不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理 |
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作家 | 井上悠宇 |
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出版日 | 2023年06月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 5点 | 名探偵ジャパン | |
(2023/10/21 19:34登録) 昨今隆盛を極めている「名探偵大喜利」も行き着くところまで行き着いて、ついに「存在しない名探偵」が爆誕するに至りました。 探偵役の奇抜さに対して、事件自体は小粒というか、もう少しこの探偵を活かせる事件が用意されてもよかったかなと思いました。 |
No.3 | 5点 | 虫暮部 | |
(2023/10/20 12:45登録) 近年のミステリ界の時流に乗っかっている感じはするが、それなりに独特の世界を纏め上げていると思う。 ただ問題は第四章だ。 要は、罪をなすりつけ、そうと知りつつ犯行に及んだと言うこと。なすり付ける相手は、或る程度の条件を満たすなら誰でも良かったわけで、これは無差別殺人に準ずるものだと思う。犯人の心理をじっくり描くサイコ・スリラーならともかく、(変則的とは言え)本格ミステリの真相としては理不尽でがっかり。台詞でサラッと説明されちゃって実感が得られないし。 それに、ピースを積み上げて最後に犯人の名に至る論理展開なら、“無実と知りつつ、なすりつけた” というロジックは確実性に欠ける。“無実なんだから、奴には被害者を殺す動機が無い” と判断するほうが自然。最初に犯人を確定しちゃったからこそ、辻褄合わせの為にアリになる推測だよね。しかし当然ながら、探偵法に合わせて犯行がなされるわけではない。そのへんがズルいと思う。 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/09/15 05:19登録) (ネタバレなし) 捜査一課のベテラン刑事・百鬼広海(なきり ひろみ)を伯父に持つ、男子大学生の菊理現(きくり うつつ)。彼には現当人にしか見えない、若い女性の姿をした、声を出さないイマジナリーフレンドがいた。そのイマジナリーフレンドは、現実世界のダイス(サイコロ)の目を自在に操作(?)。1の目ならイエス、2の目ならノー、3の目ならわからない……などとの約束事にて現との意思の交換が可能で、そしてそのダイスでの表意は、常に的確な回答を用意していた(?)。百鬼自身は、その姿を見る事も声を聞くこともできないままに、甥のイマジナリーフレンドの「存在」をたしかに認め、そしてその「名探偵ぶり」を理解する。かくして、相棒の若手美人刑事・烏丸可南子とともに、未解決の事件を現とイマジナリーフレンドのもとに持ち込む百鬼。「アリス」と名付けられたイマジナリーフレンドは、ダイスでのイエスノーの会話を介して、現や百鬼たちに事件の真実(?)を導くが。 評者は、井上悠宇の著作は「誰も死なないミステリーを君に」を買うだけ買ってまだツンドクなので、作品は今回が初読み。本作は、反響の良さげなあちこちのネットでの世評と、本サイトでの文生さんのレビューに背中を押されて、手にとってみた。 着想の勝利という感じはかなり大きいが、同時に、王道の連作短編謎解きミステリっぽい形式を採用しながら、その連作の流れに独特な緩急をつけてある全体の構成など、さらなる送り手の工夫も効いている。 意地悪な見方をするなら、この紙幅に比して、謎解きミステリ要素はやや希薄だ、ともいえるのだが。 一方で良い意味で、思わぬ方向へと話が広がっていく驚きと手ごたえもあり、そんな物語世界の流れの先の着地点は、まだまだ見えない。 確実にシリーズ化はされるであろう。 ラノベ系の叢書の文庫ではなく、一般向けの全書の文芸本として出したのは、企画的に正解だった。ラノベミステリの形で出されていたら、なんか「ミステリというよりは、ミステリっぽい変化球のラノベ小説」という認識を世間から受けて、注目度ももっと下がっていた気もする。 (しかし、現在形の一線のミステリ作家たちの絶賛の声がひしめく帯がスゴイ!) 評点は0.25点くらいオマケ。 |
No.1 | 7点 | 文生 | |
(2023/07/17 10:34登録) ミステリーマニアの女性刑事と強面の先輩刑事がコンビを組む割とありがちなタイプの連作短編で、独創的なトリックや驚愕のどんでん返しがあるわけではありません。しかし、そこに不実在探偵というわけの分からない存在を放り込むことでミステリーとして面白さが格段にアップしています。アリスと名付けられた探偵は喋ることも筆談をすることもできず、唯一可能なのが質問に対してダイスの目を変えて「はい」「いいえ」などの簡単な回答することだけです。そのため、本来なら探偵の推理に耳を傾けるだけの存在であるワトソン役や刑事たちが真相にたどり着くために推理合戦を始めるのが楽しい。 |