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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1611 6点 ヘパイストスの侍女
白木健嗣
(2024/01/05 13:28登録)
 嫌な奴の配置とか新しいテクノロジーとか、いかにも島田荘司が好みそうな……いやいや、もっと無心に読もう。
 犯行動機に関わるあのトリックは、全く想定外だったので効いたな~。
 一方で、選評で指摘されていた犯行方法の不備は大いに気になる。登場人物も言及しているしね。
 各々がそれぞれの正義を押し付けたがっている様相は、一歩引いて見ると結構滑稽。でもそれを描く文章力がもっと欲しい。

 “マリス” なるネーミング、スペルは違うが片仮名だと malice (=悪意)と重なって違和感アリ。ところが “悪意” には “或る事実を知っていること” と言う語義もあるので意味深長に思えなくもない。わざと?


No.1610 7点 雨の恐竜
山田正紀
(2023/12/29 15:24登録)
 ヤングアダルトのレーベルを意識したのか、いつもより柔らかみのある文体、しかし時々いかにも山田正紀なやりとりが挿まって苦笑を誘われる。
 作者はその枠組みを上手く使って、中学生と警察官と恐竜をシームレスにつないでみせた。読者はいつの間にか十四歳になっており、夕日の中の恐竜はあまりにも美しい。

 ところで、登場人物紹介に “斉藤ヒトミ:本書の語り手” とあるが、彼女は視点人物であって語り手ではないよね。
 一貫して彼女の見たこと思ったことだけが書かれてはいる。一ヶ所だけサヤカの視点になる部分があるけど、それはその場にいたヒトミにサヤカが語った事柄だとの解釈も可能。
 すると実は “ヒトミ” と言う表記は一人称? 叙述トリック(笑)?


No.1609 7点 薔薇忌
皆川博子
(2023/12/29 15:24登録)
 舞台芸能短編集だけど、泡坂妻夫の職人ものみたい。あっちで耐性が付いていたからスンナリ読めたってとこがあるかも。具体的なイメージは出来ずともなんとなく情景が伝わるいにしえの語彙。カードの家を作るように丁寧に積み上げられる台詞と男女の機微。
 結構強烈な筈の各編結末のサプライズが意外にサラッと流れたのは、日常と幻想を抱き合わせる筆致のなす業か。


No.1608 7点 でぃすぺる
今村昌弘
(2023/12/29 15:22登録)
 これはジャンル不明で読むのが得策だと思う。推理合戦の形態からも、どちらへ転ぶのか最後まで明かさず引っ張ろうと言う意図を感じる。
 語り手の内省がしっかり描かれていて良い。ただそのせいで、小学生の限界が物語の壁になってしまったかも。
 あと、マリ姉の回りくどい伝え方のおかげで無用な誤解が生じて被害が拡大した側面もあるよね。本作に限らず “策を講じ過ぎ” な話には若干乗り切れない部分が残ってしまう。


No.1607 5点 幽霊もしらない
山田彩人
(2023/12/29 15:22登録)
 作中のユーモアは、ここがユーモアですよ、と指差すような書き方のせいか今一つ効きが悪い。
 音楽に関するアレコレは、かなり大雑把に書いてると思う。しかしそれは単なる飾りみたいなもので目くじらを立てる程のことではない。
 ミステリ的には地味。事件の表層にせよ真相にせよ、膜を隔てた他人事の空気で、そこをグッと引き寄せてくれる力が何か欲しかった。


No.1606 5点 目薬αで殺菌します
森博嗣
(2023/12/29 15:21登録)
 架空のアレ、と言うのは微妙だけど、存在感自体は際立っていてナイス。他のエピソードも個々に見ると面白い。でもまとめ方が投げ遣り(いつものことか……)。
 【バカ】を含む名前を付ける親はいないだろう、と思いながら読んでいたが、案の定。伏線?


No.1605 7点 五つの標的
山田正紀
(2023/12/21 13:04登録)
 私は「真夜中のビリヤード」が、山田正紀の短編の中で五指に入るくらいには好き。氷川さんの出番が少ない気もするが、ポイントを絞るならこんなものか。敗者の悪足掻き、ラストのアイデアが良い。
 一つだけややテイストが違う「ひびわれた海」は、長編パニック小説からの抜粋みたい。同じような方向性でもっとちゃんとした作品が幾つもある、と言う意味で物足りない。
 いや、でもそれを言ったら、この作品集に山田作品としての新しさは、まぁ無いかな。小市民が(よせばいいのに)からっぽの拳を振りかざす様に、私は少し笑ってまた途方に暮れるのだった。


No.1604 7点 猫舌男爵
皆川博子
(2023/12/21 13:03登録)
 このタイトルは都筑、しかしまるで清水、いや多くは言うまい。思わず作者名を見直したこの表題作、「睡蓮」のパロディにも思える。この2編をわざわざ1冊にまとめるとは……。本文を読まずに描いただろと思える表紙が、しかしそれ故に最も的確と言うこの捻れ。好きだなぁ。
 因みに “針ヶ尾奈美子” は旧作に登場した名前で、伏線と言う程ではないがファン・サーヴィス?

 他3編。読み易くはないが読む気にさせる言葉が、美醜の垣根を飛び越える。


No.1603 6点 午後のチャイムが鳴るまでは
阿津川辰海
(2023/12/21 13:01登録)
 別解:【星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ】

 「~でも仕方がない」は「メロンソーダがないならコーラでも仕方がない」のように「次善の策」を意味するとも考えられる。本命の占いが別にあるけれど、それは駄目なので星占いで我慢しよう、と言うことだ。しかし、今時の男子高校生が、種類は何であれ占いに勤しむものだろうか。

 一つ大胆な飛躍を試みたい。「星占い」は、必ずしも占いそのものを指すとは限らないのではないか。
 注目すべきは占い研究会の宣伝ビラである。Xさんはそれを見て問題の言葉を口にした。ビラの文面を確認すると、「ビブリオマンシー」なる見慣れない語が目に付く。意味を知らない普通の人なら、ここから何を連想するか。「ビブリオバトル」である。
 文化祭ならビブリオバトルが開催されてもおかしくない。Xさんは書評の対象にどの本を選ぶか迷っている。ビラの幾つかの文言に触発されて、それが口を突いて出たのである。

 星占いの本などがビブリオバトルの対象になるか? これは「占星術」と言い換えれば明白であろう。島田荘司『占星術殺人事件』を意味するに違いない。
 この場合、「木曜日ならなおさらだ」を前のフレーズに追加する条件だと考えると意味不明であり、これは「木曜日」を「星占い」と並列しているのである。従ってそれもまた本のタイトルである。G・K・チェスタトン『木曜日だった男』それともハリイ・ケメルマン『木曜日ラビは外出した』だろうか。

 つまり、Xさんにとって『占星術殺人事件』は次善の策であり、『木曜日だった男』または『木曜日ラビは外出した』は「なおさら」だから三番目の選択肢なのであろう。冒頭の文例で言うところのメロンソーダ=イチ推し本の書評が上手くまとめられず、二番目三番目の本で挑む方が勝ちを狙えるのではないか、との迷いがこの独り言なのである。

 ここで再度飛躍する。そのイチ推し本も宣伝ビラに隠されているのかもしれない。ふと見たビラに、Xさんの迷いに関連した言葉が「ビブリオ」「星占い」「木曜日」そして「イチ推し本のキー・ワード」、四つも並んでいた偶然こそが、彼にその独り言を言わせたのではないか。
 なにしろ、「占いの『館』」と言う意味深長な文字がそこにあるのだ。黒死館? 十角館? いや、ここはやはりメタに忖度をかまして阿津川辰海『紅蓮館の殺人』を挙げるのが美しい解決と言うものであろう。


No.1602 8点 ノッキンオン・ロックドドア2
青崎有吾
(2023/12/21 12:59登録)
 2が付いて濃度もワンランク上昇。上手く設定を広げた上で畳んでいる。面白くて却って書くことが無いな。
 唯一気になったこと:60度に設定出来るシャワーなんてあるのか。危険なだけでは?


No.1601 7点 ノッキンオン・ロックドドア
青崎有吾
(2023/12/21 12:59登録)
 Locked の発音は濁らず【ロックト】が正しい。【ドド】になっているせいもあり非常に気になる。

 長編に於けるロジックの編み合わせ方が今一つ肌に合わないかなあと思ったものの、冷たくしないでこの連作集を手に取って良かった。緩い部分や説明不足は見受けられるが大目に見られる範囲内と認めて甘い罠にサレンダー。
 中でも「ダイヤルWを廻せ!」がツボ。アイデアとして面白ければ私は買う。そういうトリックが可能なデザインのものだった、ってことで良いのではないか。


No.1600 8点 花闇
皆川博子
(2023/12/14 13:32登録)
 三代目澤村田之助――幕末に、絶大な人気を博しつつも、四肢を失い、しかしなお舞台に立ち続けた女形が実在した。と言う軽い知識はあったけれども、同時に思っていた。そんなことが可能だったの?
 差別的ではあっても綺麗事抜きで妥当な疑問だろう。本書はそれに、そこそこ答えてくれた、かな。

 高慢ながら芸には真摯。そんなキャラクターをこれでもかとばかりに示し、読者の心に浸透した頃合を見計らっておもむろに手足を奪う。史実だから仕方ないけど作者は鬼か。
 田之助が中心であることは間違いないが、時代に押し流される歌舞伎界の群像劇でもある。中でも大道具師の忠吉の才気は忘れ難い。長谷川! と声が掛かって嬉しいね(私は武将より参謀に惹かれる傾向があるのだが、これも?)。
 しかし役者は改名・襲名が多くてややこしい。叙述トリックに使える。

 知識が乏しいのでどこまでが史実か判らないのだが、期待したより飛躍が少なく、リアリティに対し忠実に書かれている印象。截断後の舞台の様子も意外なほど冷静に描写されている。
 それがこの人の作風だし時代小説のマナーだ、とは知りつつ、そこにもう一歩の何かがあれば、と惜しむ気持も少しある。


No.1599 6点 蜃気楼・13の殺人
山田正紀
(2023/12/14 13:30登録)
 全体を包む大きなトリック。それを成立させる背景の設定等には、関係者が色々と無茶をする理由がきちんと感じられた。
 しかし物理的トリックは……ランナー消失はともかく、串刺し死体や空飛ぶトラクターをあんな説明で片付けるなら、寧ろ無くても良かったのでは。


No.1598 5点 図書館の殺人
青崎有吾
(2023/12/14 13:30登録)
 ①意外な犯人を一応論理的に指摘してはいる。
 しかしあの人を犯人にするなら、相応の動機が必要だったと私は強く思う。被害者との関係がアレだからではなく、“守る為” に殴打した直後に掌返し、ってのが不可解。
 読者には推理不可能な事情が犯人の告白で明らかになるパターンでもいいから。事情を一つでっちあげるくらい、やれば出来ることでしょう。

 ②イニシャルK氏が図書館に忍び込んだ時、“テンキーのカバーは開いていた” “事務室やカウンターのドアは開いていた”。一方、死体発見場面の記述を見ると、“いつもは閉まっている” とのこと。K氏は自分が不正行為をする立場で、誰かが中にいる可能性を考えなかったのか。

 ③殺人のタイミングで、被害者の従妹が図書館の前に来ていた。K氏と遭遇するが、彼女はK氏が探していたまさにその人である。
 と言う状況が全くの偶然で成立している(私は、あまりに作為的だから従妹が犯人だと思った)。

 ④問題の本と被害者を結び付ける直接の証拠は無いのだから、脅迫のネタにはならない。本を挟んで被害者とK氏が睨み合う構図は、両者とも考えが偏っていて、夜中に忍び込む理由を作る為のこじつけに思える。

 ③が最も気になる。個人の気持で説明出来る事柄じゃないからね。
 総じて、全体を俯瞰した視点でチェックしないまま発表してしまった感じ。


No.1597 5点 皆殺しの家
山田彩人
(2023/12/14 13:29登録)
 なんじゃそりゃ、な真相の連続。
 いや、第一話が “被疑者死亡により真実は不明” と言うオチで、それならアリだとも思ったのだ。あくまでゲームとしての推理でリアルな決着を付けないスタイルなら、ちょっとした独自性とも言えそうだし。
 ところが以降は決着を付けちゃっている。それであれらの真相は微妙だな~。


No.1596 5点 死人の鏡
アガサ・クリスティー
(2023/12/14 13:28登録)
 「厩舎街の殺人」はシンプルにまとめたことが良い効果を発揮していると思う。このタイトルはアンフェアに見せかけてポアロの台詞に注目するとフェア?
 表題作の真相は意味が判らない。計画的犯行なのに、開けたまま撃って、その後で慌てて偽装工作。そもそも、犯意が有ろうと無かろうと、開けたドアは閉めるのが普通だと思う。つまり、偽装自体は面白いが、それが必然性を持つ状況設定が出来ていない。


No.1595 7点 天動説
山田正紀
(2023/12/07 13:56登録)
 角川ノベルズ版は全2巻。戎光祥出版から合本で復刊。
 初出が雑誌連載なおかげか一話ごとにしっかり山場が盛り込まれ、安心して読めるエンタテインメント作。最終話のちょっとした飛躍も効いている。
 “鉄太郎” が次男であることが最後まで気になったが、結局何の伏線でもなかった。“心の臓だ!” って言い方がツボ。


No.1594 5点 七つの時計
アガサ・クリスティー
(2023/12/07 13:54登録)
 冒険ごっこ、って感じ。死者が出ているにもかかわらずふわふわした若人達の言動。退屈のあまりロシアン・ルーレットが生まれた逸話を想起した。求婚が一番のサプライズ。この秘密結社の元ネタはGKC? とか勘繰り過ぎちゃいけないね。


No.1593 5点 奇岩城
モーリス・ルブラン
(2023/12/07 13:53登録)
 ラスト3分の1(暗号解読&奇岩城攻略)は面白かった。全て我が物だとばかり宝物を並べる様に、ルパンの圧倒的な孤独を見た。
 哀しい結末は、今時の気遣い重視のコラボレーションと比べて、作者の思い切りの良さに結構感心。どのみち読者だってこれをホームズの公式エピソードに数える気は無いんだから。


No.1592 5点 風ヶ丘五十円玉祭りの謎
青崎有吾
(2023/12/07 13:53登録)
 柚乃と早苗と香織と鏡華と……キャラクター小説的要素にばかり目が行っちゃって謎解きは邪魔。シッシッ、あっち行け天馬。

 “髪がボサボサで眼鏡をかけた中年のお父さんが、少女漫画チックなキャラクターを巻き込んで暴れ回っていた” →岡田あーみん? 食べながらアレを読むってどういうチャレンジャーだ。

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