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ミステリの祭典

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ガーデン殺人事件
別題『競馬殺人事件』

作家 S・S・ヴァン・ダイン
出版日1956年01月
平均点5.62点
書評数8人

No.8 5点 虫暮部
(2021/07/16 13:37登録)
 この動機。犯人は随分と自信家だこと! EQの1943年の長編と似た構図である。
 事件に関わる面々のキャラクターや、ザルのように思える賭博システム(あんな方法で大丈夫なの?)は面白かった。

 解決編でヴァンスは“同じ条件のもとで実験してみたと想像します”と語るが、“とある場所での銃声が他の場所で聞こえるかどうか”を独力で調べるのは大変。勿論必要とあらばそういう仕掛けは作れるが、一言も言及していないのはつまり作者がその点に気付いていなかったのだろう。

No.7 5点 斎藤警部
(2021/03/22 21:19登録)
音に聞くまさかの恋愛要素は、印象的なラストシーン、競馬の隠喩に集約されていましょうか。。(集約されるほど大きなものでもないけど)。 フーダニットとフーズラヴド(ヴァンスがフーに恋しちゃったのか)が強烈に絡み弾き合いそうな予感で、結末に寄るにつれ結構ハラハラしたもんですが、、 あの『見せ場』の呆気なさも手伝い、おっと、アッサリ締められちゃったかな。。 とは言え、小ぶりによく纏まった本格と思います。 犯人が臨機応変に小道具を使い切ってみせた所なんか、そこそこシブいです。 様々な”賭け”要素を並べてみせたのは或る種あたりまえというか、弱いな。。 終わってみれば何だか、有栖川さんの緩い短篇、を少しだけタフに仕上げたよな印象。 地味ながら不思議な愉しさがあり、5.4で惜しくも5点! この長篇を短篇に凝縮したらもっと良くなるか、っつったらそんな単純なもんでもありますまい。 まー、競馬そのもののスリルとか、放射性物質の扱いとか、もうちょい濃ゆい演出があればより良かったかも。 あの無色透明が売りのヴァンが、妙にユーモラスな存在感出しちゃってるシーンは、軽く噴き出しました。


最後に、ネタバレ&逆ネタバレになるけど、、 この表題、まさか処女作の二番煎じ(本作の場合は逆ミスディレクション?)ではあるまいな、と疑ってました。。序盤だけ。。(何故なら、あまりに光る容疑者が登場したもんだから..)

No.6 4点 クリスティ再読
(2021/03/16 06:21登録)
「別名S.S.ヴァン・ダイン」によると、「カシノ」の売れ行き不振から、ヴァン・ダインは軌道修正を図ることになる。次の「誘拐」でヴァンスが銃撃戦するとか映画向きにスリラー風味が加わるけど、本作でもラストは活劇、しかもヴァンス恋愛す(あっさり、かつミスディレクション?だが)。というわけで、ヴァン・ダインの従来型の書法と新しい要素をつぎはぎしたような印象....でこれが成功してなくて、かなり小説として安っぽく退屈。
というかさ、男勝りでモダンなザリア、悪い意味で「女優」的なマッジ、冷徹な看護婦ビートン、とこの三人の女性のキャラ設定とか悪くないんだ。しかし、ヴァン・ダインの筆力が追い付いていないので、キャラを生かし切れていない...困った。いや本作全体的にアイデアは悪くないんだが、アイデアが全然活用されていないので、中途半端にネタをぶちまけたような印象が強い。
そりゃあさあ、電話による中継でサロンで競馬を楽しむとかね、風俗として面白いわけだよ。けどこの競馬がミステリに何かかかわったか?というと全然だし、放射性ナトリウムでなければいけない理由もないし....困ったものだ。そういえば本作の競馬は非合法のノミ行為だ(苦笑、第1章でマーカムに弁解してる)。
「ファイロ・ヴァンスにゃ/お尻ひと蹴りが必要ざんす」この有名なオグデン・ナッシュの戯詩の話題が本作の登場人物の口の端に上るとか、ちょっとメタなくすぐりもあるんだけど、ヴァンスらしいウンチクも本作はなし。試行錯誤は悪い方向にしか向かっていないように感じる。

後記:扶桑社のミステリー通信「ユーモア小説としてのヴァン・ダイン」が正鵠を得てる。

ヴァン・ダインは、そんなヴァンスをじつは心底かっこいいと思っている。
でも、それをかっこいいと思っている自分が恥ずかしいという思いもある。
著者のアンビバレントな感情が、ファイロ・ヴァンスのシリアスだがどこかコミカルな扱いには刻印されています。

わざわざいわでもがななナッシュの戯詩の扱いとか、なるほど、と思う。

No.5 5点 レッドキング
(2020/11/19 21:05登録)
ガーデン家の屋上ガーデンで起きた事件。銃による自殺であること明白な状況で、些末な物証から殺人を宣言するファイロ・ヴァンス。アリバイトリック解明から殺人が可能だった犯人を割り出し、証拠なき状況から「おとり捜査」仕掛けて解決へ。あまりにも分かり安すぎる犯人。序章でヴァンスの対女性抒情匂わせ、「大博打」云々の「カナリア」ネタ再現匂わせて、ミスリード狙ったのか微妙な叙述トリックにはなってはいるが・・・あそこまで露骨に「グリーン家」をなぞっちゃうとねえ。ところであの仰々しい「出馬一覧表」何だったんだ?

No.4 5点 ボナンザ
(2018/12/24 10:39登録)
フーダニットとして優秀な9作目。でもヴァンが言っていたヴァンスの恋物語はほとんどないに等しい・・・。

No.3 6点 nukkam
(2016/09/07 11:45登録)
(ネタバレなしです) 1935年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第9作の本格派推理小説です。青い車さんのご講評でも紹介されていますように序盤の競馬場面(ちゃんと出馬表が添付されています)がなかなか印象的で、当時の米国の上流社会ではこういう風に競馬を楽しむのかとちょっと社会勉強になりました。謎解きプロットもしっかりしており、自殺にみせようとする犯人のトリックを早い段階で殺人と見破るヴァンスの推理の前半から快調で、中盤で聞き慣れない化学物質が登場して理系が苦手な私はちょっと集中力がトーンダウンしたものの(笑)、最後は劇的な結末で締め括られます。往々にして饒舌な語りで他人を困惑させるヴァンスがある女性からの訴えに極めて真摯でストレートな対応をしているのも印象的でした。

No.2 8点 青い車
(2016/03/09 12:39登録)
 9作目となる本作は原点に立ち帰ったようなストレートな本格ミステリーとなっています。犯人のキャラが薄いのがやや不満ではあるものの、小粒ながらもしっかりとした銃声のトリック、ブザーを利用した計画の軌道修正、犯人の致命的ミスなど、様々な要素が含まれており、まさに古き良きパズラーを思わせます。また、ファイロ・ヴァンスの饒舌が抑えめになり、すっきり読みやすくなった文章には好感が持てます。
 競馬の出馬表が入っているのも面白い趣向で、20世紀アメリカの娯楽がモチーフとなる本作の印象をより強めています。クライマックスでのヴァンスの芝居がかった大復活劇も見どころで、個人的には名探偵の冒険譚としても楽しめる名作としてお薦めしたいです。

No.1 7点
(2011/09/23 10:23登録)
ヴァン・ダインの6冊限度説なんて、クリスティーやカーを引き合いに出すまでもなくいいかげんなもので、実際本人自身の作品でも、7作目以降そんなに急激に質が落ちているとは個人的には思いません。ちょうど6作目の『ケンネル』の出来がよかったので、以後と比較してしまうのかもしれませんが。ただし、衒学趣味についてだけならその『ケンネル』から底が浅くなってきていますので、教養講座を楽しみたい人には不満でしょうか。
その後半6作の中でも、一般的に最も評判のいいのがこの9作目です。事件の契機となるのが競馬なので、馬の名前はいろいろ並べても、学術的な薀蓄を述べ立てるわけにもいかなかったのでしょう。あらすじに書かれている放射性ナトリウムの方は、どうということはありません。それよりシンプルなフーダニットとしての明晰さに徹した作品になっていて、好感が持てます。自殺に見せかけるトリックは事件発生後すぐに明かされてしまいますし、それ以外には大したアイディアもないのですが、ミスディレクションの扱いは、初期より明らかに上達していると思います。

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