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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:558件

プロフィール| 書評

No.138 8点 聯愁殺
西澤保彦
(2015/03/04 20:18登録)
本書のプロット・構成に対してアンフェアとの意見も散見されるが、氷川透氏による解説が的確だと思う。
一見して、本作の大半が「犯人はなぜ主人公を殺そうとしたのか?」という謎に対する「解決篇」を装いながら、実は大半がより上位の謎に対する「問題篇」であるという構成が絶妙。
主人公の思考を読者に対しての伏線としつつ、逆にミスリードする仕掛け、真相を隠蔽するトリックのいずれもが実に巧妙。
犯人の動機は陰惨な犯行と犯人を待ち受ける壮絶なラストに相応しく、読み応えのある傑作。


No.137 3点 黒い仏
殊能将之
(2015/03/02 17:38登録)
作者がやりたかったであろうことは理解するし、意味のないことだとは思わない。
与えられた条件での探偵による真相解明にもある程度の合理性がある。
ただ、クロフツを標榜するにはネタがセコすぎて、狙いが効果を挙げているとは言い難い


No.136 6点 能面殺人事件
高木彬光
(2015/03/02 17:34登録)
海外有名作品のネタバレや犯行方法等で大きく評価を下げている作品だが、全体としては相応のレベルと評価。
犯行現場を密室とした必然性も説明されているし、真相解明に至る伏線も巧妙。
プロットは当時としては画期的であっただろうが、全編が手記という構成故に、真相が見えやすくなっている点が難点。


No.135 7点 ここに死体を捨てないでください!
東川篤哉
(2015/02/27 17:39登録)
犯人・探偵サイドが意識しないまま接近し、限定された情報から誤った推理をぶつけ合う展開が楽しめる。
メイントリックは非現実的との批判は免れ得ないものの、アリバイ工作としては他にないユニークな仕掛けであり、作風が違和感を緩和。
解明に向けた手がかりを巧妙に配し、犯人の所在不明や提示された謎に一定の説明を与えている。
ユーモアあふれるストーリーテリングもこなれている部類。
以上、数ある著作の中では完成度は高いのだが、作者の立ち位置・作風からするとややエッジは不足気味。
まとまりのない長打か、まとまった単打になってしまうあたりに、物足りなさは感じる


No.134 9点 不連続殺人事件
坂口安吾
(2015/02/25 16:22登録)
「木は森の中に隠せ」の王道を地で行く作品で、本来のターゲットに、やむを得ざる殺人と無関係な殺人が混然一体となったプロット、「不連続殺人事件」のタイトルは非常に秀逸。
一方、犯人当て懸賞付小説として発表されたフーダニットという経緯からして、ある程度やむを得ないものの、登場人物が極めて多く整理不足、全員が個性的すぎて書き分けが不徹底である点は難点。
従って、犯人の行動の非合理性からその心理を推測し、真相解明に向かう手筋は鮮やかであるものの、登場人物の普段の言動がトリッキーすぎることで効果が半減している点は事実。
文体の独特さと読み辛さが指摘されることが多いが、概ね当時の仮名遣いや言い回しの慣習によるものであり、筆致自体は簡潔で非常にわかりやすかった。
反面、異様な連続殺人にもかかわらず緊張感には乏しいのだが。
以上、毀誉褒貶相半ばする作品だが、個人的には壮大なスケールの連続殺人を僅かな手掛かりから解明する手際の良さ、随所に散りばめられた伏線の妙を高く評価


No.133 5点 女囮捜査官  触姦
山田正紀
(2015/02/23 12:54登録)
シンプルな事件の真相を巧妙に隠蔽しつつ、再三にわたるどんでん返しが読み処だが、結局犯行状況から真相が見えやすくなっている点が難点。


No.132 4点 江戸川乱歩傑作選(新潮文庫)
江戸川乱歩
(2015/02/23 12:53登録)
各作品の歴史的意義は無条件で認めるものの、リアルタイムで冷静に評価するならば、やはり相当に古さを感じると言わざるを得ない。
本格寄りの作品より「赤い部屋」等の怪奇小説寄りの作品に良さを感じた


No.131 7点 過ぎ行く風はみどり色
倉知淳
(2015/02/23 10:41登録)
提示される謎の不可解さは強烈。
メイントリックは複数の材料を組み合わせたもので、幸運に支えられたご都合主義、ある登場人物の言動が釈然としない、解明の手がかりが少ないといった難点はあるものの、ミスリードとしては巧妙。
一方、犯行自体は無計画かつ突発的なもので、綱渡りのトリックが犯人を隠蔽している中、2番目の犯行が犯人を特定する決定的な材料となっており、プロットとしては脆弱と言わざるを得ない。


No.130 6点 ゼロの焦点
松本清張
(2015/02/17 18:48登録)
著者の簡潔な筆致と冬の金沢の抒情性あふれる舞台設定が相まって、ストーリーテリングは申し分ない。
一方、敢えて書かない作品だとは承知しているものの、犯行理由・経緯が不明な2件の殺人、主人公の推理の飛躍が散見される点は減点材料。
「点と線」と比較した場合、空さんの評価と同様に「読物としての完成度は上、ミステリとしての論理性は下、合計点でやや下」と評価


No.129 5点 名探偵の掟
東野圭吾
(2015/02/16 16:26登録)
ミステリのコードを揶揄する作品群を通じて、安易なトリックの濫用と、それが無批判に受け入れられる風潮への問題認識を提示。
本格に対する愛情・愛着と自作に対するプライドが強く感じられた。
ただ同じパターンが12回続くため、後半は正直食傷気味。
同様の趣向の「超・殺人事件」と比較すると、一段も二段も落ちると言わざるを得ない。


No.128 5点 美濃牛
殊能将之
(2015/02/13 17:41登録)
プロローグで犯人の名前を明記する大胆な趣向が、却って読者をミスリードする仕掛けになっている点が際立った特徴。
視点を次々と変更することにより、各登場人物の認識・思惑のずれを少しずつ明らかにする手際も巧妙。
ただ、謎の解明が小出しに過ぎて、最終盤には容疑者が限定されすぎたこと、真相隠蔽の手段は巧みであるものの、真相の作為性や真犯人の動機の非合理性が否めないこと等により、真相判明時のカタルシスは小さい。
プロット全体では一定の合理性を志向しながら、解明されない謎・非合理的現象も多く、完成度にも疑問。


No.127 6点 キングを探せ
法月綸太郎
(2015/02/09 16:39登録)
効果的な倒叙形式の活用、探偵の介入による軌道修正等、プロット全体の完成度は高い。
一見して叙述トリックとはわからないトリック等、随所で読者の誤認を突く巧妙な仕掛けが、非常にテクニカル。
ただ強烈な緊張感やインパクトには欠け、軽量コンパクトにまとまっている印象


No.126 9点 死の命題
門前典之
(2015/02/02 20:16登録)
ネタバレせずに論評するのが非常に厳しいのだが、本作のメインプロットは典型的なクローズド・サークルの中で、通常ミステリで常識とされる事実関係を一貫して完全に倒置させる趣向である。
これ自体が相当な奇想である訳だが、冒頭の「読者への挑戦状」に見られるようにフェアプレイを意識しつつ、犯行手段をはじめ非常に徹底したカタチで実現している。
そのため、極めて実現性の低い事象・トリックを複数使っているのだが、プロット全体における必然性に加えて、特にプロローグを活用した巧みな構成力でカバーし、読者の違和感を最大限抑制。
豪快なトリックの陰で、随所に見られる伏線・見立ての活用や人物造形の巧みさも光る。
登場人物の行動が合理性を欠く箇所も散見されるものの、壮大なる奇想に比べれば許容範囲か。
版元がややマイナーであり、入手困難である点で非常に損をしているが、バカミスを愛する人には必読の傑作。


No.125 4点 七つの海を照らす星
七河迦南
(2015/02/02 20:15登録)
児童養護施設の日常の謎を巡る連作短編集。
冒頭の何編かはまずまずの完成度であるものの、後半は徐々にトーンダウン。
トリックの実現性が高いものの、通り一遍で奇抜さに欠けるのが難点であり、後半はかなり退屈な印象。
最終話に連作短編集ならではの趣向があり、「学園七不思議」としての必然性をまとめあげるのだが、それほど驚くべき真相とも言えず、仕掛け自体にも難があり、正直小粒感は否めない。
本作の題材からすると好き嫌いはともかく、もっと社会派寄りのアプローチもあり得たと思うのだが、その面でも斬り込み切れず、問題意識の醸成や感動には至っていない。


No.124 8点 法月綸太郎の功績
法月綸太郎
(2015/01/26 11:16登録)
「都市伝説パズル」は世評が圧倒的に高く、短編のオールタイムベストで最上位の評価を受ける作品。
アイデアは素晴らしいが、残された手掛かりが強烈すぎるだけに却って犯人特定を容易にしてしまっているのが決定的に難点。
個人的ベストは「縊心伝心」。
些細な手がかりから、動機・犯行経緯まで明らかにするロジックは「スイス時計の謎」を彷彿とさせる美しさ。
「イコールYの悲劇」はテーマが指定されたアンソロジー収録の短編であるため、やや強引さが目立つが、水準を大きく超えるレベル。
大きく外した作品がない点も含め、短編集としては最高級の部類


No.123 7点 秘密
東野圭吾
(2015/01/19 14:47登録)
作品の前半部分では進行している事態の重大性にもかかわらず、夫の動きが鈍くヌルい対応にかなりイライラさせられるのだが、その弱さ・至らなさ故に不条理な現実に翻弄され、却ってその誠実さを印象付けられる。
夫にのみ共感が集まっているようだが、自分の人生を途中で断ち切られ別人として生きていくことを余儀なくさせられた無念さ、娘への愛情から学業とスポーツに打ち込みながら家事と両立させていく妻の真摯な想いも胸を打つ。
どんでん返しは仕掛けとしてはそれほど傑出したものではないが、ささやかな伏線からタイトルの持つ重大な意味に収斂させた手際は流石


No.122 3点 謎解きはディナーのあとで 3
東川篤哉
(2015/01/14 14:55登録)
第2作と同様に近隣の図書館に蔵書があったので読了。
みなさんの評価と同様。
第1作からはもちろん、第2作からもさらに劣化しており、著者の力量からして最低限の水準にも達しておらず残念。
せっかくの大ヒット作品であるだけに、本作をもってシリーズ完結なのであれば妥当な判断。


No.121 6点 丸太町ルヴォワール
円居挽
(2015/01/14 14:54登録)
まず前提としてミステリとして意味のあることをしようとしているのは理解。
後半のどんでん返しの連続は、それほど納得感がある訳ではないのだが、伏線の配置が巧妙。
読者が「ここが伏線ではないか」と気づき得るように敢えて記載に違和感を持たせつつ、それでいて読了時まで真相には辿り着けないバランスが絶妙。
メイントリックが2つ仕掛けられているが、一方が他方のトリックの隠蔽に効果を上げている点も評価。
評価が分かれるのはたぶん作風。
登場人物全員が「ティーンエイジャーかそれに類する年代」かつ「美男美女」かつ「頭脳明晰」で、ほとんど嫌味とも言える高度な知的応酬がハナにつくかどうか。
著者としてはこのあたりを察したうえで、敢えて特異な舞台設定を選び、ライトノベルタッチにすることでオブラートに包んだのだろうが、ややどっち付かずの印象。
デビュー作にありがちだが、筆致が上滑り気味である点も否めない。
以上を総合してこの評価としたが、技術的には相当レベルの高い作品


No.120 7点 魍魎の匣
京極夏彦
(2015/01/06 20:11登録)
「そう。動機とは世間を納得させるためにあるだけのものに過ぎない。犯罪など―こと殺人などは遍く痙攣的なもんなんだ。
真実しやかにありがちな動機を並べ立てて、したり顔で犯罪に解説を加えるような行為は愚かなことだ。
それがありがちであればある程犯罪は信憑性を増し、深刻であればある程世間は納得する。そんなものは幻想に過ぎない。」
真実はそうなのかもしれないが、動機の合理性を構成要素の一角として認めてきたミステリの歴史と読者に対する強烈なインパクトではないだろうか。
これが著者の持論なのか、主人公の想いなのか、
プロットの一環として淡々と描いたものか、麻耶雄嵩を彷彿とさせるようなミステリのあり様に対する痛烈な皮肉なのか。
この点は他の作品も追いながら確かめたい。
ただこの一節が本作の真相を示唆する秀逸な伏線となっているのは間違いない。
「姑獲鳥の夏」も同様で、「本筋に関係ない蘊蓄が長い」と批判されるが、著者の作品は一見して本筋に無関係と思える部分が、真相を導く伏線やプロットの前提条件となっており、量は多いが無駄ではないというのが公平な評価だと思う。
場面を転々とさせながら事件を断片的に語っていく前半部分も、確かに読み辛い構成ではあるものの、事件解明の効果を最大化するための構成の妙と解し評価。
ただ真相の衝撃度は高いものの、プロットの合理性・納得感、謎解きの論理性、トリックの実現可能性等の点で減点せざるを得ない。
著者がそこで勝負していない点は百も承知のうえで。
作品自体が難解であること、世評があまりにも高いこと等も含め、評価が非常に難しいが、一個の読み物としては評価したうえで本格ミステリとしてはこの評価に落ち着いた。
読み手の志向によって評価が分かれる作品


No.119 8点
麻耶雄嵩
(2014/12/29 10:52登録)
ネタバレを避けるためには多くは語れないのだが。
1つ目のトリックを敢えて見え見えにさせることで、2つ目のトリックの存在を巧妙に隠蔽。
それでいて、随所でかなりの綱渡りを演じ切っており、誤認強化と伏線配置のバランスが実に巧妙。
2つ目のトリックは、ありふれた手口を単なるサプライズではなく、事件の真相を解明するために不可欠な手がかりとして使用している点、1つ目のトリックとの補完構造になっている点が画期的。
事件の謎自体に意外性が乏しい点が難点だが、焦点はそこではない。
一見すると中盤までは凡作に見えるが、それさえも作者の意図するところ。
敢えて凡庸なローキックを連発し、狙い澄ましたハイキックで一発KO。
作者らしからぬ地味な印象を与えるが、計算され尽くしたゲーム運びはさすがの一言で、再読して良さがわかる作品

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