死体の汁を啜れ |
---|
作家 | 白井智之 |
---|---|
出版日 | 2021年08月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 7人 |
No.7 | 7点 | パメル | |
(2024/11/09 19:16登録) タイトルからしてグロテスクな描写が満載な小説だろうと、覚悟していたためか思ったほどではなかった。 牟黒市という小さな港町が舞台。殺人の発生率が異常なほど高いこの町では、なぜか奇妙な死体が登場する事件は多発する。なぜ、このような死体が出来上がったのかという状況を解き明かすことが、謎解き小説としての核になっている。 各編で描かれる死体は、常人では想像のつかない異様なものばかり。一編目の「豚の顔をした死体」では、生きたまま頭の皮を剥がされた上に、豚の頭を被された死体が出てくる。どう見ても快楽殺人者の仕業にしか思えない状況だが、手掛かりを辿っていくと、そこには理にかなった人間の行動が隠されていることが分かる。表面上は奇怪で非合理的に見えるが、その裏には論理的かつ合理的な世界が広がっているのが分かる。 感心するのは、自然な感情の流れを謎解きパズルのピースとして巧みに利用している点である。「何もない死体」では、民家のガレージでギロチンで首と四肢を切断されたと思われる男の死体が描かれる。本作では死体以外にもおぞましい仕掛けが用意され度肝を抜かれるのだが、肝心な物理的な証拠のほかに、人間の意識を念頭に置くことで、初めて事件の全体像を掴めるようになっていることだ。最も戦慄的な死体が描かれる「死体の中の死体」も然り。狂気じみた謎が描かれるが、ここでも鍵となるのは登場人物たちの心理状態。「こういう状況ならば、こういう行動をとらざるを得ない」という思考の流れを丁寧に追っているからこそ、最後に明かされる真相は説得力を持つ。 |
No.6 | 7点 | 虫暮部 | |
(2024/05/02 14:29登録) ブツ切りの具がゴロゴロ入った死体汁である。書き下ろしなのに出し惜しみせずこんなにネタをぶち込んで大丈夫? しかもこの人の場合、謎が登場人物の各々勝手な行動と不可分なケースが多く、否応無しにストーリーが生じる。アイデアの羅列では終われないのだ。必然的に奇天烈なキャラクターもガンガン生まれる。大丈夫? 探偵側が多発する事件にズブズブ飲み込まれて “自身の事件” に変貌する流れが面白いと言うか “うげっ” と言う感じ。 |
No.5 | 8点 | みりん | |
(2024/02/04 19:14登録) おーっとこれは白井智之ベスト短編集に間違いなさそうですよ。うろ覚えだが「お前の彼女は二階で茹で死に」「名探偵のはらわた」よりトリック重視で、その辺が気に入ったのかも。 【ネタバレがあります】 中でも「死体の中の死体」がベストオブベスト。なぜこんなアイデアが思いつくのか?もしかして作者5人くらいいる? 次点で「膨れた死体と萎んだ死体」「何もない死体」も短編とは思えない満足度。平均だと6〜7点だが、傑出している作品を大きく評価して8点付けます。 オチの勘違いも良い。珍しく使いまわせそうなコンビが出てきたので続編どうでしょうか? |
No.4 | 7点 | レッドキング | |
(2023/09/02 22:19登録) 識字力喪失のミステリ作家、守銭奴(「パンツ売ろうかナ」)女子高生、悪徳の美人刑事、深夜ラジオマニアのヤクザ・・奇矯極まる面子による、架空小都市を舞台にした連作短編集。 「豚の顔をした死体」・・皮を剝がされ豚の頭を被せられたヤクザ組長死体のWhy。5点 「何もない死体」・・手製ギロチン惨殺巡るトリック解釈のファンキー三段落ち。8点(長編に膨らませてほしい) 「血を抜かれた死体」・・逆さ吊り男女惨殺死体と仰天密室How(斬新な密室ネタに間違いなし)。8点 「膨れた死体と萎んだ死体」・・アリバイトリックのトンデモ(笑)顛末のロジック。6点 「折り畳まれた死体」・・展示処刑具で死んだ少年・・からのツイストちょっとイイ話、からのbadな・・ 6点 「屋上で溺れた死体」・・水無き屋上で水死したカルト教祖の謎(これワラける)。5点 「死体の中の死体」・・大女の屍体に縫い込まれた子供の死体のWhy・What。8点(これも長編にできるな) 「生きている死体」・・四肢切断され眼球抉られ鼓膜破られ・・残虐ここに極まる殺人未遂事件の顛末。5点 各編冒頭に付く、探偵役作家のライバル(と言うより宿敵)ミステリ作家の事件コメントが、中学生レベルなのに、一回りして「正解」着地てな趣向に唸らせられる。全体で、7点。 |
No.3 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2023/04/12 18:49登録) ①豚の顔をした死体 5点 豚の頭をかぶったヤクザの死体が発見された・・・ナンセンス喜劇。抗争好き ②何もない死体 5点 ギロチンで手足と首を切断された男の死体と意識不明の女・・・バカミス。男の2歳の子供 ③血を抜かれた死体 5点 逆さに吊られた2体の死体。喉が切られ2つの鍵が詰められていた・・・密室のための工作。何でそこまで(苦笑) ④膨れた死体と萎んだ死体 4点 ちゃんこ鍋を食べ過ぎた死体が発見され、次に絶食した死体が・・・アリバイ ⑤折り畳まれた死体 5点 拷問遊具で背中を中心に反った状態で発見された子供の死体・・・特殊体質 ⑥屋上で溺れた死体 2点 教祖が屋上で溺死した・・・宴会 ⑦死体の中の死体 5点 女性の遺体のお腹の中から10歳の子供の遺体が発見された。子供の胃の中から・・・監禁。グロテスク ⑧生きている死体 5点 手足をもぎ取られた状態で発見されたが生きている・・・金庫破り。これもグロ |
No.2 | 8点 | HORNET | |
(2022/06/19 17:25登録) スマッシュヒットを飛ばしながらも、知り合い作家に騙されて借金を負うことになったミステリ作家・青森山太郎は、死ぬことにした。ところが、自殺に向かう途中でやくざに拾われ、巻き込まれていた事件を解決したことにより気に入られ、「死んだら殺す」(笑)と脅され囲われる身になってしまう。小さな港町でありながら殺人事件の発生率が群を抜いている牟黒市で、青山、やくざ、そしてなぜか女子高生まで絡まって、前代未聞の死体から始まる殺人事件の謎解き劇が始まる! 残虐で猟奇的な殺人を、陰鬱な雰囲気なしにコミカルに描く作者の作風が存分に生かされた一作。クソ笑えて超面白い。一見イロモノのように感じられる作者の作品だが、ミステリとしての謎解きはきっちりロジカル(一応)なのがまたよいところ。まぁバカミス的な着地もあるが、そういう体だとわかって読めば十分謎解きも楽しめる。 面白かった! |
No.1 | 7点 | メルカトル | |
(2022/03/24 23:20登録) 豚の顔をした人間が死んでいる―― こんな死体、あり!? ならず者たちが、異常すぎる死体の謎を追う 若き鬼才が描く、本格ミステリの新世界! この街では、なぜか人がよく殺される。 小さな港町、牟黒市。殺人事件の発生率は、 南アフリカのケープタウンと同じくらい。 豚の頭をかぶった死体。頭と手足を切断された死体。 胃袋が破裂した死体。死体の腹の中の死体……。 事件の謎を追うのは、推理作家、悪徳刑事、女子高生、 そして深夜ラジオ好きのやくざ。 前代未聞の死体から始まる、新時代の本格ミステリ! Amazon内容紹介より。 やはり白井智之はある意味別格ですね。何となく世間的に見れば異端児的な存在の様に思えますが、猟奇的事件をロジックで解決する。私からすれば本格ミステリの理想形に到達しているのではないかとすら感じます。確かにグロい描写が多いです、しかしそれを生かし切ったトリックを仕掛けてくる辺り、まさに悪魔的、天才的ではないかと。で、本作はグロは控えめでそれに反比例するように論理に重点を置いており、決して伏線を回収してとか読者にも真相が推理できるような代物ではありません。しかもリアリティの欠片もありはしませんが、成程と思わせるだけの整合性は持ち合わせています。又、一寸したことですが、ネーミングセンスが良いですね。 何と言っても白眉は『何もない死体』でしょうね。四肢と頭部を切断された死体、その鬼畜の如き所業の裏に隠されたトリックとホワイダニットには思わず拍手を送りたくなりました。 次点は『死体の中の死体』ですかね。死体のマトリョーシカとも言うべき風変わり過ぎる死体の秘密、これにも驚きの理由がありました。 勿論一般受けはしないでしょうが、グロに抵抗のない方は一度読んでみると面白いと思いますよ。 |