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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2060件

プロフィール| 書評

No.1340 7点 金雀枝荘の殺人
今邑彩
(2022/12/08 13:06登録)
 館モノの典型で、その作り物っぽい部分も含めて好き。生き残りが少ないので犯人に意外性は全く無かったが止む無し。第六章の6で語られる秘密が単なる付け足しみたいなのは残念(言葉だけで、証拠は示されていないし)。

 ところで、ネタバレするが、序章に登場する夫妻が巻末で暗示された通りの二人だとしたら。
 登場人物の系図を完成させてみよう。彼が某の息子と言うことは、夫は妻の母の従弟に当たる。従兄妹より遠い5親等だから無問題だけど、代が違う親族同士のカップルって妖しい感じがしない? 読了後に気付いてドキドキしちゃったよ。

 「それじゃ、ぼくの――」「ひいひいおばあさんかな」

 この “かな” が、断定していないところが、絶妙な伏線?


No.1339 7点 動く指
アガサ・クリスティー
(2022/12/08 13:06登録)
 静かな田舎の村、にしては情緒不安定な人が沢山住んでいるな(妹だって随分だ)。台詞の端々に危うさが感じられるのだが、語り手はシレッと流し、それがまた可笑しみを増幅する。事件の謎よりも、その語り口で大いに楽しめた。メタ・ユーモア・ミステリ? まぁ曲解は読者の権利である。ラストは冒険し過ぎで、ジェリーの憤りも当然だろう。


No.1338 6点 地図と拳
小川哲
(2022/12/08 13:04登録)
 長い。
 しかもこれ、物語の核がどこにあるのか、一向に摑めない。何がどうなれば大団円と言うわけでもなく、例えば第五章から読み始めても第十三章で読み終えても平気そう。過去から未来へ歴史が流れていく中で、ここからここまでを切り取って一つの作品です、とする根拠が見当たらない。全然読み終えた気がしない。

 それ故に(逆に?)、どこからどこまでも続く時間の長さが物語の背後に見えて来る。人がポコポコ死ぬのも、戦争が終わらないのも、まぁそういうもんだ、仕方ない、と思えてしまった。大山鳴動して結論はただ無常。怖い本だ。

 全然ミステリだとは感じなかったんだけど、このミス2023で第9位だから登録してもいいかな?


No.1337 8点 11 eleven
津原泰水
(2022/12/01 12:23登録)
 四谷シモンの人形の写真をカヴァーにあしらっているのが絶妙な食前酒。人に似ているけれど人ではなく、それゆえの美しさを具えつつぱっと見怖い。まさにそんな作品集で、多少の波はあるがいずれも強い吸引力が感じられた。「手」はまとまり過ぎかな。一推しは私も「五色の舟」。


No.1336 6点 妖かし蔵殺人事件
皆川博子
(2022/12/01 12:22登録)
 手持ちのネタで手堅く書いた感じ。不可解な現象に比べてトリックはしょぼいが、それはそれで歌舞伎をリアルな商売として描いた作品世界と合致しているかも。
 興行の本番中はみんな視野狭窄に陥りがちだから、そこを狙うのは賢い。しかし公演を中断させることも辞さない、同業界人のくせに血も涙も無い計画だな……。入れ換わりが上手くいく保証は無いので、そこは賭けだね。
 特に後半、人間関係が込み入って来るので、もっと意識しながら読むべきだった。犯人のキャラクターが今一つ摑めず、真相を知っても “ふーん” と思うしかなく残念。


No.1335 5点 不知火判事の比類なき被告人質問
矢樹純
(2022/12/01 12:21登録)
 期待したより小粒だった。各話の伏線の張り方が似通っていて、2話目以降は山勘でなんとなく判ってしまう。
 一方で、漫画原作者としてのキャリアで得たノウハウが、今までの小説作品の中では最も上手く生かされている気がして(読者の勝手なイメージだけど)、それだよ! と言う嬉しさもあった。次作への期待が募る足踏み?

 「二人分の殺意」のネタについては、現実性に懐疑的な見解もあるようだが、私は有り得る事象だと思っている。


No.1334 5点 魔物が書いた理屈っぽいラヴレター
林泰広
(2022/12/01 12:20登録)
 類型に嵌まらないような工夫はあるし、内容のエッセンスも悪くないが、どうしても安物感が拭えない。とは言え、軽く読み流せる娯楽作品が悪いわけでは全く無いしね。文章に深みが無いのは “理屈っぽい手紙” との設定に合わせたのだろう、と好意的に(意地悪く?)考えておこうか。

 ※表紙イラストが見取り図?


No.1333 4点 帽子収集狂事件
ジョン・ディクスン・カー
(2022/12/01 12:19登録)
 真相にはちょっとびっくりしたが、そこに辿り着くまでの事件の成り行きには物語の躍動感があまり感じられず、もっと何かあるだろと期待は募るものの叶えられないままいつの間にか解決編へ突入してしまい、そこで最も判らないのは最後に捜査陣が何故あんな票決に至ったかであって、捜査の過程で新たな人死にが出た件に関する責任を頬かむりしているように見えるのだがそのへんどうなんだフェル博士?


No.1332 8点 巫女の棲む家
皆川博子
(2022/11/24 12:27登録)
 “霊媒” の一語で始まるが、その交霊術はホンモノではない。しかしそれが人の心の中で蠢き、悪意ではなく心霊現象的事象が生まれ、ホンモノの定義が揺らぎ、信仰が成立するさまが、非常な説得力で描かれている。複数の語り手の思想の違いが、そして彼等がその道に踏み出す気持が、伝わって来た。心の弱い人がそうなるんだろうなんて安易な理解は斬って捨てられるのだ。
 四割くらい作者の経験談だそうで納得。この面白さは危険だなぁ。私は、カルトに嵌まる下地を本書で調えられてしまったかも……?

 ところが結末で急転直下、乱暴な着地を遂げてしまう。この雰囲気には覚えがあるぞ。風呂敷を広げ過ぎた連載漫画が、期待したほど人気が出ず、あと3回で完結させて下さい、ってことで急いでまとめにかかるあの感じ。ページ数の制限があったのだろうか。作者の望んだエンディングとは思えない。


No.1331 7点 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件
白井智之
(2022/11/24 12:25登録)
 これが大虐殺の真相だ。えっ、マサカー!? なんちて。
 全体の構造に関しては類似作が色々思い浮かんでしまうが、それでも演出が良ければ面白くなると言う好例。

 しかし文句もある。遺体の胴体を切断。更に中身がでろんと零れ落ちないように運搬。さぞかし実行は大変だろう。
 “余所者は壇上で二つに分割されるべし” とか予言があったわけでなし。あんなことする理由があった? あれに意義があるとした推理はダミーでしょ。
 あともう一点、犯人の認識と行動に於ける矛盾……は既に指摘された方がいるのでお任せします。


No.1330 6点 あなたへの挑戦状
阿津川辰海 × 斜線堂有紀
(2022/11/24 12:24登録)
 こんな企画を立てたら、こうやって読者にカードを開いて見せたりするのもまぁ当然の発想か。確かに興味深いが、創作の内幕を明かすのはあまり好きではない。これだけ作風の違う2編を抱き合わせるのは良し悪し。小説作品を、小説以外の要素で水増しした、との感も否めない。小説だけで充分楽しめる出来なんだけどね。


No.1329 6点 五色の殺人者
千田理緒
(2022/11/24 12:17登録)
 地味で小粒。好感は持てる。犯人に追われる場面はスリリングだった。しかし金看板は似合わない。賞の次点として世に出るくらい方が、寧ろ気分的に高く評価出来たかも。

 ところで、選評で紹介されている本能寺かぼちゃ作品は、まるで某このミス大賞文庫グランプリ作品だけど……?


No.1328 5点 奇商クラブ
G・K・チェスタトン
(2022/11/24 12:16登録)
 ACの『パーカー・パイン登場』みたいね(逆か)。
 “何か新しくて変わった金儲けの方法”――要は “そんなことに金を払うかな?” との設問があり、“払う人は払うだろう” と作者が思うなら、読者としてはハイそうですかと受け入れるしかない。“奇妙な成り行きはヤラセでした” と言う話(私はコレ、夢オチより嫌い)が3編も重複している点を鑑みると、基本設定自体に無理があったと思う(あっ、でも昨今はレンタルファミリーなんて商売もあるから、実は物凄い先見性?)。ダンシング教授の話だけをノンシリーズの短編として出すべきだった。


No.1327 8点 サーカスから来た執達吏
夕木春央
(2022/11/17 12:12登録)
 これは堪らん。子供の頃に少年探偵団シリーズを読んだ時のワクワク感が、アップデートした上で具現化されている。更に教養小説としてもごく自然に読ませる匙加減の巧みさ。何よりもユリ子のキャラクターの勝利ではあるが、もたらされる気付きと素直に向き合う鞠子も共感度合いは高し。

 しかし、財宝消失の夜の真相で納得出来るのは半分(消失の方法)だけ。そこに至る下手人の行動、タイミングの絶妙さは、成り行きを100%知っている神のようだ。そもそも、騒いで “別荘には人がいるぞ” と知らせれば泥棒は退散するのでは?


No.1326 7点 雲なす証言
ドロシー・L・セイヤーズ
(2022/11/17 12:11登録)
 前作のように変なトリックに腐心するのではなく、人の気持の襞に分け入ったのが奏功したか。事態が擁する非常な偶然については当然突っ込みたくなるけれども、作者としても重々承知の上で、弁護人に “運命としか言いようのない” とか言わせて自己弁護しており、それならまぁいいかと言う気分になる。或る種の様式美に則ったドタバタ劇と言うことで、ピーター卿もお疲れ様でした。


No.1325 7点 法治の獣
春暮康一
(2022/11/17 12:11登録)
 表題作は、ややチマチマした印象が残った。
 一方、「方舟は荒野をわたる」のアイデアは驚異的。ゲル状のでかい “顔” が岩場をぐねぐね移動するイメージが強烈。いや、それは間違ったイメージなのだが、浮かんでしまったものはしょうがない。私が今こう考えているのも、体内の微生物の行動のせいだったらどうしよう。謎を解き明かす話、ではあるね。


No.1324 5点 うさぎの町の殺人
周木律
(2022/11/17 12:10登録)
 酷な言い方をすると、葵がしつこく探り続けたから人死にが増えたのである。最初から彼女を殺すか、尋ねることを尋ねた後すぐ解放していれば良かった。
 何故監禁したのか → エピローグで示唆された事柄が事実で、コンタクトする手段が監禁しかなかったなら、それは哀しく且つ気持悪い。

 以前に比べれば小説として良い意味で柔らかくなった気はするが、心情の機微みたいな部分はやはり苦手なのか。だとしたら、真相がああいう方向に向かうのも、得意分野で勝負しようと言う必然かもしれない。“二重三重の安全策” が裏目に出て同士討ち、の皮肉さをもっと強調したほうがいいのでは?

 ラスト前では、偽情報を流して無関係な人を囮にしてるよね。しかもその人は事情を知らないので、命を救われたと感謝している。酷いマッチポンプである。


No.1323 8点 爆弾犯と殺人犯の物語
久保りこ
(2022/11/16 09:59登録)
 まず巻頭には、彼女の硝子玉にまつわる、殺伐としつつフラジャイルで、総体的にはだいぶ純粋なアイの物語。言葉の、そしてエピソードの、積み重ね方に確かな感性が窺え、更にそれがプロローグに過ぎないと知って私は驚く。
 新興宗教の扱いも上手いし、漢字大好き少年と言う設定は、読書家に大いに受けるのではなかろうか。
 一読、センス重視の作家に思えるが、例えば各話の長さと配置のバランス等を見ると、結構計算の出来る器用な人かも。どちらにせよ上出来である。


No.1322 8点 ドクター・ブラッドマネー 博士の血の贖い
フィリップ・K・ディック
(2022/11/10 12:25登録)
 私の引き出しが乏しい故に安易な連想に走っているのは承知の上で、人口密度の低い田舎のコミュニティ、割と典型的な “市井の人” のキャラクター設定、ころころ交代する視点人物――まるでアガサ・クリスティが核戦争後の世界を描いたような小説。
 そしてそれがまた面白い。フリークス系のエピソードも雰囲気のせいで当たり前の話のように読めてしまった。複数のネタが平行して、適度に干渉し合いつつ、きっちりした結末には落とし込まずにタイムゴーズバイ~とばかりに何となく〆る。ディックのやり口にはだんだん慣れて来たぞ。


No.1321 7点 すばらしい新世界
オルダス・ハクスリー
(2022/11/10 12:23登録)
 ぶっ飛んだ世界設定が素晴らしい。バーナードは異分子としては些か小物で先行き不安だったが、半ばあたりで新キャラクターが投入され一気に盛り返す。彼も古典文学に毒された変な奴。世界統制官とのディベートは圧巻。読んで面白いディストピアはやはりこれだね。

 ところで、本作は早川書房の世界SF全集に、ジョージ・オーウェル『一九八四年』とカップリングで収録されたりしているが、この2作って混ぜるな危険と言うか、共にディストピア小説の古典とはいえ発想が逆方向。オーウェルは先生に反抗したくてあんなふうに書いたのでは。いや、本来そんな比較する必要など無いんだけど、ついしてしまう、ありがた迷惑な企画なのである。

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