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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1448 7点 去年を待ちながら
フィリップ・K・ディック
(2023/05/09 12:46登録)
 謎のドラッグ、支配者とシミュラクラム、現実崩壊、と言ったディックの持ち味が全開。言葉を変えればネタの使い回しであるが、その分こなれて来たのか。“崩壊” 感覚はこのくらい判り易い方がいい。『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』では宇宙の孤独を感じたが、ここでは痴話喧嘩をどこまでも引っ張るので地上に縛り付けられたまま。あの妻にはイライラしたな。捨ててしまえ! 結末が弱いのはいつも通り。


No.1447 6点 太陽が死んだ夜
月原渉
(2023/05/09 12:44登録)
 青春ミステリ的な少女の成長譚としての要素が、事件の様相と上手く噛み合っていないような。人死にの数と比べて、心情的に犯人をサラッと赦し過ぎじゃない? 特に “死体の腹を割く” ことが妙に軽く扱われているように感じた。
 舞台がキリスト教系の全寮制女子校だと “いいなぁ” と思うのは、適度に丁寧な言葉遣いのガールズ・トークが好きだから。これが男子校だとわざとらしく粗野になりがちなんだよね。


No.1446 5点 木曜の男
G・K・チェスタトン
(2023/05/09 12:44登録)
 書かれている事柄は判るが、他愛のない話。第十三章の追跡行以降急にノリノリになる(さくらももこのナンセンス系漫画みたい)からと言って、免罪符になるわけではない。それで? と言う感じ。


No.1445 5点 からくり富
泡坂妻夫
(2023/05/09 12:43登録)
 トリッキーな演出はネタ切れなのか、事件の裏に潜む人情の機微みたいなものに焦点を移して来たが、それにしては「手相拝見」の真相、身内の情人にスケコマシを頼むってことは、身内が泣く前提で浮気を唆しているわけで、釈然としない。


No.1444 7点 使用人探偵シズカ 横濱異人館殺人事件
月原渉
(2023/05/02 13:19登録)
 ネタバレっぽいけど、アレに切れ込みを入れておく件:最初の落下で切れるかもしれない。逆にその後、都合良くは切れないかもしれない。

 と書いておいて何だが、これは大目に見てもいいかな~。
 物語全体を貫く運命論的構築主義の世界観に読者として気持良く呑み込まれることが出来たからね。どんでん返しも含めて良い意味で予定調和な様式美なので、物理的要素は犯人の目論見通りに作用するってことでいいのだ。
 しかし、“人間金庫” は本気でやる心算だったのだろうか……。


No.1443 7点 びいどろの筆
泡坂妻夫
(2023/05/02 13:18登録)
 “宝引きの辰” と比べるとかなりミステリ度が高く、イメージだけで偏見を持って読まずにいたのは損だったと反省。

 表題作はおかしい。絵馬を持って逃げれば済む話である。また、事後工作が却って絵馬に注目を集め、その結果身許が割れているのだから本末転倒だ。しなくていいトリックを使わせてしまう作者の欠点もちゃんと出ているんだな~。
 「南蛮うどん」の “蠟燭” に拍手。実在の秘伝書に載っているネタなのだろうか。私にも作れる?
 現代物の登場人物の御先祖様らしき名前がチラホラ。芥子之助なんて『喜劇悲奇劇』とまるで同一人物で、と言うことは実は時間テーマのSFなのであった。


No.1442 8点 雪密室
法月綸太郎
(2023/05/02 13:17登録)
 カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』と並べると、被害者(上昇志向の高慢な女性)のみならず何人かは役柄と属性が大胆に重なっている。これはまぁ本気のオマージュと言うよりは、“雪の密室” をやればどうせアレが引き合いに出されるんだから、とのジョークじゃないかな。

 離れの灯りを消した為、現場に不自然さが残った。しかし点けっぱなしだと計画より早く第三者に見付かるリスクがある(と言うか実際に見られていた)わけで、“足を引っぱっただけ” ではないと思う。
 良かったポイントはソクラテスのエピソード、ジェスチャーの手掛かり、ぐりもお。殺人者を消去法で特定するあたり、原典の不備を意識的に補っているのかも(“靴のサイズ” はちょいと御都合主義的だけど)。作者の長編の中では最もバランスが取れていて、なかなか上手く “改築” 出来ているのではないか。

 “真棹” と言う女性名は泡坂妻夫『乱れからくり』からの借用? でも意図が良く判らない。


No.1441 5点 白い僧院の殺人
カーター・ディクスン
(2023/05/02 13:17登録)
 密室トリックはバカミス系の方が好きで、その基準で言うと本作は堅実過ぎ。寧ろ密室のホワイダニットに感心した。
 登場人物の気持の交錯、事件前後の動き、みたいなものは、しっかり組み立てられているのかもしれないが、必要以上に判りづらい書き方に思える。特に、“カニフェスト卿を殺した、と思ったら生きてた” 件について詳細が書かれていないのは手落ちでは。


No.1440 5点 繭の密室
今邑彩
(2023/05/02 13:16登録)
 型通りの展開だな~と思いつつ読んでいたら、予想通りの真相で終わってしまった。あんなエピソードが本筋とは別に示されていたら、明白でしょ。ミステリ的なトリッキーさより、背後に流れる歪んだ暴力の連鎖の方を注視すべきか。

 第二章。風呂の修理は原則大家の負担だと思う。人に言えない理由で故障した、と言う伏線かと思った。


No.1439 9点 延暦十三年のフランケンシュタイン
山田正紀
(2023/04/27 13:27登録)
 SF設定が基盤にあるし、宗教者の物語だし、すわ最初期の〈神シリーズ〉の再来か? とも思ったが、事象より個を描いているあたり、もう少し後の時期のアクション系連作集の匂いの方が強い。そこに加えた一捻りがつまり、延暦年間と言う時代設定なのである。
 この設定が非常に有効で、ベタで大仰な展開も内心如夜叉の玉依の女性性も違和感無く読めた。滂沱の涙が三回とは自分でも驚き。現代物だったらそこまで素直に浸れなかったかも。


No.1438 7点 人喰いの時代
山田正紀
(2023/04/27 13:26登録)
 思うまま書いたらネタバレしてました――。
 作者は本作と『ブラックスワン』で “SFを書いて、かつミステリーを書くという独特なスタンスを築きたい、という思いもあったのだが ~ SF作家がミステリーを書いた、というふうに受けとめられることになった” と述懐している。
 それもむべなるかな、と私は思うのだ。山田SFのキー・ワードである “虚構性” がそのまま引き継がれているんだもの。
 作中の某の心を何らかのブラック・ボックスであると解釈すれば、『地球・精神分析記録』や『夢と闇の果て』と近似の構造だ。いつもの手で来たか、と見られても仕方が無い。
 但し、ミステリであることを重視するなら、その虚構は開きっぱなしではなく何らかの形で収斂するのが望ましい。
 イヤ、一概にそうとは言えないか。しかし本作の場合は、五話目までは割と古風できちんとまとまった本格ミステリ短編なのに、最終話で虚構性をぶっこんでしかも中途半端に閉じかけたままなので、どうにもバランスが悪い。身も蓋も無く言えば、この部分は作中作だよ! あっ、そう。で済んでしまう感じ。
 その点が、本作を合理的なミステリと捉えても、破格の実験作と捉えても、物足りない。いっそ最終話をカットして、昭和初期の歴史ミステリに徹するのもアリだったのでは。


No.1437 4点 化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
(2023/04/27 13:25登録)
 何と言うか、やる気が感じられないんだよね。常時100%で書き続けられないのはまぁ判るが、力を抜いた軽めのものを意図して失敗している。無機的に書こうとして拗らせたような文体も、メルカトル鮎とか木更津悠也とかでは生きて来るんだけど、化石オタクの御嬢様女子高生を描くには不適格。照れてる場合じゃない。相沢沙呼を見習え!

 そんな中、鹿沼亜希子の存在感だけは、あっちの世界線から引っ張って来たような冷ややかな微熱で際立っていた。次巻は『化石少女 vs カメラ少女』にすれば?


No.1436 5点 鋏の記憶
今邑彩
(2023/04/27 13:24登録)
 既存のピースを小器用に組み合わせただけだが、特に悪印象は無い良品。写真を取り寄せたり家宅侵入したり、警察官の行動として暴走気味ではある。
 一話目の “時計はどっちにズレているのか” が一番いい小ネタだと思うが、それが際立つ使い方になっておらず勿体無い。


No.1435 5点 ルパン対ホームズ
モーリス・ルブラン
(2023/04/27 13:24登録)
 “ルパンとホームズの共演” と言うコンセプトだけで、事件の内容は練らないまま突っ走ってしまったのか。あまり “対決” って感じがしない。
 キャラクター小説としては面白い。探偵側はちょっと三の線で、Herlock Sholmes の名の方が寧ろ相応しいかも。「金髪婦人」中盤でウイルソンが “洞察力” を見せる場面など素晴らしい。


No.1434 10点 幻詩狩り
川又千秋
(2023/04/20 13:38登録)
 言語SFって何だ? テッド・チャンとかチャイナ・ミエヴィルとか円城塔とか。今読み返すと小松左京『果しなき流れの果に』の枠組みに山田正紀の〈神シリーズ〉を嵌め込んだもの、と言う気もする。
 シュルレアリスト達から80年代日本へ、丹念に綴られる “幻詩” の成立過程が兎に角面白い。素材の良さをシェフが上手く引き出していますね。てっきり西都デパート会長が “黒幕” かと思っていたが、悪意の有無は不明なままフェイドアウトしちゃったなぁ。
 アクション系に魂を売る前の高純度な川又SF。本作のことを思うと、硬いチーズの塊にナイフを入れると中はトロリと柔らかく溢れそうで芳香を嗅いだだけでトリップ、みたいなイメージが浮かぶのである。 


No.1433 6点 七面鳥 危機一発
山田正紀
(2023/04/20 13:31登録)
 山田正紀には “本を一冊読めば一冊書ける” との噂があるらしい(本人は一冊じゃ無理ですと否定している)。
 似たような意味で、本書を構成する各短編も、主人公言うところの “泥棒のルーティン・ワーク” を略さずしっかり書き込み引き伸ばせば『24時間の男』系統の長編に仕立てられるのではないか。
 それをギュッと濃縮した、と言うには、のほほんとした書き方で個々のネタがそこまで研ぎ澄まされていない。何を盗んだのか判らないとか依頼人が泣いたとか七面鳥最後の選択とか七子が “ちぎれるように手を振った” とか、胸に残るポイントはあるけれど、それとこのそこそこのストーリーを秤にかけると分が悪い。水準の高い作家の、凡作。

 但し、スパッと楽しめる娯楽作品として成立するにはあまり高過ぎない方がいいと言う側面もあるんだろう。
 “コミック・アクション” と銘打ち表紙イラストがモンキー・パンチってそりゃ狙いは明確。全編一人称だから山田康雄の声で脳内再生されちゃうよ。あっ、今の若い人は違うのか。


No.1432 5点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2023/04/20 13:30登録)
 建物の構造とか短剣の形状とか、重要な筈の物が色々上手くイメージ出来なかった。
 3章。ジョゼフが “名前負けしている” とは。聖母マリアの夫、ヨセフを引き合いに出している?
 18章。語り手の姉のアガサが “ゴーゴンをいくらか穏やかにしたような女性” とは。発表の時点で “アガサと言えばあの人” だったのかな? 確かに写真を見るとそんな感じではある。
 20章。芝居の演目が真相を暗示する遊び心は好き。たとえ通じなくとも。我が国ならベルばら?


No.1431 3点 友が消えた夏
門前典之
(2023/04/20 13:29登録)
 物理トリックは解けなかったが、事件及び作品全体の構造についてはヒントが色々あって概ね読めた。“タクシー拉致事件”  が平行して描かれていたから余計判り易かったとも言える。そこが判ったら犯人も明白だ。ここまではまぁ悪くない。

 しかし、真犯人は公的には死亡とされているわけで、自身の戸籍はもう使えない。その辺の設定がおかしいね。
 それを抜きにしても、犯人の計画はおかしい。自分か周囲か、どちらかを消すだけで良いのに両方消しちゃっている。
 つまり、自分が死んだことにするなら、他人になって生き直すしかないが、それなら周囲との関係は切れるわけで、殺す必要は無い。と言うか、黙って消えればいいだけで、死んだフリも必須ではない。
 本名云々にこだわりつつリセットしたいなら、自分のままで一人だけ生き残ってしかも疑われない状況、が必要な筈。
 
 あと、演劇部員達の会話がぎこちない。いや、現実の会話をそのまま文字にしろと言うことでは勿論ないよ。“小説の文章として読んだ時に面白い会話文” と言うものはあって、その観点で見た場合にどうもわざとらしい、と言うこと(好みの問題も大きいとは思うが)。
 で、“録音記録を書き起こした文書” との設定でしょ。実は録音自体がシナリオを見ながら演技したものだったのでは、と疑ってしまった。


No.1430 3点 蟻の棲み家
望月諒子
(2023/04/20 13:29登録)
 この作者は文章力も取材力も構成力も備え持ち、人権も尊厳も無いような営みを嫌と言う程くっきりと描き出している。中盤ちょっとごちゃついたものの、汚辱を引きずりつつ進行する事件の様相には惹き込まれた。

 しかしそれが実は、構成力の空回りの上に築かれた幻影だったなんて。

 あの真相はなんなのだろうか。何故ターゲットを直接殺さない? 心理的なものも含めて理由が何も無いじゃないか。一人葬るために三人殺して、そんな迂遠な計画、それこそ “ばかじゃないのか、お前は” である。がっかり。 


No.1429 5点 鱈目講師の恋と呪殺。桜子准教授の考察
望月諒子
(2023/04/13 10:16登録)
 森博嗣の描く閉鎖社会としての大学をもう少しコミカルにした感じ? ロジカルな謎解きでは全然なく、寧ろホラーに近いのでは。飲み会のエピソードはひどい。きちんと言えばいいものを。否応なく共犯者にされた周囲はいたたまれないだろ。(金が全てではないにしても)授業料を払う側に対して、教える立場でそんな気分的理由による拒否権があるのか。

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