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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2254件

プロフィール| 書評

No.1014 7点 馬疫
茜灯里
(2021/07/20 12:20登録)
 獣医学ミステリの力作。説明が上手いので、最初は珍紛漢だった感染症や馬業界のネタも判ったような気になれた。新しい要素を逐次投入して引っ張る計算も的確に機能していると思う。ラストは悪ノリ気味だが、エンタテインメントだし此処はやらなきゃね。
 2021年の現実を一部引き継いでの2024年が舞台。独特の臨場感を伴って読めるのは今だけかも? これはやはり、馬に託したコロナ禍の批評なのである。


No.1013 7点 欺瞞の殺意
深木章子
(2021/07/20 12:18登録)
 本作に限らず、往復書簡による小説に対しては、つい苦笑してしまうのだ。
 そういう“形式”なのだから突っ込むのは野暮だと知りつつ、延々と長い手紙を送り付け合う登場人物の精神性に引っ掛かってしまう。私信特有の大仰な表現、更に本作の場合は彼等の年齢も相俟って、どうにも気持悪い。
 と思っていたところが、読み進むにつれて話の展開と気持悪さが絶妙にリンクし始めた。こういう風にこじれた奴がこういう犯行、非常に説得力がある。深木章子史上屈指のキャラクター小説に仕上がったのではないか。


No.1012 5点 狂風世界
J・G・バラード
(2021/07/20 12:17登録)
 この“狂風世界”と言う魅力的な設定を、自然科学的にハードSFとして処理しないのは、そういう作風だとはいえ勿体無い。
 その点を別にしても、個々のエピソードがなかなか走り出さず、後半の3章で急にスピード・アップ、しかし時機を逸したか、ようやく気分が乗った途端に終わってしまった。R・Hについてはもっと掘り下げて欲しかったなぁ。


No.1011 6点 殺人は容易だ
アガサ・クリスティー
(2021/07/18 13:18登録)
 ラスト4分の1くらいで表面化する、某氏の異様な自己認識(『 DEATH NOTE 』みたい)について、もっと読みたかった。
 因みに私は、真犯人は秘かに某氏を愛していて、某氏の視線から“この者を殺せ”とのメッセージを(勝手に)読み取って実行しているのかな、ディープなラヴ・ストーリーだな、と推理したのだが……。


No.1010 5点 ガーデン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2021/07/16 13:37登録)
 この動機。犯人は随分と自信家だこと! EQの1943年の長編と似た構図である。
 事件に関わる面々のキャラクターや、ザルのように思える賭博システム(あんな方法で大丈夫なの?)は面白かった。

 解決編でヴァンスは“同じ条件のもとで実験してみたと想像します”と語るが、“とある場所での銃声が他の場所で聞こえるかどうか”を独力で調べるのは大変。勿論必要とあらばそういう仕掛けは作れるが、一言も言及していないのはつまり作者がその点に気付いていなかったのだろう。


No.1009 7点 白き日旅立てば不死
荒巻義雄
(2021/07/13 12:39登録)
 SFと言うより、記憶喪失ネタのサスペンスをゆったり書いたもの? 欧州カジノ紀行文にして心理ミステリ? 独特の静けさを孕んだトーンは確かに“白き日”って感じだ。常軌を逸した部分がもう少し前面に出ても良かった気はする。後半はフランツ・カフカみたいだと思っていたら作者も影響を認めている。


No.1008 6点 ミネルヴァの報復
深木章子
(2021/07/13 12:37登録)
 本作単独でなら面白いが、この作者は似たようなネタを繰り返し使うので、論理ではなく書き方で犯人を当てられてしまった。
 
 ネタバレしつつ書くが……殺人の後始末の共犯者を事後に調達しようと考えるのは無茶。通報される可能性の方が遥かに大きいだろうに。

 第二章の冒頭。某が事務所へ来訪。話した内容は電話一本で済むような質問。それっぽっちの為にわざわざ? 真相を踏まえるとコレはちゃんと伏線になっているのだが、作中でその点を説明していない。作者も気付かなかったのかな?


No.1007 4点 火曜新聞クラブ 泉杜毬見台の探偵
階知彦
(2021/07/13 12:36登録)
 キザハシではなくカイ・トモヒコ。そのまますぎて却って読めない作者名。

 アガサ・クリスティ関連の言葉がアレコレ盛り込まれており、未だ修行中の私には早過ぎたかもしれない。
 作り物めいた登場人物。解説する為に起きたかの如き事件の様相。色々と既視感があり今一つ。
 意地悪く言えば表紙イラストから逆算して書いたような雰囲気なのに、青春モノとしても妙に堅い。特に、主人公を変えた“過去の小さな事件”がつまらなかった点が残念。

 とか言って、実はクリスティマニアが読めばネタ満載で全然違った世界が見える作品だったらどーする?


No.1006 7点 名探偵なんか怖くない
西村京太郎
(2021/07/06 11:43登録)
 “探偵好みの犯人は文学的人間”とか“読者への挑戦”の内容とか、ユーモアを含みつつ見事な批評性。結末でいきなり出て来る手掛かりも、フェアプレイの定義を問うているのである。しかし有名作とはいえ元ネタ作品の犯人名を明かすのは許しがたい。


No.1005 6点 殺意の演奏
大谷羊太郎
(2021/07/06 11:42登録)
 ネタバレしつつ書くが……動機が人物間を伝播した点が特徴的。作者が意図した二重解決より面白い。
 Aが殺された。犯人Bの動機は“自らの能力を証明して劣等感を払拭したい”と言ったものだった。Cは、それを看破し、ほぼ同じ心理でBを殺した。
 では、それを看破したDは……? Dにもやはり同じ心理が伝播したのではないか。Dは自分が誘惑に負けるのを恐れてCに自首を勧めたのではないか。Cがあっさり自首したのは殺されると思ったからではないか。結末の部分はそういう風に読めた。


No.1004 4点 人生の阿呆
木々高太郎
(2021/07/06 11:42登録)
 弁護士殺害だけにスポットが当たって、他にも何人も死んでいるのにそれらはもののついでみたいな扱いだ。毒物の使用者には何の葛藤も無さそうだし(寧ろそれがリアル?)、自殺はとても説明的。
 物語が繰り返し明後日の方へ展開するのには面食らった。個々のパートはそこそこ読み応えがあり、悪いことではない。しかし結末がこんなにグダグダでは元も子もないのであって、読者への挑戦などしている場合ではないだろう。
 可笑しな言動や地の文があちこちに差し挟まれていて、10回くらい爆笑した。ネタなのか作者の天然なのか。


No.1003 4点 紅殻駱駝の秘密
小栗虫太郎
(2021/07/06 11:41登録)
 読みづらい。それもあって、つまらないと言うよりも“面白いかどうか判断出来ない”。綺羅利と光るところが無くは無いものの、それらをどうつないで楽しめば良かったのか。
 文体が際立っていないのも想定外。もっと衒学的かと思っていたが……。


No.1002 4点 少数派
石沢英太郎
(2021/07/06 11:40登録)
 題材は同性愛とエイズ。相応の取材の上でのものだろうが、かなり偏った書き方だと思う。但しその点は、フィクションにそれ以上の啓蒙的役割を押し付けるべきかと言う問題でもある。結果論として、蛮勇ではあるが、この時点(1987年作品)でこういう実情もあったのだとの記録にはなっているのではないか。ミステリ仕立てにしたのは単なる方便て感じで特筆すべきところは見当たらない。


No.1001 7点 弥栄の烏
阿部智里
(2021/07/04 16:29登録)
 これで“第一部完結”と言うなら。そもそも前巻で概ね完結していたよね。
 1~2巻のような、一つの事件を裏表両方から描く形式は、それによる面白さも勿論あるけれど、同じ話を二度読まされるわけで、“それもう知ってる”となってしまうマイナスも否めない。それをこの位置に配するのはシリーズの設計として如何なものか。『玉依姫』のラスト・シーンの方が決定的なインパクトを放っていて“完結”にはふさわしかった。
 とは言え。冷然たる雪哉、激昂する浜木綿。キャラクターの変貌が愛おしく、シリーズものを読む悦びを味わえる。


No.1000 4点 ガラス張りの誘拐
歌野晶午
(2021/07/03 11:03登録)
 事件の様相は面白いが真相は残念。
 助教授のキャラは良い、と思ったら、そういうことか……あっ、関係を築く為に必要とはいえ、依頼人の娘を買ったんかい。帰郷したら本当に死んでいたと言う偶然はやり過ぎ。


No.999 5点 アフロディーテ
山田正紀
(2021/07/01 14:26登録)
 あらら、いつの間にか現実が作中の年を追い越していた。
 架空の都市が舞台と言う点でSF。でも実は海上都市アフロディーテ(いまひとつイメージが摑めなかった)と移住者である主人公の位置付けは、同じ作者の魔境冒険ものを未来の場に平行移動しただけでは。
 アクション度はさほど高くなく、前半は青春小説。後半は“取り返しの付かないものへの諦念”を描いたソフトなハードボイルド? 地味な話だとの前提で読んだ方が楽しめるので、版元は誇大広告を控えるべきだ。今でこそ“キッドの正体”は判り易いけど、発表当時このアイデアはどんな感じだったんだろう。


No.998 5点 ニューロマンサー
ウィリアム・ギブスン
(2021/07/01 14:24登録)
 今読むと随分陳腐だ……サイバーパンクは何でもアリな設定になりがちで、却って作者の想像力の限界が問われる。黎明期ゆえに本作のハードルは低めで、先鋭的な後続作品に追い越されてもまぁ止むを得まい。記念碑的作品だと持ち上げるよりも、同じ土俵で戦わせて負けを認めるほうが誠実な評価だと思う。

 キャラクターは好きかな。モリイのミラー・グラスは全裸になっても外せないんだよね。うおぉ。


No.997 7点 日本アパッチ族
小松左京
(2021/06/25 11:51登録)
 不景気や失業者の増加が“鉄食い”の生まれる社会的条件だそうな。昨今は進化を促す淘汰圧が厳しく、私も実は‟鉄は食えるんじゃないか”と感じ始めていた。
 そこにもって来てこんなに美味そうに書かれた食鉄の手引きを読んでは、試さないわけには行かない。
 ネジを舐めてみると軽くピリッとした刺激がある。嚙み切るのはまだ無理そうなので、金鋸で細切れにして硫酸で煮込んでみた。舌触りが幾分か滑らかになり半解凍のケーキのようでジュッと音を立てて香ばしさに鼻が半壊するが慣れれば平気だと思う。うむ、やはり良い作品には感化されてしまうな。そういえば先日、筒井康隆の「最高級有機質肥料」を読んだのだが……。


No.996 8点 玉依姫
阿部智里
(2021/06/24 13:22登録)
 近年、私は“粗筋紹介は見ずに本編を読む”方針を採用しており、本書ではそれが大正解! そもそも前巻まで読んだ身なら“八咫烏シリーズ第5巻”と言うだけで手に取る理由は充分だしね。
 さてあの話の続きは~と思ったら、冒頭でいきなり現われるサプライズ。粗筋として“説明”されるのと予備知識無しで本文を“読む”のとはやはり全然違う(筈)。未読の方にはこの方式を推奨します。

 諸々の思惑がぶつかり合い擦れ違う。共感し易いポイントを示しつつ幾度も覆す作者の手管に翻弄されることしきり。
 モモの出番がもっと欲しかった。“玉依姫”にまつわるアレコレで西尾維新の物語シリーズや京極夏彦の京極堂シリーズみたいになるのは良いのか悪いのか。
 しかしそれらでは感じられなかった核が本作には一つ用意されている。混乱を描いた物語が、現代社会への批評として成立していること。

 因みに、私は“八咫烏や猿は遺伝子改造により分化した遠未来の人類である”と予想していたが……。


No.995 8点 ブックキーパー脳男
首藤瓜於
(2021/06/22 12:51登録)
 八合目までは寝食を忘れて読み進んだが、結末に大きな驚きが無く以下次号とはぐらかされた気分。続きが出るならいいけど大丈夫?

 厳しく見るなら――連続殺人の目的である権力の源について、理屈としては判らなくもないが、ソレを持っていれば強いよなぁとの実感は得にくい。
 “誰々がいった。”が連続する地の文とか、もう少し工夫を。
 計算せずに風呂敷を広げて膨れ上がってしまった感じ。キャラクターが話を引っ張るのではなく、話の展開に合わせてそれに必要な奇人を新たに登場させる本末転倒な感じ。但し、御都合主義があまり気にならない得な空気感を備えてはいる。
 
 第二章。死者のうち一人(茶屋警部並みの巨漢)は現場に出入りするだけで大変そう。地下室の構造に関する伏線かと思ったが違った。うーむ。

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