石の血脈 |
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作家 | 半村良 |
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出版日 | 1971年11月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 虫暮部 | |
(2021/06/01 12:29登録) 前半はSF伝奇ロマンと言うより企業サスペンスみたい。めまぐるしく場面が変わり、相関関係の把握が大変。結末では作者が息も絶え絶え。ケルビムの居並ぶ異様な情景はもっと堪能したかった。 雑誌連載じゃないのだから全体をもう少し俯瞰的視点で整理して、ラストにこそじっくり紙幅を費やしても良かったと思う。特に昔の知人を消して行くところ。“あんた、好い人だな”会沢は助演男優賞。 |
No.1 | 7点 | 雪 | |
(2021/01/01 06:59登録) ある日、以前勤めていた品川の廃工場跡にもぐり込んだ銅線泥棒が、首から上を包帯でぐるぐる巻きにした謎の男の手で犬のように撲殺された。同じ頃、多摩ニュータウンと並行して進められていたある開発計画が、隠微な圧力によって潰されていた。その裏では日本最大の企業集団・東日グループと、米政界とも繋がりを持つギリシャの大富豪オナシス傘下の外国資本・Q海運が蠢いていた。 その計画の地である神奈川県守屋では先頃、東日の力を背景に戦後の建築界に君臨しつづけた男・今井潤造が亡くなっていた。渋谷区松濤町の今井邸で、門下生たちと共に遺稿整理に当たっていた出版人・石川は、書庫に入りびたって資料をあさるうちに、今井が紀元七世紀から連綿と続く、回教カルマート派暗殺教団に関する何かを掴んでいたことを確信しつつあった。 その出版社がある室町の小さなビルから七八分離れた日本橋のMデパートでは、七階で催されている〈イベリア半島展〉に飾られていた古代の壺が、スペイン大使館の腕章をした二人組の男たちに運ばれていた。大使館側は「そんな使いなど出した覚えはない」といきまいていたが、一夜明けると前言をひるがえして手違いだと言って寄越した。 天皇と呼ばれた今井潤造の急死は、日本建築業界に激動を齎す――今井一門の筆頭であり、新鋭建築家として業界第二位の夏木建設に確たる地位を占める設計課長・隅田賢也、そして彼を推す下請会社社長・会沢のふたりも、大きな後ろ盾を失い窮地に立たされていた。こうなれば今井の握っていた陰の発言力の秘密を探り当て、名実ともにその後継者になるしかない。さらに隅田は数ヶ月前、専務取締役の娘である新婚まぎわの愛妻・折賀比沙子に失踪されていた。彼に残された手掛かりは新宿にあるクラブ〈赤いバラ〉のマッチと、銅線と赤い豆電球のみ。 隅田賢也、会沢、たまたま壺の盗難現場に居合わせたカメラマン・伊丹英一と恋人の柳田祥子、そしてアトラントローグの作家・大杉実。一連の事件の背後にあるものを突き止めようとする彼らの周囲には、次第に不可解な出来事が起こり始める―― 古代アトランティス、世界各地に残された巨石信仰(メガリス)、暗殺集団〈山の長老〉、赤い酒場、狼男、吸血鬼、そして不死の生命・・・。あらゆるオカルト要素を煮詰めた、鬼才・半村良のSF伝奇処女長篇。1972年度・第三回星雲賞受賞作。 1971年刊行。第2回ハヤカワ・SFコンテスト入選短篇「収穫」でのデビューから約十年の雌伏を経て、以後の旺盛な執筆活動の皮切りとなった、著者の第一長篇。山と積まれたオカルティックな題材を謀略小説ふうの外枠に嵌め込み、男女の愛を横糸に、醜悪かつ壮大なモニュメントの建設とその崩壊を描いた作品。 トロイ遺跡の発掘者ハインリッヒ・シュリーマンとロスチャイルド商会との関係、1912年に祖父ハインリッヒの遺志を継ぎ、アトランティスの謎の解明を公言したものの、直後にスパイ容疑で銃殺されたその孫パウロ。都市遺跡が濃密に分布する偉人の故郷メクレンブルグ、アーリア人種の移動と共に、世界各地に残された巨石信仰――と、前半のヒキはムチャクチャ面白いのですが、調べてみるとアトランティス⇔アーリアン学説⇔ナチス⇔メガリス関連は、評者が無知なだけで割とオカルトの鉄板ネタ。大ウケしたのがこの辺なので、多少天引きせざるを得ません。 本書が優れているのはここに吸血鬼(狼男)要素を混ぜ込み、権力の寄生性と重ね合わせたところ。後の『妖星伝』に繋がる価値観の転倒や、〈神聖病〉〈人間狩り〉〈絞られる生き血〉など、処女作に相応しく国枝史郎『神州纐纈城』の影響も多々。暗殺教団の力の根源を香料の道と絹の道、二つの交易路を押さえた事に求め、徐々に強大な金融資本に変化していった、との着想も素晴らしいものです。 難点はあまりにも壮大過ぎて、やや駆け足気味なストーリー展開(主に後半部分)。他に類を見ない独創的な設定ですが、これだとどうしても最後には躍動感を失ってしまいます。これが長篇第一作なのでどうしようもないけど、『妖星伝』並みに数巻分のボリュームは欲しかったなあ。ラスト付近で鬼子母神的な存在となる祥子とか、前半並みに書き込まれていれば申し分無かったのに。コインの裏表である隅田と伊丹に、作中通しての重みがそこまで無いのも不満。 色々言いましたが、この分厚さと迸るパワーは正直凄まじい。フツーの作家ならこれで枯れてもおかしくないのですが、半村は山風に匹敵するバケモノなので、本書の後にも間を置かず『産霊山秘録』やら『伝説シリーズ』やら、堰を切ったように著作を発表していきます。かなり楽しめる小説ですがやや構成が悪いのと、結構既存ネタに寄り掛かってるのとを差し引いて7.5点。 |