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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2105件

プロフィール| 書評

No.2085 8点 接物語
西尾維新
(2025/10/18 12:28登録)
 単なるキャラクター小説ではなく “禁忌の儀式” と言う具体的な軸が一本通っているので、下町の工場ではぐれ者社員が新製品開発のプロジェクトに挑む! みたいな読み味で、いつの間にかおぞましさが中和されていた。サラリと記述されているが “途中参加の彼がぶっ倒れるほど身を尽くした” ってところ、いいなぁ。
 そしてあの呪文には痺れた。漢字マニアなので。いや本当に。


No.2084 5点 死体埋め部の回想と再興
斜線堂有紀
(2025/10/18 12:27登録)
 (x)(y)ってどういうこと? 読後に粗筋紹介を確認してやっと理解した。SFでもないのにこういうことするのはちょっと如何なものか。
 まぁそういう “企画” なのは判るが、無数の可能性を一つに収斂させて特定の文字として定着させることこそ “小説を書く” ことであって、一つに絞れないならそれを両立させる工夫をすべきなのでは?

 その部分は抜きにして物語自体について言えば、前巻と概ね同じ。設定上、物凄く斬新な推理とかは出にくい。
 あと、先輩がそこまで魅力的なキャラクターではない(駄目人間だけど愛せる、みたいな感じでもない)せいか、たまに深みのありそうな人生訓(?)がチラリと見えてもすぐ有耶無耶になっちゃうな~。


No.2083 5点 オルゴーリェンヌ
北山猛邦
(2025/10/18 12:27登録)
 “私をオルゴールにしてください” って、こんな幻想的なイメージじゃなくて、江戸川乱歩のグロテスクな耽美的人体改造芸術だよ。一方で “オルゴーリェンヌ” は要するに “歌の才がある人” ってだけでは? 前作では割とそのまま受け入れ可能だった世界観だけど、今回は冒頭からうっすらと違和感あり。
 物理トリックは面白いし、クリスとユユのボーイ・ミーツ・ガールとしても良かった。
 しかし、ただでさえ幻想風味のフワッとした筆致で、紙幅が物語の実体以上に膨れ上がっているのである。動機があんな曖昧なままでは支え切れず、単なる愉快犯みたいな印象が残ってしまった。


No.2082 6点 少年検閲官
北山猛邦
(2025/10/18 12:27登録)
 水面下にまだまだ色々潜ませていそうな空気感は良いし、この世界でならあれらのトリックもOKだ。しかし物語そのもののその場その場での吸引力がちと弱い。
 そして何より犯行動機。書き込む “内容” が無いと書物は成立しないのであって、そこがなおざりにされていないか。邪魔が入らなければ犯人は願いを叶えられたのか、疑問符が付く。


No.2081 6点 殺意
フランシス・アイルズ
(2025/10/18 12:26登録)
 “細菌培養器がなくなっていた” と言うエピソードは何? もしかして読者に丸投げされている謎がある? ならばそれは、当然エピローグ(←私は高評価する)に関する部分だよね。
 伏線の乏しさを逆手に取って自由に想像するなら、当然あの女の犯行である。彼の失言から逸早く真相を推理して(が言い過ぎなら、非論理的な勘で真実を見抜いて)自分でもやってみた。気持が不安定なひとだから早くも厭になっていたのだろう。
 その流れで、自分が殺されかけたことまで悟ったなら、証言も辛辣になろうと言うものだ。あわよくば自分の犯行も押し付けてしまおう。釈放されたら自分が危ない。相手が拘束されているうちなら偽装工作もやり易い。一度は愛し合った蛇と蠍の殺し合いだったのである。


No.2080 7点 18マイルの境界線
川瀬七緒
(2025/10/10 12:49登録)
 このシリーズにしては比較的グロくはない。知の力のよって闇が切り拓かれる様には爽快感を覚えた。
 但し、被害者も犯人もあまりに唐突に特定されていて、本格ミステリ的な謎解き要素はほぼ無くなってしまった。そこが少々物足りなくもある。
 ところでこのタイトル。“某所から某所までの距離が直線で30キロ弱(≒18マイル)” に由来するのだろうか。でも “境界線” はその円周なんだから数値が違うのでは?


No.2079 6点 夏休みの殺し屋
石持浅海
(2025/10/10 12:49登録)
 謎の答がどうあれ、結局は殺すんだけどね。シニカルなスタンスが特徴的なシリーズ。その上でパターン化しないよう色々工夫しているのは良い点。
 ただどうも中域で安定飛行と言うか、これは傑作! と言う突出したエピソードが無く坦々とした印象なのが惜しい。

 「花を手向けて」。あんな遠回しなメッセージは如何なものか。伝わらなかったら意味が無い。匿名で通報すれば済むことである。


No.2078 8点 ハンニバル
トマス・ハリス
(2025/10/10 12:48登録)
 “レクター四部作” とか称されるが、今思えば前二作のレクター博士はチョイ役に過ぎない。ようやく彼が舞台中央に躍り出た。しかも実はラヴ・ロマンスだった……。
 かと言って独擅場と言うわけではなく、異様な登場人物ばかりで誰に肩入れすべきか迷う。誰がどうなっても自業自得ばかり。作中髄一の純粋さを保った男が生き延びたのは、ドブのような世界へ作者が託した希望なのだろうか。
 しかしアレって美味しいのかしらん。興味が無いこともない。


No.2077 5点 合理的にあり得ない
柚月裕子
(2025/10/10 12:48登録)
 一話目が滅法面白い。予知のトリックも大胆だが、それを見抜いたその先の落とし方、小切手を放棄させる駆け引きに驚いた。
 でも良く考えると、アレはダブルバインドみたいに見えるけど、第三の選択肢があったね。交換に応じた上で、メモをすぐ燃やしてしまうのだ。“やはり私は能力を使って利益を得るのは潔しとしません” とか言えば、さすが先生! となるのでは。小切手は自分の懐から出たわけじゃないんだから “得られた筈のものが得られない” だけで、信頼は維持出来るでしょ。

 とか余計なことを考えるのは歯応えがあった裏返しであって、期待もグンと高まったのだが、それ以降は何か大したことないなぁ。
 全体的に、依頼人サイドは被害者面してるけど、自業自得の度合が結構高くないか?――あ、そうか。まっとうな被害者はもっと正攻法で訴えるから、涼子に御鉢が回って来ないんだ。


No.2076 4点 どうせ世界は終わるけど
結城真一郎
(2025/10/10 12:47登録)
 謎解き中心と言うよりは、それを通じて作者の言いたいことが色々ありそうなメッセージ系ミステリ? でもそれをこんな風にはっきり出しちゃっていいの?
 ハイ、これを読んでこう思って! ここで共感して! みたいな作者の思惑があまりに露骨。そういうのはもっと物語の背後に上手く潜ませて欲しい。作中のサッカー少年のように、“押し付けんなよ” “言われたからやってるみたいになるのは納得がいかない” って気分。
 そんな中で「友よ逃げるぞどこまでも」だけはとても面白い。そしてそれは、登場人物の心情云々よりも、犯罪絡みの設定に負うところが、やはり大きいのではないか、と思った。


No.2075 10点 抹殺ゴスゴッズ
飛鳥部勝則
(2025/10/04 13:05登録)
 “あの頃僕は神を愛していた。”

 何て素晴らしいイントロ。或る種の小説は、文体によって成立している。或る種の小説は、物語性よりも世界観の構築によって成立している。
 その中でもこれは驚嘆すべき存在だ。だから、その “世界” の濃度に圧倒されて、相対的にミステリ的な謎解きが卑小に感じられても構わないのである。そもそも作中の仕掛けの多くは普通に読めばバカミスだろう。ところが、その全てをアリにする世界が、言葉の力によって私の眼前に立ち現れたのだから、抵抗しようが無いじゃないか。
 いい加減長かったけど、まだ終わるなと願いながら読んだ。ズブズブ分け入った彼岸から、最後に一歩こちら側へ戻って来る終章も完璧。あ、でも正直に懺悔すると、桜とカナヨの区別がイマイチ付かなかったな。


No.2074 6点 腸の器
樹島千草
(2025/10/04 13:04登録)
 ぶっちゃけ前作と概ね同じ。“シリアル・キラーもの” と言うジャンルがあって、何らかのトレード・マークやキー・ワードを用意して、精神症やトラウマの知識をまぶせば一丁上がり。
 ってなもんだけど、パティシエの技術がしっかりしているから、甘く危険な香りに誘われてついまた味見したくなってしまう。
 前作から、事件としては別物だけど根っこは繫がっているので、このやり方で行くなら巻数を示した方が良いのでは。これは順番通り読むべきでしょ。


No.2073 6点 天の川の舟乗り
北山猛邦
(2025/10/04 13:03登録)
 「人形の村」はちょっとズルい。詐欺師が騙りによって何らかの状況をでっちあげることは可能だろう。肝心なのは、そこからどういう名目でカネを引き出すかであって、それをキッチリ作中で確定させないのは手抜きである。
 表題作。殺人と言う行為と動機との間にギャップを感じる。でも初期作品にも似たような思想(?)を絡めていたっけ。
 「怪人対音野要」のトリックは好きだな~。犯人があんなのを予め仕込んでおく不自然さも含めて、これぞ北山猛邦。


No.2072 7点 密室から黒猫を取り出す方法
北山猛邦
(2025/10/04 13:03登録)
 この二人、やっぱり良いなぁ。何と言っても「停電から夜明けまで」がグレイト。引きこもり探偵の本領発揮。
 「クローズド・キャンドル」のトリックも馬鹿みたいだけど面白い。鴨崎暖炉は “物理の北山” の悪影響で生まれたのだろうか。


No.2071 7点 踊るジョーカー
北山猛邦
(2025/10/04 13:02登録)
 びびり猫を手懐けようとしているみたい。探偵のキャラクターに惹かれてシリーズを手に取るのは結構久々かも。
 語り手も変な奴で、単なる読者の代理人やカメラではなく、その内面を適度に開示しつつもこちらの予想を裏切る塩梅が巧み。シリーズもののワトソン役でこれをやって自然な作例って、あまり思い付かないんだよね。


No.2070 7点 本格ミステリ’10
アンソロジー(出版社編)
(2025/09/26 11:21登録)
 山田正紀「札幌ジンギスカンの謎」。幾つかの捻りは相応のものなんだろうけど、泡坂妻夫の、そして白井智之の類似作を読んだことがあって、イマイチ驚けなかった。風水火那子と往年の名探偵・進藤正子が組んだこのシリーズ、もう一編が『名探偵に訊け』にも収録されていて→

 それ以外の小説は全て各作家名義の短編集に収録済みなので、今となってはほぼ山田正紀の愛読者にとっての存在意義しか残っていない。
 いや、でも、法月綸太郎「サソリの紅い心臓」、小川一水「星風よ、淀みに吹け」。アンソロジーで読むと、ロジックの立て方や文体がもうそれだけで個性だと強く感じた。成程こういう読書体験もあるんだな~。


No.2069 7点 名探偵に訊け
アンソロジー(出版社編)
(2025/09/26 11:19登録)
 テーマは “レギュラー名探偵”。
 山田正紀「原宿消えた列車の謎」。『風水火那子の冒険』の火那子と往年の名探偵・進藤正子が全国を巡る「街名シリーズ」だそうだが、立ち消えになって未だ作者名義の短編集には収録されていない。雑誌掲載だけで消えなくて良かったと言うべきか。まったくもー。
 内容としては、入り組んだ背後関係が短編の手には余る、いや、でも、この短さに無理にでも収めたからこそ風呂敷が畳み切れたと言うべきか。

 それ以外は全て、各作家名義の短編集に収録済みで、半分くらいはそちらで読んでたけど随分忘れていた。
 “名探偵のキャラクターを未読の者に紹介する” と言う観点で言えば、北山猛邦「毒入りバレンタイン・チョコ」、柄刀一「バグズ・ヘブン」、若竹七海「蠅男」あたりが役割を良く果たしている。有栖川有栖「火村英生に捧げる犯罪」は火村より寧ろアリスを紹介しているな。
 石持浅海「ディフェンディング・ゲーム」は、シリーズ中一番の駄作だと思うのだが、何故コレを選んだ……?


No.2068 6点 エロチカ
アンソロジー(出版社編)
(2025/09/26 11:19登録)
 官能小説アンソロジーなんだけど、参加者の顔ぶれを見たら “私には関係ない” と通り過ぎることは出来なかった。
 皆川博子は高尚に過ぎる。北野勇作は完全にSFで、我孫子武丸は完全にミステリ。
 津原泰水、山田正紀、京極夏彦、桐野夏生、それぞれかなり真っ向勝負。故にディープで胃にもたれる。
 と言うわけで、消去法ではないけれど、“エロエロのアダルト・コミックより普通のラブコメのサラッとした濡れ場の方がグッと来るのよね” みたいな意味で、貫井徳郎「思慕」に最も有用性を認めるのであります。


No.2067 6点 だから捨ててと言ったのに
アンソロジー(出版社編)
(2025/09/26 11:18登録)
 この一行目は曲解しようがないなぁ。“捨てる” は捨てるの意味だし “言う” は言うの意味だ。だから “何を?” で捻るしかない。
 この企画、執筆時期と公開順の関係ってどうなっているのだろうか。先出しの方が制約は少ないが、ネタが適度に潰されていて選択肢が多過ぎない後出しの方が却って有利かも。

 「お守り代わり」「パルス、またたき、脳挫傷」「重政の電池」「だから棄てゝと云つたのに」「探偵ですから」あたりが良かった。


No.2066 6点 新しい法律ができた
アンソロジー(出版社編)
(2025/09/26 11:18登録)
 今回の御題は当然ながら “どんな法律?” と言うのがポイントであり、どうしても作品の方向性を縛る働きをしてしまうが、“制約があるからこそ普段使わない筋肉が力を発揮した” みたいな作も散見され興味深い。
 別に順位を競っているわけじゃないが敢えて書いちゃおう。その中でも大沼紀子「もう、ディストピア」、目の付け所が最高!

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