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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1008 4点 紅殻駱駝の秘密
小栗虫太郎
(2021/07/06 11:41登録)
 読みづらい。それもあって、つまらないと言うよりも“面白いかどうか判断出来ない”。綺羅利と光るところが無くは無いものの、それらをどうつないで楽しめば良かったのか。
 文体が際立っていないのも想定外。もっと衒学的かと思っていたが……。


No.1007 4点 少数派
石沢英太郎
(2021/07/06 11:40登録)
 題材は同性愛とエイズ。相応の取材の上でのものだろうが、かなり偏った書き方だと思う。但しその点は、フィクションにそれ以上の啓蒙的役割を押し付けるべきかと言う問題でもある。結果論として、蛮勇ではあるが、この時点(1987年作品)でこういう実情もあったのだとの記録にはなっているのではないか。ミステリ仕立てにしたのは単なる方便て感じで特筆すべきところは見当たらない。


No.1006 7点 弥栄の烏
阿部智里
(2021/07/04 16:29登録)
 これで“第一部完結”と言うなら。そもそも前巻で概ね完結していたよね。
 1~2巻のような、一つの事件を裏表両方から描く形式は、それによる面白さも勿論あるけれど、同じ話を二度読まされるわけで、“それもう知ってる”となってしまうマイナスも否めない。それをこの位置に配するのはシリーズの設計として如何なものか。『玉依姫』のラスト・シーンの方が決定的なインパクトを放っていて“完結”にはふさわしかった。
 とは言え。冷然たる雪哉、激昂する浜木綿。キャラクターの変貌が愛おしく、シリーズものを読む悦びを味わえる。


No.1005 4点 ガラス張りの誘拐
歌野晶午
(2021/07/03 11:03登録)
 事件の様相は面白いが真相は残念。
 助教授のキャラは良い、と思ったら、そういうことか……あっ、関係を築く為に必要とはいえ、依頼人の娘を買ったんかい。帰郷したら本当に死んでいたと言う偶然はやり過ぎ。


No.1004 5点 アフロディーテ
山田正紀
(2021/07/01 14:26登録)
 あらら、いつの間にか現実が作中の年を追い越していた。
 架空の都市が舞台と言う点でSF。でも実は海上都市アフロディーテ(いまひとつイメージが摑めなかった)と移住者である主人公の位置付けは、同じ作者の魔境冒険ものを未来の場に平行移動しただけでは。
 アクション度はさほど高くなく、前半は青春小説。後半は“取り返しの付かないものへの諦念”を描いたソフトなハードボイルド? 地味な話だとの前提で読んだ方が楽しめるので、版元は誇大広告を控えるべきだ。今でこそ“キッドの正体”は判り易いけど、発表当時このアイデアはどんな感じだったんだろう。


No.1003 5点 ニューロマンサー
ウィリアム・ギブスン
(2021/07/01 14:24登録)
 今読むと随分陳腐だ……サイバーパンクは何でもアリな設定になりがちで、却って作者の想像力の限界が問われる。黎明期ゆえに本作のハードルは低めで、先鋭的な後続作品に追い越されてもまぁ止むを得まい。記念碑的作品だと持ち上げるよりも、同じ土俵で戦わせて負けを認めるほうが誠実な評価だと思う。

 キャラクターは好きかな。モリイのミラー・グラスは全裸になっても外せないんだよね。うおぉ。


No.1002 7点 日本アパッチ族
小松左京
(2021/06/25 11:51登録)
 不景気や失業者の増加が“鉄食い”の生まれる社会的条件だそうな。昨今は進化を促す淘汰圧が厳しく、私も実は‟鉄は食えるんじゃないか”と感じ始めていた。
 そこにもって来てこんなに美味そうに書かれた食鉄の手引きを読んでは、試さないわけには行かない。
 ネジを舐めてみると軽くピリッとした刺激がある。嚙み切るのはまだ無理そうなので、金鋸で細切れにして硫酸で煮込んでみた。舌触りが幾分か滑らかになり半解凍のケーキのようでジュッと音を立てて香ばしさに鼻が半壊するが慣れれば平気だと思う。うむ、やはり良い作品には感化されてしまうな。そういえば先日、筒井康隆の「最高級有機質肥料」を読んだのだが……。


No.1001 8点 玉依姫
阿部智里
(2021/06/24 13:22登録)
 近年、私は“粗筋紹介は見ずに本編を読む”方針を採用しており、本書ではそれが大正解! そもそも前巻まで読んだ身なら“八咫烏シリーズ第5巻”と言うだけで手に取る理由は充分だしね。
 さてあの話の続きは~と思ったら、冒頭でいきなり現われるサプライズ。粗筋として“説明”されるのと予備知識無しで本文を“読む”のとはやはり全然違う(筈)。未読の方にはこの方式を推奨します。

 諸々の思惑がぶつかり合い擦れ違う。共感し易いポイントを示しつつ幾度も覆す作者の手管に翻弄されることしきり。
 モモの出番がもっと欲しかった。“玉依姫”にまつわるアレコレで西尾維新の物語シリーズや京極夏彦の京極堂シリーズみたいになるのは良いのか悪いのか。
 しかしそれらでは感じられなかった核が本作には一つ用意されている。混乱を描いた物語が、現代社会への批評として成立していること。

 因みに、私は“八咫烏や猿は遺伝子改造により分化した遠未来の人類である”と予想していたが……。


No.1000 8点 ブックキーパー脳男
首藤瓜於
(2021/06/22 12:51登録)
 八合目までは寝食を忘れて読み進んだが、結末に大きな驚きが無く以下次号とはぐらかされた気分。続きが出るならいいけど大丈夫?

 厳しく見るなら――連続殺人の目的である権力の源について、理屈としては判らなくもないが、ソレを持っていれば強いよなぁとの実感は得にくい。
 “誰々がいった。”が連続する地の文とか、もう少し工夫を。
 計算せずに風呂敷を広げて膨れ上がってしまった感じ。キャラクターが話を引っ張るのではなく、話の展開に合わせてそれに必要な奇人を新たに登場させる本末転倒な感じ。但し、御都合主義があまり気にならない得な空気感を備えてはいる。
 
 第二章。死者のうち一人(茶屋警部並みの巨漢)は現場に出入りするだけで大変そう。地下室の構造に関する伏線かと思ったが違った。うーむ。


No.999 7点 櫻子さんの足下には死体が埋まっている わたしを殺したお人形
太田紫織
(2021/06/17 10:56登録)
 語り手がどす黒い思いを改めてはっきり吐露し始めたのが良い。“化け物対決”を単なる伝聞で流しちゃったのは勿体無い。


No.998 5点 裁きの鱗
ナイオ・マーシュ
(2021/06/16 10:03登録)
 ミステリのフィールドの一部に、こういうアガサ・クリスティ的なスタイルがあり、私はそれなりに嗜むけれど全面的支持と言うわけではない。封建的な舞台で思惑があちこち絡み合う群像劇。よく読むと各人は微妙に変かも。しかしいかんせん地味。鱒や猫の使い方もぱっとしない。

 “アーチェリーの矢にご注意”なんて掲示されても、歩行者にどうしろって言うんだ。


No.997 7点 ドラゴン殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2021/06/12 12:45登録)
 これ昔ジュヴナイル版を読んだなぁ。結末の、とある小道具が出て来るところで、漫画調の挿絵を思い出した。 

 さて今読んで。臨場感があって予想以上に面白くはあった。
 しかし事象としては地味で、“戦慄すべき”だの“あらゆる合理的思考を超脱”だのと煽るようなものではないでしょ。読み終えて苦笑。もっと事件のサイズに合った堅実な書き方をした方が、却って不可解な部分が引き立ったと思う。
 もしくは、現代に奇怪な竜が実在するのか? 因習の一族と謎の客人達の目的は? 狂った老婆の語る伝説とは? と幻想&ホラー風味を前面に出してサスペンスフルに書くか。いや、ヴァン・ダインの筆力では……。


No.996 3点 ポアロのクリスマス
アガサ・クリスティー
(2021/06/12 12:43登録)
 何か変だ。
 犯人は捜査の落としどころとしてどのようなものを期待していたのか(この犯人ならきっとそういう発想をした筈)。自殺・事故は端から無理。特定の誰かに濡れ衣を着せようとしたフシも無い。迷宮入り狙い? 窓に施錠して外部犯を否定したのは失敗では。

 もう一つ。トリックに使ったゴムは現場に残る。それは犯人には予め判ることだよね。上手く隠滅出来たのは単なる幸運だよね。発見されたらそれだけでトリックがバレかねない。ではそのリスクを押してでもゴムの使用が必須かと言うと、そんなことはない。家具がひっくり返る音だけで充分に人は集まる、多分(リハーサル出来ないのが難点か)。余計なことをして、しかもそれがきっかけで破綻していることになる。

 作者のミスだ、と言うか、避けられた筈のミスを犯人特定の為にわざと犯させている?


No.995 5点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2021/06/12 12:42登録)
 ブラウン神父シリーズを読みこなすのは意外と難しい、かも。“難解”とはちょっと違う。物語の流れに上手く乗る為の然るべきタイミングやポイントがあり、そこを逃すとページを戻して詳細を理解し直しても何か大切なスピリットが流失するような。そうなってしまうと、今読んだばかりだと言うことが却って障壁となり楽しみを遠ざけてしまうので、忘却の恵みによって新鮮さを取り戻した頃に再度試みるしかない。今回私は読み方失敗。


No.994 5点 男の首
ジョルジュ・シムノン
(2021/06/12 12:41登録)
 変な話だ。そんな“実験”、アリか? 死刑判決を下した陪審員は安直だが、メグレも彼のどこに首を賭ける程の信頼を見出したのか?
 語られる真相は存外に面白い。しかしメグレの口による間接的な説明なので、どこか薄い膜の向こうを見ているようで勿体無い。この手の心理は、倒叙形式か、そこまで行かずとも犯行前後の諸々を直接描写出来る形で書く方が良くない? こういうのは我が国の新本格勢のほうが上手く書くなぁ。


No.993 6点 シャーロック・ホームズの回想
アーサー・コナン・ドイル
(2021/06/12 12:41登録)
 “そうか、ホームズ物語ってこういう感じか”と第1集を読んでそれなりに判ったので、然るべき向き合い方で挑む。つまり、捻りの無い実録風犯罪小説兼時代風俗小説として、期待し過ぎずあるがまま流れに任せるが吉。コツが摑めたので前巻よりは楽しめた。
 外国語の暗号も「グロリア・スコット号」ぐらい簡単なら面白い。「ギリシャ語通訳」で証人の安全を確保する前に広告を打っちゃうなんて対処が雑だよ兄貴。「最後の事件」の最後の手紙に涙。


No.992 7点 消えた断章
深木章子
(2021/06/08 11:19登録)
 被害者達のうち、“失踪者を探し回っているのが脅威だった”とされるSYが殺された理由がよく判らない。そもそもこの人は存在意義が希薄で、ポッと出て来てすぐ殺されちゃった。余分なエピソードなのでは。

 クリスティ談義は某長編('37年)を暗示しているのか。


No.991 7点 他人の顔
安部公房
(2021/06/05 10:01登録)
 病気で、怪我で、または生まれ付き、顔を失って仮面で生きる男女――御馴染のこのキャラクターの在り方に、ここまで深く潜ったのは初めて。某作も某作も、犯人にはそんな苦悩があったんだねぇ。入れ替わりも楽じゃない。一読、ゴシック系ミステリの見え方を変えてしまう、なかなかの劇薬。仮面製造会社の妄想が昨今のフェイクニュースやマスク社会を射抜いており可笑しい。


No.990 6点 ヴェロニカの鍵
飛鳥部勝則
(2021/06/03 11:17登録)
 確かに一人の画家の死が描かれるものの、それと関係の乏しいサイド・ストーリーにもページが費やされ、読み終えて振り返るとミステリとしては歪な形で、それも作者は承知の上のようだが、謎がポツンと孤立する配置ではなく周囲との有機的なつながりがもっと欲しかった。某が冷静に対処していれば死ななかったかも、と言う皮肉な指摘には唸らされたけどね。


No.989 7点 石の血脈
半村良
(2021/06/01 12:29登録)
 前半はSF伝奇ロマンと言うより企業サスペンスみたい。めまぐるしく場面が変わり、相関関係の把握が大変。結末では作者が息も絶え絶え。ケルビムの居並ぶ異様な情景はもっと堪能したかった。
 雑誌連載じゃないのだから全体をもう少し俯瞰的視点で整理して、ラストにこそじっくり紙幅を費やしても良かったと思う。特に昔の知人を消して行くところ。“あんた、好い人だな”会沢は助演男優賞。

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