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ミステリの祭典

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ドラゴン殺人事件

作家 S・S・ヴァン・ダイン
出版日1956年01月
平均点5.75点
書評数8人

No.8 7点 虫暮部
(2021/06/12 12:45登録)
 これ昔ジュヴナイル版を読んだなぁ。結末の、とある小道具が出て来るところで、漫画調の挿絵を思い出した。 

 さて今読んで。臨場感があって予想以上に面白くはあった。
 しかし事象としては地味で、“戦慄すべき”だの“あらゆる合理的思考を超脱”だのと煽るようなものではないでしょ。読み終えて苦笑。もっと事件のサイズに合った堅実な書き方をした方が、却って不可解な部分が引き立ったと思う。
 もしくは、現代に奇怪な竜が実在するのか? 因習の一族と謎の客人達の目的は? 狂った老婆の語る伝説とは? と幻想&ホラー風味を前面に出してサスペンスフルに書くか。いや、ヴァン・ダインの筆力では……。

No.7 5点 レッドキング
(2020/11/08 22:43登録)
これがもし「バスカヴィル家の竜」てな題の、ドイル19世紀作ホームズ物だったとしたら、「ミステリ史上の記念碑」の一つに挙げたくなっただろう。
でも、島田荘司の大技トリックや三津田信三「水魑の如き沈むもの」とか知っちゃうとねえ・・ヴァン・ダインて、なんか損な位置の人だな。

No.6 6点 クリスティ再読
(2020/04/22 21:47登録)
なぜか評者本作初読。犯人トリックとも的中だけど、あまり自慢にならない。ヴァン・ダインって「僧正」をホラーと思って読むと面白いんだが、「僧正」と違って本作はホラーとしてベタ。それでもスタム夫人の役回りとか、なかなか面白いものがあるが、ネタとしてはシンプル過ぎる話のように思う。
「別名S.S.ヴァン・ダイン」によると、「甲虫」でエジプトブームをアテ込んだ後は、目まぐるしく趣味を「犬」「熱帯魚」「カジノ」「競馬」ととっかえひっかえして、それまでの儲けを蕩尽するのがヴァン・ダインの暮らしぶりで、バブリーな消費生活の申し子みたいなセレブだったらしい。本作で披露される熱帯魚の知識とか、そういう中で手に入れたものらしいね。本作中で「ドラゴン・フィッシュ」とされているのは深海魚の一種のようで、アロワナじゃないようだ。
しかも龍に関するウンチクはなかなかマトモに楽しめる。日本に関するあたりはどうかな、田原藤太と竜王の件とかひょっとしたら熊楠か?竜王の玉の話は謡曲の「海人」。何かネタ本があるのかもしれないが、トンチンカンなものの多いエラリイのウンチクとは比較にならない。まあ、こういうネタ披露と死体発見が、単調な尋問を切り替えるかたちで目先を変えるので、結構読みやすい。
結構皆さん、「私」であるヴァン・ダインが不評なんだけど、ちょっと読みようを変えると、一人称固定のために、登場人物たちをすべて外面と発言だけで描写することになるわけだ。これはこれで、外面描写に徹したということになるから、意外なくらいに即物的なアメリカンの味わいだ。そもそもヴァン・ダインのスタイルの出発点には「セミドキュメンタリ」な狙いがあったようにも思うから、叙述スタイルからしてもハメットとの距離感はさほど遠いわけでもないように思うんだ。

No.5 4点 ボナンザ
(2018/11/22 00:07登録)
謎は中々魅力的だが、結末がチープなのは否めない。

No.4 5点 青い車
(2016/03/09 12:06登録)
 ヴァン・ダインの六作限界説はまったく当てにならないとは思うものの、他と比べると劣るのは否めません。
 カーばりの怪奇的な事件にファイロ・ヴァンスが挑戦する、という試みは悪くないです。プールに飛び込んだ青年が跡形もなく消え去る、この謎の求心力は『ケンネル』にも負けません。しかし、その魅力的な謎の提示に対し、トリックがあまりに頼りないという問題があります。特に竜の足跡については完全に肩透かしです。そもそもダイナミックなトリックを得意とする作家ではないため、発端の怪奇性と謎解きのせせこましさからアンバランスな印象を受けてしまいます。そして何より、犯行機会がもっともあるのは誰かを考えれば犯人が割れてしまうという弱さがあります。
 推理の面白さ次第では異色の傑作になってもおかしくなかったと思うので、かなり惜しい作品です。

No.3 6点 nukkam
(2015/01/26 11:40登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第7作です。謎の魅力が高い一方で真相が脱力モノというのが大方の意見ですが、ドラゴンの仕業(に思える)というオカルト風な設定への挑戦意欲をどこまで評価するかで賛否両論が分かれそうです。確かに犯人が結構目立つ失敗をしていてヴァンスだけでなく事件関係者の何人かも真相の見当がつき、それでいながら警察は五里霧中というプロットはどこか釈然としない部分もありますが、犯人当てとしての推理ロジックは十分納得できました。篠田秀幸が本書を下敷きにして「龍神池の殺人」(2004年)を書いているので比較しても面白いですよ。

No.2 7点 E-BANKER
(2014/09/06 21:47登録)
1933年発表の長編。
「ケンネル殺人事件」に続く作者七番目の作品に当たる。もちろん名探偵ファイロ・ヴァンスが登場。

~NYの心臓部マンハッタンにほど近い邸宅の屋内プールに飛び込んだ青年は、そのまま忽然と姿を消し、死体すら発見されなかった。水底には巨竜の足跡が・・・。この文明開化の世の中に果たして原子古代の巨竜が存在するのであろうか? 奇怪な熱帯魚を集めた河畔の古い邸宅にかり集められた男女の一群のなかに、殺人犯人は潜むのだろうか? 幻想と現実二股にかけて真相を突き止めようとするヴァンスの七度目の試練は成功するのか・・・~

今回再読なのだが、改めて「よくできた作品」という感想を持った。
プロットの骨子そのものは単純というか、いたってシンプルなのだが、それを巨竜(ドラゴン)伝説というオカルティズムをうまい具合に混ぜ合わすことで、読者を引き込んでいく手腕はさすがだ。
衆人環視のプールからの人間消失とプールの底に残された竜の爪痕という謎の提示は実に魅力的。
多くの関係者の“使い方”や割り振りもきれいに嵌っていると思う。
(特にオカルティズムを煽る役割を担うスタムの母親の使い方が秀逸だろう)

確かにトリックそのものは2014年の現在から見ると「それかよ!」ってなるかもしれないし、隠しているとはいえ事件後“それ”をそのままにしておく真犯人ってどうなの? というところはある。(結局ヴァンスに見つけられてしまう・・・)
しかも関係者のうちの三名は最初から真相に気付いていたというのもいただけない。
ただ、不満点というのはこれくらいで、あとは作者の熟練の技を堪能できるレベルに仕上がっている。

ヴァンダインというと、全12作品のうちピークが三作目(「グリーン家」)・四作目(「僧正」)で前半六作目以降は質が格段に落ちる、というのが大方の世評だが、どっこい七作目はまだまだ十分に佳作といってよいと思う。
熱帯魚や竜に関する薀蓄も満載というところも作者らしくて微笑ましい。
(竜伝説では日本のヤマタノオロチ伝説までも紹介されてる・・・)
ということで、「衒学的なのがどうもねぇ・・・」という方も、まずは手にとっても損のない作品という評価。
(三津田信三のあの作品も本作にインスパイアされたのかな?)

No.1 6点
(2009/09/09 22:05登録)
今回ファイロ・ヴァンスが講釈するのはもちろん世界各国の竜伝説についてで、弘法大師の話等も出てきます。それ以外に南米などの珍しい魚についての薀蓄も披露されますが、これは結局肩すかしでした。
さて、ドラゴン・プールからの人間消失方法それ自体はちゃちなトリックです。しかし、犯人は特に不可能性を演出する意図はなかったにもかかわらずそうしなければならなかった理由が明快ですし、しかも第2の殺人まで起こりながらたった2日半で事件が解決することを考えると、まあいいのではないでしょうか。それより、犯人のうっかりミスのため、逆に小説の半ば近くになって事件が異常な様相を呈してくるあたりが見所で、カーをも思わせるようなホラーっぽい展開です。1933年作ですから、ひょっとしたらこの後輩作家を意識したのかもしれません。
専門知識が利用されるため、ヴァンスより先に真相の見当をつけてしまう事件関係者が複数いるあたりは、あまり感心しませんが、最終的な決着のつけ方も含め、おもしろさはなかなかのものでした。

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