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ミステリの祭典

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HORNETさんの登録情報
平均点:6.32点 書評数:1163件

プロフィール| 書評

No.63 7点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2011/01/10 18:53登録)
 物理的に,科学的に一人の犯人を決定するという理詰めを求めるとすると,心理的な要素の強い本作品はイマイチ。だが、心理が物理より重要というファイロ・ヴァンスのスタイルが一貫されているともいえるし、「ベンスン」「グリーン」よりも理があると感じる。フーダニットよりもホワイダニットの要素が強い。ディーヴァーのリンカーンライムに極みを見るような,科学を駆使したロジックが受け入れられる現代の中で,こうした古典的な探偵小説は「いいなあ」と感じさせるものがある。決してそういう感傷によって温情評価をするのではなく,ミステリ好きなら必ず引き込まれるであろう舞台設定,雰囲気がこの作品にはある。ヴァン・ダイン作品の中で高評価を得るのもうなずける。


No.62 7点 グリーン家殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2011/01/10 18:21登録)
 「二十則」に代表されるように,純粋な謎解きを信条としていたヴァン・ダインだけあって,不要な伏線も少なく推理主体の,ミステリファンにとってはうれしい作品でした。バウチャーの批判などもあり,賛否両論のある作者ですが,私は少なくとも「推理」小説ファンの欲を現在になっても満たしてくれる作風は好きです。何よりも,作者自身が,(作家になった経緯を聞くにいたっても)ミステリのこの上ない愛好家なのだな,と感じます。
 本作品については,「手がかりになるいかなる言動も見過ごすまい」と思って読んだので,ファイロ・バンスのペダンティックな物言いを読み続けるのに結構疲れてしまいました。最後にあんなふうに事件のあらましを整理してくれるくだりがあると分かっていれば,適当に読み流したのに・・・。そこが,評価がイマイチ挙がらない原因です。
 まぁしかし,こんな探偵もまた,現代には登場しにくいキャラだと思うと,改めて本格黄金期のよさに浸ってしまいますね。


No.61 4点 ボーン・コレクター
ジェフリー・ディーヴァー
(2011/01/10 16:50登録)
 他のリンカーンライム・シリーズを読んでから遡る形でこれを読みました。後発作品では,人格者とまではいきませんが,落ち着いて物事を分析する物腰が印象的なライムが,このデビュー作では非常に人間的に未熟な面を露呈していて意外でした。また,彼の科学的分析が非常に専門的(なのかどうかもわかりませんが)すぎて,「すごいな」とは思いますがついていけませんでした。はっきり言えば「分かりにくい」ということです。そう考えると,作品を重ねるうちに多少は読みやすくなったのかなとも思います。


No.60 9点 ウォッチメイカー
ジェフリー・ディーヴァー
(2011/01/10 16:41登録)
 翻訳物は主に本格黄金期の古典的なものしか読まず,近年の海外ミステリはどんなものなのか,まったく知りませんでした。なんとなく勝手な思い込み・偏見で,雰囲気重視の,精密さに欠けるものだとイメージし,近寄らずにいましたが,こんなによく考えられた,精密なものだとは・・・。リンカーン・ライムの「微細証拠物件」の分析は少々化学的な色が濃すぎて疲れますが,彼のキャラクターを引き立たせる推理の仕方とも言えます。何より,もう終わったかと思った後にさらにどんでん返しをされた結末が非常に印象的でした。


No.59 6点 スリーピング・ドール
ジェフリー・ディーヴァー
(2011/01/10 16:36登録)
 最後のどんでん返しは確かに意外ですが,その予兆が物語全般に上手にちりばめられているのではなく,ラスト近くに一気に来る印象がありました。そういう意味では,これまでのリンカーン・ライムシリーズのほうが精密な作りになっていたと思います。


No.58 8点 ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
(2011/01/10 16:32登録)
 首相暗殺犯の濡れ衣を着せられた主人公。それは巨悪によって当て馬にされた,理不尽な悲劇であることが分かってきます。包囲網が張られる中,追い詰められていく青柳ですが,彼の人間性を見抜ける少数の人たちが味方となり・・・。止まらずに読んでしまうテンポと迫力があり,大いに楽しめました。
(未読の方は注意)
 唯一,友人が爆弾で死んでしまったのが悲しかった・・・。


No.57 7点 グラスホッパー
伊坂幸太郎
(2011/01/10 16:22登録)
 かなりヤバイ状況に追い込まれているはずの主人公なのに,その危機感を感じさせないのがこの人の作品らしい。といって読んでいるこちら側としてはスリルがあり,「槿」とその家族の正体が何なのか,敵なのか味方なのか,よく分からないまま物語が進んでいくあたりがハラハラさせられます。そんな感じで一気に読めてしまいました。


No.56 8点 死神の精度
伊坂幸太郎
(2011/01/10 16:17登録)
 他のアンソロジーで表題作を読み,それがとてもよい読後感だったので読みました。結果としてはやはり表題作が一番よかったかな,と思いますが,伊坂作品の中では最も好きにありました。昔の「死神くん」という漫画を思い出しました。


No.55 5点 重力ピエロ
伊坂幸太郎
(2011/01/10 16:14登録)
 途中で手がかりとなる要素が明らかになってきて,推理をするのは楽しかったですが,「まさかそんな単純な結末じゃないよな・・・。驚く仕掛けがあるんだろうな・・・」と思って読み進めたら,意外にもその「単純な結末」だったことにちょっと拍子抜けしました。伊坂作品は結構好きなほうですが,その中でなぜこの作品がここまで代表作扱いされるのかは少し疑問です。


No.54 6点 ラットマン
道尾秀介
(2011/01/10 16:11登録)
 伏線も多く,楽しく読み進めることができました。結末は確かに意外でしたが,そのときになって明らかにされることも多く,そういう意味では純然たるミステリとはいえない作品仮名とも思います。「あぁ,なるほど」という程度でした。
 まぁでも,読んで損はない,楽しい読書時間になると思います。


No.53 7点 カラスの親指
道尾秀介
(2011/01/10 16:07登録)
 詐欺師の化かしあい,裏のかきあいで,最後にはどんでん返しをさらにどんでん返し。登場人物のキャラクターにも好感がもて,読後感もよい話でした。


No.52 8点 追想五断章
米澤穂信
(2011/01/10 16:02登録)
 物語の結末自体は途中から予想が出来ました。ただしそれは事件の真相という点だけで,5つのリドルストーリーの仕組みということではありません。本筋においては謎を担う役割になっているそれぞれのリドルストーリー自体もそれ単体でなかなか面白く,二重においしい気がしました。よく考えられた作品だと思います。


No.51 6点 インシテミル
米澤穂信
(2011/01/10 13:20登録)
 非日常的な空間,C.Cで次々に殺されてゆく登場人物,という舞台設定が興味を誘い,はじめのほうは引き込まれて読みました。しかし,結末は,物語の流れの中で膨らんできた謎に答え得るものとは・・・感じませんでした。結局,表題の意味は何だったのか?もよく分かりません。
 読むには苦はありませんでしたが。


No.50 7点 傍聞き(かたえぎき)
長岡弘樹
(2011/01/10 13:15登録)
 人情話の中にミステリが含まれている,といった感の短編集。一つ一つの話がよく練られており,伏線もうまく張られていて,「上手だな」と感じました。それぞれに心温まる結末が用意されていて,読後感もよい作品です。


No.49 5点 黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー
(2011/01/10 13:10登録)
 ミステリファンとしては読んでおかねば・・・という気持ち半分,「密室もの」として超有名な作品のトリックとはどんなものか・・・?の興味半分で読みました。
 結論は,この時代と,こうした密室トリックの先駆けということを考えればその名声も納得できました。ただ,時代が進み,トリックも進化していく中で,内容的には色あせていくのかな,とも思います。


No.48 6点 ブラジル蝶の謎
有栖川有栖
(2011/01/10 12:18登録)
 表題作もまずますでしたが,それ以外の作品もきちんとトリックが考えられていて面白いと思いました。「妄想日記」「人喰いの滝」などが私としてはよかったです。


No.47 4点 ペルシャ猫の謎
有栖川有栖
(2011/01/10 12:17登録)
 表題作は反則だと思いました。結局そんなオチだとは、ミステリとしてありなのか・・・。それ以外も小粒の出来です。読んで損とまでは言いませんが…(私はファンですので特に)。まあいろんな手法を試みたのかな,と思います。


No.46 6点 絶叫城殺人事件
有栖川有栖
(2011/01/10 12:14登録)
 純粋な謎解き小説で,その謎もそれなりに納得がいく結末でした。氏の作品,とくに短編集は,抜きん出てよいものがそれほどなくても,平均的に楽しめるものばかりなので,安心して読めます。個人的には「月宮殿殺人事件」が好きでした。


No.45 8点 深追い
横山秀夫
(2011/01/10 12:00登録)
 氏の短編集全てに通ずることですが,この作品もまた,一つ一つのストーリーに描かれた,主人公の組織人や男としての生き方が感じられて読み応えがあります。「訳あり」「締め出し」が,ともにラストが胸のすく思いでした。


No.44 8点 クライマーズ・ハイ
横山秀夫
(2011/01/10 11:47登録)
 組織の中で葛藤し,自分の立ち位置を見出すために戦う個人というヒューマンドラマとしては一級品だと思います。ラストのあたりで,皆が「同志」となって結束するくだりは,クサイといえばクサイですが,やはり胸が熱くなるものがありました。「ミステリー」ではないので微妙な評価となりましたが,氏の最高傑作といって差し支えのない出来だと思います。

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