虫暮部さんの登録情報 | |
---|---|
平均点:6.22点 | 書評数:1848件 |
No.988 | 5点 | 飢餓同盟 安部公房 |
(2021/06/01 12:28登録) 革命を志す秘密結社のアレコレ。面白い場面が無くはないが、思索的な深みも、物語としての興趣も、中途半端で物足りなかった。誰かが安部公房を模倣して書いたものの本家には及ばず、と言った印象。 |
No.987 | 6点 | 交換殺人はいかが? 深木章子 |
(2021/06/01 12:27登録) この作者の長編には非常にパターン化された人物が多く登場してしばしば鼻に付いて感じられるが、パターンでもキャラクターがあるだけまだましなのだと気付いた。本短編集に於ける事件関係者は、事件を構成する役割があるだけの記号と化している。 トリックが漫画的だったり純粋な推理クイズに近かったり(共に悪い意味ではない)して、そういう記号扱いが嵌まっているものもあるが、幾つかはもっと長くして人物に厚みを持たせた方が説得力が増すと思った。 |
No.986 | 5点 | 涼宮ハルヒの暴走 谷川流 |
(2021/06/01 12:27登録) ハルヒは世界からドッキリを仕掛けられ続けているようなものだから、企画が尽きる前に一つ上の階層を引き込み新たな展開を図る――順当な策だけど、地味になっちゃってない? 謎の数式もなんだかどうでもいいような答だ。一方、SF的不条理をまるで含まない「射手座の日」が結構いい。 |
No.985 | 7点 | 親しい友人たち 山川方夫 |
(2021/05/30 11:27登録) 純文学なんか書く人だから、ミステリについての理解が多少的外れでも責められないよね。これは玉石混交でも仕方ないかな。 と言う偏見の下に読み始めたら、その打率の高さに驚いた。全33編のうち、省いても良かったかなぁと言うものは5編程度。起伏の少ない心理的ミステリも純文学の血を感じられて悪くないが、はっきりと犯罪小説している「三つの声」が(緩い部分もあるけど)一推し。 |
No.984 | 7点 | 菩提樹荘の殺人 有栖川有栖 |
(2021/05/28 12:27登録) 有栖川有栖の文章はやはり良い。あちこちに挟まれた批評もナイス。 「探偵、青の時代」。最後の mew の使い方がいいね。 表題作。警察が抜いた池の水、元に戻しておいてくれないんだ……。 余談:とあるCDを聴いていて、ふと気付いた。 「哀愁トラベラー」作詞:高柳恋 作曲:渡辺真知子 コマチ刑事の名前の由来はコレ? 偶然かな? |
No.983 | 5点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている キムンカムイの花嫁 太田紫織 |
(2021/05/28 12:17登録) 第弐骨。疑惑の残る自殺が、実は本当に自殺だった場合、後から証明するのは結構難しい。まぁミステリでそんなオチはそうそう無いか。真相とされた遺体二つの動きはちょっと出来過ぎ。 |
No.982 | 7点 | 白の協奏曲 山田正紀 |
(2021/05/25 12:40登録) こういう“撤去作戦”が実施されたら、私はどうするだろう。火事場泥棒のほうが怖いな~。テレビやラジオを聴取する義務は無いのだから、そんな指示は知らないぞと言い張れる。居留守を使って数日部屋に籠もるか。 物凄い大金とか財物とか、人間一人の身の丈とあまりにスケール感の違う欲望を見ると、その対比に哀しみを感じてしまうことがある。結末の“散骨”の場面もそんな感じだった。 第一楽章で説明される“囚人ゲーム”はちょっと説明不足。 楽団員は全員男性なので表紙のオブジェにはミスがある。 |
No.981 | 5点 | 石の眼 安部公房 |
(2021/05/25 12:39登録) 全体を貫く灰色の空気感。謎の成り立ちが曖昧で、人々はその周りをぐるぐる回っている。戯画的な雰囲気にいきなり厚みのある思考が切り込んで来たりして落ち着かない。 “謎”とはそれを載せるなにがしかの土台があってこそ成立するわけで、そこを不確定にした本作は結果的にミステリに対する批評、と言うにはしかし中途半端で、最終章で何故あんな行動に出るのか不可解。そしてそれでこそ安部公房。 |
No.980 | 8点 | 石ノ目 乙一 |
(2021/05/25 12:39登録) 魔法のような4編。登場人物が不自然な行動を取っても普通に読めてしまうところが凄い。 |
No.979 | 6点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている わたしのおうちはどこですか 太田紫織 |
(2021/05/25 12:38登録) 第弐骨。不自然な行動に至る自然な動機と状況が上手く設定されていると思う。 第参骨。心の動きに対して行動が非常に不自然。特に鴻上は何故あんなに頑なだったのか。 |
No.978 | 7点 | ウは宇宙船のウ レイ・ブラッドベリ |
(2021/05/23 10:38登録) レイ・ブラッドベリの作品には、作者が“文章の人”であることの功罪が如実であると思う。なんてことの無いストーリーがこの人の言葉で語られた途端に鮮やかな幻想に姿を変える(「霧笛」「太陽の金色のりんご」)一方で、魅力的な設定を尻すぼみにまとめてしまう(「長雨」「霜と炎」)バランス感覚の欠如は多分表裏一体。 本書は自選集で、作者の見方はやはり読者とはズレてるものだなぁと思わせるセレクト。 |
No.977 | 5点 | 元彼の遺言状 新川帆立 |
(2021/05/23 10:30登録) 著者からのメッセージ→“令和の女は強いぞ!” ――でもこの主人公を“強い”と評するのはかなりのアイロニーだとしか思えない。そして、“商品”としての側面も含めたこの小説の在り方として、そのアイロニーは使いどころを間違えているんじゃないか? 語り手が業突く張りなので、地の文で“誰だって、お金が欲しいに決まっている”等と内心が語られる。それがどうにも言い訳がましい。また、彼女の凄腕ぶりを示す場面があまり見当たらない。いちいち他者を値踏みするさまが鼻持ちならない。かといって本人にそれだけの美学も見られない。 あれやこれやの伏線は上手く回収されているし、面白いことは認めざるを得ないが、好きにはなれなかった。あのメッセージがなければ“拝金主義者が顰蹙買いつつ大暴れ”みたいな話としてもう少し素直に楽しめたかもしれないが、広告で興味を持ったのに広告のせいで楽しみ切れないとは皮肉だ。 と言うかこの主人公、“残念な人”キャラが売りじゃないの? GS美神令子じゃないの? 版元のサイトを見たら、推薦コメントにその手の屈託が全然無くてびっくりした。 |
No.976 | 6点 | ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人 東野圭吾 |
(2021/05/23 10:15登録) 軽妙で読み易く出来の良い、しかし普通の娯楽作品。 ノートは託されたものであって、純粋な盗みではないよね。 |
No.975 | 7点 | モルグ街の美少年 西尾維新 |
(2021/05/21 14:59登録) 終わる終わる詐欺常習犯の作者であるが、『美少年探偵団』アニメ化(美術のソーサクにもちゃんと声優がいるんだ……)に伴い案の定番外編の登場。単なるファンサービスみたいなものだが私はファンなのでサービスされました。眉美ちゃんの口が更に悪くなってないか。で、内容は青柳碧人『ヘンたて』の変奏。 |
No.974 | 5点 | クロウ・ブレイン 東一眞 |
(2021/05/21 14:52登録) 確かに第一章末尾、“カラスの脅迫”シーンでは背筋がゾクッとした。それは単に鬼面を見せて驚かせたのではなく、幾つかのエピソードを重ねて編み上げた中身のある怖さだ。しかし物語としてはここが(早過ぎる)頂点だったかなぁ。 主人公は馬鹿として上手く描けている。そしてそれ故に、共感するのは難しい。行動原理がマスコミの特権意識に基づいている感じもマイナス。作者も業界の人で、ならば“記者がやってはいけないこと”は判っている筈で、つまり狙って書いたのだろうか。匙加減を多少間違えている気がする。 |
No.973 | 8点 | 殉教カテリナ車輪 飛鳥部勝則 |
(2021/05/18 11:56登録) 第Ⅱ部の視点人物である矢部直樹は、なんだか変な奴だ。 絵のモデルが妻に似ていたので画家を調べ始める。画家の妻と話しているうちにぞっとする。事件の状況を聞いて驚いて大声を出す。――これらの場面を実際にストーリーに沿って読んでみると、なぜそこでそう動くのか、よく判らない。唐突に感情が沸点に達して、また唐突に平静に戻っているように感じられる。そういう不安定な類の人なのだろうか。 但し、これはこれで“操縦不能のロボットに私の脳だけ搭載されている”みたいでなかなか得難い感覚ではあった。 一方で、東条寺桂の手記は臨場感があり、謎の画家は見事に解体された。一見常識人の矢部がよく判らないままなのとは対照的だ。 |
No.972 | 6点 | 空棺の烏 阿部智里 |
(2021/05/13 11:38登録) 長い話の分割ではなく、一冊ごとに趣を変え、しかもシリーズであることを逆手に取った背負い投げ。群像劇としてのキャラクター配分は相変わらず上手い。ラストの猿のくだりが付け足しみたいになっちゃったのは悩ましい。 |
No.971 | 4点 | 亜シンメトリー 十市社 |
(2021/05/13 11:34登録) 文体がいかにもしゃらくさい。なにがしかのヴィジョンに基づく作戦なのだろうが空回っている。回りくどい書き方のせいで物語自体が腑に落ちないものに見えては本末転倒である。素直になろうよ。 |
No.970 | 6点 | エッシャー宇宙の殺人 荒巻義雄 |
(2021/05/12 12:02登録) “幻想の都市/夢探偵”がキーワード、さまざまな齟齬が寧ろ作品の核を成している逆説的ミステリ。いつかこの本を夢の中に持ち込んで読み返したい。夢の論理ならスッキリ筋が通って楽しめるだろう。視覚的イメージをもっと鮮やかに読み取れると良かった。私も蜥蜴タクシーで階段を登ってみたい。 |
No.969 | 5点 | 幻の女 ウィリアム・アイリッシュ |
(2021/05/12 11:56登録) 一人の冤罪に対して、清廉潔白ではないにせよ極悪人と言う程でもない人たちが何人も亡くなる(バーテンダーは“事故”とされているが、なかなか悪質な追い詰め方だったと思う)。数の論理で言えば、おとなしく死刑になったほうがマイナスは少なかったわけで、サスペンスと言うより、思考実験めいたブラック・ユーモアの小説。 私は、人間関係の偶然については狭量なので、犯人があんな渡りに船の状況で事件に関わる展開には頷けない。 裁判で検察側が示したのは状況証拠ばかり。あれで死刑判決? 死刑囚との面会の描写(監房に直接入って二人きりになれる)は史実? |