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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1168 6点 館という名の楽園で
歌野晶午
(2022/04/06 15:03登録)
 息子の復讐劇で館が炎上するものだと思っていた。はっきり書かれてはいないけど、保険金も使い尽くしたと言う含みだよね。
 いかにもミステリ・マニアがやりたがりそうなトリックの為のトリックをミステリ・マニアが実践している、と言う意味での説得力はある反面、自分も同類ゆえ勘で何となく気付いてしまったのが残念。


No.1167 4点 幸福の密室
平野俊彦
(2022/04/06 15:03登録)
 下手だな~。密室トリックは簡単だし、諸々の考察は浅いし、何より主人公の行動原理がさっぱり判らん。陰謀論に飛び付いて謎の使命感で突撃したら何故か都合良く真実を突いてしまった話?
 読者を苦笑させる狙いで意図的にこのキャラクターを造形したなら凄いけど、そう考えるには世界観があまりに同調し過ぎている。
 あっでも、これを島田荘司が第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞に選んだのは何となく納得。


No.1166 8点 獣たちの海
上田早夕里
(2022/03/29 13:52登録)
 メインの中編「カレイドスコープ・キッス」の柱は二つ。カレイドスコープ:立場による世界の違い、異なる視点ゆえの摩擦。これについては結末で作者が語り過ぎかな~と言う気もする。ラスト3ページは無くても良かった。
 で、キッスのほうは中心人物二人の関係性。早川書房は百合SFアンソロジー『アステリズムに花束を』を出したり、そこから派生した小川一水『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』をシリーズ化したりしていて、それに呼応したのかな~と邪推。少なくとも出版社サイドはそういう流れが生まれたと捉えているのでは(もっとやって)。


No.1165 5点 木製の王子
麻耶雄嵩
(2022/03/29 13:50登録)
 素材を鑑みれば、もっともっと楽しめた筈なのに……アリバイ問題で消耗し過ぎたか。精緻な状況が存在する必要はあるけどその内容自体はどうでもいい、って困るよね。そこで読み疲れたら読者にとっても本末転倒だし。

 やっと気付いた。“舞奈桐璃” と言う名前は “MY納豆売り” って洒落なんだな。


No.1164 6点 多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還
大塚英志
(2022/03/29 13:50登録)
 ……ってことで、まとめて読めば勢いでプラス・アルファくらいはあるかも。
 登場人物達の表層を積み重ねることで、読者に勝手にその内面を構築させるような、(必ずしも悪い意味でなく)表面的な作風。コミックのノヴェライズと言う出自は当然大いに関係あるだろう。しかし風呂敷を広げっぱなしで “夢の跡” って感じは哀しい。


No.1163 5点 多重人格探偵サイコ 西園伸二の憂鬱
大塚英志
(2022/03/29 13:46登録)
 あれっ、こんなもん? ハッタリは効いてるけど、内実が想定を上回る程ではない。分冊したのが失敗では……?


No.1162 5点 多重人格探偵サイコ 小林洋介の最後の事件
大塚英志
(2022/03/29 13:46登録)
 あれっ、こんなもん? ハッタリは効いてるけど、内実が想定を上回る程ではない。分冊したのが失敗では……?


No.1161 8点 追憶の烏
阿部智里
(2022/03/24 12:21登録)
 容赦無いなぁ。
 作者のペンが書き換える世界に、口をぽかんと開けて流されるしかなかった。筋は通っているから(いつから伏線を考えていたのか?)抗えない。
 私としては “外界での八咫烏や天狗の稼業とは?” と言うあたりが気になってたんだけど、そんな牧歌的な方へは進んでくれそうにない。


No.1160 8点 朝と夕の犯罪
降田天
(2022/03/24 12:19登録)
 この人達はなかなか器用に引き出しを使い分け、しかもそれが表層的な借り物には見えない筆力を具えているのではないか。
 3分の2まで読んで、“もう大きな謎は残ってないじゃん。あとは後日談?” と思ったら、思いがけぬところから風呂敷を何枚も引っ張り出して来て感心した。しかしこれ、事実をどこまでどう明かすかは熟考を要するだろう。一度明かしたらチャラには出来ないから、警察官達のスタンスに私は賛同しかねるな。


No.1159 7点 ルピナス探偵団の当惑
津原泰水
(2022/03/24 12:18登録)
 なんとも妙な読み味だ。ミステリとしての出来は決して悪くないのに、キャラクター小説としての巧みさに埋もれている部分があり相対的に目立たない。かと言って総体的に出来が悪いわけではなく、そういうスタイルであるとの確信に満ちた佇まいで、相応の読後感が得られた。
 ピザを食べた理由よりも、影の長さが導く手掛かりの方が面白い。


No.1158 5点 魔女の隠れ家
ジョン・ディクスン・カー
(2022/03/24 12:16登録)
 ラスト3分の1、暗号解読以降は、私の中の少年探偵団魂がムクムクと甦って楽しかった。しかしそこに辿り着くまでが退屈。しかもこれが、リアリティや誠実さ故に地味なのではなく、出し惜しみって感じ。手記や回想シーンならいいんだけど、カギカッコの中で語られる怪奇趣味には距離を感じてしまいノレない。

 フェル博士の立場は “最初から事件に関わっている御近所さん” なわけで、本来なら容疑者の一人では? 初登場だから “シリーズ・キャラクターは犯人ではない” って御約束は通用しないでしょ。
 博士が住む “水松(いちい)荘”。この字は “みる”(海藻の一種)とも読むのでイメージがユラユラ揺らぐなぁ。
 5章。追いはぎや贋金使用で絞首刑。怖い! まぁ日本も似たようなものか。
 12章。“報道は九日とつづかなかった”。 a nine days' wonder (一時は評判になってもすぐに忘れられてしまう事件)に引っ掛けた洒落?


No.1157 4点 名探偵に甘美なる死を
方丈貴恵
(2022/03/24 12:16登録)
 ごちゃごちゃし過ぎ。それも “読み解くのが楽しい複雑さ” とはちょっと違うんだよなぁ。
 VRだからこそ成立するトリック、と言うアイデアはまぁいい。
 復讐者側が何故こんな回りくどいやり方をしたのか、色々説明しているが結局よく判らなかった。特に、グレーゾーンには踏み込みつつも “嘘は吐いていない” とフェアプレイに固執する理由(更なる上位者が居てフェアプレイを強要されているのかな……なんて思ったんだけど)。

 第九章。ライトを使うトリックはダミーとはいえ酷い。穴の真下にライトがぶら下がるんだから物を落としようがないだろう。


No.1156 7点 楽園の烏
阿部智里
(2022/03/16 12:08登録)
 これは驚き。
 八咫烏シリーズは、雅やかな朝廷絵巻として幕を開け、キャラクター達の絡み合う “情” を軸に軍事やら信仰やらのネタも取り込み拡大して来た。しかしそれは所詮 “持てる者” の傲慢に過ぎなかった、と断罪するかの如き視点の転換!
 私の記憶が確かなら、作者はインタヴューで “読者がどんな展開を期待しているかは判るが、それを書いては駄目なのだと思う” と言う旨の発言をしていた。成程、こういうことか。この人は想像以上に肝が据わっていると思う。


No.1155 6点 五匹の子豚
アガサ・クリスティー
(2022/03/16 12:06登録)
 ミスリードには引っ掛かってたので最後の最後で驚いた。
 しかし「藪の中」な構成のせいで話がくどい。手記があるなら対話はいらないな~。

 曖昧な記述ながら “被害者の遺産を自動的に妻と子供が相続” とあるが、妻は欠格では。英国の法律では違うの?
 十五歳にしては彼女が幼稚だと思うのは偏見だろうか? 飲食物絡みの悪戯は洒落にならない度合いが高い、と言うことは弁える年齢だと思うのだが。真相に関わる要素だから、作者の都合で変なキャラクターにされちゃったような印象も……。


No.1154 5点 神獣聖戦 Perfect Edition
山田正紀
(2022/03/16 12:05登録)
 動的な物語を或る種の背景に引っ込めてまで、本来は背景の役割であるところの “世界のありさま” を主役に引っ張り出している。上巻まるまる使って設定紹介をしているようなもので、正直そこは読みづらかった。記述を繰り返し重複させる悪癖もきつい。作者のアクロバットに付いて行けなかった気分で悔しい。
 後半ようやく登場人物(人に限らず)が前面に出て来て面白くなるが意外とあっさり終結。説明にここまで紙幅を割いておいて、具体的なアクションはこれだけ? いや、ページ数としては充分長い筈なんだけど、壮大な設定を延々読まされたせいでスケール感が狂っちゃったんだね。

 「テイク・オン・ミー」の歌詞が、厳密に言えばちょっと違う。“密室殺人” は有名なバカミス系トリックの応用?


No.1153 5点 卵の中の刺殺体 世界最小の密室
門前典之
(2022/03/16 12:04登録)
 ん? 何か登場人物が生き生きしてないかい? 今までの棒人間みたいな書き方に比べて随分と表情が見えて来た。いいねいいね。一人相変わらずの蜘蛛手が相対的に沈んで見える程だ。
 ところが真相にはがっかりだ。問題編の良さをぶち壊して余りあるつまらなさ。諸々の必然性が希薄で、キャラクターが人形に戻ってしまった。これならいっそ “カリスマ教祖に操られていた” とかの方が良かった。あと、物理トリックで引っ張るならメタネタは混ぜない方がいい。


No.1152 8点 となり町戦争
三崎亜記
(2022/03/10 11:32登録)
 最後にきちんと辻褄を合わせる類の話ではないけれど、“通り魔殺人” が浮いているのが気になった。但し全体としてはその “書き過ぎない” 手捌きが効いている。
 その上で、ファジィな不安感のようなものをシンプルに “戦争” と言い切った作者の強心臓の勝ちだ。“カジュアルな安部公房” なんて思ったが、これは私の読み手としての引き出しが乏しいせいであるな。


No.1151 4点 化身
愛川晶
(2022/03/10 11:31登録)
 過去の経緯は面白い。両親に対する疑惑を覆せるとは思わなかったので感服。
 一方、現在の怪しい出来事について。あまりに上手く運び過ぎで、まるで操の動向や心情を犯人が読者視点で見ているような印象を覚えた。
 そして、坂崎先輩が “最大のヒント” として示した “宗教画の三枚目” はおかしい。犯人は操に誤解をさせたいのだから二枚目まででいい。三枚目を送ると真実を暗示してしまう。

 ミスがもう一つ。第二章、保育園にて。“そのなも、いだいなカメハメハ”。違う、その歌は「南の島のハメハメハ大王」。


No.1150 8点 慟哭
貫井徳郎
(2022/03/10 11:31登録)
 冷静な記述を連ねて苦悩する心情を炙り出す書きっぷりに引き付けられた。
 その誠実な書き方の裏にあんなトリックを仕込むのもびっくり。自分の筆力を前提として飛び道具に使ったなら天晴れだし、自覚無しでやったならそれはそれで凄い。
 ところで物語ラスト近く、彼の愛人の言動がどういう気持からなのか判らなかった。あの痴話喧嘩が最大の瑕疵。


No.1149 8点 大いなる幻影
戸川昌子
(2022/03/10 11:30登録)
 階段しかない5階建てアパートで一人暮らしなんて無理っす。でも読み始めたらこれが止まらない。リレーされるスポットライトの中の様々な振る舞いが見事に絡まり、更にポンと手を打ったら今まで人間だと思っていたものが実は人形だった、みたいな変換が!
 面白味のある癖を湛えた文章は独り善がりな部分もあるが、一筋縄では行かない物語を上手く支えている。“或る種の小説は文章によって成立している”、まさにそれ。
 最後の最後、復縁だけでなく○○も求めるとは、彼女はとても懐が深いのか。ここは気になった。

 “老嬢” とは “オールド・ミス” の意で、必ずしも “高齢者” を指すわけではなく “嬢(=未婚の女)” に比重を置いた語なんだ? 事前に教えて欲しかった。必要以上に年寄りのイメージで読んでしまったなぁ。

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