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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1716件

プロフィール| 書評

No.1696 5点 模倣の殺意
中町信
(2024/04/21 12:28登録)
 やられたっ!
 とは確かに思った。

 しかし一方で、ネタバレするけれどアリバイについて。まず、あまりにもわざとらしい。あんな行動はそれ自体、心証的には真っ黒だ。
 第二に、結果として本当にアリバイが成立しているのに、それを主張すると自分の悪意を明かすことになるので言えない、と言うジレンマはとても面白い。にもかかわらずその点が目立っておらず勿体無い。強調しないなら不要などんでん返しではないか。
 他者にどう思われようと気にしない、キャラクター的な整合性はまぁあるけどね。


No.1695 5点 四つの兇器
ジョン・ディクスン・カー
(2024/04/21 12:28登録)
 真相のミステリ濃度は高いのに、事件の表層にあまりフックが無いわ必要以上に判りにくいわで勿体無い。このプロットの美味しいポイントは、犯人が不測の事態に振り回されるところだと思う。故に、部分的に倒叙形式で書くと面白かったのでは。
 犯人はアレなのだから、アッチを読者の目から隠せばちゃんと “意外な” 犯人になっただろうし。このごちゃごちゃした成り行きを探偵は推理だけで見抜けるのか、と言う問題もクリア。

 和爾桃子の訳書を何冊か読んだが、文体がちょっと今風の言い回しに寄せ過ぎだと思う。旧訳版を探すべきか。


No.1694 8点 推理の時間です
アンソロジー(出版社編)
(2024/04/16 12:41登録)
 いや~全然判らなかった。手紙誤配の件に気付けなかったのは痛恨の極み。
 と言うか最初の二編を読んだ時点でこりゃもう無理だと諦めた。 但し、犯人当ては “当てられない” ことが誉れではないよね。寧ろ、相応の歯応えは与えつつ、正答率の高いものが優れた作品だと思う。“いったん消去法で全員消してから叙述トリックの可能性を検討するのがセオリー” って何処の世界の話じゃ。 

 “読者への挑戦” 企画を抜きにしてもどれも良く出来ている。発表舞台が舞台だからみな気合が入ったんだろうな~。法月綸太郎の前口上が、自意識強めでとても法月していて微笑ましい。


No.1693 7点 戒名探偵 卒塔婆くん
高殿円
(2024/04/16 12:40登録)
 戒名がミステリのネタになるのか? なるのだ!
 京極堂のライト版と言った趣で無知な一般人にも判るよう薀蓄を垂れ流しつつ身許特定の鮮やかさ。しかしそれはまだ小手調べ、少しずつ読者を啓蒙した上で本題は横溝系だ(言い過ぎ)。太平洋戦争絡みの話としては割と辟易とせずに読めたのは、春馬くんの視点が(或る意味)素直だからか。

 “バカ” を含む名前を付ける親はいないだろう、母子家庭と言うのが伏線か。と思ったけれど言及無し。アレッ?


No.1692 5点 可視える
吉田恭教
(2024/04/16 12:38登録)
 文章にせよ構成にせよ、何か硬くて大味で損をしていないか。警察の捜査を描くこういう話はこういう書き方、みたいな不文律に安易に従っている感じ。槙野は人肌を感じさせるが、東條刑事の特殊な設定は記号的であまり効いていないと思う。
 “絵心がある×××だからこそ、あの肖像画の秘密に気付いた” と言うちょっと合理的ではない理屈は、とても良い。


No.1691 7点 光の廃墟
皆川博子
(2024/04/11 13:27登録)
 擬似CCみたいなキャンプ地で、殺意が芽生え過ぎだよ。最初の死をキッカケに箍が緩んじゃったんだね。癖の強い登場人物達が自然に描かれていて、ぶつかり合う気持も腑に落ちる。様々な血の絆である。この主人公が図書館勤務と言う設定はそそるな~。
 ただ、心理劇としての強さに受け皿としての物理劇が追い付いていない嫌いはあり、ミステリとしての緻密さには欠けるか。


No.1690 6点 黒猫を飼い始めた
アンソロジー(出版社編)
(2024/04/11 13:24登録)
 講談社メフィストリーダーズクラブ発のショート・ショート企画第一弾。26作家がこの表題を最初の一行とする作品を寄稿。

 “黒猫” が人名で、それを “飼う” と言うSMちっくな話が絶対にあるだろう、作家リストを見ると●●●か×××××あたりが書いてそうだ。と思ったんだけどな~。森晶麿や西尾維新に気を遣ったのか。
 「レモンの目」のあの “一言” があまりにも怖い。


No.1689 6点 ミステリー・オーバードーズ
白井智之
(2024/04/11 13:22登録)
 「隣の部屋の女」。何を食べているのか、それこそ一行で判った。独特のニオイがあるんだよね(笑)。
 「ディティクティブ・オーバードーズ」。心理でも物理でもなく、ノートや名前と言った言葉そのものをこねくって真相を引っ張り出す流れが好み。ロジックも楽しい。


No.1688 6点 バグダッドの秘密
アガサ・クリスティー
(2024/04/11 13:21登録)
 これは最初期のアウトテイクをリメイクしたものじゃないかと勘繰りたくなる。強引な真相(一目惚れに内実が感じられないのも読み返せば立派な伏線か)。“可笑しな理想に邁進する秘密組織” は大いにアリ。
 異国情緒もそれなりに楽しめた。発掘現場に紛れ込んだりする擬似自分語りが或る種のファン・サーヴィスだと作者は認識していたのだろうか。


No.1687 8点 11文字の檻
青崎有吾
(2024/04/07 11:53登録)
 “ロジカルな本格ミステリ” にこだわる必要無いじゃない。どれが面白いと作品名を挙げる必要が無い程どれも面白い。ちょっとびっくりした。この人、実はノン・シリーズの方が得意なのでは。プレッシャーに弱い?
 硝子屋敷で二階に上がると困るだろうに、被害者の “ドレス” とは?


No.1686 7点 神々の歩法
宮澤伊織
(2024/04/04 14:43登録)
 第一話はシリアスで、憑依体の一挙一動に薄氷を踏むような不安を覚えたものだが、いつの間にか “ニーナと愉快な仲間達” みたいな空気に(そこがいいんだ)。『裏世界ピクニック』のムードに作者自身が引っ張られたのか? マッケイとカミラの関係性に注目。


No.1685 6点 嘘をついたのは、初めてだった
アンソロジー(出版社編)
(2024/04/04 14:40登録)
 講談社メフィストリーダーズクラブ発のショート・ショート企画第二弾。29作家がこの表題を最初の一行とする作品を寄稿。

 この御題は上手いんだか無神経なんだか判らんな~。初めての嘘を初めての嘘と自覚出来ること自体が嘘っぽい。“嘘” の定義を問うか、“初めて” の状況を限定的なものにするか、主語が省略されていることを利用して特殊な設定を打ち出すか。
 幾つかの作品は御題に引きずられちゃった感がある一方、上手く利用してこういう無茶振りが無ければ思い付かなかったような世界を捻り出した秀作もある。「もうすぐ死ぬ」「みんなのいえ」「二十五万分の一」。ミステリ度の強い「嘘日記」、ほぼ唯一まっとうな犯人当て「透明人間」も面白い。


No.1684 8点 殺した夫が帰ってきました
桜井美奈
(2024/04/04 14:38登録)
 ダークなラヴコメ? かと思ったらホラー・ファンタジー? かと思ったら意外な着地点。誤認の生じる状況がきちんと設定された上で、幸せに怯える心の機微をも巧みに描いており、それが結果として上質なカムフラージュの役割を果たしている。
 細かいことを言えば “夫が帰ってくる” 場面はかなりギリギリだと思う。第四章でその時の心理が語られるが、それと照らし合わせると、部屋に入る前、先に話しかけるのは茉菜であるべきでは?


No.1683 7点 白銀荘の殺人鬼
愛川晶
(2024/04/04 14:37登録)
 共作と言うことで、互いの持ちネタが上手く噛み合い、暴走は賢明に中和されている。
 でも意地悪なことを思ってしまった。これ、はなから70点狙いで書いてない? 企画を逆手に取って赤点 or 150点の大冒険をしよう、なんていう気持ではないよね。それでちゃんと70点になっているから立派だけど、せっかくの機会がちょっと勿体無いんじゃないの。

 再刊時に共作ペン・ネームを捨ててしまったのは、とても野暮なことだなぁと思う。しかも正体を明かしたせいで “ネタを使い回している感” が生じてしまった(自業自得?)。


No.1682 6点 見えないグリーン
ジョン・スラデック
(2024/04/04 14:36登録)
 解説の法月さんがいみじくも “ストーリーの不在” と記しているのを読んで “それだっ!” と膝を打った。
 第一の殺人は、何しろ第一だから何とかなる。しかし第二第三になると、連続殺人を “連続” たらしめるツナギが必要。その役割を果たす筈のミステリ読書会は存在感が薄く、穴だらけのCCと言うか、三つの事件がバラバラに見えた。個別に取り上げれば面白いんだけど。

 訳について。言葉遊びを日本語に置き換えてしまうのは好きではない。8章の回文とか。訳者は大変だったろうけど、それより原語の洒落を知りたい。


No.1681 7点 天正マクベス 修道士シャグスペアの華麗なる冒険
山田正紀
(2024/03/28 13:38登録)
 第一話のトリックは賛否両論ありそう。私は断固支持する。時代背景に認識論を絡めて、見たことの無い景色を見せてくれた。
 第二話のトリックは必然性が判りづらい。一方で事件の背景は非情な世の習いで唖然。

 で、歴史改変SFの如き肝心の「マクベス」の部分は単刀直入に過ぎる。あまりに短い断章で、単なる付け足しみたいになってしまっているのでは? それでもキャラクターの肉付けがしっかりしているので、決別には切ない余韻が残った。それで充分じゃないかと言う気もまぁする。


No.1680 7点 名探偵のはらわた
白井智之
(2024/03/28 13:36登録)
 連作長編を上手く転がしてパターン化からしっかり逃れている。冒頭で事件を七つ挙げておいて四話で終らせたのもちょうど良い判断。あと何と言うか、登場人物に血が通っている感じがして良かった。
 ところで「神咒寺」と言う名の寺は実在。恨みでもあるのか……?


No.1679 7点 クリムゾンの迷宮
貴志祐介
(2024/03/28 13:34登録)
 個人的には、この手のデス・ゲームは漫画だと大味に思えることが多いけど、小説なら興が乗るのである。本作はスピード感があるし、素材をしっかり集めて上手く使っている。しかし、乱暴な比較だが『バトル・ロワイアル』あたりに比べると、洗練されている反面、我武者羅な熱量は少なく優等生的にも見える。グルメ・ガイドはもっと突っ込んで欲しかったな~。


No.1678 6点 走馬灯のセトリは考えておいて
柴田勝家
(2024/03/28 13:32登録)
 小粒な印象の作品ばかり並んでいる。小粒が悪いわけではないが、それが引き立つ構成になっていないのでは。
 論文と言うかドキュメントと言うか、題材そのものから一歩引いて眺める体裁のものが多過ぎ。勿論意図的にそういう風に書いて同じ本に収めたのだろうが、逆効果だ。そこから外れた「絶滅の作法」が最も記憶に残る。ほらやっぱり。


No.1677 5点 ベートスンの鐘楼
愛川晶
(2024/03/28 13:31登録)
 ノベルス版で550ページの長大さが、物語のエッセンスに対してあまりに過剰。重複部分も少なくなく(敦己の葛藤とか)、整理が下手。普通サイズの長編なら残していい表現でも、この長さだと余計な装飾に思える。
 ただ、“ベートスンの鐘楼の鐘が鳴っている。あの老人が、生き返ったんだ”――この場面にはかなりびびった。そしてそれは300ページに亘る蓄積あってのことなのも確かで、悩ましいところではある。

 ところで死体消失の謎。目撃者が僅かしかいないし、現場をきちんと再調査するのは困る。つまり、読者は桐野の視点も持てるので驚けるが、それが社会の何処まで広がるかは不確定要素であり、目的と手段が噛み合っていないのではないか。

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