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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1128 5点 錬金術師の密室
紺野天龍
(2022/01/30 12:04登録)
 この真相、某メフィスト賞作品そっくり。
 但しこれは、作者ゆえに自作品を上手く客観視出来なかっただけで、ネタをこっそりかっぱらって使いまわそうと言うズルではなかったと思う。軽いオマージュくらいのつもりが、実際にはがっつり換骨奪胎になってしまったぞ、と言ったところでは。スチームパンク要素の匙加減がいい感じで、そんな風に好意的に捉えたくなる。


No.1127 5点 新ナポレオン奇譚
G・K・チェスタトン
(2022/01/27 11:48登録)
 こういう、広義の戦争状態を風刺的に描く小説と言うのは、まぁ或る程度一つのパターンとして存在するわけで、その系譜の中で見ると、本書は戯画化のセンスがあまり宜しくない(特に一番最後の会話は蛇足)。私は “時代的な制約” とか考慮しないので、例えば筒井康隆あたりと比べるとかなり物足りなかった。
 一方で、文章に関してはブラウン神父シリーズより気が利いていると言うか、もともとこうして良い塩梅でスタートしたのに、やりすぎてあの読みにくさになっちゃったんだな~。


No.1126 5点 闇の左手
アーシュラ・K・ル・グィン
(2022/01/27 11:47登録)
 えっ、これシリーズ物なの、しかも後半の方の一冊? 先に言ってよ。読み終えて解説を読むまで知らなかった。

 “異文化” はSFに限らず文学の大きなテーマだが、その中で物凄く優れた一冊とは言えない。後続作品の良い踏み台にはなったかもしれない。それ故、相対的に物足りなさが感じられる。
 論文小説とでも言うべきか、一人称なのに妙に間接的な雰囲気が漂い、しかしそれがあまり効果的ではない。性別に関する件は、作品の真ん中に据えたいのか、背景として溶け込ませたいのか、扱いが曖昧な気がする。
 ゲンリーが捕えられ更生施設へ送られるくだりが最も印象的だったが、その後の氷原行は情景を上手くイメージ出来ず。挿入される幾つかの神話みたいなものが適度に支離滅裂でナイス。 


No.1125 7点 歌の終わりは海
森博嗣
(2022/01/22 12:45登録)
 タイトルでテーマをはっきり宣言している割に、それについてさほどの深みや捻りが示されているわけではない。既にある言説をなぞったとの印象しかないが、しかしこれは斬新な意見を求める類のネタじゃないからねぇ。
 ストーリー上にマッチポンプめいた装飾を加えなかった為、流れはスッキリしている。逆説的だが、余計な工夫をしていないおかげで好感の持てる佳作に仕上がった。


No.1124 7点 化石の城
山田正紀
(2022/01/16 12:01登録)
 これは作者初の “明確なSF要素を含まない長編” だ。
 ところが山田青年はあとがきにこう綴っている。

 “ぼくはSF作家を志す者だ。なぜ他の小説をではなく、SFを選んだのかという理由のひとつに、諸先輩の誰もが口にされることだが、その間口の広さがある。(中略)ぼくの独断にすぎないかもしれないが、すでに日本においては、SFを小説の一ジャンルと考えるのは正確でないような気がする。頭のなかで繰り返したあるシミュレーションを、小説にとりいれるテクニック、あるいはそれに伴う「思想」のような気がするのだ。
 ――というわけで、この『化石の城』は現代史をテーマにしたSFである。”

 これは、山田正紀を読み解く上で、なかなか重要かつ親切な告白ではないか。
 デビュー作で星雲賞を受賞し、立て続けに傑作SF長編を発表、一躍SF界の寵児となるかと思ったらアクション小説へも手を伸ばした。それはそれで面白いのだが、“初期作品のようなSFを(初期のうちに)もっと書いて欲しかった” 私にしてみれば “何故そっちへ行った!?” との疑問を拭い去ることが出来ずにいた。てっきり出版社主導の “売る為の路線” として書いたのかな~と邪推していたのだが、しかし本人としてはそこまでの区別は無かったと言うことだろうか。
 超自然現象の有無とかにこだわらず、本作から『宿命の女』や『人喰いの時代』を経て『ミステリ・オペラ』あたりに辿り着くものが “現代史SFと言う思想” だとすれば、山田正紀のミステリが何故いつもミステリとして何か欠けているように感じられるのかの説明になるような気がする。


No.1123 5点 蝶々殺人事件
横溝正史
(2022/01/13 11:13登録)
 表題作。事件そのものはあまりぱっとしない。語り手のキャラクターの書き分けは上手い。ラスト、“あの人の正体” で一番びっくり。
 併録の2編の方が面白かった。横溝正史は、整合性がどーとか言うより、派手な場面や奇人変人満載の草双紙趣味の方が本領を発揮すると今更ながらに思う。アラ探ししてもあまり意味は無かったんだな~。


No.1122 5点 バスカヴィル家の犬
アーサー・コナン・ドイル
(2022/01/12 12:32登録)
 犯人の死は未確認だけど大丈夫?
 女性へのDVとかはともかく、人死にが出た(犬をけしかけて相手が死んだら法律上は何罪?)件に関しての物証は結局摑めなかった(よね?)。今回は危うく助かったサーだが、彼が死んだ後、実は生きていた犯人が我こそは相続人なりと名乗り出たら、欠格とする根拠はあるのだろうか。
 犯人が死んでいたとして、犯人になりすましても殺人罪に問われるリスクは低いのだから、事情を知っている奴が替え玉を用意して権利を主張したらどうなる。
 ああ、つまりワトスンがこの手記を公表することで抑止力となるわけか(?)。


No.1121 5点 怪盗紳士ルパン
モーリス・ルブラン
(2022/01/12 12:31登録)
 長年抱いていたイメージと違って、彼は(変装術に関してはともかく)天才と言うより行動力と度胸の人?
 割と感情的に動くキャラクターで、多くの部下を組織し運営する能力には乏しそうなので、若干違和感が。あれは寧ろ部下達の方が心酔しているのだろうか。
 まぁ1冊読み返しただけで決め付けることはない。内容的にはまだ小手調べって感じだし。「アルセーヌ・ルパンの逮捕」はアンフェアだと叩かれなかったのだろうか。


No.1120 5点 街を歩けば謎に当たる
アンソロジー(出版社編)
(2022/01/12 12:30登録)
 海野碧・両角長彦・石川渓月・川中大樹・前川裕を収録。

 私の目当ては海野碧。作風の幅を広げたのはいいが、文体まで変わってしまった。以前のあの文体はハードボイルドなストーリーあっての装いだったのだろうか。普通になってしまったなぁって感じだ。
 ミステリのアンソロジーと言っても所謂パズラーは皆無。裾野が広がるミステリでコレも一つの流れ、とはいえ腑に落ちない……。


No.1119 7点 冬のスフィンクス
飛鳥部勝則
(2022/01/07 11:24登録)
 夢か現か。“犯人は一人” である根拠が読者への挑戦状だけ(だよね?)だったり、それなりに設定を有効活用している。“あんた、いったい誰なんだ?”と、世界が揺らぐ。
 挑発的な枠組みは好きなんだけど、ぶっちゃけ事件が地味。あと一歩、何か欲しかったなぁ。
 ところで『方舟』は、解説抜きでも面白い絵だと思う。


No.1118 8点 忌名の如き贄るもの
三津田信三
(2022/01/05 14:36登録)
 これはかなり良い。その理由は、推理の試行錯誤が飽きる前に終わって、過剰さがいい塩梅に抑制されていたおかげ、かも。いや、それ言っちゃあシリーズの個性全否定?
 冒頭の儀礼~葬儀の話が滅法怖い。出番少ないけど井津子のキャラが程好くピシッとした感じでナイス。


No.1117 7点 髑髏城
ジョン・ディクスン・カー
(2022/01/05 14:34登録)
 事件の様相について、その構成要素を鑑みればもっと迫力があってもおかしくないのだが、どうも紗が掛かったようなぼんやりしたイメージしか持てない。
 これは半分以上が伝聞として語られるせいではないか。それとも私の読み方が下手なのか。
 それが解決編に至って一気に持ち直す。
 アルンハイム男爵が解き明かす因縁は、ミステリ的な捻りには乏しいがストレートにガツンと来た。と言うか、これは冒険小説的復讐譚で、男爵のパートは “解決編(結)” ではなく “転” なんだね。でも気分的にはバンコランのパートはいっそ無くても良かった。


No.1116 8点 夏と冬の奏鳴曲
麻耶雄嵩
(2022/01/05 14:33登録)
 再読だが面白い。この長さをちゃんと読ませる力量には感服。殺伐気味なラヴコメとしてもOK。この手の密室トリック実は大好き。でも真相探しとか解釈とかは諦めた。

 新装改訂版で読んだが、気になる表記が20箇所くらいあったので版元にメール。何を改訂したのやら。最近すっかり校閲者気取りで新刊を読む私である。


No.1115 7点 人形つかい
ロバート・A・ハインライン
(2022/01/05 14:32登録)
 侵略SF、ではあるが、特殊機関のメンバーを通して描かれるので、いきなり寝返る者が出たりして(下手な)スパイ・スリラーに思えたりもする。そしてそれ以上に、侵略者への対抗策がまるで感染症対策のパロディで、作者の社会学的想像力に拍手。
 SF的世界設定が後出しでシレッと追加されるのには笑った。途中でロマンスを挿んだのは余計な気もする(機関のプロフェッショナリズムが揺らいで見えてアレッ? と思った)。


No.1114 7点 宿命の女
山田正紀
(2021/12/29 12:16登録)
 問題は結末間近で明らかになる “宿命の女” なる芸術作品。私の感受性の欠如か、“そういうものでそういう表現が出来る” と言うことがイメージしづらく “なんじゃそりゃ” と思った。
 思ったがしかし、数ページ読み進むうちにみるみるそれが自分の中で “アリ” に変わって行く。大袈裟に言えば、心の一部が組み替えられたような気分で面白かった。
 主人公が美術雑誌編集者で、アクションに於ける強みがまるで無く、優柔不断なままラストまで流れ着くあたりも苦笑を誘われ良い感じ。


No.1113 3点 白昼の悪魔
アガサ・クリスティー
(2021/12/29 12:15登録)
 何か変だ。
 ネタバレするけれども、加害者には被害者の行動をコントロール出来ない。芝居が終わるまで、見ざる聞かざるで隠れていてくれる保証など無い(被害者にしてみれば、様子を窺っていないと邪魔者が去っても判らないし)。
 であるなら、被害者が計画を知った上で敢えて殺されたと考えるしかない。惚れた弱みで知らぬフリして殺されてあげよう……しかし、そもそもこんな不自然な計画を立てるか? 被害者が協力しないと成立しないことは、事前に見当が付くのでは?
 従って、被害者加害者結託しての、“アリバイ確保の為にこういうトリックで殺されてくれ” “承知したわ” と言う命懸けの殺人劇だった、となる。いや、それなら本人が死体役をやればいいのであって(ポアロは “危険が多すぎる” としてこれを否定しているが、何が危険なのだろう?)、3人目の彼女はいらない。
 つまり、その彼女が発案・主導し、一方で共犯者側としては尻尾切りされない保険として彼女にも口だけでなく手を汚させる為にこの面倒なトリックを組み込んだ、と言うことだ。それはそれで驚きの真相ではないか。


No.1112 7点 裏切りの果実
山田正紀
(2021/12/26 11:02登録)
 それにしても暑い。そして疲れて、空っぽ。返還前夜の沖縄の空気がこれでもかとばかりにリアルに描かれている。いや実物知らんけど、リアルな気が、する。現金輸送車は宿命的に狙われる。
 結末近くで明かされる伊波名の意外な小賢しさと、それによって露わになる志郎の空虚さ(とは大袈裟か)が印象的。ドストエフスキーを持ち出したりして、実はインテリ? 理想に敗れた活動家あがり? “刑務所” ってそういうことか?


No.1111 7点 生存者、一名
歌野晶午
(2021/12/25 10:56登録)
 何しろテーマが “孤島” だから、或る程度パターン通りなのもやむなし? その上で登場人物の気持など、それなりに上手く書かれていると思う。教団についてもっと描写して欲しかった。あっ、“ケモノ” の真相が不明なままだ。


No.1110 4点 誰そ彼の殺人
小松亜由美
(2021/12/25 10:52登録)
 法医学的事案としてはそれぞれ興味深いネタなのに、物語としての書き方がぎこちない。ユーモアを意図しているようなところも効いていない。


No.1109 7点 逡巡の二十秒と悔恨の二十年
小林泰三
(2021/12/24 12:13登録)
 「吹雪の朝」は、クローズド・サークルものに見せかけて実は××+××のミステリ。「侵略の時」「サロゲート・マザー」は作者ならではの哲学的で論理的な狂笑SF。「食用人」、このネタでここまでやった例は初めて読んだ。「メリイさん」は以前にも書いたネタだろ!

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