蟷螂の斧さんの登録情報 | |
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平均点:6.09点 | 書評数:1660件 |
No.640 | 5点 | 赤い蟷螂 赤星香一郎 |
(2014/07/29 15:27登録) 「虫とりのうた」(第41回メフィスト賞)でデビュー。その2作目でホラー系ミステリーです。50年前、10年前、そして現在の話。伝説と事件を絡めたもので、プロット的には面白いと思いました。しかし、完成度の点ではご都合主義的なところが散見されること、伏線があからさま過ぎることなど、物足りない面がありました。 |
No.639 | 8点 | 満潮に乗って アガサ・クリスティー |
(2014/07/28 11:42登録) 大富豪ゴードン・クロードが空爆で死亡し、莫大な財産は若き未亡人が相続した。前半は、当てにしていた遺産相続がなくなってしまったクロード一族の心理(あの未亡人さえいなくなれば・・・)がサスペンスフルに描かれています。やがて一族にとって有利な存在の人物が殺される・・・。動機、意外な真相、恋愛(複雑な心理)、アリバイトリックと盛りだくさんの作品でした。有名作品が多いので、その陰に隠れてしまったのか?・・・。佳作であると思います。 (ネタバレ注意)1948年、日・米・英において同じモチーフを扱った作品が同時発表されていることが興味深いです。英「本作品」、米「○○との○○」(W.I)、日「○○○殺人事件」(S.A) |
No.638 | 4点 | 樹霊 鳥飼否宇 |
(2014/07/26 20:36登録) 裏表紙より~『植物写真家の猫田夏海は北海道の撮影旅行の最中、「神の森で、激しい土砂崩れにより巨木が数十メートル移動した」という話を聞き、日高地方最奥部の古冠村へ向かう。役場の青年の案内で夏海が目にしたのは、テーマパークのために乱開発された森だった。その建設に反対していたアイヌ代表の道議会議員が失踪する。折しも村では、街路樹のナナカマドが謎の移動をするという怪事が複数起きていた。三十メートルもの高さの巨樹までもが移動し、ついには墜落死体が発見されたとき、夏海は旧知の“観察者”に助けを求めた!“観察者”探偵・鳶山が鮮やかな推理を開陳する、謎とトリック満載の本格ミステリ。』~ シリーズの前2作(中空・非在)と比べると、謎の魅力に物足りさを感じました。動機は強烈なのかもしれません。しかし、共感はできませんでした。 |
No.637 | 6点 | 非在 鳥飼否宇 |
(2014/07/26 09:09登録) 「BOOK」データベースより~『奄美大島の海岸に流れ着いた一枚のフロッピー。そこに記されていたのは奇怪な日記だった。ある大学のサークル一行が古文書を元に、人魚や朱雀、仙人が現れるという伝説の島“沙留覇島”へ渡った調査記録だった。だが、日記の最後に記されていたのは、殺人事件を告げるSOS―フロッピーを拾った写真家の猫田は警察へ届け、大規模な捜索が行われるが、それと思しき島には誰一人いない。猫田は幻の島探しに乗り出すが…絶海の孤島を舞台にした、驚天動地の本格+ネイチャーミステリ。』~ 題名の非在(人魚、朱雀、仙人、沙留覇島)という幻想的な雰囲気を漂わせ、数々の謎が提示されます。やや謎が多すぎて纏まりがなくなってしまっている点はもったいないと印象ですね。メインであるトリックは多重解決を狙ったのかもしれませんが、複雑になり逆効果のような気がします。よって真相(前例があるのかもしれませんが、今まで読んだ中では初めて)のインパクトがやや薄くなってしまいました。とは言え、著者の意気込みが感じられる佳作であるとは思います。エピローグで、幻想として片づけられていた謎が、合理的に語られ、きれいな余韻として残りました。 |
No.636 | 6点 | サイロの死体 ロナルド・A・ノックス |
(2014/07/24 21:56登録) 裏表紙より~『イングランドとウェールズの境界地方、ラーストベリで開かれたハウスパーティで、車を使った追いかけっこ〈駆け落ち〉ゲームが行われた翌朝、邸内に建つサイロで、窒息死した死体が発見された。 死んでいたのはゲストの一人で政財界の重要人物。 事故死、自殺、政治的暗殺と、様々な可能性が取り沙汰される中、現場に居合わせた保険会社の探偵ブリードンは、当局の要請で捜査に協力するが、一見単純に見えた事件の裏には、ある人物の驚くべき精緻な計算が働いていた。考え抜かれたプロットと大胆なトリック。 手掛かり索引を配し、探偵小説的趣向を満載した傑作本格ミステリ』~ 皮肉(聖職者らしい教訓か?)をモチーフにした作品のように感じました。当時としては、一捻りあるプロットであると思いますが、そのため、やや複雑になってしまった?という印象です。手がかりの索引があり、著者の丁寧な作品作りは覗えます。なお、解説において、「十戒」第5条~中国人を重要な役で登場させてはいけない。~の意味がやっと解かりました(笑)。 |
No.635 | 9点 | 不連続殺人事件 坂口安吾 |
(2014/07/24 09:44登録) (再読)<東西ミステリーベストの19位>内容は忘れ、、若かりし頃すごい小説を読んだという記憶のみでした(笑)。登場人物相関図を作成しての再読です。なんと乱れた関係なのでしょう!これを眺めているだけでも楽しい?。トリックの前例(不連続という題名に係るトリック?)があるということですが、チョットそれは違うのではという感覚ですね。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、それはトリックでもなく、もしトリックとして捉えても趣旨が違うと思います。かの松本清張氏に「日本の推理小説史上不朽の名作で、・・・・・・・欧米にもないトリックの創造である。人間の設定、背景、会話が巧妙をきわめ、それに氏の特異な文体が加わって、その全体が一つのトリックだと気がつくのは全部を読み終わったときである」と言わしめています。つまり本作の最大のトリックは別のところにあるということだと思います。なお、角川文庫(昭和52・16版)の解説は高木彬光氏で「メイン・トリックには一つの前例が存在する。しかし、・・・・・その作品より、この「不連続」のほうがはるかに上なのだ。」~トリック部分の解釈では、松本説を支持しますね。まあ、いずれにしても傑作であると思います。全体として10点満点としたいところですが、ある点で、ポリシー通りマイナス1としました。 |
No.634 | 5点 | 飛行士たちの話 ロアルド・ダール |
(2014/07/22 16:43登録) (再読)処女作品集(1946)で、第2次世界大戦を経験したパイロットたちの話です。「あなたに似た人」以降の<奇妙な味>はまだ登場せず、序章(片鱗を感じる作風)といった感じです。この作品集の中に「あなたに似た人」があり、次作(1953)の作品集の題名になっています。本作中の「彼らは年をとらない」が、宮崎駿氏の「紅の豚」の一シーンに引用されていました。 |
No.633 | 3点 | どんどん橋、落ちた 綾辻行人 |
(2014/07/22 16:42登録) 館シリーズを読み終えたころに、手にした一冊。イメージの落差にガックリし、そのまま評価を留保していたものです(苦笑)。お遊びの一冊として捉えています。 |
No.632 | 3点 | THE QUIZ 椙本孝思 |
(2014/07/20 13:26登録) 好みの問題ですが、これは駄目でしたね(苦笑)。「インシテミル」とほぼ同時期の発表で、同じサバイバルものとして期待したのですが・・・。苦手な脱力系ミステリーでした。なお、恋人・陽奈の人格に一貫性がないのが残念でした。心の変化などの描写、または伏線らしきものがあればと思いました。ジャンルは、ネタバレになる可能性があるので「BOOK」データベースにある異色ホラーミステリーをとりました。 |
No.631 | 7点 | 中空 鳥飼否宇 |
(2014/07/19 20:53登録) 商品説明より~『第21回「横溝正史ミステリ大賞」優秀賞受賞作。主人公の植物写真家と自然観察家は、数十年に一度の開花時期を迎えた竹の花を見に、大隈半島にある竹茂という村を訪れた。7家族のみが住む竹に覆われた集落。村人は皆、中国の思想家「荘子」の精神を守って暮らしている。この平穏な村で、小動物の惨殺事件が続発し、ついには村人の首なし死体が発見された。犯人は誰か、そしてその目的は…。閉ざされた空間で、来訪者である2人が難事件に挑む。』~選考委員・綾辻行人氏選評『心地よいバランス感覚で創られた本格ミステリの秀作。』~ デビュー作とは思えないほどの出来でした。歴史ミステリー的な要素、多重解決、叙述など濃い内容で予想以上に楽しめました。また女性写真家(ワトソン役)の一人称で語られ、ユーモアもあり読み易いです。好きな「荘子」の世界も語られているので好印象(笑)。「蟷螂の斧」の章もありました。蟷螂の斧自体の一般的な意味は、力の無い者が自分の実力も顧みず強者に立ち向かうさま、~「はかなさ」のたとえとされていますが、「荘子」では、後段に「この虫(カマキリ)が人間だったら、天下をとっていただろう」とあります。野末陳平氏(タレント・元議員~早稲田大学文学部東洋哲学科卒)の著「荘子入門」でも、一般的なネガティブな意味より、この反骨精神がいいと書かれています。私も同感でネームに使用しているところです。余談でした。 |
No.630 | 7点 | 針の誘い 土屋隆夫 |
(2014/07/18 10:53登録) 細かいトリックの連続技で一本勝ちといった印象。誘拐された母親の心理状況をうまく利用する点はさすがです。 |
No.629 | 6点 | 天狗の面 土屋隆夫 |
(2014/07/15 18:18登録) 読者へ語り掛ける文章が、淡々としていてやや馴染めませんでした。あえてそのような書き方にしているようですが・・・。別の書き方をすれば、もっとおどろおどろしさが伝わってくるような気がしました。毒殺トリックはまあまあでしたが、もう一つの殺人トリック(心理トリックと機械的トリックの融合)はなかなかの出来だと思います。 |
No.628 | 6点 | 国会議事堂の死体 スタンリー・ハイランド |
(2014/07/12 09:29登録) 裏表紙より~『英国国会議事堂の時計塔、ビッグ・ベンの改修工事中、壁の中からミイラ化した死体が発見された。後頭部を打ち砕かれ、着衣等から100年前のものと推定されたこの死体をめぐって検屍裁判が開かれたが、事件に興味を感じた若手議員ブライは調査委員会を組織し、謎の解明に乗りだした。やがて少しずつ集まりだしたデータから、19世紀の国会議事堂建設をめぐる秘話と、激しい愛憎の物語が次第に明らかにされていく。個性豊かな国会議員の面々が推理の饗宴を繰り広げる「時の娘」風の歴史推理の前半から、後半にいたって物語は思わぬ展開を見せはじめる。読み巧者フランシス・アイルズ(アントニー・バークりー)がただ一言「真の傑作」と評した50年代の知られざる名作』~ 「時の娘」(1951)<英国ベスト1位、米ベスト4位>をかなり意識して書かれた作品であると思います。会話の中でも「時の娘」(リチャード3世が題材)が出てきます。3分の2を占める前半、100年前の事件が冗長であり、読みにくい文章であるので我慢が必要か?(笑)。後半、確固たる推論が反転するさまが本作の最大の見せ所ですね。ラストはある人物の機転による一本勝ちといったところでしょうか。 |
No.627 | 4点 | 虎の首 ポール・アルテ |
(2014/07/08 10:01登録) アンチミステリーなのか?。本作のプロット自体が読者にとって面白くはないのでは?。1部、2部と別れているところがミソなのかもしれないが・・・。読み物としては決してつまらなくはない(いろいろな謎が提示される)のですが、読後は脱力感が残ってしまいます。ラストでのツイスト博士の行動もアンチミステリー的なのかも。 |
No.626 | 5点 | 武家屋敷の殺人 小島正樹 |
(2014/07/06 12:14登録) 満腹過ぎて、どれが美味しかったのか判らなくなってしまいました(笑)。2章の玲子の独白あたりは非常に楽しめましたが、どんでん返しは、かなり無理では?の印象。三津田信三氏の「首無・・・」を読んだ印象と似ています。過剰な反転で訳が分からなくなってしまいました。それ以来遠ざかっています(苦笑)。 |
No.625 | 5点 | 殺す手紙 ポール・アルテ |
(2014/07/04 18:49登録) ストーリーはサスペンスフルで非常に楽しめた。だだ、ラストのどんでん返しは有名作品を思い起こさせるもので減点。伏線がほとんどないので唐突な感じを受ける。むしろ、どんでん返しがない方が作品として面白かった。 |
No.624 | 6点 | 終わりの感覚 ジュリアン・バーンズ |
(2014/07/02 12:09登録) 裏表紙より~『穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士から手紙が届く。日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。記憶をたどるうち、その人が学生時代の恋人ベロニカの母親だったことを思い出す。託されたのは、高校時代の親友でケンブリッジ在学中に自殺したエイドリアンの日記。別れたあとベロニカは、彼の恋人となっていた。だがなぜ、その日記が母親のところに?―ウィットあふれる優美な文章。衝撃的エンディング。記憶と時間をめぐるサスペンスフルな中篇小説。2011年度ブッカー賞受賞作。』 60代になった主人公トニーの青春の回想録で、純文学的な作品でした。前半はイギリスの60年代の若者の性意識を中心に描かれています。それは日本と同じようなものだったので逆に驚きました(笑)。哲学的な言い回しがありますが、あまり気にせずに読むことができます。後半はミステリーらしくなり、遺贈されるはずの友人エイドリアンの日記を元恋人ベロニカは渡そうとしません。ベロニカと会うのですが「あなたは、昔と同じで何もわかっていない」といわれ、無視され続けるのです。なぜベロニカの母親が日記を持っていたのかの謎がラストで明かされます。殺人のない作品もたまにはいいのかも。 |
No.623 | 4点 | コリーニ事件 フェルディナント・フォン・シーラッハ |
(2014/07/01 19:20登録) 本来、重い題材なので、もっと他に料理の仕様(サスペンスフル等)があったような気がします。感情の起伏や葛藤が描かれなていないため、単に歴史的事実を知らされたという感じです。教科書を読んでいるようで、小説としての味わいを感じることが出来ませんでした。残念。 |
No.622 | 5点 | 緑衣の女 アーナルデュル・インドリダソン |
(2014/06/30 20:26登録) 裏表紙より~『住宅建設地で発見された、人間の肋骨の一部。事件にしろ、事故にしろ、どう見ても最近埋められたものではない。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近にはイギリス軍やアメリカ軍のバラックもあったらしい。住民の証言の端々に現れる緑の服の女。数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が、捜査官エーレンデュルの手で明らかになる。CWAゴールドダガー賞/ガラスの鍵賞同時受賞。究極の北欧ミステリ。』~ 家庭内暴力を扱った社会派ミステリーといえるのかも・・・。救いのないような家族の描写と捜査が交互に語られます。発見された骨が誰なのかという謎はあるのですが、読者に推理させるという形はとっていません。捜査の状況が淡々と語られてゆくので、推理好きの方には不向きな作品かもしれません。 |
No.621 | 7点 | 緋色の記憶 トマス・H・クック |
(2014/06/28 07:49登録) 文学的要素の強い作品でした。老弁護士の回想録なのですが、前半は事件の内容が小出しなのでイライラさせられます(苦笑)。ミステリー部分の真相は、半分当たり、半分外れといったところでした。「言葉の綾」で人生までもが大きく変わってしまう恐ろしさが伝わってきました。 |