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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1828 7点 サーキット・スイッチャー
安野貴博
(2024/10/25 12:26登録)
 未来が舞台と言っても2029年だからあっという間だ。大胆な想像力。それとも、現状のデータから合理的に類推すれば、これも一つの起こり得る話なのだろうか。正直なところ、私は結構 “数の論理で選択する” 派だったりする。
 気になる事項にはそれぞれ巧みな落としどころが用意されておりグッジョブ。挿み込まれるロマンスにもだもだしちゃう。switch にはそのものずばり “転轍する” の意味あり。
 ところで、この件で死者は出ても最大二名、しかも片方は犯人だ。経済性で考慮したら、トロッコ問題で “選ばれる側” になってしまうのでは。つまり無理を通すには人質が足りないのでは。あっ、道路に対する被害も加算するのか?


No.1827 6点 真実の絆
北川歩実
(2024/10/25 12:26登録)
 人間が “多い” と感じる最小の数は七である。だから奇術師が鳩を出す時は七羽にする。それより多くしても、扱いの難しさに見合う効果が得られない――。
 と言ったようなことを泡坂妻夫が書いていた記憶があるな。作者は本書で頑張り過ぎて十羽くらい無理に仕込んでしまった。捻って捻ってまた捻り、しかしそれは読者を楽しませると言うより困惑に導いてしまった。前半の各話を独立したエピソードとして読んでいた時点の方が、纏めに入る後半に進んで以降よりも楽しかった。杉樽は及ばざるが如し。


No.1826 5点 怪傑レディ・フラヌール
西尾維新
(2024/10/25 12:25登録)
 そもそも返却怪盗シリーズは “全部返したら終わりなのだろう” と、完結が予め視野に入ったものだった。で、本書が期待以上の物凄いアイデアによる着地点と言うわけではまぁない。特に前半あまり乗れなかった。新キャラもいないし(ストイックな程に!)、シリーズの消化試合の雰囲気と言うか。ラスト、心臓ならともかく幾らかの肉の為に死ぬ必要は無いので、緊迫した選択とは言い難い。
 しかし語り手の痛い感じ(地の文で家族への幼稚な反発がダダ漏れ……)は花丸。いーちゃんを超えたかも。


No.1825 5点 キス
西澤保彦
(2024/10/25 12:24登録)
 「舞踏会の夜」の作中作が一番良かった。“この作品にこう駄目出しが入るか!” と言う観点でも面白い。没原稿の在庫処分なのか? SF作家になりたかった夢をドサクサ紛れに叶えた?


No.1824 4点 運命の八分休符
連城三紀彦
(2024/10/25 12:24登録)
 イマイチ。トリックが世界観から浮いている。軽妙なユーモアを意図していると思しき部分は、その “意図” ばかりが目立って苦笑を誘う。心情が(否、文章が、かな?)直線的で、繊細な機微を描くには柔らかさに欠ける。
 シリーズとは言え短編集なのに、そのいまいちさが一貫している。ってことは、作者はこういう芸風を良いものだと考えて狙って書いたのだろう。『戻り川心中』との違いに首を傾げざるを得ない。


No.1823 7点 阿弥陀
山田正紀
(2024/10/18 10:59登録)
 “巨大な密室” は、その密室性の完全さについて読者は確信しづらい(ので、作品の謳い文句としては逆効果なのでは?)。本作の真相だって、要は抜け道があっただけと言えなくもない。ただ、そのちょっとした脱力感へ導く為に謎を丁寧に解体する手捌きが格別。派手な装飾は無いのに脳細胞が刺激される。♪とぼけた顔してバンバンバン~、と言う感じだ。


No.1822 7点 猛獣狩(ハンティング・サファリ)殺人事件
嵯峨島昭
(2024/10/18 10:58登録)
 猛獣狩小説を商業出版する便宜としてミステリに仕立てた、と言う感じ。流れを無視して真相が唐突に表出するし、それがアレでは復讐ハンティング行が台無しじゃないか。“曖昧な記憶” の扱いは、新本格以降に比べると捻りも何も無いが、そのシンプルさが意外に新鮮。

 一方で、ミステリ以外の部分は読み応えがある。
 そもそも狩猟小説で文壇に出て来た人だから、これは原点回帰(か?)。
 料理に関しては食通ぶりがあまり発揮されてはいない。濡れ場も設定の必要上挿んだと言った程度でこれは敢えて封印したのかも。
 アフリカ現地人と日本人との格差などが差別的な書き方ではある。それとも寧ろ差別的だと感じることこそ差別意識の反映なのか。とは言え戯画的なンガンゴのようなキャラクターが美味しいのは確か。“大地の上で自然に還れ” 的な読み方は流石に安直だろうが、まぁ80年代の作品だからね……。
 暑苦しい背景の下、登場人物は皆、生き生きとぶつかり合ってドラマを演じている。狩猟に全く共感など持てずとも、まんまと読まされてしまった。あからさまな美文ではないが、行間の空気感で引っ張る手腕は芥川賞の面目躍如(か?)。


No.1821 6点 アルモニカ・ディアボリカ
皆川博子
(2024/10/18 10:58登録)
 舞台設定も登場人物もシリーズ前作より濃くなって、(なのに)読み易さもアップ。但し、読者の視点から重層的に見える幾つもの事件が、ちと未整理。特に、過去の出来事と、その情報を現在に伝える為の行動が、絡み合って必要以上に判りにくいのが惜しまれる。グラスの縁をなぞっているといきなり指先が切れる妄想に囚われるので危険だよ君達。


No.1820 6点 一応の推定
広川純
(2024/10/18 10:57登録)
 如何にも清張っぽい(偏見)、御仕事小説。青木雄二『ナニワ金融道』をソフトにしたような印象。地味。まぁそういう種類の面白さもあることは判る。
 
 作中で示される自殺説の意見書に驚いた。あの程度で保険会社が免責になるとは甘いと言うか、保険も営利企業なんだな、言を左右にしてなるべく払わずに済ませようとするんだな~と思った。
 “列車に轢かれて死ぬと鉄道会社から高額の損害賠償を請求される” との風説があるよね。実際のところは判らないが、“絶対に請求されない” と断言出来る人はいない。それを鑑みると、保険金目当てで列車に飛び込む選択は目的と合致しない。と言う理屈は自殺を否定する根拠にはならないのだろうか。


No.1819 3点 赤の組曲
土屋隆夫
(2024/10/18 10:56登録)
 大いにネタバレするが、わけが判らない。
 あまりの判らなさに二度読みしたがやっぱり判らなかった。

 そもそも主犯の計画とは。
 本命を殺す。学生Tも殺す。十六日午後二時、共犯者Cが偽本命として少年Mに対応。同日夜、温泉宿を訪れ、午後十時過ぎ、姿をくらます。その間、主犯はアリバイを作っておく――と言ったものだと思うのだが、

 アリバイで勝負するなら、或る程度は犯行日時・場所を確定させる必要がある。本命の死体を隠したままで行方不明、どっちつかずの状況にしておくのは矛盾している。アリバイはあくまで補助的な手段?

 事前に少年Mと偽本命を会わせた件。計画の中核に位置する、事前に手間隙かけて仕込んだトリックだが、具体的な目的は何か?
 【ビゼーとシューマン→新聞広告に気付く→刑事に相談する】と言う流れは偶然であり主犯にコントロールは出来ない。また、主犯自身が検事に相談しており、【少年M→刑事】ルートは特に必要は無い。
 十六日昼間に本命が生きていたことの証人に仕立てる、のはその夜に温泉に現われているのだからやはり不要。
 本命が多情っぽい女だと言うイメージを証言させたかった? それも確実性は乏しい。証言や日記の内容をコントロールは出来ない。
 強いて挙げれば【謎の訪問者を偽装→その会話をMが記憶・証言→刑事が列車を推測→行く先の大まかな方角を示唆】が成立する効果はあるか。

 温泉は長野県で管轄が違う。連携が悪くなるのはメリット?
 しかし【宿で消えた女=東京で失踪した本命】だと早めに気付いて貰えないと、記憶が薄れてアリバイその他の確認が難しくなる。検事に口添えして貰ったのはその為?
 旅館で、大人の客が、一晩戻らなかった程度で確実に警察沙汰になると期待出来るのか。もっと事件性を演出した方が良いのではないか?
 もっとも、警察が何も気付かず、温泉宿の件がまるっきり無視されたとしても、計画に大した支障は生じないかも知れない。仕込みが無駄になるだけで。

 千草検事は【本命殺しの罪をなすり付ける相手として学生Tを選んだ】と推理している。一方、【本命が逃走資金三十万円を銀行から引き出した】との件もあり、それなら【本命がTを殺した】と言うシナリオである。【それこそが偽装(そんな金額では全然足りない)】との意見も出た。
 行動がブレているから、本命を被害者・犯人、どちらに見せたいのか曖昧。主犯は何がしたかったのか?

 【三つの血のゼロ】の狙いは何か。検事はそれによって却って主犯に疑いを掛けているので、結果としては捜査をミスリード出来ていない。

 共犯者Cはどこから捜査線上に登場したのか。学生Tの死体が発見され、その足取りを追う中で【Tにコマされかけた女】としてである。そのエピソードの半分はCが証言した嘘であり、半分は証人がいる事実である。但し小芝居が含まれていて、その成り行きを意図的にアピールしているフシがある。
 ではその目的は何か、と考えてもメリットは特に無い。Tを人知れず拉致して殺せば済む話である。しかも、そうしていれば捜査陣はCの存在を認識しなかった可能性が高く、ひいては【偽本命】トリックも見破られなかったかもしれない。推理は出来てもじゃあ誰が演じたんだと言う話になるし、検事もCを知っていたからこそ閃いた。と考えると、Cの言動は犯人側としては逆効果である。
 因みに、「T=犯人」説で進めるなら、小芝居もそれを後押しするべく仕組まれていたことになる(Tの悪辣さを強調するとか?)。しかし意に反して死体が発見されてしまったので、最早あまり意義の無い芝居を、Cは続けざるを得なかったのである。

 主犯の心理描写に、ちょっとアンフェアっぽいかな~と言う部分あり。

 主犯が、警察署ではなくわざわざ旧知の検事に自ら相談する形で、事件を表沙汰にした意図とは?
 それに限らず、総じて見ると、もっと内輪で片付けられそうな要素に、わざわざ他者を関わらせている感がある。しかも、その他者が割りと期待通りに動くので、まるで大勢が結託して読者を驚かせようとしているように見えてしまう。
 但し、それらのとりとめの無い偽装行為が、或る程度捜査の攪乱の役には立っているようだ。
 場当たり的に連載を進めた結果、作者が矛盾に気付かないフリで纏めるしかなくなってしまった、と言う感じ。


No.1818 6点 ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~
三上延
(2024/10/10 12:03登録)
 人情話として楽しめるけれど、謎の真相にびっくりと言う程ではない。しかし篠川家の女性三代は皆、長過ぎる刀を鞘に納められずに困っている。頭のポテンシャルを持て余して、つい余計なことをしちゃうんだなぁ。小市民シリーズを読んでいないのだろうか。
 ところで表紙イラスト。猫は三毛猫では。


No.1817 7点 殺し屋、続けてます。
石持浅海
(2024/10/10 12:02登録)
 シリーズ前巻と同じ評価。ヴァリエーションを工夫しつつ、大傑作ではないものの好感度高くそこそこ安定飛行。平易で論理的な語り口がサスペンスを遠ざけている嫌いはあるが、この淡々としたムードが個性でもあって、あら私も殺し屋、続けてみようかしら、と言う気になること必至。

 最後の「靴と手袋」だけは強引だ。前の人はなりふり構わぬ犯人にやられたのであって、それに対してあんな限定的な防御策で対処するのは腑に落ちないなぁ。


No.1816 6点 長く冷たい眠り
北川歩実
(2024/10/10 12:02登録)
 基本的には人物描写の上手さとミステリ的な端正さが両立していると思う。馬鹿な相手に苛立つ気持がガンガン伝わって来た。謎の通奏低音をうっすらと見せつつ、ラストで全体を一つに纏めないのが寧ろナイスな選択。
 しかし特に後半、話を複雑にし過ぎだ。それも、読者に読み解く楽しみを与えるような絡み合い方ではなく、複数の関係者の思惑のズレを整理し切れなかったと言う感じ。しまいには辻褄も合わなくなっている。
 「素顔に戻る朝」。“いなくなっても、不審を持つものは、おそらく誰もいない” ような相手を殺してしまい、死体を隠した。だったら、入れ替わりをする必要は無いのでは。
 「凍りついた記憶」。“二、三千万も出すっていえば、喜んで乗って来る” と言う話だったのに、何故かほぼ全額払っている。そしてそれを改めて横取りする為に人殺しまでしている。二度手間である。


No.1815 6点 親指のうずき
アガサ・クリスティー
(2024/10/10 12:01登録)
 トミー&タペンスは、何処まで本気か判別しがたいと言うか “探偵ごっこ” のイメージが抜けないので、つい緩い気分で読んでしまった。謎の絵・謎の記憶・謎の人形ってサイコ・スリラーかい、あっはっは。と思ったら本当にそうだった。強引なこじつけもそういうことならOK。エピグラフもサイコっぽいし。
 しかし作者の筆も若干緩んでないか。4分の3までは少々引き締めて、その分ラストのホラブルなパートをもう少し長く堪能出来たらベターなんだけど。


No.1814 5点 メソポタミヤの殺人
アガサ・クリスティー
(2024/10/10 12:01登録)
 内容にかこつけて “なりすまし” について思うことを書きたい。本作に限らず私は肯定的である。
 否定的な意見とは要するに “気付くだろう” と言うことだが、それは根拠薄弱だと私は思う。何故なら、実体験が伴っていないから。
 誰かが他者になりすまして自分を騙そうと本気で仕掛けて来たのを、その正体は誰々だと見破った――と言う経験者はあまりいないと思う。
 なりすまし(を見破ること)の難易度をイメージでしか示せない以上、疑わしきは罰せず式に許容しても良いのではないか。

 寧ろ、見破った経験が無いと言う事実は、実は身近でなりすましが進行していて自分はそれに気付いていない可能性を示唆しているのである。


No.1813 6点 赤い鳥、死んだ。
辻真先
(2024/10/02 11:16登録)
 北原白秋を引き合いに出して童謡だ童心だと語っている内容は別に目新しくも無いが、作者は承知の上でもう一度言い直しておきたかったのだろう。そういう題材で今更そこまで斬新な意見が出て来るものでもないしね。
 しかし “子供は残酷、狡猾、破壊的で自然” と言うなら、瑠々へのいじめも全否定は出来ない筈。その矛盾を止揚するヴィジョンは示されなかった。
 ミステリとしては、犯人の存在感が事前にもう少しあると良かった。前記の題材を語り過ぎて登場人物を描くスペースが足りなくなったのだろうか。


No.1812 7点 殺し屋、やってます。
石持浅海
(2024/10/02 11:16登録)
 最初の2話が同じパターンだったので、ずっとこうだったら飽きちゃうな~と危惧したが、流石にそれはなく色々と工夫してあり以降の評価は一転。遂行業務自体は割とサラリと描かれているし実入りは良さそうなので、あら私も殺し屋、やってみようかしら、と言う気になること必至。


No.1811 4点 なつこ、孤島に囚われ。
西澤保彦
(2024/10/02 11:15登録)
 金持ちは偽装工作するにも大金が遣えていいなぁ。“腎虚” は俗説で、人はそんな死に方はしない(筈)。作者独特のロジックの強引さを楽しむべき作品か。小説家 森奈津子のキャラクターがいかにもパターン通りの “個性的な人” と言う感じで魅力に欠ける。


No.1810 7点 もしもし、還る。
白河三兎
(2024/10/02 11:14登録)
 1ページ目からどっちに進んでいるのかさっぱり判らない設定と展開が魅力的。ゲームの種類が不明なまま盤に駒を並べるような。そして一手指す度に盤の向きもサイズも変わるような。何処をどう詰めれば勝ちなのか、そもそも詰めると勝ちなのか負けなのかも判らずに。
 ただ、着地点は今一つで、“一番安易なところは避けるからそれで大目に見て” と言う感じ。まぁ “正解” を探す類の話じゃないしね。えっ、この表紙、写真なの?


No.1809 7点 妖怪コンビニで、バイトはじめました。
令丈ヒロ子
(2024/10/02 11:13登録)
 こういう “いい話” を斜に構えずに楽しめるのは作者のセンスの賜物。名前のある妖怪ではなくオリジナル造形っぽいのも楽しい。どういう資本がどういう形態でコンビニを運営しているのか、Jペイの循環システムは、とか色々とミステリ(なんちて)。

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