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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.121 6点 丸太町ルヴォワール
円居挽
(2015/01/14 14:54登録)
まず前提としてミステリとして意味のあることをしようとしているのは理解。
後半のどんでん返しの連続は、それほど納得感がある訳ではないのだが、伏線の配置が巧妙。
読者が「ここが伏線ではないか」と気づき得るように敢えて記載に違和感を持たせつつ、それでいて読了時まで真相には辿り着けないバランスが絶妙。
メイントリックが2つ仕掛けられているが、一方が他方のトリックの隠蔽に効果を上げている点も評価。
評価が分かれるのはたぶん作風。
登場人物全員が「ティーンエイジャーかそれに類する年代」かつ「美男美女」かつ「頭脳明晰」で、ほとんど嫌味とも言える高度な知的応酬がハナにつくかどうか。
著者としてはこのあたりを察したうえで、敢えて特異な舞台設定を選び、ライトノベルタッチにすることでオブラートに包んだのだろうが、ややどっち付かずの印象。
デビュー作にありがちだが、筆致が上滑り気味である点も否めない。
以上を総合してこの評価としたが、技術的には相当レベルの高い作品


No.120 7点 魍魎の匣
京極夏彦
(2015/01/06 20:11登録)
「そう。動機とは世間を納得させるためにあるだけのものに過ぎない。犯罪など―こと殺人などは遍く痙攣的なもんなんだ。
真実しやかにありがちな動機を並べ立てて、したり顔で犯罪に解説を加えるような行為は愚かなことだ。
それがありがちであればある程犯罪は信憑性を増し、深刻であればある程世間は納得する。そんなものは幻想に過ぎない。」
真実はそうなのかもしれないが、動機の合理性を構成要素の一角として認めてきたミステリの歴史と読者に対する強烈なインパクトではないだろうか。
これが著者の持論なのか、主人公の想いなのか、
プロットの一環として淡々と描いたものか、麻耶雄嵩を彷彿とさせるようなミステリのあり様に対する痛烈な皮肉なのか。
この点は他の作品も追いながら確かめたい。
ただこの一節が本作の真相を示唆する秀逸な伏線となっているのは間違いない。
「姑獲鳥の夏」も同様で、「本筋に関係ない蘊蓄が長い」と批判されるが、著者の作品は一見して本筋に無関係と思える部分が、真相を導く伏線やプロットの前提条件となっており、量は多いが無駄ではないというのが公平な評価だと思う。
場面を転々とさせながら事件を断片的に語っていく前半部分も、確かに読み辛い構成ではあるものの、事件解明の効果を最大化するための構成の妙と解し評価。
ただ真相の衝撃度は高いものの、プロットの合理性・納得感、謎解きの論理性、トリックの実現可能性等の点で減点せざるを得ない。
著者がそこで勝負していない点は百も承知のうえで。
作品自体が難解であること、世評があまりにも高いこと等も含め、評価が非常に難しいが、一個の読み物としては評価したうえで本格ミステリとしてはこの評価に落ち着いた。
読み手の志向によって評価が分かれる作品


No.119 8点
麻耶雄嵩
(2014/12/29 10:52登録)
ネタバレを避けるためには多くは語れないのだが。
1つ目のトリックを敢えて見え見えにさせることで、2つ目のトリックの存在を巧妙に隠蔽。
それでいて、随所でかなりの綱渡りを演じ切っており、誤認強化と伏線配置のバランスが実に巧妙。
2つ目のトリックは、ありふれた手口を単なるサプライズではなく、事件の真相を解明するために不可欠な手がかりとして使用している点、1つ目のトリックとの補完構造になっている点が画期的。
事件の謎自体に意外性が乏しい点が難点だが、焦点はそこではない。
一見すると中盤までは凡作に見えるが、それさえも作者の意図するところ。
敢えて凡庸なローキックを連発し、狙い澄ましたハイキックで一発KO。
作者らしからぬ地味な印象を与えるが、計算され尽くしたゲーム運びはさすがの一言で、再読して良さがわかる作品


No.118 5点 謎解きはディナーのあとで 2
東川篤哉
(2014/12/22 11:38登録)
近隣の図書館に蔵書があったので読了。
基本的な骨格は第1作と同様。
作品によってバラツキはあるもののロジックもトリックも第1作よりは確実に落ちる印象。
「楽しめる」と言える最低レベルを死守


No.117 6点 消失グラデーション
長沢樹
(2014/10/30 15:18登録)
椎名康・樋口真由・網川緑等の主役級キャラクターの造形が軒並み個性的で、序盤から猛烈に違和感が漂うが、豪快なメイントリックで回収するのが読みどころ。
事件の核となる転落と消失のハウダニットは正直言って小粒。
偶然介在した登場人物が事件の成立に不可欠であるというご都合主義、犯行現場における登場人物の衝動的な行動が欠点。
ただ真相を隠蔽する細かなミスディレクションが巧妙に組み立てられているのは間違いない。
メイントリックは巧妙・徹底を通り越してやり過ぎの感。
決定的に不自然な一言はやはりアンフェアの印象であり、序盤に漂う違和感は解消されるが別の違和感を残す真相。
力作である点は万人が認めるところだろうが、「離れ」が「母屋」より大きくなってしまった印象で、完成度の面で課題を残す


No.116 7点 殺意は必ず三度ある
東川篤哉
(2014/10/03 20:53登録)
まずベース盗難事件という冒頭の掴みが強烈。
第一の犯行は局面が限定され過ぎていてほぼハウダニットと化している中、秀逸なトリックで切り抜けた。
加えて見立てを活かしたベースの処理が抜群。
完成度にはやや難があるものの、鮮やかなインパクトを残す佳作。


No.115 8点 どんどん橋、落ちた
綾辻行人
(2014/09/30 20:57登録)
物語としての魅力を敢えて削ぎ落とし、本格の要素だけを剥き出しにした個性的なパズラーが並ぶ。
フェアプレイを意識しつつ、サプライズを両立させることに成功しており、騙しの技術は絶品と言える。
また綾辻行人自身を主役としたメタフィクショナルな構成とすることで、推理作家としての苦悩を描き出す私小説的な雰囲気も漂う。
最近のホラー寄りの作品にはない、本格の稚気が堪能できる作品


No.114 7点 超・殺人事件―推理作家の苦悩
東野圭吾
(2014/09/19 19:56登録)
下世話な楽屋ネタといってしまえばそれまでだが、示唆に富んだ作品だろう。
ミステリの本質から外れた記載が延々と続く長編群、ミステリ・ランキングの一位だけが売れて後は死屍累々というミステリ界の現状に一石を投じる作品。
パロディとしてはほぼ最高級の評価で、ミステリを愛する方ほど読む価値のある作品


No.113 7点 メルカトルと美袋のための殺人
麻耶雄嵩
(2014/09/19 19:55登録)
例によってミステリや名探偵のコードをことごとく打ち破る銘探偵のあり様が見事で、一筋縄ではいかない作品群。
白眉は「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」。
●●オチという決して褒められない「信頼できない語り手」ネタを斬新な形で使用しつつ、説得力を持たせ、アクロバティックな解決に導く剛腕に脱帽。


No.112 6点 ジークフリートの剣
深水黎一郎
(2014/09/19 19:54登録)
ワーグナーや「ニーベルングの指輪」に対する解説と考察は素晴らしいが、本格ミステリとしては食い足りなさを感じる。
完全犯罪であるが故に、ラスト直前に真相が浮かび上がるとする構造は、コンセプトとしては理解するもののやはり弱い。
地味な伏線を丹念に拾いあげた作業には加点評価。
ミステリに何を求めるかによって評価がわかれる作品


No.111 6点 点と線
松本清張
(2014/09/19 19:53登録)
本格ミステリ凋落の原因とされている作品。
舞台設定や犯行動機は社会派風であるもののプロットの骨格は本格だと思う。
とりわけ最大の謎である「空白の四分間」は映像映えするもので極めてキャッチー。
メイントリックは時代性を反映しており、経年劣化はやむを得ないとしても、補強する状況証拠の真相はチープ。


No.110 6点 マレー鉄道の謎
有栖川有栖
(2014/08/29 16:43登録)
核となる謎の不可解さは相応のものだが、フィージビリティには疑問も残り、目を見張るほどの解決ではない。
犯行はかなり場当たり的で、しかも相当な強行軍。
犯人は意外性に乏しいうえ、致命的なミステイクを犯し、必要のない殺人に及ぶなど軽率な行動が散見。
ある登場人物の愛称を使った伏線は上手さを感じたが、未回収の伏線や挿話も多くアラが目立つ印象。
作品全体の骨格はまぎれもなく本格なのだが、短編向きのコアを長編に仕上げたのが敗因だと思う


No.109 3点 私の嫌いな探偵
東川篤哉
(2014/08/25 14:17登録)
近隣の図書館に蔵書があったので読破。
他の作品にみられるトリックの独創性やロジックのキレ味などが影を潜め、全体に小粒な印象。
著者本来のパフォーマンスが発揮されているとはいえない作品。


No.108 5点 愚者のエンドロール
米澤穂信
(2014/08/22 17:23登録)
ライトノベル風でかなり短めの長編だが、ミステリとしての狙いに意味があり、印象以上に正統的な本格ミステリ。
各登場人物がそれぞれの推理を展開するが、推理の引き出しが多く、人物造形との違和感もない。
最後はきちんと捻って破綻なく着地を決めるなど完成度も高い。
しかし優等生だが突き抜けたところがなく、軽量コンパクトなイメージが拭えない。


No.107 9点 神のロジック 人間のマジック
西澤保彦
(2014/08/20 17:34登録)
ある超有名作品と類似点があり、出版時期が近く、かつ版元まで同じということで相当に割りを食っているが、反転する構図の鮮烈さと完成度の高さからして本作の方が上と評価したい。
(以下ネタバレを含みます)
通常の叙述トリックは、作品の外側にいる読者に対してのみ仕掛けられるが、本作のトリックは直接的には作品の内側にいる生徒たちに対して仕掛けられており、読者は巻き添えを食う構造となっている。
従って、主人公の一人称による叙述には何も仕掛けられておらず、その意味では狭義の叙述トリックにはカテゴライズされないと思われる(たぶん)。
両者は一見類似しているように思えるが、効果は全く異なる。
前者は読者を驚かせる効果しかないが、後者は作品世界自体を全く異なる様相に変えてしまう。
本作は発生する事件自体にはさして見どころがない。
しかし、超高齢社会が抱える家族関係の希薄化、認知症患者の増加など、多くの社会問題を想起させるプロット、殺人の動機を共同体幻想の維持・防衛とすることで、メイントリックと完全に連結させ、クローズド・サークルものの急所ともいうべきホワイダニットを鮮やかに処理した点が極めて秀逸。
ラストの後味の悪さが指摘されるが、犯人の動機からして最終的には共同体自体の破壊に向かうのは必然。
本作の最大の泣き所は舞台設定のリアリティの弱さにあるが、生徒数を共同体幻想の維持に最適な水準に設定し、新入生の登場を最大の危機として描く等、合理性確保に向けて最大限努力。
母親とのやり取りの回想が真相を示唆する伏線として強烈に機能しているほか、スナック菓子の消失という一見日常的な謎に隠された皮肉極まりない意図が見事。
先生と生徒たちの対峙を「宗教戦争」と説明するくだりは、現実社会における認識の相対性と、それを巡る諸国・諸民族の争いを強く想起させるもので天晴の一語


No.106 7点 交換殺人には向かない夜
東川篤哉
(2014/08/18 14:13登録)
メイントリックの破壊力は十分。
ただ読者が真相に迫り得る材料はなく、犯行現場の地理関係はじめ仕掛けが不発に終わっている。
細かな伏線は丁寧に拾っているものの、消化不良感が否めない。
著者の実力の一端は示しているが、作品の完成度が不十分なのが惜しい


No.105 6点 虚構推理 鋼人七瀬
城平京
(2014/08/18 14:13登録)
ミステリのありように対する問題認識はわかる。
著者の試みがミステリとして意味があることも認める。
しかし設定がアクロバティックすぎるのが難点。
主人公たちの特殊能力や超常現象をもっと限定的にすべきだったように思う。
作品世界が現実世界から遊離しすぎていて、作品の主題が散漫になっている。
ライトノベル風の作風もこうしたファンタジー感覚を助長している。
将来のメディアミックス展開が念頭にあるのかもしれないが。
想像以上にロジカルな骨格の力作だけに残念


No.104 6点 写楽 閉じた国の幻
島田荘司
(2014/08/11 18:46登録)
読了した当時、本作が指摘した東洲斎写楽の正体が著者独自のアイデアであると誤認し、プロットには顕著な破綻が見られるものの、その奇想は突出していると極めて高く評価した。
しかし、それは私の勉強不足であり、その真相には多数の前例があることを知った。
それをふまえて、再度本作を評価するならば、着眼点以外に評価すべき点がなく、プロットの破綻ばかりが目に着く印象。
本題に無関係の導入部が延々と続き、肝心の重要な伏線が回収されず、それを後書きで紙幅が足りなかったとエクスキューズしている点。
現代編だけで読者を説得できる材料が十分に整っていたにもかかわらず、蛇足と言うべき江戸編が存在している点。
読書時点で前例があることを知っていれば、さらに評価が低くなったであろうことは明白だが、読了当時の興奮を考慮して6点とする
数多い読了作品のなかで、とりわけ評価が難しく、ほろ苦い印象の残る作品となった


No.103 5点 しらみつぶしの時計
法月綸太郎
(2014/08/11 18:43登録)
表題作は短編のオールタイムベスト上位にランクインする世評の高い作品。
大いに期待して手に取ったのだが、ハードルは超えられなかった。
着想としては面白いものの、ある1点に着目すれば解けるパズルで、最大の難所である二者択一もお茶を濁して終了。
1,440の必然性もなし。
10編掲載されている短編のうち3~4編は水準以上であり、したがって短編集としても水準以上ではあるが、飛び抜けた作品はなく必読の域には達していない


No.102 9点 神様ゲーム
麻耶雄嵩
(2014/08/01 17:23登録)
どんなに緻密に構成されたミステリでも、ロジックの不備は存在するし、提示された真相以上に蓋然性の高い真相は存在し得る。
それでも提示された真相を「真実」として扱うことができるのは、探偵が「真実」と断定するからである。
探偵は作品世界の中で「神様」として君臨する。
この探偵の無謬性の問題を徹底的に追求した作品が「メルカトルかく語りき」であり、それをベースにした変化球が本作であると理解している。
本作ではもはや「無謬の銘探偵」どころか、文字どおり「神様」が登場する。
本作では2つの仮説が提示されるが、いずれも合理的に成立する余地があり、いずれに立つかによって犯人が変わる。
ひとえに読者が「神様」を信じるか否かで「真実」が決定する。
ミステリにおける「真実」の相対性を抉り出すことで、現実社会においても所詮「真実」は相対的な概念でしかないことを突き付けてみせたのだと思う。
本作はこども向けとして相応しくないと評価する向きが多いようである。
その心情は一定程度理解できるものの、果たしてそうなのだろうか(こどもが本作を理解できるかどうかは別として)。
「真実」の危うさ・いかがわしさ、人生や社会の残酷さや不条理が、まぎれもない真実である以上、こどもに一本道の美談や、紋切り型の勧善懲悪ばかり読ませることが望ましいことなのだろうか。
こども向けという舞台設定を逆用し、敢えて放たれた悪辣な企み。
私はじめナメてかかった大人たちをも完膚なきまでに叩きのめす野心的試みを最大限評価

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