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ミステリの祭典

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蟷螂の斧さんの登録情報
平均点:6.09点 書評数:1660件

プロフィール| 書評

No.860 6点 天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記
折原一
(2016/02/07 13:35登録)
裏表紙より~『日本推理文壇の重鎮、小宮山泰三が住む2階建てモルタル造りの幸福荘。そこには古くから小宮山を慕う数多の作家志望の若者たちが集っていた―。幸運にも私はそんな幸福荘に入居することになったが、部屋に残されていた1枚のフロッピーが私を戦慄させた。創作なのか、現実なのか。〈文書1〉から〈文書6〉まで、6つの不思議な連作短編小説を読み終えた私は思わず天井を見上げて…。叙述トリックの名手が、九転十転のドンデン返しであなたに挑む、究極の叙述ミステリー。』~

山田風太郎氏の「誰にも出来る殺人」のパロディー・パスティーシュです。初期の著者作品の黒星警部シリーズに近い、軽いノリの作品でした。前半は、アパート住人による、若くて美人の作家・南野はるかの争奪戦です。後半は、著者らしい叙述のオンパレード。前半の方が楽しめました。叙述は大好きですけれども、後半はちょっとクドイ感じがしました。


No.859 5点 黄色い犬
ジョルジュ・シムノン
(2016/02/05 13:22登録)
メグレ警部の言葉に「推論はしない」とあります。事件が次々と起こるのですが、主人公が推論をしないので、読者も推論の余地がありません。他の方も言っているように、メグレ警部の行動が突飛であり、その根拠が説明されません。よって、何か置いてきぼりを食ったような感じです。全体の雰囲気はいいのですが、ミステリー部分だけに限って言えば、作風は肌に合わないのかも。


No.858 7点 悪意の糸
マーガレット・ミラー
(2016/02/04 18:52登録)
解説によると、「ロマンチック・サスペンス」の構造を採用した作品とのこと。話は単純明快、登場人物も少ないので、スムースに頁がすすみます。主人公シャーロット(医師)は既婚の男性と恋仲である。事件担当の刑事はシャーロットに一目ぼれ。刑事は公私混同ではないと言いつつ、シャーロットを口説きまくります。この辺りの洒落た会話を楽しむことができました。そして・・・。やはり、ラストは一筋縄ではいかないところが著者らしい。「ミラー節」発揮といったところですね。


No.857 5点 男の首
ジョルジュ・シムノン
(2016/02/02 08:53登録)
(1985版東西ベスト83位、2012版ではランク外)2008年、英「タイムズ」紙が発表した最も偉大なミステリ作家ベスト10(選出基準は不明です)。その1位はパトリシア・ハイスミス氏 2位ジョルジュ・シムノン氏 3位アガサ・クリスティー氏。ということで、お初のジョルジュ・シムノン氏の作品となりました。しかし、本作は異色中の異色作ということで、入門には向かないとのことが後で判明。「罪と罰」を念頭に置いて描かれていることは、よくわかるのですが、ミステリーとして、どうもしっくりこない点が3か所ほど・・・。犯人とある人物の接点が何もないというような記述(場面設定)は不自然またはアンフェアですね。このこと(接点なし)を前提として読んでいるので、どんな方法で完全犯罪を実行したのか?とワクワクするわけです。しかし、真相は?、何もありませんでした・・・(苦笑)。また、メグレ警部が手紙を読むチャンスがあったことや、ピストルを操作するチャンスがあったことなど、ご都合主義っぽい・・・。と、辛口になってしまいましたが、まだ1冊目なので、評論家の間で高評価の「モンマルトルのメグレ」や、本サイトで高評価の「倫敦から来た男」などを読んでみたいと思います。


No.856 5点 パディントン発4時50分
アガサ・クリスティー
(2016/01/29 18:59登録)
2015年、世界中が投票したアガサ・クリスティー作品・ベスト10の第7位です。世界的な評価~本作の良さが良くわかりませんでした。日本人はどうしても本格ものを求めるので、本サイトのように低評価となってしまうのでしょう。同じプロットならば、他にもっと良い作品はありますし・・・。主人公のルーシー(家政婦)の活躍は理解できますが、ベスト10に入るのかな?というのが率直な感想でした(苦笑)。


No.855 7点 本格篇「眼中の悪魔」
山田風太郎
(2016/01/27 10:21登録)
表紙がいい!!!。これは「快楽の園」(ボス・1450?~1516))の一部分ですが、非常に本作の内容とマッチしていると思いました。一つは、「司祭館の殺人」(本作のマイベスト)の青年と娘のような感じを受けたこと。もう一つはこの絵はレオナルド・ダ・ヴィンチと同時代に描かれていますが、当時では、かなり先駆的なシュールレアリスムの作品でした。風太郎氏のこれら諸作品も、”先駆的”なミステリー要素を多分に含んでいましたね。数作品に登場する、あるモチーフが、この後の「太陽黒点」(1963)に繋がってゆくのも良くわかりました。

余談ですが、「誰にも出来る殺人」が折原一氏に影響を与えた作品であることの紹介です。氏のブログより~『18歳の頃、このへんてこりんな小説を読んで、「ミステリ作家になれるものなら、こういう作品を書きたいな」と思った。私にとってバイブル的な作品なのだ。ある意味、私の原点なんですね。』~ということで早速オマージュ作品である「天井裏の散歩者」を読まなければ・・・。


No.854 5点 人間動物園
連城三紀彦
(2016/01/22 21:42登録)
著者らしい反転の構造は評価したいと思います。しかし、事件現場が特殊設定の為、犯人との交渉もなく、誘拐ものらしい緊迫感がなかったのが残念です。動機もいま一つのような気がします。本作(2002)が「造花の蜜」(2008・誘拐もの~これは傑作と思います)に発展したと感じました。


No.853 7点 アガサ・クリスティー完全攻略
評論・エッセイ
(2016/01/19 13:02登録)
「はじめに」より抜粋~『読もう読もうとずっと思っていたのである。アガサ・クリスティーのことだ。ミステリ評論家を名乗り、ミステリについて語ることでお金まで頂戴し、数千冊のミステリを読んできたというのに、クリスティーの作品をわずか七作品しか読んだことがなかったのである。』~

第15回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)に選出されたアガサ・クリスティー全99作品の評論集です。本書は「ポアロ」「ミス・マープル」「トミー&タペンス」「短編集」「戯曲」「ノンシリーズ」に分けてあるので読みやすくなっています。ネタバレはありません。特徴は、著者がクリスティー氏を理解してゆく経過を読み取れることです。例えば「同じ作家とは思えない」と酷評するも、その背景に離婚問題があった年の作品であることを知るといった具合です。また、作品Aの発展形が作品Bである等々・・・。各作品の評価(おススメ度として★印)やベスト10の選出は、納得できるものもあるし、?のものもありこれは致し方ないところ(笑)。未読で高評価のものがかなりあり、今後の読書が楽しみになりました。残念だった点は、ある作品のネタがある有名作品に応用されたというような表現で、作品名が不明なところです。(この点は非常に興味があるで・・・)霜月蒼氏が選んだベスト10の特徴は、作品の内容を30字以内で表せる作品は入っていないということですね。例えば「○○が犯人」(5文字で表現できる)の作品等々です。

たまたま2015年「世界中が投票したアガサ・クリスティーのベスト10」というサイトを見ましたので、その比較をしてみました。
世界が選んだベスト10 本サイト・点 数  霜月蒼氏(10点に換算) 
1位そして誰もいなくなった 8.54 79  9 
2位オリエント急行の殺人  7.65 40  8 
3位アクロイド殺し     8.17 59  9 
4位ナイルに死す      7.46 26  9 
5位ABC殺人事件     6.65 26  9 
6位予告殺人        5.8  15  4 
7位パディントン発4時50分 3.83  6  8 
8位白昼の悪魔       6.93 15 10 
9位五匹の子豚       7.27 15 10 
10位カーテン        6.57  7 10 

6位の予告殺人は霜月蒼氏は低評価、当サイトもまあまあといったところ。7位のパディントン発4時50分は本サイトのみ低評価、霜月蒼氏は高評価、好きな作家の折原一氏もマイベスト10に入れている作品です。早速読まなければ(笑)。


No.852 5点 黒猫の三角
森博嗣
(2016/01/18 11:56登録)
ミステリーとして評価できる点があまりなかったのが残念です。シリーズ第1作を利用したワンアイデアだけの作品ような気がしました。密室における幽霊証言は駄目ですね(苦笑)。一番問題なのは、リアリティの無さです。動機の理由や天才の存在ということではありません。刑事による尋問の描写です。犯人は男らしいという証言がありながら、ある人物(男)に対する尋問がありませんし、しばらく登場もしません。不自然です。ミスリードかなと思っていましたが、全く関係ありませんでした。不自然=リアリティの無さになってしまいます。映画監督・山田洋次氏の発言が耳に残っています。「フィクションだからこそ、リアリティやディテールが必要で、かつ、こだわっていかなければならない・・・」


No.851 6点 枯草の根
陳舜臣
(2016/01/16 13:31登録)
(再読)講談社文庫版・裏表紙より~『舞台は神戸。寒い師走のある晩、老中国人徐銘義が絞殺された。そして5号室でまた……。地方政界の汚職追及に躍起となっている若き日本人記者小島が、一方拳法家兼漢方医なる中華料理店「桃源亭」主人陶展文が、この謎を追うのだが――。ノックスの「探偵小説十戒」の「中国人を登場させてはならない」を見事破った清新な処女作。第7回乱歩賞受賞。』~

トリックに派手なものはないのですが、伏線など細かく丁寧に描かれているとの印象を受けます。真相を犯人の告白に委ねてしまっている点が、少し残念な気がしました。裏表紙及び解説の「ノックスの十戒」に関し、文字通りに解釈しており、主旨を取り違えているような気がしますが・・・。あえて記載するようなことではないような(苦笑)。なお、解釈には諸説あるようですね。東洋人は奇術や魔術を使うからという解釈が多いようですが、当時、低俗なスリラー小説に多く登場していた「邪悪な東洋人」を念頭に置き、小説が低級にならないようにしたのでは?という解釈が妥当なような気がします。


No.850 7点 孔雀の道
陳舜臣
(2016/01/16 13:30登録)
(再読)裏表紙より~『英国人を父、日本人を母に生まれたローズ・ギルモアは13年ぶりで日本を訪れた。彼女が幼い頃、神戸の自宅で謎の焼死を遂げた母のことを知りたかった。戦前の日本でスパイ事件に関与したことのある父は、なぜか母について沈黙を続け通して他界した。国際色豊かな推理。昭和45年度日本推理作家協会賞受賞作。』~

スパイ小説やトラベルミステリーのスパイスを混ぜた叙情風味溢れる社会派ミステリーといえると思います。イメージとしては松本清張氏の「ゼロの焦点」あたりか?。本作の読みどころは、命の大切さを重んじるローズの前での犯人の独白と行動です。これは名シーンといえると思います。以下は余談です。著者の作品をミステリーとしてではなく手に取った理由が、中々思い出すことができなかったのですが、本作でやっと判明しました。「比較文化論」の好きな友人が奨めてくれたのが本作で、西洋文化との比較が随所に出てきます。


No.849 5点 闇の金魚
陳舜臣
(2016/01/14 20:38登録)
(再読)「BOOK」データベースより~『辛亥革命で清朝が倒れ、孫文たちの革命勢力が台頭する中国。浙江省出身の青年童承庭は、才能を認められ、上海の富豪の後盾で日本に留学する。東京で革命思想を知り、最愛の妻と帰国して反体制運動のレポ役を続けるが、何者かに妻を拉致され旧友も殺害される。承庭は同志と妻の救出を図るが、驚愕の真相が判明。『闇の金魚』は何を暗示するのか?歴史の激浪に翻弄される人間の運命を描く長篇歴史推理。』~

ミステリーの形式を借りた、激動時代の人間ドラマといったところです。云十年前、本書を購入した目的は、ミステリーを読もうという気はなかったはずです。昨年、著者が逝去されたこともあり何冊か再読しようと思い立たもの。ミステリーとしての評価はこの程度で。


No.848 5点 弓の部屋
陳舜臣
(2016/01/14 08:56登録)
(再読)裏表紙より~『夏の夜の神戸を彩る生田神社の花火。それを異人館のボウ・ルーム(弓の部屋)から眺める男女の間で突如殺人が。被害者はメード光子の夫の中山。彼は電灯を消した一瞬にすり替えられたコップを口にして、毒殺された。捜査の進展につれ、居合わせた人々の過去が次々にあばかれる。神戸情緒あふれる本格長篇。』~

一言でいえば、昭和ミステリーらしい一冊。昭和ミステリーって何といわれても困りますが。まあ、風俗や、当時の女性心理といったところですか・・・。ミステリー的なところでは、毒殺トリックはかなり危ういところがあるので高評価とはなりませんでした。3人が犯行を自白するというプロット(庇いあい)は他にもあると思いますが、本編のプロットは思わずニヤッとしてしまいます。全体的には、ほのぼの感を得られる作品であると思います。


No.847 6点 悪女は自殺しない
ネレ・ノイハウス
(2016/01/12 17:29登録)
デビュー作ということで、力が入っていることが分かります。ただ、幅を広げ過ぎた感もあります。つまり容疑者が多すぎるということです。そこが魅力と捉えるか、複雑すぎると感じるか・・・ということでしょう。男女の刑事コンビは初々しさがあって良かった。また初恋の人の登場や乗馬クラブの娘がいいアクセントになっていました。シリーズ7作中、まだ3冊の翻訳であり、残りの翻訳が望まれます。


No.846 5点 大いなる救い
エリザベス・ジョージ
(2016/01/10 20:51登録)
裏表紙より~「ヨークシャーの片田舎で、首を斧で切り落とされた農夫の死体が発見された。そばには自分がやったと呟く娘の姿が…だが、彼女は心を堅く閉ざしてしまう。捜査にスコットランド・ヤードからリンリー警部とハヴァーズ巡査部長が派遺された。二人が人間関係の闇の奥に見た戦慄の真相とは?アガサ賞、アンソニー賞、フランス推理小説大賞を受賞したミステリ界の新女王の話題作。『そしてボビーは死んだ』改題」~

爽快感が全く感じられない作品でしたね。捜査する男女のコンビに感情移入ができなかった。コンビのいろいろな背景を描くことが、作者の言う人間を描くということなのかもしれませんが、逆に邪魔になっている気がします。解説者はそこが魅力といっていますが・・・。本作(1988)より後発ですがシドニー・シェルダン氏の作品(1998)で本テーマの免疫?ができていたので衝撃度はそれほどでもというより予想内でありました。


No.845 6点 悪霊の群
山田風太郎
(2016/01/07 16:43登録)
紹介文より~『神津恭介と荊木歓喜の二大名探偵が夢の競演長編!両目をくり抜かれた死体が次々と。犯人の美女はそれぞれ自殺を遂げる。疑惑に満ちた恋人の言動に苦悩する新聞記者。事件を追うのは、あの荊木歓喜先生と、ご存じ神津恭介名探偵。山田風太郎と高木彬光。昭和26年、すでに探偵文壇に確固たる地歩を築きつつあった二人が、日本で初めて本格的合作探偵小説に挑戦した。神津恭介と荊木歓喜の二大名探偵が夢の競演長編』~

名探偵共演といっても、主役は荊木歓喜先生で、神津恭介はラストに登場するだけでした(苦笑)。雑誌に連載されたものなので、中盤は通俗的なストーリー展開でしたね。ラストのどんでん返しのプロットは高評価(8点以上)ですが、○○の名人登場などで減点要因となってしまいました。残念。


No.844 6点 猫間地獄のわらべ歌
幡大介
(2016/01/05 06:48登録)
裏表紙より~『江戸の下屋敷におわす藩主の愛妾和泉ノ方。閉ざされた書物蔵で御広敷番が絶命した。不祥事をおそれ和泉ノ方は“密室破り”を我らに命じる。一方、利権を握る銀山奉行の横暴に手を焼く国許では、ぶきみなわらべ歌どおりに殺しが続くと囁かれ!?大胆不敵なミステリ時代小説。』~

冒頭から「今、密室と仰せになられましたか?」「密室という言葉は、この時代になかったのではないかと推察いたしまするが。」「そういうことにうるさい読者が結構いるんですけど・・・」とメタ指向で進行します。時代劇ファンにとっては「ミステリー小説」、ミステリーファンにとっては「時代劇小説」となってしまう?という怪作か。


No.843 7点 悲しみのイレーヌ
ピエール・ルメートル
(2015/12/30 19:34登録)
今年ラストの書評は、2014週刊文春ミステリーベスト10・海外部門第1位「その女アレックス」に引き続き、2015も同第1位を獲得したピエール・ルメートル氏の「悲しみのイレーヌ」です。著者のデビュー作とのこと。原題(邦訳)は「丁寧な仕事」となるらしいのですが、編集者の思惑で???・・・。「その女アレックス」を読んでいる者には酷な題名でした(苦笑)。内容は壮絶としかいいようがない。ある仕掛けがあるのですが、もっと判り易いものであれば印象も違っていたかも。


No.842 5点 蝶々殺人事件
横溝正史
(2015/12/28 10:05登録)
時刻表と「物」の移動はどうも苦手です。「樽」「黒いトランク」の良さも良くわかりませんでしたので(苦笑)・・・。計画的な犯罪には、納得できる「動機」が必要では?と思っていますので、本作はその点弱かったですね。というより著者は動機不要論者?。最後の殺人事件は、トリックを見せたいがためだけのようで余計な気がしました。全体的な印象は、クロフツ氏よりもクリスティ氏を意識しているように感じました。


No.841 7点 踊り子の死
ジル・マゴーン
(2015/12/26 17:28登録)
裏表紙より~『寄宿学校での舞踏会の夜、副校長の妻が殺された。暴行された形跡があったと聞いた教師たちは、一様に驚きを見せた。男と見れば誰彼構わぬ彼女の色情狂ぶりは、学校の悩みの種だったのだ。では、レイプ目的の犯行ではありえないのか? ならば、動機は?すべてが見せかけにすぎないとしたら、その夜、本当は何が起きたのか?』~

シリーズ3作目になるらしい。主役のロイド警部とジュディ刑事は不倫関係にあります。その描写にページを割いているのですが、気にならず逆に楽しめました。奇人・変人?という登場人物の造詣もいいですね。誰が犯人であってもおかしくない状況で、本格ミステリーらしいどんでん返しも織り込まれています。日本での翻訳は2000年(1987発表の「騙し絵の檻」)と遅く、まだ4冊のみです。気になる作家の1人となりました。

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