文生さんの登録情報 | |
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平均点:5.86点 | 書評数:500件 |
No.280 | 5点 | N 道尾秀介 |
(2022/09/17 19:26登録) 全6章からなる作品で、読む順番を変えることで6×5×4×3×2×1=720通りの物語が楽しめるというのだけど、これは誇大広告気味で実際はA→Bと読むとAの伏線がBで回収されるのに対してB→Aで読むとBの伏線がAで回収されて読み味がちょっと変わる程度。読む順番によってストーリーが一変する物語を期待していた身としてはかなり肩すかしでした。 その程度のことで行ったり来たりしながら読むのが面倒くさく、また、目的の章が探しやすいようにと紙の本の場合は章ごとに上下を反転しているのだけど、それゆえ章ごとで本を上下反転しなければならにのがまた面倒くさい。 さらに、あくまでも技巧中心なので物語としての面白さは(決して全くつまらないというわけではありませんが)二の次になっている感もあります。 筒井康隆の諸作品をはじめとして実験的なスタイルの作品自体は嫌いではないのですが、本作の場合はちょっと中途半端だった気がします。 |
No.279 | 6点 | 紙の梟 ハーシュソサエティ 貫井徳郎 |
(2022/09/17 10:53登録) 日本の裁判では1人殺しただけではまず死刑になることはなく、2人でボーダーライン、3人殺せば概ね死刑判決が下されるというのがだいたいの目安です。本作は、そうした現状が改められて一人でも殺せば即死刑となった社会を描いた一種のシュミレーション小説だといえます。 以下各話の感想 「見ざる、書かざる、言わざる」 殺せば即死刑になったことで起きた残忍な犯行。家のセキュリティを強固なものにしたら空き巣が減った代わりに強盗が増えたといった類の話でまずは皮肉効かせた軽いジャブといった感じ 「籠の中の鳥たち」 クローズドサークルミステリーに死刑問題を絡めた点がユニーク。犯人の狂った動機が意表を突くホワイダニットものの傑作です。ただし、人を殺せば正当防衛でも死刑という設定はかなり無理があるように思う 「レミングの群れ」 最近話題になっているいわゆる無敵の人を死刑問題と絡めた点が秀逸。読み応えという点ではこの作品が一番 「猫は忘れない」 証拠不十分で逮捕を免れた男を法に代わって成敗する話ですが、これは最初からオチがみえみえでイマイチだった。 「紙の梟」 本作品集の核となる作品ではあるものの、恋人を殺された主人公が死刑の是非について延々と悩む話でミステリ的な面白さはほぼなし 主人公が出した結論も特に新味はなく面白身に欠ける。 まずまず面白かったのだけれど、最後の2篇がイマイチだったのが残念。 |
No.278 | 5点 | 幻告 五十嵐律人 |
(2022/09/17 08:13登録) 裁判所書記官の主人公は学生時代に、自分が幼い頃離婚した父が強制わいせつの罪で有罪判決を受ける場面を傍聴席から目撃。数年後に偶然タイムリープの能力を得た彼は現代と過去を行き来しながら、父を救おうとするが...。 著者ならではの法に関する蘊蓄は興味深いものがありますし、SF+リーガルミステリーという組み合わせもユニーク。ただ、タイムリープに伴う時系列が理解しづらく、ミステリーとしてもSFとしても明快さに欠けているのが難。また、父親は悪人ではないけれど、半ば自業自得である点もなんだかもやもやします。 |
No.277 | 9点 | 復活の日 小松左京 |
(2022/09/17 07:38登録) 春先に流行の兆しを見せ始めたイタリア風邪が5月には世界中で深刻な事態をもたらし、秋にはほぼすべての人類が滅んでしまう過程を克明に描いているのが怖い。個人的にはパンデミックもので一番好きな作品であり、日本沈没に並ぶパニック小説の大傑作。 |
No.276 | 7点 | invert II 覗き窓の死角 相沢沙呼 |
(2022/09/16 21:19登録) 150ページほどの中編と300ページ弱の長編の2本立て 中編の方は恒例の反転が炸裂。とはいえ、前2作と比べるとインパクトは弱め 一方、長編の方はアリバイ崩しがメイン。アリバイそのものは古典的なトリックですが、それを悟らせないミスリードがなかなかに巧妙。また、今まで犯人に対してマウントを取り続けていた城塚翡翠が今回初めて苦悩の色を深めていくのが印象的でもあります。 ミステリ部分はシリーズ中一番地味ながらも完成度は決して低くありません。謎解きと物語のバランスのとれた佳品です。 |
No.275 | 7点 | 此の世の果ての殺人 荒木あかね |
(2022/09/16 20:59登録) 小惑星激突による人類滅亡が近付く最中に事件の謎を追うというネタはベン・H ・ウィンタースの『地上最後の刑事』と同じですが、こちらは女2人終末紀行といった感じで独自の趣があるのがよい ミステリとしては大トリックや驚愕のどんでん返しがあるわけではないけれど、巧妙なプロットで意外な真相を浮かび上がらせることに成功しています。 個人的に大好きな終末ものにミステリを掛け合わせ、破綻なくまとめ上げた点を評価してこの点数 |
No.274 | 6点 | 録音された誘拐 阿津川辰海 |
(2022/08/28 07:36登録) 短編集『透明人間は密室に潜む』に収録されている「盗聴された殺人」の続編。 名探偵である大野糺が誘拐される話であり、探偵サイド・助手サイド・警察サイドと複数の視点から真相に迫っていく展開はテンポがよくてかなりの面白さです。要所要所で繰り出される巧みなロジックを用いた推理も本格ミステリとして読み応えがあります。 ただ、犯人隠蔽のために用いられたミスディレクションやトリックが単純すぎて直感的に犯人がわかってしまったのは残念。それから、裏で糸を引く犯罪請負組織の存在が個人的にあまり好きではありません。いろいろな業界に影響力があって関係者を手足のように動かせるという設定はちょっと都合よすぎるのではないでしょうか。さらに、『蒼海館の殺人』でさんざん言われた”人を自由に操りすぎ問題”はこの作品でも顕著です。 というわけで、十分に楽しめたのだけど、不満点も多いということでこの点数。 |
No.273 | 7点 | 俺ではない炎上 浅倉秋成 |
(2022/08/28 06:52登録) SNSがらみの犯罪とといったアイディアも無実の罪で追われる主人公といったプロットもそれら自体は目新しいものではありませんが、2つを合わせることで読み応え満点の令和型『逃亡者』に仕上がっています。視点を変えながら真相に迫っていく展開もスリリング。個人的には話題となった『6人の嘘つきな大学生』より好きな作品です。 |
No.272 | 4点 | 妖霧の舌 竹本健治 |
(2022/08/24 09:13登録) 不穏で幻想的な雰囲気は悪くないものの、ミステリーとしてはあまりにも薄味すぎますし、かといって著者ならではのアンチミステリー的な趣向があるわけでもありません。読後かなり物足りなさを感じた作品です。 |
No.271 | 6点 | エラリー・クイーンの新冒険 エラリイ・クイーン |
(2022/08/24 08:53登録) 有名な「神の灯」は、建物が丸ごと消失する謎が魅力的ですし、ミステリとしての仕掛けもよく出来ています。しかし、本書を読む以前に建物消失と聞いた段階で「もしかしたらこういうトリックではないのかな?」と思い至ってしまったので高い点数はあげずらい。その辺りはカーの「青銅ランプの呪」、ホックの「長い墜落」、ロースンの「天外消失」などと同じかな。他の短編は堅実な面白さ。 |
No.270 | 7点 | 将棋殺人事件 竹本健治 |
(2022/08/23 08:07登録) ゲーム三部作のなかでもダントツで評判の悪い作品ですが、個人的には結構お気に入り。 竹本健治なので真相は最初から期待していなかったのがよかったのかもしれない。 五里霧中な謎にゾクゾクしましたし、噂を集めて分析するという趣向もスリリング。 |
No.269 | 5点 | 青春の証明 森村誠一 |
(2022/08/21 08:37登録) 暴漢に襲われていた自分と恋人を救おうとした警官を見殺しにした贖罪として自ら警察官となって事件を追い続ける老刑事の話です。 証明三部作第2弾なのですが、著者の代表作でもある『人間の証明』や『野性の証明』と比べるとあまりにも地味。これだけ映画化されていないのもうなずけます。ただし、著者の脂が乗っていた時期に書かれた作品だけあって人間ドラマとしてはそれなりに読み応えあり。また、証明三部作といいながらもそれぞれ全く異なる作風であることから、続けて読むとギャップ的な面白さが味わえるかもしれません。 |
No.268 | 9点 | 竜の眠る浜辺 山田正紀 |
(2022/08/21 07:54登録) 山田正紀の著作では『神狩り』と並んで一番好きな作品です。 人生に挫折した人々が町ごと白亜紀にタイムスリップしてそのなかで生きる希望を取り戻していく話なのですが、とにかく恐竜のいる日常が楽しげで読んでいてハッピーな気持ちになれます。山田正紀の長編小説でここまで明るくてユーモラスなのはこれくらいではないでしょうか? |
No.267 | 8点 | 火神を盗め 山田正紀 |
(2022/08/21 07:41登録) 落ちこぼれ集団が奮闘して大事を成し遂げるというベタな話ですが、SF作家ならではのアイディを盛り込んだスパイスリラーとしてかなり面白い作品に仕上がっています。落ちこぼれ社員たちが特技を活かして活躍するシーンが荒唐無稽ながらも楽しく、特に主人公とCIA工作員との対決は感動的ですらあります。山田正紀としては珍しくラストも爽やか。 |
No.266 | 7点 | 野性の証明 森村誠一 |
(2022/08/19 10:46登録) 寒村での大量殺人という、まるで八つ墓村のような凄惨な事件の描写に引き込まれ、それに続く地方都市の首領と生き残りの少女を引き取った自衛隊員との暗闘も読み応え十分。加えて、皮肉な結末がインパクト大です。多少荒唐無稽な点は否めないものの、エンタメ性の高さでは著者の代表作である『人間の証明』を上回る力作です。 ちなみに、高倉健&薬師丸ひろ子主演の角川映画とは全くの別物で、原作では主人公が自衛隊と闘ったりはしません。 |
No.265 | 6点 | ブラックサマーの殺人 M・W・クレイヴン |
(2022/08/19 04:00登録) 6年前に父親に殺されたはずの女性が突然、姿を現すオープニングのインパクトが強烈で一気に引き込まれました。謎を追うポー刑事とティリー分析官のコンビも魅力的。 ただ、トリックに無理があるのが残念。ハイテクな衣を着せつつも、根幹にあるのは古典的な×っ××××トリックであり、そんなに都合よく×っ××××は見つからないだろうと思ってしまう。 |
No.264 | 3点 | どちらかが彼女を殺した 東野圭吾 |
(2022/08/17 09:35登録) 試みとしては面白いとは思うけれど、探偵役の推理にカタルシスを覚えることを期待してミステリーを読んでいる身としては肩透かし以外の何ものでもなかった。 個人的には自分の推理がことごとく外れて予想外の真相が提示される作品こそが至高のミステリーだと考えているので、自分で真相にたどり着かなくてはならない作品はどうにも物足りない。 |
No.263 | 6点 | 優等生は探偵に向かない ホリー・ジャクソン |
(2022/08/03 12:10登録) 今回は突然失踪した青年の行方を追う話ですが、前作同様SNSと関係者インタビューを駆使した調査が繰り広げられ、捜査小説しては相変わらずの面白さです。調査を続けていくうちに驚くべき事実に行きあたる展開にも引き込まれます。それになにより、ピップとラヴィのコンビが魅力的です。 ただ、独自の調査方法に対する新鮮味はさすがに薄れてきましたし、後味の悪い結末は好みがわかれるかもしれません。一方で、主人公の挫折と成長が描かれるなど、ドラマとしての深みは前作以上です。一方、三部作の真ん中ということもあって、結末はかなりもやもやしたものになっており それが作品の評価を下げる原因となっています。 ちなみに、本作の冒頭で前作のネタバレを盛大にしています。それに、物語自体も前作と密接に繋がっているので、本作の前に『自由研究には向かない殺人』を読んでおくことは必須です。 |
No.262 | 5点 | 二重らせんのスイッチ 辻堂ゆめ |
(2022/08/02 14:15登録) 身に覚えのない強盗殺人の証拠が次々と見つかり、主人公が追い込まれていく序盤の展開はサスペンス感があってなかなかいい感じです。しかし、用いられたトリックは誰しもが思い浮かべるであろう古典的なもので、しかも、すぐにネタバレしてしまいます。 むしろ、それに続いて行われる犯人たちによる主人公軟禁の物語が本編ですが、これが妙にほのぼのとしています。したがって、本格的なサスペンス展開を期待していた人は肩透かしを食らうでしょう。巧みな伏線回収の妙は味わえるものの、ミステリとしての仕掛けも小粒です。どちちらかといえば、ミステリ風味の家族小説として楽しむのが正解ではないでしょうか。 |
No.261 | 6点 | 呪いと殺しは飯のタネ 烏丸尚奇 |
(2022/07/31 20:10登録) ミステリとしては荒削りですが、読ませる力はかなりのもので、取材を通して意外な事実が明らかになっていく展開にぐいぐいと引き込まれていきました。ただ、ラストはあまり好みではないかな |