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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2334件

プロフィール| 書評

No.2314 7点 刑事総務課は眠らない
矢樹純
(2026/09/01 13:58登録)
 主人公の苗字 “月代(つきしろ)”。この漢字は “さかやき” とも読むので気になってしょうがない。名前の選択として良くないと思う。実在の苗字だったら茶化すようで申し訳ないが。

 第一話の心中事件の “手掛かり” は何だったのか。“エアコン” だけからあそこまで推理するとは、あまりにも出来過ぎ・飛躍し過ぎじゃなかろうか。

 作中の大きな “偶然” を突き詰めると、某事件の犯人が別の事件の犯人と直接の知り合いだった、と言うこと。一つだけならまぁいいか。
 ただ、ミステリで “偶然” が読者をガッカリさせる要因になるのは如何ともしがたい。この部分を必然的展開に出来たら総合評価が更に上がったのに。


No.2313 7点 後宮の呪術妃
白川尚史
(2026/09/01 13:58登録)
 前作はまぐれじゃなかったんだな~。
 後漢(東漢)の後宮を舞台に、人々が時代や場所に即した価値観(特に、死の受け入れ方)で動いているのが良い。漢字や語彙による雰囲気作りと読み易さのバランスも上手く拮抗している。
 面白いじゃないか……と夢中でページを繰っていたら、中盤で想像を裏切る展開が連続して度肝を抜かれた。おいこら。しかし “中華” のカラーが強過ぎて、その前と後で世界観があまり変わらないのも凄い。笙で癒す場面が良かった。
 惜しまれるのは、発端である “死者の首すげかえ事件” の内幕が、判ってみるとさほど必然性を感じさせないこと。


No.2312 7点 完全密室のマトリョーシカ ミステリ・イン・ザ・ミステリ
黒田研二
(2026/09/01 13:57登録)
 おっと吃驚した。これは全然気付かなかったわ。
 ただ、ラストに辿り着くまでは、うねうねと低空飛行な感覚である。
 語り手が俎上のプロットを低評価しているので、ついその気分に引っ張られてしまう。いや、それはそれで構成上必然的なイマイチさなんだけれど、イマイチのプロットをイマイチだと指摘されつつ読んで物凄く楽しいかと言えばそうではない。こうやれば没トリックも使える、と言う点では歌野晶午のアレみたいなものか。


No.2311 6点 妖怪博士
江戸川乱歩
(2026/09/01 13:56登録)
 “その頃、東京じゅうの町々で、人々は寄るとさわると「妖怪博士蛭田」の、「笑う大コウモリ団」の、噂をしているのでした。”

 と言う場面は無い。
 指摘しておきたいのだが、薄気味の悪い蛭田博士も、恐ろしい人間大の化け物コウモリも、少年探偵団と明智小五郎および極少数の大人の前にしか姿を晒していない。なかなか凝ったヴィジュアルなんだけどな。
 つまりこれは、世間を巻き込む大スペクタクル・ショーではなく、少年探偵団に向けたクロース・アップ・マジックなのである。あまりにも贅沢。なんと大人気無い復讐心。しかし国宝の掛け軸はしっかり手にしている。天晴れ天晴れ。

 そして、またもやラストの “ばんざーい” は、海野十三『蠅男』への返答だろうか?


No.2310 5点 さよなら、探偵
綾崎隼
(2026/09/01 13:56登録)
 苦く切ない青春ミステリ。
 注意深く端正に書かれており、こういうコンセプトに求められるものを期待通りに上手く具現化している。一方で、それ故に既視感も強く先が読み易いとも言える。
 席替えバトルの発想は面白い。ただ、こういうのは、或る程度繰り返してルールを把握しないと駆け引きの妙は味わえないが、あまり長くすると飽きる、と言うジレンマがあると思う。
 第四話で明かされるアレについては、言及した時点でネタバレになるからノー・コメント。


No.2309 6点 少年探偵団
江戸川乱歩
(2026/08/25 14:33登録)
 黒い魔物事件は、奇怪な演出に一応目的がある点に注目。この後どんどん愉快犯化する二十面相も未だ若かった。
 黄金の塔事件。赤外線防備装置にピストルまで仕掛けるとは大鳥氏も大概だ。うっかりそこで誰か死ぬんじゃないか、いや、うっかりに見せかけて誰かを殺す為の計画じゃないか、と心配したよ。


No.2308 6点 深夜の市長
海野十三
(2026/08/25 14:33登録)
 表題作は、結局何の話だったの? と言う感じで、あやふやな物語を場面々々の口当たりの妙で読まされてしまった。魅力的な舞台の設定だけ、ガワだけ、なんだけどそのガワ自体は結構面白い。って困るなァ……。

 追加収録の短編群もその点は共通していて、しかも短いだけにガワだけでも成立し易い。タイム・マシンの冗談めかした使い方が流石はエンジニア作家(?)。
 ただ「雪山殺人譜」に限っては、何処がポイントだかさっぱり判らず。


No.2307 6点 非在
鳥飼否宇
(2026/08/25 14:32登録)
 “EQの定義による本格ミステリ” を前提として遊んだ新本格、の蓄積された知見を巧みに活用した精緻な果実。
 ではあるが、その出来の良さが曲者で、更に二周三周したスレた読者の目で見ると、“此処で捻っているだろう” と言うポイントがかなり判ってしまう。
 そして、そのポイントの内容が、あまり親しみ易くはないのだ。島に関しては読者の推理する余地が少なく、地理のトリビア大会になってしまった。
 遺骨の件はかなり能動的に推理に参加しないと付いて行けないし、その労力の割に物凄く驚きの真相と言うわけではない(アレされたこと自体が驚きのピークで、具体的にどうやったかはさほど重要ではない)。“読者が楽しめる部分” と “作者が重視する部分” が幾らかズレているのではないか。
 ネコさんが温泉で悲鳴を上げたのは痛恨のミス。観察者シリーズと謳っても、対象に影響を与えまくりである。

 固いことを言うなら、このULTRA遠征隊はどの程度(どういう意味で、と言うべきか)本気なのか。
 例えばツチノコの存在を信じたからと言って、イコールUMA全般を信じる、と言うことにはならないだろう。こういうのは好きな人ほど認定基準が厳しくなるものだ。まして人魚なんて、生物学的に非常に苦しい造形である。
 伝承や文献を通じた民俗学的なアプローチなのか。誤認の元になった生物探しなのか。まんま信じている “体” で変な行動を取る遊びなのか。
 “本気で人魚の存在を信じる集団が大学にいる” なんて狂信的設定、何かの伏線かとずっと疑ってたよ。


No.2306 4点 先生、大事なものが盗まれました
北山猛邦
(2026/08/25 14:31登録)
 青春のようなミステリのような与太話。ファジィな領域にフワフワと漂う世界観はまぁアリとしよう。しかしこの “怪盗” の行為は、その性質上必要以上に理屈っぽくなってしまうけれど、そこに “ふーん” 以上の感慨は得にくい。苦し紛れに出した企画が通っちゃって無理にでっちあげたような感じ。コノミのキャラは(好みが分かれそうだけど)良かった。


No.2305 6点 寝台特急(ブルートレイン)殺人事件
西村京太郎
(2026/08/25 14:30登録)
 何処までが計画のうちで、どれが想定外なのか。想定外を想定して結果から逆算したような、歪な様相を呈している感が否めない。しかしその上で、どんどん話がエスカレートするので驚いたのも確かだ。
 これは旅情云々ではなく、『華麗なる誘拐』等の陰謀系作品に連なるもので、道具立てがたまたま列車だったと言うだけだと思う。つまり、トラベルミステリのブームとは或る種の誤解から始まったと言うこと?


No.2304 8点 怪人二十面相
江戸川乱歩
(2026/08/18 14:03登録)
 読んでいると自然に頬が緩む。諸々のオマージュ作は概ね節度を心得ているのに、原典はぶっちぎりでツッコミどころが多い。しかし、怪人二十面相の居るこの世界に限って、それら全ては斯く在るべしと思わされてしまう。天然物の特権である。二十面相バンザーイ。


No.2303 8点 蠅男
海野十三
(2026/08/18 14:03登録)
 作中に曰く “人間の常識を超えている!”。まさにその通り。江戸川乱歩はまだ常識的だったのだなァと、恐れ入った次第。
 かなり陰惨な内容の筈なのに笑わずにはいられない空気が充満していて、境界に立たされているような気分が絶品である。JDCもびっくりの密室トリック。少年漫画の悪役に据えたら映えそう。

 ところで、『怪人二十面相』と本作(雑誌掲載は前者が一年早い)、どちらも最終章を “ばんざーい” で締めている。海野の意図的な遊びだろうか?


No.2302 7点 中空
鳥飼否宇
(2026/08/18 14:02登録)
 事件の舞台や背景はとても興味深い。竹によるイメージ構築の鮮やかさや、一人称の文体が語り手のキャラクターを自ずから表現している点にも感心した。
 但し、事件そのものの真相は、アッと驚く程ではない。複数の推理が披露されるが、共通の構図の中で誰が手を動かしたか、と言う程度の違いで、生と死を相対化するような問答の後では大した差には感じられなかった。誰が下手人でも同じ、みたいなミステリらしからぬ感想を抱いてしまうのは、舞台の特殊性ゆえか。
 死体の首がせっかく派手な動きをしてるのに物語の中で全然目立ってないのは、トリックの使い損だな~。


No.2301 6点 『石球城』殺人事件
北山猛邦
(2026/08/18 14:02登録)
 鴨崎暖炉に負けてたまるか! 食らえ液体窒素!

 と作者が言ったとか言わなかったとか。密室に未だこんなに可能性があったかと驚愕しつつ、まぁここまで可笑しな建築物を並べるのが可能ならねぇ、と苦笑も漏れてしまうわ。

 しかし、これだけの紙幅を費やしても尚あまりに急ぎ足な書きっぷりを鑑みると、作者の構想はバランスが狂っている。密室は七つくらいあれば充分この物語を書けたのではないか。メガ盛りギガ盛りは大盛り自体が目的化した歪なメニューなのである。じっくり味わうのには向かない。
 その結果、それなりに豊かな物語性を内に秘めていそうな『石球城』と言う絵が、早食い競争の背景として消費されてしまった。受け取り方に困惑する私である。


No.2300 6点 黙示録殺人事件
西村京太郎
(2026/08/18 14:01登録)
 一番問題なのは、このファザーにそこまでの人間的魅力が感じられないこと。しかし、本作発表後に現実に発生した幾つかのカルト事件を踏まえると、それが却ってリアルなのかもしれない。作者の意外な先見の明?
 あの “使徒” 達は本気で心酔していたのか、恐怖に囚われていたのか。十津川がどう喝破しようと、当人がどう主張しようと、実のところははっきりしないし、読者としての解釈も下しようがない。しかしラスト・シーンは素晴らしい。

 十津川シリーズにしたせいで物語の “上限” が生じて、事件の結果大胆な社会変革が起きたりはしない。この題材なら、ノン・シリーズのパニック・サスペンスにすれば良かったのに。信仰に基づき日本分裂とか。自殺教が席巻して東京が過疎化とか。
 まぁそういう逸脱をしないところがこの作者の “中庸の良さ” でありブレイクの一因なのかも。


No.2299 7点 水上都市の冒険
島田荘司
(2026/08/12 15:08登録)
 これはなかなか素敵な作品集。
 物凄いトリックがあるわけではない。が、“ストーリー” でも “文体” でもなく、言ってみれば “エピソードを構成する個々のパーツ” のリズムが心地良い。
 御手洗くんはやはり見ているもの摑んでいることが他の人とは違うけど、その微妙なズレが生み出すグルーヴが感じられた。受け手である記述者少年の反応がまた優しく絶妙で、決して御手洗くんの独り舞台にはなっていない点も良かった。
 “何を” ではなく “どのように” 書くかで生まれる価値。少年時代を舞台に据えたせいで偶然生じたのかも知れないが、島田荘司が今になってそんなものを手にしたとは吃驚&感激。


No.2298 7点 山上のフェイク
潮谷験
(2026/08/12 15:07登録)
 救助隊のドラマがそれ自体で充分面白い。謎が無くても楽しめるくらい。山岳の情景描写、作者は健闘している、多分。私に知識と言うかイメージ力があればもっと鮮やかに見えたんじゃないかな。
 文芸研究会仲間の書き分けがもう少ししっかりしていれば良かった。結局は二者択一で決め手がアレだと言うのも、“ふーん” と思うだけでパンチに欠ける。“あっ” と思わせて欲しいよね。


No.2297 5点 ルーカスのいうとおり
阿津川辰海
(2026/08/12 15:07登録)
 色々工夫したんだろうけれど、そこまで効果は上がっていないのでは。ルールが曖昧なので、正体が二転三転してもロジカルな面白さには繫がらないし、もう誰でもいいよって気分だ。ぬいぐるみの小ささに振り回される攻防戦は、ちょっと他では読んだことの無い場面だけに面白かった。


No.2296 5点 シェアハウスの群狼
杉井光
(2026/08/12 15:06登録)
 “一つのアイデアを軸に、能力のある作家が上手に組み立てた” と言う感じ。悪いことではないが、手慣れた筆致が鼻に付くところもある。
 シェアハウスの設定はやや散漫に感じなくもない。また、犯人特定は人間関係の大きな偶然に頼っているわけで、そこは低評価。

 しかし犯人が背負わされた絶望は絶望的で想像すると気が遠くなる。
 更に恐ろしい点は、“全て(または一部)が犯人の妄想である” との可能性が否定出来ないこと。能力が本物だと言うことと、自白内容の真偽(意識的に嘘を吐いているのかも知れないし、妄想を本気で信じ込んでいるのかも知れない)は別問題だよね。


No.2295 4点 錬金術師の聖櫃
紺野天龍
(2026/08/12 15:06登録)
 今回の特殊設定は魂がどうのこうの。ならばその捻り方はこうかな? と予測が付いてしまった。と言うか類似作品を読んだことがあるし。
 事件に関するその他の真相も、犯人の能力が高過ぎて興醒め。もとよりそういうファンタジー世界だってことは判っているけれど。
 シリーズとしての大きな物語=世界の秘密についての進展は楽しみ。

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