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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.341 7点 夢幻花
東野圭吾
(2017/07/26 16:19登録)
例によってミステリとしては水準程度の作品であり、読者がロジカルに到達できない真相から、本格としては水準にも達していない。
しかし、一見無関係と思われる細かな伏線を余すところなく回収し、「負の遺産」というテーマに収斂させていくプロットの完成度、明快な叙述によるストーリーテリングの高さは抜群。
主要登場人物がことごとく過去に挫折した経験を持ちながら、懸命に生きていく姿は、逆境に立ち向かう読者へのエールとなっており、読後の印象も極めて爽やか。
著者の実力が遺憾なく発揮された佳作であり、作品のデキには文句はないのだが、著者には「良質な量産品」の域を超える「畢生の本格ミステリ」を書いてもらいたいところ


No.340 5点 スイート・ホーム殺人事件
クレイグ・ライス
(2017/07/25 11:41登録)
ミステリとしては水準程度。
ホームコメディタッチのミステリとして良さが感じられる作品だが、例によって直訳一辺倒の翻訳(特に指示代名詞)がリーダビリティを大きく減じており、損をしている印象


No.339 5点 裏口は開いていますか?
赤川次郎
(2017/07/20 15:08登録)
ブラックコメディタッチのホーム・サスペンス小説で、ミステリとしてはご都合主義というよりも、予定調和的すぎて見どころに乏しい。
ただ、倦怠期を迎えた中年夫婦のW不倫、金銭の詐取を狙った誘拐と詐欺、若い娘の四角関係への苦悩等、新鮮味に乏しい題材やアイデアを、明解なプロットと軽妙なタッチで見事に料理。
リーダビリティは抜群で、著者の筆力の高さが発揮された作品


No.338 5点 百万ドルをとり返せ!
ジェフリー・アーチャー
(2017/07/17 17:56登録)
サプライズに乏しいプロットもさることながら、優秀な詐欺師とされるメトカーフを次々と陥れる4人の計画が、非合理的なうえに極めて稚拙かつ乱暴という、ミステリとしての作り込みの甘さが致命的であろう。
単純明快でキャッチーな主題と、登場人物の造形・描写に見どころはあるものの、コン・ゲーム小説の傑作との世評には賛同しかねる作品


No.337 4点 神津恭介、密室に挑む: 神津恭介傑作セレクション1
高木彬光
(2017/07/09 16:09登録)
特に「妖婦の宿」「影なき女」の2作が世上高く評価されている短編集。
無理と無駄の少ない筋肉質なパズラーという作風には好感が持てるのだが、やはり古い。
新本格以降のミステリを渉猟してきた立場としては、退屈に近い古さと言わざるを得ない


No.336 3点 龍臥亭事件
島田荘司
(2017/07/03 16:18登録)
ミステリとしてはご都合主義を超えて、もはや空想的と呼ぶべきレベル。
津山事件の描写には、作者の高い筆力が反映され、日本論・日本人論として見るべき部分もあるのだが、参考文献を無批判にコピーしているとも考えられ、作者の作品として評価することはできない。
また、本作の性格に照らして、ボリュームが多すぎるのも大きな難点。
以上、作品として読ませる部分もあるのだが、その評価は批判的にならざるを得ない


No.335 6点 海底二万里
ジュール・ヴェルヌ
(2017/07/03 16:17登録)
隙のない博物学的なガジェットが、本作の舞台設定に相当なリアリティを付与しており、1個の作品世界を構築する力は大いに買うところ。
一方で、そのボリュームが多すぎることが、ストーリーテリングのダイナミズムの喪失と、プロットの曖昧化を招いている印象が強く、惜しい作品


No.334 8点 八十日間世界一周
ジュール・ヴェルヌ
(2017/07/03 16:15登録)
まず、80日間で世界を一周できるかというキャッチーなプロットが抜群。
世界各地の興味深い習俗・文化に関する描写、各処で勃発するトラブルがもたらすスリルが本作に華を添えている。
スピーディな展開による高いリーダビリティと、ラストの痛快な逆転劇も実に見事。
狭義のミステリに該当しない作品としては最高級の評価で、万人が一読すべき傑作


No.333 3点 ミステリアス学園
鯨統一郎
(2017/06/20 15:50登録)
本作の執筆意図からミステリとして評価するつもりはないのだが、ミステリ入門書としては紋切り型で踏み込みが浅すぎるし、メタミステリとしては自己満足でしかないという印象


No.332 5点 ふたたび赤い悪夢
法月綸太郎
(2017/06/16 21:57登録)
ご都合主義と評価するまでの悪質性はないものの、人間関係の設定や、登場人物の行動等にかなり無理があり、リアリティが感じられない。
また、ハッピーエンドの到来が、早々に、かつ濃厚に漂っていて、緊迫感に乏しい点でも減点。
悪い作品ではないものの、水準には達していない


No.331 6点 鷲は舞い降りた
ジャック・ヒギンズ
(2017/06/09 10:41登録)
壮大かつシンプルな、よい意味での、いわばハリウッド映画的なプロットと、魅力的な登場人物を描く筆力は評価。
一方、翻訳は指示代名詞連発の直訳調で非常にわかりにくく、損をしている印象が強い


No.330 5点 放浪探偵と七つの殺人
歌野晶午
(2017/05/28 14:04登録)
オーソドックスでフェアなパズラーを志向する作風には好感が持てる。
作品間の毀誉褒貶が激しく、一部の不出来な作品も考慮すると、全体としてはこの評価


No.329 4点 ミステリ・オペラ
山田正紀
(2017/05/17 17:12登録)
綿密な取材に裏付けられた壮大な舞台設定とディテール、冒頭から示される不可能興味に溢れる謎の数々、高い筆力を窺わせる流麗な文章には一目を置く。
しかし、密室状態での銃殺・轢殺、20分間の空中浮遊、消えた車輛等の数々の謎について、その真相とトリックがことごとく、極めて、凡庸かつ陳腐である点で、本格ミステリとしては評価に値しない。
また、そのプロットも、満州国の歴史の真相、主人公の内的パラレル・ワールド、過去と現代における数々の事件、虚構(探偵小説)と現実との関係など、各方面に発散するだけで収斂させられていない。
ミステリ的趣向・衒学・オマージュを手当たり次第にゴッタ煮にしてみたものの、1個の料理にはならなかったという印象で、華麗なる失敗作と言えよう


No.328 6点 Zの悲劇
エラリイ・クイーン
(2017/05/07 09:34登録)
真相解明に至るプロセスにおいては、その根幹を成す利き手・利き足の根拠の薄弱さが大きな弱点。
その他、冤罪事件を生んだ当局による杜撰な捜査、魅力に乏しい容疑者の人物造形、レーンが犯人候補を3人に限定した後の不可解なまでに迂遠な捜査など、プロットの綻び・不味さが散見。
以上、本格ミステリとしての骨格は堅牢であるものの、随所に減点材料が見受けられ、この評価


No.327 4点 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術
泡坂妻夫
(2017/05/07 09:26登録)
前作「しあわせの書」も、ミステリとしては平凡な作品であったが、その前作にも遠く及んでいない。
まず短編小説は、小説としての成立性の点で大いに疑問。
そのうえで長編小説は、当該短編小説を消しに行く創作意図から、その仕掛けがある程度察せてしまううえ、各所で無理を強いられている印象が強い。
本の特殊な装丁が、サプライズを大きく減じ、読者の心理的なハードルを高めている点もマイナスに作用。
以上、本作の奇想と意欲は買うものの、それが1個の読物に昇華できておらず、華麗なる失敗作と言わざるを得ない


No.326 3点 垂里冴子のお見合いと推理
山口雅也
(2017/05/07 09:21登録)
ライトノベルタッチのキャラクター小説という執筆意図や立ち位置から評価すべき作品であろう。
本格ミステリとしては、探偵の推理があまりにも直観的で論理性を欠く点から、厳しい評価にならざるを得ない


No.325 6点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2017/04/28 17:21登録)
第一の犯行までに、やたら紙幅が割かれ、一見冗長に見えるものの、至るところに伏線とミスディレクションが仕掛けられており、ボリュームは多いものの無駄のない構成。
ただし、作者の作品の常として真相解明プロセスはロジカルではなく、または説明が尽くされておらず、飛躍を感じさせる印象が強い。
トリックも一定の堅牢さを備えているものの、結果として明かされる真相には意外性が乏しい


No.324 7点 甲賀忍法帖
山田風太郎
(2017/04/28 17:19登録)
まずもって、伊賀・甲賀の忍者の里を舞台に、手に汗握るバトルロワイヤルを通じて、「ロミオとジュリエット」を描き出すというプロット自体が、余人の追随を許さない、常人離れした奇想と言えよう。
そのうえで、それぞれの忍法が非科学的・非現実的なまでに強力である一方、必ず致命的な弱点が存在することで、その勝敗が単なる戦闘能力の高低ではなく、対戦相手との相性に大きく左右されるというバランスが絶妙。
これにより、単なる力勝負にはない面白さとサスペンスを演出することに成功している。
淡々とした筆致にも作者の高い力量と余裕を感じさせ、一読の価値のある佳作


No.323 7点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2017/04/21 21:54登録)
ビジュアル映えするものの、小粒でフィージビリティに難のあるトリックを「ユダの窓」というキャッチーなネーミングで演出したアイデア、犯人たり得る人物が限定されたなかで、サプライズを演出した人物造形・ストーリーテリングを評価


No.322 7点 黒い画集
松本清張
(2017/04/14 21:00登録)
乾いた、淡々とした筆致でありながら、各作品に暗然たる雰囲気を濃厚に漂わせる筆力の高さはさすが。
舞台設定や人物造形にリアリティがあり、プロットの完成度が高く、真相判明時の鮮やかな反転も印象的。
ミステリとしてはロジック・フィージビリティに甘さが見られるが、すべての作品が水準以上というアベレージの高さも含め、一読の価値のある佳作

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