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ミステリの祭典

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殺す風

作家 マーガレット・ミラー
出版日1958年01月
平均点7.00点
書評数7人

No.7 6点 ボナンザ
(2022/07/13 22:16登録)
起きている出来事にはミステリらしい要素がそれほどないのに、読み終わった後、上質なミステリをしっかり読んだ気にさせる不思議な作品。

No.6 9点 HORNET
(2020/05/02 19:14登録)
 杉江松恋の「読み出したら止まらない!海外ミステリーマストリード100」の巻末で「紹介すべきなのに、絶版になっているためできなかった作家」の筆頭にマーガレット・ミラーが挙げられていたため、興味をもって読み出した。
 面白い!
 展開は非常にゆっくり、平坦(丁寧?)で、特に起伏に富んだものではないのに、食い入るように読み進めてしまう。それは一重に、誰しもが日常の中で既視感のあるような心理を巧みに描写している点にあるのではないかと思う。疾走したロン、妻のエスター、冷静な立ち位置で事態の収拾を図るチュリー、ハリーとセルマ夫妻、それぞれにキャラクターがしっかり描かれていて、右往左往する中での心理描写が素晴らしい。
 ロン失踪後の展開も、全て周りが予想したとおりであり、目を見張るような急展開は(ラスト以外)ないのだが、全く不満は感じない。閉じた人間関係の中での人間模様の妙が描かれた傑作だと思う。
 ちなみにミラーの作品も、今では創元推理文庫の復刊フェアでいくらか読めるようになったらしい。ウレシイ。

No.5 7点 ことは
(2020/03/07 02:10登録)
ミステリ的「解決」があるので、ミステリにジャンル分けするのは妥当だと思うが、最終盤まで、ほぼ普通小説。
失踪人がいて、どことなく不安感が漂うけれど、サスペンスというほど強烈でない。(佐藤正午の「ジャンプ」を思い出した。ちなみに「ジャンプ」はミステリではないと思う)
世界観としては、心地よいとも感じられる部分もあり、そのバランスがとても独特。
ミラーは代表作といわれることがある4作しか読んでいないが、中では1番好き。多くの人に勧められるとは思わないが、(細々とでも)評価されつづける作品だと思う。
なんとなく、チャンドラーのある作品を思い出した。

No.4 7点 tider-tiger
(2018/11/01 23:54登録)
~ロン・ギャロウェイの別荘に四人の友人が集まることになっていた。だが、肝腎のロンがいっこうに姿を見せない。ロンはいったいどこへ行ってしまったのか。友人たちはロンの行方を探ろうとするが、その途上に浮かび上がったのはロンの信じ難い醜聞、裏切り行為であった。~

1957年アメリカ。
これはマーガレット・ミラー中期の作品になるのでしょうか。個人的には後期の幕開けとなった作品という認識でいます。
二組の夫婦の内実を中心にロンの友人の一人である大学教授ラルフが渋々ながらも探偵役を努めるといった体裁になっております。
ストーリーの展開は遅く、ロンの妻、友人のハリー、その妻セルマの希望や絶望じっくりと描かれます。そうした中に巧みに伏線が潜んでいる。読ませます。よくある話のようでいて登場人物たちの考えていることはちょっとぶっ飛んでいたりもして心理小説としてはとても面白い。
ミステリとしての基本構造は平凡だと思います。登場人物たちの心理をじっくりと描くことにより意外な結末だと感じさせる手品のような作品だと考えています。空さんも指摘されていらっしゃいますが、アンフェアな部分がいくつかあって、見事に騙されましたと心から納得はできませんでした。
また、ミステリであるならば当然書くべきところがかなり省略されているとも感じました。
サスペンスとしても『狙った獣』のような、読み進めるうちに募る不安感、焦燥感のようなものが欠けております。サスペンスとしてはやや食い足りない感じです。
また、なぜここまで力を入れるのかよくわからない部分が非常に多いのです。他の作家が一頁も使わずに済ませてしまうような場面、数行で事足りそうな端役の人物が丹念に描写されます。
本作の書評では精緻という言葉をしばしば見かけますが、自分は「執拗」という言葉が浮かびました。
違った意味でもこの執拗さは感じました。
導入部、別荘に出かけようとするロン・ギャロウェイと子供たちは会話を交わします。一家の飼い犬が花壇を掘り返すと庭師が怒っている、そんな他愛もない話です。ところが、後にこの会話がしっかり活きてきます。
ロン・ギャロウェイが行方不明になっても事実を知らされなかった子供たちでしたが、何日か後に彼らは自分たちなりになにか悪いことが起きたのだと気付きます。
~少年たちといちばん接触の多いルードルフ(庭師)は、かれらの生活の中で大きな位置を占めていた。だから、日曜の午後、犬のピーティがバラの花壇に掘った沢山の穴が、叱言一つ言われずにそっと埋められてしまったとき、二人の少年は何か事件が起こったことに気がついたのだった。~
子供の心情がなんとも繊細に描写されておりました。すごさと同時に怖さも感じました。ここでも執拗ななにかを感じました。これがマーガレット・ミラーなんだなと、そんな風に考えております。
意外な結末を迎える心理小説としてとても面白い作品だと思います。
ただ、ある意味では心理小説であることを放棄してしまっており、そのことが本作の美点を損なう大きな問題であるようにも思いました。

※うちにあるのは小笠原豊樹訳のハヤカワ文庫版です。新訳未読。

No.3 5点 mini
(2015/08/28 09:04登録)
* 私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第8弾マーガレット・ミラーの2冊目
これは以前に書評済だったが、私的テーマに合わせて一旦削除して再登録

ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある
私の記憶が間違えていたらゴメンナサイだが、たしか「殺す風」は瀬戸川猛資がすごく褒めていたんじゃないかなぁ
何度も言うように私は瀬戸川の評論とは相性が悪いのだが、この作品もそうでミラーの中では好みではない
この「殺す風」はミラー作品の中ではちょっと珍しく、はっきり犯人と呼べる人物が居て一応犯行計画に基づいたような悪質な事件性がある
しかも真相はすっきりと解明されるわけだしね
つまりだ他のミラー作品に比べて「殺す風」という作品は、普段は本格派にしか興味が無いとか、サスペンス小説に対しても謎解き要素ばかりを追い求めるようなタイプの読者に受ける作品だ
ミラー作品の中で「殺す風」だけを突出して高評価する人は、根本はサスペンス小説に興味がそれほど無くて、本格派嗜好の読者だと思うんだよね
私がミラーに求めるものは違うし、サスペンス小説の場合は書き方要素を採点基準にしているので、「殺す風」はどうも面白くない
サスペンス小説はいかにもサスペンス小説って感じの作品の方が好みだ
「殺す風」は男女の憎愛を淡々と描きながらラストのサプライズに持っていくミラーらしいようならしくないような茫洋とした感じが狙いかも知れないが、この淡々とした味わいが美しさに昇華してないのが不満
やはりミラーには「鉄の門」のようなガラス細工の美しさを求めちゃうからなぁ、そのガラスが砕け散るサスペンスも含めてね

No.2 8点 蟷螂の斧
(2014/10/21 21:51登録)
裏表紙より~『ロンの妻が最後に彼を見たのは、四月のある晩のことだった。前妻の件で諍いをした彼は、友達の待つ別荘へと向かい―それきり、いっさいの消息を絶った。あとに残された友人たちは、浮かれ騒ぎと悲哀をこもごも味わいながら、ロンの行方を探そうとするが…。自然な物語の奥に巧妙きわまりない手際で埋めこまれた心の謎とは何か?他に類を見ない高みに達した鬼才の最高傑作。』~                  
行方不明となっているロンと不倫をしたセルマ、その夫はロンの友人である。残されたロンの妻は・・・。ドロドロとした人間描写が凄まじい。おもわず引き込まれてしまい一気読み。各人それぞれの新しい道を歩み始める予感で、サスペンス小説であることを忘れてしまうほどでした(笑)。さて、ミラー風のラストのオチはどうなるのだろうか?と・・・。期待以上のものでした。著者の既読分では今のところ一番の好みの作品です。評判の「鉄の門」は手に入らず、残念ながら未読。

No.1 7点
(2010/10/24 12:10登録)
これも久々の再読(早川文庫版)ですが、完全に内容を忘れてしまっていました。
作者等に対する前知識なしで読めば、ミステリだとは全く気づかず、最後で驚愕することになるかもしれません。ほとんど9割ぐらいは不倫を題材にした普通の小説を読んでいるような気分にさせられる作品です。愛と願望と後悔と不安とがていねいに描かれた小説としておもしろいのです。ただ、最後の方になってばたばたと軽い後日談めいた展開になるのが、ちょっと気になるところでしょうか。その段階でまだ30ページぐらいは残っているわけですから。
で、その後突如として純然たるミステリと化すことになります。気になって前の方を確認してみたのですが、やはりアンフェアな記述が少なくとも2箇所ありますね。そこはパズラー作家ではないので、最初から気にせず執筆していたのかもしれませんが、インチキだという気はします。そのかわり、ラスト・シーンはまた登場人物の複雑な心理を巧みに見せてくれて、なんとも言えない余韻があります。

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