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ミステリの祭典

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茶色の服の男
レイス大佐

作家 アガサ・クリスティー
出版日1956年01月
平均点5.50点
書評数8人

No.8 7点 虫暮部
(2023/11/10 15:55登録)
 作者がノって書いている雰囲気に好感が持てる。でも気分のままに引き伸ばし過ぎ。気が付いたら一ヶ月経過していた、とは随分長い。何かのトリックかと思った。

No.7 6点 弾十六
(2022/02/23 21:48登録)
1924年8月出版。初出は夕刊紙The Evening News [London]1923-11-29〜1924-1-28(50回、連載タイトルAnne the Adventurous) 早川クリスティー文庫(2017年10月二刷)で読了。深町さんの訳は非常に安心して読めます。文庫のカヴァー絵は谷口ジロー。
ベルチャーの帝国博覧会1924キャンペーンに随行して、1922年1月から世界旅行に出たアガサとアーチー(三歳のロザリンドは姉マッジに預けた)、10カ月後、すっからかんになって英国に戻ってきます。でも帰って来て書いたこの作品の連載権が500ポンド(=約432万円)で売れ、アーチーも良い仕事を見つけ、一家の経済状態はたちまち向上します。アガサさんは人生で最も嬉しかった二つのうち一つ、自分の車グレーのMorris Cowleyを購入して大喜び。(『自伝』のこのあたり(第五部から第六部)はとても楽しい。ただし本書のネタバレ有りなので『茶色の服』読了後に読むことをお勧めします。本書解説もここら辺に触れているので読まないのが良いですね)
若い女性一人称の冒険物語。(途中に挟まれてるサー・ユースタスの手記がだれる) 所々に世界旅行の実体験が顔を出しています。特に船旅の所が良い。でも全体の構成に難ありで、行き当たりばったりなところもありますが、全篇に漂う楽しそうな雰囲気とロマンスたっぷりなところが初期アガサさんの味です。
なおBill Peschelの注解本が出ています。The Complete, Annotated Man in the Brown Suit(2022)、アガサさんの知られる限りでは最も早い、雑誌に掲載された短篇 The Wife of Kenite (Home[Austrarian Magazine] 1922-9)や帝国博覧会1924キャンペーンの新聞記事、アガサさんを探偵小説作家として紹介した記事やインタビュー1922-5-20(アガサさんはマリー・コレッリに会ったことがあるようだ)、当時の本書の書評(これはとても興味深い)、表紙絵ギャラリー(初版の絵が本当に酷い)、当時の南アフリカ情勢についての独自エッセイなども収録されていて、iBookで400円ほど。ハヤカワや創元は新訳を出すなら、こーゆー注釈盛りだくさんなのを翻訳してくれれば良いのに、と思います。なおPeschel版アガサ注解長篇は今のところ『チムニーズ』(1925)まで出ています。
以下トリビア。原文は上記Peschel版を参照。PBはPeschel版からのネタ。
作中時間は1922年1月(p89)と明記。
献辞はTo E. A. B./ IN MEMORY OF A JOURNEY, SOME/ LION STORIES AND A REQUEST THAT/ I SHOULD SOME DAY WRITE THE/ “MYSTERY OF THE MILL HOUSE” 上記世界旅行の要人ベルチャー(Ernest Albert Belcher(1871–1949))に捧げられています。強引タイプのこの人に、探偵小説(タイトルもベルチャーが提案した『ミル・ハウスの怪事件』となる予定だった)に俺を登場させろ、とせがまれ根負けしたアガサさん、サー・ユースタスの登場となりました。
価値換算は英国消費者物価指数基準1922/2022(60.55倍)で£1=9448円。
p13 一月よ、ああ、呪われたる霧の月よ!(January, a detestable foggy month!)◆何かの引用か?と思ったら全然見つからない。調べつかず。
p20 旧石器時代
p22 デイリー・バジェット(Daily Budget)◆[BP]多分Daily Mailのこと。
p24 映画館もあって、週がわりで連続活劇の「パメラの危機』を(There was the cinema too, with a weekly episode of “The Perils of Pamela“)◆パール・ホワイトみたいなのか。当時の映画情報と言えば淀長さんだなあ。
p25 ガス会社からの通告(notice from the Gas Company)
p33 ティンブクトゥー(Timbuctoo)
p35 全財産(£87 17s. 4d.)
p40 耳を出す髪型は時代遅れ(ears are démodé nowadays)
p40 スペイン女王の脚(Queen of Spain’s legs)◆存在してるが口にしてはいけないものの喩え。
p43 牛乳◆毎日、宅配されていたなんて、今考えるとかなりの贅沢だよね。
p45 一月八日
p45 年25ポンド◆通いの家政婦の給金(多分最低ランクの提示額)
p45 駅プラットホームの探検◆無意味な行動だが、なんかわかる。
p46 役人ならばあんなあごひげは生やさない
p53 家具什器別で賃貸
p74 『紳士録』、『ホイッティカー年鑑』、ある『地名辞典』、『スコットランド貴族故地・古城史』、『イギリス諸島誌』(Who’s Who, Whitaker, a Gazetteer, a History of Scotch Ancestral Homes, … British Isles)◆参考資料。[BP]Who’s Whoは1849年から英国で発行されている年鑑。Whitakerは1868年から刊行。その他は特定できず。
p91 一等87ポンド◆ケープタウンまでの船賃。
p92 ブリッジ… 普通の三番勝負
p92 夏はイギリスで、冬はリヴィエラで過ごす
p99 二ペンスの切手◆帝国内なら海外への手紙は1オンスまで何処でも2ペンスだった。(1921-6-13〜1922-5-28)
p105 船酔い
p107 五ポンド札五枚
p109 ビスケー湾
p119 D 13号
p124 シャッフルボード(shovelboard)◆[BP]英国の言い方らしい。
p128 零時を告げる八点鐘
p129 二点鐘
p141 ビーフティー◆牛肉を水で煮出したダシ汁のこと。お茶成分は無し。商品名「ボブリル(Bovril)」
p144 殿方はラテン語が得意
p145 イタリア人の道の教え方
p147 クリッペン
p151 体にこたえる競技… “ブラザー・ビル”や“ボルスター・バー”(painful sports of “Brother Bill” and Bolster Bar)◆客船のレクリエーション。[BP] ボルスター・バーはA fighting game in which players sit astride a log and attack each other with pillows until one falls offで、ブラザー・ビルは不明。
p156「上段寝台」(The Upper Berth)◆有名な幽霊小説(1886)、F. Marion Crawford作の短篇。
p167 オセロとデズデモーナ
p168 ここら辺のライオン話が献辞に出てくるやつ?
p173 十万ポンド
p180 華麗なキモノ(loveliest kimonos)
p181 ホイスト… 15ポンド◆金額を考えると結構な勝ち。
p182 シューザン(Suzanne)◆違和感あるけど某Tubeで耳で聞くと「シュザン」(アクセントは「ザン」に)、が近い?でもシュザンヌで良かったような気もする。
p209 イタリアでは列車がよく遅れる◆ムッソリーニのお陰で鉄道は正確だ、と言う話を思い出した。何故なら時計を誤魔化すから、というのがオチだったはず。
p248 サーフィン◆アガサさんは南アフリカでサーフィンを覚え、ハワイではサーフィンをしまくった、と自伝で書いている。
p251 映画館の六ペンスの席… 二ペンスのミルクチョコレート
p298 ミス・アン(Miss Anne)◆男性が「ミス+名前」と呼ぶ時は「ミス+苗字」よりも親しくなったことを示す(だがすっかり近しいわけではない)。BPにそんなことが書いてありました。注釈者は現代の米国人なので完全には信用してませんが、はあ成程、と思ってしまった(確かにある登場人物が途中で呼び方を変えている)。ただし英国の伝統的ルールでは「ミス+苗字」はその苗字の年長未婚婦人を指してしまうので、次女や三女には最初から「ミス+名前」呼びだったような気もする。
p306 背が高く、細身で、肌の浅黒い男(long, lean, brown men)◆tall, dark manのdarkが髪の毛なら、ここのbrownも茶色の髪か?
p311 木彫りの動物
p312 三ペンス◆ローデシアの通貨1ティキ(tiki)に相当するらしい。
p328 聖書に“イエスのために自分の命を失ったものは、それを自分のものとする”(Like what the Bible says about losing your life and finding it)◆マタイ10:39(KJV)He that findeth his life shall lose it: and he that loseth his life for my sake shall find it.のことか。
p331 シェークスピアの台詞… 野心(ambition… by that sin fell the angels)◆ Henry VIIIから。
p340 ヴィクトリアの滝
p415 新案のゴムボール(the patent ball)
p475 ようこそ、と蜘蛛が蠅に言いました(you walked into my parlour — said the spider to the fly)◆[BP]from the children’ poem “The Spider and the Fly” (1829) by Mary Howitt (1799-1888)
p504 ノルウェー人のナース(Norland nurses)◆深町さまの珍しい誤訳。[BP] Norland is a training college for nannies. Emily Ward(1850-1930)が1892年に設立。ここ卒業の乳母が裕福な家庭には多いようだ。試訳「ノーランド卒の乳母」
p508 このところ精神分析に凝っている(goes in rather for psychoanalysis)

No.6 3点 レッドキング
(2021/01/22 17:29登録)
アガサ・クリスティー第四作。1924年てことは日本で言えば大正時代か。わが国では「明治風厳めしさ」と「昭和軍国」の狭間の、儚い明るさのあった「浪漫ちっく」な時代(「孤島の鬼」もこの時代を舞台にしてた)。英国でも「禁欲ヴィクトリア朝」と「第二次欧戦」の間の、多分ロマンチックな時代だったんだろう。しかも舞台は南アフリカ・・労働争議こそあれ「アパルトヘイト」の概念すらなかった、白人植民地支配が当然だった世界で・・「美しい白人」男女が浪漫サスペンスを展開する。ミステリとしては・・被害者フー?、ラスボス「大佐」フー?、あと幾つかの人物入代りネタってとこか。※ 1/4~1/3アクロイド先行ネタのオマケも付く。

No.5 5点 人並由真
(2017/08/03 09:39登録)
(ネタバレなし)
内容の割に長い……とは思うものの、作家として小説技巧を研鑽していった時期のクリスティーが、こういうものも書きたいと思って綴った のであろう、若き日の愛すべき一冊。

クリスティー文庫版で終盤の493ページ、アンからのレイス(深町真理子訳ではレース)大佐への「あなたなら、これからもきっと素晴らしいお仕事をなさるはずです。洋々たる前途がひらけていると思います。いつかは世界有数の偉人のひとりになるでしょう」の一言がとてもジーンとくる。いやこれって、テレビドラマ版『おれは男だ!』の丹下竜子だな。
のちのクリスティー諸作のリアルタイムでの刊行時、レイス大佐に再会できて、「おお!」と思ったであろう当時のイギリス読者たちの喜んだ様が、少し羨ましい。

No.4 6点 クリスティ再読
(2015/04/06 22:29登録)
これクリスティのラノベだね。ユーモア冒険小説といったところ。
だからイマドキの話、萌えを中心に語った方がいいんじゃなかろうか。

チョイ悪なオヤジは脚フェチで、ヒロインを口説いちゃうが、最後まで憎めない奴だし、スカーフェイスのイケメンと、諜報部所属の渋めの黒髪(かどうかは描写がない。少佐だとお誂え向きだが大佐)に思われて....ジェイムズくん風秘書とか女装っ子だって登場しちゃうぞ。

ヒロインは冒険に恋する無鉄砲。陽性で語り口も魅力的。けどこのヒロイン、実は設定年齢は20才過ぎだろうね...意外に高い。で本当にオドロキなことは、これを書いたときクリスティ自身34歳...若いというか、何と言うか。まあ肩の凝らないファンタジーくらいの感じで楽しく読めればそれでOK。それでも船を下りるまでが楽しすぎで上陸後はちょっと失速するように感じる。

あと一言。どうも某トリックの先駆け?なんていう説があるようだけど、評者に言わせると、アクロイドの笠井潔の解説のように、ワトソン=犯人と手記の筆者=犯人とは明確に区別した方がいいように思う。

No.3 4点 あびびび
(2014/09/04 20:06登録)
冒険を夢見る、若くて魅力的な女性主人公。こういうストーリーが好きな方は本当に楽しい一冊だと思うが、ほとんど結末が露呈しているので自分的には楽しくなかった。

しかし、世界三大瀑布のビクトリアの滝は行ってみたい。

No.2 7点
(2009/12/05 12:58登録)
初期には謎解きものと冒険・スパイものをほぼ交互に発表していたクリスティー。本作はその冒険ものの方で、イギリスから南アフリカへ舞台を移しながらの危機一髪の連続が楽しい女性アドベンチャー・ミステリです。当時の連続活劇映画(サイレント時代です!)を引き合いに出しているようなストーリーだからこそ許される意外性も用意されています。冒険にあこがれるヒロインのキャラクターは確かにいいですね。一方の悪役の親玉も特に最後の部分、なかなか魅力的に描かれています。
クリスティーは以前に試みた手をさらに大胆にアレンジするのが得意ですが、本作はそのいわば元ネタの方です。だからといって、使い方が未熟だとは思いません。ちなみに、同じ手を取り入れた国内巨匠の戦後間もなくの某作品は、たぶん本作を知らずに書かれたのでしょう。その某作品以前に本作の翻訳は、WEBでちょっと検索した限りでは出ていなかったようです。

No.1 6点 ElderMizuho
(2008/02/07 21:05登録)
主人公が魅力的。読み物として面白い。

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