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ミステリの祭典

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ヴァンプドッグは叫ばない
マリア・ソールズベリー&九条漣

作家 市川憂人
出版日2023年08月
平均点7.25点
書評数4人

No.4 6点 虫暮部
(2023/11/10 15:54登録)
 最初からパラレル・ワールド設定とはいえ、大胆な世界改変だ。
 面白いんだけど楽しみ切れなかった。ウイルスの謎云々は、題材について考え抜いた作者には下地があったのだろう。が、殺人事件を追ってきた私にしてみれば、ベクトルが明後日の方へ振られたようで頭が切り換わらないよ。“アウトサイド” の連続殺人は動機が弱いし、“本格” の看板を掲げるよりもノン・シリーズの医療系SFスリラーとして書いた方が良かったのでは。
 シリーズの世界が今後どのように変貌するか、期待が半分、整合性を失くしてグダグダになってしまわないか心配が半分。

 初版にミスあり(知らない筈の名前を呼んでいる)。版元に報告したが、首尾良く修正されるかな?

No.3 7点 mozart
(2023/11/01 16:32登録)
マリア・ソールズベリー&九条漣の「○○は~ない」シリーズの中でも読みやすさ、伏線の回収、(数度にわたる)どんでん返し等のレベルは出色だと思います。途中インサイド、アウトサイド、インタールードに分かれたストーリーがどのように収束していくのかワクワクしながらページを繰る手が止まらず一気読みしました。
ただ登場人物間の関係等への理解とかを考えると(多少こみ入った感があるので)一連の過去作には目を通しておいた方がより楽しめると思います。マリアが途中のダメダメ状態から最後になって急に「名探偵」ぶりを発揮して(?)真犯人を糾弾するというパターンにも慣れるし。特に今作以降(?)のことを考えると例の人物の絡みでは「ボーンヤード~」は先に読んでおいた方が良いかも知れません。

No.2 8点 HORNET
(2023/10/26 22:00登録)
 現金輸送車襲撃事件への捜査応援要請を受け、出動したマリアと漣だったが、現地は警察と軍が総出で市を包囲する異常なまでの厳戒体制が敷かれていた。その真の理由は、20年以上前に連続殺人を犯した男『ヴァンプドッグ』の脱走。現金輸送車の事件との関わりも分からず捜査が迷走する中、近辺で『ヴァンプドッグ』の手口と同様の殺人が次々と起きていく―
 マリア&漣が難事件に挑む、大人気本格ミステリシリーズ第五弾。

 「咬まれた者がヴァンパイアになる」という、ゾンビの連鎖に似たSF要素を組み込んだ、ある意味特殊設定のミステリ。その設定を存分に生かした謎解きの仕掛けは、作者の卓越した技量を感じる。
 言うまでもなく、設定に立ったうえで推理はロジカルに組み立てられており、物語終盤の、スケープゴートとされた教授の逮捕から一気に真相へと踏み込む件は圧巻だった。
 マリア&漣 両キャラクターのコントラストによる相乗効果は相変わらず小気味よく、物語のリーダビリティに大きく貢献している。
 シリーズ中でも良作に位置づけられる作品であることは間違いない。

No.1 8点 人並由真
(2023/10/04 06:33登録)
(ネタバレなし)
 この世界の1984年2月上旬。一年前のジェリーフィッシュ事件以来、複数の怪事件を解決してきたA州フラッグスタッフ署の刑事コンビ、マリア・ソールズベリー&九条漣は、なじみのフェニックス署刑事ドミニク・バロウズの応援に向かう。ドミニクがひそかに協力を願う案件とは、さる国立医療機関から逃げ出した、かつて吸血鬼のごとき連続殺人を行なったという秘密の病理患者についてだった。それと同じころ、同じA州では現金輸送車を襲撃した強盗殺人事件が発生。逃亡した犯人たちはさる隠れ家に潜伏するが、やがてその外部からの侵入がないはずの屋内では、怪異な連続殺人がスタートした。

 おなじみマリア&漣シリーズの最新作で、長編第4弾(シリーズ全体としては、中短編集をふくめて5冊目)。

 先にちらりと見かけたAmazonのレビューですんごく評判がいいようなので期待して手に取ったが、割と小さめの級数でぎっしり二段組の文字組に、一瞬、う……となる。
 しかしいったん読み始めると、これまでに勝るとも劣らないリーダビリティの高さであっという間に一気読み。

 ちなみにシリーズ5冊目ということで、これまでのマリア&漣ものに登場したキャラクターたちも続々と登場。
 極端な話、本書で初めてシリーズを読み始めてもこれまでの作品のネタバレにはならないように配慮はされているけれど、シリーズの流れにもとづいた趣向を満喫するなら、やはり既刊分は読んでおいた方がよろしいでしょう。
 特に中短編集の『ボーンヤードは語らない』はぜひとも先に目を通しておいた方がいい。

 で、本作そのものの感想だけど、いやはや……シリーズの中でもどでかい種類の反転の構図が用意されており、同時に(中略)のサプライズも強烈。犯人像も相当にインパクト大で、マリア&漣ものの中でもたしかに上位にくる出来ではあろう。
(個人的に、実は……の事件の構造が、すごく好みじゃ。)

 まあ解決に関してはよく練られていると思うものの、一方でかなり(中略)ではあるので、<その時点>でダメな人はもしかしたら、すでにもうダメかもね。
 それでもロジカルで、伏線拾いまくり、かつトリッキィなパズラーにはなっているはずだ。

 良くも悪くもシリーズのうねりも劇的で、次回はますます一見さんには敷居が高くなりそうだけど、その辺はこの作者のことなので、単品でも楽しめるようにうまく捌いてくれるでしょう。たぶん。
 でもなんか、後発の別の作家の(中略)シリーズと、作劇の構造が似てしまうんだよな(汗)。いやまったく、ソノ辺は、こっちのシリーズのせいじゃないんだけれどね。 

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