう。 本格ミステリというよりサスペンスとして読むべき作品か |
No.38 | 8点 | 北の夕鶴2/3の殺人 島田荘司 |
(2012/01/03 16:11登録) 序盤に示される大きな謎と徐々に明らかになる不可能犯罪。 義経伝説、夜鳴き石、鎧武者、心霊写真等、これでもかと提示されるいかにもなガジェット。 これらのプロットを奇想天外な大技トリックで一刀両断にするカタルシス。 島田荘司の方程式どおりに描かれた渾身の王道本格ミステリだろう。 メイントリックの物理的可能性は彼なら許容範囲だし、それを問題にさせない強烈なインパクトがある。 制限時間がもたらすサスペンスフルな筆致と、切ないラブロマンスも作品に華を添えていて素晴らしい。 |
No.37 | 6点 | 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 麻耶雄嵩 |
(2012/01/03 13:05登録) 評価が極めて難しい作品。 密室、首切り、見立て、連続殺人等、典型的な本格ミステリのガジェットが、従来のコードを無視する確信犯的な手法でことごとくぶち壊されていく。 そして最後に示される密室に対するバカミス的解答と、恐るべき真相。 21歳の若さでと評価する人がいるが逆だ。 21歳でなければ書けない作品だろう。 作者の稚気あふれる意欲と奇想は評価するが、リアリズムやロジックとは無縁なファンタジーの世界。 ミステリに何を求めるかによって評価が分かれる作品 |
No.36 | 10点 | 占星術殺人事件 島田荘司 |
(2011/12/28 20:31登録) 某作品によるネタバレを理由とした低評価も散見されるが、本作に帰責する訳ではない。 とすれば主たる瑕疵は最序盤(手記)のリーダビリティの低さと、中盤の的外れな捜査の中だるみだろうか? それでも冒頭に示されるアゾート幻想がミスディレクションとして強烈に機能。 散発的に起こる連続殺人に対し、先が見えない捜査がもたらす閉塞感が却ってリーダビリティを支える。 ラストに明かされるシンプルでエレガントなメイントリックがもたらす説得力、衝撃度は古今無双。 壮大かつ緻密なプロットを完璧に昇華させる極上のカタルシスは別格中の別格。 本格ミステリ界の金字塔的作品 |
No.35 | 10点 | 十角館の殺人 綾辻行人 |
(2011/12/28 20:24登録) 伏線が少なすぎるという弱点を差し引いても、メイントリックの素晴らしさが光る。 プロット全体を見事に収斂させるシンプルかつ衝撃的な真相。 島と本土に分断された論述構成も強烈なミスディレクションとして機能。 ただ動機の脆弱さ・唐突感だけは否めない |
No.34 | 10点 | 獄門島 横溝正史 |
(2011/12/28 20:19登録) 3つの殺人のトリックは美しい反面、若干甘さを感じなくもないが、耽美性・猟奇性がカバーしている感。 しかし何よりも素晴らしいのがあの和尚の一言。 日本ミステリ史上最強のミスディレクションが極上のカタルシスをもたらすラスト。 どこかでネタバレしないうちに読むべき傑作 |
No.33 | 8点 | 弁護側の証人 小泉喜美子 |
(2011/12/27 20:58登録) ストイックなメイントリック勝負の作品だが、人によっては極めて早い段階で見破れるので評価が分かれやすいと思う。 とはいえ無理と飛躍のない仕掛けで納得性が高い。 冒頭は相当に考え抜いて書かれている印象。 インパクトもこの作品が書かれた1963年当時、現在ほど女性が社会進出していなかったことを考え合わせれば相当なもの。 |
No.32 | 9点 | 殺戮にいたる病 我孫子武丸 |
(2011/12/27 20:50登録) エロ・グロで巧妙にカムフラージュしつつメイントリック一発勝負に賭けたストイックな作品。 作者の恐るべき企みと見事なキレ味に脱帽せざるを得ない。 物語を通じて家族の絆の希薄化と孤立化をさりげなく垣間見せるテクニックも高く評価 |
No.31 | 7点 | 青の炎 貴志祐介 |
(2011/12/27 19:53登録) 大好きな作品。 完全犯罪に挑む優秀な高校生。 計画が成功したときから彼を苛み始める葛藤と動揺が完璧に見えた計画を狂わせる。 この主人公の心理を倒叙形式によって余すところなく描き切る。 そして何よりも素晴らしいのがラストシーン。 母と妹のために立てられたこの悲しすぎる計画の最後に、そして殺人の是非に対する作者の答えとして、これ以上の結末はあり得ないのではないか。 強い哀愁と感動を残す必読の作 |
No.30 | 7点 | 異邦の騎士 島田荘司 |
(2011/12/27 19:42登録) みなさんのご指摘どおり。 ミステリとしては強引さと無理が目立ち水準程度のデキ。 しかし恋愛小説として他にない強い感動を残す。 島田荘司はこんな作品も書けるのか・・・ 立技でも寝技でも超一流の作者の凄みを感じた |
No.29 | 8点 | クラインの壷 岡嶋二人 |
(2011/12/27 19:29登録) ゲームの開発からヴァーチャルリアリティに誘い込むプロットは発行された時代を考え合わせればその先見性に脱帽。 読者も登場人物も煙に巻くような叙述ミステリ的な仕掛け、混沌としたラストも強烈な印象を残す。 リーダビリティの高さも相変わらず。 ミステリ的要素は弱いもののサスペンスの傑作 |
No.28 | 8点 | 七回死んだ男 西澤保彦 |
(2011/12/27 19:25登録) ユニークなプロットが強烈で、ユーモラスな語り口はリーダビリティも高い。 一気に読ませる魅力を持っている。 トリックは意外性に欠けロジカルには到達できない難点はあるものの、シンプルで説得力がある。 一読の価値がある傑作 |
No.27 | 9点 | 大誘拐 天藤真 |
(2011/12/27 19:19登録) プロットが抜群に素晴らしい。 そのうえ次から次へと魅力的な仕掛けが繰り出されるので手が離せなくなってしまう。 エンタテイメントとは何かという質問に対する理想的な答えの一つ。 |
No.26 | 2点 | 煙か土か食い物 舞城王太郎 |
(2011/12/27 19:14登録) 作品の内容より個性的すぎる文体・語彙の印象が強烈。 ここに魅力を感じられるかで評価が分かれる作品だろう。 しかしミステリとしての本質は主人公がスーパーマンすぎるうえ、ご都合主義の極致なので完全に落第点。 終盤に本作の主題が明らかにされるが、唐突なうえ書きぶりも下世話で感心しかねる。 独特の語り口以外は見るべきところがない |
No.25 | 9点 | 葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午 |
(2011/12/25 11:21登録) 全体の完成度としては不満が残る点もある。 まず作者の主題が非常に明確にも関わらず、欲をかいて様々な要素を盛り込みすぎ、不純物が混じっているかのような違和感は拭えない。 またメイントリックの仕掛け方にも無理を感じる部分がある。 それでも明かされた真相が訴えるメッセージに強く共感を感じた。 タイトルも秀逸 |
No.24 | 7点 | 奇想、天を動かす 島田荘司 |
(2011/12/25 11:07登録) 本格と社会派の融合的作品。 本格部分は剛腕島田の真骨頂とも言うべき物理系大技トリック炸裂。 毎度毎度こんなことが思いつく筆者に感心しきりだが、多少の無理を感じなくもない。 一方、社会派部分は主張の当否はともかく、運命に翻弄された主人公の数奇な人生に感慨深く読ませるものがあった |
No.23 | 8点 | 天使の囀り 貴志祐介 |
(2011/12/25 10:56登録) 抜群のリーダビリティと緻密な取材に基づいた説得力を両立させるストーリーテリングは相変わらず見事。 人間の歪んだエゴを飲み込む自然の大いなる力。 教条的で陳腐な環境保護に与せず、自然への畏怖をバイオホラーに結晶させた傑作 |
No.22 | 9点 | クリムゾンの迷宮 貴志祐介 |
(2011/12/25 10:48登録) 非現実的な設定にリアリズムを吹き込む緻密な取材が抜群。 かつてゲームブックにハマっていた自分を思い出した。 リーダビリティも抜群で仕事が早朝にも関わらず深夜まで読みふけった唯一の作品。 惜しむらくはラスト。 ヒロインの像はおぼろげながら見えたが真犯人は謎のまま。 謎は謎のままの方が魅力的かもしれないが、もう少しカタルシスが感じられるラストも見たかった |