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ミステリの祭典

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闇の左手
「ハイニッシュ・ユニバース」シリーズ

作家 アーシュラ・K・ル・グィン
出版日1977年07月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 虫暮部
(2022/01/27 11:47登録)
 えっ、これシリーズ物なの、しかも後半の方の一冊? 先に言ってよ。読み終えて解説を読むまで知らなかった。

 “異文化” はSFに限らず文学の大きなテーマだが、その中で物凄く優れた一冊とは言えない。後続作品の良い踏み台にはなったかもしれない。それ故、相対的に物足りなさが感じられる。
 論文小説とでも言うべきか、一人称なのに妙に間接的な雰囲気が漂い、しかしそれがあまり効果的ではない。性別に関する件は、作品の真ん中に据えたいのか、背景として溶け込ませたいのか、扱いが曖昧な気がする。
 ゲンリーが捕えられ更生施設へ送られるくだりが最も印象的だったが、その後の氷原行は情景を上手くイメージ出来ず。挿入される幾つかの神話みたいなものが適度に支離滅裂でナイス。 

No.1 7点 クリスティ再読
(2020/12/27 14:58登録)
ミステリのフェミニズム、とは言っても、ミステリだとフィクションとしての「過激設定」で世界を構築するのは向いてないこともあって、やはり少しSFには譲るか?と思わせる...なんて言いたくなるような、フェミニズムSFの代表作である。

本作の舞台は惑星「冬」。氷河期の中を生き抜く人類の末裔たちの世界だが、大昔に施されたらしい遺伝子改変によって、この惑星の人類は両性具有である。月に一度「ケメル」と呼ばれる繁殖期があり、この間には男女どちらかの性器がランダムに発達して、女になった側が妊娠・出産することになる。ケメルでの変化はランダムなので、以前男として子供を産ませた者が、今度は妊娠して出産する...というのも当たり前。性による区別の概念がない世界なのだ。
生存に厳しい環境にあるこの両性具有者の世界に、外宇宙から外交使節が訪問した。「エクーメン」と呼ばれる再建された星間文明への参加を呼び掛けたが、使節として訪れたアイはこの星の特有の文化に翻弄される....

以上の前提から構築される、この惑星の社会・文化・宗教のありさまを、文化人類学的なセンスで丹念に構築して、その文明が外部と接触したときの、戸惑いや軋轢さえも、丁寧に描写しているのが醍醐味。話の筋としては、この惑星の国家の一つカルハイド王国の高官エストラーベン卿と、エクーメンからの使節アイ(黒人!)との交流を軸に、エストラーベンの追放と共産主義国家のようなオルゴレインへの亡命、アイのオルゴレインでの矯正施設への収容とエストラーベンによる救出、そして極寒の氷河を抜けての脱出行...という冒険的要素で展開している。

まあ筋立てよりも、宦官的な印象を受ける「シフグレソル」という体面やら儀礼やらを象徴するカルハイド王国の社交文化、殺人はあっても戦争を知らないこと、蜂や蟻の社会性を連想させる共産主義国家オルゴレインなど、両性具有に由来を感じさせる文化の諸相、「ヌスス」という「無知」を重視した老荘風の哲学やら、イヌイットの言語同様に「雪」を表す多種多様な表現など、考えさせられる特異な文化の面白さに目を奪われる。さらに、

友人、友人とはなにか、どんな友人も新月になれば愛人に変わってしまう世界で?私は男性という性にとじこめられているから友人ではない。(略)われわれのあいだに愛は存在しない

と脱出行の最中にケメルに入ったエストラーベンに戸惑うアイに、友情と理解と、その限界に対する諦念が立ち上る..... 友情というのは、互いに別な人格である、という前提でしか成立しえないものなのは宇宙共通の法則に違いない。それぞれの文明の固有な特質は、別な文明では完全に理解しきれないものかもしれない。それならば、文明同士の「友情」はありうるのだろうか?

実に重厚なSFである。ピーター・ディキンスンに近い実験的な文化人類学のテイストがあるので、ミステリ読者だとディキンスンが好きな方にはおすすめ。

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