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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:570件

プロフィール| 書評

No.170 6点 花の棺
山村美紗
(2015/06/30 17:13登録)
みなさんのご指摘に同感。
シンプルで美しいトリックには見所があるのだが、必然性やフィージビリティに見逃しがたい難があり、犯行の不合理性を犯行動機のみで説明しようとしているため、プロットが納得感に乏しい。
アイデア先行のミステリパズル・クイズと言うべきで、作品の完成度は低い


No.169 5点 貴族探偵対女探偵
麻耶雄嵩
(2015/06/25 16:22登録)
本作は着想の時点で失敗だろう。
探偵同士の推理合戦が見所であるため、パズラーであるにもかかわらず、ダミー(女探偵)の推理には穴を空けておかざるを得ない。
そのうえ、女探偵に「必ず貴族探偵を犯人に指名する」という厳しいハードルを課しているため、その推理に不自然や無理が強く発生。
結果、各作品とも著者の実力を大きく下回る水準となっている。
その中で、「幣もとりあへず」は著者らしさを発揮した問題作で、インパクトは大きいのだが、ロジカルに真相に辿り着けない致命的な弱点が存在するように思われる。
短編集の締めくくりも美しい着地ではあるものの、予定調和的でインパクトには乏しい。
以上、作品のクオリティは4点相当だが、著者の個性とチャレンジ・スピリットを評価して1点加点


No.168 7点 赤い指
東野圭吾
(2015/06/24 17:15登録)
得意(たぶん)の倒叙形式で、犯行とその後の隠蔽工作を通じて、教育の崩壊、家族の孤立化、介護といった現代社会の闇を赤裸々に描き切った。
真相解明にあたっては、細かな伏線を回収しつつ、最後は人情味あふれるアプローチで見事な締めくくり。
重量感とスピード感が絶妙にバランスされたストーリーテリングも円熟の域。
相変わらず達者、素晴らしく達者なのだが、メイントリックはXのバリエーションだし、著者の実力を考えれば、プロットさえ思いつけばいくらでも書けるレベルの作品。
作品のデキとしては文句ないのだが、読者としては「良質な量産品」の域を超える「勝負がかった本格」を書いてもらいたい


No.167 6点 虚無への供物
中井英夫
(2015/06/24 17:13登録)
ペダンティズムによる重武装を解除して見るなら、本格ミステリとしての骨格は脆弱。
提示されている謎の不可解性とは裏腹に、その真相やトリックの衝撃度、謎解きの論理性は至って弱い。
アンチミステリたるラストは、現代に繋がる先鞭を付けた点も含め評価。
読了後に改めて俯瞰するなら、作品全体がラストのための壮大な伏線であったと解するべきかもしれない。
以上を総合すると、発表当時はともかく、現時点では「三大奇書」との触れ込みによる評判先行と言わざるを得ず、世評に相応しい得点を献上する訳にはいかない。
ただ本作を読破することで、ミステリ界の確かな前進を実感できた点で、逆説的ではあるが価値ある読書であった。
各作品の歴史的な価値を考慮せず、同時代的に見る立場からは、この評価


No.166 7点 奪取
真保裕一
(2015/06/16 18:29登録)
多くの方が指摘されているとおり、主人公がスーパースターすぎる、偽札製造に必要な材料が都合よく入手できてしまうなどのご都合主義が散見。
また主人公は、偽札製造には細心の注意を払いながら、対帝都・東建において一貫して不用意・軽率な行動が散見され、その合理性は大いに疑問。
しかし、こうしたディテール以上に、主人公の行動原理(作品の主題とも言える)に大義がない点は重く見たい。
エンタテインメントとしては満点に近い評価だが、以上の点をふまえて7点の下位


No.165 6点 富豪刑事
筒井康隆
(2015/06/08 16:11登録)
刑事が富豪だったらというワンアイデアでありながら、エンタテインメントとしてさすがの完成度。
伝統的なミステリを揶揄するかのような作風、変幻自在のプロット、適度なボリュームで読者を飽きさせない展開は見事


No.164 3点 デッド・ロブスター
霞流一
(2015/06/08 16:10登録)
犯人特定に至るロジックの鮮やかさは評価。
一方、トリックはフィージビリティに難があるのはいいとしても、手がかり・証拠に乏しく、合理的な推論の域を出ない。
見立ては犯人にとっての必然性、エンタテインメントとしての面白さ、双方で弱い。
例によってストーリーテリングも上手いとは言えない


No.163 2点 『クロック城』殺人事件
北山猛邦
(2015/05/27 13:52登録)
「ゲシュタルトの欠片」「真夜中の鍵」「スキップマン」「SEEM」「11人委員会」「ドール家の遺伝子」など、風呂敷を拡げるだけ拡げた本作。
これらの謎が、ことごとく作品の急所を隠蔽するためだけに使われ、プロット・トリック・真相と関わることなく、きちんと説明されないまま終幕を迎える点が致命的。
メイントリック(上記の謎の前ではもはやメインとさえ言えないが)は、こうした壮大すぎる謎に比して如何にもチープであり、しかも上記意図にもかかわらず真相が見えやすくなっている。
メイントリックが解き明かされた後の、どんでん返しの連続や首切りの理由も、緊迫感はあるものの合理性・論理性に乏しく、ファンタジーの域を脱しない。
小さな急所を隠すためにさらけだした巨大な急所。
小さな謎の解決から生み出された小さなカタルシスと、放り出された山ほどの巨大な謎のために残る巨大な消化不良。
自ずと厳しい評価を下さざるを得ない


No.162 7点 女王国の城
有栖川有栖
(2015/05/21 19:05登録)
前作からの15年間の歳月の中で、ストーリーテリングの腕前は格段に上がっており、エンタテイメントとしてはシリーズ最高のデキだろう。
クローズド・サークルが形成された(警察への通報を頑なに拒んだ)理由、江神が訪れた理由、犯行動機の合理性のいずれも、非常に堅固で完成度は高い。
しかし、いかんせんボリュームに比してミステリの核が小さすぎる。
凶器に着目したシンプルで鮮やかなロジックは面目躍如たるところだが、逆に言えばそれだけの作品。
第一の犯行で残された痕跡から、作品の急所が見えやすくなっているのも残念なところ。
前段の加点要素でかろうじて7点には届いたが、ミステリとしてのスケール感において、「双頭の悪魔」「孤島パズル」に遠く及んでおらず、本シリーズに求める高いハードルを華麗に超えたとは言い難い


No.161 9点 見えない精霊
林泰広
(2015/05/14 17:13登録)
久々に会心の本格ミステリとの出会い。
ウィザードが提示する仮説を少女が打破するという一連のプロセスを、迂遠なまでに徹底することにより、提示される謎の不可能性は比類なき強烈さ。
そのうえで、この謎をシンプルなメイントリックの一撃で氷解させるエレガントさが実に見事。
トリック自体はバカトリックスレスレだし、フィージビリティの面でもノーエラーで成立するか疑問の余地もあるのだが、それを問題にしない破壊力。
また、このワンアイデアで、真相解明の論理性を担保しつつ、カタルシスを演出するにあたって、周到に計算し尽くされた特殊な舞台設定と、緻密な手順・伏線が光る。
そのため、催眠術はじめ極端に人工的な世界観となり、読者に若干の違和感を与えている点はやむを得ないだろう。
読者を選ぶ作品であるのは間違いないが、豪速球で押しまくる豪腕と心意気を高く評価して、この評価


No.160 7点 吸血の家
二階堂黎人
(2015/05/14 17:12登録)
本作最大の見所と言うべき、雪上の足跡なき殺人のトリックは奇想であり白眉。
その他のトリックも総じて水準を超えるレベルなのだが、伏線の配置や登場人物の造形に甘さ。
プロット・トリックといった作品の核は充実しているのだが、完成度の低さから強い説得力をもたらすには至っておらず、もったいない作品


No.159 5点 怪笑小説
東野圭吾
(2015/05/07 15:11登録)
ユーモアも毒も相応に効いているのだが、いかんせん目新しさやパンチ力に乏しく物足りなさが否めない


No.158 4点 アリア系銀河鉄道
柄刀一
(2015/05/07 15:10登録)
仮想現実を舞台とした本格ミステリの場合、何にも増して前提条件を明らかに、限定的にしておく必要があるが、本作は作り込みに甘さがあり、真相解明時のカタルシスを大きく減じている印象。
真相解明にあたっても、不可解な点が多く、論理性に綻びを感じる


No.157 7点 黒い白鳥
鮎川哲也
(2015/05/01 13:24登録)
プロット全体としては本筋からの脱線も散見されるなど、完成度としては今ひとつであり、アリバイトリックも凡庸。
しかし、そのトリックを補強するために使用されているサブトリックの奇想が際立っている。
エピローグで明かされる伏線も実に巧妙。
犯行全体の合理性・フィージビリティ、犯人の人物造形との親和性等も高く評価


No.156 6点 三毛猫ホームズの推理
赤川次郎
(2015/04/28 17:39登録)
いまや大衆作家と言われる著者だが、キャリアの最序盤には正しく本格ミステリ作家だったことを物語る作品。
見所はシンプルかつ豪快な物理トリックで、伏線も含めて見事に着地。
ご都合主義、犯人特定の容易さ等は目につくものの、ユーモアあふれるストーリーテリングによるリーダビリティの高さも評価して6点の上位


No.155 7点 戻り川心中
連城三紀彦
(2015/04/28 17:37登録)
短編集として常にオールタイムベストの上位にランクインする本作。
収録作品はいずれも優れたホワイダニットで、手段としての殺人や心中に冴えを見せる。
特に「戻り川心中」「藤の香」「桔梗の宿」が上位。
大正・昭和の暗い世相や舞台設定を伏線として活かし、プロットを反転させる手法で生み出す意外性と、高い抒情性を両立させており、世評に違わぬ作品。


No.154 6点 法月綸太郎の新冒険
法月綸太郎
(2015/04/24 14:43登録)
本作もクオリティの高いパズラーがズラリと並んでおり、相変わらず短編では群を抜く存在の著者。
真相の意外性では「背信の交点」「身投げ女のブルース」「リターン・ザ・ギフト」が上位。
ただし、「身投げ女のブルース」を筆頭に、ご都合主義の印象が強く、完成度としてはもう一歩。


No.153 6点 亜愛一郎の狼狽
泡坂妻夫
(2015/04/21 20:12登録)
多くの投稿者が評価されているように、一見すると推理の論理性は低く飛躍が散見。
しかし、これは人間性を逆説的に捉えた奇妙な論理に徹したことの副作用であり、これを著者のオリジナリティや稚気と解することができれば高評価。
無駄のないミステリパズルのようなプロットと、遊び心あふれるストーリーテリングには好感


No.152 2点 天帝のはしたなき果実
古野まほろ
(2015/04/21 20:11登録)
ルビ塗れで口語体と文語体が混在した、異様な文体は慣れれば読めないことはない。
衒学趣味は聖書・源氏物語・十字軍にはじまり、果てはアニメ・コミックまで、思い付きを全部投入した闇鍋状態で、しかもプロットとは何の関係もない。
登場人物がほぼ全員高校生という舞台設定と、描かれる世界の間には親和性もヘッタクレもない。
中盤の推理合戦はロジックの追求こそ不十分であるものの、本格の片鱗を感じさせたが、結局はすべてを放り出して大風呂敷を拡げるだけ拡げて読者を置き去りに。
通常、ミステリは冒頭に拡散させた謎を真相に向かって収束させていくものだが、拡散させる一方で全く収束させないままラストを迎える。
結局は、そもそも読者に理解してもらおうなどと顧慮さえしていない、高度に自覚的というか確信犯的なマスターベーションと見るべきだろう。
ストーリーテリングは独特のリズム感もあり決して下手ではないし、プロセスには見るべきものもあるのだが、そうした点を部分的に評価することなく、ミステリとしてのあり様を真正面から捉えてこの評価


No.151 4点 官能的 四つの狂気
鳥飼否宇
(2015/04/14 18:45登録)
メイントリック勝負の作品なのだが、素直に、前向きに評価するのは難しい。
仕掛け自体が完全にアンフェアなのはまだいい。
問題は各短編がそもそも正統的な本格ではなく、ぶっ飛んだ内容なので、メイントリックがサプライズに繋がらないという構造的な課題。
加えて、各短編は一旦暫定的な解決を迎えるのだが、メイントリックの必然性を説明する根拠としては弱く、しかも違和感が残るラスト。
上手く伝えられないのだが、ストレートを見せ球に使って変化球を投げないと、全球変化球では効果に乏しいということか

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